シンガポールの航空貨物輸送 (特集 アジアにおけ
る航空貨物と空港)
著者
花岡 伸也
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
252
ページ
20-23
発行年
2016-09
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00002870
特 集
アジアにおける
航空貨物と空港
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N
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航
空
貨
物
ASEAN諸国のなかで随一の 経済力を誇るシンガポールは、航 空貨物輸送が活発である。海に囲 まれたASEANは輸送費用が低 廉な海上輸送が中心であるなかで、 経済の成熟したシンガポールでは 高価格な品目がASEAN最大の ハブ空港であるチャンギ空港から 航空輸送されている。 二〇一四年におけるASEAN 各国の国際・国内航空貨物取扱量 を図1に示す。国際取扱量はシン ガポールが最も多く、タイ、マレ ーシアと続く一方で、低開発国で あるカンボジアとミャンマーはご くわずかである。航空輸送は主に 高価格な品目を輸送することから、 国際航空貨物取扱量は国の経済力 を少なからず反映したものといえ よう。国内取扱量はインドネシア が最大である。島嶼国で国土が東 西に広いインドネシアは、国内貨 物と国際貨物の取扱量がほぼ同じ という珍しい国である。同じく島 嶼国であるフィリピンも国内取扱 量が比較的多い。国土が南北に長 い ベ ト ナ ム が そ れ に 続 い て い る。 国土の地理的条件が国内航空貨物 取扱量に関係しているといえる。 主要六カ国間相互の航空輸送金 額について、二〇一四年の状況を 表1に示す。シンガポールは、ベ トナムをのぞき、輸出・輸入共に 国間に大きな差がなく、ASEA N域内の主要な航空貨物輸送国と なっている。シンガポールにとっ てマレーシアは国境が隣接する唯 一の国であり、陸上輸送のシェア が高いものの、両国間の貿易は活 発なことから航空輸送金額も大き い。ベトナムの場合、輸入はシン ガポールが一番多いが、輸出はマ レーシアが多くなっている。AS EAN域内で航空輸送されている 代 表 的 な 品 目 は 電 子 管・ 半 導 体・ 電 気 機 器( electronic valves, tu be s, se m ico nd uc to rs a nd o th er electronic components ) で あ り、 どこの国間でも高いシェアを占め ている。花
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航空貨物輸送
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金
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扱
量
シンガポールは世界中の多くの 国とオープンスカイ協定を締結し ているだけでなく、ASEAN域 内の航空自由化もシンガポールの 主導によって進められている。都 市 国 家 の シ ン ガ ポ ー ル に と っ て、 制限のない自由な環境下における 航空輸送システムは国家の生命線 といっても過言ではなく、航空貨 物輸送は海上貨物輸送と並んでシ ンガポールの貿易の主軸を担って いる。 シンガポールの二〇〇〇年から 二〇一四年の国際航空貨物の推移 を輸送金額(図2)と取扱量(図 3)で示す。図2の輸送金額の推 移をみると、二〇〇八年九月に発 生したリーマンショックによって 二〇〇九年に大きく減少している ものの、二〇一〇年には回復した。 その後、二〇一一年から二〇一四 年まで輸出は横ばいで推移し、輸 入は緩やかに増加している。 次に図3の取扱量の推移をみる と、二〇〇九年に大きく落ち込ん でいるのは図2と同じであるもの の、二〇〇三年に発生した重症急 性呼吸器症候群(SARS)の影 響と思われる減少もみられる。ま 1,843,800 1,229,011 825,303 548,467 417,656 387,523 33,181 24,485 0 56,759 93,714 160,588 195,273 349,805 107 879 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 1,800,000 2,000,000 シンガポール(1) タイ(34) マレーシア(25) ベトナム(21) フィリピン(50) インドネシア(23) カンボジア(3) ミャンマー(2) (トン) 国際航空貨物 国内航空貨物 図 1 ASEAN 各国の国際・国内航空貨物取扱量(2014 年) (注) 1)ラオス、ブルネイはデータなし。 2)国名後の数字は、国際あるいは国内航空貨物輸送実績のある空港数。 3) 国内航空貨物取扱量は同一貨物を出発と到着で 2 回カウントしている ため、各空港の合計値を半分に割った数値を表示。 (出所)参考文献②より筆者作成。た、輸出は二〇〇六年がピークで あり、その後は伸びていない。さ らに、輸入が輸出を上回っており、 二〇〇七年以降にその差が拡大し ている。取扱量で輸入が輸出を上 回る理由として、加工貿易立国で あるシンガポールにおいて、輸入 貨 物 は 材 料 や 部 品 が 中 心 で あ り、 輸出貨物よりも金額あたり重量が 重 い こ と が 考 え ら れ る。 こ れ は、 輸出貨物の単価が輸入貨物よりも 高いことを意味しており、図2に おいて輸出金額が輸入金額を常に 上回っていることと整合している。
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チ
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ギ
空
港
チ ャ ン ギ 空 港 の 管 理 者 はチ ャ ン ギ エ ア ポ ー ト グ ル ー プ ( Ch an gi A irp ort G ro up ) で あ る 。 旅 客 タ ー ミ ナ ル ビ ル お よ び 航 空 貨 物 セ ン タ ー ( A irfr eig ht Ce nte r ) を 一 括 し て 管 理 し て い る 。 二 〇 〇 九 年 に 、 シ ン ガ ポ ー ル 航 空 当 局 で あ る C A A S ( C iv il A via tio n A ut ho rit y of Sin ga po re ) か ら グ ル ー プ 会 社 と し て 独 立 し た 。 シ ン ガ ポ ー ル 政 府 投 資 会 社 で あ る テ マ セ ク ・ ホ ー ル デ ィ ン グ ス 社 ( T em as ek H old ing s ) が 一 〇 〇 % 出 資 し て い る 。 チャンギ空港は、シンガポール 空軍基地のあるシンガポール島の 東端に建設されたものであり、一 九八一年に開港した。一九九〇年 に第二ターミナル、二〇〇八年に 第三ターミナルが共用開始された。 二 〇 〇 六 年 三 月 に L C C( Low-Cost Carriers ) 専 用 の バ ジ ェ ッ トターミナルが開業したが二〇一 二年九月に閉鎖され、その跡地に 第四ターミナルを建設中であり二 〇一七年に開港予定である。航空 貨物センターは一九八五年から運 用されている。三つの旅客ターミ ナルと航空貨物センターは南北方 向の二本の平行滑走路の間に位置 しており、航空貨物センターは北 側に立地している。 チャンギ空港は、国家プロジェ ク ト と し て 現 空 港 を 大 拡 張 す る 「 Changi East 」 を 公 表 し て い る。 敷地面積が一六六七ヘクタールの と こ ろ、 海 側 で あ る 空 港 東 部 を 一〇八〇ヘクタール拡張するもの であり、軍専用の第三滑走路を民 間航空に開放する計画である。大 規模な第五ターミナルや工業団地 の建設も計画されている。 図4にチャンギ空港の貨物取扱 量および旅客数の推移を示す。世 界の航空需要に大きな影響を与え た二〇〇一年のアメリカ同時多発 テ ロ、 二 〇 〇 三 年 の S A R S、 二〇〇九年のリーマンショックの 際、チャンギ空港でも旅客数は一 時的に減少したものの、その後は 順調に増加している。その一方で、 貨物取扱量は二〇〇六年をピーク に二〇〇九年以外は大きく変動し ていない。旅客数と貨物量の変動 が異なる理由のひとつとして、旅 客はLCCの台頭によって需要が 伸び続けているものの、LCCの 多くはA320やB737のよう なナロウボディ機を用いているた めベリースペースが狭く、コンテ ナ や パ レ ッ ト な ど の U L D( Unit Load Devices ) を使いにくいこと が挙げられる。ULDが使えない と破損が生じやすく、温度管理の ような品質管理も難しくなるため、 運べる品目が限定されてしまうの である。 図3で示した輸出と輸入を合わ せたシンガポールの合計貨物取扱 量の推移と、図4の同期間のチャ ンギ空港の貨物取扱量を比較する と、各年において概ね八〇~一〇 〇万トン(四五~五五%)もの差 がある。これは、チャンギ空港に おいて約半分がトランジット貨物 であることを意味している。参考 までに、同様の比較をバンコクの スワンナプーム空港でしたところ、 空港取扱量は、輸出と輸入を合計 した貨物取扱量から三〇~五〇万 トン(二五~二八%)の差で多か った。データの誤差はあるにして も、チャンギ空港のトランジット 貨物の割合は高いことがわかる。 ここで、チャンギ空港の航空貨 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (10億ドル) 輸出 輸入 合計 図2 シンガポールの国際航空貨物輸送金額の推移 (出所)参考文献①。 0 200 400 600 800 1,000 1,200 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (1,000トン) 輸出 輸入 合計 図3 シンガポールの国際航空貨物取扱量の推移 (出所)図2と同じ。物センターの整備状況および運用 状況について概観する。航空貨物 センターは四七ヘクタールの面積 を有し、年間三〇〇万トンの貨物 を取扱可能である。貨物のハンド リ ン グ は、 S A T S ( Sin ga po re A irp ort Terminal Services ) と デ ィ ナ ー タ( dnata ) に 業 務 委 託 し ている。 スイスポート ( Swissport ) が入っていた時期もあったが既に 撤退している。SATSはシンガ ポ ー ル 航 空 の 子 会 社 だ っ た が 二〇〇九年に独立した。ディナー タはエミレーツ航空の子会社であ り、 チ ャ ン ギ 空 港 で は C I A S ( C ha ng i I nt er na tio na l A irp or t Services ) を 買 収 し て 運 営 し て い る。貨物取扱量の割合は、概ねS ATSが八割で残り二割がディナ ータとなっている。 航空貨物センターには八つのタ ーミナルがあり、SATSは六つ のターミナルを運用している。申 請手続はすべて電子化されている。 一般貨物に使われているのは輸出 用 の T 5 と 輸 入 用 の T 6 で あ る。 T5とT6は内部でつながってお り、トランジット貨物はT6から T5へ直接移される。T6内でU LDを航空機から降ろした後、移 動 す る 作 業 は 自 動 化 さ れ て い る。 面積約八〇〇〇平方メートルのT 2 は、 二 〇 一 〇 年 か ら Cool Port として運用されている。品目のニ ーズに合わせ、マイナス二八度か ら一八度まで複数の温度に設定さ れた倉庫が備えられており、化学 薬 品 を 中 心 に 生 鮮 食 品、 青 果 物・ 花卉などの保管に利用されている。 こ の S A T S の Cool Port と デ ィ ナータの運用する生鮮品ハンドリ ン グ 施 設( 二 〇 一 三 年 運 用 開 始。 面積約一四〇〇平方メートル)の 二つの温度管理倉庫が、チャンギ 空港における航空貨物ハンドリン グの特徴といえる。また、金、ダ イヤモンド、ワインなどの高価格 貨物のハンドリング・保管に用い る専用倉庫(二〇一〇年運用開始。 面 積 約 二 万 二 〇 〇 〇 平 方 メ ー ト ル)もSATSにより運用されて いる。 航空貨物センター内にある他の タ ー ミ ナ ル の ひ と つ は Airmail タ ーミナルであり、近年は郵便物よ りも小包の取扱が中心である。も うひとつの M ult i T en an ted W ar e-house and Offi ces は 中 小 企 業 向 けに利用されている。 二〇〇三年に運用開始されたロ ジ ス テ ィ ク ス パ ー ク( Airport Logistics Park ) が、 航 空 貨 物 セ ンターに隣接している。二六ヘク タールの面積を有す保税エリアで あり、日本通運、UPS、SDV、 Kuehne + Nagel 、 DB Schenker 、 Expeditors な ど の グ ロ ー バ ル ロ ジスティクス企業だけでなく、フ ァイザーなどの製薬・医療関係企 業、ヒューレット・パッカードな どの電気・電子関連企業、ボーイ ン グ、 エ ア バ ス、 エ ン ブ ラ エ ル、 ロールスロイスなどの航空関連企 業など、多くのグローバル企業が 入居している。 また、チャンギ空港を東南アジ アのハブと位置づけているDHL とTNTは、航空貨物センターの 入口付近の立地条件の良い場所で 専 用 タ ー ミ ナ ル を 運 用 し て い る。 FedEx も ロ ジ ス テ ィ ク ス パ ー ク に 隣 接 し た 専 用 タ ー ミ ナ ル を 二〇一三年に開業している。この ように、チャンギ空港はグローバ ル・インテグレーターの重要な拠 点として位置づけられている。
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航空貨物輸送には航空会社の輸 送能力も関係する。ASEANで 国際航空貨物取扱量が多いのはシ ンガポール、マレーシア、タイで あり、各国のフラッグキャリアで あるシンガポール航空、マレーシ ア航空、タイ航空が、その多くを 担っている。ただし、二〇一六年 一月現在、貨物専用機であるフレ イ タ ー( freighter ) を 所 有 し て い る A S E A N 域 内 の 航 空 会 社 は、 シンガポール航空とマレーシア航 空の二社のみである。タイ航空は 二〇一五年五月にそれまで所有し て い た フ レ イ タ ー 二 機 を 売 却 し、 フレイター事業から撤退した。A SEAN諸国にとって、アメリカ は主要な航空貨物輸送相手国であ る。しかし、北東アジア諸国にと ってもそれは同様であり、香港空 港や仁川空港の取扱量が多いのは、 北米ルートの航空貨物需要が旺盛 なためである。東南アジアは地理 的に北米から遠く北東アジアの空 0 10,000,000 20,000,000 30,000,000 40,000,000 50,000,000 60,000,000 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (人) (トン) 貨物量 旅客数 図4 チャンギ空港の貨物取扱量と旅客数の推移 (出所)図 1 と同じ。港 を 経 由 せ ざ る を 得 な い こ と や、 それゆえにトランジット貨物の集 約も難しいことから、フレイター を活用するニーズが小さいのであ る。 シ ン ガ ポ ー ル 航 空 カ ー ゴ ( Singapore Airlines Cargo ) は、 シンガポール航空一〇〇%出資の 子会社として、二〇〇一年に独立 した。以下、筆者が二〇一五年八 月にシンガポール航空カーゴに対 して実施したインタビュー調査の 内容をまとめる。 自社フレイターの運航 とシンガポール航空グル ープ会社のベリースペー スの運用が主たる業務で ある。最大で二〇〇六年 の一六機、二〇〇八年途 中までは一四機のフレイ タ ー を 所 有 し て い た が、 二〇〇八年の原油価格高 騰後、所有機を減らして いる。二〇一五年八月現 在で八機のB747─4 0 0 F を 所 有 し て い る。 フレイターの運航費用に 占める燃油代の割合が五 〇~六〇%と非常に高い ことが、所有機を減らし た主たる理由である。 シンガポール航空カーゴは、シ ンガポール航空のベリースペース を運用しており、これはシンガポ ール航空からみれば貨物業務のア ウトソーシングになる。シンガポ ール航空はグループ会社を、①長 距離フルサービス:シンガポール 航空、②長距離ローコスト:スク ー ト( Scoot )( ノ ッ ク ス ク ー ト 〈 NokScoot 〉) 、 ③ リ ー ジ ョ ナ ル フ ル サ ー ビ ス: シ ル ク エ ア( Silk Air )、 ④ リ ー ジ ョ ナ ル ロ ー コ ス ト: タ イ ガ ー エ ア( Tigerair ) と ブランドを分類している。これら のグループ会社全体で貨物マネジ メントを最適化するため、シルク エア、スクート、ノックスクート のベリースペースの運用も二〇一 五年から始めている。シルクエア の所有機はナロウボディ機のみで ULDは使えないことから、ばら 積み貨物を取り扱っている。 シンガポール航空グループ会社 の貨物をシンガポール航空カーゴ が 一 括 し て 取 り 扱 う こ と に よ り、 航空貨物窓口の一本化や各社ルー トの活用などのシナジー効果があ る。輸送料金は市場調査とイール ドマネジメントで決めており、フ レイターとベリーの違いによる料 金差はない。速達品、医薬品、動 物、航空エンジンなどの輸送に注 力しており、 航空貨物運送状 ( Air Waybill ) の 電 子 化( e-AWB ) も 迅速に進めている。 シンガポール航空の国際航空貨 物取扱量は、二〇〇九年以降は停 滞している。ヨーロッパやインド の 発 着 貨 物 が、 旅 客 輸 送 と 同 様、 ここ数年で中東の航空会社に取っ て代わられてしまったことが一因 である。低料金のため対抗するの は難しいのが実情である。