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最適制御理論について--経済・地域・都市計画の基礎理論として---香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

最適制御理論について1)

−一経済・地域・都市計画の基礎理論として−−

井 原 健 堆 Ⅴ つぎに,タイプ2の問題に対する最大原理を考察しよう。そのために,まず, ⅠⅠ章の第5節で与え.た最適制御問題の分類にもとづき,本章で考察の対象とな るタイプ2の問題を,より−・般的な「非か−トノマス系.の間好)として定式 化する。ついで,その間題の解明に必要となる,非か−トノマス系の処理の仕 方と「クーン・クッか−の条件.を明らかにする。後者については,非線形計 画問題との関連で,方向ベクトルの概念をとくに重視し,制約条件に付される 限定,すなわち,Constraint Quali丘cation,の内容を十分に吟味する。そして, 最後に,タイプ2の問題に対する最大原理を〔定理4‘〕として導出し,タイプ 1の問題に対する最大原理,すなわち,〔定理3〕さ),との比較を試みる。 §1.問題の定式化 タイプ2の問題は,つぎのように定式化される。 タイプ2の問題 つぎの評価基準 1)本稿は,前端の冒頭に記した目次のうち,Ⅴ タイプ2の問題に対する最大原理, とⅤⅠ.タイプ2の問題の応用,について言及したものである。なお,本誌の編集委員 である土田哲也氏の寛容と忍耐がをければ,この機会にこのようを形でまとめること など到底不可能であったことをここに記して,同氏に心より謝意を表明したい。また 宍戸栄徳氏からは,有益な助言を頂き,小野玉志さんには,括番の労を煩わした。合 わせて,お礼を申し上げたい。 2)オ叫トノマス系については,ⅠⅠ草,第1節の脚注15),および,ⅠⅠ準,第4節の脚 注39),参照。 3)ⅠⅠⅠ章,第5節の〔定理3〕,参照。

(2)

香川大学経済学部 研究年報16

!;拒(頼),碑

J.977 ー6’4一 (5.1) を,以下の制約に従って最大にする制御払(f),(わ≦f≦ち)を求めよ。l〉 (i)状態方程式 (5.2) Ⅹ=′(Ⅹ,Ⅳ,f) (ii)初期条件 Ⅹ(fo)∈即(Jo) (iii)終端条件 Ⅹ(£1)∈β1(£1) (iv) 制御制約 祝(f)∈打(Ⅹ(f),f) ただし, Ⅹ∈且形,祝∈丘吻,β0⊂且符,β1⊂∬形 (5.3) (5.4) (5.5)

わ,互は所与,または未知であり,さらに,

ぴ(Ⅹ(f),f)=i叫¢α(Ⅹ,払,f)≧0,α=1,2,,Z′;

¢。(Ⅹ,捉,f)=0,α=g′+1,g′+2,,g) (5.6)

を表わすものとする。5〉

この場合,われわれは,以下に示す4つの仮定を設けることにする。6)

4)ⅠⅠⅠ葦,第5節で示されたタイプ1の問題は,最小化問題として定式化されたが, ここでは,最大化問題として定式化されている。しかし,目的関数の符号をかえるこ とによって,両者の変換はきわめて容易に夜されうる結果,その差異に重要な意味が あるわけではない。ⅠⅤ牽,第1節の脚注171),参照。 5)ここでは,非ストートノマス系を対象としている結果,叙上の式がすべて時刻fの明 示的な関数となっている点に注意せよ。 6)これらの仮定を,ⅠⅠⅠ章,第5節で定式化されたタイプ1の問題に対する(仮定 1)∼(仮定3)と比較せよ。

(3)

段通制御理論について ・−65一 (仮定1) カ(Ⅹ,捉,れ姉(Ⅹ,捗,f)/∂芳タ,姉(Ⅹ,払,わ/玖(∼=0,1,,乃;.メ■=1,2,,乃) は,E宛+1×び内で定義され,かつ連続である。ただし,E両1は,(Ⅹ,£)の 空間である。 (仮定2) 最適制御㍑*(わ,(わ≦£≦互)は,許容制御のなかから選ばれるものとす る。 (仮定3) β0,およびβ1は,それぞれ適当な次元をもった,なめらかな多様体であ る。 (仮定4) ¢α(Ⅹ,払,れ∂¢α(Ⅹ,払わ/∂芳′,∂¢α(Ⅹ,眈,f)/∂払わ∂¢α(Ⅹ,祝,わ/∂f,(α=1, 2,…,J;去=1,2,…,∽;ノ=1,2,,花)は,E…仇+1内で定義され,かつ連続で ある。 叙上の定式化で,もっとも重要な点は,(iv)の制御制約(5.5)に求められ る。すなわち,これをタイプ1の問題における制御制約7)と比較すれば,後者 の制御祝が,状態変数Ⅹとは独立に与えられているのに対して,前者の制御 祝は,状態変数ズとある関係をもって与えられている。8)したがって,この状 態変数Ⅹと関係する制御以の領域U(Ⅹ(わ,f)を明示的に表わしたものが, (5小6)に他ならない。 なお,この制御制約(5い6)が, ¢。(祉,f)≧0,α=1,2,,Z′ ¢。(α,古)=0,α=g′+1,Z′+2, ‡ (5・・7)

,g

をその特殊な場合として含むことは,いうまでもない。その結果,このことは, すでに検討したタイプ1の問題9)が,本章で取り上げるタイプ2の問題に包摂 されることを意味している。しかし,この同じ制御制約であっても,それが 7)ⅠⅠ肇,第5節の(2、31),または,ⅠⅠⅠ牽,第1節の(3‖5),参照。 8)この一例として,ⅠⅠ草,第5節の(235),および図14,を参照せよ。 9)ⅠⅠⅠ章,およびⅠⅤ葦,参照。

(4)

香川大学経済学部 研究年報16 J.977 ー6’6’−

¢α(Ⅹ,f)≧0,α=1,2,,g′

¢α(Ⅹ,£)=0,α=g′+1,g′十2, (5ひ8) を,その特殊な場合としてそのうちに含んではいないということに,注意を払 う必要がある。なぜなら,(5.8)の示す関係は,状態変数Ⅹ自体についての 制約であって,それが制御沈についての制約ではないからである。そして,こ の場合を,すでにわれわれは,タイプ3の問題10)として類形化し,すでに検討 したタイプ1の問題と本章で検討するタイプ2の問題とから明確に区別したわ けである。 タイプ2の問題に対する叙上の定式化で,さらに留意すべき点として,それ が,これまでのような時間軸=;こ沿ったシステムの移動によって法則の性質が 変らない,いわゆるオ−トノマス系,を扱っているのではなく,その検討の対 象としてより一・般的な非オ・−トノマス系を扱って−いるということが指摘される。 すなわち,ここでは,評価基準の被積分関数11)ヤ状態方程式,12)さらに,また, 初期条件,および終端条件に含まれる多様体18)が,すべて時刻fの明示的な関 数として与えられている。これは,もとより,タイプ2の問題に固有の性質で はない。したがって,タイプ1の問題についても,それをオ・−トノマス系に限 定する必要はなく,さらに,端点の多様体が時刻gに関係する非オートノマス 系について,タイプ1の問題を考察することも,また可能となる。そこで,こ のような場合に,すでに導出したオーートノマス系についての最大原理−すな わち,タイプ1の問題に対するわれわれの理論的帰結としての〔定理3〕− がどのように修正されるかを,タイプ2の問題に対する最大原理を導出するま えに検討■しておくことにしよう。 §2.非オートノマス系の処理14) いま,つぎの状態方程式 10)ⅠⅠ聾,第5節の(233),参照。また,その内容の検討については,彼のⅤⅠⅠ草, およびⅤⅠⅠⅠ章で試みられる。 11)(51)の/ふ(Ⅹ(わ,〟(f),のを指す。 12)ベクトル関数(5い2)を指す。 13)(5.3),および(54)の右辺を指す。 14)本筋の展開は,〔A〕3,ppl.97−102,に負うところが多い。

(5)

最適制御理論について −67−

X=′(ズ,〟,g)

(5・9) で表わされるシステムを,許容制御沈(わ,(£0≦∼≦ち)によって,時刻fに関係 する初期多様体伊=β0(わから終端多様体∂1=β1(わ へ移す問題を考えてみよ

う。ここで,両端点の多様体が時刻fに関係するというのは,つぎのことを意

味している。まず,(Ⅹ,わの(乃+1)次元空間に,次式によって定義される,

2つのなめらかな多様体♂0,♂1を想定する。15)

即:卵(Ⅹ,f)=0,i=1,2,,ク十1

(5・10)

♂1‥♂チ(Ⅹ,f)=0, ノ=1,2,,曾+1

(5・11)

さらに,関数♂タ(Ⅹ,f),および卵(Ⅹ,f)は,Ⅹ,およびfに関して連続な偏導

関数をもち,つぎの行列関数, ︵針一臥 ∂ 一計 F♂雪(Ⅹ,f) F♂望(Ⅹ,f) ∴∴.・∵、 2 02 ∬”β ︵〟U ︵α

∴∵

0川打 および, 二−÷∴二‖㌧ ∴一∴∴■‖.∵ F♂圭(Ⅹ,古) F♂皇(Ⅹ,f)

F♂吉.1(ズ,f)

のランクが,それぞれク+1,および9+1であるものと仮定しよう。したがっ

て,(5.10),および(5.11)によって規定される初期多様体♂0,および終端多

15)ⅠⅠⅠ帝,第5節,参照。

(6)

香川大学経済学部 研究年報16 −(iざ− ヱ.977

様体♂1の次元は,それぞれ

(花+1)−(p+1)=花一夕 (花+1)−(曾+1)=花一曾 となる。川) ここで,2つの場合を分けて考察することにしよう。いま,ク<柁ならば, 任意の与えられた時刻(たとえば,f=〆)に対して,(5.10)は,乃次元の状 態空間且免内に,初期多様体β0(f′)を定義し,その次元は,花一抄+1)とな る。17)したがって,時刻fの値を変化させれば,それに応じて,(5…10)より, E渇内に初期多様体β0(わ の1径数族(♂0(f)‡が形成されることになる。その一 例を示したものが,つぎの図57である。 図57.初期多様体の1径数族 16)ⅠⅠⅠ執 第5節の(3.100),参照。 17)ここでは,花次元の状態空間に議論を限定しているため,多様体の次元が(5.14) で示されたものよりも小さくなっている点に注意せよ。

(7)

−69∼・ 最適制御理論について

っぎに,少=乃の場合には,時刻≠は固定されてしまうことが(51・10)によ

って明らかとなる。すなわち,f=わをその固定された時刻とすれば,初期多

様体♂0は,乃+1次元の状態一時間空間内の点となり,その結果,その点に対

応する初期状態Ⅹ(わ)は,図58の点伊(わ)として,また固定されることにな

る。

さらに,(5り11)で定義される終端多様体♂1についても,同様の議論が成り

立つことはいうまでもない。 図58‖ 固定された初期時刻と初期状態

さて,つぎに,当該システムを初期多様体β0(才0)上の点から終端多様体β1

(ち)上へ移し,しかもそのときの評価基準

i;才■0(Ⅹ(f),弘(f),古)df

(5・16)

が最大となる許容制御ひ*(わ,(わ≦f≦互)を決定する問題を考えよう。この場

合,(乃+1)次元の空間内におけるトラジェ・クトリー方程式18)は,非オ・−トノ

18)ⅠⅠ章,第4節の(2一ノ24),または(212軋 参照○

(8)

香川大学経済学部 研究年報16 ー7〃一一 J977 マスなべクトル方程式 (,/0(Ⅹ,以,f),./(Ⅹ,捗,f)〉=i′。(Ⅹ,祉,f),ノ■1(X,捉,f), ,.ん(Ⅹ,捗,f)† (5.17) によって与え.られる。19) この問題に対して,すでに導出した〔定理3〕を適用せんがために,状態空 間の次元を1だけ高めることによって,当該問題をオートノマス系に変換して みよう。い■ま,時刻の変数トを1つの新しい状態変数とみなして, 好か1豊吉 (5.18) とおくことにする。その結果,拡張されたシステムの状態方程式は,つぎのよ うになる。

・一=榊1,・方2,い,・笹か。,捗),Z=1,2,…‥,花

:1‥ユー.、・こ】

df また,これに対応する評価基準は,

i;:榊1,ガ2,い,・γか1,Ⅳ)df

(5.19) (5.20)

となる。そのとき,初期多様体♂0は,つぎの♪+1個のなめらかな曲面の交

わりとして与えられる。20)

即‥即(一方1,・ガか一,・ガ館+1)=0,よ=1,2,…,タ+1

(5.21)

同様に,終端多様体β1は,つぎのq+1個のなめらかな曲面の交わりとして

与えられる。21) 即:♂甚ガ1,・ガ2,…,・方形+1)=0,ノ=1,2,・・,曾+1

(5.22)

19)このトラジェクトリー方程式について,すでに導入した(仮定1)が妥当するこ とば,いうまでもをレ㌔

20)か⊂伊・1。

21)∂l⊂E研1。

(9)

最適制御理論について −7ノー このように問題を再定式化することによって,われわれは,非オートノマス 系の問題をストートノマス系の問題として書き換えることができる。したがって, オートノマス系の問題をその対象とする〔二定理3〕を,ここでの問題に適用す ることが可能となる。その適用結果を・示せば,つき■のようになる○ いま,

芽室(芳0,方1,‖.,一笹津1)=(考狗軒1)

王室(ス。,ス1,,ス”+1)=(ス,Aが1) とおき,22)このハミルト=∴アン関数を,

乃+1 融点ゾ(釆甚)=義人淋夏,捗)

と定義紬すれば, (5.25)

厨=か届(先払,り十ん甘ん+1(考沈,f)=ガ+スか・1(5・26) Z

=0 となる。24)

したがって−,随伴方程式は,つぎのようになる。25)

す打,

∂首 ん=−−・云=0,1,…,花+1

(5.27) すなわち, ス0=0 ∂月● ん=−・一 ,£=1,2,‥,花 存訂 ∂∬ ス机=−す 茹こ (5.28)

22)ここでは,g=(ガ。,Ⅹ)を表わす(乃+1)次元ベクトルであることに注意せよ0

23)ⅠⅠⅠ牽,第5節の(31、123),参照。

24)(5.19)の第2式,参照。紬,ここでの別ま,敷.僻,〟,りを表わすものと

する。 25)ⅠⅠⅠ諷 第5節の(3.125),および脚注162),参照。

(10)

香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977 −72− となる。26)これより,〔定理3二〕の条件(a)は,つぎのように書き換えられる。27) (a)(i)ス0(f)=定数≧0,£0≦才≦fl (5・29) (ii)(ん(f),ス2(f),,ん(f)),わ≦f≦ちは,つぎの方程式の解である。 i去=−∂月(靡(f),祝*(f),£,ス(f))ル%ま,g=1,2,,花 (5.30) つぎに,〔定理3〕の条件(b),および(c)は,つぎのようになる。 都度*(f),祉*(f),ス(f))=Max葺(又*(£),叫ユ(£)), l∫∈こ「 fo≦f≦fl (5.31) および, 眉(度*(f),払*(f),ユ(£))=0 (5.32) ここで,(5い18)と(5.26)の関係を用いれば,〔定理3〕の条件(b),すなわ ち,(5..31),は,結局つぎのように変形される。28) (b)月(ズ*(f),祉*(f),らj(f))=Max∬(ズ*(f),町方,ス(£)), 払∈ぴ fo≦f≦fl (5.33) また,〔定理3〕の条件(c),すなわち,(5い32)は,(5.26)の関係より, 月(ズ*(f),祝*(£),らス(f))=一人か1(£) (5.34) となる。さらにまた,これは,(5.18),および(5巾28)の最後の関係を用いる ことにより,結局つぎのように書き換えられる。29) (c)月(ズ*(古),址*(f),g,ス(f))=g(ズ*(fo),払*(fo),∫0,ス(fo)) ∂ガ(ズ*(で),払*(丁),で,ス(で))

dT,f。≦g≦fl(5.35)

∂r 26)(5‖19),(5…20),および(5.26),参照。 27)ⅠⅠⅠ革,第5節の〔定理3〕(a),参照。ただし,ここでは最大化問題を考察して いる結果,ス。(の=定数≧0,f。≦∼≦ちとなっている点に注意せよ。脚注1ね),参照。 28)ⅠⅠⅠ車,第5節の〔定理3〕(b),参照。 29)ⅠⅠⅠ革,第5節の〔定理3〕(c),参照。

(11)

最適制御盤論について ー73−

最後に,横断条件である〔定理3〕の条件(d)は,つぎのように述べられ

る。すなわち,ベクトル(ん(f),ス2(£),,ん.1(f))は,f=fo,およびf=ちでそ

れぞれに対応する端点の多様体β0,およびβ1に直交する,と。80)

これを詳述すれば,つぎのようになる。まず,初期点における横断条件は, ,Z

刷+ス州批1=0

(5・36)1・

として表わされる。81)ただし,(彿払,ワ£.1)は,初期多様体∂0の点ズ*(わ)

における接線ベクトルを表わすものとする。そのとき,接線ベクトルに関する

(性質1)82)より,(536)は,勾配ベクトルFβタ(g*(fo))の各成分を用いて,

つぎのように示される。

札1=0,菖=1,2,,p・1(51・37)

射鑑

したがって,初期点における横断条件は,(5い18),および(5い34)の関係を用

いて,結局つぎのようになる。 (初期点における横断条件) ,Z (5・38)

黒ス押タ=却才*(fo),払*(fo),fo,ス(fo))軋1

ただし, ニミ・

」ギク=一署砿1,g=1,2,,打1

(5・39) を表わすものとする。 同様にして,終端点における横断条件は,つぎのように表わされる。る8) (終端点における横断条件)

JJ 真相=∬(ズ*(古1),沈*(fl),fl,ス(fl)賊+1

(5.40) 30)これが,ⅠⅠⅠ華,第5節の〔定理3〕(d)に対応する。 31)ⅠⅠⅠ車,第5節の(3115)に対応する。 32)ⅠⅠⅠ草,第5節の(性質1),参照。 33)ⅠⅠⅠ牽,第5節の(3い107),参照。

(12)

香川大学経済学部 研究年報16 ー7⊥才一 ただし, IJ ∑ ブ=1 J977

掛チ=一新£+1,よ=1,2,,打1

(5一ト41) を表わすものとする。 以上より明らかなように,非オ、−トノマス系の問題といえども,状態空間の 次元を乃から乃+1に高めることによって−その間題を再定式化し,それに対し て−〔定理3〕を適用することが可儲となった。この場合,その導出された条件 には,だ%+1,およびん+1がいずれも含まれていないことに,とくに注意する必 要がある。 §3.クーン・クッカーの条件名4) つぎに,タイプ2の問題に対する最大原理を導出するのに必要とされる, クーン・タノカ・−の条件を明らかにしておこう。いうまでもなく,クーン・ク ッか−の条件とは,いわゆる非線形計画問題の最適解がみたすべき必要条件を 意味するものである。したがって,本節では,まず最初に数多くの具体的形式 をもつ非線形計画問題(NonlinearProgrammingProblem)の一・般形が定式化 され,その内容の吟味が試みられる。ついで,その最適解を求めるうえ.で重要 な意味をもつ,方向ベクトルと勾配概念との関係が明らかにされ,それによっ て実現可儲な方向ベクトルの集合が定義される。以上の準備を踏まえたうえで, 制約条件のみたすべき性質,すなわち“Constraint Qualification”の内容が明 らかにされ,そ・して最後に,その成立を前提として,クーン・タノカーの条件 が導出される。 〔非線形計画問題〕 最適制御問題る5)をはじめとして,2次計画問題86)や幾何計画問題87)をその対 34)本節の展開は,W小Ir・Zangwi11,“Nonlinear Programming,”1969,Prentice・Hal1, pp.2−79に負うところが多い。 35)ⅠⅠ章,第5節の最適制御問題(−・般形),参照。 36)QuadraticProgrammingPr・Oblemとは,2次形式のEl的関数と線形の制約式とか らをる問題を指しており,・−・般には,つぎのように表わされる。

(13)

最適制御理論について 象とする非線形計画問題の一・般形は,つぎのように定式化される。 非線形計画問題 目的関数 /(Ⅹ) の値を,つぎの制約のもとで最大にする変数ベクトルⅩを求めよo

gf(Ⅹ)≧0, よ=1,2,1,m

−75− (5.42) (5.43) ただし, 関数差およびg名は,ノ:E氾→即,およびg壱:E乃→即,(よ■=1,2,,∽)を 表わし,そのいずれも,微分可能であるものとする。 このとき,すべての制約式(543)をみたす乃次元空間(E符)内の点Ⅹは, 実現可能(Feasible)であるとよばれ,その点X e)すべての集合(これをFで 表わす)は,実現可能領域(FeasibleRegion)とよばれる。ここで,必要以上 の俊雄化を避けるため, (5.44) アキ¢ を仮定しよう。いうまでもなく,¢は,空集合を表わすものとする。 つぎの課題は,以上のように定式化された非線形計画問題を・実際に解いてい Max・・q′Ⅹ+与Ⅹ′¢Ⅹ S巾t…AX=あ, Ⅹ≧〃 ただし, Ⅹ,およびqは乃次元の列ベクトル,Qは犯行乃列の対称行列,あは∽次元 の列ベクトル,Aは∽行乃列の行列を表わすものとする。 37)GeometricProgrammingProblernとは,工学や自然科学の分野でとくに有効と認 められる問題形式で,つぎのように定式化される。 Min..ゐ○(Ⅹ) S鳥ゐ£(Ⅹ)≦1,Z=1,2,,タ, Ⅹ>〃 ただし,

Polynomialな関数,す帥ち,h(X)=泉Ci[Axl”]・(Ci>0,

ゐ(Ⅹ)ほ ち>0)として表わされるものとする。

(14)

香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977 −76− くことである。しかし,問題が実際に解かれるまえ.に,当該問題の解,すなわ ち最適点Ⅹ*の認定が必要である。38)そこで,まず,最適点Ⅹ*の認定を容易 ならしめる,1つの判定基準を考察することにしよう。その際,重要な役割り をになうものとして,勾配ベクトル(GradientVector)があり,クーン・クッ か−の条件は,これを用いて導出される。 〔方向ベクトルと勾配〕 非線形計画問題に対する勾配ベクトルの重要性は,けっして過少評価される べきではない。というのは,ある所与の非最適点(Ⅹ≒Ⅹ*)について,その点 における勾配ベクトルは,通常,より優れた点を得る指標として役立つからで ある。89)しかしながら,勾配ベクトルについて説明するまえに,われわれは, 方向(Direction)の概念を明らかにしておく必要がある。なぜなら,勾配は, それ白身,方向を意味するからである。 いうまでもなく,任意の乃次元ベクトルdは,方向を示すものとして用い ることができる。40)そこで,いま,乃次元空間内のある点Ⅹ と方向dが与え られたものと想定しよう。41)そのとき,スカラーTの値を,0から+∞までの 範囲内で変え.ることによって,次式 y=Ⅹ+rd (5.45) で規定される乃次元空間内の点yは,点Ⅹを起点とし,dの方向へ・向かって のびる半直線を表わすことになる。図59は,これを例示したものである。42)さ らに,スカラー丁の偵を,−∞から+∞までの鞄田内で変えることにすれば, (5り45)で規定される点yは,点Ⅹを通る全直線を表わすことになる。 38)いうまでもをく,Ⅹ*が当該問題の解であるということば,このⅩ*が(5.43)の 制約条件をみたし,しかも,(5.42)で与えられる目的関数の値を投大にするという ことを意味する。 39)関数尺Ⅹ)の勾配について,すでにわれわれは,2つの重要を性質を明らかにし た。ⅠⅠⅠ牽,第5節の(393),および図31を参照せよ。 40)以下,ベクトルは,とくに断わらをいかぎり,列ベクトルで与えられるものとす る。 41)ただし,d≒0であるものとする。 42)ⅠⅠⅠ車,第2節の図21におけるⅩ+∈ワに対応する。

(15)

最適制御理論について ー77− 図59..花次元空間内の点ちyと方向ベクトルd つぎに,関数メ(Ⅹ)の勾配について言及しよう。すでに述べたように,任意 の微分可儲な関数/(Ⅹ)の勾配とは,点Ⅹにおいて評価したつぎの偏微分を 要素とするベクトル

叩)塞(一幕,老一,…,叢ブ

(5・46) によって定義される。4$) さて,この関数/(Ⅹ)の勾配は,ただ単に方向を示すばかりでなく,さらに 重要な意味をもっている。それは,つき■のとおりである。いま,任意の方向ベ

クトルdが与えられたものとすれば,次式によって示されるゲ(Ⅹ)′dは,方

向dに沿った関数ノ(Ⅹ)の瞬間変化轡4)を表わしている。 ′(Ⅹ+rd)−ノ■(Ⅹ) (51.47) =ア/■(Ⅹ)′d 43)ⅠⅠⅠ華,第5節の(393),参照。ただし,(5小46)は,列ベクトルを表わす。 44)Instantaneousrateofchangeoffalongthedirectiond.いま,Zld(l=1にとり, F尺Ⅹ)とdとの成す角をβとすれば,(5.47)は,l−ア/(Ⅹ)llcos♂とをる0ⅠⅠⅠ執 第2節の(3.39),参照。

(16)

香川大学経済学部 研究年報16 J977 −7∂− そして,この変化率の債が正である場合,つぎに示す一重要な性質がある。 (性質1) 関数/(Ⅹ)が,点Ⅹにおいて微分可能であり,さらに,つぎの条件, 灯(Ⅹ)′d>0 (5・48) をみたす方向ベクトルdの存在を仮定すれば,♂≧で>0をみたすすべての丁 について, (5.49) /■(Ⅹ+rd)>′(Ⅹ) の成立を保証する正のスカラ・−〃が存在する。 この性質は,つき一のようにして検証される。まず,仮定により, ノ(Ⅹ+でd)−ノ■(Ⅹ) (5.50) >0 1im r→0 で が成立する。したがって,極限の定義により,l♂lよりも小さいゼロではない Tについて, (Ⅹ+rd)・−/(Ⅹ) (5..51) >0 の関係をつねに保証する正のスカラー♂が存在する。それゆえ,この不等式 関係の成立を保証する丁>0を選べば,(性質1)の帰結をうる。 これを端的に述べれば,つぎのようになる。すなわち,その勾配は,もしそ れがゼロではないとすれば,僅かな動きでも関数/(Ⅹ)の値を増加させるよう な方向をさしているということである。さらに,いま,(5.48)の条件をみた す勾配ア/(Ⅹ)と同じ方向をさしている方向ベクトルdが与えられたと想定し よう。そのとき,叙上の(性質1)より,その方向へ・の僅かな動きでも,それ がまた関数/(Ⅹ)の偲を増加させることが明らかとなる。 かくして,われわれは,制約条件のない非線形計画問題について,その最適 解の必要条件を導出することが可能となる。これを(性質2)として述べれば, つぎのようになる。 (性質2)

(17)

超過制御理論について −79− 微分可能な関数/(Ⅹ)について,点Ⅹ*がE渇空間内で関数/(Ⅹ)の値を 最大にするとき,つぎの関係が成立する。 ア/(Ⅹ*)=0 (5・52) この(性質2)は,さきの(性質1)を用いて,容易に確かめられる。すな わち,い・ま(5.52)の関数が成立していないものと仮定すれば,ア/(Ⅹ*)キ0と なる。そこで,方向ベクトルdとして,この町(Ⅹ*)を選ぶことにすれば, ア/(Ⅹ*)′d=㌣′(Ⅹ*)′ア/’(Ⅹ*)>0 (5・53) となる。この結果,さきの(性質1)により,ノ(Ⅹ*)よりもさらに大きな目的関 数/(Ⅹ)の値を有する点が存在することになり,最初の最適性の仮定と矛盾す ることになる。したがって,(性質2)が証明される。 〔実現可能な方向ベクトルー〕 ところで,(性質2)は,制約条件がない場合について,乃次元空間内の点 Ⅹ*で,関数ノ(Ⅹ)の倍が放大となるための必要条件を与えるものであった0 ここで制約条件がないということは,きわめて重要な意味をもっている。とい うのは,点Ⅹ*を起点として, d=ア/(Ⅹ*) (5・54) の方向へ・移動することが可能であるからに他ならない。しかしながら,もし制 約条件がある場合には,(5.54)によって規定される方向への移動が,その制 約条件によって許容され得ない場合が生ずることになる。その結果,(5い54) の成立を仮定した(性質2)の証明が不適切なものとなって−しまう。換言すれ ば,制約条件付きの非線形計画問題について,その最適性を吟味することは, きわめて難しいものとなる。つぎに,この課題に答えるべく,(性質2)の一・ 般化を試みることにしよう。45)その準備として,実現可能な方向ベクトルとい う概念を導入する必要がある。 いま,乃次元空間内の点Ⅹが,実現可儲な点であると仮定しよう。4¢)その とき,点Ⅹにおける実現可能な方向ベクトルとは,十分に小さいスカラ・一丁 45)これが,いわゆるターン・クッカーの条件に他覆らない。 46)すなわち,この点Ⅹが,制約式(543)のすべてをみたすことを意味する。

(18)

香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977 ーβ∂− のすべてについてⅩ+でdを構成すれば,それがまた実現可能領域ダのなかに 含まれる性質をもった任意の方向ベクトルdであると定義される。すなわち, ♂≧丁≧0をみたす任意の丁についてⅩ1+Td∈ダとなる正のスカラー♂が存在 すれば,Ⅹ=Ⅹ1の点において,方向ベクトルdは実現可能であるといえ.る。 そこで,点Ⅹ1におけるすべての実現可能な方向ベクトルの集合をか(Ⅹ1)で表 わせば,それは,つぎのように定義される。 β(Ⅹ1)皇id:♂−≧で≧0==⇒Ⅹ1+でd∈ダをみたす♂>0が存在する〉 (5.55) それゆえ,もしわれわれが,点Ⅹ1からごく僅かばかりdの方向へ移動したと しても,その点が依然としてもとの実現可能領域内にとどまる限り,方向ベク トルdは,実現可能な方向ベクトルの集合か(Ⅹ1)のなかにあると述べること ができる。 また,これによって明らかなように,(5、55)で定義される実現可儲な方向 ベクトルの集合か(Ⅹ1)は,つねに錐体(Cone)を形成する。47)ただし,その錐 体が閉集合の場合もあれば,また開集合の場合もありうる。そこで,これを例 示したものが,つぎの図60である。 この図60において,制約灸件をみたす実現可能領域アは,いずれも斜線部 分で表わされているものとする。そのとき,例1では,点Xlをこの実現可能 領域ダの内点とするとき,その内点Ⅹ1における実現可能な方向ベクトルの集 合か(Ⅹ1)が,(5…55)の定義により,花次元の全空間E几 と一・致し,したがっ て閉集合となっている。これに対して,例2,例3,および例4では,いずれ も点Ⅹ1をダの端点としたときの集合か(Ⅹ1)が例示されている。ただし,例 3では,か(Ⅹ1)が閉集合の錐体を形成しているのに対比して,例2,および例 4では,か(Ⅹ1)が端点Ⅹ1の接線方向を含まない48)という意味で,閲集合の錐 47)いま,か(Ⅹ1)に含まれるベクトルdについて,それをスカラー倍したαd(た だしα≧0)が,またもとのか(Ⅹ1)に含まれるとき,われわれは,このか(Ⅹ1)を錐 体とよぶ。 48)例2では,Fg(Ⅹ1)・d=0をみたす方向dが実現可能領域ダから排除されている。 同様に,例4では,Fgl(Ⅹ1)・d=0,または,Fg2(Ⅹ1)・d=0をみたす方向dが実現可 能領域ダから排除されている。

(19)

最適制御理論について −&トー (例1)♪(Ⅹ1)=∬乃 ∂ 丁∂ Ⅹ1 (例2)か(Ⅹ1)=(♂:Fg(Ⅹ1)・d>0) gl(Ⅹ)=0 g2(Ⅹ)=0 (例3)か(Ⅹ1)=(d‥アgl(Ⅹ1)・d≧0,Fg2(Ⅹ1)・d≧0)

(20)

香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977 −β2− (例4)β(ズ1)=(∂:Fgl(ズ1)・∂>0,アg2(Ⅹ1)・∂>0) 図60∫実現可能な方向ベクトルの集合 体を形成している。 つぎに,点Ⅹ*が非線形計画問題の最適解であると仮定した場合について, この点Ⅹ*における実現可能な方向ベクトルの集合β(Ⅹ*)によって規定され る方向に移動した場合の目的関数の性質を明らかにしておこう。これを(性質 3)として述べれば,つぎのようになる。 (性質3) 点Ⅹ*を非線形計画問題の最適解であると仮定すれば,そのとき,か(Ⅹ*) に含まれるすべての方向ベクトルdについて,つぎの不等式が成立する。 ア/ノ(Ⅹ*)・d≦0 (5・56) この(性質3)は,つぎのようにして検証される。いま,刀(Ⅹ*)に含まれ る方向ベクトルd*について,(5.56)の不等式が成立しないものと仮定しよう。 したがって,その場合には,つぎの不等式

(21)

最適制御理論について ーββ− 仁/ト(Ⅹ*)・d*>0 (5・57) が成立していることになる。これは,さきの(性質1)により,点Ⅹ*を起点 として,方向ベクトルd*の方向に沿った僅かな動きでも,それがまた目的関 数/(Ⅹ*)の値を増加博せることを意味している。したがって,d*は,仮定に より点Ⅹ*における実現可能な方向ベクトルであることから,その方向に沿っ た叙上の僅かな動きを認めたとしても,その動かされた点が,またもとの実現 可能領域ダに含まれることになる。しかし,これは,点Ⅹ*が最適解である とした仮定と矛盾することになり,その結果(性質3)が証明される。 つぎに,点Ⅹ*における実現可儲な方向ベクトルの集合♪(Ⅹ*)の閉包(Clo− suI・e)を,β(Ⅹ*)で表わすことにしよう。49)このとき,叙上の(性質3)は, このβ(Ⅹ*)に含まれるすべての方向ベクトルdについても,やはり成立する ことが容易に確かめられる。これを(性質4)として述べれば,つぎのように なる。 (性質4) 点Ⅹ*を非線形計画問題の最適解であると仮定すれば,そのとき,か(Ⅹ*) の閑包,すなわちβ(Ⅹ*),に含まれるすべての方向ベクトルdについて, つぎの不等式が成立する。 町(Ⅹ*)・d≦0 (5・58) いうまでもなく,賂合眉(Ⅹ*)が集合か(ズ*)の閉包であるということは, β(Ⅹ*)に含まれる任意の点が,か(Ⅹ*)に含まれる点系列の極限であることを 意味する。したがって,か(Ⅹ*)に含まれる任意の点は,つねに∂(Ⅹ*)に含 まれるが,その逆は必ずしも成立しない。すなわち,か(Ⅹ*)と眉(Ⅹ*)とが 一致するのは,か(Ⅹ*)が閉集合である場合に限られるのである。SO) (性質4)は,(性質3)を用いて,つぎのように証明される。いま,β(Ⅹ*) に含まれる方向ベクトルd噌によって,か(Ⅹ*)に含まれる方向ベクトルdぉの 権限ベクトルを表わすものと想定しよう。すなわち,極限ベクトルd叩は,次 49)すをわち,β(Ⅹ*)は,∂(ズ*)を含んだ扱小の閉集合となる。 50)図60を参照せよ。

(22)

香川大学経済学部 研究年報16 ーg4一 式によって定義される。 d∞室1im(gゐ ム・・N ヱ.977 (5.59) 仮定により,dたはか(Ⅹ*)に含まれることから,さきの(性質3)を用いて, すべてのゑについて,つぎの不等式が成立する。 仁/■(Ⅹ*)・dゐ≦0 そこで,方向ベクトルdたの極限をとれば, 1imア/(X*)・d烏=仁/■(Ⅹ*)・d脚≦0 ゐ→∞ (5.60) (5.61) となり,また方向ベクトルd∞がか(Ⅹ*)の閉包,すなわち眉(Ⅹ*),に含まれ ていたこととを合わせ考えれば,(性質4)が明らかとなる。 以上により,われわれは,非線形計画問題の最適点Ⅹ*について,その勾配 ベクトルF/(Ⅹ*)と,か(Ⅹ*),および眉(X*)に含まれる方向ベクトルdとの 内墳がつねに非正であることを,(性質3),および(性質4)として,それぞ れ明らかにした。いまや,われわれは,ク・−ン・クッカーの条件を導出する立 場に立ち至っている。その場合,さらに重要な2つの課題が残されている。そ の1つは,実現可能な方向ベクトルの集合か(Ⅹ*)の閉包,すなわち眉(Ⅹ*), を非線形計画問題の制約式51)によって表現することであり,他の1つは,「フ ァルカスの補題.を用いて,叙上の(性質4)を書き換える52)ことである。以 下,順を追って,これらの課題を解明していくことにしよう。 まず最初に,β(Ⅹ*)を非線形計画問題の制約式によって明示的に表わすこ とを試みよう。いま,実現可能領域ダに属する点Ⅹについて,当該問題の∽ 個の制約式は,つぎの2つのグループに分けられる。その1つは,点Ⅹにお いて実際にその拘束がきいている58)制約式のグループで,これをg壱(Ⅹ)=0で 表わすことにする。他の1つは,点Ⅹにおいてその拘束がきいていない54)制 51)(5い43),参照。 52)すをわち,(性質4)に当該問題の制約条件を明示的に導入することを意味する。 53)すをわち,制約式(543)が等号で成立している場合にあたる。 54)すをわち,制約式(5l43)が不等号で成立している場合にあたる。

(23)

−βち− 最適制御理論について

約式のグルー・プで,これをg定(Ⅹ)>0で表わすことにする0そこで,点Ⅹに

ぉいて実際にその拘束がきいている制約式の添字の集合をtガ(Ⅹ)で表わすこ とにすれば,以上の議論はつぎのようにまとめられる◇

都(Ⅹ)=0,

gf(Ⅹ)>0,

(5.62)

っぎの図61は,この関係を例示したものである0

ga(Ⅹ) 図61.実際に拘束する制約式の添字の集合♂(Ⅹ)

したがって,われわれは,集合β(Ⅹ)を当該問題の制約式によって表わす

場合,ある点Ⅹに関して実際に拘束がきいている制約式のみを考慮すればよ

いことになる。なぜなら,いま点Ⅹにおいて&(Ⅹ)>0であるものと想定し

(24)

香川大学経済学部 研究年報16 ーβ6− J−977 よう。そのとき,関数g電(Ⅹ)の連続性の仮定によって,点Ⅹから任意の方 向へ・,その制約条件55)を破ることなく,僅かばかり移動することが可能となる。 それゆえに,点Ⅹに関して実際に拘束がきいていない制約式gよ(Ⅹ)は,集合 眉(Ⅹ)になんらの影響も及ぼさないことが明らかとなる。 ところで,いま,もしも方向ベクトルdが,点Ⅹにおける実現可能な方向 ベクトルー・あるいは,眉(Ⅹ)に含まれる方向ベクトルーを表わすものとす れば,その点において実際に拘束がきいている制約式g壱(Ⅹ)に関して,つね に Fg壱(芽)・d≧0 (5.63) の不等式が成立することになる。換言すれば,与えられた方向ベクトルdと最 大の率で増加する方向を示す56)勾配ベクトルFg名(Ⅹ)との成す角度が,つねに 鋭角(すなわち,90度以内)であることを意味サーる。このことは,たとえば, 図61の点Ⅹ1において容易に確かめられる。57) そこで,いま,ある点Ⅹにおいて実際に拘束がきいている制約式g壱(Ⅹ)の 勾配ベクトルFg壱(Ⅹ)のすべてと鏡角を成す方向ベクトルdの集合を 診(方) として,つぎのように定義しよう。 彦(Ⅹ)皇1(d:アg‘(Ⅹ)・d≧0,ただし,すべての£∈♂(Ⅹ)〉 (5.64) そのとき,つぎの性質を得る。 (性質5) 点Ⅹにおいて実現可能な方向ベクトルの集合か(Ⅹ)の由包,すなわち β(Ⅹ),は,その点Ⅹにおいて−実際に拘束がきいている制約式都(Ⅹ)の勾 配ベクトルF都(Ⅹ)のすべてと鋭角を成す方向ベクトルdの集合,すなわ ち,診(Ⅹ),に含まれる。すなわち,つぎの関係が成立する。 55)節(Ⅹ)>0を意味する。 56)なぜをら,もとの制約式が非負,すをわち,節(Ⅹ)≧0,として与えられているか らである。 57)図61,参照。

(25)

最適制御理論について −β7− β(芽)⊂彦(X) (5月5) この(性質5)は,つぎのようにして検証される。まず液初に,実現可能な 方向ベクトルの集合か(X)について,方向ベクトルdがこの集合か(Ⅹ)に含 まれており,さらに,よ番目の制約式の拘束がきいている58)ものと想定しよう。 そこで,もしもFg£(Ⅹ)・d<0の関係が成立しているものと仮定すれば,さき の(性質1)によって,十分小さいスカラ・−でのすべての備について,次式 が成立することになる。 都(Ⅹ+rd)<都(Ⅹ)=0 (5−′66) ところが,そのような方向ベクトルdは,もはや実現可能なべクトルとはなり 得ない59)ことから,〆g名(Ⅹ)・d≧0でなければならないことになる0その結果, β(Ⅹ)⊂彦(Ⅹ) (5・67) となり,餌)しかも,集合彦(Ⅹ)が,定義によって閉集合であることから,われ われは,(5小65)の関係を得る。 〔制約条件の限定〕 さて,(性質5)で,われわれは,集合∂(Ⅹ)が集合彦(Ⅹ)の部分集合で あること,すなわち,(5.65)の関係がつねに成立すること,を明らかにした0 しかし,このことは,(5.64)で定義される集合彦(ズ)に含まれる方向ベク トルであっても,それが(5小55)で定義される集合か(Ⅹ)の閉包,すなわち, β(ズ),につねに含まれるとは限ら電いことを意味している。その一例をあげ たものが,つぎの図62である。 この場合,実現可能領域ダは,2つの制約式飢(Ⅹ)≧0,および戯(Ⅹ)≧0 をともにみたす斜線を施した部分として示されており,しかもそのダに含ま れる実現可能な点Ⅹ1においては,その2つの制約式飢(Ⅹ),および釣(Ⅹ) が接しており,その意味でまた拘束がともにきいている制約条件となってい 58)すなわち,点Ⅹにおいてgi(Ⅹ)=0であることを意味する。 59)(5.63),参照。 60)(5.64),参照。

(26)

香川大学経済学部 研究年報16 一ββ− ヱ.977 g2(Ⅹ)=0 図62い集合β(Ⅹ1)と集合愈(Ⅹ1)とが一哉しない場合 る。61)そこで,この点Ⅹ1について,まずβ(Ⅹ1)をその定義により求めれば, それは点Ⅹ1を起点とする左向きのただ1つの方向ベクトル観であることが 明らかとなる。つぎに,彦(Ⅹ1)を求めれば,それは(5u64)の定義により, 点Ⅹ1を起点とする左向きと右向きの2つの方向ベクトル(dゎおよびdγ)と なる。したがって,この場合,点Ⅹ1を起点とする右向きの方向ベクトルdγは, 診(Ⅹ1)に含まれる方向ベクトルではあるが,∂(Ⅹ1)には含まれないことにな り,その結果,点Ⅹ1において, β(Ⅹ1)幸彦(Ⅹ1) (5小68) となることが判明する。 とはいえ,現実の具体的な問題において,このような場合が生ずることはめ ったにないものと思われる。62)そこで,われわれは,一・般性を失なうことなく, 叙上の(性質5)に加えて,さらに∴診(Ⅹ)⊂眉(Ⅹ)の関係が成立するものと仮 61)すをわち,♂(Ⅹ1)=(1,2)を意味する。図61,参照。 62)もし,あったとしても,それは数学上の産物(Mathematicalfabrications)にすぎ ないことが,叙上の例より推測されよう。

(27)

最適制御理論について ーβ9− 定することにしよう。しかし,以下でみるように,この仮定は,具体的問題の 解明にとっては,きわめて重要な意味をもっているので,これを制約条件の限 定として,明確に定義しておくことにする。 ConstraintQuali鮎ationの定義 もしも点Ⅹにおいて,

眉(X)=.診(Ⅹ)

(5.69) の関係が成立するとき,点XにおいてConstraintQuali丘cationがみたされ ている,と定義する。 ちなみに,図60の例2,例3,および例4のそれぞれで示された点Ⅹ1にお いては,いずれも(5.69)の関係が成立しており,したがって,叙上の定義に より,ConstraintQualificationがみたされていることが明らかとなる。68) また,点Ⅹ*が非線形計画問題の最適点を表わすものとし,さらにその点に おいて叙上のConstraintQuali丘cationがみたされるということは,その最適 点Ⅹ*において,次式の関係が成立することを意味している0 月(Ⅹ*)=診(Ⅹ*) (5・70) そこで,この関係が成立することを前提とすれば,第1の課題,すなわち, 実現可能な方向ベクトルの集合β(Ⅹ*)の閉包眉(Ⅹ*)を当該問題の制約式に よって表わすことは,結局つぎのようにして可能となる。 β(Ⅹ*)=・診(Ⅹ*)=〈d:Fgf(ズ*)・d≧0,ただし, すべての£∈♂(Ⅹ*)† (5.71) したがって,以上の帰結をまとめれば,つき㌔の(性質6)を得る。64) (性質6) 点Ⅹ*を非線形計画問題の最適解であると仮定する。そのとき,点Ⅹ*に おいてConstraintQualificationがみたされているならば,@(X*)に含ま れるすべての方向ベクトルdについて,つぎの不等式が成立する。 63)図60の例2,例3,および例4,参照。 64)(性質4),参照。

(28)

ー・一9(フー 香川大学経済学部 研究年報16 J.977 (5.72) 仁/■(Ⅹ*)・d≦0 ただし,集合.珍(Ⅹ*)は, 診(Ⅹ*)=id:Fg壱(Ⅹ*)・d≧0,ただし, すべての去∈♂(Ⅹ*)〉・(5.73) によって−与えられるものとする。 〔クーン・クッか−の条件〕 いう’までもなく,この(性質6)は,非線形計画問題の最適点Ⅹ*において ConstraintQuali丘cationがみたされていることを前提として,(性質4)の内 容を書き換えたものに他ならない。そこで,つぎに,クーン・クッカーの条件 を導出する際,残されていたもう1つの課題,すなわち,ファルカスの補題を 用いて,(性質4)を書き換えること65)を試みよう。そのために,まずファル カスの補題を述べれば,つぎのようになる。 ファルカスの補題 Aを∽行乃列の行列とし,ヴを乃次元の列ベクトルとする。そのとき, AX≧0 (5り74) をみたすすべての乃次元の列ベクトルⅩに対して 曾・Ⅹ≦0 (5.75) が成立するということは,乃次元の列ベクトルー曾が,行列Aの各行の非 負の1次結合で表わされるということ,すなわち, 曾+』′払=0 (5.76) をみたす非負の∽次元の列ベクトル払が存在する,ということと同等であ る。86) 65)したがって,(性質6)を当該問題の制約式によって再定式化することを意味する。 66)ただし,ここでは,後で試みる応用のために,一部表現をかえている。したがっ て,通常の表現によるファルカスの補題は,(5‖75)の不等号の向きを逆にし,また 乃次元の列ベクトルー曾を曾と置き換え,その結果,(5.76)をサ=d′〟とすること

(29)

最適制御理論について −.9J− このファルカスの補題は,錐体の理論の基礎をなすもので,計画問題にとっ て,ことのほか重要な意味をもっている。そこで,この補題の内容を検討する ことにしよう。 いま,(5u74)の制約条件のもとで,(5.75)の左辺曾・Ⅹ87)を最大にする線形 計画問題を考えれば,つぎのようになる0 Max.ヴ・Ⅹ s小t. dズ≧0 ‡ (5・77)

また,この線形計画問題に対する双対問題軋双対変数のベクトルを・沈で表わ

せば,つぎのようになる。88) Min.¢・祉 S.t。−d′祝=曾 沈≧0 ‡ (5・78)

そこで,もしも(574)の制約条件をみたすべクトルⅩに対して(5175)

が成立する場合には,Ⅹをゼロベクトルとおくことによって(5.77)の線形

計画問題が有限な最適解をもち,そのときの値はゼロとなることが明らかとな

る。さらに,この線形計画問題が最適解をもつということは,双対定理69)によ

ってその双対問題70)もまた最適解をもつことになり,それゆえ(5.76)の関係

をみたす非負ベクトル捉が存在することになる。 によって与え.られる。たとえば,RDorfman,P.Samuelson&RSolow;“Linear ProgrammingandEconomicAnalysIS,”1958いMcGraw−Hill,Pl191,pp・502−506,参 照。 67)すなわち,乃次元ベクトルqとⅩとの内撥である。 68)一腰に,「Ⅹを無制約な変数ベクトルとし,AX≦みのもとでq・Ⅹを最大にする」 線形計画問題の双対関越は,「A′α=ヴ,およびα≧〃 のもとでむ・以を蔵小にする」 問題として与えられる。それゆえり 表の問題であを0とし,またAを−Aとおく ことによって,(5.77)が導かれ,それに対応する双対問題は,その藁の問題として, (5.78)が直ちに導かれる。ZangWill,ゆCitr,PP巾328−329 69)双対定理(DualityTheorem)については,たとえ.ば,WJ”Baumol;“Economic TheoryandOperationsAnalysis,”2ndedl・1961,Prentice−Hal1,ppl103−128,参照0 70)すなわち,(578)によって与えられる問題を指す。

(30)

香川大学経済学部 研究年報16 ー.92− J.977 逆に,(5.76)の関係をみたす非負ベクトル祝の存在を仮定してみよう。そ のとき,(5巾76)の関係をみたす非負ベクトル址は,(5て8)の問題に対する有 限な最適解を与えることになり,またその値はゼロであることが明らかとなる。 それゆえ,(5,78)と双対の関係にある(5い77)の問題も,それと同じゼロの 最適解をもつことが双対定理によって−保証される。しかし,(5小77)の問題が ゼロの最適解をもつということは,とりもなおさず,(5.74)の制約条件をみ たすべクトルⅩに対して(575)が成立することを意味しており,その結果, ファルカスの補題が証明されたことを意味する。 つぎに,このファルカスの補題を(性質6)に適用してみよう。そのために, (5.74)の行列Aは,すべてのi∈♂(Ⅹ*)に対応する制約式g名(Ⅹ)≧0,の点 Ⅹ*における勾配ベクトル『g宜(Ⅹ*)を各行としてもつ行列であるとみなし, また,(5ハ74)の制約条件をみたすべクトルⅩを,(性質6)における方向ベ クトルdとみなせば,(性質6)の内容は,結局つぎのように言い換えること ができる。・ず ̄なわち,つぎの等式

町(Ⅹ*)+婚宗Ⅹ*,スfFg壱(Ⅹ*)=0

をみたす,非負の乗数スゎただし去∈♂(Ⅹ*),が存在する,と。71) かくして,クーン・クッか−の条件は,ただちに導出される。 クーン・タッカーの条件 つぎの非線形計画問題 Maxイ(Ⅹ)

s.t.gf(Ⅹ)≧。,よ=1,2,,m

〉 (5.79) (5…80) ただし, 関数.差およびgゎf=1,2,,∽は,微分可儲であるものとする, に対する最適解をⅩ*で表わすことにする。そのとき,もしも点Ⅹ*におい てConstraintQualificationがみたされているならば,つぎの3つの条件を みたす非負乗数スゎよ=1,2,研が存在する。 71)したがって,(579)のス官は,ファルカスの補題における非負ベクトル混の各要 素を表わすことになる。

(31)

最適制御理論について 1)gf(Ⅹ*)≧0,よ’=1,2,,m 2)スfgま(Ⅹ*)=0,よ=1,2,,m llI; 3)ア/(Ⅹ*)+∑んFgま(Ⅹ*)=O f=1 一一9β− (5.81) (5.82) (5…83)

したがって,いわゆるクーン・クッか−の条件とは,上記3つの条件に対

する総称であり,点Ⅹ*が当該問題の最適解であるということをこれら3つの

条件によって置き換えたものに他ならない。そのうち,第1の条件,すなわち

(5い飢),は,点Ⅹ*が実現可能であることを意味しているのに過ぎない0つぎ

に,第2の条件,すなわち(5い82),は,もしも点Ⅹ*においてg豆(Ⅹ*)が正

であれば,72)その制約条件gな(Ⅹ*)にかかる乗数んは,ゼロであることを意味

している。そして,最後に,第3の条件,すなわち(5.83),は,目的関数の

勾配ベクトルア/(Ⅹ*)に負の符号をつけたものが,各制約式の勾配ベクトル

Fg官(Ⅹ*)の非負の1次結合によって表わされることを意味している○ ただし,

沌♂(Ⅹ*)に対するg官(Ⅹ*)はつねに正である78)ことから,(5り82)によって−,

その制約式にかかる乗数んはゼロとなっている。したがって,第3の条件は,

・ファルカスの補題を(性質6)に適用した理論的帰結,すなわち(5.て9)その

ものに他ならない。

最後に,クーン・クッカーの条件の幾何学的な意味を検討しておくことにし

よう。簡単化のため,実現可儲領域ダが3つの制約式g宜(Ⅹ)≧0,∼=1,2,3,に

よって構成され,目的関数/(Ⅹ)の値を最大にする最適解がつぎの図63の点

Ⅹ*で与えられるものと想定する。74)このとき,点Ⅹ*において実際に拘束が

きいている制約式は,gl(Ⅹ)とg2(Ⅹ)の2つであり,75)その結果,

(5.84) ♂(Ⅹ*)=il,2〉 となる。78) 72)点Ⅹ*において実際にその拘束がきいていないことを意味する。(5.62),参照。 73)(5.62),参照。 74)図63において,目的関数ノ(Ⅹ)の倍が最大の率で増加する方向がア/(Ⅹ*)として 示されていることに注意せよ。 75)したがって,gl(Ⅹ*)=0,およびg2(Ⅹ*)=0を意味する。 76)(5.62),および図61,参照。

(32)

香川大学経済学部 研究年報16 ・−.94− .Z.977 図63.クー・ン・クッか−の条件の幾何学的な意味 この図63によって明らかなように,最適点Ⅹ*についての目的関数/(Ⅹ)の 負の勾配ベクトルーア/(Ⅹ*)は,その点で実際に拘束がきいている制約式77)の 勾配ベクトル,すなわちアgl(Ⅹ*),およびFg2(Ⅹ*),によって張られる錐体78)の なかに含まれている。換言すれば,当該問題の最適点Ⅹ*において,−ア/(Ⅹ*) が鞄1(Ⅹ*)と鞄2(Ⅹ*)との非負の1次結合で表わされること,すなわち, −F/■(Ⅹ*)=ス1Fgl(Ⅹ*)+ス2Fg−2(Ⅹ*) (5‘85) ただし, ス1,A2≧0 77)すなわち,gl(Ⅹ),およびg2(Ⅹ)を意味する。 78)(y:y=んFgl(Ⅹ*)+ス2Fg2(ズ*),ス1≧0,ス8≧0)として定義され,図63では,波線 部分によって示されている。

(33)

段通制御理論について ー.95− が成立することを意味している。そして,この関係が,すでに指摘した(5巾83) の具体的内容であり,79)それがまた,ク・−ン・クッか−の条件の幾何学的な意 味を付与するものである。 また,この図63を用いて,すでに述べた(性質4)を検証することができ る。80)すなわち,点Ⅹヰを非線形計画問題の最適点であると仮定すれば,β(Ⅹ*) の閉包,すなわち眉(Ⅹ*),に含まれるすべて‘の方向ベクトル♂と,目的関数 /(Ⅹ)が最大の率で増加する方向を示すベクトル仁/(Ⅹ*)とが成す角度がつね に鈍角であること81)が明らかとなる。さらに,当該問題の制約式に関してCon− straint Quali£cation がみたされておれば,(5.69)の関係が成立する結果, (性質6)もまた同時に検証される。しかし,Constraint Quali丘cation がみた されていない場合には,図62によって明らかなように,点Ⅹ1を最適点Ⅹ*と し,またベクトルdγをア/(Ⅹ*)とみなしたとしても,目的関数/(Ⅹ)の負の 勾配ベクトルーア/(Ⅹ*)82)を,Fgl(Ⅹ*)とFg2(Ⅹ*)との非負の1次結合とし て表わすことができないわけである。88) §4..最大原理の導出 以上の検討結果にもとづさ,本節ではタイプ2の問題に対する最大原理の導 出を試みることにしよう。すでに述べたように,タイプ2の問題では,制御祉 に対する拘束が状態変数Ⅹに関係している。84)すなわち,(5.5),および(5.. 6)を制都制約とする場合が明示的に取り扱われる。そこで,この制御制約に 注目し,(5い6)に関する正則点の定義を,つぎのように与えることにしよう。 正則点の定貴 いま,点(Ⅹ*,捉*,£)∈∬循+飢+1に対して 79)ただし,(5.83)は,当該問題に対するすべての制約式を包含している。しかし g8(Ⅹ*)に対応する乗数ス8は,(582)によりゼロとなるため,(583)でg3(ズ*)を 考慮することが不要とをる。 80)(性質4),参照。 81)(性質4)において,(558)の不等式が成立することを意味する。 82)すなわち,図62におけるd∼を意味する。 83)クーン・クッカーの条件のうち,(583)の関係をみたす非負乗数スゎよ=1,2が存 在しないことを意味する。 84)本章,第1節,参照。

(34)

香川大学経済学部 研究年報16 −.96−

¢α(Ⅹ*,払*,f)=0,α=1,2,,β

¢α(Ⅹ*,祉*,£)>0,α=5+1,ぶ+2,‥,Z

となるものとする。85)ただし,.ざ≦∽とし,つぎの行列関数

姓軌勉隼姓軌

F%¢1(Ⅹ,払,f)

F甜¢2(Ⅹ,捉,f)

F〝¢s(Ⅹ,眈,f)

莞・︰莞 軋

隼︰粗

(5…88) の点(Ⅹ*,祉*,わにおけるランクが.5であるとき,この点(Ⅹ*,祝*,f)を正則 点と定義する。86) そこで,もしもこの正則性の条件がみたされている87)とき,われわれは, ¢α(Ⅹ,叫£)=0,α=1,2,,ぶ (5・89) を解くことによって,制御祝のざ個の成分を状態変数Ⅹと制御払の残りの (∽−ざ)偶の成分の関数として一・意的に表わすことができる。すなわち,この ことは,点(Ⅹ*,祝*,£)におけ離り約式¢。,α=1,2,,r5,の勾配ベクトルの集 合(F堪れア伽¢2,,F%¢£)が1次独立である結果,われわれが払を動かすことに より,対象を十分に制御できることを意味している。 この正則性の条件が成立していることを前提として,これまでに導いた結果 をまとめれば,つぎの〔定理4r〕を得る。 〔定理4〕 批*(れ(わ≦£≦fl)を,タイプ2の問題における最適制御,ズ泳(わ,(fo≦ 85)もしも必要をらば,(5.6)の各制約式に与え.られている添字の番号をつけかえる ことによって(586),および(5。87)を得ることができる。それゆえ,J≧・S≧g−J′ をみたしている。 86)その結果,正則点(Ⅹ*,払*,f)において,按平面が定義されることにをる。ⅠⅠⅠ章, 第2節の(335),および,ⅠⅠⅠ華,第5節の図32,参照。 87)すなわち,(5い88)のランクが・ゞである。

(35)

最適制御理論について ー.97− f≦九)を,対応する最適トラジ、エ.クトリ・一上の点とし,各点(ズ*(わ,㍑*(≠), わは,正則点であるとする。このとき,つぎの条件をみたす乗数ス0≧0,ス名(わ, 〃α(わ,(去=1,2,…,乃;α=1,2,,J;£0≦才≦才1)が存在し,これらは同時にす べてゼロとはならない。 (a)ん(わ,左=1,2,…,乃は,つぎの方程式の解であり,fに関して連続で ある。

スj=−∂エ(ズ*(£),祝*(£),ス,〝(才),f)/∂ガ査,

Z=1,2,,花 (5い90) ただし, J

エ(先払,ス,〝,f)=ガ(考牒,ス,£)+∑〟α¢α(考α,f)

α=1 (5.91) タま

却才,祉,ス,f)=ス≠/■∼(考祉,f)

(5.92) (b)ガ(脛(f),α*(f),j(f),f)= Max ガ(ズ*(f),祝,ス(f),£) Ⅳ∈Ⅳ(g(‖,‖ (5い93) (c)比=払*(わにおいて, ∂エ(ズ*(f),祝,ス(f),〝(f),f)/∂比f=0, よ:=1,2,,花;fo≦f≦fl (5.94) (♂)〟α(f)¢α(ズ*(f),批*(f),f)=0,α=1,2,,Z′ (5い95) 〟。(f)≧0,α=1,2,り,g′ (596) ただし, 〃α(f)は区分的に連続であり,α*(f)の連続区間では連続である。 (c′′)¢α(ズ*(f),祝*(f),g)≧0,α=1,2,,g′ (5・、97) ¢α(ズ*(f),払*(f),f)=0,α=Z′十1,Z′+2,,Z (598)

(36)

香川大学経済学部 研究年報16 J977 −9β−− (d)ベクトルス(わは,f=わ,およびf=flでそれぞれ対応する端点の多様 体β0,および∂1に直交する。 この〔定理4〕について,とくに留意すべ垂事項を述べれば,つぎのとおりで ある。まず,その第1は,定理の前提となる正則性の条件に関するものである0 すなわち,点(ズ*(れ祝*(わ,f)が正則点であるということは,その点におい てConstraint Qualificationがみたされていることを意味しており,またそれ は,〔定理4〕が成立するための十分条件ではあっても,必要条件ではないと いうことである。したがって,いま,点(ズ*,Ⅳ*,f)において実際に拘束がきいて いる.ざ個の制約条件,すなわち(5小86)のうち,偶然にもその2つが全く同じ 式であったと仮定してみよう。すなわち, ¢よ(ズ*,比*,f)=¢ノ(ズ*,祉*,f),よ≒ノ (5−99) の関係が成立しているものと仮定しよう。そのとき,行列関数(5.88)のランク は,当然5よりも小さくなり,それゆえに,点(ズ*,祝*,f)は正則性の条件をみ たさないことになる。しかし,この場合でも,その同一・な式がいずれもゼロで ある条件をみたしている結果,そのうちの1つを取り除くことによって,当該 問題の最適解を求めることが可能となる。したがって,(5.86)をみたす制約 式の間に,もしも1次従属の関係があるとすれば,ただそれだけで正則性の条 件がみたされないことになる。その意味で,正則性の条件は,〔定理4〕が成 立するための十分条件ではあっても,必要条件ではないといえる。 つぎに,第2の留意すべき点として,問題の定式化が,定理の適用にとって とくに重要な意味をもつことが指摘できる。すでに,われわれは,制御制約の 差異にもとづき最適制御問題を3つのタイプに分類$8)し,さらにそれに応じて タイプ1の問題を解く手段として〔定理3〕89)を,またタイプ2の問題を解く 手段として〔定理4〕90)を,それぞれ導出した。しかし,とくに注意を要する ことは,同じ内容の問題であっても,取り上げる変数の定義の仕方によって, それをタイプ1の問題として定式化することもできる場合があることである。 88)ⅠⅠ章,第5節,参照。 89)ⅠⅠⅠ牽,第5節の〔定理3〕,参照。 90)本章,第4節の〔定理4〕,参照。

(37)

最適制御理論について −.99− 換言すれば,本来タイプ2の問題として定式化されるべきものであっても,そ の多くは,制御変数を適当に定義しなかすてとによってタイプ1の問題に変換 できるということである。その一例をあげれば,つぎのようになる。 いま,タイプ1の問題例として与え.たラー・マン・モデル(その1)に注目し よう。91)その状態方程式は,地域別の資本ストック,乾,およびjらを状態変数 として,次式によって与え.られた。92〉 (5.100) (5.101) 艮’1(f)=β(f)igl麒■1(£)+g2麒2(古)〉 廠■2(f)=(1一β(f))igl足1(f)+g・2麒2(f)) また,制御制約は,配分パラメタ・−βを制御変数として, 0≦β(f)≦1 (5.102) によって与えられた。98)したがって,この制御βは,状態,屯,および亀に 関係しないElの部分集合びに属している結果,タイプ1の問題とみなされ る。94) しかし,この間じ投資の地域間配分を問題とするラーマン・モデルについて, 地域別の投資を新たな制御変数とみなせば,−まえと同じ亀,および亀を状態 変数とする状態方程式は, 麒1==弘1 (5・103) 麒2=弘2 (5・104) として与えられ,また,叫,およびα2を制御変数とする制御制約は, (5.105) (5.106) 弘1≧0,弘2≧0 払1+払2=gl茸1+g2麒2 として与えられる。これを書き換えれば, 91)ⅠⅤ肇,第1節,参照。 92)(5100)が(4い13)に,(5.101)が(414)に,それぞれ対応する。 93)(5102)が(416)に対応する。 94)ⅠⅠ串,第5節の(231),あるいは,またⅠⅠⅠ亀 第5節の(3ィ122)に対応する。

参照

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