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ベース・マネーの内生性とマクロ経済-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

ι 香 川 大 学 経 済 論 叢 第68巻 第 2・3号 1995年 11月 779-804

研究ノート

ベース・マネーの内生性とマクロ経済*

藤 井 宏 史

I は じ め に われわれが日頃使っている ISjLMモデルは使利な分析道具だが,いくつか不十分 な点が指摘されてきた。特に,問題が集中しているのが銀行部門を含むLM関数で ある。周知のように,ケインズは,マネーサプライ残高を所与とし,それが銀行部門 の中でどのように決定されるかについては不問にしたうえに,各種利子率を長期債の 利回りに代表させて,その決定を非銀行民間部門の資産選択(流動性選好)に委ねた。 こうした銀行部門の取扱いは,おそらく,自らの理論に普遍性をもたせるための工夫 であったと思われるが,実際のマクロ経済の動向を分析するには,その国の金融構造 に見合うように具体化する必要がある。 もちろん,日本でも,過去数多くの研究がこの具体化の作業に費やされてきた。そ の研究の多くは, トービンの資産市場の一般均衡モデルの日本版を作る形でなされて

*

小論は, 1995年 9月 5・6日に開催された神戸大学足立ゼミナール研究会でbの報告をも とに作成したもの℃、す。足立英之教授,下村耕治教授をはじめとする出席者各位から有 益なコメントを頂いたことに感謝します。なお,ありうべき誤謬は筆者の責任です。 (1) 二木(1992)第5・6震は,日本型の金融構造が銀行を中心にした預貸型の間接金融方 式だとして, IS/LMモデルの修正を試みている。 (2 ) 代表的なものとしては,鈴木(1966),蛾山(1971),堀内(1980),岩田・浜田 (1980), 古川(1985),黒田(1988) 等がある。 香 川 大 学 経 済 論 叢 第68巻 第 2・3号 1995年11月 779-804

研究ノート

ベース・マネーの内生性とマクロ経済*

藤 井 宏 史

I は じ め に われわれが日頃使っているお

/LM

モデルは使利な分析道具だが,いくつか不十分 な点が指摘されてきた。特に,問題が集中しているのが銀行部門を含む

LM

関数で ある。周知のように,ケインズは,マネーサプライ残高を所与とし,それが銀行部門 の中でどのように決定されるかについては不問にしたうえに,各種利子率を長期債の 利回りに代表させて,その決定を非銀行民間部門の資産選択(流動性選好)に委ねた。 こうした銀行部門の取扱いは,おそらく,自らの理論に普遍性をもたせるための工夫 であったと思われるが,実際のマクロ経済の動向を分析するには,その国の金融構造 に見合うように具体化する必要がある。 もちろん,日本でも,過去数多くの研究がこの具体化の作業に費やされてきた。そ の研究の多くは, トービンの資産ー市場の一般均衡モデ/レの日本版を作る形でなされて

*

小論は, 1995年9月 5・6日に開催された神戸大学足立ゼミナール研究会、での報告をも とに作成したもの℃、す。足立英之教授,下村耕治教授をはじめとする出席者各位から有 益なコメントを頂いたことに感謝します。なお,ありうべき誤謬は筆者の責任です。 (1) 二木(1992)第5・6震は,日本型の金融構造が銀行を中心にした預貸型の間接金融方 式だとして,

IS/LM

モデルの修正を試みている。 (2 ) 代表的なものとしては,鈴木(1966),蛾山(1971),堀内(1980),岩田・浜田 (1980), 古川(1985),黒田(1988) 等がある。

(2)

-780- 香川大学経済論叢 976 きたが,そこでの定式化のポイントは,当然のことながら,通貨当局である日本銀行 の金融政策運営をいかに定式化するかということと,そうした金融政策運営と日本的 な金融制度を制約条件にした民間銀行の最適行動をいかに導出するかであった。 ところが,肝心の日本銀行の金融政策運営方式については,必ずしも合意が形成さ れているとは言えない状況にある。標準的なテキX トでは,通貨当局の負債であるベ ース・マネーを操作変数とみなし,それに貨幣乗数を掛け合わせてマネーサプライが 決定されると考えている。ところが,このベース・マネーが内生的か,外生的かをめ ぐって,主に経済学者と日本銀行関係者との間で長い間論争が繰り返されてきたので ある。古くは, 1970年代石油ショック前後の金融政策運営に絡んだ小宮・堀内・外 山論争,新しいところでは,最近のバブル前後の金融政策運営に関する岩田・翁論争 である。論争点は多岐にわたっているが,おおむね次のニ点に要約できる。すなわち, 日本銀行は,ベース・マネーをコントロールできるかどうか,もしそれが可能な場合, 操作目標もしくはコントロール変数として,銀行間の短期金利と,ベース・マネーの いずれが望ましいかということである。そして,これらの論点をめぐり,経済学者の 多くが,ペース・マネーのコントロールの可能性を肯定し,ベース・マネーコントロ ーノレを推奨するのに対し,日本銀行関係者は,ベース・マネー・コントローノレの可能 性については,多少の意見の相違があるもののおおむね否定的で,短期金利のコント ローノレの方が望ましいとする,これが今までの論争の構図であった。 もちろん,このような論争の構図は,こと日本に限ったことではない。イングラン ド銀行の顧問を長期間務めたグッドハートは, Palgrave経済学辞典の「マネタリー ・ベース」の項目の中で,標準的な貨幣乗数によるマネーサプライ・コントロールの 解説をした後,次のように述べていよ; 「しかしながら,実際には,銀行システムは事実上決してその様な形では機能して こなかった。確かに,中央銀行は,現金発行の独占的な管理と公開市場操作によっ (3 ) 横山 (1977),小宮(1988)第1・3意,外山 (1980)第 l章,堀内(1980)第1・2 章,参照。 (4 ) 岩田 (1993),翁 (1993)参照。 (5) Goodhart, Charles(1989)p.501. -780- 香川大学経済論叢 976 きたが,そこでの定式化のポイントは,当然のことながら,通貨当局である日本銀行 の金融政策運営をいかに定式化するかということと,そうした金融政策運営と日本的 な金融制度を制約条件にした民間銀行の最適行動をいかに導出するかであった。 ところが,肝心の日本銀行の金融政策運営方式については,必ずしも合意が形成さ れているとは言えない状況にある。標準的なテキX トでは,通貨当局の負債であるベ ース・マネーを操作変数とみなし,それに貨幣乗数を掛け合わせてマネーサプライが 決定されると考えている。ところが,このベース・マネーが内生的か,外生的かをめ ぐって,主に経済学者と日本銀行関係者との間で長い間論争が繰り返されてきたので ある。古くは, 1970年代石油ショック前後の金融政策運営に絡んだ小宮・堀内・外 山論争,新しいところでは,最近のバブル前後の金融政策運営に関する岩田・翁論争 である。論争点は多岐にわたっているが,おおむね次のニ点に要約できる。すなわち, 日本銀行は,ベース・マネーをコントロールできるかどうか,もしそれが可能な場合, 操作目標もしくはコントロール変数として,銀行間の短期金利と,ベース・マネーの いずれが望ましいかということである。そして,これらの論点をめぐり,経済学者の 多くが,ペース・マネーのコントロールの可能性を肯定し,ベース・マネーコントロ ーノレを推奨するのに対し,日本銀行関係者は,ベース・マネー・コントローノレの可能 性については,多少の意見の相違があるもののおおむね否定的で,短期金利のコント ローノレの方が望ましいとする,これが今までの論争の構図であった。 もちろん,このような論争の構図は,こと日本に限ったことではない。イングラン ド銀行の顧問を長期間務めたグッドハートは, Palgrave経済学辞典の「マネタリー ・ベース」の項目の中で,標準的な貨幣乗数によるマネーサプライ・コントロールの 解説をした後,次のように述べていよ; 「しかしながら,実際には,銀行システムは事実上決してその様な形では機能して こなかった。確かに,中央銀行は,現金発行の独占的な管理と公開市場操作によっ (3 ) 横山 (1977),小宮(1988)第1・3意,外山 (1980)第 l章,堀内(1980)第1・2 章,参照。 (4 ) 岩田 (1993),翁 (1993)参照。 (5) Goodhart, Charles(1989)p.501.

(3)

977 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -781-てそれを実施する権限を行使してきたが,それは(短期)利子率の望ましい水準を 有効にする目的からであって,事前に決められたマネタリー・ベース量ゃある種の 貨幣集計量を達成するためではない。 J (下線部分は筆者) 「さらに,中央銀行が現実的・歴史的にどのように行動してきたかを説明する段に なると,自らのモデJレでは貨幣残高が外生的に決まるとする人々を含め,たいてい の経済学者は,一般に中央銀行は種々の目標にそって利子率の設定を追求してきて おり,それゆえに,マネタリー・ベースと貨幣残高は内生的に決定されてきたとい う現実を認める。」 グッドハートが言うように,日本においても,現行の金融政策運営が標準的な教科 書のようにベース・マネーを操作するやり方ではなく,コールレートや手形レートと いった短期金利の操作で行われているということでは,意見の一致をみているように 思われる。ところが,現行の金融政策運営を考慮に入れたマクロ金融モデルは,それ ほど多くないのが現状である。その最大の原因は,日本銀行の金融政策運営方式の複 雑さにあるが,この間,日本銀行関係者から,日々の政策運営がどのように行われて いるかを明確にする研究がなされてきた。 そこで以下では,それらの研究をてがかりにして日本銀行の動学的な金融調節と整 合的なマクロ金融モデ/レを構築し,そのモデルの性質を検討することを通して,短期 金利をコントローノレする日本型の金融政策運営が果たすマクロ経済的な意味をさぐる ことにする。 ただ,マクロ金融モデルの定式化にあたっては,次の二点を重視するO つは,で きるだけ単純なモデルにすることである。その理由は,標準的な

ISjLM

のフレーム ワークとの対比を容易にするためと,金融資産を考慮したマクロモデルで現実的な含 (6 ) 数少ない例としては,寺西 (1982) 第 10章,植田・植草 (1988),黒田 (1988) 第 1 章補論A,吉川 (1992)等。 (7) 代表的なものとしては,山本(1980),鈴木・黒田・白川(1988),神崎(1988),翁 (1991)(1993)等がある。 (8 ) 翁(1993)は,預金準備制度を前提にした金融調節の動学プロセスを強調し,一般の 静学的な金融モデルが,短期資金市場における日銀の金融調節を考慮に入れていないの で不十分だと主張している。 977 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -781-てそれを実施する権限を行使してきたが,それは(短期)利子率の望ましい水準を 有効にする目的からであって,事前に決められたマネタリー・ベース量ゃある種の 貨幣集計量を達成するためではない。 J (下線部分は筆者) 「さらに,中央銀行が現実的・歴史的にどのように行動してきたかを説明する段に なると,自らのモデJレでは貨幣残高が外生的に決まるとする人々を含め,たいてい の経済学者は,一般に中央銀行は種々の目標にそって利子率の設定を追求してきて おり,それゆえに,マネタリー・ベースと貨幣残高は内生的に決定されてきたとい う現実を認める。」 グッドハートが言うように,日本においても,現行の金融政策運営が標準的な教科 書のようにベース・マネーを操作するやり方ではなく,コールレートや手形レートと いった短期金利の操作で行われているということでは,意見の一致をみているように 思われる。ところが,現行の金融政策運営を考慮に入れたマクロ金融モデルは,それ ほど多くないのが現状である。その最大の原因は,日本銀行の金融政策運営方式の複 雑さにあるが,この間,日本銀行関係者から,日々の政策運営がどのように行われて いるかを明確にする研究がなされてきた。 そこで以下では,それらの研究をてがかりにして日本銀行の動学的な金融調節と整 合的なマクロ金融モデ/レを構築し,そのモデルの性質を検討することを通して,短期 金利をコントローノレする日本型の金融政策運営が果たすマクロ経済的な意味をさぐる ことにする。 ただ,マクロ金融モデルの定式化にあたっては,次の二点を重視するO つは,で きるだけ単純なモデルにすることである。その理由は,標準的な

ISjLM

のフレーム ワークとの対比を容易にするためと,金融資産を考慮したマクロモデルで現実的な含 (6 ) 数少ない例としては,寺西 (1982) 第 10章,植田・植草 (1988),黒田 (1988) 第 1 章補論A,吉川 (1992)等。 (7) 代表的なものとしては,山本(1980),鈴木・黒田・白川(1988),神崎(1988),翁 (1991)(1993)等がある。 (8 ) 翁(1993)は,預金準備制度を前提にした金融調節の動学プロセスを強調し,一般の 静学的な金融モデルが,短期資金市場における日銀の金融調節を考慮に入れていないの で不十分だと主張している。

(4)

-782 香川大学経済論議 978 賞、を引き出そうとすると,多くの資産を導入しがちになり,その結果,モデルが複雑 化して,計算結果が媛昧になiる傾向があるから?ある。 二つ目は,パブノレ期における民間銀行の積極的な活動と,銀行行動が背後に隠され た

I

S

/

L

M

モデルとのギャップを埋めるために,民間銀行の貸出行動を重視し,それ を明示化ずることである。一般に,金融政策は主に民間銀行に働きかけて政策効果を あげるところに特徴がある。それゆえ,以下で検討しようとする日本的な金融政策運 営を考慮に入れたモデルにも,民間銀行の貸出行動を考慮することが重要となる。 それゆえ,以下, II節で日本型の金融政策運営と民間銀行の貸出行動を重視した単 純なマクロモデルを定式化する。そして,IIl節ではそのモデ/レを使って,ベース・マ ネーの内生性の条件を明らかにし, N節で日本型の金融調節を動学モデルで表し,そ れを使って,日本型の金融調節の特徴を明らかにする。そして,最後のV節では, II 節で提示したマクロモデルの性質を明らかにし,あわせて日本型の金融政策運営のも つ長期的な意味をさぐる。 II 基本モデル 以下で説明するモデJレでは,通貨当局,民間銀行および公衆(非銀行民間部門)の 3つの部門を考え,政府部門と海外部門が存在しない経済を想定する。そして,各経 済主体の金融資産・負債残高の構造は,表のような単純なものを仮定する。ただし, 表中,マイナスの記号の付いたものは負債を表している。 表中の短期資金は,いわゆるコーノレ市場や手形売買市場といった銀行聞の短期資金 市場で取引される短期資金を表している。通貨当局は,日銀貸出と手形オぺを通じて, 表1 経済主体の金融構造 通貨当局 民間銀行 公 衆 金 り手 短期資金 A

-F

Z

(

d

)

貸 出 L

-B

r 現 金

-H

R N

預 金 - D D

(9 ) このような試みとしては,古川 (1985)第llji,Blinder & Bemanke(1989), Brunner & Meltzer (1993),足立(199:3)(1994)第12翠,字恵(1992),植田 (1991)等がある。 -782 香川大学経済論議 978 賞、を引き出そうとすると,多くの資産を導入しがちになり,その結果,モデルが複雑 化して,計算結果が媛昧になiる傾向があるから?ある。 二つ目は,パブノレ期における民間銀行の積極的な活動と,銀行行動が背後に隠され た

I

S

/

L

M

モデルとのギャップを埋めるために,民間銀行の貸出行動を重視し,それ を明示化ずることである。一般に,金融政策は主に民間銀行に働きかけて政策効果を あげるところに特徴がある。それゆえ,以下で検討しようとする日本的な金融政策運 営を考慮に入れたモデルにも,民間銀行の貸出行動を考慮することが重要となる。 それゆえ,以下, II節で日本型の金融政策運営と民間銀行の貸出行動を重視した単 純なマクロモデルを定式化する。そして,IIl節ではそのモデ/レを使って,ベース・マ ネーの内生性の条件を明らかにし, N節で日本型の金融調節を動学モデルで表し,そ れを使って,日本型の金融調節の特徴を明らかにする。そして,最後のV節では, II 節で提示したマクロモデルの性質を明らかにし,あわせて日本型の金融政策運営のも つ長期的な意味をさぐる。 II 基本モデル 以下で説明するモデJレでは,通貨当局,民間銀行および公衆(非銀行民間部門)の 3つの部門を考え,政府部門と海外部門が存在しない経済を想定する。そして,各経 済主体の金融資産・負債残高の構造は,表のような単純なものを仮定する。ただし, 表中,マイナスの記号の付いたものは負債を表している。 表中の短期資金は,いわゆるコーノレ市場や手形売買市場といった銀行聞の短期資金 市場で取引される短期資金を表している。通貨当局は,日銀貸出と手形オぺを通じて, 表1 経済主体の金融構造 通貨当局 民間銀行 公 衆 金 り手 短期資金 A

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貸 出 L

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預 金 - D D

(9 ) このような試みとしては,古川 (1985)第llji,Blinder & Bemanke(1989), Brunner & Meltzer (1993),足立(199:3)(1994)第12翠,字恵(1992),植田 (1991)等がある。

(5)

越』ー 979 ベース・マネーの内生伎とマクロ経済 783-短期資金市場へベース・マネ

- H

を供給すると考える。以下では,日銀貸出と手形 オペをまとめて日銀信用と呼び,それをAとおく。簡単化のため,期首の純金融債 権はゼロであるとし,利子の受払を省くと,日本銀行の期末の予算制約式は次のよう に書ける。

H

A

(1) そして,民間銀行の短期資金需要に対して,日本銀行は,まず市場の短期金利より 低い公定歩合水準dを設定して貸出限度額まで日銀貸付を行い,それでも満たされ ( J叫 ない資金不足に対しては,手形の買いオぺで資金を供給すると仮定する。そこで,日 銀信用の中の日銀貸出を

X

とし,その限度額を

X

とおくと,

X

三五

X

(2 ) と書ける。 次に,民間銀行は,期首の純金融債権に,預金Dと短期資金Fで集めた資金を加 えたものを,支払準備金

R

と貸出

L

に運用すると考える。同様にして,簡単化のた めに期首の純金融債権がゼロであるとし,利子の受払を省くと,予算制約式は次のよ うになる。

D

十F-=R十

L

(3 ) 問題は,民間銀行の貸出行動をどの様に定式化するかであるが,導出にあたり以下の ような仮定をおくことにする。 1)預金市場と貸出市場は完全競争である。 2)預金金利規制下で公衆の預金需要を所与として受け入れる。 3)法定準備を上回る過剰準備は保有しない。 仮定1)から,貸出金利や預金金利は銀行にとって所与とみなせる。仮定2)は,預金金 利自由化が完了した今となっては非現実的だが,所与とした預金をもとに準備を積み 立てる現行の準備預金制度にあわせるためにおいた仮定である。仮定3)は,日本の民 間銀行の現状を踏まえた仮定で,日本の銀行は経験的にほとんど過剰準備を保有しな い。したがって,法定準備率を hとおくと, R=kD

0

< k<

1

(4) (10) 周知のように,コール市場と手形市場の間には裁定取引が行われているので,手形市 場に介入すれば,コール市場に即座に影響を及ぽすことがl'きる。 979 ベース・マネーの内生伎とマクロ経済 783-短期資金市場へベース・マネ

- H

を供給すると考える。以下では,日銀貸出と手形 オペをまとめて日銀信用と呼び,それをAとおく。簡単化のため,期首の純金融債 権はゼロであるとし,利子の受払を省くと,日本銀行の期末の予算制約式は次のよう に書ける。

H

A

(1) そして,民間銀行の短期資金需要に対して,日本銀行は,まず市場の短期金利より 低い公定歩合水準d を設定して貸出限度額まで日銀貸付を行い,それでも満たされ ない資金不足に対しては,手形の買いオぺで資金を供給すると仮定する。そこで,日 銀信用の中の日銀貸出を

X

とし,その限度額を

X

とおくと,

X

三五

X

(

2

)

と書ける。 次に,民間銀行は,期首の純金融債権に,預金D と短期資金 Fで集めた資金を加 えたものを,支払準備金

R

と貸出

L

に運用すると考える。同様にして,簡単化のた めに期首の純金融債権がゼロであるとし,利子の受払を省くと,予算制約式は次のよ うになる。

D

十F-=R十

L

(3 ) 問題は,民間銀行の貸出行動をどの様に定式化するかであるが,導出にあたり以下の ような仮定をおくことにする。 1)預金市場と貸出市場は完全競争である。 2)預金金利規制下で公衆の預金需要を所与として受け入れる。 3)法定準備を上回る過剰準備は保有しない。 仮定1)から,貸出金利や預金金利は銀行にとって所与とみなせる。仮定2)は,預金金 利自由化が完了した今となっては非現実的だが,所与とした預金をもとに準備を積み 立てる現行の準備預金制度にあわせるためにおいた仮定である。仮定3)は,日本の民 間銀行の現状を踏まえた仮定で,日本の銀行は経験的にほとんど過剰準備を保有しな い。したがって,法定準備率を hとおくと, R=kD

0

< k<

1

(4) (10) 周知のように,コール市場と手形市場の間には裁定取引が行われているので,手形市 場に介入すれば,コール市場に即座に影響を及ぽすことがuできる。

(6)

784 - 香川大学経済論叢 980 である。 こうした仮定のもとで,代表的な民間銀行の今期中の予想、利潤を以下の様に定義す よ た だ し , 期 首 の 残 高 に 伴 っ て 発 生 す る 収 益 や 費 用 は 省 い で あ る 。 11 =rL-Z(F-X)-dX一

1

(L,e)-g (D) (5) ここで rは貸出金利 zは短期金利,

d

は公定歩合,

l

(

・)と

g

(

・)はそれぞれ貸出 と預金にともなって発生する費用である。このうち,貸出費用は,営業費用の他に貸 倒れリスクを考慮すると,一般に,貸出を増加させるにつれ,限界的な貸出プロジェ クトの費用が増加すると考えられる。また,その限界的貸出の費用は,銀行の将来予 想、が高まれば低く見積もられる傾向があるので,銀行の将来予想を表す指標eが上昇 すれば,低下すると考えられる。そこで, fj孟O

fu>O

fiιぐO (6 ) と書ける。もちろん,仮定2)から,預金は銀行のコントロール変数ではないから, それにかかる費用g(・)は固定費用となる。 民間銀行は,

(

2

)

ー(

4

)式で表される制約条件のもとで,今期の予想利潤

H

を最 大にするよう,今期末の資産負債構成を決定すると考える。ラグランジュ関数を, φ=rL-Z(F -X)-dX -f (L,e)-g(D)一λ(X-X) (7) と定義して,これを解くと ,

i>d

の場合の均衡条件式は次のようになる。 r-Z-fj(L

e)= 0 X = X ( 8 )式より, (6)式を考慮すると貸出供給関数は一般的に次のように表せる。

(

8

)

( 9 ) L=L(r,

i

,e) Lr=-

L

i

>

0, L

ι

>

0 (10) (11) 代表的銀行の行動が,銀行部門全体の行動を表すものとする。 (12) このeは,将来の返済可能性を左右する顧客の所得や収益の予惣に影響を与える,経 済全体の景気予想と考える。それゆえ,この6はケインズが企業の投資決定因として重 視したanimalspirit(血気)の銀行版と理解しでもよい。このように費用関数に,貸し 手リスクに関係させて銀行の期待要因を導入する試みは,既に足立(1993),植田(1991) で行われている。 (13) 銀行の信用創造能力を明示するため,預金の中に銀行の貸出に伴って発生する派生的 預金を考慮する必要がある。しかし,計算の複雑さが増すだけで,それを考慮すること によって以下の結果を大きく変更することはないので無視する。 また,預金費用の中には,預金金利が含まれるが,以下では預金金利の経済効果をl検 討しないので明示していない。 784 - 香川大学経済論叢 980 である。 こうした仮定のもとで,代表的な民間銀行の今期中の予想、利潤を以下の様に定義す る。ただし,期首の残高に伴って発生する収益や費用は省いてある。

1

1

=rL-Z(F-X)-dX

1

(

L

e)-g

(D) (5) ここで rは貸出金手Ij, iは短期金利,

d

は公定歩合,

l

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・)と

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(

・)はそれぞれ貸出 と預金にともなって発生する費用である。このうち,貸出費用は,営業費用の他に貸 倒れリスクを考慮すると,一般に,貸出を増加させるにつれ,限界的な貸出プロジェ クトの費用が増加すると考えられる。また,その限界的貸出の費用は,銀行の将来予 想、が高まれば低く見積もられる傾向があるので,銀行の将来予想を表す指標eが上昇 すれば,低下すると考えられる。そこ、で, fj孟O,fu>O,fI.,ぐO (6 ) と書ける。もちろん,仮定2)から,預金は銀行のコントロール変数ではないから, それにかかる費用g(・)は固定費用となる。 民間銀行は,

(

2

)

ー(

4

)式で表される制約条件のもとで,今期の予想利潤

H

を最 大にするよう,今期末の資産負債構成を決定すると考える。ラグランジュ関数を, φ

=rL-Z(F -X)-dX

-f

(

L

e)-g

(D)一λ

(X-X)

(7) と定義して,これを解くと ,

i>d

の場合の均衡条件式は次のようになる。

r-Z-!I(L

e)=

0

X = X

( 8 )式より, (6)式を考慮すると貸出供給関数は一般的に次のように表せる。

(

8

)

( 9)

L=L(r

i

e

)

Lr=-

L

i

>

0,

L

ι

>

0 (10) (11) 代表的銀行の行動が,銀行部門全体の行動を表すものとする。 (12) このeは,将来の返済可能性を左右する顧客の所得や収益の予惣に影響を与える,経 済全体の景気予想と考える。それゆえ,この6はケインズが企業の投資決定因として重 視したanimalspirit(血気)の銀行版と理解しでもよい。このように費用関数に,貸し 手リスクに関係させて銀行の期待要因を導入する試みは,既に足立(1993),植田(1991) で行われている。 (13) 銀行の信用創造能力を明示するため,預金の中に銀行の貸出に伴って発生する派生的 預金を考慮する必要がある。しかし,計算の複雑さが増すだけで,それを考慮すること によって以下の結果を大きく変更することはないので無視する。 また,預金費用の中には,預金金利が含まれるが,以下では預金金利の経済効果をl検 討しないので明示していない。

(7)

-785-ベース・マネーの内生性とマクロ経済 981 これより,標準的な銀行行動の理論で説明されるように,貸出は貸出金利が上昇する か,短期金利が低下すれば増加する。そして,本モデルで導入した銀行の将来予想e それが高まると限界的な貸出に対するリスク評価が甘くなって,貸出の については, 限界費用が低下する (fLe<

0

)

ので,貸出の増加をもたらす。それゆえ,将来予想の は,予想の変化に対する民間銀行のリス 変化に対する貸出の反応度 (Leの絶対値) ク評価の敏感さを表すことになる。 また,

(

9

)

式からは,民間銀行が,短期資金需要をまず市場金利より低い公定歩合 で日銀借入限度額いっぱいまで借り入れ,残る資金を市場で需要することが分かる。 その結果,日銀借入を含めた,短期資金の需要関数は, F三L(r

i

e)一(1-k)D (ll) と書ける。ここで,銀行部門の短期資金需要は,貸出行動や公衆の預金需要に依存し ていることに注意されたい。 次に,公衆である。公衆は企業と家計を含むが,通貨当局の政策運営や民間銀行の 積極的な金融行動に焦点をあてるため以下では区別しない。公衆は,期首の純金融債 その残りを現金N と預 権に,銀行借入Bと所得 Yで得た資金を支出Eにあて, 金Dで保有すると仮定する。そして簡単化のため期首の純金融債権がゼロであると し,利子の受払を省くと,予算制約式は次のように書ける。 (12) B + Y三E+N+D (13 a) (13 b) (13 c) (13 d) (1

3

e)

o

<Ny D =D(Y, r,g) 0 < Dy

Dr< 0, Dgく O

M三 N(Y)十D(Y,r,g)=M(Y, r,g) そして,以下のような公衆の行動関数を仮定する。 By< 0, B,< 0, Bg> 0 。 くEyぐ 1

ι

く 0

Eg> 0

M J ヨ 鴻 I d a -包 3 1 d p J M E t d -n I 4 f a d 2 1 1 d } J n B=B(Y

r

g) E =E(Y

r

g) N=N(Y) M は公衆の貨幣需要を表している。 ただし, (13c)式であろう。 (13a)式で,銀行 ここ、で,少し説明が必要なのは, (13 a)式と (14) Leニ

/

i

//u>

0 (15) 短期で資金運用している銀行もあるの"で,正確には民間銀行部門の短期資金の超過需 要関数と言うべきだろう。 J ソ

j

一 札 981 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -785-これより,標準的な銀行行動の理論で説明されるように,貸出は貸出金利が上昇する か,短期金利が低下すれば増加する。そして,本モデルで導入した銀行の将来予想、e については,それが高まると限界的な貸出に対するリスク評価が甘くなって,貸出の 限界費用が低下する (fLe<0)ので,貸出の増加をもたらす。それゆえ,将来予想の 変化に対する貸出の反応度 (Leの絶対値)は,予想、の変化に対する民間銀行のリス ク評価の敏感さを表すことになる。 また,

(

9

)

式からは,民間銀行が,短期資金需要をまず市場金利より低い公定歩合 で日銀借入限度額いっぱいまで借り入れ,残る資金を市場で需要することが分かる。 その結果,日銀借入を含めた,短期資金の需要関数は, F三 L(r

i

e)ー (1-k)D (ll) と書ける。ここで,銀行部門の短期資金需要は,貸出行動や公衆の預金需要に依存し ていることに注意されたい。 次に,公衆である。公衆は企業と家計を含むが,通貨当局の政策運営や民間銀行の 積極的な金融行動に焦点をあてるため以下では区別しない。公衆は,期首の純金融債 権に,銀行借入Bと所得 Yで得た資金を支出Eにあて,その残りを現金N と預 金Dで保有すると仮定する。そして簡単化のため期首の純金融債権がゼロであると し,利子の受払を省くと,予算制約式は次のように書ける。 B + Y三E+N+D そして,以下のような公衆の行動関数を仮定する。 B = B(Y,r,g) By< 0, Bァ<0, Bg> 0 E=E(Y,

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3

e) ここ、で,少し説明が必要なのは, (13 a)式と (13c)式であろう。 (13a)式で,銀行 (14) Leニ

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0 (15) 短期で資金運用している銀行もあるので,正確には民間銀行部門の短期資金の超過需 要関数と言うべきだろう。

(8)

-786- 香川大学経済論叢 借入を所得の減少関数としているのは,所得が増加するにつれ,銀行借入などの外部 負債に頼る必要性が低下するとみなすのが自然だからである。 (13c)式で,現金需要 が所得のみの増加関数になっているのは,経験的判断と多くの実証研究に依拠してい 式 ま た,gは,公衆(企業)の長期期待を表すパラメータで,gの上昇による支出 の増大は,銀行借入と預金の取崩しでファイナンヌされると仮定している。 もちろん,行動関数の偏微係数は,予算制約式(12)から次のような関係にあるO By+1三Er+Nr十Dy (14 a) Bx三Ex+Dx (x=r org) (14b) 以よの各経済主体の行動関数を前提にして,財市場と,預金を除く金融資産の需給 均衡式を表せば,次なる基本モデ/レが如できる。

財::

Y

=

E

(

Y

r

g) 現 金 :A=N(Y)+kD(Y

r

g) 短期資金::A =L(r, z, e)一(l-k)D(Y,r,g) 貸 出 : :L(r,

i

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I

l

l

-( ( ( ( この基本モデノレで,内生変数を Y,r,

i

, Aの4っとすると,ワノレラス法則によ り,方程式(15)- (18)のうち一つは独立ではないから,変数のうち一つを外生変数に しなければならない。以下の議論の中で,政策運営に際してベース・マネーを操作変 数としたモデルを問題にする場合は変数Aを外生変数にし,短期金利を操作変数と したモデルを問題にする場合は,短期金利1を外生変数として考えることにする。 そうすると,ベース・マネーを操作変数とする標準的なモデル(ベース・マネーモ デル)は,日銀信用Aが外生変数だから,財と現金の需給均衡式(15)(16)式で,所 得と貸出金利が同時決定され,短期金利は,短期資金もしくは貸出の需給均衡式,す なわち(17)式か(18)式のいずれかで決定されることになる。 それに対して,以下で主に議論す‘る短期金利を操作変数とするモデル(短期金利モ デル)は,短期金利が外生変数となる代わりに,日銀信用Aが内生変数となるので, 財と貸出の需給均衡式(15)(18)で所得と貸出金利が同時決定され,日銀信用Aは, 短期資金もしくはベース・マネーの需給均衡式,すなわち(17)式か(16)式のいずれか で決定されることになる。 (16) 実証例としては,例えば藤野 (1992)参照。 982 -786- 香川大学経済論叢 982 借入を所得の減少関数としているのは,所得が増加するにつれ,銀行借入などの外部 負債に頼る必要性が低下するとみなすのが自然だからである。

(

1

3

c)式で,現金需要 が所得のみの増加関数になっているのは,経験的判断と多くの実証研究に依拠してい ( 1日 る。また,gは,公衆(企業)の長期期待を表すパラメータマ,gの上昇による支出 の増大は,銀行借入と預金の取崩しでファイナンヌされると仮定している。 もちろん,行動関数の偏微係数は,予算制約式(12)から次のような関係にある。 B,,+l三Er+Nr十Dy (14a) Bx三Ex+Dx (x=r org) (14b) 以上の各経済主体の行動関数を前提にして,財市場と,預金を除く金融資産の需給 均衡式を表せば,次なる基本モデ/レが、できる。

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(9)

983 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 - 787-III 短期金利とベース・マネーの内生性 一般に,政策当局がある価格を操作するには,その価格がどの市場の需給圧力を受 りるかを知っておくことが必要である。それは短期金利を操作しようとする場合にも 妥当し,日本銀行が金融調節を行うにあたって,短期金利がどの市場の需給圧力に左 右されるかは極めて重要なi問題となる。 日本銀行がどのように考えているかは,金融調節のやり方に現れている。すなわち, 一般に,ベース・マネーの需給均衡式をフロー形式で表せば, 日銀信用供与=準備預金増+銀行券発行増+財政資金等揚超 と表せるが,周知のように日本銀行はこの式を, 準備預金増=日銀信用供与一(銀行券発行増+財政資金揚超) と変形して,右辺二項目の括弧を「資金過不足額」と呼び,例えば金融を引き締め気 味にするときは,資金過不足額より少なめに日銀信用を供与し,その結果,短期金利 が上昇すると考えている。それゆえ,日本銀行が,短期金利がベース・マネーの需給 を反映して変動すると考えていることは明らかである。こうした見方を,以下ではベ ース・マネー需給説と呼ぶことにするが,この説は日本銀行だけでなく,標準的な金 融論の教科書にも見受けられるかなり支配的な見方、である。そこで,基本モデルでベ ース・マネー需要を

HD

とおいて,ベース・マネーの超過需要を示すと次のようになる。 }fD- H三N(Y)+kD(Y

r

g) - H (19) 日本銀行の関係者は,この(19)式をもとに,しばしばベース・マネーを内生的に供 給せざるをえないと主張する。すなわち,公衆の現金需要

N

,民間銀行の準備需要 kDともに短期金利1に非弾力的なので,ベース・マネー需給を均衡させ短期金利を 定めるためには,目標短期金利でベース・マネー需要J[Dを充足させるように日銀信 用,したがってベース・マネーHを内生的に供給しなければならないという分けで ある。 (17) 鈴木・黒田・白川(1988),翁 (1991),川口・古川(1992) 第 6章pp117 -126があ る。こうした考え方は,貨幣需給で利子率が決定されるとする標準的なマクロ経済学の 流動性選好説と類似している。流動性選好説が抱える問題点については,二木(1977), 藤原(1988),置塩(1986)を参照されたい。 983 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 - 787-III 短期金利とベース・マネーの内生性 一般に,政策当局がある価格を操作するには,その価格がどの市場の需給圧力を受 りるかを知っておくことが必要である。それは短期金利を操作しようとする場合にも 妥当し,日本銀行が金融調節を行うにあたって,短期金利がどの市場の需給圧力に左 右されるかは極めて重要なi問題となる。 日本銀行がどのように考えているかは,金融調節のやり方に現れている。すなわち, 一般に,ベース・マネーの需給均衡式をフロー形式で表せば, 日銀信用供与=準備預金増+銀行券発行増+財政資金等揚超 と表せるが,周知のように日本銀行はこの式を, 準備預金増=日銀信用供与一(銀行券発行増+財政資金揚超) と変形して,右辺二項目の括弧を「資金過不足額」と呼び,例えば金融を引き締め気 味にするときは,資金過不足額より少なめに日銀信用を供与し,その結果,短期金利 が上昇すると考えている。それゆえ,日本銀行が,短期金利がベース・マネーの需給 を反映して変動すると考えていることは明らかである。こうした見方を,以下ではベ ース・マネー需給説と呼ぶことにするが,この説は日本銀行だけでなく,標準的な金 融論の教科書にも見受けられるかなり支配的な見方、である。そこで,基本モデルでベ ース・マネー需要を

HD

とおいて,ベース・マネーの超過需要を示すと次のようになる。 }fD- H三N(Y)+kD(Y

r

g) - H (19) 日本銀行の関係者は,この(19)式をもとに,しばしばベース・マネーを内生的に供 給せざるをえないと主張する。すなわち,公衆の現金需要

N

,民間銀行の準備需要 kDともに短期金利1に非弾力的なので,ベース・マネー需給を均衡させ短期金利を 定めるためには,目標短期金利でベース・マネー需要J[Dを充足させるように日銀信 用,したがってベース・マネーHを内生的に供給しなければならないという分けで ある。 (17) 鈴木・黒田・白川(1988),翁 (1991),川口・古川(1992) 第 6章pp117 -126があ る。こうした考え方は,貨幣需給で利子率が決定されるとする標準的なマクロ経済学の 流動性選好説と類似している。流動性選好説が抱える問題点については,二木(1977), 藤原(1988),置塩(1986)を参照されたい。

(10)

十 788- 香川大学経済論議会 984 しかしながら,リンゴの価格変動を直接左右するのはリンゴの需給であるという素 朴な論理でゆくと,短期金利の変化を直接左右するのは短期資金市場の需給と考えな ければならなし史この考え方に立てば,ベース・マネー需給説が妥当するのは,ベー ス・マネーの超過需要が短期資金市場の超過需要に等しいか,あるいはベース・マネ ーの需給要因が直接短期資金市場の需給に反映されるときのこつのケースしかない。 しかし,最初のケースについては,ワノレラス法則にもとづいて,短期資金市場の超過 需要を求めると, F-A三

(

l

J

l

LH)

十(E-Y)+(L-B) (19') と表せるから,それが妥当するのは,財市場と貸出市場が均衡している特殊な場合に 限られる。 さらに,二つ目のケースについて調べるために,直接,短期資金の超過需要を求め ると, (1l)(18)式より次のように表せる。 F-A三L(r,Z, e)一(1-k)D( Y, r,g)-H (20) (19) (20)式を比較すると,ベース・マネーと預金需要,法定準備率といった要因は共 通だがそれ以外が異なる。特に問題になるのは,民間銀行の貸出Lであろう。民間 銀行が長期期待を高め (eの上昇)貸出を増加させる場合, (20)式より,短期資金市 場の需要が増大して短期金利が上昇する。しかし,ベース・マネー需給説では,派生 預金を考慮しない限り,直接的にはベース・マネー需要に影響が及ばないので短期金 利は変化しな兵それゆえ,ベース・マネー需給説は,事前の貸出計画の変更による 短期金利の変化を説明できないのである。 また銀行貸出は,ベース・マネーの内生性を考える上でも重要である。 (20)式から (18) 池尾 (1985)p 161は,この式を現金需給に匹敵するものと解釈している。 (19) 寺西 (1982)pp.593 -595は,小論と同様の理由から,日本銀行によるベース・マネ 一需給説にもとづくベース・マネー供給の内生性の主張を批判している。 (20) 岩田 (1993)は r証券投資を通じて供給される預金の増加に伴って発生する準備需 要は,短期金利に対して弾力的となる。Jpp.139 -140として,証券投資を考えるとベー ス・マネーの内生性は必然ではないと主張しているが,その場合に準備需要が金利弾力 的になるのは派生預金を通じてであることに注意。 (21) ベース・マネー需給説がある種の説得力を持つ要因に,公衆の現金引出し(現金需要 の増加)が銀行部門の流動性不足を生じさせるルートの存在がある。この点は, (20)式 では,預金の減少と考えることができる。なぜ、なら,銀行部門からの現金引出しは,預 金の解約でのみ可能だからである。 十 788 香川大学経済論叢 984 しかしながら,リンゴの価格変動を直接左右するのはリンゴの需給であるという素 朴な論理でゆくと,短期金利の変化を直接左右するのは短期資金市場の需給と考えな ければならない。この考え方に立てば,ベース・マネー需給説が妥当するのは,ベー ス・マネーの超過需要が短期資金市場の超過需要に等しいか,あるいはベース・マネ ーの需給要因が直接短期資金市場の需給に反映されるときのごつのケースしかない。 しかし,最初のケースについては,ワノレラス法則にもとづいて,短期資金市場の超過 需要を求めると, F-A

訂正

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-H)十(E-Y)+(L-B) (19') と表せるから,それが妥当するのは,財市場と貸出市場が均衡している特殊な場合に 限られる。 さらに,ニつ目のケースについて調べるために,直接,短期資金の超過需要を求め ると, (1l)(18)式より次のように表せる。 F-A三 L(r,Z, e)一(1-k)D( Y, r,g)-H (20) (19) (20)式を比較すると,ベース・マネーと預金需要,法定準備率といった要因は共 通だがそれ以外が異なる。特に問題になるのは,民間銀行の貸出Lであろう。民間 銀行が長期期待を高め (eの上昇)貸出を増加させる場合, (20)式より,短期資金市 場の需要が増大して短期金利が上昇する。しかし,ベース・マネー需給説では,派生 預金を考慮しない限り,直接的にはベース・マネ}需要に影響が及ばないので短期金 白骨 利は変化しない。それゆえ,ベース・マネー需給説は,事前の貸出計画の変更による 短期金利の変化を説明できないのである。 また銀行貸出は,ベース・マネーの内生性を考える上でも重要である。 (20)式から (18) 池尾 (1985)p 161は,この式を現金需給に匹敵するものと解釈している。 (19) 寺西 (1982)pp.593 -595は,小論と同様の理由から,日本銀行によるベース・マネ 一需給説にもとづくベース・マネー供給の内生性の主張を批判している。 (20) 岩田 (1993)は r証券投資を通じて供給される預金の増加に伴って発生する準備需 要は,短期金利に対して弾力的となる。Jpp.139 -140として,証券投資を考えるとベー ス・マネーの内生性は必然ではないと主張しているが,その場合に準備需要が金利弾力 的になるのは派生預金を通じてであることに注意。 (21) ベース・マネー需給説がある種の説得力を持つ要因に,公衆の現金引出し(現金需要 の増加)が銀行部門の流動性不足を生じさせるルートの存在がある。この点は, (20)式 では,預金の減少と考えることができる。なぜ、なら,銀行部門からの現金引出しは,預 金の解約でのみ可能だからである。

(11)

t q p 将 ぷ ! I 2 J 985 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -789-分かるように,銀行貸出が短期金利に非弾力的な場合には,ベース・マネーは内生的 にならざるをえない。それゆえ,ベー只・マネーの内生性が導出されるのは,民間銀 行の貸出と準備需要のいずれもが短期金利に非弾力的な場合である。 逆に考えれば,このこつの条件のいず、れかが成立しない状態が生じれば,ベース・ マネーを維持する政策運営が可能となる。すなわち,銀行貸出に証券運用を含めた広 義の貸出を考えるとそれは金利に弾力的になりうるし,また多くの論者が認めるよう にベース・マネーが外生的になれば,民間銀行は準備不足を回避するために過剰準備 を保有しようとするから,過剰準備は金利弾力的になりうる。 W 金融調節の動学 次に,日本銀行の金融調節方式を示す動学モデノレを提示し,その動学モデJレの性質 を探ることによって,日本銀行の金融調節の特徴を明らかにしよう。 一般的には,日本銀行は,季節要因などによる一時的な資金過不足をならして金融 市場を安定化させる(受動的調節)一方で,経済動向に応じて政策意図をもって短期 金利を能動的に誘導する調節(積極的調節)を行っていると言われている。 この一見すると矛盾するこつの調節を整合的に定式化するために,以下では次のよ うに考える。日本銀行の考え方によれば,資金過不足の動向は,通常,短期金利に反 映されるから,結局のところ,資金過不足をならず受動的調節は,短期金利の変動を 抑制する調整を行うことに他ならない。そこで,日本銀行は,積極的調節を行うため に目標短期金利水準を定め,日々の短期金利がそれから希離すれば,その議離を縮小 させるように日銀信用を調節していると考える。すると,日銀信用によるベースマネ 世 田 ーの調節は,次のように表せる。 dH dt

=

α(2-2

0くα (21) ここで,

t

は時間, αは調整係数

i

Tは目標短期金利水準を表している。 そして,以下で重要な役割を果たす目標短期金利

i

1については,一貫して公定 (22) 実際の金融調節は,日銀貸出と手形オペ?行われているが,日銀貸出と手形オペのい ずれを主に利用するかは,それぞれの政策手段の性質に依存している。翁 (1993)p.34 参照。 985 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -789-分かるように,銀行貸出が短期金利に非弾力的な場合には,ベース・マネーは内生的 にならざるをえない。それゆえ,ベー只・マネーの内生性が導出されるのは,民間銀 行の貸出と準備需要のいずれもが短期金利に非弾力的な場合である。 逆に考えれば,このこつの条件のいず、れかが成立しない状態が生じれば,ベース・ マネーを維持する政策運営が可能となる。すなわち,銀行貸出に証券運用を含めた広 義の貸出を考えるとそれは金利に弾力的になりうるし,また多くの論者が認めるよう にベース・マネーが外生的になれば,民間銀行は準備不足を回避するために過剰準備 を保有しようとするから,過剰準備は金利弾力的になりうる。 W 金融調節の動学 次に,日本銀行の金融調節方式を示す動学モデノレを提示し,その動学モデJレの性質 を探ることによって,日本銀行の金融調節の特徴を明らかにしよう。 一般的には,日本銀行は,季節要因などによる一時的な資金過不足をならして金融 市場を安定化させる(受動的調節)一方で,経済動向に応じて政策意図をもって短期 金利を能動的に誘導する調節(積極的調節)を行っていると言われている。 この一見すると矛盾するこつの調節を整合的に定式化するために,以下では次のよ うに考える。日本銀行の考え方によれば,資金過不足の動向は,通常,短期金利に反 映されるから,結局のところ,資金過不足をならず受動的調節は,短期金利の変動を 抑制する調整を行うことに他ならない。そこで,日本銀行は,積極的調節を行うため に目標短期金利水準を定め,日々の短期金利がそれから希離すれば,その議離を縮小 させるように日銀信用を調節していると考える。すると,日銀信用によるベースマネ 世 田 ーの調節は,次のように表せる。 dH dt

=

α(2-2

0くα ここで,

t

は時間, αは調整係数

i

Tは目標短期金利水準を表している。 (21) そして,以下で重要な役割を果たす目標短期金利

i

1については,一貫して公定 (22) 実際の金融調節は,日銀貸出と手形オペ?行われているが,日銀貸出と手形オペのい ずれを主に利用するかは,それぞれの政策手段の性質に依存している。翁 (1993)p.34 参照。

(12)

-790 香川大学経済論叢 986 歩合水準d より高めに設定され(i1>

d

)

公定歩合と向方向に変更されるので,公定 ( ω 歩合の増加関数とみなすことにする。 次に, (21)式で表される調節が有効に機能するかどうかは,それに市場がどのよう な反応をするかに依存する。現行の金融調節は,次に述べるような日本固有の準備預

ω

金制度と民間銀行の準備積み立て行動を前提に行われる。すなわち,民間銀行は,あ る月の平均預金残高をもとに計算される法定準備残高を当該月の16日から翌月の15 日までに平・均で満たすことが要求されるが,最終日の前に積み不足があれば指し値(目 標短期金利水準)で日銀信用が供与される。もちろん,この目標短期金利水準は,民 間銀行にとっては正確に知ることが℃きないので,最終日の目標短期金利を予想し, もしその水準が現在の短期金利より高いと予想(高め誘導を予想)すれば,早めに短 期資金市場で資金調達して準備を積み増そうとし,逆に現在の短期金利より低くなる と予想(低め誘導を予想)すれば,まず短期資金市場wで資金運用し,あとで回収した 資金や市場で調達した資金で準備を積み増そうとする。 そこで,準備の積み増しを準備需要の増加とみなし,金利の高め誘導を予想すると 準備需要を法定準備より多めに需要し,金利の低め誘導を予想すると準備需要を法定 白 日 準備より少なめに需要すると考えて,民間銀行の準備需要を次のように表す。 R

=

(j

U

'

-

i)十k)D 0く (22) ただし,

t

e

は,民間銀行の積み最終日の予想短期金利を表し ,

D

は当該月の平均預 自 由 金残高で既知とする。 問題は,民間銀行がこの予想短期金利をどのように形成するかである。公定歩合の (23) 目標短期金利は,公定歩合水準のみに依存するわけではない。神崎(1988)によれば, 「季節的に大幅な資金過不足が生じる時期には, 100%これをならすのではなしこう した資金過不足の地合いがある程度短期資金市場金利に反映するような形で調節を行 う」。それゆえ,例えば資金不足が予想されるときには目標短期金利を多少上昇させる と解釈できるから,

Z

を資金不足の予想備とすると,目標短期金利に関する政策反応関 数は,一般的に次のように表せるだろう。

iT=

,$

d,

Z)>d

~d>O , ~Z>O

(24) 翁 (1991)(1993)pp, 38 -61に詳細な説明がされている。 (25) 岩村(1991)は,本文で市場参加者が危険中立的の場合で,短期金利予想に「ぱらつ き」があれば, (22)式のような需要関数が得られることを証明している。 (26) 翁(1993)は,現行の準備預金制度は形式上「混合殺み」だが,実質的には「後積みJ で運用されていると述べている。 -790 香川大学経済論叢 986 歩合水準d より高めに設定され(i1>

d

)

公定歩合と向方向に変更されるので,公定

ω

歩合の増加関数とみなすことにする。 次に, (21)式で表される調節が有効に機能するかどうかは,それに市場がどのよう な反応をするかに依存する。現行の金融調節は,次に述べるような日本固有の準備預 金制度と民間銀行の準備積み立て行動を前提に行われる。すなわち,民間銀行は,あ る月の平均預金残高をもとに計算される法定準備残高を当該月の16日から翌月の15 日までに平-均で満たすことが要求されるが,最終日の前に積み不足があれば指し値(目 標短期金利水準)で日銀信用が供与される。もちろん,この目標短期金利水準は,民 間銀行にとっては正確に知ることが℃きないので,最終日の目標短期金利を予想し, もしその水準が現在の短期金利より高いと予想(高め誘導を予想)すれば,早めに短 期資金市場で資金調達して準備を積み増そうとし,逆に現在の短期金利より低くなる と予想(低め誘導を予想)すれば,まず短期資金市場セ資金運用し,あとで回収した 資金や市場で調達した資金で準備を積み増そうとする。 そこで,準備の積み増しを準備需要の増加とみなし,金利の高め誘導を予想すると 準備需要を法定準備より多めに需要し,金利の低め誘導を予想すると準備需要を法定

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準備より少なめに需要すると考えて,民間銀行の準備需要を次のように表す。 R

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は当該月の平均預 自由 金残高で既知とする。 問題は,民間銀行がこの予想短期金利をどのように形成するかである。公定歩合の (23) 目標短期金利は,公定歩合水準のみに依存するわけではない。神崎(1988)によれば, 「季節的に大幅な資金過不足が生じる時期には, 100%これをならすのではなしこう した資金過不足の地合いがある程度短期資金市場金利に反映するような形で調節を行 う」。それゆえ,例えば資金不足が予想されるときには目標短期金利を多少上昇させる と解釈できるから,

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を資金不足の予想備とすると,目標短期金利に関する政策反応、関 数は,一般的に次のように表せるだろう。

iT=

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(24) 翁 (1991)(1993)pp.38 -61に詳細な説明がされている。

(25) 岩村(1991)は,本文で市場参加者が危険中立的の場合で,短期金利予想に「ぱらつ き」があれば, (22)式のような需要関数が得られることを証明している。

(26) 翁(1993)は,現行の準備預金制度は形式上「混合殺み」だが,実質的には「後積みJ

(13)

i

987 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -791-変更等の明確なシグナルがない場合,通常,民間銀行が予想、形成にあたって参考にす るのは,短期資金市場の需給動向(資金繰り)であるから,当該市場の需給動向を示 す短期金利水準が最も基本的なシグナルとなる。そこで,以下では簡単な適応的予想 仰) 形成を仮定して次のように表す。 dit

=β(i-i')

β>0

そうすると,民間銀行の短期資金需要は,

F

三 L+R-D (23) (24) と書けるが,一ヶ月という超短期では,短期金利に貸出計画がJ影響されることはない (金利非弾力的)と仮定すると,準備需要の変化(積みの進捗)にのみ依存すること

ω

になる。 最後に,短期金利は短期資金市場の需給均衡で決定されるから, (22) (24) 式を考 慮すると,以下のように書ける。 H=L十{j(iι-i)+k}D-D (25) これ、で,H,九 人 Rを変数とする金融調節の動学モデlレができる。 日本銀行の金融調節の整合性を調べるために,まず(21)-(23) (25)で示される動学 モデルの定常状態を調べる。金融調節と予想、短期金利の調整が終了した状態,すなわ ち(dH/ dt= dz' / dt= 0 )を均衡状態と考えると,各変数の均衡値けを付す)は次 のように一意に定まる。 i*

=

z'*

=

'iT R*=kD H*=L十R*-D (27) 日々の予想形成には,これ以外のシグナルも利用されるから,

=β(2-1'ε)β1>0

(26a) (26 b) (26c) と表せる。なお, εは,予想形成の際に利用可能なその他の情報要因で,日本銀行が公 表する「資金過不足」の速報値や公定歩合,株価,為替相場の動向等が含まれる。 (28) 翁(1993) は,貸出 L は,それが半期,四半期といった計画に沿って進められること を考えると,一ヶ月の間に短期金利が変化し

τ

も計爾の変更は起こらないと述べてい る。 p,53を参照。 987 ベース・マネーの内生性とマクロ経済 -791-変更等の明確なシグナルがない場合,通常,民間銀行が予想、形成にあたって参考にす るのは,短期資金市場の需給動向(資金繰り)であるから,当該市場の需給動向を示 す短期金利水準が最も基本的なシグナルとなる。そこで,以下では簡単な適応的予想

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形成を仮定して次のように表す。 dit

=β (i一件

β>0

そうすると,民間銀行の短期資金需要は, F三 L+R-D (23) (24) と書けるが,一ヶ月という超短期では,短期金利に貸出計画が影響されることはない (金利非弾力的)と仮定すると,準備需要の変化(積みの進捗)にのみ依存すること

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になる。 最後に,短期金利は短期資金市場の需給均衡で決定されるから, (22) (24) 式を考 慮すると,以下のように書ける。 H=L十{j(iι-i)+k}D-D (25) これ、で,H,九 人 Rを変数とする金融調節の動学モデlレができる。 日本銀行の金融調節の整合性を調べるために,まず(21)-(23) (25)で示される動学 モデルの定常状態を調べる。金融調節と予想短期金利の調整が終了した状態,すなわ ち(dH/dt=dzι/dt= 0)を均衡状態と考えると,各変数の均衡値けを付す)は次 のように一意に定まる。 i*

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i 7 R*=kD H*=L十R*-D (27) 日々の予想形成には,これ以外のシグナルも利用されるから, 4t=β(2-1'ε)β1> 0

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ε)ニ O (26a) (26 b) (26c) と表せる。なお, εは,予想形成の際に利用可能なその他の情報要因で,日本銀行が公 表する「資金過不足」の速報値や公定歩合,株価,為替相場の動向等が含まれる。 (28) 翁(1993) は,貸出 L は,それが半期,四半期といった計画に沿って進められること を考えると,一ヶ月の間に短期金利が変化し

τ

も計爾の変更は起こらないと述べてい る。 p.53を参照。

(14)

792ー 香川│大学経済論叢 次に,金融調節の安定性を調べるために, (25)式を, L-(l-k)D-H

z_ze=

jD 988 (25' ) と変形し,乙れを(21)(23)式に代入して,変数H,

i

eに関する次なる微分方程式に 集約する。

d

万 「

L

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t=UL

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D

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そして,均衡点の近傍で線形近似した係数行列を/すると,

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t

.

J

=αβ/jD> 0 となって,動学的に安定である。 (27) (28) したがって,上記の式で表された金融調節は,日銀信用の調節や短期金利の調整が 十分速ければ (α とβが大),うまく機能する。すなわち,ーゥ月後には,ほぼ短期 金利水準と予想、値は当局の目標水準に等しくなるよう誘導され ((26a)式),民間銀行 。 曲 の準備需要は最終的に法定準備に等しくなる ((26b)式)とともに,ベース・マネー が民間銀行の短期資金需要を満たすように供与されることになる ((26c)式)。 そこで,どのようなメカニズムで,それが実現するかを (21)一(23)(25)式で示さ れる金融調節のプロセスを追って見ることにしよう。図 1は,金利の高め誘導を実施 した場合の動学プロセスを示している。 いま,初期時点で均衡点

P

にあるものとする。当局が目標短期金利をバに引き上 げて,日銀信用を抑制しベース・マネーを減少させてゆくと,短期資金市場は次第に 逼迫して短期金利が上昇するので,民間銀行は準備需要を引き下げてゆく (準備の積 みの遅れ)とともに,積み最終日の予想短期金利が意外に高くなると予想し始める。 そのプロセスを示すのが,図では点

P

から Qまでの経路である。 当局は,市場金利が目標水準に等しくなるまで上昇し,市場に需給逼迫が浸透した (29) その結果,準備需要は期間中は金利弾力的だが,均衡状態となる一ヶ月後には,ほぽ 金利非弾力的となる。 792ー 香川│大学経済論叢 次に,金融調節の安定性を調べるために, (25)式を, L-(l-k)D-H

z_ze=

jD 988 (25' ) と変形し,乙れを(21)(23)式に代入して,変数H,

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eに関する次なる微分方程式に 集約する。

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αβ,/jD> 0 (28) となって,動学的に安定である。 したがって,上記の式で表された金融調節は,日銀信用の調節や短期金利の調整が 十分速ければ (α とβが大),うまく機能する。すなわち,一ヶ月後には,ほぼ短期 金利水準と予想、値は当局の目標水準に等しくなるよう誘導され ((26a)式),民間銀行 日 明 の準備需要は最終的に法定準備に等しくなる ((26b)式)とともに,ベース・マネー が民間銀行の短期資金需要を満たすように供与されることになる ((26c)式)。 そこで,どのようなメカニズムで,それが実現するかを (21)ー(23)(25)式で示さ れる金融調節のプロセスを追って見ることにしよう。図 1は,金利の高め誘導を実施 した場合の動学プロセスを示している。 いま,初期時点で均衡点

P

にあるものとする。当局が目標短期金利をバに引き上 げて,日銀信用を抑制しベース・マネーを減少させてゆくと,短期資金市場は次第に 逼迫して短期金利が上昇するので,民間銀行は準備需要を引き下げてゆく (準備の積 みの遅れ)とともに,積み最終日の予想短期金利が意外に高くなると予想し始める。 そのプロセスを示すのが,図では点

P

から Qまでの経路である。 当局は,市場金利が目標水準に等しくなるまで上昇し,市場に需給逼迫が浸透した (29) その結果,準備需要は期間中は金利弾力的だが,均衡状態となる一ヶ月後には,ほぽ 金利非弾力的となる。

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