パネルディスカッションA 奈良会場
『学校水泳で注意すべきこと』
井口 成明
・東京大学教育学部附属中等教育学校 ・東京都高等学校体育連盟水泳専門部常任委員 高体連研究部員 ・体育科教育学会員 野外教育学会員 安全教育学会員 (略歴) 早稲田大学スポーツ科学大学院博士課程前期修士修了 1995~1997 年度日本水泳連盟競泳ナショナルコーチ 2005 年~東京都高等学校体育連盟研究部員 発表要旨 Ⅰ .【 は じ め に 】 今回の筆者からの提案は、学校での水泳活動で注意すべきことを3点挙げることとする。それは「泳 ぎの得意な生徒ほど、溺水事故の危険がある」「過度の潜水泳法や息こらえ競争は危険」「授業での飛 び込みスタートは禁止」の3点である。 Ⅱ .【 溺 水 事 故 の 事 例 か ら 危 険 性 を 探 る 】(「水泳プールでの重大事故を防ぐ」日本水泳連盟編集か ら) (1)水泳の授業で泳力検定中。小学3年男子がスタート16m地点で「だるま浮き」のような状態で 動かない状態になって発見された。 (2)体育授業中。高2女子はクロールと平泳ぎをそれぞれ75m計測し、その後潜水の練習に入った。 授業終了直前に8~9レーンの中間地点で、うつ伏せで沈んでいたのを発見された。 (3)体育授業中。中2男子は50mの計測を行った。その後フリー練習の際、友人と水中鬼ごっこの ようなことをしていた。再び計測が行われたころ1レーンと2レーンの間の中央付近に横向きに沈ん でいるのを発見した。 (4)体育の授業中。中3女子はクロールで25m泳ぎ、2回目を泳ぎきったところで立ち上がりぼん やりしているようだったが、その後仰向けに浮いている状態になりプールサイドに引き上げたが、全 身にけいれんを起こしていた。 (5)体育の授業中。高1男子が飛び込みスタートに失敗。頭頂部をプール底に衝突させ、うつ伏せ のまま浮いてきた。 どの事故も、活発で体育が好きだった生徒が犠牲になった事故で、5件中4人は死亡している。こ のような事故がなぜ起きてしまうのか。どの子も水泳を得意としている。また、最後の生徒を除き、 決して長い距離ではないが、泳いだ後に発生している。指導者は、このような事故を起こさないため にも以下の3点には十分配慮して指導に臨まなければならない。 Ⅲ .【 ノ ー パ ニ ッ ク 症 候 群 】(「溺死事故-そのメカニズムと予防」日本水泳連盟監修から) ノーパニック症候群が発症するときの体内の二酸化炭素と酸素濃度の相関図(武藤 芳照作図) 酸素濃度ライン 泳ぐ前に緊張すると、過呼吸になる。また、潜水練習や潜り っこなどを数多く繰り返していると同様の状態に陥りやすくな る。すると血液中の二酸化炭素が減少するため普通の状態では、 二酸化炭素濃度が上がって、呼吸したくなり、もがきだす。し かし二酸化炭素濃度が上がる前に酸素を消費されているため意 識をなくし溺水してしまう。 定義:水中で前兆・恐慌・呼気へのもがきなしに、急速に意識 を消失する症候群 2.原因:潜水時間を延ばすため深呼吸を繰り返し過呼吸状態になる。これにより血中の二酸化炭素濃度 が低下する。低下した状態にあると血中酸素濃度が低下していても、二酸化炭素濃度は息こら え限界に達しないまま、苦しさを感じずに低酸素脳状態に陥り失神に至る。 Ⅳ .【 気 管 内 吸 水 】(「溺死事故-そのメカニズムと予防」日本水泳連盟監修から) 普通は気管の中に水が入ることはないのだが、溺れてしまったり、バタフライ、平泳ぎ等で泳いで いて、前方からの波で大量に水を飲み、その瞬間に迷走神経が伸びている心臓部、特に脈の部分に刺 激を受けることになる。その結果、普通60~70拍/分ある脈拍が、20拍/分くらいまで下がり、脳へ の血流が途絶え、死亡することもある。 Ⅴ .【 飛 び 込 み ス タ ー ト に お け る 重 度 障 害 】 毎年、1~3件ほど重度障害事故として発生している。しかし筆者が、東京都高等学校体育連盟に 所属する水泳部の生徒、およそ2000人にアンケート調査を実施したところ、水泳活動中に飛び込みス タートを行ったことによって、身体の一部を水底にぶつけた経験があると答えた生徒が35%もいるこ とが分かった。また、全体で200人近い生徒が、自らの水泳歴の中で頭部を打ったことがあると答え、 更にその内40人近い生徒が複数回(5回以上)も頭を打っていることが分かった。一般の生徒より飛 び込みスタートを多く練習しているはずの水泳部員でさえも以上のような状況にあることが分かっ た。ハインリッヒの法則にあるように、「災害」の規模別に比較すると、現れた数値は「1:29:300」 で、1件の重大事故の発生に対して、中程度のケガ(打撲、骨折)が200人、ぶつけたことはあるが 軽度な事故だったものが、700人にものぼる。ハインリッヒの法則より飛び込みスタート事故の発生 は高いことがわかった。これは、普段の生活では経験しない落下運動を学校の水泳授業時間内(およ そ6~12時間程度)で完全マスターすることはできないし、次年度までには頭で覚えていても、身の こなしまでは覚えてはいられない。その状態で、「去年はできていたから」と飛び込みスタートを行 い、入水角度が大きかったり、入水後の手が下方に向いていたりし事故に繋がっていることになる。 Ⅵ .【 こ れ か ら の 水 泳 事 故 を 起 こ さ な い た め の 安 全 授 業 対 策 】 (1)水泳シーズン前に生徒と保護者に注意、連絡事項をプリントで配布する。 生徒、保護者ともに日常の生活が正常に活動できていれば、身体には問題ないと思っていることが 多いようである。しかし、水泳授業は水中環境であり、水温、気候、その日の体調によって身体への 影響はかなり変わってくる。持病等がある場合は、必ずシーズン前に聞いておき、記録しておくよう にする。また、1時間授業時間を利用して、医学的、応急処置的知識を伝えておき、保護者用連絡プ リントを生徒各自に配布しておく。 (2)生徒の疲労度を確認(無理をさせないこと・監視を強化すること) できればT/Tの授業を! 前に述べたように生徒に水泳に対する嫌悪感や苦手意識があるだけで、過呼吸症を招きやすい状況 になる。低水温、低気温、強風の天候では入水を控える。水泳の練習は、3~4人グループで行い、 泳法検査は泳者1名、水中1名ないし2名、プールサイド(上方)から観察させ、フォームの点検を させるとともに、事故にできるだけ早く気付くようにする。 水球や自由練習の際は、教員、見学者がプールの最低4コーナーには監視に立ち、活動が止まった 生徒や様子のおかしい生徒には話しかけ、異常を教員に知らせるように指導する。 (3)授業での飛び込みスタートは、リスクが多いため原則禁止とし、水泳部であっても日本水泳連 盟のガイドラインで定められている、スタート台前方5m付近の水深が1.35m以上なければ、そのプ ールでのスタートは控え、水深の深いプールの学校や公立のプールで合同練習を行うようにする。 (4)溺者が出てしまった時のために、シーズン前から用具の点検、蘇生法の練習を怠らないこと。 図1.図2 水中で身体、頭をぶつけたことの経験のあ る生徒 「高校の水泳部におけるプール飛び込み スタートの負傷事故に関する調査研究」 アンケート回収数 1922 票 協力:東京都高等学校体育連盟水泳専門部 図1. 図2. 2.
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パネルディスカッションB 奈良会場
『体育活動における熱中症予防』
川原 貴
・前国立スポーツ科学センター長 ・日本臨床スポーツ医学会理事長 ・日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会・委員長 ・日本オリンピック委員会情報・医・科学専門部会・部会長 (略歴) 1976 年 東京大学医学部卒業、1984 年東京大学医学部助手、1985 年東京大学教養学部講師 1994 年 東京大学教養学部助教授、1999 年国立スポーツ科学センター設置準備室長 2001 年 国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部長、2014 年同センター長、2017 年1月退職 発表要旨 熱中症とは熱に中(あた)るという意味で、暑熱環境によって生じる障害の総称である。熱中症には 熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病などの病型があるが、重症な病型である熱射病では処置が遅れ ると、高体温から多臓器障害を併発し、死亡率が高い。 学校の管理下での熱中症は体育活動で多く発生しており、注意しなければならない。暑い中ではト レーニングの質が低下するため、トレーニング効果もあがらない。しかも消耗が激しい。したがって、 熱中症予防のためになるべく暑さを避け、頻繁に休憩をとり、水分補給をするなどの対策をすること は、事故予防という観点だけでなく、効果的トレーニングという点からも重要なことである。 Ⅰ .体 温 調 節 と 熱 中 症 体内では代謝に伴って常に熱が発生しているが、体表面から熱を放散することで体温を一定に保っ ている。激しい運動では 20~30 分で体温を4℃上昇させるのに相当する大量の熱が産生される。熱 の放散は皮膚血流の増加と発汗によって促進されるが、高温環境では熱の放散効率が悪くなる。高温 環境では汗の蒸発によってもっぱら熱放散が行われるため、大量の汗をかくが、水分、塩分の補給が 不十分だと脱水や塩分不足に陥る。脱水になると循環が悪くなり、熱の放散効率も悪くなる。高温環 境に長時間さらされたり、高温下で激しい運動をしたりすると熱のバランスがとれなくなり、異常に 体温が上昇して危険な状態に陥る。 ( 1 ) 熱 失 神:血管拡張、脳血流低下によるもので、めまい、失神の症状が起こる。座らせる、寝 かせる、寝かせて脚を高くするなどすれば通常は回復する。 ( 2 ) 熱 け い れ ん:大量の発汗があって水のみ補給した場合に塩分が不足して起こるもので、筋の 興奮性が亢進して四肢や腹筋のけいれんと筋肉痛が起こる。濃い目の食塩水(0.9%の生理食 塩水など)を補給すれば回復する。 ( 3 ) 熱 疲 労:脱水によるもので、全身倦怠感、脱力感、めまい、吐き気、嘔吐、頭痛などの症状 が起こる。体温の上昇は著明ではない。涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、スポー ツドリンクや経口補水液などで水分を補給すれば通常は回復する。 ( 4 ) 熱 射 病( 重 症 ):異常に体温が上昇して起こり、高体温と種々の程度の意識障害(見当識障 害から昏睡まで)が特徴である。脱水が背景にあることが多く、血液凝固障害(DIC)、脳、 肝、腎、心、肺などの全身の多臓器障害を合併し、死亡率も高い。 熱射病は死の危険が迫った緊急疾患であり、冷却の処置をしながら一刻も早く集中治療の できる病院へ運ぶ必要がある。熱射病の予後は高体温の持続時間に左右されるため、現場で の冷却処置が重要である。 Ⅱ .救 急 処 置 熱中症を4つの病型に分けて、病態を説明したが、実際の例ではこれらの病型に明確に分かれてい るわけではなく、脱水、塩分の不足、循環不全、体温上昇などがさまざまな程度に組み合わさってい 2.ると考えられる。したがって、救急処置は病型によって判断するより重症度に応じて対処するのがよ い。 暑い時期の運動中に熱中症が疑われるような症状が見られた場合、まず、重症な病型である熱射病 かどうかを判断する必要がある。熱射病の特徴は高体温(直腸温 40℃以上)と意識障害である。意識 障害は初期には軽いこともあり、応答が鈍い、言動がおかしいなど、少しでも意識障害がある場合に は熱射病を疑って処置をしたほうがよい。熱射病が疑われれば、救急車を要請し、涼しいところに運 び、速やかに身体冷却を行う。現場での冷却処置としては、氷水に漬ける、水をかけて扇ぐ、頚、腋 下、鼠径部などの太い血管のある部分に氷やアイスパックを当てるなどの方法がある。 意識が正常な場合には涼しい場所に移し、衣服をゆるめて座らせるか、寝かせ、スポーツドリンク や経口補水液などで水分と塩分の補給を行う。また、うちわなどで扇ぐのもよい。大量に汗をかいた にもかかわらず、水だけしか補給していない状況で、熱けいれんが疑われる場合には、濃い目の食塩 水(0.9%の生理食塩水など)で水分と塩分を補給する。このような処置をして症状が改善すれば、 結果的に軽症だったということになる。現場での処置によって症状が改善した場合でも、当日のスポ ーツ参加は中止し、少なくとも翌日までは経過観察が必要である。 このような処置をしても症状が改善しない場合、最初から嘔気、嘔吐などで水分が補給できない場 合には、医療機関へ搬送し、点滴などの治療が必要となる。 Ⅲ .熱 中 症 の 発 生 し や す い 条 件 熱中症の発生には、環境の条件、個人の条件、運動の条件が関係している。 ( 1 ) 環 境 条 件 :気温、湿度高い、直射日光など輻射熱が大きい、風がない条件で熱中症は起きや すい。運動部活動ではそれほど高くない気温(25~30℃)でも湿度が高い(60%以上)と熱中症が 発生しており、湿度に注意が必要である。特別に暑い時だけでなく夏のごく普通の環境条件で多く 発生していることを認識する必要がある。また、前日と比較して気温や湿度が大幅に上がった日は 熱中症が起きやすく、要注意である。運動部活動ではほとんどが7、8月に起きているが、9、10 月に起きることもある。7月下旬に最も多く発生しているが、暑さへの慣れが関係していると考え られる。学校のスポーツ行事では秋や春に急に気温が上がった時に発生している。 ( 2 ) 個 人 の 条 件 :肥満の人、体力が低い人、暑さに慣れていない人、体調の悪い人は熱中症にな りやすい。特に学校管理下の熱中症死亡事故の7割は肥満であり、要注意である。睡眠、食事を十 分にとって体調を整える、かぜ、発熱、下痢など体調が悪い時は無理をさせないなどの注意が必要 である。 ( 3 ) 運 動 の 条 件 :激しい運動ほど熱中症を起こしやすい。学校管理下の熱中症死亡事故のほとん どは運動部活動によるものである。一部は学校のスポーツ行事でも起きている。死亡事故は野球で 最も多く発生している。また、屋外では広いフィールドを走り回るラグビー、サッカー、室内では 厚い道着や防具をつける柔道、剣道で多く発生している。また、種目にかかわらず半分以上が持久 走やダッシュの繰り返しで発症しており、暑い時期のランニングは注意が必要である。激しい運動 では1時間以内でも起きているので、休憩を頻回に取ることが重要である。 Ⅳ .熱 中 症 の 予 防 対 策 ( 1 ) な る べ く 暑 さ を 避 け る こ と 運動はなるべく暑くない時間帯にすること。照明があれば夜間にするとよい。 ( 2 ) 環 境 条 件 を 把 握 し 、 そ れ に 応 じ た 運 動 の や り 方 、 頻 回 に 休 憩 、 水 分 補 給 を 行 う こ と 環境条件に応じてこまめに休憩をとり、水分補給を行う。環境条件は気温、湿度、輻射熱、気流 を反映する WBGT(湿球・黒球温度)で評価する。WBGT の基づいた運動の指針を日本体育協会が示し ている。暑い時には慣れない持久走や長時間のダッシュの繰り返しなどはしない。 WBGT25℃以上では少なくとも 30 分に1回は休憩をとる。WBGT28℃以上では 10~20 分おきに休憩 をとる。WBGT31℃以上では原則運動は中止する。 汗の量が多い場合には、こまめに水分と塩分(スポーツドリンクや 0.1~0.2%食塩水)を補給す る。発汗量は体格、環境条件、運動強度によって異なり、また個人差もあるので、適切な水分摂取 2.
2. 量は一概に言えないが、体重が参考になる。運動前後に体重を測定し、体重減少が2%以内になる ように水分補給を行う。 ( 3 ) 休 憩 中 に 体 温 を 下 げ る 工 夫 を す る 休憩中は日陰に入る、防具を緩める、体を 濡らして扇風機などで風に当たる、氷やアイ スパックで体を冷やす、細かく砕いた氷を摂 取するなど体温を下げる工夫をするとよい。 ( 4 ) 暑 さ に 徐 々 に 慣 ら し て い く こ と 急に暑くなり、暑さに慣れていない時に熱 中症は起きやすい。急に暑くなった場合、暑 い時期にオフから練習を再開する場合には、 短時間の軽い練習から徐々に慣らしていく。 けがなどで練習を休んでいた者が途中から参 加する場合には、暑さに慣れるまで練習を軽 減するなど配慮が必要である。 ( 5 ) 個 人 の 条 件 を 考 慮 す る こ と 肥満の者、体力が低い者、暑さに慣れてい ない者、体調の悪い者は熱中症になりやすい。 特に学校管理下の熱中症死亡事故の7割は肥 満であり、要注意である。肥満の者、体力の 低い者、暑さに慣れていない者では、練習を 軽減するなどの配慮が必要である。睡眠、食 事を十分にとって体調を整える、かぜ、発熱、 下痢など体調が悪い時は無理をさせないなど の注意が必要である。夏合宿では体重や体温 などを毎日測定して健康状態をチェックするとよい。 ( 6 ) 服 装 に 気 を つ け る こ と 暑い時には熱を放散しやすい軽装とし、帽子で直射日光を防ぐ。休憩中には防具を外して熱を放 散しやすくする。 ( 7 ) 具 合 が 悪 く な っ た 場 合 に は 早 め に 運 動 を 中 止 、 必 要 な 処 置 を す る こ と
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『「学校管理下における体育・スポーツ活動中の
事故を防止するために」作成について』
村井 篤史
奈良県教育委員会事務局保健体育課学校体育係 指導主事 (略歴) 1992 年 天理大学卒業 1995 年~ 奈良県中学校教員 2014 年~ 現職 発表要旨 は じ め に 奈良県教育委員会では、体育・スポーツ活動における事故防止について、各学校において適切な対 応と効果的な指導が展開されるよう、本県で過去に発生した事故事例や独立行政法人日本スポーツ振 興センターのデータをもとに、外部の有識者を含めた学校体育・スポーツの関係者で検討するために、 「学校管理下の体育・スポーツ活動における事故防止検討委員会」を設置し、検討・協議を進めた。 本委員会での検討・協議内容を踏まえ、平成 29 年3月に県教育委員会が事故防止に係る資料「学 校管理下における体育・スポーツ活動中の事故を防止するために」を作成し、重大事故の絶無と事故 防止に向けた取組を推進している。 Ⅰ .奈 良 県 に お け る 「 学 校 の 管 理 下 に お け る 災 害 」 の 発 生 状 況 概 要 〈独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付データより〉 (件) 区分 H23 H24 H25 H26 H27 合計 % 小学校 体育(授業等) 1,341 1,350 1,191 1,193 1,136 6,211 20.9 運動部活動 16 20 23 17 8 84 0.3 その他 5,150 5,033 4,636 4,430 4,182 23,431 78.8 小 計 6,507 6,403 5,850 5,640 5,326 29,726 中学校 体育(授業等) 1,083 1,086 1,018 1,076 1,059 5,322 18.7 運動部活動 3,027 3,187 3,213 3,138 3,094 15,659 55.0 その他 1,582 1,546 1,600 1,447 1,296 7,471 26.3 小 計 5,692 5,819 5,831 5,661 5,449 28,452 高校 体育(授業等) 732 656 656 721 644 3,409 20.0 運動部活動 1,990 2,130 2,077 2,154 2,167 10,518 61.7 その他 660 619 607 629 600 3,115 18.3 小 計 3,382 3,405 3,340 3,504 3,411 17,042 合 計 15,581 15,627 15,021 14,805 14,186 75,220 Ⅱ .検 討 委 員 会 の 概 要 (1)第1回検討委員会(平成 28 年 12 月 27 日) 全国・近畿・本県における体育・スポーツ活動中の事故の現状、本県における事故防止の取組、 学校・教員が負う安全配慮義務、ヒヤリハット事例等について、協議・検討 (2)第2回検討委員会(平成 29 年2月 21 日) 体育・スポーツ活動中の事故防止を図るための資料の骨子案を協議・検討 2.(3)第3回検討委員会(平成 29 年3月 28 日) 「学校管理下における体育・スポーツ活動中の事故を防止するために」のとりまとめ Ⅲ .県 教 育 委 員 会 作 成 の 事 故 防 止 に 係 る 資 料 「 学 校 管 理 下 に お け る 体 育 ・ ス ポ ー ツ 活 動 中 の 事 故 を 防 止 す る た め に 」( 冊 子 ) に つ い て (1)全国・近畿・奈良県における重大事故(死亡・後遺障害)について (2)奈良県における過去 10 年間に発生した重大事故について (3)熱中症について、近畿各府県の状況について (4)奈良県において発生した熱中症発生件数、状況、対応、予防に関する取組について (5)熱中症の予防と対応について、奈良県版を作成 熱中症発生時の対応マニュアル(熱中症EAP)を全面改訂 (6)体育・スポーツ活動の安全な実施のために、事故防止の基本的な考え方と安全配慮義務につ いて ① 事故防止の基本的な考え方 道義的・法的義務(注意義務) ア 安全を確保する義務(危険予測義務、結果予見義務) イ 危険な結果を回避する義務(危険回避義務、結果回避義務) ② 安全配慮義務(法的な注意義務) ③ 事故防止及び発生時等の取組(対応) ア 事前の取組 イ 活動中の取組 ウ 事故発生時の対応 エ 日常における取組 (7)学校内で事故が発生したときの対処、救急及び緊急連絡体制の例を作成し、適切な事故発生 時の対応例を示した。 Ⅳ .ヒ ヤ リ ハ ッ ト 事 例 の 収 集 と 活 用 「ヒヤリハット事例の収集と活用」について、事故防止検討委員会で協議検討し、平成 29 年度 より、県内の学校から学期ごとに、事例を収集し、県教委でとりまとめ、各学校に注意喚起をす ることにより事故防止に繋げる。 お わ り に 近年、子どもを取り巻く生活環境やライフスタイル等が大きく変化し、心の健康や生活習慣に関わ る課題、犯罪被害や交通事故、学校管理下の事故や自然災害の度重なる発生など、子どもの心身の健 康や安全、食習慣に関する多くの課題が顕在化している。 そのような中、適切な保健・安全管理の実行と学校における健康・安全に関する指導の充実等によ り、子どもたち自身の知識や対応力の基礎を培い、長い時間を過ごす学校という場で、健康・安全を 一体と捉えながら健康教育を推進していくことが、より一層求められている。 学校安全の分野においては、全国的に見ると学校における体育活動中の重大事故が多く発生してい る状況にあり、本県においても、これまでに重大事故が発生している。 このような現状を踏まえ、各学校においては、「学校管理下における体育・スポーツ活動中の事故 を防止するために」(冊子)を現在実施している安全対策の再点検のきっかけとして活用するととも に、今後の学校管理下の体育・スポーツ活動における事故防止に繋がるよう期待する。 2.
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『スポーツ傷害を予防する』
〜不慮の事故・無理な予防からの脱却〜
西田 佳史
・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員 ・日本人工知能学会、日本ロボット学会、日本公衆衛生学会など (略歴) 1998 年東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了、博士(工学)。1998 年通商産業省 工業技術院 電子技術総合研究所入所。201 年、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能 研究センター 首席研究員。センシング技術(IoT)と人工知能を活用した生活支援技術、高齢者の 社会参加促進技術、子どもと高齢者の傷害予防の研究に従事。 発表要旨 Ⅰ .不 慮 の 事 故 か ら の 脱 却
海外の学会では、injury の前に「preventable」をつけて「preventable injury」という言葉を聞くこ とが多い。事故につける形容詞として、「不慮の」と「予防可能な」は正反対の考え方である。事故を健康 問題として考えるのか、それとも運命であり避けられないものとして考えるかの大きな違いである[1]。 Ⅱ .無 理 な 予 防 法 と 実 効 性 の あ る 予 防 法 傷害を予防可能なものにするには、一般に、三つの側面からのアプローチが重要であるとされている。 1)製品・環境デザイン(Environment)、2)教育(Education)、3)法規制(Enforcement)の三つであ る。筆者の経験では、その前に、「無理な予防」の理解があると考えている。やっている気になっているが 実際には実効性の低い予防法(実際には予防法ではない)を避け、3Eを実践する必要がある。本稿では、 野球による傷害を例題に、不慮の事故から脱却させる方法を考察してみたい。 日本スポーツ振興センターの調査研究によると、2004 年度から 2013 年度までの 10 年間で体育授業・運 動部活動・体育的行事などの体育活動中に発生した障害事例(障害等級第1級から第 14 級)が 1998 件報告 されている.その内訳で最も多いのは「野球」の 582 件で、うち「視力・眼球運動障害」が 259 件、「歯牙 障害」が 204 件であった[2].最も多かった打撃時 94 件において、負傷の原因は、図1に示すように自打 球が 76 件であり、自打球による負傷の発生が 80.9%を占めていた[3]。 図1: JSC のデータの分析(左)およびビデオを用いた分析(右) 次に、秩父市セーフコミュニティの協力を得て、ボランティアで研究参加に同意した中学校野球部部員 12 名を対象に、普段行っている打撃練習の様子を2台のビデオカメラを用いて撮影し分析した(図2)。 ファウルチップ後のボールの平均速度を用いて、直接的に打者の眼に自打球が当たる時間を算出した結果、 0.05±0.02 秒であった。現状では眼の障害を防ぐためには、バットをスイングした状態で 0.05 秒以内に ボールを避けるしかなく、人の視覚刺激の反応速度が 0.18~0.20 秒程度であることから判断すると、回避 行動でファウルチップによる傷害を予防することは不可能であることが分かった[3]。 2.
図2:ビデオを用いた分析結果(左:軌跡の分析、右:ファウルチップ前後の速度変化) Ⅲ .「 変 え ら れ る も の 」 を 見 つ け 、 変 え る 試 み ファウルチップによる眼の傷害を予防する方法の一つは、プロテクターの使用である。しかしながら、 使いづらい、ボールが見えにくいなど、ユーザビリティ上の問題や、プレーを行う上で新たな支障が生じ る可能性もある。机上での議論だけでは限界があるので、実際に、中学校の野球の部活で使ってもらう実 験を行った(図3参照)。安心感を向上させ、視認性にも優れており、予防可能性を持った製品もあった。 図3:プロテクター使用における安心感(左)、ボールの視認性の調査(右) Ⅳ .予 防 に つ な が る 安 全 教 育 ツ ー ル 今回、紹介したスポーツ中の 眼の事故やその予防法に関する 教材として、最近作成された教 材がおすすめである[4]。また、 産業技術総合研究所では、NPO 法 人 セ ー フ キ ッ ズ ジ ャ パ ン (http://safekidsjapan.org/) と協力し、事故情報の収集を予防 に役立てるための傷害予防支援 ツールを開発・配布している。保健室等で用いることができる事故情報を収集・分析・可視化するソフト ウェア(図4)と、保健・体育(小学生)や技術・家庭科(中学生)の授業で活用可能な教材(図4)の配布 を行っている。要望があれば連絡を頂きたい(問い合わせ先:http://safekidsjapan.org/inquiry/)。 参 考 文 献 [1] 神尾 陽子, 桃井 眞里子, 児玉 浩子, 山中 龍宏ら,子どもの健康を育むために─ 医療と教育のギャ ップを克服する ─(学術会議叢書23), 日本学術協力財団, 2017 [2] 日本スポーツ振興センター, 学校でのスポーツ事故を防ぐために 成果報告書【資料編】, 2015. [3] 楠本欣司, 北村光司, 西田佳史, 米山尚子, 山中龍宏, "スポーツ傷害サーベイランスとビデオサー ベイランスを用いた野球顔面部傷害の分析," 第 17 回 SICE システムインテグレーション講演会 2016, pp.2009-2013, 2016 [4] 映像資料(DVD)スポーツ庁委託事業 スポーツ事故防止対策推進事業「学校でのスポーツ事故を防ぐ ために」(http://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/bousi_kenkyu/tabid/1765/Default.aspx) 図4: 傷害データ収集と啓発ツール(無料) 2.