J. Brew. Soc. Japan.
Vol.78, No.6,
p.475-479
(1983)
研
究 報
告
Asp. toxicariusほ
か2∼3菌
株 の 同 定
麹 菌 の 分 類 学 的 研 究(第35報)*
村 上 英 也 ・稲 橋 正 明 ・田 中 利 雄**
((財)田本醸造協会 ・**国 税庁醸造試験所)
昭和58年1月16受
理
Identification
of Asp. toxicarius
and Some Other Aspergilli
Taxonomic
Studies on Japanese Industrial
Strains of the Aspergilli
(Part 35*)
by
Hideya MURAKAMI, Masaaki INAIIASHI, and Toshio TANAKA
Nippon Jozokyokai (Brewing
Society of Japan)
** National Research Institute of Brewing
(2-6 Takinogawa,
Kita-ku,
Tokyo 114)
A strain NJK 4044 (=RMF 7133 of M. Christensen, IFO 31250) was a typical strain of Aspergillus toxicarius Murakami and produced aflatoxins remarkably by fluorescence test using APA-medium4). Two strains preserved for a long time under the name of A. candidus in a maker of tane-koji (mold starter) in Japan was proved to belong to A. oryzae var. brunneus.
Among the 27 strains identified formerly with A. oryzae var. viridis about a half of them lost any green hue in their conidial heads when incubated at 30•‹ for 25 days which were now placed in the other varieties, and a half of the remains kept this hue even after 100 days culture which showed characteristically broom-like to columnar types of conidial heads, and the results were shown in Table 102. Relations between the types and colors of conidial heads were shown in Table 104, and about 80% of the strains of broom-like to columnar types kept the green hue. The key character of the color of conidial heads, however, could not be replaced with that of the type of them from any view points.
A type culture of A. oryzae var. viridis was assigned to a strain RIB 128 in 19711), which has also been called IFO 30113, ATCC 22788 and CBS 819. 72 and is preserved in Nippon Jozokyokai as NJK 128 since 1975 showing some metulae until now5,6). However, this strain was placed from now in A. oryzae var. oryzae because of its metulae, and then a lectotype, NJK 72, was determined as a correct type culture which was isolated by Murakami in 1953 from commercial tane-kojis for the brewing of sake and shoyu.
緒 言 Asp.toxicariusが 新 種 名 と して 記 載 され すべ て の aflatoxinを 多量 に生 産 す る こ とが 報 じ られ た の は1971 年1,2)の こ と であ るが,当 時 の株 数 は6株 に 過 ぎず,各 株 の メ トラ混 合 率 も少 な い もの であ った か ら,こ の'種' の特 微 を も っ と顕 著 に もつ 株 が ない か と探 して いた とこ *第34報:本 誌76(12)817(1981) 475
ろ1982年 米 国Wyoming大 学 か ら1株 を送 られ た の で これ を 調 査 す る。 次 に 国 内 の種 麹 メ ー カ ーか ら,著 者 らが 先 にA.can-didusの 研 究3)を 行 った と きに 探 して 得 られ な か った 同 名 の株 の寄 送 を 受 け た の で,そ の 同定 を 行 う こ と と す る。
次 に1971年 に 新 変 種1,2)としたA.oryzae var. viride は そ の緑 色 保 持 能 に 変 化 を 来 した よ うに 見 受 け られ た の で,こ れ と他 の形 態 との 間 の 関 係 を 再 検討 し よ う と 思
う。
実 験
実 験 に用 いた 微 生 物 は 以 下 の 通 りで あ る。
NJK
4044-RMF
7133 from Prof.
Martha
Chris-tensen, Univ. of Wyoming (1982),
soil of
Nebraska,
Buffalo County,
55 miles s. of
Miller ; a depth of 2. 0 meters in the
expo-sed Peorian Loess of a roadcut, east-facing,
U. S. A.
(=IFO
31250)
NJK 145-秋 田 今野 商 店(1982),大 正 時 代 末 に 大 阪 市 西 区靱 中通 り,永 代 浜 の 海 産 物 倉 庫 で 分離 。 (比 較 にNJK 128を 用 い る)。 NJK 540-東 京 農 業 大学 坂 井 教 授G株,イ ース トサ イ ジ ン生 産株(1980)。NJK 4531-A.candidus var. amyloliticus No.51, 秋 田今 野 商 店(1982)← 東 洋 醸 造 株 式 会 社 。 NJK 4532-A.candidus No.52,由 来 は上 記 と 同 じ。
そ の 他 日本 醸 造 協 会 でA.oryzae var. viridisと い う学 名 で保 管 して い る27株 。
こ れ ら に つ い て 同 定 上 必 要 な 諸 性 質 を 常 法 に よ っ て 比 較 し た 。 な おA.oryzae var. viridis株 の 菌 草(分 生 子 頭)の 色 に つ い て は 培 養25日 と100日 の も の を 比 較 し,ま た 他 の 株 に つ い て は 特 に 原 ら4)の 下 記 培 地 に よ っ て そ の 蛍 光 生 産 の 有 無 を 検 し た 。
APA-medium4);(NH4)H2PO4 10g,K2HPO4 1g, MgSO4・7H2O 0.5g,KC1 0.5g, FeSO4・7 H2O 0.01g, Sucrose 30g,HgC12 0.1g,corn steep liquor 0.59, agar 25g,DW 1l,pH5.5. こ れ を ペ ト リ皿 に ひ ろ げ28°7∼10日 培 養 の 集 落 に 対 し3650AUV-rayを 照 射 し,集 落 周 辺 の 青 色 蛍 光 の 有 無 強 弱 を 確 か め る 。 こ の 蛍 光 が あ れ ばaflatoxin生 産 の 可 能 性 が 強 い 。 結 果 実 験 の 結 果 はTable 102,103に 示 し,NJK 4044に つ い て は そ の 分 生 子 頭 の 形 をFig.51に 示 し た 。NJK 4044は 小 突 起 分 生 子 と多 数 の メ トラを 持 ち,aflatoxin の強 い 蛍 光 を 生 産 した 。A.candidusの 名 の 株 は む しろ A.oryzaeの 諸 特 長 を 示 した 。A.oryzae var. viridis とい う名 の27株 に つ い て は,そ の一 般 的形 態 や生 理 は 既 に 報 告 した と ころ と殆 ん ど変 らな い が,老 培 養 斜 面 菌 草 の 色 は緑 色味 を 全 く失 う株 数 が 増 加 し結 果 と して緑 色 味 を 少 しで も残 す(保 つ)株 数 が 減 少 した の で"iγi4iε と他 の 形態 との 関 係 を考 察 した 。そ の 結 果NJK(=RIB) 128はA.oryzae var.oryneと 同 定 し直 され,代 りに NJK(=RIB)72がA.oryzae var.viridisのtype cultureに 選 定 され た 。 考 察 NJK 4044は 小 突 起 分 生 子 と メ トラ の 存 在(混 合 率 80%以 上)に よっ て確 実 にA.toxicariusと 同定 され る 株 であ るが,菌 核 を 多産 し顕 著 なaflatoxin生 産 反 応 を 呈 し,今 日ま で 発 表 され た 同 種 名 の株 の 中 で は最 も代 表 的 な形 態 的 特 徴 を 具 え て い る 。 この 株 は1983年1月 当 協 会 よ り(財)発 酵 研 究 所 に 送 られIFO 31250と 登録 さ れ た 。 次 にA.candidusと い う名 で 秋 田 今 野 商 店 に 保 管 さ れ て いた2株 は,A.candidusの 一 般 的 性 質3)に 較 べ て 巨 大 集落 が大 き く,ク モ ノス 様 気 菌 糸 が な く,分 生 子 柄 壁 は粗,ブ イ ア ラ イ ドであ り,分 生 子 は 大 き く壁 が や や 粗,1株 は麹 酸 反応 を 呈 し,生 酸 力 ・ア ミラ ーゼ 力 共 に 強 い な ど,む しろA.oryzae var. brunneusに 属 す る もの で あ った 。NJK 128は 前 報5)で は そ の集 落 裏 面 の ヒ ダが 顕 著 で あ った の に 今 回 の調 査 で は殆 ん ど無 く平 滑 で あ り,NJK 145が よ くこれ に 類 似 して い る よ うで あ る。 A.oryzae var.viridisに つ い て と こ ろ でvirideは 後 にviridisと 訂 正11)され た けれ ど も,こ の 性 質 が 分 類 上 重 要 で あ る こ とは 最 近 の 報 告12) に も見 られ る こ と であ る。 然 し同 一 株 で も経 日的 に 黄→ 黄 緑(緑)→ 緑 褐 → 褐(茶)な ど と変 化 す る 黄 緑 ア ス ペ ル ギ ル ス のhue(色 合 い)を どの 時 点 で 区 切 って 分 類 す る か に つ い て は根 拠 が あ るわ け では な く,か って 村上 は 多 数 の 株 の統 計 的 結 果 か ら,一 応 安 定 して 分 類 に 役 立 つ もの と して,Czapek agar slant 30°25∼30日 間培 養 時 に お い て 分 生 子頭 の 色合 い に 少 し で も緑 色 味 を 残 す もの を viridisと した も の であ るが,こ の 色は また 微 量 未 知 の 培 地 組 成 の 違 い に よ って も影響 され る もの と思 わ れ,こ れ らの 株 を 今 回 円1実験 した とこ ろ そ の約 半 数 の株 は これ よ りも早 くに 緑 色 味 を 失 な った た め 改 め て うmnnm3と い う変 種 に 分 類 し直 した 。 と ころ が,さ らに残 りの約 半 数 は培 養100日 後 で も緑 色 味 を 残 し,と りわ けNJK72・ 540・1133・1364な どは この 間 殆 ん ど緑 色 調 が 衰 え ず そ 476
醸
協
Table 103 Mycological characteristics for the classification of some Aspergilli.
Abbreviations and signs : YG. yellowish green. BG, brownish green. DG, dark green. W, white. -, lacking the characters concerned. +-+++, the more remarkable characteristics corresponding with an increased number of +. In type of conidial heads ; A, globose. B, radiate. B', loosely radiate. D, columnar. E, long columnar. In type of vesicles ; A, globose. B, subglobose. C. spoon-like. D, slim spoon. In type of conidia ; G, globose. 0, oval.
Taxa: (a) A.oryzae var.oryzae. (b) A.oryzae var. viridis. (c) A.oryzae var. brunneus. (d) A.toxicarius,
Fig. 51 Crowded metulae of young cultures
of A. toxicarius
RMF 7133 of M.
Christensen.
(NJK 4044, IFO 31250)
の 分 生 子 頭 の 型 はす べ て箒 状(C)・ 円柱 状(D・E)を 示 し球 状(A)・ 放射 状(B・B')は なか った(Table 102)。 分 生 子頭 の 色 と型 と の関 係 に つ い て,Table102,103 か ら メ トラを もつ 株 を 除 い た27株 の黄 緑 色株 を見 る と Table 104の よ うに な る。 即 ちC-D型 の 株 の 約80% は 緑 色 味 を 保 ち,A・B型 の 約70%は 緑色 味 を失 うので 不 安 定 な`緑 色 調'の 代 りに 安 定 な`型'をkeyと してTable 104 Relations shown by number of the strains between the colors and types of conidial head in the 27 strains having no metulae in Tables 102 and 103.
分 類 す る(var.viridis→var. colummris)こ と も考 え られ る が,以 下 の よ うな理 由 もあ っ て無 理 であ る。(1) 型 をkeyと したRaper and Fennell 13)のA. flavus var. columnaris(NRRL 4818,NJK 1039)は 明 か に D∼E型 で あ る が30°2∼3週 間 で完 全 に 緑 色 味 を 失 う (こ の株 は今 回A.oryzae var. brunneusと 同 定 され た)。(2)分 生 子 頭 の 型 と緑 色 味 の 関 係 に つ い て1966年 村 上 は84株 を 調 査 した こ とが あ る14)。この場 合型 を数 値 化 す る こ とが 困難 な の で便 宜的 に 分生 子 頭 の横 径 の大 小 に よ った の で あ る が,概 して そ の 小 さい株 は 緑 色 味 を 保 つ 傾 向 を 認 め た もの の,相 関 係 数 は-0.02で 全 く有 意 で は な か っ た 。(3)国税庁 醸 造 試 験 所 の 糸 状 菌 リス ト均 に 478
醸
協
村 上 ・稲 橋 ・田 中:Asp.toxicariusほ か2∼3菌 株 の 同 定
掲 げ られ て い るA.oryzae var. viridisは135株 で 凌 るが 型 がC∼D∼Eの 株(少 数 のA∼Bを 混 合 す る も の も含 め て)は そ の約60%に 過 ぎな い 。(4)以上 に もま して 困難 を 感 じる の は,多 くの 株 は 同 一 株 中 に 数 種 の違 った 型 を混 有 して お り(黒 アス ペ ル ギ ル ス で は 混 有 は 稀),判 定 分 類 に 迷 うこ とで あ る。 これ を 要 す るに 色 調 か 型 か い ずれ か 一 方 に 定 め る こ と の意 味 は 容 易 に 見 つ け難 い の で あ る が,培 養 が 古 くな っ て も分 生 子 頭 が 緑 色 な 株 は殆 ん どア ミラー ゼ カが 弱 い16) の で 菌 株 の 利 用上 か らは 意味 が あ る。 それ 故 に 当分 の間 は しば しば 培 養試 験 を く り返 し 行 うこ とに よっ てviri・ disとbrunneusの 見 直 しを 行 な うこ と が 必 要 で あ る が,ま とめ てA.oryzaeと 総 称 す る こ と も 認 め ら れ る べ き であ ろ う。 NJK 128(=RIB 128)に つ い て
こ の株 はA.oryae var. viridisのtype culture 1,2) と され た もの で,国 内 で はIFO 30113.米 国 ではATCC 22788,オ ラ ン ダで はCBS 819.72と して保 存 され て お り,そ の 主 な 性 質 は,菌 草 緑 色 ・分 生 子 頭 はB型(放 射 状)・ 分生 子 の 直径4.5∼5.2mμ ・メ トラ混 合 率20%5), 強 い ア ミラー ゼ カ と米麹 褐 変 力を もつ6)と 報 告 され,今 日に至 っ て も変 っ て い な い。 然 し 分 類 表1,2)に よる と こ の学 名 の株 は メ トラを 混 有 し てい て は な らな い の で,学 名 と して はA.oryzae var. oryzae 11)が よ り 適 切 とな る。 ま た この株 は 集落 裏 面 に ヒ ダが な くvirideを 呈 す る の で ア ミラ ーゼ 力が 弱 い こ と に な る16)が,事 実 は こ れ に 反 す るの で,こ の新 学 名 の 方 が適 切 で あ る。 これ に 代 るべ きA.oryzae var.viridisのtype cultureと し て は 前 記NJK 72ほ か3株 の 中 か ら 選 ぶ こ とが で きる が,こ の 中NJK72 5,6)は1953年 市販 もや し(清 酒用 一 外 村 ・上 田 ・樋 口;醤 油用 一 黒 判 ・秋 田 今 野 ・大 阪今 野)か ら分離 され た もの で ア ミラー ゼ カ は弱 く,そ の 出 所habitatそ の 他 か ら見 て 最 も適 切 な株 と して 選 定 す る こ とが で き る。 本 研 究 は 昭 和58年 度 日本農 芸 化学 大 会(1983年3均 仙 台 市)で 発 表 した 。 要 約 米 国 よ り送 られ た ア スペ ルギ ル ス 属 の1株 を代 表 的 な Asp. toxicariusと 同 定 し,国 内 で異 名 で保 存 され て き たA. candidusな どをA.oryzaeと 同定 し,そ の 他 A.oryzae var. viridisの 諸 特 徴 を考 察 し,そ のtype Cultureを 新 し く選 定 し直 した 。
文 献
1) H. Murakami : J.Gen. Appl. Microbiol., 17 281-309 (1971) 2) 村 上 英 也: 醸造 試 報14 3518 (1971) 3) 村 上 英 也 ・稲橋 正 明 ・吉 田 清 ・野 呂 二 三: 醸 協76 (12) 817 (1981) 4) 原 昌道 ・村 上 英 也 ・菅 間 誠 之 助 ・D. I. Femell・C. W . Hesse-ltine: 醸 造 試 報1451∼6 (1973) 5) 村 上英 也 ・鈴 木 与 ・長 縄 真 琴 ・大 脇 京 子: 醸造 試 報137 8 (1965) 6) 村 上 英 也 ・鈴 木 与 ・大 脇 京 子 ・桑 原 健 治: 醸 造試 報137 16 (1965) 7) 村 上 英 也 ・牧 野 正 則: 醸 造 試 報140 4∼11 (1968) 8) 村 上 英 也 ・ 牧 野 正 則 ・ 高 橋 利 郎 ・ 劉 玉 清 ・ 水 頭 幸 太 郎 ・天 尾 壮一 郎 ・大 場 俊 輝 ・原 昌 道:醸 造試 報1416∼16 (1969) 9) 村 上 英 也 ・大 場 俊 輝 ・原 昌道 ・志 水 伸 一 ・牧 野 正 則 ・ 高 野文 夫 ・ 備 前 次 雄 ・原 田 政 隆: 醸 造 試 報143 1∼4 (1971) 10) 村 上 英 也: 醸 造 試 報144 15 (1972)
11) H. Murakami, K. Hayashi and S. Ushijima : J . Gen. Appl. Microbiol., 28 55-60 (1982)
12) Martha Christensen : Mycologia, Vol. 73 1056-1084 (1981)
13) K. B. Raper and D. I. Fennell : The Genus Aspergillus , Williams & Wilkins Co., Baltimore, U. S. A. (1965) L4) 村 上 英 也 ・高 瀬 澄 夫 ・野 田 幸 夫 ・石 井 徹: 醸 造 試 報138 17∼21
(1966)
15) 国 税 庁 醸 造 試 験 所: 醸 造 試 報143 208∼217 (1971) 16) 村 上 英 也: 醸 造 試 報142 20∼21 (1970)