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1. は じ め に 本論文は環境,エネルギー関連の高温燃焼装置に用い る材料の高温腐食についてわかりやすく記述するのが目 的であるが,その前に工業材料とは何かについてふれて みたい.身近な工業製品の家電機器,輸送機械,発電設 備などには鉄合金,ステンレス鋼,Ni 合金あるいはセラ ミックスなどさまざまな材料が使用されている.これら の材料は地殻から採鉱され,選別,精錬で純度を上げ, さらに合金化,成形加工などの多くの工程を経て作られ る.地殻の中では酸化物,硫化物などの形で岩石中に存 在するが,高温の還元性雰囲気で精錬して純粋金属を得 る.そのため,金属を色々な高温ガス雰囲気中で使用す るとその環境で安定な酸化物,硫化物,硫酸塩あるいは 塩化物などへ変化する.この自然へと回帰する現象は材 料を利用する側から見ると“高温腐食”と呼ばれ,技術 者,研究者の頭をなやます厄介物となる.大きな労力を 払って作られた貴重な材料の消耗,廃棄は社会的な損失 であり,エネルギー有効利用,公害防止などの面でも腐 食の阻止が重要と考えられる.腐食への対策費が年間 5 兆円にも及んでいることが(社)腐食防食協会でまとめら れた統計からもわかるが,これらの損失は製品の価格に 含まれ,公共設備では税金などの形で各個人が負担して いる.従って不要となった材料はリサイクルしたり,リ サイカブルな工夫が必要となっている.さらに,多くの 機械に囲まれて生活している現代人にとって腐食の防止 は身の回りの安全性の確保と密接な係わりがあることが しばしば起こる事故の原因からも感じとれる.産業革命 以来,人間は多量のエネルギーを用いた工業生産により 生活に役立つ色々な物を作り,科学技術の急速な発展を 成し遂げたが,一方で生産や利用にともなう CO2,ダイ オキシンなどの有害物質あるいは廃棄物の発生が増え, これらを無害な形で処理する必要が増してきたのが最近 の社会情勢と言える. 高温腐食はエネルギー設備,化学反応装置,公害防止 機器,輸送機械など生活を支える基盤設備において問題 となり,一般の人が直接目に触れることは少ないが,ガ スコンロの黒色酸化スケール生成など生活上でも一部の 現象を発見することができる.実装置の高温腐食は環境 側と材料側の色々な要因が影響して発生する複雑な現象 のため難解な面が多いが,本紙では高温腐食へ入門する 人達向けに出来るだけ簡潔に記述することとしたい. 2. 高 温 腐 食 と は 表 11)に高温腐食が問題となる主な装置,プラントの 一覧を示す.高温燃焼ガスが生ずるガスタービン,ボイ ラ,エンジン,ごみ焼却炉あるいは熱分解ガスを生ずる 石油精製,改質装置などの大型機器から自動車エンジン, 電気炉など比較的小型の機器まで,それぞれ腐食の現象 と程度は異なるが色々な装置が対象となる.実装置では (1) 高温腐食が装置の全寿命を通じて影響が小さいもの, (2) 腐食が装置寿命を左右し,定期的な改修が必要なも のなどさまざまであるが,熱を利用する装置は高温ほど エネルギー,熱効率が良好となるため,効率向上が不可 欠なガスタービン,発電プラントなどでは現在において も装置の効率向上や材料の耐久寿命を延ばす研究開発が 続けられている. 高温腐食の温度上の定義については必ずしも明確では なく,一般には 100℃以上を指すことが多い.水溶液が 関係せず,ガス,溶融塩などが腐食反応の原因となる点 で水溶液腐食とはメカニズムが大きく異なり,“乾食” とも呼ばれる.表 2 に古くより知られている色々な高温 腐食現象の分類を示すが,原因物質,腐食反応などの面

環境保全・エネルギー変換装置用材料の高温腐食

川 原 雄 三* *三菱重工業株式会社 横浜研究所

High Temperature Corrosion in Environmental and Energy Conversion Equipments

Yuuzou Kawahara*

Yokohama R&D Center, Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.

Wastage of materials manufactured by much effort is social loss, also, prevention of corrosion is important issue to effective use of energy and prevention of pollution. Furthermore, the corrosion can be directly related to safety life on recent people living contact with many machines and plants. High temperature corrosion arise on the social base equipments supporting human life such as energy conversion plants, chemical reactor,. pollution prevention equipment and transportation system, and corrosion phenomenas are somewhat complicated due to influencing man kinds of environmental and material factors.

This paper describes basics of main corrosion reactions, mixed oxidant corrosion, molten salts corrosion and hot corrosion in actual equipments etc. aiming of easy understanding in students and non-professional people.

Keywards : high temperature corrosion, chlorination, sulfidation, oxidation, molten salt corrosion, fossile fuel

boiler, waste-to-energy boiler, gas turbine, mixed oxidant corrosion, protective oxide scale, corrosion mechanisms, corrosion prevention method

〒231−8715 横浜市中区錦町 12 番(12, Nishiki-chyo, Naka-ku,

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から色々な名称が経験的に使用されてきている.材料の 腐食に直接関与する物質は色々なガス(気体) あるいは 溶融物質(溶融塩等) であり,実装置では,これらが複 数で同時に関与することが多い.表 3 に各種ボイラにお ける腐食性物質と腐食現象の一覧を示す.O,S,Cl が腐 食性の強い代表的な 3 大元素と言える. 図 1 の腐食要因の模式図に示すように高温の実装置で は化学反応のみならず材料の組織変化,機械的応力,温 度勾配などさまざまな要因が影響する.外部要因の変動 と同時に材料や腐食生成物の中で元素の拡散が起こるた め,動的条件の中で腐食現象が進行しており,この点が 腐食現象の解明を一層困難にしている.従って真の腐食 メカニズムが明確になっていないものもあるが,実機あ るいは実験室模擬環境で材料の腐食挙動,腐食速度が予

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測でき,経験的な腐食防止法が明らかであれば装置の設 計,運転は支障なく行える. 3. 高温腐食の単一反応 実装置における複合的な腐食反応を記述する前に高温 腐食の主要な単一反応である酸化,硫化,塩化腐食およ び溶解塩腐食について考えてみたい.複合腐食(Mixed Oxidants Corrosion) はこれら複数の反応が個別にあるい は相互に影響し合って起こる. 3.1 高 温 酸 化

酸化反応は酸素(O) との反応であり,O2,H2O,CO2

など酸素を含む高温ガス中で起こる.図 2 に大気中の加 熱で鉄の表面に形成された酸化スケール(酸化鉄) の断 面構造を模式的に示す.厚さ方向の酸素分圧(PO2) の勾 配に沿って,外層より Fe2O3,Fe3O4,FeO の 3 層構造と なり,温度と PO2条件によって熱力学的に安定な酸化物 が形成される.このような酸化物の成長は Fe の外方へ の拡散,移動により起こるとされている2).合金の場合 には色々な合金元素の酸化物が混合したスケールが形成 され,例えば図 33)の鉄−クロム合金のスケールでは酸化 表 3 各種ボイラの燃焼ガス中における腐食性物質(ダスト) と高温腐食現象 表 2 高温腐食現象の分類

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鉄/金属界面に耐酸化性に有効な Cr2O3が生成 し,Fe の外方拡散が抑制される.金属の酸化 されやすさは図 4 に示す標準生成自由エネルギ ーΔG0 O2線図(エリンガム線図) で示される 4) Al, Si など下方に位置する金属ほど低い PO2で酸 化されるため,Cr と同様に界面で酸化物を形成 しやすい.このような安定した保護スケールが 生成されると酸化速度が刻々と低下し,図 5 に 示す拡散律速の放物線的な酸化曲線を示す.従 って,工業的には安定な保護性スケールを生成 する合金が開発され,ニクロム線,ステンレス 鋼など日常の工業製品にも多く利用されてい る.しかし,どのような合金も特有な限界温度 を 超 え る と 保 護 性 ス ケ ー ル が 壊 れ る た め (Break-away),図 6 の酸化量線図に見られるよ うに酸化速度が急激に増加する5) また,水蒸気中においても“水蒸気酸化”と 呼ばれる酸化現象が起こり,ボイラなどの高温 高圧水蒸気中で使用される材料において問題と なる.例えばステンレス鋼における上層スケー ルの剥離による伝熱障害,9Cr−1Mo 鋼のスケー ルの早期成長などが過去に問題となっている. 水蒸気を含むガス中での酸化の促進はポーラス 図 3 Fe−Cr 合金の酸化スケール構造と酸化速度3) 図 2 鉄表面に生成した酸化スケールの構造(1273 K) 図 1 高温腐食要因の説明図 図 4 酸化物の標準生成自由エネルギー線図4)

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なスケール生成に起因するとされており,現在もメカニ ズム解明や材料開発の研究がなされている. 3.2 高 温 硫 化 酸化と同様に高温硫化では硫化鉄(FeS) スケールが生 成し,放物線則で腐食が進行するが,下記の理由により 酸化に比べ著しく腐食速度が増加する. a) 多くの場合,硫化物中の原子の拡散速度が酸化物 中に比べ著しく大きい. b) 硫化物の保護皮膜形性能が低く (限界 Cr 濃度は約 40%),条件によっては低融点共晶塩 (Ni3S2/Ni) を 生成して腐食を促進する. c) 硫化物は標準生成自由エネルギーが低く,低 PS2 条件でも硫化反応が起こる(Fe,Cr,Al など). このような硫化腐食は還元性ガス中の H2S あるいは S が直接金属と反応し,また,酸化性雰囲気中では付着ダ ストなどが影響して低 PO2条件が形成され,SO2ガスや 硫酸塩などが還元されて出来た S が金属と反応する. 3.3 塩 化 腐 食 HCl,Cl2などのハロゲン化合物のガスは次の理由によ り硫化などに比べ大きな腐食速度を示す. a) 数 100℃の低温度においても金属と活発に反応す る6) b) 形成された金属塩化物は蒸気圧が高いため保護皮 膜を形成し難い.また,融点が極めて低い. 燃焼ガス中では,H2O が存在するためほとんどが HCl ガスとなるが,同時に Na,K,Zn などの金属元素が存在 すると金属塩化物などの低融点ダスト成分を生成する. また,ダスト中の酸化物などの触媒物質の効果により Cl2ガスが生成されると大きな腐食速度となる. 3.4 溶融塩腐食 燃焼ガス中の腐食性溶融塩として表 3 に示したような アルカリ,重金属の塩化物,硫酸塩および V2O5,PbO など低融点酸化物が良く知られている.これらの成分は 燃料中に微量含まれ,燃焼にともなって生成され,温度 の低い伝熱管表面などに選択的に付着して腐食を大きく 加速する.主な溶融塩の作用として下記の点が知られて いる. a) 保護性酸化スケールを溶融,破壊する. b) 腐食反応の起こるスケール下部での PS2, PCl2を高 める. 溶融塩が付着した材料の腐食速度は塩基度/酸性度, ガスの溶解度,溶融相量および塩の付着速度などにより 左右される.高温状態の溶融塩はその化学的,物理的性 質の調査が難しいこともあり,明確となっていない面が 多く,今後の研究に期待される. 4. 実装置における高温腐食と腐食防止 廃棄物,化石燃料を用いる燃焼装置のボイラなどでは 燃料および燃焼空気中に含まれる塩素,硫黄,酸素など から SOx,HCl などの腐食性ガスが生じ,同時に含まれ る Na,K あるいは V,Zn,Pb などの硫酸塩,塩化物, 酸化物の低融点ダスト成分が生成される.ダスト成分は 材料表面に付着,堆積し,一部が溶融してハロゲン腐食, 硫化腐食,バナジウムアタックなどの強い腐食環境を形 成する.また,ボイラでは燃焼ガス中に通常 2∼10%程 度の過剰 O2 を含むが,不均一燃焼あるいは低 O2(低 NOx) 運転などに起因して部分的な還元性ガス雰囲気が 形成されると腐食を促進する.色々な燃焼装置の腐食環 境を包括的に見た場合,反応界面で環境に応じた塩素/ 硫黄/酸素分圧の条件が形成され,また,特有な温度域 で溶融灰が関与するなど複数の反応が重畳して激しい腐 食が発生すると考えられる.さらに,実機では腐食条件 の変動がたえず起こるため環境の変化を考慮しつつ腐食 機構の本質をとらえることが重要となる. 一方,材料側から現象を見た場合,多量の O2と少量 の SOx,HCl などを含む燃焼ガス環境では,多くの場合, 金属酸化物の安定度が高いため腐食生成物の最外層には 保護酸化スケール層が生成される.実機の温度変化が大 きい条件では,この酸化スケールの破壊が生じ,腐食速 度が増加するため材料の開発,選定などに際して保護ス ケールの挙動を考慮することが必要と言える. 色々な腐食環境あるいは合金系における複雑な腐食現 象のすべてを記述することは紙面の関係で難しいため, 本章では典型的な Cl/S/O 共存環境の廃棄物,化石燃料 の発電プラントを中心に腐食環境と現象の特徴を記述す ることにしたい. 4.1 廃棄物発電ボイラ 腐食環境の低減や耐食材料の使用により現在では蒸気 条件が 400∼500℃/3.9∼9.8 MPa へと上昇しており,環 図 5 腐食量の経時変化と速度則 図 6 都市ガス燃焼雰囲気中における各種合金の酸化曲線5)

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境に応じて炭素鋼から Ni 基合金(Alloy 625) までの色々 なボイラ用耐食材料が使用される.腐食環境の特徴とし て燃焼ガス中の HCl ガスの存在と多量の塩化物を含む強 腐食性ダストの付着が挙げられる.図 7 に廃棄物発電ボ イラにおける腐食要因形成の説明図を示すが7),主な腐 食要因は次のように示される. 1) メタル温度: 図 8 に示すようにメタル温度の上 昇により灰が溶融して腐食速度は大きく増加する8) 2) ガス温度 (温度勾配): 塩化物などの付着速度, スケールの安定性などを左右し,図 9 に示すように 腐食速度への影響は大きい9) 3) 付着灰性状: Na, K あるいは Zn, Pb などの金属 塩化物と硫酸塩との共晶反応により融点が 300℃程 度まで低下する.さらに溶融相量,通気性が影響し て図 10 に示す腐食量ピークが出現する10) 4) ガス組成: ガス中の HCl, SO2, O2濃度が灰の性 状と相乗して影響し,さらに HC, CO などの還元性 ガス成分の増加も腐食速度を増加する8) また,下記に示す腐食環境の変動が他のプラントに比 べて大きいため,速度論的解析や腐食寿命予測に際して 考慮が必要と言える. a) 温度変動: 定常的なガス温度,メタル温度の変 動およびスートブロー使用などによる熱サイクルの 負荷 図 7 廃棄物発電ボイラにおける腐食要因と腐食環境形成の説明図

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b) ガス組成変動: 燃焼変化にともなうガス成分の 変動,未燃ガス成分の生成など c) 付着ダストの変化: 灰の組成,付着量,融点な どの変化 d) その他: ガス流速変化,停炉時の吸湿,スケー ル脱落など 上記 a)∼c) の変動要因は相乗して影響することが報 告されている11).最近では上記実機条件を精度良くシミ ュレートした温度勾配腐食試験などの新たな手法を用い て個々の腐食要因の定量的解明がなされている12) 4.2 石炭ボイラおよび石炭ガス化プラント Na, K, Fe などの硫酸塩を主体としたダストの付着に起 因して過熱器管および蒸発管で下記の高温硫化腐食が発 生する.また,欧米では多量の Cl が入った石炭が使用 されるため塩化物により腐食が促進される場合がある. 1) 過熱器管: (K, Na)2Fe(SO4)3など低融点アルカ リ鉄硫酸塩(融点:550∼620℃) の生成および塩化 物による融点の低下などに起因し,灰が溶融して腐 食を引き起こす.図 11 に示すような腐食ピークが 見られるのが特徴である13).また,高速の酸化物系 硬質灰によるエロージョンコロージョン現象も発生 する場合がある. 2) 蒸発管: 低 NOx(低 O2) 運転などに起因したフ レームインピンジメント,H2S,HC など還元性ガス (蒸発管) 成分の増加による硫化腐食事例が報告され ている14).一般にボイラ過熱器では腐食損傷を回避 した蒸気条件(538℃×246 kgf/cm2g) が採用される が,現在では,装置設計,エンジニアリング面での 腐 食 対 策 を 行 い 超 々 臨 界 圧 ボ イ ラ ( 蒸 気 条 件 600℃×246 kgf/cm2g) が運転されている. 石炭ガス化プラントの高温分解ガス(粗ガス) 環境に おいては図 1215)に示すように低 P O2,高 PS2条件となる ため H2S 存在下で高温硫化腐食が発生する.腐食防止の ためステンレス鋼,高 Cr 高 Ni 合金などの耐食材料が試 験,使用され,また,粗ガス冷却器における蒸気温度も 400℃レベルと低い16) 4.3 重油ボイラ バナジン酸ソーダと Na2SO4を主成分とする低融点ダ ストが過熱器管に付着し,その成分比率に応じてバナジ ウムアタックや高温硫化腐食を生ずる.V2O5濃度の高い 図 9 各種加熱器管耐食材料の最大減肉量とガス温度の関係 図 10 NaCl/KCl/Na2SO4/Al2O3合成灰の溶融相量(通気性) に よる各種材料の腐食減量の変化 図 11 石炭焚ボイラにおける腐食量のメタル温度と灰融点によ る変化を示す模式図13) 図 8 廃棄物発電プラントにおける炭素鋼減肉量のメタル温度 および灰融点による変化速度

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付着灰に起因するバナジウムアタックは溶融バナジン酸 ソーダによる加速酸化現象と考えられており,一方, Na2SO4の多い灰では,低 PO2,高 PS2下で高温硫化腐食 が発生する.このように燃料成分および灰付着特性など に応じて腐食反応が大きく変化することが特徴となって いる17).また,高 S,高灰分の粗悪油を用いた場合には 灰付着量が増加して過熱器管の硫化腐食を促進する場合 がある.過熱器管の腐食防止の目的で付着灰の融点を上昇 する Mg(Ca) 系添加剤を用いた方法が確立されている18) 一方,過熱器管より温度の低い蒸発管においても還元性 燃焼炎(低 O2,高 H2S) による硫化腐食,あるいは図 13 に示す管内面付着物などに起因したホットスポットや熱 応力により保護スケールが破壊してエレファントスキン と呼ばれる腐食の発生事例が見られる19).蒸発管の腐食 を防止するため燃焼ガス中の O2濃度の増加による酸化 性雰囲気の形成,耐食コーティングの使用などの腐食防 止対策が報告されている. 4.4 ガスタービン 現在,航空機ではケロシン(灯油),コンバインドサイ クル発電用のガスタービンでは主としてクリーン燃料の 天然ガスが使用されるため腐食も酸化が主体となるが, 重油を燃焼する場合にはボイラ同様に動,静翼などにお いて高温腐食が問題となる.タービン翼の材料には通常 Ni 基あるいは Co 基合金が使用されるが,燃焼ガス温度 とメタル温度(800℃前後) がボイラ管に比べ格段に高い ため,図 1420)に示す温度条件に応じてバナジン酸ソーダ, Na2SO4などの溶融成分が多いダストが付着し,バナジウ ムアタックや高温硫化腐食が発生する.また燃焼空気中 の海塩粒子(NaCl) に起因する腐食促進事例も報告され ており,フィルターの設置などの対策がとられている21) 遠心力などによる比較的大きな定常,変動応力が動翼に 作用するため,図 15 に示すように機械的応力も部材の 寿命へ強く影響する22).効率向上による燃焼ガスの高温

化に際して TBC(Thermal Barrier Coating) や翼内の空

気,蒸気冷却による表面温度の低減などの対策が行われ る.多孔質 ZrO2層下部のボンドコート(アンダーコー 図 15 Ni 基超合金の優先的粒界浸食挙動への応力負荷条件の影 響(Inconel 751, 800℃, 90%Na2SO4/10%NaCl)22) 図 14 ガスターピンにおける温度と腐食要因の説明図20) 図 13 超々臨界圧ボイラ蒸発管(2.25Cr−1Mo 鋼) パネルでのエレファントスキン状 の腐食事例19) 図 12 石炭ガス化プロセスと石炭火力発電ボイラの燃料ガス環境の比較15)

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ト) 合金層の酸化,腐食防止がコーティングの寿命向上 に不可欠とされており,現在,活発な研究開発が行われ ている. 5. Cl−S−O 系実機環境における複合腐食メカニズム 前記の各種燃焼装置における Cl/S/O 系複合腐食環境 においては温度条件,付着灰性状などが異なるものの現 象面で下記の共通点が見られる. 1) 燃焼ガスの酸化/還元雰囲気のバランスとこれに よって変化する付着灰組成,特性が腐食反応に大き く影響する.また,O2など酸化性成分の腐食反応へ の寄与が重要である. 2) 塩化物,硫酸塩 (硫化物),酸化物から成る強腐食 性付着灰が溶融する温度域から腐食の増加が始ま り,特定の温度域で複数の腐食量ピークが認められ る. 3) 部位によっては熱的,機械的応力などが重畳して 作用し,腐食が加速される.特に保護スケールの破 壊挙動が腐食形態と速度の解析に重要である. 4) 腐食条件に応じて全面腐食のみならず粒界腐食, 内部腐食などの特有な局部腐食が発生する. 本章では上記の実機における高温腐食のメカニズムに ついて少々堀り下げて記述したい. 5.1 燃焼灰の付着挙動 塩化物,硫酸塩,酸化物などの腐食性ダスト成分は燃 焼ガス中で蒸気,液体,固体の状態で飛来し,ボイラ管 など高温部材の表面に凝縮,付着する.腐食反応の継続 にはこれらダストの連続的な供給による腐食環境の維持 が必要であり,環境評価のため実炉にて灰の付着速度を In-situ 計測した例が報告されている7).また重油ボイラ, ガスタービンでも図 16 に示すような計算による V2O5, Na2SO4の付着速度の予測がなされている23).実用温度域 での低融点化合物の溶融相量は腐食速度およびメカニズ ムを考える上で重要であり10),各装置における灰の溶融 相量は大きくは下記のように分類される. 1) ほとんどが溶融:ガスタービン 2) 溶融量が中程度:重油ボイラ,黒液回収ボイラ 3) 溶融量が少ない:廃棄物焼却炉,石炭ボイラ 高温で溶融成分が多いほど溶融塩特性に依存した溶融 塩腐食の発生傾向が強まる.一方,溶融成分が少ない場 合には燃焼ガスの腐食界面への侵入量が増加し,また, 生成スケールにより溶融塩の侵入は阻止されて界面の PCl2,PS2,PO2に応じた高温ガス腐食が発生する.これら は広義の溶融塩腐食として扱われる場合もあるが,界面 ではガス反応が生じており溶融塩誘起腐食(Molten Salts Induced Corrosion) と呼ぶ方が良いと考えられる. 5.2 保護酸化スケールの生成,破壊とその役割 材料表面に生成したスケールは材料を保護する一種の セラミックスコーティングであり,腐食速度への寄与の大き いことが C. Wagner の理論で古くより知られている24) しかし,実環境においては長期間運転中にクラック,ボ イドなどのスケール欠陥が形成され,腐食速度が変化す るため予測の難しい場合が多い.図 17 に廃棄物発電ボ イラの過熱器管(Alloy 625) における酸化スケールの割 れ発生部の EPMA 分析例を示すが11),Cl, S, K などの腐 食性成分の界面への侵入が明瞭に観察される.欠陥の発 生には熱サイクル,機械的応力のみならず,水素や原子 拡散によるボイドの生成,塩化物の生成/揮発などの物 理,化学的作用も重要な要因となる.これら欠陥の形成 は腐食界面における PCl2,PS2,PO2の変化をもたらし,図 18 に示すように腐食速度を増加する.そのため腐食寿命 予測,耐食材料開発を行う上で保護スケールの劣化機構 の詳細情報が不可欠である.しかし,現状では皮膜構成 や物性などに関する基礎データが少なく,欠陥発生のシ ミュレーションが難しい.材料の高温耐食性向上には合 金元素添加による皮膜欠陥の発生防止,自己修復(セル フヒーリング) 機能の強化が必要と言える. 5.3 界面における Cl−S−O 系腐食反応 Cl−S−O 系複合腐食反応の理解を容易にするため鉄の 腐食反応を例にとり,Fe−Cl−O 系と Fe−S−O 系に分けて 説明したい.各種合金における個々の腐食反応および機 構については多くの報文が出されており参照されたい1) 図 17 ごみ発電ボイラ過熱器管(Alloy 625) のスケールに発生 した割れの例(スートブロー影響部) 図 16 V2O5の付着速度とボイラガス温度,蒸気温度との関係 (メタル温度=蒸気温度+20∼40℃)23)

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従って HCl 濃度が 0.1%(1000ppm) 程度 の廃棄物焼却炉の燃焼ガス中で大きな腐食が生ずるため には下記に示すような PCl2を増加する現象の存在が必要 と考えられる. 1) 保護酸化スケール形成による PO2,PH2Oの低下と PCl2の増加 2) ガス,灰中に存在する塩化物蒸気あるいは溶融成 分の界面への拡散と濃縮 3) 灰中における Cl2の生成(Deacon 反応) と界面へ の侵入 4) オキシクロリネーションによる Cl2の再生成(例

えば 3Fe2Cl6+4O2→ 2Fe3O4+9Cl2)

図 19 の廃棄物焼却炉での CrMo 鋼の腐食スケール構 成に見られるように26),燃焼ガス中の P O2が PCl2に比べ はるかに大きい実機条件では酸化鉄の形成が先行し,PO2 が小さい酸化鉄下部で塩化反応が生ずる.理想的な保護 スケール状態では,厚さの増加につれ外部からの O2, Cl2 の供給が減少して塩化反応速度が低下するが,現実的に は灰の付着,スケール欠陥の発生により上記 2), 3), 4) の要因が関与して図 20 の Fe−Cl−O 系状態図に示す PO2 減少,PC l2 増加が起こる 2 7)(1), (3)式の反応により FeCl2が生成され,さらに PCl2が高い条件では揮発性の 強い Fe2Cl6が形成される.Fe2Cl6分圧が高まると(2)式 の反応は逆へ進行するが,Fe2Cl6ガスの一部はスケール 欠陥を通じて外側へ流出する.この Fe2Cl6ガスの一部は 外部酸化スケール中で酸化鉄に変化するが,同時に(5) ∼(7)式の反応により HCl, Cl2を再生する.この再生 Cl2 は界面へ拡散,循環し,高 PCl2条件下で塩化反応が維持 される.通常,ボイラ伝熱管では腐食スケール内に温度 勾配が形成され,下記の塩化物/酸化物(硫酸塩) の繰り 返し腐食反応28)が促進されると考えられる.

4FeCl2+3O2→2Fe2O3+4Cl2 (5)

2Fe2Cl6+3O2→2Fe2O3+6Cl2 (6)

2Fe2Cl6+4H2O→4FeO+8HCl+2Cl2 (7) 界面における粉末状スケールの生成はこのような気相 反応の発生を裏づけている.O2などの酸化性ガス成分の 存在は上記の酸化スケール生成,Cl2生成,さらには再 生サイクル形成などを促がし,この種の腐食速度の増加 に強く影響すると考えられる. 5.3.2 Fe−S−0 系の腐食反応 酸化物層の下部で硫化反応が起こり硫化物が形成され るが,その成長速度は酸化と同様 Fe の外方あるいは S の内方拡散律速にともなう放物線則に従う. 硫化物の形成は熱力学的には低 PO2高 PS2条件下で促 図 20 500℃における Fe−Cl−O 系平衡状態図と腐食界面での PO2,PCl2範囲の推定 図 18 Fe−Cr 合金の高温酸化における保護皮膜性能と酸化量経 時変化の模式図

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進され,高 PO2,高 PS2条件では硫酸塩へと変化する.酸 化性の燃焼ガス雰囲気では SOx(SO2, SO3) を生ずるが, 還元性雰囲気では H2S が生成されて PS2が高まり硫化反 応が増加する.外層酸化スケールが存在すると界面で低 PO2条件が形成されるが,酸化スケール中の S の拡散速 度は小さいため,酸化スケール増加にともない硫化反応 は低下する.従って硫化腐食が継続して起こるためには スケール欠陥などを通じて H2S, S 蒸気が供給され,PS2 を増加させる作用が必要となる.保護スケール破壊によ る実用合金の加速硫化腐食機構として下記のモデルが考 えられている. 1) Sulfidation モデル: 硫化物の生成あるいは H2S, H2O の存在などにより保護性酸化スケールの形成が 阻止され29), 30),硫化,酸化が加速される(皮膜欠陥 増加,Ni3S2/Ni 低融点共晶の生成など). 2) Acidic/Basic Fluxing モデル: 保護酸化スケール が Na2SO4などの溶融塩中へ溶解し,保護性を失う. この場合,酸化物が O2−と結合して錯イオンを形成 し,塩基性溶解(Basic Fluxing) が起こる説と O2− 減少により M+, O2 −へ解離する酸性溶解 (Acidic Fluxing) 説とが提案されている31) 3) 機械的破壊モデル: 酸化皮膜の成長応力,熱サ イクル応力などにより酸化スケールが破壊し,皮膜 の修復が追いつかず著しい加速腐食が生ずる32) 5.3.3 Fe−Cl−S−O 系の腐食反応 酸化スケール下部の低 PO2条件(PO2<10 −17atm) にお いては前記の塩化反応が起こるが,同時に FeS,FeS2な どの硫化物の形成も起こり得る.廃棄物焼却炉の燃焼ガ スは O2濃度に比べて SO2が数十ppm(PS2=10−49atm) と 低いが,腐食生成物中には FeS が少量存在することから 付着灰,酸化スケール中で低 PO2,高 PS2条件が形成され 下記反応の発生が考えられる. Na2SO4+3R→Na2O+3RO+S (R:還元剤) また,界面における温度勾配や PO2, PS2勾配の存在は S の再生サイクルを生じやすい条件を形成する. 塩化,硫化反応の優劣は PCl2,PS2のバランスで決まり, 廃棄物発電ボイラなどの塩化物の多い灰付着部位では FeCl2あるいは Fe2Cl6の量が FeS に比べて多く,塩化反 応が優先していることが明らかである.図 21 に廃棄物 発電ボイラにおける炭素鋼の複合腐食反応の説明図を示 した26).一方,石炭,重油燃焼装置では,ガスおよび付 着灰中の S 量が Cl 量に比べて多いため硫化腐食の優勢 条件が形成される.実機では暴露初期の腐食環境に応じ て高温ガス腐食,溶融塩反応が起こり材料表面の腐食が 始まるが,腐食の進行にともない酸化スケールの成長や 破壊が起こり界面での腐食条件,腐食速度がたえず変化 する.そのため腐食安定期の長時間実機データと実験室 での短時間試験データとの間に腐食速度,挙動の違いが 生ずる場合も多々見られる.このような実装置での腐食 速度は温度勾配,変動などを加味したダイナミックな腐 食試験,評価法の採用により再現できると考えられる12) 腐食機構の解明に際しては複雑系の中で主反応をとらえ るための分析,解析および洞察力が必要と言える. 6. お わ り に 燃焼装置に発生する高温腐食は燃料,燃焼方法あるい は装置,材料側条件により複雑に変化するが,優勢な腐 食反応をとらえることにより,その防止対策を導き出す ことができる. 高温腐食メカニズムの解明には腐食スケールの分析, 調査結果に基づき起こっている現象を洞察することが必 要である.また,腐食への影響要因が多岐にわたり,動 的な腐食条件が形成されるため,問題解決に際しては材 図 21 廃棄物発電ボイラにおける炭素鋼および低合金鋼の腐食生成物構成と複合腐食反応の説明図

(12)

Newnes-Butterworths, p. 767 (1976).

6) K. Fujita, H. Onoue and K. Sakiyama, Boshoku-Gijutsu (presently Zairyo-to-Kankyo), 19, 340 (1970).

7) U. Kawahara, J. Soc. Mater. Sci. Jpn., 49[8]955 (2000). 8) Y. Kawahara and M. Kira, Corrosion, 53[3]241 (1997). 9) Y. Kawahara, et al., Corrosion, 54[7]576 (1998). 10) Y. Kawahara and M. Kira, Zairyo-to-Kankyo, 46[1]8

(1997).

11) Y. Kawahara, Corrosion Science, 44, 223 (2002).

12) Y. Kawahara et al., CORROSION/2001, Paper No.1173, Houston TX, NACE, (2001).

13) K. Nakagawa, S. Kihara, T. Kawamoto and A. Ootomo, Boshoku-Gijutsu(presently Zairyo-to-Kankyo) 35, 149 (1986). 14) 梶ヶ谷一郎,日本金属学会分科会シンポジウム予稿「高 効率エネルギーならびに環境保全,宇宙関連機器におけ る高温腐食機構解明の現状と新たな挑戦/2001」,p.25 ム予稿,p.34 (2001). 27) 川原雄三,日本金属学会セミナーテキスト「エネルギ ー・環境保全機器材料の高温腐食および防食の基礎と実 際」,p.39 (2001).

28) K. Sakiyama and Y. Ihara, Proc. 25th Symposium, JSCE (1979).

29) 例えば J. A. Goebel and F. S. Pettit, Metall-Trans., 2, 2875 (1971).

30) 成田敏夫,日本金属学会「高効率エネルギーならびに環

境保全,宇宙関連機器における高温腐食機構解明の現状 と新たな挑戦/2001」,p.1 (2001).

31) M. Kawakami, K. Goto, R. A. Rapp and F. Kajiyama, Tetsu-to-Hagane, 65, 811 (1979).

32) J. B. Johnson, J. R. Nicholls, R. C. Hurst and P. Haucock, Corrosion Science,18, 527 (1978). (2006 年 1 月 28 日受理) 高温腐食による材料の消耗,廃棄は社会的な損失であり,エネルギー有効利用,公害防止などの面でも 腐食の阻止が重要と考えられる.さらに,多くの機械に囲まれて生活している現代人にとって腐食の防止 は安全性の確保と密接な係わりがある.高温腐食はエネルギー設備,化学反応装置,公害防止機器,輸送 機械など生活を支える基盤設備において問題となり,環境側と材料側の色々な要因が影響して発生する複 雑な現象のため難解な面が多いが,本紙では高温腐食へ入門する人達向けに高温腐食の単一反応,複合腐 食,溶融塩腐食およびボイラ,石炭ガス化プラントなどの実装置における高温腐食と腐食防止などについ て出来るだけ簡潔に記述した. キーワード 高温腐食,塩化腐食,高温硫化,高温酸化,溶融塩腐食,化石燃料,ボイラ,廃棄物発 電ボイラ,ガスタービン,複合ガス腐食,保護スケール,腐食機構,腐食防止対策

図 13 超々臨界圧ボイラ蒸発管 (2.25Cr−1Mo 鋼) パネルでのエレファントスキン状 の腐食事例 19)
図 19 の廃棄物焼却炉での CrMo 鋼の腐食スケール構 成に見られるように 26 ) ,燃焼ガス中の P O 2 が P Cl 2 に比べ はるかに大きい実機条件では酸化鉄の形成が先行し,P O 2 が小さい酸化鉄下部で塩化反応が生ずる.理想的な保護 スケール状態では,厚さの増加につれ外部からの O 2 , Cl 2 の供給が減少して塩化反応速度が低下するが,現実的に は灰の付着,スケール欠陥の発生により上記 2), 3), 4) の要因が関与して図 20 の Fe−Cl−O 系状態図に示す P O 2

参照

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