理 学 療 法学 第
23
巻 第5号262〜
268 頁 (1996年 )報 告
糖 尿病
に
お け
る
運
動 療法
の
血
糖
コン
ト
ロー
ル
に
対
す
る
有効 性
の
検 討
*石 黒 友 康
1)久保
田
京子
1)山
田 正
道
2) 要 旨イ ン ス リン
非依存
型糖尿
病の,入院中
の血糖
コ ン トロー
ル に対
する運 動療
法の効果
を, 空 腹 時「配糖より検 討 した。 対 象はD
群 :食 事 療 法 単 独19
例,
DE
群 :運 動 療 法 併 用13
例 である (入 院 期間
はそれぞれ約30
日)。DE
群の入 院経 過 を食 事 療 法の期 問 と,
運 動 療 法 を併
用し た期間
に分割
し, その時
の空腹時
血糖値
をD
群
と比較
する と, 運動療法開始直前
(食 事 療 法の 期 間 ) の空 腹 時 血 糖 値は, D 群の 同 時期と有 意 差はな く, 食 事 療 法の 効 果は同 等で あっ た。 退 院 時の空 腹 時1
血糖 値はD
群DE
群ともに,
入 院 時に比して さ らに低 下した が,両
群 間の値
に有
意 差は認め られな かっ た。 したが っ て 本 検 討で は,
空 腹 時 血 糖 値 を 長期的
な血糖
コ ン トロー
ル の指標
と し た場合
,運動療法
の効果
は,食事療
法単独
で治療
した 群に対 して差は認め られ な かっ た。 キー
ワー
ドイン ス リン
非依存
型糖
尿 病,食事
療 法,
運動療
法 緒 言糖 尿 病 治 療におい て運 動
療
法は, 食 事療
法, 薬物
療 法にな ら ぶ基本 治 療の一
つ で ある。 当 然の こ となが ら, 病期
や病 態,
イ ンス リン分 泌の程 度に よ り,何
を治療
の中
心に据え るか は症 例に よ り異 な るにせ よ, そ れ ぞ れ が適切
に処方
さ れて こそ, sTheEffect of Exercise Therapy on Glycemic Control
irl Patients with Non
−
lnsulin・
Dependent Diabetcs Mel!itus(NIDI)M)D 聖マ リ
ア ンナ医科大学東横病院リハ ビリ テ
ー
シ ョ ン部(〒 2U 神 奈 川 県 川 崎 市 中原 区 小 杉 町3
−
435)Tomoyasu Ishiguro
,
RPT,
Kyoko Kubota,
RPT :De−
partlnent of Rehabilitation MediGine
,
St.
Marianna Un.
iversity School of Medicine Toyoko Hospital
2)
同 内 科
Masamichi Yumada
,
MD ; Internal Mcdicine,
St.
Marianna University School of Medicine Toyoko Hos
・
pital (受 付[H995 年9月亅日 /受 理日 1996年4月]3目) は じめて有 効に作 用 する。 とりわ け食事
の是正 は,
いず れの病 態に おい て もまず 実 行される必 要があ り,運動の実行
も,合 併 症の 進 展 した症例
や, 内 因 性イ ン ス リン分 泌が極 端に不 足 する症 例を除 き,
奨 励され るもの と考え られる。 特に イ ン ス リン非依 存 型 糖 尿 病 (non
−insulin−dependent
diabetes
mellitus :以下
NIDDM
と略 す ) において は,
食事療
法は, インス リン抵抗性
の根幹
を形成
す る肥 満 を是 正 し,
肝 臓にお ける糖 産 生 率の減 少とい う メ カニ ズム で,
直接
的に糖
代 謝, 血糖
コ ン トロー
ル に関与 して い る1)。
ま た運 動に よ り組 織 (主 と して骨格筋
,脂肪組織)
の イ ン ス リン感 受性
が亢 進あ るい は改善
し,糖取
り 込 み が増
加す る 2)3) 。 そ の結 果と して, 運 動が短期
間の血 糖 降 下 作 用を 持っ ことは,
すで に1970
年 代には明らか にさ れ て い る4 )6)。 ま た近年
で は,
遺伝
子工学,
分 子 生 物 学の手 法により,
筋 内 糖 代 謝 酵 素 活性7 ),
糖 輸糖 尿 病にお け る運動 療 法の血 糖コ ン トロ
ー
ル に対 する有効性の検討263
送 担 体 と くにGULT
4
(
Glucose
transport−
er
4
)
の変動
か ら8 ), イ ン ス リン感 受 性 改 善の メ カニ ズム が次第
に明
らか にされ,
筋 収 縮に よ る短 期間
の急性
1飢糖降下作
用は,
すで に議 論の余 地は ない とこ ろである。しか し
,長期
的 な 血 糖コ ン トロー
ル に,
運 動が どの ように関わ っ てい る かにつ い て は, いまだ不明
な部分
が多
い。 その理 由の ひ とつ と して,生体
で は食事
の影響
を除外
する こ とが不 可 能な こと が あげら れ る9)。そこで
,
運 動 療 法 を行っ た患者
の主に空腹時
血糖
の変化
よ り,食
事 療 法 と運 動 療 法の1
〔Eva
コ ン ト ロー
ル に対 する効 果を検討
し た。本研究
の これ ま で の報告
に ない特 徴は,
運 動 療 法を行 っ た患 者の 入院中
の経
過 を,食事
療 法の期 間 と運 動 療 法 を 併 用 した期 間にあえて分 割 し, その際
の血糖
コ ン ト ロー
ル値
の変化
を食 事 療 法単独
で治療
し た群
と比較す
るこ とによ り, 食 事 療 法の効 果に加 算さ れ た 変 化 分を連動療法
の効果
と し た点
である。 対 象当 院 糖 尿 病 外 来に
継続
して1 年
以上受診
し,教
育
目的
で 入院
した患 者で,1993
年 五月
か ら1994
年 10 月
までの間
, リハ ビ リテー
シ ョ ン部に依 頼 のあ っ た糖 尿 病患者 145 例
巾,
調 査 可能
で あっ たNIDDM
患 者32
例 (男 性14
例,
女 性18 例, 平
均年齢
53
.
1
歳
, 推 定 罹 病 期 間5.
7
±5,
6
年 )を対 象 と した。 入 院 中の治 療 内 容の内 訳は,糖
尿病
に対
する薬物療法
を受
けて い な い食事療
法 単 独8
例,
経
凵血糖降
.
.
ド薬 (
oralhypoglycemic
agent :以下
QHA
と略 す )16
例,
イ ン ス リン使
用8
例
で ある。 なお今
回の検 討では,
イン ス リン依 存 型 糖 尿 病 患 者, 肝疾患
お よ び他
の内分
泌疾
患の合併
の ある者,70
歳 以 上の高 齢 者は除 外し た。 方 法対 象 者を
,
運 動 療 法の有無
で次
の2
群
に分類
し た。食事療
法単独
に行
っ た群 :D
群19
例 と, 食 事 療 法 と運 動 療 法を併 用 し た群 :DE
群
13
例
で ある。 血 糖コ ン トロー
ル デー
タと して,
空 腹 時 血糖 (
以下
FPG
と略
す)
,糖化
ヘ モ グロ ビン(
以 下HbAlc
と略 す)の それぞ れの 外 来 通 院 中6
か月
間の平 均,
入 院 時,
お よび退院時
の デー
タ につ い てD , DE
の両 群で 検 討 を加え た。 さらに,
食事療法単独,
お よ び食事療法
と運動療法
の併
用, それ ぞ れの治 療 方 法の差 異を検 討 する目的で,
D
群
の 退院時
とDE 群
の運動療法
追 加前
, 退院
時のFPG
にっ い て比 較 検 討 し た (図1
)。運 動 療 法は
,20 分
以 上 連 続 的に行 う歩 行を中 心に指導
し, あわ せて筋
力 トレー
ニ ン グ, 自
転車
駆 動 等を 行 っ た。一
日の運 動 量 は2
〜
4
単 位 (160 〜 320Kcal
),
歩 数に して1
万 歩を 目標と し た。 ま たこれ らの 運動
を週5
日の頻度
で行
っ た、、
な おD
群にっ い て は運 動 量, 内 容 等に特 別な指
D
群 食 事 療 法1
)E群[二 ⊥璽]
’_
r
i
,11
,1
・
illl
・
lll
!
1
:
1
:
一
=’
i
−一
]
外 来 人 院 退院 ←6
ヶ月.
一
→0
←一一一一一
>10
−30
/日 ↑A
↑B1
図A ,B,
C の各時点で D 群とDE
群を比 較し,
た めに,D− C
にっ いて両 群で比 較し た.
曾D
t 調査の プロ トコ
ー
ル さ らに,
A 囹 C 治療法の差を検討する264
理学療 法学 第23
巻第5
号 示は与
え ら れて い ない た め,
厳 密に はD
群が食 事 療 法 単 独である とはい いがたいが,
こ こ で は糖 尿 病 治療
の ために,
個 別に プ ロ グラム さ れ た運動
内容 を,
理 学 療 法 士の管理 の ドに実 施する治療方
法
を, 運動療法
と規定
した。統 計 学 的
解
析は,
群 間の比 較に際 して は,対
応 のないt
検 定,Wilcoxon
の検定
,一
元 配 置の分散分析
を用いt 同一
群内
の 比 較に は, 対 応の あるt検
定を用い た。 独 立 性の検 定に はx2
検 定 を行
っ た。 有 意 水 準は5
% 以 下 と した。
結 果1 .D
群,DE
群の身 体 的,
生 化 学 的特性 (
表1)
両 群の年 齢
,
性,
推 定罹病期間
に有
意 差は 認 め ら れな か っ た 。入
院期
間は, D 群約 28
日,
DE
群 約30
日で両 群に有 意 差はな かっ た。 またDE
群の入院
か ら運 動 療 法 開 始 まで の期間
は約
9
日, 運動療法
の期
間 は約
20
日であっ た。入 院 時の
BMI
(Body
Mass
Index )
は,
D 群
24.
0
±3.
5,DE 群 24.
7
±3
.
8
で有
意 差 は な かっ た。両
群
のIlll
糖
コ ン トロー
ル 状 況は,
外 来 時,
D
群FPG
271.
3
±112.
3
mg /d1,
HbAic10
.
O
±1.
8
% に対
し, DE 群 FPG
211.
9
士48.
6
mg /dl
,
HbAic
10.
5
±1.
5
% とい ず れ も両 群に有 意 差はな く,
入院時
に おい て も,D
群FPG
211.
9
±77.
O
mg /dl,
HbAlcll .
2
±2.
6
% に対 し てDE 群 200.
2
±50
,
5
mg /dl,
HbAlc
lLG
±1.
8
% と有
意差は認め ら れ な かっ たQ入院 中
の摂
取 カ ロ リー
はD
群1480
±145.
1kcal
。DE
群1420
±171.
2
kcal
と両 群
に有
意差
は なかっ た。 以上より両群
は , ほ ぼ同 程 度のコ ン トロー
ル状
態と考え ら れ た。2 .
入 院 治 療に よる各値
の変化
BMI
は,
D
群24.
0
±3
.
5
か ら23
.
8
±2
.
9
,
DE
群 24.
7
±3
.
8
か ら23
,
7
±3.
6
へ,
共に有 意に減少
し た(p<
0.
01
)。 しか し両 群 間に有
意 差は な く,
低 下 率 も23.
2
±3
,
8
% に対
して24
.
3
±4
.
3
% と有 意な差は認め ら れなかっ た。FPG
の入院 時
と退 院 時の変 化 は,D 群
,DE
群 共に有 意な減 少 を示 した が(
p
く0
.
Ol
)
,
両 群 間に有 意な差は認め ら れ な かっ た。 ま たそ の際の変
化 量は,D
群87.
3
±68.
9
mg /d1
に対 し てDE
群71.
3
±14.
3mg
/dl
。同様
に変 化
の割合
は,34.
8
±19.
9
% に対
して31
.
3
士29.
6
% と共に有 意 な差は認め ら れ な かっ た。DE
群
の運 動 療 法によ るFPG
の変 化 を検討
す る と,
運 動 療 法 追 加 直 前 (食 事 療法単独
の期
間,
表1
2
群の入 院 時の臨 床デー
タ D 群 (N=
19) DE 群 (N ;13
) 有意水準 (p ) FPG (mg /dl) HbAlc (%)T −
cho (rrlg/dl
) TG (mg /dl) BMICalorieIntake
(KcaD
推定罹病 期間 (Yr ) 治 療 内容 (n)DietOHA
Ins.
211.
9± 77.
0 11.
2ri
:2.
6217.
3
±50,
9
19B.
7±159.
2 24,
0± 3,
51480
±145.
1
5.
4± 3.
5 6 67
200.
2± 50.
5 11.
0
± 1.
8198,
5
±42,
3
175,
0±191.
6 24,
7± 3,
8 1420 ±171.
2
6,
2± 1,
7 210
1
N,
S.
N.
S.
N .
S.
N.
S.
N.
S.
N .
S.
N,
S.
N,
S.
N,
S.
N .
S.
D群 :食 事 療 法単 独,
DE 群:食 事+運 動 療 法,
FPG :空 腹 時1「1[糖,
HbA )c:糖 化ヘ モグロ ビン.
T
−
chQ :総コ レ ス テロー
ル,
TG :ト リグリセ リ ド,
BMI :Body Mass lndex (体重kgf身長 ),
Diet:食 事 療 法 (薬 物無 し)
,
OHA :経口血糖降 下 剤,
Ins.
:インス1丿ン.
糖尿病にお け る 運動療 法の血糖コ ン ト m
一
ル に対す る有 効 性の検 討 265 表2
2
群 聞にお ける空 腹 時 血 糖の変 化の比 較 入院 時 (mg /dl
) 運動療法開始 直前 (mg /dD
退院 時 (mg /dl
) DE 群 (n;
13) D 群 (n=
19) 200.
2
±50.
5 211.
9:ヒ77.
0 154.
7±45.
1a 128,
9
±38.
2b
(163.
3:ヒ13.
0)a 124.
7±24.
3b 有 意フt
く準 (P )N ,
S.
N .
S.
N .
S.
()D群は 運動療法未実施のため,
DE 群の運動 療法 開始直前に最も近い日の値を参 考 にした,
DE 群:食,9
−
1.
運 動 療 法,
D群 :食 事 療 法 単独。
Mean ±SE.
a:入院時と運 動 療 法開始直 前の比較,
b;運動療法 開始直前と退 院時の 比 較.
表3
治療法の差 異に よ る空 腹時血糖の比.
較 入 院時 (mg /dl) 退院時 (mg /d1) 変 化 量 (mg /dD
変 化率 a (%) 食 事 療 法 経口血 糖 降 ド剤 インス リン療法172.
3
±87、
0
212,
8
±44,
2
230.
9
±70.
8
124.
6
±48.
7
122.
6
±19.
4
135.
8
±23.
2
47.
6
±98.
590.
1:ヒ45.
〔}95.
1
:ヒ57.
9
17.
2±31.
940.
1:ヒ14,
2*35.
5
±20.
4
Mean ±SE.
* :食事療法と経凵1「1[糖降下 剤のrf1
’
L糖変化率の比較一
退 院 時FPG ) /入 院 時FPG の式により求め た.
pく O.
05.
a:変 化 率は (入 院 時FPG約
9
日間)
のFPG
は154
.
7
±45
.
1
mg /dl
で ,D
群の 同 時 期のFPG
163,
3
±13.
O
mg /d1
と有 意 差 はな く,両群
共に入 院 時のFPG
に比し て有
意な 減少
を 認め た(
p
<0.
05)
。 退 院時
には共に さら に有
意に(
p<0
.
01
) 低下
し た が, 両群
に有
意 差 は認め られな かっ た。 また変 化 量は, DE
群25,
8
±13.
6mg
/dl
に対
しD 群
39
.
2
±9
.
6
mg /dl
と有
意な差
は認め ら れず,変化率
も,DE
群 13。
2
±6,
3
% に対 してD
群19.
8
±3.
7
% と両 群に有
意 差 は 認め ら れ な かっ た(
表 2 )
。HbAlc
の 入院時
と 退院時
の変化
は,D 群
,DE
群 共に有 意 (p
<O.
05,
pく0,
02
)に低 下 し た が,
両 群 間に有 意な差は認め られなかっ た。3 .
治 療 法の差 異に よ る血 糖 値の変 化 今 回の検 討で, OHA
ある い はイ ンス リン を使 用 しない食 事 療 法 単 独 は8
例,
OHA
使 用は16
例,
イ ン ス リン使 用は8
例であっ た。 これ ら3
群 間の入院時
と退院時
のFPG 値
, お よ びこ の間
の変化
量には有
意 差を 認 め な か っ た。 しか し変化率
は,食事療法単独
例とOHA
使 用 例の間で,
有 意 (p
<0.
03
) に後 者の血 糖 変 化 量 が大 きか っ た(
表 3 )
。 そこ でD 群
とDE 群
のOHA
使
用 例で, 入院時
か ら退院
までのFBS
の変化
を検討
する と,
D
群
で は200
.
8
±23
.
5mg
/d1
か ら121.
8
±7.
5
mg /dl
へ,
DE
群 は219.
9
士1L7
mg /d1
か ら123
.
1
±6
.
3mg
/dl
へ共
に減少
し た が,
両 群に有 意 差は認め ら れ な かっ た。 また その際
の, 変化
量 お よび変化率
にも有
意 差は認め ら れ な かっ た。 し た がっ て今
回の検
討で,
血 糖 値の変 化に対 す るOHA
の効
果は,
D ,
DE 両
群に差が な い と考
え られ た。 考 察糖 尿 病と運 動との関わ りにつ いて は
,
研究
の初
期に は血 糖の変 動,
あ る い は ホル モ ン の変化
か ら 検 討され,
最 近で は さらに,
細 胞 レベ ル での研究
が進め ら れて い る。 しか しこれ ら はい ず れ も, 身体労作
, あ るい は単離
さ れ た筋の収 縮による生 化学的変化
のみ を捕ら え た,
限 定さ れ た状 況で の成266 理 学 療 法 学 第 23巻 第 5号
績
で あ っ て,
生活体
が受
け る様
々 な環境
の影 響 (食 事など) を,
あ えて除 外 した 際の結 果である こ と に留
意 する必要
がある。 すな わち臨床
的に食
事 療 法との比 較で,
運 動 療 法 を 併 用 した場 合の 血糖
コ ン トロー
ル はよ り良好
で , そ の効 果は食事
療法単独
よ りも良好
で あるとい っ た, 運動療
法の 血 糖コ ン トロー
ル に対 する効 果を,
明確に し た証 拠 は未 だ 得 られていない。今
回の研究
の結
果,DE 群
は 運動
追加直前
に比 して,
退 院 時 FPG は有 恵に低 下 して い た が,D
群
との比較
で は変 化 量, 変 化の割合
に差は認め ら れ な かっ た。 ま たHbAlc
値の 測 定 意 義 から考 慮 す ると, 1
ヵ月 間の変 化か ら判
断 するこ と はで き な いが,FPG
と 同 様に退 院 時 両 群に差 がない こと か ら,
この 調 査で は,FPG
か ら見た食事療法
と 運 動 療 法の,
血 糖 コ ン トロー
ル に対 する効 果は同等
と考
え ら れ, 運動療
法がNIDDM
の由1糖
コ ン トロー
ル に有 効であ る という証 拠を得る事はで き な か っ た。NIDDM
にお ける運 動 療 法の 効 果は,
運 動 がイ ン ス リン抵抗性
と イン ス リン分
泌状
態の ど ち らに 作 用 する かに よっ て異な るlo)。Rogers
ら11)は,NIDDM
7
例 とIGT
(Im −
paired glucose
tolerance )
3
例に対
する1
週 間の運 動 療 法の
検
討を行
い,
運 動 前に高
イ ン ス リン 「「i[症 を呈 し た症例
は, 運 動後
に イ ン ス リン分 泌の改善
と耐糖能
の改善
を 認 め た が, イン ス リン分
泌 の障 害されて い る症 例で は,
運 動によ る耐 糖 能の 改 善 は認め な か っ た と 報 告 して い る。 本 邦 のNIDDM
は一
般的
に肥満
は少
な く12), 正常範
囲の 上 限 を越え る高イ ン ス リン血 症を認めない症 例が多
い(
Rogers
らの 症 例のFPG
は約110
〜120
mg /dl
, 空 腹 時イ ン ス リン値は20 〜 25
μU
/ml だ が,今
回の検討
で イ ン ス リン の測定
が可能
で あっ た18
例の空 腹 時イ ンス リン値は,D
群10
例6.
4
±1.
1
μU
/m1,
DE
群8
例8.
9
±2.
0
μU
/rnl), ま た これ らの症 例はBMI
30.
3,
肥満度約 40
% に 対 し,
我々 の症 例で はBMI
はD
群24.
0,
DE
群24.
7
, 肥満度約 10
% と病 態に かなりの差がある。 し た がっ て,我
々 の 症例
の ご と くすで に イン ス リ ン分 泌が障 害さ れ,
肥 満のない顕 性の糖 尿 病で は,
運 動 療 法の血 糖コ ン トロー
ル に対 する効 果は肥 満者
に比して大
き な役割
を果た さ ない と言
え よ う。ま たイ ンス リン抵 抗 性 改 善の メ カニ ズム は ,
食
事
の是 正に よ っ て も保
証 さ れ るL3)。Lampman
ら14)は,耐糖能異常者
に食事療法
を徹底
せずに9
週 間の運 動を行わ せ た ところ,
イ ンス リン感 受 性 の改 善は認め られ な かっ たと報 告 して いる。 した が っ て,我
々がNIDDM
に対
する運 動療
法の効 果と して,一
般 的に認 識 して い る1
.
iT
[糖 値の低 ド,
イ ン ス リン感受性
の兀 進 とい っ た現象
は,実際
に は食 事療
法の 効果
が か な り加味
さ れ たもの で あっ て,
けっ して運 動 療 法 単一
の効 果では ないといえ よ う。
で は,
運 動 療 法の必 要 性はどこ に見いださ れ るの であ ろ う か。NIDDM
の病 態には 肝の糖 放 出率の一
ヒ昇
と糖取
り込み率
の低下
,筋
の糖取
り込み率
の低下
, 膵イン ス リン分 泌 不 全が挙 げら れ る。 し た がっ てNIDDM
の治 療を考
え る場合,糖 代謝
の主要
組織
と して の肝,
筋に対
して,食事
, 運動
が どの よ うに作
用す るの か を, 正確
に把
.
握
す る必要
が あ る15)。食
事療
法は,食物摂取
量・
内容
の是 正に よ り , 肝グ リコー
ゲン貯 蔵 量の減 少お よ び肝 糖 生 産 率を低
下さ せ,
直 接 的に糖 代 謝に作 用し,
血 糖コ ン ト ロー
ル の中心 的な役割
を果
た して い る。
し か し末
梢組織
の イ ン ス リン感受性
,組織
で の糖取
り 込 み 促 進につ い て の作 用は持 たない。 これに対 し運 動 療 法は,
活 動 筋での糖 取り込みを亢 進させ,
短 時 間では あ る が運動中
, 運動後
に血糖
を低下
さ せ, 同 時に運 動の継 続によ りイ ンス リン感 受 性を高め, イン ス リン抵 抗 性を改 善させる作
用は, 食 事 療 法 の 後ろ盾が あるもの の,
運 動 療 法に求め られる最 大の効果
といえ る。 ま た筋
の容積
を増加
さ せ る事
は, 糖 利 用の場を増 大 すること と なり, イン ス リ ン感 受 性の亢 進とあい まっ て,
糖 取 り.
込み量の一
層の増 加が期 待される。 したが っ て,
運 動 療 法はNIDDM
の治 療に重 要な役 割 をになっ て いる とい え る。 し か し一
方
で ,肝
に対
する直接
的な作
用を持
た ないため,肝糖放出率抑制作
用は 認め ら れ な糖尿病に お け る運 動 療 法の血糖コ ン トm
一
ル に対 する有効 性の検 討 267 い。し た がっ て
FPG
の低下
か らみ た血糖
コ ン ト ロー
ル に対しては,
運動療法
に大
き な役割
を期待
で きない こ と が本 検 討により明ら かに さ れ た。 こ の こと は, 日常 臨床
でNIDDM
の治療
効果判
定 の 目安と して, 通常
用い ら れ る空腹時
血糖値
を.
評
価 する際
留 意 すべ き事
と思わ れる。 文 献1
)河 盛隆造, 森 島豊彦・
他:洫1糖コ ン トロー
ル にお よぼす 諸 因 子一
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268
ve7as
atY
eg
23
#ee
5'Me
<Abstract>
The
Effect
ofExersise
Therapy onGlyeemic
Control
inPatients
with
Non-Insulin-Dependent
Diabetes
Mellitus
(NIDDM)
Tomoyasu
ISHIGURO,
RPT,
Kyoko
KUBOTA,
RPT
Dopt
of
Rehabilitation
n(ledinne,
St,
Mtzrianna
Uitiversiitx
School
of
Mtadutne
7byoko
Elospital
Masamichi
YAMADA,
MD
intemal
Mbdicine,
St.
Mlirianna
Uitiversity
School
of
Medicine
7byoko
Hbspital
To
examinethe
effects of exercisetherapy
onglycemic
control, weperformed
a prospective controlled study of
32
Non-Insulin-Dependent
Diabetes
Mellitus
(NIDDM)
patients
in
hospital
who were randomly assignedto
dietary
therapy
(D
group,
n;19) or todiet
combined exercisetherapy
(DE
group,
n=13).The
patients
in
the
D
group were evaluatedin
the
period withdietary
therapy,
andthe
patientsin
the
DE
group
were evaluatedboth
in
the
first
period withdietary
therapy
aloneand
in
the
secondperiod
withdiet
combined exercisetherapy.
Both
D
andDE
groups showed a significant reduction
in
fasting
plasma
glucose
(FPG)
levels
afterdietary
therapy,
andthe
difference
between
the
two
groups
was not significant.Although
FPG
levels
in
the
DE
groupfurther
decreased
significantly aftercise
therapy,
similar effects onFPG
levels
were observedboth
in
D
andDE
groups
at