理学療 法学 第
20
巻第5
号300 〜306
頁 (1993
年)報
告
坐
面 傾斜
に
対
す
る
反 応
か
ら
み た
左
片麻痺
,右片麻痺
患
者
の
体幹機能
の
特徴
*江 西
一
成
1)安 倍 基 幸
2)緒
方
甫
2) 要 旨 左・
右 片 麻 痺 患 者 (各10
名 )の体 幹 機 能と して坐 面 傾 斜に対する反 応を検討 す るた め,
各 坐 位 条 件 の重心動揺距離を床反 力計にて測定し,
以下の結果を得た。 健 常 群との比較か ら,
右 片 麻 痺 群で は健 側 下 傾 斜で有意 な動 揺 増加 を示す が,
患側下傾 斜で は 差 が な かっ た。一
方 左 片 麻 痺 群では各肢 位の動揺傾 向が一
定し な かっ た。 片麻 痺両 群 間に お け る 比較か ら,
右片麻痺群は健側下傾斜で大き な反応を示し,
左片 麻痺群で は患 側 下 傾 斜で大き な 反 応 を示す とい う異な る 傾向を 認 め た。 これ らの差 異は体幹・
骨盤に も 正常運動機能に由来す る一
側優 位性が あ り, こ こ に麻痺側の相違が関 与し たことで生 じ たもの と推 察さ れ た。 キー
ワー
ド:脳 卒中片麻痺, 体幹 機能, 坐面 傾斜 は じ め に 脳 卒 中片 麻 痺患者に対する理学療 法の 目標に は,
ADL
の 自立 な かで も起居 移 動 動作の確立が第一
に挙げ られ る。 この う ち歩行 能力の重要性は周知の ことで関連 する研 究も多 数な さ れており,
我々 も最 大歩行速度に対 する影 響 因 子と して年 齢と下 肢の麻 痺 程 度,
さ らにその 筋 力が重 要で あるこ と を報 告し たD。し か し そ れ は実 用 歩 行レ ベ ル の患 者で の因果 関 係で
,
日常の臨 床で は む し ろそ こ に至る経 過で多 くの問 題を認め,
こ の ような四肢 の運 動機能だ けで は解 釈に苦 しむ場 面に遭 遇 する ことも しばしば ある。
従っ て起 立・
歩 行の出来ない ような患 者 にも共 通 する問 題 すなわ ち体 幹 機 能や坐 位バ ランスに 関する研究に は より高い必要 性がある と い え ようZ)。 片 麻 痺 患 者の体 幹機能にっ い て は その運 動 機 能,
姿 勢 反応な どによる段 階付け3)4)の試行や端坐 位における動 作 分 析5),
ま た 坐 位バ ラン ス とADL
との関 連6)などが 検 討されて い る が,
多 くは体 幹 機 能の良 否に伴う現 象 を 論 じたもの といえ る。一・
方 体 幹 機 能や坐 位バ ラン スを 左 右 する原因に麻 痺側そ の もの の相 違7)や, 半側空間無 視8)ま た 対 側 小脳 半球 血 流 低 下9)などの 関与を示 唆 する 報告 も散見さ れ る が不明な点も少な く ない。 今 回 片 麻 痺 愚 者の体 幹 機 能 として床 反 力 計に よる坐 位 保持能力を計 測し, 特に坐面傾斜を加え ること で生 じ る 反 応か ら麻痺側の相違に よ る特徴を検討し たの で報 告す る。=
Characteristics of Trunk Function Disorder in Left and Right Hemiplegics using P王arle Tilting1)産
業医科 大 学 病院リハ ビリ テ
ー
ショ ン部Kazunari Enishi
,
RPT : Dept、
of Rehabilitation,
Uni−
versity Hospital of Occupational and Environmental
Health2
〕
産業医科 大 学リハ ビリテ
ー
シ ョ ン医 学 教 室MQtoyuki Abe
,
MD,
Hajirne Ogaしa,
MD : Dept.
of Re−
habilitatiQn Medicine
,
University of Occupational and Environmental Health 〔受付 日1992年8月5日/受理 口1993年4月27日) 対 象 1991年 3 月か ら同年 10 月まで に当 院リハ ビ リテー
シ ョ ン科に入 院し た脳 卒 中 患者 42名 を対象とし,
後 述 の方法で坐 位保持 能力 を計測した。 この う ち検 討の対 象 に は右利き,
発 症 か ら1年 未満,
逓 動 麻 痺が存 在 し,
最 低 限 背 もたれ無 しの坐 位 保 持 可 能,
の四条 件 を満たす も の を選択し,
麻 痺 側 以 外の相 違が少な くなるよ う配 慮し坐面傾斜に対 する反応か らみ た左 片 麻 痺
,
右 片 麻 痺 患 者の体幹機 能の特徴301
表 1 対 象 健 常 群 (N ・
・
20
) 片 麻 痺 群 (N =20
) 左片麻痺 (N ・
=10
) 右片麻 痺 (N =10
) 年 齢 (歳 ) 身 長 (cm ) 体 重 (kg
) 男 / 女 罹病期 間 (月) 歩行 :a
! /不 可 56.
8±8,
4 157.
8±6.
655.
7
±6.
8
10/10 57,
6±12.
6 158.
8± 7,
4
53.
0
±7.
1
5/5 4.
1±2.
3 2/8 57.
9±9,
6 159.
9±5,
753.
7
:±:6 、
3
5
/5 ’2,
1 ±1.
6 3/7 * p〈 0.
05 三群間に年 齢, 身長, 体重 (t一
検 定 ),
男女比 (x2 検定 )に差は な い 表2
左・
右片麻痺での麻 痺程度の分 布 (人 ) 【T.
E
支Br.
stage I U 皿 IVV 下肢Br.
stage I H 皿NV
左片麻 痺 2520 1 右 片 麻 痺06400
0 2 4 3 10
13
5
1
両群聞の麻痺程度に差は ない (X2 検定 ) た。 そ の結 果,
左 利 き1
名,
発症か ら1
年 以 上7
名,
失 語 症が主 症 状7名,
計 測 肢 位の実 行 不 可 5名 および 失調 症 を 呈 する2名 を 除 外 し た左 片 麻 痺,
右 片 麻 痺 患 者 各10
名 と, さ ら に対照群と して右利きで グルー
プ特性に 大 差の な い健 常 者 20名を対 象と し た。 その 内 訳 は表1 ,
2
の通り で3
群間の グルー
プ特性に大差は な かっ た。 但 し左片麻 痺群で は右片麻 痺群に比し発 症か らの 期間が長 く,
ま た半側 空間無視を7
名に認め た。 こ の うち特に半 側空 間 無 視の影 響は軽 視 出来ないが,
今 回 は例 数の関 係 か ら便宜的に麻 痺 側の相違に よ る特 徴に焦 点を おい た検 討と し た。 方 去 1 )測定項 目計測機 器に は Kistler社製床反力計の
fQrce
plate上 に 坐面が左右 傾斜可能な台を設 置し,
計 測を坐 面上に設 定し たものを用い た (図1
)。 こ こ で得られ る値は台を 介して生じ た床反力計直上の変 化に,
高さ補 正を加え坐 面 上で生じ た よ うにコ ンピー
=一
タ処理 して いる。 従っ て 床反 力 計直上の値よ りも大 き く表 出さ れ る が,
全例 同一
手 法であ ること か ら その比 較に支障 は ない。 ま た 被 験者 の肢 位はこ の坐面E
で の足 底非接地,
背も た れの無い椅 坐位と し,
手は同側膝 上に軽く置か せ前 方 固 視 点を濡 視 さ せ た。 坐面の条 件は水 平お よ び左 右へ の各15
度 傾斜 位,
計 測時間は各30
秒間と した。 こ の3
条 件下で の坐 位 保持遂 行に は主に頚 部・
体 幹の 機能を駆使 すること が要求さ れ,
そ の際の坐 位 保 持 能 力 は体幹機能の一
面を示 す といえ る。 こ こからこ の能力 を 総合的に反 映し た圧中心 移 動 距 離 (以 下,
動 揺 距 離と す る)を その指 標とした。 また坐 面 傾斜に対する反応は各 傾 斜 時の動 揺距離か ら水平 時の動揺距離を差し引い た変 化 度 (以 下,
増 加距離とする),
す なわち傾斜 時動揺距 離に含ま れ る水平 時勤揺性の差異によ る影響を少な く し た値を指標とした。 な お 坐面の条件は片麻痺 群で は水 平,
健側下,
患側下の順とし,
健 常 群で の順 序は水平以外規 定し な かっ た。2
) 検討項 目 これ らの値を以 下の項 目に従っ て各々比較検討し た。 図1
測定方法302 理学 療 法学 第
20
巻第5
号 それ ぞ れの比 較に は t−一
検 定を用い,
危 険 率 5% 以 ドを 有 意 と した。 1.
坐 面 傾 斜 刺 激の有 効 性および 傾 斜 側 間で の差 異 各群 内に おいて水 平時と傾 斜時の動揺距離, さ ら に両 傾斜 側間の動揺距離を比較し た。 な お傾 斜 側は健 常 群で は 左下・
右 下 傾 斜,
片 麻痺群で は健 側 下・
患 側 下 傾 斜と した。 2.
水 平 坐 位 および 坐 面 傾 斜に対 する反 応の検 討 左・
右 片麻痺各群と健 常群との間で, 水 平時動揺距離 およ び傾 斜 時 増 加 距 離 を 比 較し た。
なお増 加距 離は健常 群で は左右の平 均,
片麻 痺群で は健側 ド・
患側下 傾斜を 用いた。3 .
片麻痺両群問で の傾斜側による反応の差異 麻 痺 側の相 違に よる特 徴の検 討 と して両 傾 斜 側の増 加 距 離の差 (健 側 ドー
一
患 側 ド) を比 較した。
こ の値は正で 健 側 卜傾 斜,
負で患 側 ド傾 斜 がよ り大 き く反 応し た こと を表す。 結 果L
坐 面 傾 斜 刺激の有効性およ び傾 斜 側 間で の差 異 健 常 群,
片 麻 痺 群 (左・
右 片 麻 痺 群の全て) と もに傾 斜によ る動揺距離の有意な増 加 を示し,
坐面傾斜刺激の 有 効 性 を認め た。
また傾 斜 側 間で は健 常 群の左 ドが 右 ド 傾余斗よりも有意に大き く増 加 して いた が, 片麻痺群で は 差 を 認めなか っ た (図2
)。 次に片麻痺 群の麻 痺側別検討で は,
右 片 麻 痺 群におい て傾斜に よ る有意な増加 を 認 め た が,
左片 麻 痺 群で は増 加傾 向に あ る が有 意 差は な かっ た。 ま た傾 斜 側 間で の差 は両 群と もにな かっ た (図3
)。2 ,
水{F
坐 位 および坐 面 傾 斜に対 する反 応の 検 討 水 平時動揺距離は健常 群に比 し左片麻痺群が有意に大 きな動 揺 を示 し た が, 右 片麻痺群で は差を 認 め な かっ た (図3
)。 次に増加距離の健常群との比較は,
右 片 麻 痺 群におい て健側下傾斜が有 意に大きな値だっ た が患 側 下 傾 斜では 差は な く,
傾 斜 側による明 確な格 差 を 認めた。一
一
h
’
左 片 麻痺群で は両 側 共に大 き く,
その うち患 側 下 傾 斜が よ り 大 き な 傾 向 だ が,
バ ラッキ が大 き く有意 差は な かっ た。 しか し一
定しな いこ と が特徴と して捉え ること がで き る (図4
)。3 .
片 麻痺両 群 問で の傾 斜 側によ る反 応の差 異 増加距離の差の比 較で左・
右 片 麻 痺 両 群 間に有 意 差を 認め た (図5)。
っ まり右 片 麻 痺 群で は健 側 下, 左片麻 痺 群で は患 側 下 傾 斜において よ り大き く反 応し,
異 な る 傾 向であっ た。 し か し左 右傾 斜側と してみ る と両 者は と もに左 下傾斜で よ り大き く反 応し, 健 常 群における反 応 と類 似 した もの で ある。 300 002〔
§}
鎧 蚤 100 「一
*一
一
一
] * * * 188.
11 ±32.
9 図2 * *pく0.
05 * *P<O.
Ol 水 平 左.
ド 右 下 健 常 群 188.
42 ±27.
6 227,
06 ±71.
8 * 221.
67 ±64.
2 水 平 健 側 下 患 側 下 月.
麻 痺 群 坐面 水平時お よ び各傾斜時の 動揺距離 健 常 群,
片 麻 痺 群ともに坐 面 傾 斜による動 揺 距 離の有 意な増 加 を 示し,
さ ら に 健常群では 左 下 傾斜でよ り大き な増 加を示 す。
坐面 傾 斜に対す る 反応か ら み た 左片麻痺
,
右片麻 痺患者の体幹 機能の特徴303
暮)
300 豊 200 100 図3 「一
*一一一
「 197.
12 士28.
7 230.
48 士96.
2241.
80 ±78.
0 * P<0.
05 * 223,
64 ±32.
2 * 201.
55 ±36,
6 179.
73 ±23,
4 水 平 健側下 患 側下 水 平 健 側 下 患 側 下 健 常 群 水 平 左 片 麻 痺 群 右 片 麻 痺 群 坐 面 水 平 時・
各 傾 斜時の麻 痺側別動揺距離 お よ び水平 時動揺距離の健常 群との比較 坐面傾斜で右片 麻 痺群は有 意 な 増 加 を 示 すが,
左 片 麻 痺 群では増 加 傾 向だ が有 意 性な し。 水 平 時 動 揺 距 離は左 片 麻 痺 群が健 常 群に比し有意に大きい。(
葛)
100 員 50 1460 ±214 33.
36 土86.
4 44.
68 土63,
7 * * PくD.
Ol * * 43.
91 ±35.
8 21.
82 ±24.
6 0 健 側下 患 側 下 健 側 下 思 側 下 健 常 群 左 片 麻 痺 群 右 片 麻 痺 群 図4
坐面 傾斜に よ る増 加 距 離の健 常 群との比較 右片 麻痺群では健側下傾斜で有意に大 きな 増 加,
患 側 下 傾 斜で差 が ない。 左 片 麻 痺 群では両 傾 斜 側で増 加 傾 向だ が有 意 性が な く一
一
定しな い。
考
察
今 回片麻 痺 患 者の体幹機能を検討し麻 痺側の相違に よ る特 徴を 認 め た。 こ こ で は その起因 を片麻 痺 患者の坐 面 傾 斜とい う状 況 下で の不 安 定 要 素を考え,
そこから今 回 の結 果を考 察 する。 まず 体 幹は両 側 神 経 支 配とい われて い る が不 明な点 も多 く,
片 麻 痺 患 者におけ る麻 痺の影 響 を指 摘し た報 告も ある10)。 さ らに肩 甲・
揖 盤 帯の麻 痺の304
理学療法学 第20
巻第5
号 cm 十50 *P<0.
05。
」
鬮
・−
f
一一…
一
一
50一
左11片 麻 痺.
群32
±26.
6 右 片 麻 痺 群 22.
09:ヒ39.
7 図 5 坐面傾斜に対する反 応の麻 痺 側に よ る相 違 増加 距離の差 (健側 下一
患 側’
下)は,
正で健側 下,
負で 患 側下傾斜が大き く反応し たこと を表す。 左片麻痺 群で は患 側 下 傾 斜 右 片 麻 痺 群で は健 側 下 傾 斜 でよ り大 き な反 応 を呈 した。
影 響を加 味 する と,
坐面 傾 斜に対して健 側と患側 体 幹で は立 ち 直 り能 力の差があ り,
患 側 体 幹で の立ち直 りが要 求さ れ る健側下 傾斜に不安定 要素が存 在すると考え られ る。 次に正常運動機 能に は利き手に代表さ れ る一
側 優位 性 があ り,
下 肢 機 能で は左 下 肢における支 持・
安 定 性の優 位 が指 摘されて い る11)。
今 回 健 常 群におい て坐 面の左 下 が右 下傾脳よ りも大 きな動揺距 離を生 じたことか ら,
坐 位保持能 力 すな わ ち体 幹 機 能にも一
側 優 位 性の あること が考え られ る。 坐面の左下傾斜に対し安 定した坐位保 持 を 遂行す るに は,
体幹の 右方へ の立ち直り と右 骨 盤 側で の体重支 持,
逆に右下 傾斜で は体幹の左方へ の立 ち直り と左 骨 盤 側で の体 重支持が要 求さ れ る。 こ こか ら左側体 幹・
骨 盤に も支 持・
安 定 性の優 位が存 在 する と考え ら れ る。
な おこ の立 ち直 り と体 重 支 持 は連 動 した反 応だ が,
こ こで は前 述の麻 痺に よる立 ち 直り能 力の差との区 別か ら,
これ を左 骨 盤 側にお ける支 持 性 優 位 と して述べ る。 従っ て も う一
っ の不 安 定要素 と してt 左 下 傾 斜っ まり左 骨 盤 側へ の体 重 偏 位 が 挙 げ られるといえよう。 以一
ヒの 二点 (立 ち 直り体 幹 側,
支 持 骨 盤 側 )に加え,
片麻痺 患 者で は麻痺 側の相違 が歴 然 と存 在 する。
こ れ ら を も とに今 回の結 果 を 考え ると,
図6 .
上段のように右 片 麻痺で は健側下 傾 斜に患 側 体 幹で の立 ち 直り,
左 骨 盤 側 へ の体重 偏位とい う二つ の不 安 定 要 素が集 中 している。
健f
貝凵1
下幽
f
頃 余斗 片 麻 片 麻 患 側 下 傾 斜 図6
左,
右 片 麻 痺での坐面 傾斜に対する不 安 定 要 素 (※−
1,
−
2) ※−
1:患 側体幹で の立ち直り ※−
2 :左骨盤側へ の体重偏位 上 段 :右 片 麻 痺では健 側下傾 斜に二つ の不 安定 要 素が 集 中 下 段 :左片 麻 痺では両 傾 斜 側に不 安 定要素が分散 しかし患 側 下 傾 斜で はそれ らが存 在 しない。
こ こから右 片麻 痺群の傾 斜側に よ る明確 な格差 を生 じ た もの と考え ら れ る。一
方 左 片 麻 痺で は下 段の よ う に健 側 下 傾 斜で は 患側体 幹の立 ち直り,
患側下傾斜で は左骨盤側へ の体 幹 偏位が要求さ れ,
両傾斜 側に不安定 要素が存在する。 こ れ が 左片麻痺 群で の両 傾 斜 側で の動揺増加傾向と一
定し ない とい う特徴を裏付け,
さ らに水平 坐 位時の動揺距離 増 大の誘 因と なっ た と考え られる。
同様の報 告は沼 田 らηも行 っ て い る、 そこ で は坐 面 傾 斜 時の坐 骨 部 荷 重 量の検 討か ら左 側 体 幹の優 位 性と右 半 球 損 傷 (左 片 麻 痺 ) 群の体 幹バ ラン ス の不 安 定 性 を述べ て い る。
そ のうち左 片 麻 痺 群の不 安 定 性の原 因と さ れる,
荷 重の右 方 偏 位とい う点に は多 少 解 釈の相 違があ る。
今 回の対 象の大 半は発 症 か ら6ヵ月 以 内 (一
例の み9カ 月 ),
自 立 歩 行に未 到 達の いわば回 復 途 上の片 麻 痺 群で ある。
前 記 報 告で はこ の点の明 記が な く推 測の域 を 出な坐面傾斜に対 する反 応からみ た左片麻痺, 右片麻 癒患 者の体幹機能の特徴
305
いが,
今 回の結 果は左 片 麻 痺 患者にとっ て の安 定した坐 位 すなわち一
定した荷 重の右 方 偏 位に至っ て いない状 況 を 示し たもの とも考え ら れ る。同時に沼田 ら7)は 左片麻痺 群の不 安 定 性と 垂直判 断と の関 連
,
さ らに網 本ら8)は特に半 側 空 間 無 視 群で視 覚 的 垂 直 定 位 能 力と坐位 平衡 機 能の成 績が劣ると して い る。 今 回対象と し た左片麻 痺群には7
名の半 側空間無視例が 含ま れており,
こ のよ う な高 次 脳 機 能 障 害の関 与は否 定 で きない。
特に左 片麻痺 群が患 側 下 (左 下 ) 傾斜で大 き な反 応 を示 す 傾 向にあっ たことは健 側 体 幹で の立ち直 り が拙 劣である こと を示し,
こ の原 因に半 側 空 間無 視を含 む 左 片 麻 痺 患 者 に 特 有 の 行 動 異 常 (behavioral
abnormalities ユz)) すな わ ち劣位半球 症 候の関 与が考え られ る。 し か し今 回の左 片 麻 痺 群の うち患 側 下 傾 斜で大 き な反 応を示 す例が,
必 ずしも半 側 空 間 無 視 例と一
致 す るもの でもな かっ た。 さ らに日常臨 床におい て明ら か な 半側空間 無 視のない左片 麻 痺 患 者が,
あ た か も発病前の 左.
ド肢 (骨 盤 )の支 持・
安 定 性の優 位を発 揮し よ う と し て,
バ ランスを崩し たり転 倒 する ような場 面を観 察 する こと が ある。 こ こか ら今回の左片麻輝群にお ける患 側 下 傾 斜で の大 きな反 応とい う現 象を推 察 する と,
特に発 病 後 早期の左 片 麻 痺患者で は発 病 前の数十年 間培っ て き た 左 下 肢 (偶盤 )の支 持,
安 定 性 優 位の影 響 を色 濃 く残 し て い る の で はないか と考え た。
従っ て半 側 空 間無 視や 垂 直 判 断な どの問題は有 力な関 連 因 子で あ ることに遼い は ないが,
まず 支 持・
安 定 性の優 位を健 側へ と転 換 する こ と が前 提と なり,
その過 程の中で これ らの問 題が様々 な 影 響を及ぼすと考え るのが順 当で は な かろ うか。 こ の点 は今 後の検 討 課 題といえるが,
そこ に は発 症か らの期 間 や 歩 行 能 力,
ま た訓 練 効 果な どの関 連 も挙 げら れ,
こ の こと を念頭に入れ た検討が必要とい え よう。
お わ り に 大 脳半球に機能 的分 化や優位性の 存在すること,
さ ら にその損傷か ら派生す る運動 課 題な どへ の諸 問 題が 述べ ら れて久しい。 その う ち右 半球機 能に は空間認知や,
mQtQr irnpersistenceに代表さ れ る意識の集 中な ど が知 られて い る が未解明の部 分も多い。
理学療 法に おい て も これ らの問 題からそ の遂 行に難 渋 する患 者 も稀で はない。 しか し同 時に そ の患 者が発 病 前の数 卜年 来,
正 常 運 動 機 能の 発 揮の ドに生 活 を送っ
て きたとい うこと も事 実であ り,
特に左片麻 痺 患 者が麻 痺の存 在にか かわ らず左 ド肢 (骨 盤 )の支 持・
安 定 性の優 位 を発 揮 しよう とす ること を一
概に不 自然なこと と は言い切れ ない。 従っ て劣 位 半 球症候に起因 する諸 問題をもっ左 片 麻 痺 患 者であ れ ばあ るほど その問 題 解 決の糸口を得る には,
今 回の結 果の よ うな正 常 運 動 機能に由来 する体 幹 機 能の不 利 とい う点 を 念 頭に置 き,
麻 痺 側に相 当 させた支 持・
安 定 性の健 側 優 位へ の転 換を図っ た、
E
で適 切な理 学 療 法を進め ることが 必 要 と考 え られ る。 本 論 文の要 旨は第 27回日本 理 学 療 法 士学 会におい て 冂演し た。 引 用 文 献 エ) 江西一
成・
他 :片麻 痺 患者の歩行速 度へ の影響因子一
最大 歩行速度と下肢筋力との関係一
一
.
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,
et al.
:Behavioral abnormalities after right306
ve\esza*
ag
2otseg
sg
<Abstract>
Characteristies
ofTrunk
Function
Disorder
in
Left
andRight
Hemiplegics
using Plane TiltingKazunari
ENISHI,
RPTDopartment
ofRehabititation,
Uitiversity
Hbspital
of
Occupational
andEnviromental
Health
MotoyukiABE,
MD,
HajimeOGATA,
MDDopartment
of
Rehabigitation
A(ledicine,
tinivershy
of
Occmpational
andEnvironmentag
Ubalth
We measured sitting postural sway using forceplatetoinvestigateplane tilting responses in10right and
10
lefthemiplegic
patients.The results were asfollows
:
O
In
righthemiplegic
group thebody
sway tiltingtoward
the unaffected sideincreased
significantly compared with normal group.
However,
wefound
no such tendencyin
left
hemi-plegic group.
(2) Right hemiplegic
group
tended to showgreater
postual
sway ttLtingtoward the un-affected side.On
the contrary, lefthemiplegic group showed greater postural sway tiltingtoward
the
affected side.