Japanese Physical Therapy Association
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Japanese Physioal Therapy Assooiation
理 学 療 法 学 第15巻 第4号 343
〜
346頁 (1988年 )報
告
口
腔
運
動 機
能 障 害
を
有
す
る
乳 幼 児
の理
学 療
法
に つ い て *伊 藤
ひ
と
み * * 要 旨 口腔 運 動 機 能 障 害 を持つ 13名の 乳 幼 児に理 学療法を施 行し た。
その原 因は,1
)異常な 筋 緊 張・
姿勢 運 動パ ター
ン の 存 在,
2)経口哺乳の 経 験不 足,
3)口腔の構造 異 常に分 類 さ れ た。
症 例13名の う ち,
申枢 性 運 動 障害を有する児9 名申7
名, 中枢 性運動 障害を有し ない児 4名 全 員に経口哺乳 が確立 できた。
こ こ で は,
1 群 :中枢性運動障害を有する児,
H群 :中 枢性運動 障害を有しない児に分 けて報告 する。
キー
ワig
ド 哺 乳 機 能,
乳 幼 児の理学 療 法,
神 経 発 達 学 的治 療1
は じ め に 小児科領域に関わ る理 学 療 法士に とっ て, 運 動 機 能 障 害に随 伴 する哺 乳・
摂 食 閥題の解決 は,
理 学療 法を進め て い く上で重 要な要 素で ある。
特に年 齢が小さか っ た り,
重 症例で は生命維持 機能と し て の哺乳・
摂食 機 能の改善 を優先し なければならない場合もある。 今回, 口腔運動機能障害を有 する乳 幼児に対し理 学 療 法を施 行し,
異 常姿勢 筋 緊張か ら くる口腔 運 動 障 害 を もつ群,
正常な経口哺 乳 経 験の不 足か ら生じ た口腔 運 動 機 能 障 害 を もつ群の 2群に分類し,
その 2 群につ い て 報告する。H
症 例 1群に おい て は,
口腔 反 射の欠如 な どを含 む 全 身 的な 反 応性の低下 を 示 す児や sucking な どの 自発 運 動 が見 られて も, 間 欠 的スパ ズム によっ てスムー
ズ な 口腔運 動 が阻害さ れてい る児もい た。
又,
全身の筋緊張の亢 進の 為 全体 的 伸展パ Si一
WTL 陥り,
その結 果,
舌の緊 張も 亢 進し,
頭の コ ン トロー
ル も乏し い状 態で口腔の分 離か つ協 調 さ れ た 動 きが障 害 されて しま う。
これ らの児は哺 乳に長 時 間を要した り,
自力で の哺 乳 量で不 充 分 とな る 為, チ ュ・
一
一
ブ併 用 を 余 儀な くされる。 こ のチ=・
一
ブの挿 入,
交 換は児に よっ て は非 常に不快な感覚経 験と な る わ 表1
症 例 基 礎 疾 患 初 診 時 月齢 症 例は昭 和59年 2月か ら昭 和61年10月まで,
大 阪 府 立 母 子保 健 総合医 療セ ンター
にて 理 学療 法を 施行した48名 の う ち,
口腔運動機能障害を もつ 13名 (男 児6名,
女 児 7名 )で ある。
理 学療法 初 診 時の月齢は 1−・
20か月 (平 均4.
6か月 )で,その うち中 枢性運 動 障 害 を 伴 う もの 9 名 (1群 ),
中枢 性 運 動 障 害を伴わ ない もの 4 名 ([群)で,
そ れ ぞ れの 内訳は 工群が重 症 仮 死4名, 新 生 児 期 以 後の 虚 血性脳 症3 名,
中枢 性 協調障害 (ZKS )1
名,
コ ルネ リ ア症候群 1 名,
H 群で は食道閉鎖,
機 能的 腸 閉 塞,
慢 性 肺 疾 患,
顎関節 異常が各 1 名であっ た。
(表1
) * Physicaltherapy for infants with oral
曽
motor dysfunc−
tion
** 土佐
。
希望の家
Hitomi Ito
,
RPT :Tosa Kibe no Ie; The Institution
for
Severe HandicapPed Children(受 付日 1987年10月 /7日) 1 重 症 仮 死 (1) (2> 〔3) (4} 虚血 性 脳 症 ω 〔2) (3)
Z ・
K ・S
コ ル ネリア症 候 群H
食 道 閉 鎖 機 能 的 腸 閉 塞 慢 性 肺 疾 患 顎 関 節 異 常 中 枢性運動 障害を伴う群 中枢性運 動 障害を伴わ ない 群 5111221820
…
21719
り ーIH
N工 工一
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344 理学療法学 第15巻第 4号 けである
。
生 命 維持 及び児の発 達の為に は,
大切なこ と であるが,
顔 面・
口腔の感 覚 過 敏をひ きお こし, 更に哺 乳 を困難にして しまう症 例 もあっ た。
1 群 で は,
新生児 期に外科的手術 (消化 器 系 )を 受け た もの,
未熟児と し て出生 し,
慢 性 肺 疾 患 を合併し,
長 期に渡 リレ ス ピ レー
ター
を装着し てい たもの,
先 天性の 顎 関節 異 常の為 開口障 害 と嚥下障 害を示し たもの等で あっ た。
いず れの症 例 も,
生直後か ら非経口的な 栄養管 理 を受 けて い た。
その期聞は様k であるが,
経口哺 乳に 移 行 する段 階で哺 乳ピンの乳 首 nipple を口腔 内に入 れ るのを 極 端にいやがる,
直 接ス プー
ン な ど でミル クを口 腔内に入 れて もいやがるもの,
ま た蒸留水ならいや が ら ないがミル ク に変え る といや が っ て吐 き 出 すな ど,
口腔 の触 覚 味 覚両 方の感 覚 過 敏を示し てい た。
顎関 節 異常 の症 例は,
関 節可動 域 が他動的に動か した 場合で も低下 して いた。
H群の 4名の症例は申枢 性の異常筋緊 張はみ ら れ なか っ た が, そ り返 り姿 勢を とるこ とが多か っ た。
特に授 乳 時や外科 的 手 術を受 けた症 例に はそ れが言 え た。
L
ll群 と も,
母 親や看護婦とい っ た児の養育者care−
givers に とっ て も,
「う ま く飲ませ られない」,
な ん とか 飲 まそ うと工夫し て も児は益々 いや がる→ 飲ま ない → あ せ り→ 児へ の悪影響とな り,
母親の 中には育 児に対 する 自 信 を失い かけて い る場合もあっ た。 皿評 価と治 療 各 症 例の評 価は
,
神 経発達学的 治 療アプロ・
L一
チ に 董づ き以 下の項 目につ いての評価を進め た。
エ) 神経学 的 評 価筋
緊
張の性 状・
分 布,
姿勢 運 動パ ター
ンな ど 。 これは 視 診 (観察)→ 触 診 (他 動 運 動に対 する抵 抗 )→ ハ ン ドリ ング か ら得 られる反 応の評 価な どである。
2
) 行 動 学 的 評 価月 齢の小さい 症 例で は 言 うまで もないが
,
哺 乳とい う 行動が 出 現 するの に最 も適し た状 態 (appropriate level) である か ど うか。
これには 睡眠・
覚 醒リズムや,
社会的 行 動一
母 子相互作用一
の観 察 も含ま れ,
実 際 母 親が授 乳 さ せてい る場面で母と児の両方の観察を行う。 3) 発 達 学 的 評 価1)
,
2)をもと に して粗大 運動と感 覚 系 機 能,
手と口の 協 調,
口腔 運 動 機 能の協調,
異 常 性と未 熟 性 などにつ い て評 価 する。
4) 運 動 学 的評価顎 関節 及び頸部
,
全体の ア ライメ ン ト,
可動域につ い て評 価 する。
こ れ らの評 価に 応じて 各症例に 合わせ た 治療を 1回 表
2
各群の問 題と治 療 頸 部・
肩 甲帯又は全 身の筋緊 張 亢 進1
全 体的伸展パ ター
ン に よ る頭の コ ン トロー
ル不十分 1__
.
.
.
一
ll → 口腔 内 感 覚 過 敏 や 反 応性低 下「
髏 張.
鸚 翻 .く 顎 閧節 運 動 制 限 ター
ンの 正常化 頭の コ ン トロー
ル の i 促通 →i
口腔 刺 激1
可 動 域 拡 大 40’
−
45分, 入 院 児に対し て週5圓,
外 来 児に対して は週 1回 を 原 則 とし て行っ た。
理 学療法 施 行期間は 1−
25か 月 (平均10.
7か月 )であっ た。
具体的な治 療 内容と して は
,
1群で は全 身の姿勢・
筋 緊張の 正常 化 (リ ラ クセー
シ ョ ン,
ある い は筋 収 縮を高 め るな ど ),
間欠 的ス パ ズム,
異 常 姿 勢・
運 勤パ ター
ソ の抑制を行った上, 頭の コ ン トロー
ルを 促し,
頭 部一
肩 甲 帯一
体 幹の運 動 性と安 定 性を向上 させ,
かつそ れぞれ の分 離 運 動 能 力を促し た.
ま た 口腔の感覚の異常に対し て は 口腔刺激も行っ た。
H群で は,
口腔 周辺の感 覚 過 敏や 正常な口腔 運 動の乏 し さに対し て適切な 口腔 刺 激 と顎 関 節の可 動 域 拡 大 を 行 っ た。
(表 2) 1,
9群とも,
口腔刺激に は 」 セ ラ ピス トの指や, 哺 乳ビン の nipple,
蒸留水やミル クに浸し た ガー
ゼ等を 用い,
ま た 手 と口の遊び の申で, 児自 身の手やお もちゃ を触れさ せ た りしな が ら適 切な刺激を与え てい くように し た。
またセ ラピス トに よ るハ ン ド リン グに加え て,
母 親や看 護婦に もポ ジシ ョ ニ ン グ や, 授 乳 時の頭・
下 顎の コ ン トロー
ル方 法,
口腔 刺 激 方 法 など基 本 的 なハ
ン ドリ ン グを指 導し た。
IV
結 果1
群で は9
名 中 7名,
H群で は 4名 全 員に経口哺 乳が 確立でき た。
経口哺 乳の確立に要し た期 間は,
1 群で は 1か月 以 内3名,
2か月 以 内1 名,
4か月1
名,8
か月 1名,
18か月 1名であっ た。
豆群では 1か 月以 内3名で,
4か月を要し た 1名は顎関節 異常の症 例であっ た。 (表3
) 1群の うち, 1〜
2か月の短期 間に経口哺 乳の確 立し た症 例は, 筋緊 張の亢 進 部 位 が 頸 部 肩 甲 帯に限局し て お り,4
ケ月以 上の症例で は筋 緊 張の亢 進が全身に分布し N工 工一
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口腔 運動 機 能 障 害 を 有 する乳 幼 児の理学 療 法につい て
345
表 3 経口哺 乳の確立し た期 間 及び痘 例 数 \ \El
・一
・1
・一
・1
・一
・ 1 皿 5〜
819〜
18 計 3 13 011101 7(名 ) 0 4(名) ていた。
ま た筋緊張の改 善につれ,
徐々 に哺 乳能力も向 上 する傾向に あっ た が,
H群で はい っ た ん吸 啜・
嚥 下が 自発 的に可能と な る と,
比 較 的 早 期に哺 乳 能 力が向上す る傾向が み られた。
一
方,
1群の うち経口哺 乳が確立で ぎな かっ た 2 名は,
理学 療 法 開 始後14か月, 18か月を経 過し た現 在も, 哺 乳 機 能に は著しい改善を認めず,
鼻腔か らの チュー
ブ栄養 に依 存し てい る。
来予想さ れ る2 次 的な発 達 障害が できる だけ 少な くてす むような 工夫を考えてい き,
必 要と される医 療の ニー
ド とバ ラ ン スをと りなが ら理学療 法を進めて いか ねぽな ら ない し,
児 を とりま く親,
他の ス タッ フにも その理解を 深め て もら うとい う役 割 が ある と 感 じ た。
ま た, 今回 は哺 乳 機 能の改 善を経口哺 乳の確立 と し て とらえた が,
更に 口腔 運動の質的な変 化,
改 善を とらえ る必 要があろ う。
呼 吸と の関連,
吸啜・
嚥 下の 協 調な ど も評 価し て い くこ とが大 切である。
そし て,
発 達に伴な っ て離 乳 食→ 半 固 形→ 固形と食 物の変 化に適 応し て 口腔 運 動 機 能が どの ように発 達し て い くかな どは,
1群の中 枢 性 運 動 障 害 児で は特に継 続し たフ ォ ロー
も重 要である と考えら れ る。
最 後 にV
考 察1
群では筋緊 張・
姿 勢運 動パ ター
ン の改 善と共に 口腔 運 動 機 能 も改 善し たこ とによ り,
中枢 性 運 動 障 害で は,
姿 勢・
筋緊 張と 口腔 運 動は密 接に関 連し て い ると考 え ら れた。
従っ て,
中 枢 性 運 動 障害児の哺乳・
擾食 問題の解 決の為には,
全 身の姿 勢・
筋 緊 張にアプロ・
一
一
チ し てい か な け れ ば な らない。
矼群の症例は,
外科手 術 や 長 期 呼吸管 理 などの医 学 上 の必 要 性か ら非 経口的栄養摂取を し てい た ものや, 構 造 異常か らくる 運動 障害の為,
正常な 口腔の感 覚 運 動 経 験 が不 足し, 2 次 的な感 覚 運 動 障 害が生じた と考 え られ た。 これ らの症例の ように,
正常 児と比べて特 殊 な 環 境に置 か れ, ケアを受 けてい る児に対し て,
セ ラ ピス ト は,
将 この症 例報告にあた り,
色々 と御指導下さい まし た,
大 阪府立 母 子保 健 総 合医療セ ン ター
小 児神 経 内科二 木 康 之 先 生は じめ神 経 内科の先 生 方,
南 大 阪療育 園の今 川忠 男先 生に深 く感 謝いた し ます。
参 考 文 献 1)今川 忠 男:摂 食5・
脳性麻瘁 児の冂腔運 動 機 能 障 害と食 事 指 導の実 際,
理学 療 法と作 業 療 法,
19 :688−
694,
1985.
2) 平野 突,
才 藤 栄一,
川口祥子,
関口愛 子・
他 :畷1下,
理 学 療 法,
2 ;167−
2e8.
上985.
3)Anderson
,
J.
et al.
:Developmental therapy in theneonatal intensive care unit
,
Phystcal & OccupationalTherapy in PediatriCS
,
4 :89−
106,
L984,
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346
E*rslk\ng15tsag4e
Physical
Hitomi
Ito,
RPT
Tosa K/ibono Ie; TheTherapy
fQrJnstitution.fbr
<Abstract>
Infants
with Oral-motor DysfunctionSewere
HandicapPed ChildrenTo solve
feeding
problernsis
very importantfor
therapists,I
treatedinfants
withfeeding
preblems, aged Erom 1 to 20 months old, based on the neurodeveloprnental approach, The subjects were,
divided
into
two groups,Group I; chilclren "Tith the dysfunetionsof central nerveus system.
(9
cases)Group il; children without the
dysfunctions
of central nervous systern,(4
cases)There were three causes of thelr problems,
1) Existence of abnormal muscle tone and postural-motorpattern
2) InsuMciency or
lack
of normal oral sensory-motor experiences, and3)
Abnormality
of oral structure..
.
Inthe treatment, I inhibitedabnormal postural-muscle tone andfacilitated
normalsensory-motor experiences. The treatment was performed on the
basls
ofindividual
assessment.As
a result, seven of the GroupI and all of theGroup
II
couldimprove
their oral motorfunction.
'
Through thjstreatment, the improvetnent of oral-motor function needs totalapproach to not
only oral part