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令和2年度東京女子医科大学医学部・基礎系教室研究発表会(2021年12月25日)

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学会・研究会抄録

令和 2 年度東京女子医科大学医学部・基礎系教室研究発表会

日 時:令和 2 年 12 月 25 日(金)9:00~12:00 主 催:基礎医学系運営会議 1.慢性骨髄性白血病原因分子の分解制御機構 (薬理学)塚原富士子 2.網膜傷害後の Müller グリアの増殖に関与する Notch シグナル(解剖学(神経分子形態学分野))齋藤文典 3.糸球体硬化病変の形成過程におけるボウマン囊壁側上皮細胞の遊走メカニズムの解明  (病理学(実験病理学分野))井藤奈央子 4.自閉スペクトラム発症の抑制回路メカニズムと治療法 (生理学(神経生理学分野))三好悟一 5.高齢者の体重変化とそれに関連する要因―地域在住高齢男性を対象とした観察研究より―  (衛生学公衆衛生学(公衆衛生学分野))竹原祥子 6.遺体専用 CT を用いたオートプシー・イメージング(Ai)の実施状況 ―法医解剖の代替となるか? 教育研究への応用は?― (法医学)木林和彦 7.光受容タンパク質を用いた光検出器の開発 (統合教育学修センター基礎科学(医学部物理))辻野賢治 8.医学部入試における非認知領域能力の測定ならびに面接評価法の検討  (統合教育学修センター基礎教育学(医学部医学教育学))平野万由子 1.慢性骨髄性白血病原因分子の分解制御機構 (薬理学) 塚原富士子・丸 義朗   慢性骨髄性白血病の原因分子 BCR-ABL は強いチロシ ンキナーゼ活性をもち,細胞増殖を促進,アポトーシス を抑制する.近年,BCR-ABL 分子標的薬が開発され, 画期的な治療効果をあげている.しかしながら BCR-ABL キナーゼ領域の遺伝子変異や BCR-BCR-ABL タンパク質 の増加による薬剤耐性の獲得が,治療上大きな障害と なっている例が報告されている.我々はこれまで BCR-ABL タンパク質の分解機序について検討を行い,CHIP および c-Cbl が BCR-ABL を基質として認識するユビキ チンリガーゼとして働き,BCR-ABL タンパク質の分解 を促進すること,また Bag1 は未成熟 BCR-ABL タンパ ク質を認識して CHIP による分解を促進することを明ら かにした(TsukaharaF.andMaruY.,Blood116:3582-92,2010).さらに我々はタンパク質を異性化して構造を 変化させるイソメラーゼに着目し,BCR-ABL タンパク 質分解への影響について検討を行った.その結果,ペプ チジルプロリルイソメラーゼ Pin1 は,BCR-ABL タンパ ク質の分解を促進することを明らかにした.種々の領域 を欠失した変異体を用いた解析等により,Pin1 は,Ser/ Thr-Pro モチーフに結合して構造を変化させ,Bag1 と CHIP による BCR-ABL タンパク質の分解を促進するこ とが示唆された. 2.網膜傷害後の Müller グリアの増殖に関与する Notch シグナル (解剖学(神経分子形態学分野)) 齋藤文典・蒋池かおり・藤枝弘樹   魚類などの下等脊椎動物は,網膜傷害後に Müller グリ アが脱分化・増殖し神経細胞を再生するが,哺乳類の網 膜再生能力は極めて乏しい.これまでに,網膜傷害モデ ル動物を作製し,マウスでは網膜傷害後に Müller グリア が全く増殖しないが,ラットではほぼ全ての Müller グリ アが増殖することを明らかにした.  Notch は神経幹細胞の未分化性の維持に必要な転写制 御因子であるが,魚類では網膜傷害後に Müller グリアの 脱分化・増殖を抑制するのに対し,哺乳類では脱分化・ 増殖に必要であることが報告されており,その機能は不 明な点が多い.  本研究では,両動物の網膜傷害後における Notch およ び,その標的因子の発現変化と機能を解析した.その結 果,ラットでは網膜傷害後に Notch,Hey2,Hes5 の発 現量が増加することが明らかになった.さらに Hey2 の 発現を抑制したラットでは,網膜傷害後に Müller グリア の増殖が抑制された.また,Hey2 を過剰発現したマウ スでは,Müller グリアが増殖能を獲得した.この結果か ら,Hey2 は網膜傷害後の Müller グリアの増殖を促進す る因子であると考えられる.一方,Hes5 は両動物の正常 網膜に発現しており,網膜傷害後に発現が消失するが, 東女医大誌 91(2):160-163,2021.4 ―160―

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ラットでは増殖した Müller グリアで発現が誘導される ことが明らかになった.さらにHes5を過剰発現したラッ トでは,網膜傷害後の Müller グリアの増殖が抑制され た.これらの結果から,哺乳類では,Notch シグナルが 網膜傷害後の Müller グリアの増殖の促進と抑制に関与 することが示唆された. 3.糸球体硬化病変の形成過程におけるボウマン囊壁 側上皮細胞の遊走メカニズムの解明 (病理学(実験病理学分野)) 井藤奈央子   〔背景〕巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)の発症は,糸球体足細胞(ポ ドサイト)の傷害に端を発し,その後傷害ポドサイトの 対面に位置するボウマン囊壁側上皮細胞(parietal epi-thelial cell:PEC)が,細胞形態を変化させて傷害ポド サイトに向かって遊走し,増殖や細胞外基質の産生を行 うことで硬化病変が形成される.糸球体の局所で始まる この PEC の形質変化(活性化)には,傷害ポドサイトか らの何らかのシグナル伝達の存在が推測される.本研究 では,活性化 PEC の遊走能獲得過程において,CD44 と その上流因子である macrophage migration inhibitory factor(MIF)およびstromalcell-derivedfactor1(SDF1) を介したシグナルについて検討した.〔対象と方法〕①ポ ドサイトにヒト CD25 を発現させた NEP25 マウスに,イ ムノトキシン(LMB2)を尾静注投与することでポドサ イトを特異的に傷害できる,NEP25/LMB2 マウスの腎 組織切片を用いて免疫染色を行い,CD44,MIF,SDF1 および CXCR4 の糸球体での発現を経時的に評価した. ②不死化マウスボウマン囊壁側上皮細胞(mPEC)を recombinant mouse MIF(rMIF) お よ び SDF1α (rSDF1α)でそれぞれ 24 時間刺激し,CD44 と CXCR4 の発現を定量 PCR,ウェスタンブロッティング,細胞免 疫染色で評価した.さらに同様に刺激した mPEC での MIF と SDF1 の発現も評価した.また Boydenchamber による遊走アッセイを行い,CD44 ノックダウンによる 遊走能の変化を評価した.③ NEP25/LMB2 マウスに MIF 阻 害 薬(ISO-1) お よ び SDF1-CXCR4 阻 害 薬 (AMD3100)をそれぞれ投与し,蛋白尿や糸球体病変, CD44 の発現に与える影響を評価した.〔結果〕① NEP25/ LMB2 マウスの糸球体では,PEC における CD44 の発現 はポドサイト傷害の進行とともに増加した.一方,ポド サイトにおける MIF と SDF1 の発現はポドサイト傷害 の進行とともに増加したが,病変の進行とともにその発 現局在が傷害ポドサイトから CD44 陽性 PEC へと移行し た.CXCR4 は,CD44 陽性 PEC に発現を認めた.② rMIF および rSDF1α で刺激した mPEC は,非刺激 mPEC と 比較し,いずれも CD44 と CXCR4 の発現が有意に増加 した.さらに同刺激 mPEC での MIF や SDF1 の発現も 増加した.遊走能は非刺激 mPEC と比較し有意に亢進し て お り,CD44 ノ ッ ク ダ ウ ン に よ り 抑 制 さ れ た. ③ NEP25/LMB2 マウスに ISO-1 および AMD3100 を投与 しても,溶媒投与群と比較し,病変,蛋白尿,ポドサイ ト数,CD44 の発現に有意な変化を認めなかった.〔考察〕 傷害ポドサイトに発現した MIF および SDF1 が,液性因 子として PEC に作用して CD44 と CXCR4 の発現を誘導 し,活性化 PEC の CD44 を介した傷害濾過障壁への遊走 を促進していること,さらにポドサイトの剥離後は,PEC が内因性の MIF や SDF1 を発現し,自らの遊走を促進し ている可能性が考えられた.この傷害ポドサイトと活性 化 PEC における MIF と SDF1 の二相性発現によって, 傷害された濾過障壁の修復機構が促進され,結果として 糸球体硬化に発展すると推察された. 4.自閉スペクトラム発症の抑制回路メカニズムと治 療法 (生理学(神経生理学分野)) 三好悟一   1943 年の LeoKanner による報告が最初と言われてい る自閉症は,様々な経緯を経て現在では自閉スペクトラ ム症(autismspectrumdisorders:ASD)と呼ばれてい る.対人交流や意思の疎通が様々なコンテクストで困難 であり,また興味や活動に限定的かつ繰り返し傾向が認 められるという二つの特徴を基準として現在診断されて いる(米国 DSM-5).自閉症は女児よりも男児に 4~5 倍 多く確認され,米国では約 70 人,我が国においては約 100 人に 1 人ほど発症すると報告されており社会から注 目されている疾患である.自閉スペクトラムの中には単 一の原因遺伝子により発症する症候群型の X 脆弱症候 群(遺伝子:Fmr1),フェラン・マクダーミド症候群 (Shank3)などが知られているが,これら全てを合わせ て も 自 閉 症 全 体 の 5 % に も 満 た ず(Sztainberg and Zoghbi,2016),ほとんどが特発性であり遺伝と環境リス ク両要因の複雑な相互作用により発症する.症候群型自 閉症の原因遺伝子に着目したモデル動物による侵襲的な 実験解析系はたいへん有用であるものの,スペクトラム のほとんどを占める特発性自閉症へのアプローチがこれ まで課題とされてきた.治療へと取り組むためには発症 機構の理解は必須であり,発症に至る過程の中間表現形/ エンドフェノタイプを探索する研究が盛んに実施されて いる.  近年,特発性自閉症患者の体細胞から調製した iPS 細 胞を用いた分化アッセイが実施された結果,一様に転写 因子 FoxG1「量」増加が観察されたことから疾患エンド フェノタイプとして FoxG1「量」が注目されている.ま た FoxG1 遺伝子自身の変異では,遺伝子座の重複および 欠損いずれの場合においても自閉症 FoxG1 症候群を発 症することが明らかにされている.このように FoxG1 因 ―161―

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子「量」の重要性がヒト疾患で示唆される中,最先端の マウス遺伝学的手法を取り入れることによって FoxG1 因子「量」が自閉スペクトラム発症に寄与する機構の解 明に挑戦した.本研究では,生後の幼児発達期に FoxG1 量が正常でないと回路興奮抑制に異常をきたして社会性 行動や脳波に異常が現れる機構を解明し,さらには抑制 回路機構を介した治療法を提案する. 5.高齢者の体重変化とそれに関連する要因―地域在 住高齢男性を対象とした観察研究より― (1衛生学公衆衛生学(公衆衛生学分野),2CERA ConcordClinicalSchool,UniversityofSydney) 竹原祥子1・CliveWright2   〔緒言〕高齢期の意図しない体重減少が死亡や要介護の リスクを高めることが,これまでの研究で示唆されてい る.高齢者の体重減少と口腔の関連では,歯を失うこと で十分に食事を摂れないなどが報告されているが,食欲 および口腔状態の体重減少との関連について検討した研 究はこれまでにない.本研究では,高齢者の口腔状態お よび食欲の体重減少との関連について調査した.〔対象と 方法〕分析対象としたのはオーストラリアにおけるコ ホート研究 CHAMPStudy の 5 年目,8 年目追跡調査に 参加した地域在住高齢男性 542 名である.調査は自記式 質問票,身長・体重の計測,歯科専門家による口腔内診 査などによって行われた.分析では 5 年目の調査をベー スラインとし,3 年間の変化を検討した.〔結果〕平均年 齢は 80.3 歳で,3 年間の体重変化は「5%以上の体重減 少」が 99 名,「5%以上の体重増加」が 54 名,「体重が安 定していた(±5%未満の変化)」が 389 名にみられた. 「5%以上の体重減少がみられた者」と「そうでない者」 はベースライン時において,年齢,BMI および体重には 違いは認められなかった.しかし,3 年後において「5% 以上の体重減少がみられた者」は,有意に体重および BMI が低く,糖尿病およびうつの者が多く,自身の保有 歯数は少ないという結果であった.多変量解析より「現 在歯数 20 歯以上を持つ者」と比較して,「20 歯未満者」 における体重減少の prevalence ratio は 1.79(95%信頼 区間 1.06-3.00)であった.  〔考察・結論〕現在歯数 20 歯未満は体重減少のリスク 因子であることが示された.今後はこれらの人々を追跡 することにより,口腔状態が健康寿命に及ぼす影響を検 討することが必要であると考える. 6.遺体専用CTを用いたオートプシー・イメージング (Ai)の実施状況―法医解剖の代替となるか? 教育研究 への応用は?― (法医学) 木林和彦   オートプシー・イメージング(Ai)は,死亡時画像診 断ともいわれ,死因究明等推進基本法等で「磁気共鳴画 像診断装置その他の画像による診断を行う装置を用い て,死体の内部を撮影して死亡の原因を診断することを いう」とされている.法医学での Ai の役割は,①異状 死か否かの判断根拠,②解剖を行うか否かの判断根拠, ③解剖の補助検査法,である.診療継続中の患者死亡の 際に Ai で内因死であることが判れば,異状死の届出対 象から除外可能な場合がある.Ai で問題のない外因死で あることが判れば,Ai の結果を解剖の代替とできる場合 もある.当法医学講座では遺体専用 CT を用いて全ての 法医解剖例で解剖前に全身 CT 撮影を行っており,解剖 前に主要な病態を把握し,解剖では観察が困難な部位の 損傷等を確認している.Ai では診断が困難な病態もある が,Ai の方が解剖よりも優れている点もあり,Ai を解 剖の補助検査法とし,Ai 所見と剖検所見を組み合わせる ことで剖検診断の精度向上が可能である.学生教育では Ai は必須の学修項目であり,①患者死亡時にはどのよう な場合に Ai を行うのか,② Ai で診断が可能な死因と診 断が困難な死因は何か,について読影を含めた教育が必 要である.研究への応用では剖検所見と組織所見に Ai 所 見を加えることで主要な死因である外傷性脳損傷の詳細 な解析が可能となり,外傷性脳損傷のモデル動物を用い た基礎研究につながるアイデアを Ai から得ることも可 能である. 7.光受容タンパク質を用いた光検出器の開発 (統合教育学修センター基礎科学(医学部物理)) 辻野賢治   光受容タンパク質の 1 つであるバクテリオロドプシン (bacteriorhodopsin:bR)は,高度好塩菌の細胞膜に存 在する膜タンパク質である.その役割は,ATP 合成のた めのプロトン駆動力を供給するために,細胞外にプロト ンを輸送することである.この輸送のために必要なエネ ルギーを,bR は太陽光から得ている.  bR によるプロトン輸送の流れは,電気信号として読み 出すことが可能である.この特徴を活かし,環境負荷低 減の目的で,bR を太陽電池や光検出器として利用する研 究が活発に行われている1).  しかしながら,非常に微弱な光の検出については,発 生するプロトンの流れも微小なものとなることから,ほ とんど研究されていない.微弱光検出技術は,学術的研 究はもちろん,車載 LiDAR や医療用画像診断装置にも 用いられている重要な技術である.今回,これまでに開 発している微弱な電流を検知可能な電荷積分アンプ2) 用いて,bR が発生する微弱な電流の検出を試みた.  bR を固着した光検出部に対して,波長 532nm のレー ザー光を 0.05ms にパルス化にして照射し,検出限界を 調べた.その結果,1 パルスあたり 7.4×10-14J の光エネ ―162―

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ルギーを検出可能であることが明らかとなった.今後は, 単一光子レベルの光を検出可能な装置を目指し,開発を 進めていく. 1)LiYTetal.:Sensors18:1368,2018. 2)TsujinoKetal.:IEEEElectronDeviceLetters30: 24,2009. 8.医学部入試における非認知領域能力の測定ならび に面接評価法の検討 (統合教育学修センター基礎教育学(医学部医学 教育学)) 平野万由子   医学部入試では受験生の認知領域能力(e.g.基礎学力) だけではなく,非認知領域能力(e.g. コミュニケーショ ン能力,協調性)を評価する必要がある.一般的な医学 部入試では認知領域能力を学力試験,非認知領域能力を 面接で評価するが,従来の面接は対策が容易であるだけ でなく,目的の能力を捉えているのかわからない.この 問題に対応した非認知領域能力の評価方法として Multi-ple Mini-Interview(MMI)という面接法が国外で開発 された.本学も 2018 年度一般入試から MMI トライアル として試験的に実施しているが,非認知領域能力と, MMI トライアル,学力試験,従来型面接にどのような関 連があるのか明らかになっていない.  本研究では,本学一般入試 1 次試験で実施する適性検 査で測定した受験者の心理特性を非認知領域能力の指標 とみなし,学力試験,従来型面接ならびに MMI トライ アルとの関連を探索的に検討した.その結果,学力試験 は非認知領域能力と関連が認められず,従来型面接と MMI トライアルは関連があった.また,従来型面接や MMI トライアルのような面接法の間でも課題の性質に よって心理特性との関連に違いがあった.  本研究から,学力試験と従来型面接による一般的な医 学部入試では,測定できない非認知領域能力があること が示唆された.また,複数の課題を組み合わせて評価で きない能力の側面を補う,MMI の有用性が示された.な お,基礎系教室研究発表会にて発表した内容は大学入試 研究ジャーナル 31 号に掲載予定である.        ―163―

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