• 検索結果がありません。

膝関節疾患における超音波診断装置の臨床応用

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "膝関節疾患における超音波診断装置の臨床応用"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに  超音波画像診断装置(以下,エコー)の技術的進歩はめざま しく,高周波プローブの出現により運動器を構成する組織の描 出がきわめて明瞭となってきた。実際に骨表面,靱帯,関節包, 滑膜,神経,血管など,日常診療で観察したい組織は問題なく 「観る」ことができる1‒3)。同時にエコーの利点は,生体にまっ たく無侵襲であること,プローブさえあてればリアルタイムに 情報が得られること,そしてなにより理学療法士としてきわめ て重要な情報となる「動態」が観察できる点にある。この動態 観察の蓄積は,拘縮,動作時疼痛,筋機能評価における科学を, 確実に一歩前進させる有力なツールとなるであろう。  本稿では,膝関節拘縮において最重要組織のひとつである, 膝蓋上嚢を中心として,その周辺組織の超音波観察を通して得 られた知見をもとに,その運動療法の考え方について言及す る。加えて,膝蓋下脂肪体(infrapatella fat pad:以下,IFP) 由来の疼痛について,IFP の超音波動態観察ならびに組織弾性 結果から得られた結果をもとに解説する。 膝蓋上嚢周辺の超音波解剖所見と拘縮との関連 1.膝蓋上嚢の超音波観察  膝蓋上嚢の癒着が重篤な膝関節拘縮を招来することは,諸家 による受動術所見や膝蓋上嚢自体がもつ機能解剖学的特徴から もあきらかである4)5)。正常な膝蓋上嚢をエコーで観てみると, 長軸画像では,大腿四頭筋腱の深部に長く薄い低エコー帯とし て(図 1-a),短軸画像では大腿四頭筋腱の深部で,かつ,内外 側へと広がる薄い低エコー帯が観察できる(図 1-b)。しかしな がら,その読影には多少の慣れが必要である。  実際の大腿遠位における,膝蓋上嚢の解剖学的位置関係を把 握するには,関節水腫が貯留した症例を対象にエコー観察を行 うとよくわかる。エコーは水をほぼ 100%透過するため,画像 上は明瞭な低エコー層として確認できる。実際の症例を膝関節 伸展位で観察してみると,短軸画像では,内側広筋から外側広 筋の下層へと広く膝蓋上嚢が位置している様子がわかる(図 2)。同様に,長軸画像では,膝蓋骨近位端から近位へ約 7 cm 程度にわたり,膝蓋上嚢が広がっている様子が観察される(図 3)。一般に膝蓋上嚢は,矢状面上における膝蓋骨の遠位滑走に 寄与すると理解されているが,超音波観察に観られる幅広さ, 奥深さを考慮すると,伸展機構における運動に対して,いわゆ る「面」として寄与していることがうかがえる。

2.prefemoral fat pad の超音波観察

 膝蓋上嚢と合わせて注目したい組織が,膝蓋上嚢を裏打ちす る形で存在する prefemoral fat pad(以下,PFP)である(図 1 ∼ 3)。PFP の機能はいまだあきらかにされてはいないものの, その他の関節周辺に位置する脂肪体の存在意義から考えると, 膝関節運動における膝蓋上嚢の滑動性を深部から効率化してい ると考えられる6)。  PFP の動態をエコーで観察すると,長軸観察では伸展に伴 い脂肪幅が増大し屈曲に伴い幅が減弱する(図 4-a)。また短軸 観察では,伸展に伴い PFP は内側広筋と外側広筋により中央 に押しだされ,屈曲に伴い内外側方向へ素早く移動する様子が 観察される(図 4-b)。さらに,屈曲時に外側広筋,内側広筋 の深部へと移動する PFP を,筋線維長軸にプローブを合わせ て観察してみる。すると,膝関節伸展に伴って内側広筋,外側 広筋の長軸方向の張力が PFP を正中方向へ押しだし,屈曲に 伴い深部から両筋腹を押し広げるように PFP が流入してくる が,その流入程度はあきらかに外側広筋の深部で大きい(図 5)。 この PFP の流入を,左右する要因が,外側広筋をはじめとす る膝関節近位外側支持組織の硬さと考えられ,膝関節屈曲可動 域に PFP と膝関節外側支持組織とが,密接な関係にあること がうかがわれる。  膝関節拘縮を呈する症例において,その制限因子が膝蓋上嚢 なのか PFP の変性なのかを区別する方法として,大腿四頭筋 の持ち上げ操作(lift-off 操作)時の動態をエコー観察すると一 目瞭然である。持ち上げ操作に伴い,「膝蓋上嚢が開大するか 否か?」,「変性した PFP に機能的な変形が認められるのか否 か?」に注意して観察すると,その病態が想像できる(図 6)。  このように,膝関節近位に存在する PFP の機能的な変形は, 付随して膝蓋上嚢へ影響を及ぼすことから,両組織は表裏一 体の関係で膝関節屈伸運動に関与すると考えられる。つまり, PFP は,膝関節屈伸運動における膝蓋上嚢の滑走性を維持する 重要な組織と考えられ,膝関節術後運動療法では,膝蓋上嚢と ともに PFP の機能維持がその後の予後を左右すると考えられる。 *

Clinical Application of Urutrasonography in the Knee Joint Disorder

**

中部学院大学リハビリテーション学部理学療法学科 教授 (〒 501‒3993 岐阜県関市桐ヶ丘 2‒1)

Norio Hayashi, PT: Department of Physical Therapy, Faculty of Rehabilitation, Chubugakuin University

(2)

膝関節疾患における超音波診断装置の臨床応用 189

IFP の超音波観察と膝前面痛との関連 1.IFP に関する最近の研究

 IFP は膝蓋靱帯の深部に位置し,膝関節の間隙を埋めている。 Gallagher は,IFP に関する詳細な解剖より,膝蓋骨側を固定

する superior tag と十字靱帯側を固定する inferior tag の存在 や,縦方向ならびに横方向への裂け目(cleft)があることを報 告している7)。また,伊達は IFP に造影剤を注入したうえで, その形態変化について調べており,屈曲角度に応じて IFP 自 体が機能的に変形することが示されている8)。 図 1 正常な膝蓋上嚢の超音波画像 正常膝の膝蓋上嚢は外側広筋,内側広筋の下層に広く広がっており,この両筋を含めた伸展 機構の三次元的な滑走に関与していることが想像される. 図 2 関節水腫を呈する症例の膝蓋上嚢の短軸画像 関節水腫症例の膝蓋上嚢を短軸観察すると,外側広筋,内側広筋の下層に広く位置して いる様子がわかる. 図 3 関節水腫を呈する症例の膝蓋上嚢の長軸画像 関節水腫症例の膝蓋上嚢を長軸観察すると,膝蓋骨近位端より近位へ約 7 cm 程度の奥深さを有しているのがわかる.

(3)

 一方で,IFP と疼痛との関係を示した報告も散見される。 Jason らは炎症下の IFP は,脂肪体内の substance-P positive nerve の感受性を高め,疼痛が増幅するとし9),Scott らは無 麻酔下の状態で関節内組織の疼痛感度を調べ,もっとも疼痛を 感じるのは IFP であったとしている10)。また Zaid らは,膝蓋 骨不安定症の症例における MRI 所見より,IFP の外側に限局 した高輝度領域の存在を報告し,膝蓋骨の不安定性が IFP の 組織損傷に関与することを報告している11)。つまり,膝前面 痛のひとつの病態解釈として,IFP の機能障害について考える 必要がある。 図 4 膝関節屈曲伸展運動時の PFP の動態 膝関節伸展屈曲運動時の PFP の動態を観察すると,長軸では伸展時その幅が増大し 屈曲により狭小化する.これを短軸で観察すると伸展時の幅の増大は,内外側から 脂肪体が中央に寄せられることで得られ,屈曲時の狭小化は腱の圧迫とともに脂肪 体が両側に素早く移動することにより生じる現象であることがわかる. 図 5 内側広筋ならびに外側広筋深部での PFP の動態 内側広筋ならびに外側広筋の深部では,屈曲に伴い PFP が流入し,両筋肉を深部よ り押し広げる.これは,PFP の流入を受け入れられる筋肉の柔らかさが必要であり, 両者は表裏一体の関係を保つ.

(4)

膝関節疾患における超音波診断装置の臨床応用 191 2.超音波を使った IFP の組織弾性の特徴  膝関節前面痛を訴える症例はしゃがみ込み等の深屈曲位,ま た階段降段時の浅い屈曲位で症状が発現するのが特徴である。 Michael らは関節運動に伴う IFP 内圧について検討しており, 実際の臨床症状に一致した深屈曲ならびに浅屈曲時の内圧が高 いことを示し,疼痛と IFP 内圧との関連性を示唆している12)。  我々は,思春期スポーツ障害膝(オスグッド病,有痛性分裂 膝蓋骨)を,しゃがみ込み時痛の有無により分類し,両群の中 間広筋と IFP の組織弾性について,shear wave elastgraphy を用いて検討した。しゃがみ込み時痛がある症例では中間広筋 の組織弾性は有意に高いこと(図 7),また,IFP の組織弾性 120°までの屈曲角度では差はないものの,完全屈曲位とするこ とで有意に組織弾性が高くなることがわかった。すなわち,屈 曲角度による周辺組織の緊張程度が IFP 自体の硬さに影響す ることがわかった(図 8)。 3.IFP の超音波観察  膝関節終末伸展時の IFP を動態を,長軸方向(近位・遠位 方向)と短軸方向(前後方向)とに分けて観察した。長軸観察 では,プローブを膝蓋骨の外側縁と内側縁とに沿わせるように あてると,IFP は筋収縮に伴い関節内から近位へと移動する様 子がわかる(図 9)。短軸観察では,プローブを膝蓋骨の中央 辺りで前後方向にあてると,筋収縮に伴い IFP は,膝蓋大腿 関節内からしみだすように外側後方ならびに内側後方へと移動 する様子がわかる(図 10)。また,IFP の広がり方を内側と外 側とで比較すると,外側における IFP の移動が有意に大きい ことがわかった。正常膝においては,これら IFP の動態を受 け入れる膝周囲組織,特に外側膝蓋支帯の柔軟性を有している と考えられた。その一方で,AKP をはじめとする PF 関節由 来の疼痛が予測させる症例では,触診上 VL から外側膝蓋支帯, IFP にかけての硬さを認めることが非常に多い。このような膝 関節周囲組織の硬さの存在は,IFP の機能変形を阻害し,結果 として IFP 内圧の上昇や impingement が生じることが膝前面 痛と関連している可能性が示唆される。 ま と め  エコーは,今まで想像の域でしかなかった現象を,また,匠 の技として扱われていた技術が,画像として可視化できる可能 図 7 中間広筋の組織弾性の比較 しゃがみ込み時痛を有する症例では中間広筋の組織弾性が有 意に高い. 図 6 PFP の変性が拘縮の要因と考えられた症例 大腿四頭筋の持ち上げ操作に伴い膝蓋上嚢が開大する一方で,PFP の形態が変化しな いことが観察される.つまり,この症例の可動域制限の要因は変性した PFP である 可能性が高い. 図 8 IFP の組織弾性の比較 しゃがみ込み時痛を有する症例では,120°屈曲位まででは IFP の組織弾性に有意差はないが,完全屈曲位になると IFP の組織弾性は有意に高くなる.すなわち IFP の硬さは周辺組 織の緊張が影響する.

(5)

性を秘めている。理学療法の分野でさらに発展することで,理 学療法としての「学」と「技」を一歩前進させるツールのひと つとなるであろう。 文  献 1) 皆 川 洋 至: 外 傷 性 疾 患( ス ポ ー ツ 傷 害 を 含 む ). 月 刊 Medical Technology 別冊超音波エキスパート.2007; 7: 66‒75. 2) 林 典雄:理学療法における超音波画像評価の臨床応用 体幹・ 下肢.臨床スポーツ医学.2010; 27(2): 181‒188. 3) 皆川洋至:超音波でわかる運動器疾患 診断のテクニック.メジ カルビュー社,東京,2010,pp. 12‒20. 4) W.ミューラー:膝 形態・機能と靱帯再建術(第 1 版).新名 正由(訳),シュプリンガーフェアラーク東京,東京,1986,pp. 235‒239. 5) 今給黎直明,小谷明弘,他:膝関節拘縮に対する鏡視下授動術の 経験.整形外科.2000; 51(6): 643‒646. 6) 清水喬嗣,林 典雄:膝蓋骨上方支持組織の超音波画像よりみた 膝関節拘縮に関する一考察.整形外科リハビリテーション学会誌. 2011; 14: 56‒59.

7) Gallagher J, Tierney P, et al.: The infrapatellar fat pad : anatomy and clinical corrations. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2005; 13: 268‒272.

8) 伊達伸也,前山 厳:膝蓋骨の骨内圧に関する実験的研究.整形 外科と災害外科.1985; 33: 1186‒1189.

9) Jason LD, Christina J, et al.: Evaluation and Treatment of Disorders of the Infrapatellar Fat Pad. Sports Med. 2012; 42: 51‒67.

10) Scott FD, Geoff ray LV, et al.: Conscious Neurosensory Mapping of the Internal Structure of the Human knee Without Intraarticular Anesthesia. Am J Spots Med. 1998; 26: 773‒777.

11) Zaid J, David M, et al.: The association of infrapatellar fat pad oedema with patellar maltracking: a case-control study. Skeletal Radiol. 2012; 41: 925‒931.

12) Michael B, Christof H, et al.: Infrapatellar fat pad pressure and Volume change of the anterior compartment during knee motion: possible clinical consequences to the anterior knee pain syndrome. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2005; 13: 135‒141. 図 9 膝関節終末伸展時の IFP の長軸動態

IFP は筋収縮に伴い,膝蓋骨の両脇を近位へと大きく移動する(図中矢印).

図 10 膝関節終末伸展時の IFP の短軸動態

IFP は筋収縮に伴い,膝蓋大腿関節からしみだすように外側後方ならびに内側後方へと 移動する。その移動距離は外側であきらかに大きい(図中矢印).

参照

関連したドキュメント

投与から間質性肺炎の発症までの期間は、一般的には、免疫反応の関与が

関係委員会のお力で次第に盛り上がりを見せ ているが,その時だけのお祭りで終わらせて

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

 我が国における肝硬変の原因としては,C型 やB型といった肝炎ウイルスによるものが最も 多い(図

弊社または関係会社は本製品および関連情報につき、明示または黙示を問わず、いかなる権利を許諾するものでもなく、またそれらの市場適応性

【その他の意見】 ・安心して使用できる。

 プログラムの内容としては、①各センターからの報 告・組織のあり方 ②被害者支援の原点を考える ③事例 を通して ④最近の法律等 ⑤関係機関との連携

運航当時、 GPSはなく、 青函連絡船には、 レーダーを利用した独自開発の位置測定装置 が装備されていた。 しかし、