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在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題-香川大学学術情報リポジトリ

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在中国日系製造企業の

管理会計・原価管理の実態と課題

井 上 信 一

! はじめに " 在中日系企業における管理会計の実態 # 在中日系企業における原価管理の実態 $ 結びに代えて Ⅰ 中国経済,産業そして民営企業の高度成長は,1980年代以降,長年にわた り継続的発展をとげ,GDP では日本を追い抜く勢いで,米国に次いで世界第 2位を窺う状況にある。そのことは,中国社会,経済,企業は今や「世界の工 場」であることは勿論,「世界の市場」へと発展し,北京,上海を始め沿岸部 諸都市を中心に,国民1人あたりGDP は年々着実に上昇してきている。 このような中国における急速な経済発展,「世界の工場」化,「世界の市場」 化に関する調査研究は,日中両国の研究者,エコノミスト,実務家などにより 社会学や経済学などマクロ面からの調査研究は,着実に蓄積が積み重ねられ, その実態と課題は急速に明らかになってきている。その結果,いわゆる「巨龍」 の全体像はある程度明らかになりつつあるが,同時に中国社会,政府や企業の ビジョンや政策により,利用可能な情報や,統計データの整備・公開はいまだ 十分にはなされているとはいえず,統計データや企業に関する情報は不足気味 であり,国際比較の難しい面も散見される。とりわけ企業データの基礎をなす 会計情報や財務データの整備に不可欠な会計学的研究,特に企業の内部情報を 中心に扱う管理会計情報やコスト・データの開示についてはようやくその端緒 ―1―

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に着いたばかりであり,それら会計情報の整備・分析・研究には,中国内外の 若干の研究者や調査機関の専門家がパイオニア的に調査研究を開始・継続して いるにすぎない。また日中両国の研究者,中国の調査機関や日本貿易振興機構 (JETRO)をはじめとする日本のシンクタンクや実務家による積極的な調査デ ータの整備,分析,公開もされているが,未だ不十分な域をでていない。 われわれの研究も,既に述べたようにことの性質上,会計情報,経営情報, 統計データの性格,政府機関との関係と共に,内部データという性格上,企業 としては出来れば公開したくない秘密の内部データに踏み込まざるを得ない内 容,研究が含まれている。そのため経済発展,経済活動のようなマクロ的な統 計データ,情報の開示はある程度進展してきているが,内部情報に属する管理 会計やコストマネジメントの情報は米国,欧州を始めとする伝統的な資本主義 国においても明らかにされ難い分野が多く,いわんや「特色ある社会主義国」 である中華人民共和国においては,社会文化的特性もあり,困難な課題であ る。特に中国企業への郵送調査は勿論面談調査においても,残念ながらほとん どの場合にそれら管理会計・原価管理に関するデータはなかなか開示されない のが現状である。それを徐々に解決するためには,日中の相互協力,日本・中 国・台湾や韓国の研究者間の共同研究などによる相互協力とネットワークの構 築が不可欠である。そのことにより,そのような情報開示の意義とその重要性 を政府関係者や経営者にコツコツと説明・理解をうると共に,現地での日系企 業への面談調査などを重ね,会計情報や統計データを地道に収集・蓄積して行 かざるを得ないのが現状であり,調査対象をはじめ課題,問題点や障害の多い 研究分野であることを痛感している。 そのような困難な研究状況の中で,本稿も,これまでの先行研究を意識,活 用しながら,比較的手薄な研究分野である管理会計・コストマネジメントの分 野から,日中の研究者や実務家の協力により,少しでも在中国日系企業の実態 と課題の解明に不可欠な実証的データ,資料を積み上げることを意図した調査 研究の一環をなすものである。その理由は,中国での調査研究は,われわれの 資本主義市場経済とは異なり,表面的には「法治主義」の体制が整備されてき ているが,現実にはいろいろな局面で国家(中央政府),省(地方政府)や直 ―2― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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轄市(市政府)等の指導助言を中心に「人治主義」的色彩の濃い社会風土,経 済構造を今なお色濃く残していることも,面談調査の中でしばしば当面した事 実である。また政府のマクロ経済主導を中心にしたいわゆる「特色ある社会主 義市場経済」をベースにした政治経済体制であり,社会文化的にも外部からは なかなか窺い知ることが難しい面も多々みられる。そのことは,現地での面談 調査により,実際に中国企業,大学,調査研究機関,開発区などへのヒアリン グを行った際に,そのことを中国人幹部,総経理や経営者,開発区の指導者や 日系企業の経営者との面談のなかで折に触れて直面したことである。また同時 に,中国政府,合弁相手先や取引先との関係についても,外資系企業とりわけ 日系企業への面談調査において,現地の日系企業の経営者から中国における企 業経営の困難性と容易性を,折に触れて経験する機会にも直面した。そのため 現時点では,中国における経営管理,管理会計,コストマネジメントのデータ 収集,実態と課題の調査分析を少しずつ積み重ねて行くことが重要であり,そ の意義を折に触れて実感している。 そのような中国経済,企業を取り巻く現状を意識しながら,本稿では,とり わけ2004年度から2007年度に掛けて科学研究費の海外学術調査として行った 日本学術振興会の研究プロジェクト「『世界の工場』の中国化と日系企業の管 理会計の現地適用と現地適応」における会計関係のデータによりながら,日系 企業の中国への経営進出の特徴と管理会計・原価管理の課題と日系製造企業の 実態と課題について(現時点ではこれまで説明してきたような諸般の事情,理 由により,限られた調査対象,データしか得ることができなかったが),面談 調査に応じてくれた日系企業の実態からその特徴を明らかにすることを意図し ている。同時に,前稿において明らかにした日系企業の中国進出,生産方式, 生産管理などの実態と課題及び,日本的経営の適用の実態と経営活動のローカ ル化の状況及び中国でのマネジメントの実態1)を考慮にいれながら,中国に進 1) そのことについては,例えば次の論稿を参考のこと。井上信一「日系企業のグローバ ル展開と中国進出に関するノート」『香川大学経済論叢』第81巻第3号,2008年12月。 同「在中国日系企業におけるマネジメントのローカル化と現地適応の実態と課題」『香 川大学経済学部研究年報』48,2009年3月。 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―3―

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出している日系製造企業の管理会計,原価管理の実態と課題の一端を明らかに することを目的としている。そのことにより,本稿が現在急速に成長している 「巨龍」のどのあたりに触れ,どの面をどの程度究明出来ているかには些かの 疑念はのこるが,これまでに調査研究したアメリカ,欧州,アジアのケースを 意識しながら,中国に進出している日系製造企業の管理会計とコストマネジメ ントの実態と課題についてのパイロット・スタディのコーナー・ストーンの一 つになることを意図している。 " 本節では,国際管理会計の諸課題のうち,予算編成・統制のプロセスが日本 の親会社(親元事業部を含む)と海外子会社の間でどのように分担・遂行され ているかをまず検討する。次に国際管理会計の主要課題である国際振替価格の 決定方法,海外子会社の業績評価の問題を検討する。それに加えて,海外子会 社の資金調達の方法,マネジメントにおける意思決定権限の相互性,海外子会 社の会計情報システムの整備と親会社からの国際移転の実態について考察す る。本節では,そのことにより上記の海外子会社の管理会計の諸課題につい て,在中国日系製造企業への面談調査をもとに,その実態と課題を概略的に究 明する。 1.海外子会社の予算管理の方法 ここでは,海外子会社の経営計画,予算編成,承認,実施,統制のプロセス と,日本の親会社との間の関連性(相互性)を中心に,面談調査における調査 票による調査データをもとに,表2−1により検討する。 日系企業の海外子会社の予算管理は,通常日本の親会社あるいは親元事業部 の経営方針をベースに作成される予算編成,承認,統制,評価活動の一環とし て,年次あるいは半期ベースでなされるのが通常である。 今回の在中国日系企業への面談調査においても,海外子会社の予算管理の方 法で最も多いのは,「!予算管理の権限は大部分中国子会社に委譲されている」 と考えている在中日系子会社であり,11社(47.83%)と,半数近くの企業は ―4― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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そのように回答している。その理由は,面談調査によると,日系企業の場合は トップダウンによる意思決定は経営方針や利益計画(事業計画)の決定までの 段階は現地の状況(地域統括会社や親元事業部を窓口にして)を配慮しながら, 事業計画のレベルまではトップダウンにより行われる傾向が強い。それを具体 化する段階である予算編成・統制は,現地でのボトムアップにより行われる。 それをベースに日本本社の海外子会社の予算額の割り当てとの#り合わせが行 われる。売上高などの積み増しが必要であれば交渉により積み増しが行われる ケースが多いようである。また月次決算により,毎月日本本社(親元事業部) に経営活動の概要と「予算と実績及び差異」の結果の月次ごとの報告が行われ, それをもとに,売上高(全体,製品別,地域別などのセグメント別),利益額 (同様)等に未達がある場合には,海外子会社は日本本社に対して,その説明 責任を果たさなければならない。そのような形で,海外子会社の予算編成・統 制が行われるケースが最も多いようである。 次に多いのは,「"基本方針は日本の親会社が承認・評価する。それ以外は 現地に委譲されている」という企業であり,9社(39.13%)を占めている。 上記の!と合わせると,全体の90%近くになることが理解できる。"の日系 企業の場合には,予算編成段階における本社サイドの「承認」権限と決算にお ける「差異の結果」の説明責任が海外子会社の経営トップに求められ,それを 基に日本の本社サイドは海外子会社の予算管理(承認と評価)を中心に,在中 日系企業を含めて,グローバルに統制しているケースが多いように思われる。 また中国では,持株会社(中国語では「傘型公司」と呼ばれる)が認められて きており,中国地域全体を統括する持株会社(地域統括会社機能+販売会社機 能を兼ねた会社)を上海あるいは北京に持つ日系企業も多くなってきている。 そのため,とりわけ海外の販売会社の場合には,地域統括会社が大部分を(全 体あるいはセグメント別の売上高,利益,人員,在庫等の主要経営指標)のマ ネジメントを行っており,日本の親会社は,グローバルな視点から在中日系企 業の予算管理を行っているケースが多い。唯ここで主要な調査対象である在中 日系製造企業の場合,とりわけ事業部制組織の場合には,中国の地域統括会社 への報告と同時に,日本の親元事業部(マザー工場)による事業活動の調整と 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―5―

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予算管理の権限関係 回答企業数 回答企業(構成比) !予算管理の権限は大部分中国子会社に委譲さ れている。 11社 47.83% "基本方針は日本の親会社が承認・評価する。 それ以外は現地に委譲されている。 9社 39.13% #予算は基本的に日本の親会社が編成し,現地 は予算執行をするだけである。 3社 13.04% $その他 0社 0.00% 表2−1 海外子会社の予算管理の方法(日本の親会社と海外子会社の関係性) *)n=23。複数回答可。 共に,経営・管理指標の指導・評価なども行われている場合が多いことが,面 談調査の結果により窺える。 上記!と"以外に,「#予算は基本的に日本の親会社が編成し,現地は予算 執行をするだけである」という日系企業が中国でも3社(13.04%)見受けら れた。その大きな理由は,中国の子会社を,「海外の製造工場(基地)」として のみ扱っているケースであり,基本的に中国の現地製造工場は,製造責任を求 められ,管理会計的にも原価中心点(コストセンター)として扱われている企 業も幾つか見うけられた。そのような場合には,海外子会社は国内の工場と同 様の扱いであり,#のような役割を中国という「世界の工場」の中で果たして いるケースもある程度窺うことが出来た。 2.国際振替価格の意義と方法 国際管理会計における主要な課題は,国際振替価格と海外子会社(及びその 経営者)の業績評価であるということは周知の事実である。そこで,この項と 次の項で,その2つの在中国日系製造企業における実態と課題の一端を究明す る。 ! 国際振替価格の方法%(日本の親会社から在中日系製造企業への販売:製 品,部品) 国際振替価格の方法には,!市価基準(海外子会社と日本の親会社間の交渉 による価格決定である交渉価格をもここでは含む),"原価プラス諸経費基準 ―6― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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(原価基準に近い),#原価+利益基準などがある。("と#の二つは,広い意 味では原価基準ということが出来る。それぞれに特徴がみられるが,その詳細 は下記注の著書を参考のこと。2) またここでは国際振替価格として,!日本の親会社から中国の製造子会社へ の原材料・部品の企業内国際販売時の振替価格(仕切価格)の決め方と,"中 国における製造子会社から中国国内の販売会社,日本国内や日本を除く中国以 外の海外製造会社や海外販売会社への国際振替価格の決め方をそれぞれ別々に 検討する。まず最初に,!「日本の親会社から在中日系企業への販売(製品, 部品)」の国際振替価格の決定方法について,表2−2によりながら検討する。 最も多い国際振替価格の決定方法は,!市価基準と#原価+利益基準であ り,それぞれ43.75%を占めている。また原価基準に近い"原価+(販売会社 の)諸経費基準は,31.25%となっている。以上の3つの方法に分散している のが中国における日系製造企業の国際振替価格の方法の特徴である。ただ上述 のように,"と#を広い意味での原価基準と位置づけると,複数回答可による 回答であるが,原価基準の採用は16社中12社(78.00%)を占め,日本の親 会社から在中日系企業への部品,原材料の国際振替の時には,原価プラス基準 による国際振替価格の方法が中心であるといえる。これは,原価プラス基準 は,市価基準に比べて透明性は低いが,日本の親会社と中国の子会社の間にお ける価格決定の自由度が相対的に高い方法であり,比較的日本企業で多く用い られている方法である。これは,ロイヤルティの問題や配当金の親会社への支 払いや日本の親会社による在外子会社の経営指導料などの問題とも交錯してお り,特に中国からの日系企業の資金の国外への持ち出しに対する中国政府によ る移動制限(規制)などがあり,また国際振替価格についても,中国に進出し ている日系製造子会社に利益が出ていない場合には,進出先の省政府,市政府 などから,国際振替価格等の調査ということで現地工場への立ち入り検査など がなされていることが幾つかの企業で指摘されていた。また国際振替価格の決 2) ミューラー,ガーノン,ミーク著(野村健太郎・平松一夫監訳)『国際会計入門(第 2版)』中央経済社,1992年,pp.169−182)を参照のこと。 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―7―

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国際振替価格の方法 日本の親会社からの購入 !市価(交渉価格)基準 7社(43.75%) "原価+諸経費基準 5社(31.25%) #原価+利益基準 7社(43.75%) $その他 0社( 0.00%) 表2−2 国際振替価格(日本親会社から調達する場合) *)n=16。複数回答可。 定は,国際移転価格税制の調査課題そのものであるが,2000年代前半(2005 年頃)までは,中国では比較的問題にされることは少なかったが,2000年代 後半(2006年以降)になるにつれて漸次厳しくなってきていることが,面談 調査でも窺えるようになっている。そのような状況変化はみられるが,日本の 親元事業部から在中日系企業への国際振替価格の特徴は,現時点では,幾分透 明性は低いが裁量性の高い方法をとらせているように思われる。 " 国際振替価格の方法%(在中日系製造企業から国内販社+海外子会社へ販 売する場合) 次に,在中日系製造企業から中国国内の販売会社あるいは海外子会社(日本 の親会社・販売会社)へ販売する場合の国際振替価格の方法について,表2− 3により検討してみよう。 まず最初に,表2−3からわかる事実は,中国国内での製造販売を目指した (すなわち「世界の工場で生産し,世界の市場で販売する目的」で)中国進出 している企業が,20社中8社(40%)あることである。このことは,中国経 済が,「世界の工場」から「世界の市場」へと発展しているという事実に対応 しており,北京,上海,青島,天津,広州,深 ,大連などの沿岸諸都市を中 心にした富裕層への販売(市場)を目的にして中国進出している日系企業がか なりの割合で増加していることを確認出来る。そのようなケースは,製造・販 売会社として中国に進出しているケースが多いようである。3) 上記以外の12社については,国際振替価格が適用されるケースであり,内 訳はつぎのとおりである。市価基準を採用している企業が6社(50%)と半数 を占め,原価プラス販売会社の諸経費基準という企業が3社(25%),原価+ ―8― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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!当社は製造販売会社であり,該当せず 8社 "当社は製造会社であり,以下のとおり 12社 a )市価(交渉価格)基準 6社 b )原価プラス販売会社の経費基準 3社 c )原価基準 1社 d )原価+利益基準 2社 表2−3 在中日系企業から他の海外子会社へ販売する場合 *)n=20。ただ8社は,製造販売会社なので,国際振替価格 に当たる方式はないという回答であった。いずれの場合も, 市価基準で売買しているということである。 利益基準が2社(16.7%)であり,海外の製造基地の役割を果たしている1社 では原価基準(1社)が利用されている。広い意味での原価基準は6社(50%) であり,市価基準と原価基準が相半ばしているのが,中国子会社から外国の子 会社に企業内国際振替している場合の日系企業の実態である。(なお調査対象 企業数が少ないので,面談調査による情報をも参考に考察しているが,全体を 推測するには留意する必要がある。) 3.海外子会社の業績評価 企業活動をグローバルに展開している多国籍企業は,国内の子会社,工場と 同様に,在中国日系企業それ自体とそこの総経理を始め経営者の業績評価をす る必要がある。そのことは海外子会社の経営管理上非常に重要なことであり, 3) 中国の富裕層は,舶来の製品を好んで購入する傾向にあるといわれている。例えば, 日本企業の製品に限って言えば,最も好まれる製品(デザイン,品質,性能等の点から) は,日本国内で製造して中国に輸入した舶来製品(例えばブランド品,自動車など)の 購入を希望し,次に中国国内の日系企業で製造された日系企業の製品を購入する。そし て最後に,中国企業が中国国内で製造した中国製品を購入する傾向にあるという話を, よく耳にした。これは,戦後初期から昭和30年代まで,日本からアメリカに日本企業 が輸出している製品,例えば「オモチャ,繊維製品,電気製品,精密機械製品,自動車 など」を,米国へ輸出していた当時言われたことによく似ている。当時日本製品に対し てアメリカ国内では,「安かろう,悪かろう」という認識をされていたということを, 現在日本を代表する大企業の経営トップの回顧録の中で指摘され,製品品質とブランド 力の向上に苦労してきたというエピソードが想い出される。 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―9―

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すでに指摘したように国際管理会計の主要課題の一つになっている。そこで本 項では,!海外子会社それ自体と海外子会社の経営者の業績評価が行われてい るかどうかをまず検討する。続いて,"海外子会社それ自体の業績評価がどの ような方法で行われているかを検討する。そして最後に,#海外子会社の経営 者の業績評価がどのように行われているかを明らかにする。以上の3点より, 日本企業の海外子会社の業績評価の実態と課題を,現地中国に進出している日 系企業サイドへの面談調査により検討する。 !海外子会社の業績評価の有無 まず最初に,在中日系製造企業の業績評価がどのように行われているか,海 外子会社それ自体と海外子会社の経営者の業績評価の場合に分けて,表2−4 によりながら検討する。海外子会社の業績評価をしているのは,海外子会社そ れ自体では1社を除く20社で実施されており,ほぼすべての企業は業績評価 を行っていることがわかる。さらに海外子会社の経営者の業績評価について は,面談調査した21社すべての企業で業績評価が行われていることがわか る。このことは中国社会での企業経営は非常に厳格かつドライで,会社そのも のも,また経営者に対しても非常に厳しい業績評価がなされているようであ り,そのことは日系企業への面談調査で度々聞く機会があった。とりわけ中国 人経営者と現地の従業員に対しては,中国企業の場合と同様に,日系企業にお いても中国企業と同様に厳しい業績評価がおこなわれていることがわかった。 例えば,現場の労働者は,生産工程においてミス(不良品,トラブルなど)を すると,それが些細なことであっても,早速工員は自分の賃金からミスの種類 (程度)と回数に応じて賃金から自分の責任による部分をペナルティとして差 し引かれるというのが当たり前の業績評価方法である。ただ日本から派遣され ている日本人総経理や経営者(日本採用の中国人経営者を含む)は,中国の業 績評価のやり方の影響をかなりの程度受けているが,日本の親会社あるいは親 元事業部の業績評価のやり方と同様の方法で,基本的に業績評価がなされてい ることが理解できる。 ―10― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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海外子会社の業績評価 海外子会社それ自体 海外子会社の経営者 !ある 20社(95.24%) 21社(100.00%) "ない 1社( 4.76%) 0社( 0.00%) 表2−4 海外子会社の業績評価の有無 *)n=21。 "海外子会社の業績評価の方法 それでは,海外子会社の業績評価の基準はどのようになっているのか,表2 −5により,海外子会社それ自体と経営者の場合に分けて検討してみる。 まず最初に海外子会社それ自体と海外子会社の経営者の業績評価の結果を比 較してみると,大きなトレンドとしてはほぼよく似ていることが窺える。同時 に,日本企業では,業績評価の基準は一つだけでなく,複数の業績評価の基準 を併用して業績評価が行われている多元的評価基準になっていることも窺え る。それが日本の多くの企業の特徴といえそうである。 それでは,最初に海外子会社(それ自体)の業績評価の方法について,具体 的に検討してみよう。最も多い業績評価の指標は,「売上高の予算実績比較」で あり,12社中11社が採用していることである。次に多いのは,「利益額の予 算実績比較」と「利益額(利益の絶対額)」という指標であり,それぞれ9社 (52.94%)が業績評価の尺度にしていることである。それ以外には,アメリカ 企業で多用されている投下資本利益率(ROI)であり,4社(23.53%)で用 いられている。そのほかには,親会社のやり方(2社)や残余利益に近い CCM (capital cost management)(1社)を用いられている企業も見かけられる。

以上ほとんどの海外子会社の業績評価の指標は,会計数値に関係する指標を 重視しており,それ以外の「生産性」「品質」「市場占有率」「従業員の定着率」 や「地域社会への貢献」などという非財務的指標,物量指標,社会的責任や環 境問題という CSR(企業の社会的責任:corporate social responsibility)関係の 指標は,現時点ではいまだ重要な業績評価の指標としてはみなされていないと いえる。

それでは海外子会社の経営者の場合について,表2−5からみてみよう。最 も多いのは,「利益額の予算実績比較」であり,17社中10社と60%近くの企 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―11―

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業績評価の指標 !海外子会社(それ自体) "海外子会社の経営者 !投資利益率(ROI) 3社 1社 "利益額 9社 8社 #ROI の予算・実績比較 1社 2社 $利益額の予算実績比較 9社 10社 %生産性の予算実績比較 0社 1社 &売上高の予算実績比較 11社 9社 '製品品質 0社 1社 (市場占有率 0社 0社 )従業員の定着率 0社 1社 *地域社会への貢献度 0社 0社 +その他の尺度 4社* 4社* 表2−5 海外子会社の業績評価の方法 *)n=17。複数回答可。なおその他の尺度の内訳には,2社は親会社のやり方,1社は CCM,1社は ROQA+定性評価,そして残りの1社は不明が含まれている。(!"共,同 様である)。なお回答は複数回答可で,11の項目から「業績評価の指標として主に利用し ているもの」を記入していただいた。 業が用いている。次に多いのは,「売上高の予算実績比較」で,17社中9社と 52.94%とかなりの企業が用いており,「利益額(絶対額)」は8社(47.06%) と,上位3指標を占めている。「ROI の予算実績比較」(2社)も複数の企業が 用いており,それ以外には,「ROI」「生産性の予算実績比較」「製品品質」「従 業員の定着率」などの指標であり,各1社で利用されている。海外子会社それ 自体の場合に比べると,経営者の業績評価の指標は,会計情報以外の指標にも 少し広がりをみせていることが窺える。このことは,現在の中国社会,文化の 精神性を示唆する面も一部あり,「端緒的資本主義」のレベルにあると思われ る中国経済や企業経営の特性を反映しているようにも思われる結果である。今 後社会,経済が成熟し,国民の生活水準が向上するに従って,業績評価の多様 性も模索されるかも知れない。同時に中国における沿岸部を中心にした富裕層 や中産階級の厚みの増大につれて,これまでのような経済一辺倒ではなく,国 民の生活,福祉水準の向上,環境配慮などCSR(corporate social responsibility) 関連の課題も今後重視される可能性も高まるかもしれない。

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4.海外子会社の資金調達 中国に進出した日系企業は,どこから設備投資資金や運転資金を調達してい るのであろうか。本項では,設備投資資金の場合と運転資金の場合に分けて調 達方法を明らかにすることにより,日系企業の現地へのローカル化の一面を検 討する。 !設備投資資金調達の場合 まず最初に,製造企業にとっては非常に大きな投資額になる場合が多い設備 投資資金を,中国に進出している日系製造企業ではどのように工面しまた調達 しているのであろうか,表2−6により検討してみる。 設備投資資金の調達先で最も多いのは,日本の親会社からと中国の銀行から というのが,それぞれ4社であり,最も多くなっている。そのことは面談調査 での経営者とのインタビューでの結果などを勘案して説明すると,基本的な設 備投資は日本の親企業から行い,中国における外資系銀行の規制などの問題も あり,それに付随する資金調達は中国の銀行から行っているということが窺え る。次に多いのは,中国に進出している日系銀行から設備投資資金を調達して いる会社が3社あり,日本国内での取引銀行との取引関係を,中国でも同様の 信頼関係の上で平行的に持ち込んでいる場合が見られる。 それ以外には,現地に進出している企業の内部資金(内部留保)による場合 や日本の銀行(日本国内)から直接調達しているケースも若干みられる。なお 設備投資資金を「調達していない」という企業も4社を数え,中国国内の上海 や北京の地域統括会社やその企業独自の内部資金によっている場合も一部みら れる。またカントリー・リスクを避けるために,レンタルやリースにより比較 的資金の掛からないやり方で進出している企業もあり,その場合にはあまり設 備投資資金の掛からない身軽な投資であることが窺える。上記の結果は限られ た日系企業への面談調査であることと共に,現時点では傾向的には,中国に進 出している日系企業の設備投資資金の調達の実態は,多様性が高く,中国サイ ド,日系企業の現状,業種や規模などの相違により,異なる対応をしていると いうのが面談調査から得られた傾向である。 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―13―

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調達していない 4社 !日本の親会社から 4社 "日本の銀行(日本国内)から 1社 #中国の銀行から 4社 $中国に進出している日系銀行から 3社 %その他 2社 表2−6 設備投資資金の調達方法 *)n=17。該当せず1社,現地日系企業の内部資金に よる1社。 調達していない 0社 a )日本の親会社から 0社 b )日本の銀行から 3社 c )中国の銀行から 4社 d )中国に進出している日系銀行から 7社 e )その他 2社 表2−7 運転資金の資金調達の方法 *)n=17。その他の内訳は,該当せず1社,現地日系企 業の内部資金による1社。 "運転資金調達の場合 次に在中日系企業の日常的な経営活動に必要な運転資金調達の方法につい て,表2−7により検討してみよう。最も多いのは,中国に進出している日系 銀行から調達しているという企業が7社を占め,全体の41.18%の企業が日系 の銀行から運転資金の調達をしていることである。第2は中国の銀行からであ り4社を占めている。また日本の銀行からという企業も3社を占め,以上3つ の方法が中国に進出している日系製造企業の資金調達の主な方法である。それ 以外には,中国進出している日系企業の内部資金によるという会社が1社あ る。 5.日本本社と海外製造子会社間の意思決定権限の相互性 ここでまず意思決定権限の「相互性」という言葉をつかったのであるが,そ の意味は,経営管理や会計管理上の意思決定をする場合に,意思決定が日本の ―14― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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親企業(親元事業部を含む)の意向が強く反映されているのか,あるいは中国 に進出している日系企業が独自に意思決定をしているのか,その権限の所在が どのような関係になっているかを検討するためである。その結果は表2−6の とおりである。 表からも理解できることは,現地の経営者に権限が最も委譲されている経営 意思決定機能は,現地販売の「新製品の価格決定」で4.33点と,ほとんど現 地で価格決定を行っていることがわかる。次に多いのは,「予算編成・統制」と いう予算管理に関する機能であり4.22点と,この権限も現地にほぼ任かされ ているといえる。 逆に日本の本社サイドが最も権限を保持しているのは,「予算の承認と評価」 であり2.89点と,最終的な意思決定は海外子会社が日本本社に報告し,日本 本社の承認・評価を受けているということが窺える。ただ同時に,海外子会社 の年度の経営方針の策定や財務諸表などの経営報告(business report)は,月 次ベースでおこなわれており,日本本社サイドでは必要な項目を月次報告書で 常にチェックしており,問題のある課題には折り返し海外子会社に説明と改善 を指示し,その結果の報告を求めているケースが多い。また必要であれば日本 の親会社や親元事業部の経営者を海外子会社へ派遣し,その問題点の解決策や 指導を行うケースもあるのが,日本の多国籍企業の海外子会社の指導,管理の 一般的なケースである。 最後に,「新規の設備投資」の意思決定は,3.22点という数字になってお り,ある程度は現地の必要性や要望を,親会社と海外子会社のトップ・マネジ メントの間の交渉で解決しながら,最終判断や決定(特に大きな金額の設備投 資や陳腐化のスピードの激しい設備の意思決定)の場合には,日本の親企業が ゴー・サインをだすという方式で行われている。逆に金額が少ない場合や回収 期間が比較的短期で回収可能な場合には,現地に決定権限が任されている場合 も多いことが,現地での面談調査などでも窺えた。しかも中国の場合には,ビ ジネスの変化のスピードが非常に早く,現地サイドの判断(意思決定)により 対応しないと競争に打ち勝てない場合が頻発しており,日本本社の意向をくみ 取りながら,現地サイドの経営者が独自にかつ弾力的に対応している企業も多 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―15―

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会計情報システムの種類 意思決定権限の相互性 !新製品の価格決定 4.33 "新規の設備投資 3.22 #予算編成・統制 4.22 $予算の承認と評価 2.89 表2−8 意志決定権限の相互性(親会社−海外子会社間) *)n=18。表中の数字は平均値を示す。1:主に親会社 が決定,3:両者の中間,5:主に現地子会社が決定す る。 く見られた。すなわちコストはもちろんのことスピードの重視が,中国でのマ ネジメントでは重要性が高いのが中国における経営活動の特徴であるといえ る。 6.会計情報システムの整備と国際移転の現状 会計情報システムの整備と国際移転(日本の親企業との情報ネットワーク) について,日本の親会社と現地子会社はどのように行っているのか,その実態 を明らかにすることは重要な課題である。そこで表2−9によりながら,現地 子会社の会計情報システムの整備と国際移転のレベルの現状を検討してみる。 まず最初に,海外子会社における会計情報システムの整備レベルを検討して みる。企業のステイクホルダーズへの社会的報告に必要な財務諸表の作成をメ インの役割とする財務会計システムの整備は平均値3.83点と,4点に近い数 字であり,ほとんど整備されているといえる。これは,現地の税務当局や企業 監督局の要請に対応する必要が多くあり,最初に整備が要請される会計情報シ ステムである。従って整備のレベルが4つの会計情報システムのうちで最も高 いのもうなずける数字である。 次にスコアが%いのは原価計算システムであり,これも売上原価や製造原価 の計算という製造企業の売上高から差し引かれる製造原価(売上原価のベース になる)の作成,製品原価,価格決定,原価管理等に必要であり,最も基本的 な役割を果たす製造企業の基本的な会計情報システムであり3.30点を占めて いる。現状ではある程度まで整備が行われているといえる。 ―16― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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会計情報システムのタイプ AIS の整備レベル AIS の国際移転のレベル !財務会計システム 3.83 3.39 "予算管理システム 2.73 2.81 #原価計算システム 3.30 2.50 $原価企画システム 2.00 2.90 表2−9 会計情報システムの整備と国際移転の現状 *)n=18。表中の数字は,平均値を示す。1:ほとんど整備されていない,5: ほぼ完全に整備されているを示す。また国際移転のレベルについては,1:親 会社の制度をそのまま移転,5:現地企業のシステムを移転したことを示す。 3:は両社の中間にあることを示す。 第3に整備レベルが高いのは予算管理システムであり,2.73点とこれから 整備の進展が期待される分野である。これは原価計算システムと共に,伝統的 な管理会計システムであり,整備の必要性は企業全体からまた日本の親企業と の連結という意味からも非常に重要であるが,現地の実態と日本の親企業や親 元事業部との連携のため連結の必要性も高く,両社の整合性が必要であり,整 備には海外子会社の中国へのローカル化の進展により,徐々に進んでいるとい えそうである。 最後に原価企画システムは,原価企画そのものが,製品企画・研究開発や設 計機能という製造の川上段階との関連性が高く,そのような経営職能の現地で の整備がどの程度実施されているかが大きく関係してくる課題である。現時点 での中国の日系企業では,R&D 機能や技術の中国サイドへの国際移転には, いまだ越えなければならない多様な課題や障害があり,今後日系企業の工場の 中国シフトにつれて,スピード感(delivery, speed)の必要性の観点からも, 急速に進展することが期待される分野である,ただ現時点では,その得点は 2.00点と,原価企画システムの整備は,中国政府(中央政府,省政府,市政 府)の意向や対応,部品メーカーの工場整備レベル,現地サイドの技術移転(能 力)とローカルの技術者の教育の必要性と共に,今後に残された課題が多いこ とが窺える。 最後に会計情報システムの国際移転の実態について,表2−9によりまとめ る。中国の法制度の整備レベルとの関連性の最も高い財務会計システムは,中 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―17―

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国の法制度との整合性という点から,平均点3.39点と,最も現地の法制度に 対応して整備がなされているといえる。それ以外は,原価企画システム(2.90 点),予算管理システム(2.81点)という順に国際移転のレベルが高くなって おり,原価計算システムでは2.50点と,日本の原価計算システムをベースに 中国の会計制度に適応していることが,平均値から窺える実態である。ただい ずれの数値も,国際移転の実態をもう少し丁寧に,もう少し多くの企業に面談 調査を重ねることにより,具体的なそれぞれの会計情報システムの実態の究明 と,その数値の意味を解釈する課題が残っていると思われる。 ! 本節では中国進出日系製造企業におけるコストマネジメントの実態と課題の うち,まず最初にその前提になる製造原価の費目別の構成比とその特徴につい て時系列的に比較検討する。次にコストマネジメントのうちでも主要な理論・ 手法である原価企画(target cost management)の前提になる広義の研究開発 (R&D)の国際移転の実態について,R&D のローカル化のレベルと具体的内 容,そのための技術者の教育訓練の実態と課題について,在中日系企業の特性 を明らかにする。その理由は,R&D のローカル化は現地で計画段階の原価管 理である原価企画の国際移転,実践には非常に重要な前提であるからである。 第3に,在中日系製造企業における製造活動における原価管理や原価低減の 実態と課題について,面談調査をもとに,その特徴を究明する。そして最後に, 第3節で検討したコストマネジメントの課題を解決するための原価管理の理論 と方法が,在中日系製造企業にどの程度国際移転可能であるか,その概要をレ ビューする。 1.製造原価構成の動向 まず最初に,在中日系製造企業の製造原価の構成割合から,2000年度と 2005年度の比較に於いて,その構成比とトレンドを明らかにしてみたい。4) ―18― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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!製造原価の構成(2000年度) まず最初に,2000年度の日系企業の製造原価の平均値(1社当たりのパー セントを示す。以下同様),最大値(%),最小値(%)の構成比を検討してみ よう。平均値でみると,直接材料費が61.0%を占め最も多く,次に多いのは 設備投資の結果生じる減価償却費で11.6%を占めている。また直接労務費は 6.4%であり,比較的比率は小さいといえる。外注加工費は1.0%に過ぎず, 日本国内のような系列・下請関係は,日系企業との場合以外にはあまり見かけ ないようである。また製造間接費(減価償却費を除く)も,その他の経費が 19.6%を占めており,相対的に多いことが理解できる。 最大値,最小値から概要を吟味すると,業種や経営規模により多様性が見ら れることがわかるが,標本数が10社しかないので,今後調査サイトを増加す ることにより,客観性を高める必要があるとおもわれる。 4) 生産設備をどこから,どのように調達しているかも,原価管理にいろいろな影響を与 える場合がみられる。そこで,面談調査に於いて「製造設備の国際移転状況」について も調査を行ったので,以下参考までに示しておく。下記の表と面談調査での聞き取りか らわかることは,以下の2点である。日系企業の製造設備の基本的なものは,日本の親 会社で製造あるいは他の企業から調達したものが多いことである。それは,下記の表の 「日本の本社で制作したもの」(7社)と「日本の他の企業から調達したもの」(8社)を 合わせて15社になり,そのことが窺える。それに対して,最も多いのは「現地(中国) で他社から調達したもの」(10社)と,会社数では最も多くなっている。この場合は, 基本的な設備の付属部品や現地仕様でないと許可されないものなど,現地適応を求めら れる部品,スペックなど比較的位簡単な付属品である場合が多かったことが面談調査で 聞かれた。 生産設備の調達の実態 回答企業数と構成比 !日本の本社で制作した 7社 "日本で他の企業から調達したもの 8社 #現地で自社開発したもの 1社 $現地で他社から調達したもの 10社 %第3国から調達したもの 2社 生産設備の調達のレベル:製造設備の国際移転状況 *)n=12。複数回答可。 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―19―

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平均値(%) 最大値(%) 最小値(%) 企業数(n) 直接材料費 61.0 84.3 40.0 10 直接労務費 6.4 20.0 1.6 10 外注加工費 1.0 10.0 0.0 10 減価償却費 11.6 20.4 5.0 10 その他経費 19.6 25.0 7.9 10 表3−1 在中日系製造企業の製造原価の構成(2000年度) *)平均値の合計は,四捨五入の関係で合計が100%になっていない。 !製造原価の構成(2005年度) 2005年度の製造原価の構成を,表3−2により,2000年度と比較してみる と,以下の点が指摘できる。直接材料費の比率が,2000年度に比べて10%近 く増大しているが,欧米などのケースに比べて低く,それ以外の費用が高いこ とである。又減価償却費は10.6%と,2000年度と比較すると幾分減少してい るが,相変わらず高いことが窺える。逆に直接労務費の比率は減少してきてお り,中国への進出の大きな理由の一つが実現していることが窺える。 製造間接費(ここでは外注加工費+減価償却費+その他の経費を含む)の平 均値は,2000年度には32.2%であったが,2005年度には24.8%と,この5年 間に7.4%減少しているが,基本的なコスト管理の中心は,直接材料費と製造 間接費の管理が中心である。直接労務費の構成比が低い理由は,中国では直接 工の賃金が,沿岸部ではインフレなどにより上昇してきているとはいえ,諸外 国と比べると極端に低いという実態が影響しており,その構成比は低く,日系 平均値(%) 最大値(%) 最小値(%) 企業数(n) 直接材料費 70.5 89.5 40.0 13 直接労務費 3.9 20.0 1.0 13 外注加工費 0.9 10.0 1.7 13 減価償却費 10.6 27.0 1.1 12 その他の経費 13.3 21.6 5.2 12 表3−2 在中製造企業の製造原価の構成(2005年度) *)平均値の合計は,四捨五入の関係で合計が100%になっていない。 ―20― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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回答会社数 在中子会社に R&D 部門(会社)がある 10社(71.4%) 在中子会社に R&D 部門(会社)はない 4社(28.6%) 表3−3 研究開発部門の有無 企業の製造業者にとっては中国国内生産の大きなメリットになっている。 2.研究開発活動のローカル化の現状と課題 原価管理,特に計画段階での原価管理である原価企画の前提になる広義の研 究開発(研究開発:狭義,製品企画,設計の3段階を含む。R&D)が,どの 程度ローカルに国際移転されているかということは,コストマネジメントの前 提条件であり,その実態を明らかにすることは,とりわけ計画段階での原価と 品質の同時作り込みを目指す原価企画(target cost management)の国際移転に とって,非常に重要な前提である。そこで本項では,まず研究開発活動の中国 への国際移転の実態と課題を検討する。 !研究開発部門(会社)の有無 まず最初に,研究開発部門(会社)の海外子会社における有無について,表 3−3により明らかにする。中国の現地子会社に研究開発部門がある日系企業 は,10社(71.4%)と,全体の7割を超えており,中国政府の中国産業,企 業への技術移転の強い要請もあり,7割を超える企業がすでに何らかの形で中 国に R&D 機能をはじめとする技術移転を行っており,またそのための組織を 現地に持っていることが理解できる。それをベースに,現地での原価企画への 取り組みと国際移転を徐々に行っているようである。逆に4社(28.6%)の日 系企業はいまだ現地に R&D 部門が無く,現地での川下段階の製造機能を中心 にした技術,製品製造のノウハウを中国へ国際移転している段階にあるといえ る。 "研究開発部門の具体的内容 それでは中国の海外子会社における R&D 部門の実態をもとにして,具体的 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―21―

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在中製造企業のR&D 研究開発部門 製品企画部門 設計部門 R&D 部門(会社)はある 7社 6社 7社 R&D 部門(会社)はない 6社 6社 6社 表3−4 R&D 部門の具体的内容 *)研究開発部門(R&D,製品企画,設計部門)が「あり」のうち,1社は人数不明で ある。 なR&D 部門(機能)の内容を,表3−4により検討する。まず狭義の研究開 発部門があるのは,7社(53.85%)であり,基本的なR&D 部門は,半数を 超えた程度である。また製品企画部門があるのは6社であり,回答企業の丁度 半数の会社になる。又具体的な設計部門になってくると,7社(53.85%)で ある。いずれにしても研究開発機能(狭義のR&D,製品企画,設計を含む)の いずれの機能についても,ほぼ過半数の企業で研究開発部門が中国国内にある ことがわかる。 !研究開発のローカル化(製品企画から製造段階への垂直的な段階) それでは,ここでは表3−5によりながら,R&D(製品企画から製造活動 まで)のローカル化を,製造段階全体の中で考察してみる。そのことにより, 製造活動の川上から川下の中で,どの活動がどの程度ローカルに移転されてい るかを窺える。 最もローカル化が進展しているのは,当然のことであるが物作りの段階であ る「製造段階」であり,そのスコアは5.00点と,すべてが「世界の工場」で ある中国国内で行われている実態が理解できる。その次にローカル化のレベル が高いのは,原材料や部品の調達を行う「製造準備」の段階であり,そのスコ アは4.43点と,日本の親企業などからある特別な部品の調達を除くと,大部 分の原材料や部品調達活動が中国国内で行われていることがわかる。そのこと が,人件費の削減と共に中国への製造機能のローカル化の主要な意義である。 次にさらに川上段階にあたる「詳細設計」活動は3.18点と,ある程度中国 国内で実施されている段階にあるといえる。しかし,基本設計段階は2.74点, 製品企画段階は2.64点と,いまだ日本の親元事業部が中心に製品企画,基本 ―22― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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R&D 段階 製品企画 基本設計 詳細設計 製造準備 製造段階 平均値 2.64 2.74 3.18 4.43 5.00 企業数 n=15 n=15 n=14 n=14 n=14 表3−5 R&D(製品企画から製造活動まで)のローカル化 *)スコアは,以下のように配点されている。1点→現地では全然行われていない,3点→ ある程度現地で行われている,5点→現地でほぼ実施されている,として各段階の実施レ ベルを数字で記入して貰い,その合計点を回答企業数で割って,1社当たりの平均点を計 算した。 設計活動を行っており,徐々に原価企画活動を中国に国際移転している段階に あるといえる。その理由は,原価企画の理論と手法の現地での技術者への教育 訓練と共に,その意義を理解して貰う活動が重要であるためである。現地技術 者の養成や現地部品メーカーの育成がいまだ十分に進んでいなく,又中国は国 土がアメリカと並んで広大なため,原材料・部品調達の上でも,部品メーカー を集めて広州などで「逆見本市」なども開催し,部品メーカーの掘り起こしを 行っているが,現段階では,原価企画の意義と方法を技術者に教育する段階に あり,今後に残された課題も多いのが現段階の中国の実態である。日本国内と は経営文化が異なるなかでの原価企画の国際移転であり,部品調達,製造,販 売,アフターケアを巻き込んだ中国版の原価企画の考え方と方法が必要である ことを,現地に派遣された経営者から聞く機会も何度かあった。 !研究開発部門の技術者の実態 最後に,現地での原価企画を支える日本人技術者やローカルの技術者の教 育・育成がどの程度進んでいるのか,表3−6により,すでにR&D 部門を中 国国内に持っている日系企業の場合について,狭義の研究開発,製品企画,設 計部門に分けて検討してみる。 中国の子会社における全体の技術者数で最も多いのは,設計部門の技術者で あり,1社平均32.8人の設計技術者がいることがわかる。そのうち日本人技 術者は,1社平均3人というのが,現時点での平均値である。次に製品企画段 階の技術者は,全体で1社平均12.8人であり,そのうち日本人技術者は2.0 人という数字である。また狭義の研究開発段階になると,全体では1社平均 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―23―

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技術者 研究開発段階 製品企画段階 設計段階 全体の数 61人(10.1人)n=6 64人(12.8人)n=5 197人(32.8人)n=6 内日本人 7人( 1.8人)n=4 6人( 2.0人)n=3 12人( 3.0人)n=4 表3−6 研究開発部門の内訳(研究開発,製品企画,設計) *)カッコのなかは1社平均の人数である。 10.1人,そのうち日本人技術者は1社平均1.8人となっている。 以上のことから理解できることは,まずは設計段階,とりわけ詳細設計の技 術移転のために,日本人技術者を派遣し,現地の技術者に教育訓練する(場合 によれば,現地の協力・部品メーカーにも指導する)という形態である。次に 製品企画,狭義の設計段階の国際移転という形になるケースが多く見られるよ うである。ただ中国政府サイドからは技術移転は国際合弁や現地進出の大きな 条件として要請されることが多いが,中国での技術革新のスピードは非常に早 く,また偽物やコピー商品も簡単に作れる高い技術力があるので,技術移転の 必要性と共に,バイク,食品や飲料水などのケースにみられたように中国の合 弁相手企業が短期間でライバル企業になる危険性をも斟酌しながらも,中国の 「世界の工場と世界の市場」の魅力に引きつけられ,企業にとっては「背に腹 は代えられない」ということで進出対応しているケースが多いのも中国進出の 現実のようである。 3.製造原価低減のための課題 中国進出日系製造企業における原価管理の実態は,表3−7のとおりであ る。その特徴は,まず最も重要なのは製造コストの60%以上を占める原材料・ 部品をどう管理するか,すなわち「原材料の購買管理」であり,そのスコアは 3.19点と最も高くなっている。日系企業にとって,中国国内で日本標準(日 本の各親元企業の品質基準)を満たす原材料・部品を調達するということは, JETRO などの指導で「逆見本市」を長年継続して開催しているが,いまだ課 題も多いようである。それに次いで第2に重要な課題は,「原材料の転換」で あり2.07点となっている,これも原材料・部品に関係する項目であり,中国 生産にみあった原材料・部品を現地で品質,コスト,納期,安全性(QCDR) ―24― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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を満たせる会社(工場),製品を継続的に購入出来るようになるにはなおいま だ時間が掛かるようである。 第3の課題は,「品質管理(TQC を含む)」であり,そのスコアは1.63点 と,3番目に重要な製造原価低減のための課題になっている。これは,現在の 中国では「安かろう悪かろう」というのが世界的な評判であり,いまだ品質管 理よりもコストの低減というレベルにある中国企業が多く,また中国市場では 消費者も価格の安い製品を求める購買者が多いためであろうと思われる。 第4の課題は,流行に敏感で季節性が高い市場に対応して,如何に「適切な 操業度水準を維持」するかであり,1.59点を占めている。これは中国では, 例えば弱電製品の生産において,中国の国土は南北に長く,東西にも広いの で,製品の季節性が高く,その季節変動にどう対応するか,又生産ラインの稼 働率を保持するため如何に平準化生産を維持するかが重要な課題であるが,流 行とスピードのためそれを上手く実行することはなかなか難しい課題であり, パートタイマーの雇用により対応しているのが現状である。 第5の課題は,「設計の合理化」であり1.31点となっている。現在設計の中 国子会社への企業内水平移転の必要性が急速に高まっており,中国国内で優秀 な中国人技術者(エンジニア)もある程度確保できるようになってきているが, 政治的,経済的,技術的,文化的な課題をいくつも抱えている。同時に,リー ドタイムの短縮という製品製造のスピードアップという「スピードの確保 (delivery)」は中国ではきわめて重要な課題になってきている。それに対応す るには,又原価企画をローカル化するためには,R&D の現地移転が必須の課 題であるが,現時点では企業の戦略的観点や地理的な近接性などの理由から, ケースバイケースで国際移転するか国内に留保しておくかを決めている段階に ある。 第6の課題は,中国での販売ボリュームの大きさと製品需要の季節性のた め,在庫管理が重要であり,そのスコアは1.25点になってきている。これは 実際に中国での工場見学で日本人経営者が指摘していたことであるが,日本の 工場に比べて,「理念や精神」面ではジャスト・イン・タイム(JIT)生産をめ ざしているが,中国の地理的,技術的状況また従業員の意識レベルからする 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―25―

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と,ある程度の在庫を実際に工場現場に確保することが現段階では必要であ る。ただ中国工場における原材料・部品の棚卸在庫の削減は,日系企業間では 日本でのやり方をある程度持ち込み,徐々に進展してきている。そして中国の 部品メーカーとの間では,現在JIT 生産の重要性とその適用,方法について, 指導教育を行っている段階にあり,その必要性と意義を中国企業に理解して 原価低減の方策 重要度のレベル !機械設備の更新・増設 0.13 "原材料の転換 2.07 #原材料の購買管理 3.19 $設計の合理化 1.31 %工程組み合せの合理化 0.30 &適切な操業度水準の維持 1.59 '歩留まりの向上 1.19 (品質管理(TQC を含む) 1.63 )製品品種の標準化 0.19 *在庫管理 1.25 +作業の標準化 0.38 ,作業時間の短縮 0.56 -工場経費の削減 0.50 .研究開発管理 0.13 /外注管理(部品メーカー) 0.88 0その他 0.50 表3−7 製造原価低減のための課題 *)回答企業数 n=6。表中のスコアは,1位→5点, 2位→4点……として,上位5位まで,原価低減の方 法として重要な施策に順位を付けて貰い,回答企業数 で割って1社あたりの平均値をだした。ただし,必ず しもすべての会社が5位までマークしていないので, 表中のスコアの合計は,全体の合計と一致しない。全 体の施策の傾向を見るのに,重要な意義があると思わ れる。 なお「その他」には,国産化率の向上(1位),技 術者の教育(3位)と現地にR&D 部門がない,とい う回答がみられた。 ―26― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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貰っている段階にあるといえる。上記以外にスコアが1点台以上の原価管理の 課題は,「歩留りの向上」(1.19)であり,製造現場におけるコストマネジメン トの重要な課題である。 第7番目は,「外注管理(部品メーカー)」であり,0.88ポイントになって いる。これは国内の部品メーカーの中国での協力関係と共に,中国メーカーに 如何に日本的な高品質を確保し,コストの安い部品,納期の短いそして信頼性 の高い原材料・部品(QCDR)を作ることの意義を理解して貰い,如何に原材 料・部品のQCDR を確保するようにメーカーを教育指導するかという段階に ある。 それ以外には,工場内の生産方式や生産管理を日本の親元事業部レベルに如 何に引き上げるかということに関連する,作業時間の短縮(0.56点)や作業 の標準化(0.38点)などであり,又工場全体の経費削減(0.50点)も,コス トマネジメントにとっては重要な課題であるといえる。 4.原価管理の方法 それでは,すでに第3項において検討した原価低減の課題を解決するための コストマネジメントの手法について,中国に進出した日系製造企業はどのよう な原価管理の手法を用いてそれらの課題に対してどのように対応しているので あろうか,表3−8により検討してみる。 在中国日系製造企業におけるコストマネジメントの手法で最も多く活用され ているのは,予算編成・統制であり,その得点は3.00点と,非常に多くの日 系企業で原価管理の手法としても,予算を半期,四半期そして月次に分解し て,予算・決算の実績と差異分析をするとともに,生産現場では製品別に週次 や日次の生産活動(数値)にまでブレイクダウンされ活用されているようであ る。 次に多いのは,標準原価計算であり,その得点は2.79点である。これは最 も伝統的な原価管理の手法であり,生産工程の統制は最も有意義な手法であ る。それについで多いのは,標準原価計算の方法ほど洗練化された会計手法で はないが,実際原価計算(場合によれば見積原価計算も含めて)であり,2.57 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―27―

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点と,在中国日系企業における3つの代表的なコストマネジメントの方法であ ることが理解できる。 第4番目に利用されている手法は,物量的な管理手法である「VE/VA(価 値工学・価値分析)」であり,1.36点を占めている。また日本的な管理手法と して有名な「全社的品質管理(TQC を含む)」の得点は1.29点と,日系企業 では重要な方法であることが窺える。VE/VA や研究開発と併用することによ り有効な日本的管理会計(原価管理)の代表例を構成する「原価企画」は,在 中日系企業では,現時点では1.07点と,日系企業の部品メーカーとの間では ある程度活用され,そのやり方を中国の部品メーカーとの間に上手く移転可能 あるいは活用出来るかは,文化的,社会的,市場的な課題もあり,パイロット 原価管理の方法 重要度の順位 !実際原価計算 2.57 "標準原価計算 2.79 #生産管理的な物量管理 0.86 $予算編成・統制 3.00 %IE 0.00 &VE/VA 1.36 '全社的品質管理(TQC を含む) 1.29 (シミュレーション・モデル 0.00 )回帰分析 0.07 *目標管理(MBO) 0.50 +原価企画(TCM) 1.07 ,数理計画法 0.00 -PERT/CPM 0.00 .その他 0.00 表3−8 原価管理の方法 *)回答企業数:n=14。なお表中の得点は,1位→5点,2 位→4点,……5位→1点として,上位5位まで原価管理 の方法として重要な経営・会計上の課題について,重要性 の高い順に順位を付けて貰った。ただし,必ずしも全社が 5つの課題すべてにマークしていないので,表中のスコア の合計は,全体の合計と一致しない。 ―28― 香川大学経済学部 研究年報 49 2009

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的に行われている段階にある企業が多いようである。 以上につづいて,「生産管理的な物量管理」による原価管理の方法は,その 得点が0.86点となっており,また目標管理(MBO)も0.50点と,日系企業 では幾分活用されているといえる。 ただ上記以外の手法,例えば回帰分析,IE,シミュレーション・モデル,数 理計画法などの手法は,在中日系企業では,製造活動の原価管理にはほとんど 活用されていないのが現状であることが窺える。 ! 以上第1節において,中国経済の急速な発展状況による急激でラディカルな 国家主導の「資本主義化」と共に「世界の工場から世界の市場」化への流れの 中で,中国経済や企業活動の発展とその動向について紹介すると共に,同時に 管理会計・原価管理の調査研究の必要性を明らかにしてきた。中国における経 済成長の急速な進展は世界的に広く知られた周知の事実である。しかしそこに おける社会科学,とりわけ社会学的,経済学的,経営学的研究は急速に整備・ 蓄積が進展しており,ある程度中範囲のパラダイムを描くことも可能になって きている。しかし会計学的アプローチはようやくその端緒についた段階にあ り,その情報も分析も充分でなく不足している。とりわけ内部データを主要な 研究素材とする管理会計・原価管理の研究,データや資料の収集についてはい まだ不十分であり,その解明は急を要する重要な課題であることを指摘した。 そこで本稿では,そのような課題を埋める一環として,今回の調査研究は現 地での限られた標本による面談調査やデータ収集ではあるが,在中国日系製造 企業における管理会計や原価管理の実態とその広がり,及び現地の経営者,企 業がかえている課題と対応策について,現地で日本人経営者を中心に現地の経 営者へのインタビューをも交えて,面談調査をおこなった。その結果,在中国 日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題についてある程度究明出来た のでないかと考えている。ただ管理会計データそのものが企業の内部情報とし ての重要性と機密性の高い分野であることに加えて,中国の社会,文化,経 済,経営の特徴や中国における人的ネットワークの重要性のため,たとえ重要 在中国日系製造企業の管理会計・原価管理の実態と課題 ―29―

参照

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