TAKAI Chiduru 要旨 本稿は、児童生徒の well-being の向上を目指すスクールカウンセラー(以下 SC) の活動に資するため、SC のストレスに関する日米の研究を概観した。文献研究の結果、 以下の点が明らかになった。アメリカでは、1970 年代以降、職業性ストレス研究の一つ と位置付けられ、継続的に SC のストレスに関する研究が行われていた。一方、日本では、 アメリカに比べ、公刊された論文の数が限られており、SC のストレスに関する研究は初 期段階にあると考えられた。日本の SC のストレスの実態の解明のため、更なる研究展開 が求められる。 1. はじめに―背景と目的 教育現場でのいじめや不登校等の問題解決のために、公立学校に心理臨床の専門家であ るスクールカウンセラー(以下SC)を派遣する事業が始まって 20 年以上経過した。災害 や事件、事故が起こった場合に児童生徒への心のケアとしてSC が派遣されたという報道 も多く見られ(山田、2019)、SC の存在は広く周知されているといえる。 日本における学校内のカウンセラーの始まりは、1955 年前後から学校にカウンセリン グ理論や技法が導入され、それらの講習会等に参加した教師や養護教諭を、カウンセラー として活動させるようになった頃からだと言われている(村山、1998)。そして、1980 年 代にいじめ、校内暴力、不登校等の児童生徒の問題行動が顕著になると、心理臨床の専門 家を導入する機運が高まり、アメリカのSC1をモデルにしたSC の在り方が、検討される ようになった(村山、1998)。さらに、1994 年の愛知県の中学生のいじめ自殺や、1995 年 1 月の阪神淡路大震災をきっかけとして、当時の文部省(1995)は、臨床心理の専門家で あるSC を、公立学校に配置する事業(スクールカウンセラー活用調査研究事業)を開始 した。SC 導入当初は、SC は「外部性」(文部科学省、2007、para、4)を持って心理相談 に従事するとされた。しかし、文部科学省(2015a)は、複雑化した学校の問題に対して、 教職員が「チームとしての学校(チーム学校)」(文部科学省、2015b、学校における教育 相談に関する資料、p.44)を構築、協働しながら取り組む必要性が生じていると指摘し、 SC をメンバーの一人としてチーム学校に積極的に参与させるとした。それに伴い学校教 育法施行規則(2017)において、SC の職務が「学校における児童生徒の心理に関する支 援に従事する者」と明記されるに至った。 その後さらに、虐待事案の増加を受けて文部科学省(2018a)は、学校での早期発見と 適切な初期対応の推進のため、平成31 年度児童虐待防止対策関連予算要求において、SC 1 アメリカでは、1920 年代に職業の選択と斡旋をめぐって、子どもを援助するガイダンスとカウンセリングが 始まり、1952 年に、SC の全国組織である「米国スクールカウンセラー協会(ASCA)」が設立された(Campbell & Dahir , 1997 中野訳 2000)。アメリカの学校は分業化が進み、教科担当の教師、事務職員、SC 等が常勤職と して勤務している(高原、2006)。SC は、ASCA が作成した学校におけるカウンセリングプログラムのナショ ナルスタンダード(ASCA National Model )に則って、子どもが「学業・進路選択・個人的及び社会的発達」の サービスを受けられるよう支援することを規定されている(Campbell & Dahir, 1997 中野訳 2000)。
等による教育相談の体制の充実を明記した。しかし、SC の大多数は、SC 制度導入当初と 同様の単年度雇用の非常勤職で、週1 日の勤務にあり、他に同様の専門職がいない一人職 場となっている(藤森、2013;文部科学省、2015c)。 以上のようにSC への役割期待が変化する中で、𠮷田(2016)は、SC の中には、その 活動の遂行に不安を感じる人がいると指摘した。また、文部科学省(2018b)は、各都道 府県教育委員会からのSC の活用状況についての報告をまとめ、SC の活動に効果がある とした。一方、課題として、文部科学省(2018b)は、相談件数の多さ、SC と学校との情 報交換の不足、SC の力量不足、SC の途中離職や退職による人材確保の難しさを挙げた。 雇用形態の不安定さに加えて、求められるSC 活動内容の変化により、ストレスを抱え たSC がいると推測される。SC への要請が増える中で、SC がストレスに陥った場合は、 SC 活動の停滞が生じ、結果として学校の問題解決に影響を与えかねない。日本の SC の ストレスの実態を明らかにし、対処の方策を検討することは喫緊の課題と言える。そこで、 本研究は、日本のSC 制度のモデル(大塚・滝口、1998)となったアメリカと、日本の SC のストレスに関する先行研究を中心に概観し、今後の研究上の留意点を考察すること とした。 2. ストレスの定義とストレス研究の歴史 先行研究の概観の前提として、ここでは、ストレスの定義やストレス研究の歴史をまと めた。
Cooper & Dewe(2004 大塚・岩崎・高橋・京谷・鈴木訳 2006)によれば、ストレスと いう言葉を最初に論文で使用したのは、生物の恒常性の概念を提唱したCannon(1932)だっ た。Cannon(1932)が述べた生物の恒常性に注目した Selye(1956)は、生物が、外界か らの侵入(病原菌等)による影響を受けた際に、局所的な炎症(特異的変化)を起こすだ けでなく、全身に共通して非特異的変化が生じることを発見し、「ストレスとは、生物組 織内に、非特異的に誘起された、あらゆる変化からなる特異な症候群の示す状態」(Selye, 1956, 1976 杉・田多井・藤井・竹宮訳 1988, p.74)と定義した。さらに、ストレスを惹 起するものをストレッサーと呼んだ(Selye, 1956, 1976 杉他訳 1988)。
Lazarus & Folkman(1984 本明・春木・織田 監訳 1991)は、Selye(1956)が行ったス トレス時のホルモンの分泌に関する研究が、社会学や心理学の領域に関連する内容であっ たことから、Selye(1956)の研究を契機に、社会学と心理学の分野それぞれで、ストレ ス研究が発展したと述べた。そして、Lazarus(1999 小川・野口・八尋訳 本明監訳 2004)は、精神と行動は、環境上の刺激に対する反応ではなく、環境にあるものと個人に あるものの相互作用から導き出された結果であるとし、ストレスを「人間と環境との関係 を強調するものである」(Lazarus & Folkman, 1984 本明他監訳 1991, p.24)と定義した。特に、 人間の反応としての心理的なストレスは、環境との関係の中で、個人の資源を越えたり、 個人を危険にさらしたりするものかどうかの判断から生じるとした(Lazarus & Folkman, 1984 本明他訳 1991)。また、Lazarus (1988 林編、訳 1990)は、個人は、環境との関係 で「何かが『危うくなっている』と評定し(一次評定)」(p.23)、その状況に適合するた めに、「どのような対処行動の選択が可能かを考え(二次評定)」(p.25)、実際に対処する とし、この対処過程によって、人間と環境の関係を変えることができると述べた。つまり、
Lazarus(1988 林編、訳 1990)は、「評価と対処は、ストレスの定義である個人と環境の 関係において、媒介過程での鍵のようなものである」(p.25)とした。対処行動はコーピ ングと呼ばれ、問題中心型コーピングは、直面している問題に対して自分から周囲に働き かけて対策を立てる対処方法であった(Lazarus, 1988 林編、訳 1990)。情動中心型コーピ ングには、二つのサブカテゴリーがあり、それは、脅かす物事を避ける方法(avoidance)と、 問題があることを否認する方法(denial)であった(Lazarus, 1988 林編、訳 1990)。
Cooper & Dewe(2004 大塚他訳 2006) は、1950 年代に Selye(1956)の研究から始まっ たストレスの研究の流れとともに、組織心理学の発展と、心理学的技術及び方法の労働場 面への応用によって、労働ストレスの研究が始まったと述べた。さらに、Cooper & Dewe (2004 大塚他訳 2006)は、労働ストレス研究は、労働従事者の健康や能率に影響を与え る要因の解明が中心となり、Kahn, Wolfe, Quinn, Snoek, & Rosental (1962)の研究を契機と して、職業性ストレス研究として発展したと、ストレス研究の動向を概観した。Kahn et al.(1962)は、「役割葛藤(role conflict)」(p.19)、「役割あいまいさ(role ambiguity)」(p.25) を職業性ストレッサーとして定義し、House & Rizzo(1972)が、役割あいまいさと役割 葛藤の測定尺度を開発した。Cooper & Dewe (2004 大塚他訳 2006)は、職業性ストレス 要因の探究と、測定法尺度の開発に力点が置かれた職業性ストレス研究について、(a)ス トレッサーを特定、記述、分類する研究、(b)ストレッサーとストレン(反応)の範囲の 関連性を探求する研究、(c)ストレッサーとストレンを調整する組織的、個人的変数を探 求する研究、の3 つの方向に向かったと述べた。Cooper & Marshall(1976)は、職業性ス トレッサーが、個人の要因を通して、職業上の健康障害の兆候を引き起こし、結果として 心疾患や精神的不調をきたすという職業性ストレスのモデルを構築した。アメリカ国立労 働安全保健研究所(NIOSH)の Hurrell & McLaney(1988)は、職業性ストレッサーが個 人的要因、仕事以外の要因により、急性のストレス反応を起こし疾病に至るが、家族や同 僚からの支援などの緩衝要因が、ストレス反応の軽減に関与するという、NIOSH 職業性 ストレスモデル2を提唱した 職業性ストレス研究は、労働者全般を対象としたものであるが、対人援助職の職業性ス トレスに関しては、バーンアウトが、一般的なストレス反応や、うつなど類似の概念と区 別され、独立したものとして検討された(荻野・瀧ヶ崎・稲木、2004)。久保(2007)も、 バーンアウトは対人援助職特有の職業性ストレスだとした。田尾・久保(1996)は、アメ リカでは、1960 年代に個人の権利の保障を訴えた公民権運動が拡大し、さらに、1970 年 代に、援助を受ける受益者(クライエント)の要求が高まり、その頃から、バーンアウト に代表される、対人援助者特有のストレスが顕在化してきたと述べた。また、田尾・久保 (1996)は、初めて、バーンアウトという概念を使用した研究者は、Freudenberger(1974) だとした。Freudenberger(1974)は、無料診療活動に従事しているボランティア等の、そ れまでの情熱を突然失い、仕事への意欲を喪失する状況を、バーアウトとして初めて論文 に記述した。Maslach & Jackson(1981)は、バーンアウトを「人を相手に仕事をする人々 に起こる(a) 情緒的消耗感(emotional exhaustion)、(b)脱人格化(depersonalization)、(c)
2 日本では、労働安全衛生法の一部を改正す法令の施行(2014)に伴い、厚生労働省(2015)が、都道府県労 働局を通して各事業所に告示した「ストレスチェック制度」には、NIOSH 職業性ストレスモデルに基づいて開 発された職業性ストレス簡易票(厚生労働省、2010)が導入されている。
個人的達成感(personal accomplishment)の低下」(Maslach & Jackson、1981、p.99)と定 義し、バーンアウト尺度 である Maslach Burnout Inventory(MBI)を開発した。田尾・久 保(1996)は、ストレスの原因であるストレッサーが慢性化し、個人が耐えきれなくなる と、心身の歪みとして表出された状態のストレンになるという、ストレスの因果関係を述 べ、ストレンの一つとして、バーンアウトがあるとした。また、久保(2007)は、バーン アウト発症のリスク要因を、個人要因と環境要因に大別して論じ、それらがストレス経験 を通してストレス反応であるストレンを引き起こすとした。さらに、久保(2007)は、ス トレンには短期的、長期反応があり、バーンアウトは、長期的ストレス反応の一つに含ま れるとして、ストレッサーからバーンアウトに至る因果図式を示した。小川(2013)は、バー ンアウトは、繰り返されるストレスを経験することで発生する、長期的ストレス反応であ り、うつ病の近縁症状であるが、価値観や意欲、対人関係を変質させ、事故や離職へと発 展する点で、うつ病とは異なると述べた。 中野(2006)のレビューによると、多くの先行研究では、「ある出来事をプレッシャー と感じ、そのために精神的あるいは身体的ストレス反応が起きるといった一連の過程」 (p12)をストレスと考えているとのことであった。 3. SC のストレスに関するアメリカの研究
アメリカで、SC のストレスに初めて着目したのは、Kremer & Owen(1976)と言われ ている (Morrissette , 2000)。Kremer & Owen (1976) は、ストレスを普段の心身のバランス をしのぐ、過度な要求によって引きこされた混乱した状態と述べ、ストレスによって、し ばしば疲労や胃腸障害、不眠の症状を示す、SC の存在に注目した。Kremer & Owen (1976) は、SC のストレスは、突然の解雇や個人的人間関係の喪失 (例えば、失恋)、職務遂行上 のトラブル(例えば、上司からの不当な評価、生活の不安定)、職務内容の困難さ (例えば、 困難なケースの対応、ハイリスクな思春期の問題対応) によって引き起こされると述べた。 Kremer & Owen (1976)の研究以降、アメリカの SC のストレスの研究は、職業性ストレッ サーに焦点をあてた研究と、バーンアウトに焦点をあてた研究、その他の要因に焦点をあ てた研究に大別される。以下、それぞれについて、概観する。
3.1 SC の職業性ストレッサーに関する研究
SC 特有の職業性ストレッサーに注目した研究の一つに、Moracco, Butcke, & McEwen (1984)がある。Moracco et al.(1984)は、SC の職業性ストレッサーは、これまでの職業 性ストレスの研究で明らかにされてきたものとは異なると論じ、361 名の SC に対して Moracco & Gray(1983)が開発したカウンセラーの職業性ストレス尺度である Counselor Occupational Stress Inventory(COSI) を実施し、SC の職業性ストレッサーの 6 要因と、SC の属性 (性別、校種、経験年数、在籍生徒数等) の関連を分析した。ここで言う 6 要因とは、 (a)意思決定の権限の欠如(lack of decision-making authority)、(b)経済的安定(financial
security)、(c) 専 門 以 外 の 業 務 (nonprofessional duties)、(d) 職 務 過 重 (professional job overload)、(e)カウンセラーと教職員間の仕事上の関係 (counselor-teacher professional rela-tionship)、(f)カウンセラーと管理職間の仕事上の関係 (counselor-principal professional re-lationship) である。分析の結果、在籍生徒数の多さは、「意思決定の権限の欠如」「専門以
外の業務」「職務過重」「カウンセラーと教職員間の仕事上の関係」「カウンセラーと管理 職間の仕事上の関係」と高い相関を示した。以上の結果から、規模の大きい学校に勤務す るSC が、ストレスフルな状態にあることが明らかになった。Moracco et al.(1984)は、 SC のストレス軽減のために、SC が、教職員や管理職と SC の仕事上の役割を話し合う必 要があり、そのスキル向上のため専門家組織のバックアップが重要だと述べた。
Sears & Navin(2001) は、240 人の SC を対象に、ストレスを感じている SC の割合を調 査した。その結果、回答者の65%が SC 業務について、「非常にストレス」「中程度にスト レス」と回答した。さらに、Sears & Navin(2001) は、SC の職業性ストレッサーとして、「役 割過重」「役割あいまいさ」「役割葛藤」があることを明らかにした。SC の「役割過重」 とは、担当する面接の件数が過重で、児童生徒一人当たりにかける時間が少なくなるなど、 SC として、納得できる仕事を遂行できないほどの業務量であった。SC の「役割あいまい さ」とは、学校組織内での役割の曖昧さ、不明確さであった。SC の「役割葛藤」とは、 SC の専門性と無関係な事務作業や秘書業務であった。 3.2 SC のバーンアウトに関する研究 3.2.1 個人的要因を探索した量的研究
Butler & Constantine (2005) は、SC は、専門職としてアイデンティティや、多くの専門 的スキルと役割により、重要な社会集団の一員としての認識を持ち合わせていると述べた。 そして、SC の専門的な集団の一員であるという認識が、バーンアウトの感覚を弱めると 予測した。そこで、SC の集団的自尊心と、バーンアウトの 3 要因との関連について検討 するために、533 名の SC を対象に質問紙調査を行った。集団的自尊心とは、個人が、自 分の所属する集団に対して持つ、社会的アイデンティティを意味する(Luhtanen & Crock-er , 1992, p.302)。Luhtanen & CrockCrock-er (1992)は、集団的自尊心を構成する要素として、(a) 個人が、自分の所属する社会集団に良い感情をもっていること、(b)個人が、自分の所属 する社会集団の価値ある一員であると思うこと、(c)自分の所属集団は、他者から良い評 価を受けていると思うこと、(d)自分の所属している社会集団との一体感をもっていると 思うこと、の4 つの側面を挙げ、その 4 因子を測定する collective self-esteem scale(CSES) を開発した。Butler & Constantine (2005) は、この CSES と、Maslach & Jackson (1986)が 教育従事者向けに改定した、バーンアウト尺度であるMaslach Burnout-Educators Survey (MBI-ES )を使用しての、質問紙調査を実施した。その結果、CSES の 4 因子全てと、
MBI-ES の情緒的消耗感との間に弱い負の相関が見られた。また、CSES の 4 因子のうち、 社会集団との一体感の因子は、SC の情緒的消耗感、脱人格化それぞれと弱い負の相関が あり、個人的達成感の低下と弱い正の相関があった。以上の結果を踏まえ、Butler & Con-stantine (2005) は、SC の集団的自尊心とバーンアウトとの間は、予想以上に僅かな関連 しか見られなかったとして、SC の専門職としてのプライドや、SC の仕事に対してのポジ ティブな感情などに代表される、他の緩衝要因が、この結果に影響している可能性を示唆 した。
Mullen, Blount, Lambie., & Chae (2018)は、経験年数や配置された学校種に関わらず、 SC は、児童生徒に対して共感的受容的に関わることを求められ、同時に進路指導、保護 者や教師へのコンサルテーション、管理業務も遂行しなければならない、役割過重の状況
にあるとした。その上で、年齢、経験年数、学校種別、ケースの件数それぞれと、ストレ ス、バーンアウト、職務満足の関連について、500 名の SC を対象に質問紙調査を行った。 その結果、若いまたは経験の少ないSC は、ストレスやバーンアウトになりやすいこと、 学校種別、ケースの件数の多さは、ストレス、バーンアウト、職務満足とは関連が少ない ことが明らかになった。Bardhoshi, Schweine., & Duncan(2014)は、ケースの件数の多さを、 SC のバーンアウトの要因の一つとしたが、Mullen et al.(2018)は、ケース件数が多くと も職務満足が高ければ、ストレスやバーンアウトになりにくいと論じた。そして、Mullen et al.(2018)は、SC の職務満足が、ストレスやバーンアウト、さらに離職を防ぐ鍵にな ると述べた。
3.2.2 個人的要因と組織的要因を探求した量的研究
バーンアウトの予測変数を探るために、Wilkerson & Belini (2006)は、78 名の SC を対 象に、質問紙調査を実施した。Wilkerson & Belini (2006)は、Endler & Parker (1999) が開 発したコーピング尺度 である Coping Inventory for Stress Situation(CISS)、Rizzo, House, & Lirtzman(1970)が作成した役割質問票 の Role Questionnaire (RQ)、カウンセラーの職業 性ストレス尺度であるCounselor Occupational Stress Inventory(COSI)、バーンアウト尺度 のMBI を使用した。CISS では、問題中心型、情動中心型それぞれの、コーピングスタイ ルを測定し、RQ では、役割あいまいさ、役割葛藤の有無を質問した。Wilkerson & Belini (2006)は、個人的要因の変数を、コーピングスタイルとし、組織的要因の変数を、役割
と職業性ストレッサーとした。
分析の結果、「情動中心型コーピングスタイル」、「カウンセラーと教職員間の仕事上の 関係」、「役割あいまいさ」が、バーンアウトの「情緒的消耗感」、「脱人格化」、「個人的達 成感の低下」を有意に予測することが明らかになった。結果を踏まえ、Wilkerson & Belini (2006)は、SC がストレスに直面した時に、自分自身の感情に気づくこと、情動中心型の
コーピングで対処しないことが重要だと指摘した。そして、Wilkerson & Belini (2006)は、 情動中心型のコーピングで対処しないために、SC の技量を向上させる方策を、SC 自身の 努力だけでなく、組織としても検討する必要があると述べた。Wilkerson & Belini (2006)は、 管理職や教師が、SC に期待する役割と、SC が望む役割とのすり合わせを、SC に対して 充分に実施することが、SC のバーンアウトを防ぐだけでなく、SC の専門家としての職務 満足の向上に寄与するのではないかと示唆した。 Wilkerson(2009)は、(a)属性要因、コーピングスタイル、SC 職業性ストレッサーの 3 つの要因と、バーンアウト因子構造との関連、(b)バーンアウトを予測する変数、(c) SC の職業性ストレッサーとバーンウトの関係を抑制するコーピングスタイル、を明らか にするために 198 名の SC を対象に質問紙調査を実施した。質問紙には、役割質問票 の Role Questionnaire(RQ), カウンセラーの職業性ストレス尺度である Counselor Occupa-tional Stress Inventory(COSI), コーピング尺度 である Coping Inventory for Stress Situation (CISS)、Maslach, Jackson, & Leiter(1996)が教育従事者向けに更に改定した Maslach
Burnout-Educators Survey (MBI-ES)を使用した。分析の結果、(a)属性要因は、バーンア ウトの「脱人格化」と弱い関連があり、SC の職業性ストレッサー要因、コーピングスタ イルそれぞれは、バーンアウトの3 つの要因と関連があった。(b)「経験年数」は、バー
ンアウトの「脱人格化」「情緒的消耗感」の予測変数となり、「役割あいまいさ」、「役割葛 藤」は、バーンアウトの「情緒的消耗感」、「個人的達成感の低下」の予測変数となり、「情 動中心型コーピングスタイル」は、「情緒的消耗感」の予測変数となった。(c)職業性ス トレッサーに対しての「問題中心型コーピングスタイル」での対処は、バーンアウトの「個 人的達成感の低下」と関連があった。Wilkerson(2009)は、SC、学校、SC の指導者が、 SC の職業性ストレッッサーとコーピングスタイルが、SC のバーンアウトの予測変数にな る点を認識し、SC に潜むリスクへの対応を検討する必要があると述べた。さらに、Wilk-erson(2009)は、SC の潜在的リスクへの対応のために、特に SC の指導者や教育専門職 のリーダーは、SC が管理職と SC の役割を話し合いながら勤務できるスキルを持てるよう、 教育方法を探索することが望ましいと提言した。
Mullen & Gutierrez(2016)は、SC の全国組織である米国スクールカウンセラー協会 (ASCA)では、SC の勤務時間の 80%以上を、生徒の支援に充てるように規定しているが (ASCA, 2012)、現場の SC は他の業務に関わることが多く、役割あいまいさなどによって ストレスに陥っていると述べた。そこで、Mullen & Gutierrez(2016)は、SC のストレス の知覚やバーアウトが、生徒へのサービスの低下に繋がると仮定し、926 名の SC に対し て質問紙調査を実施した。質問紙には、カウンセラーの職業性ストレス尺度である COSI とScarborough(2005)が、ASCA national model に基づいた SC 業務の達成度を測るため に 開 発 し た、Counselor Activity Rating Scale (CARS) と Cohen, Kamarck, & Mermel-stein(1983)が、一か月以内のストレスを感じた (ストレスの知覚) 度合いを測るために 開発した、Perceived Stress Scale(PSS)を使用した。分析の結果、SC のストレスの知 覚とSC 業務の達成度には関連がなかったが、バーアウトは SC 業務の達成度と負の相関 が見られ、SC のストレスの知覚とバーンアウトに正の相関が見られた。Mullen & Gutier-rez(2016)は、SC はストレスフルな状態に置かれるとバーンアウトに陥り、バーアウト はSC 業務である生徒へのサービスの低下を招くと述べた。
3,2.3 個人的要因と組織的要因を探求した質的研究
Sheffield & Baker(2005)は、バーンアウトを経験した女性 3 名のインタビュー調査か らバーンアウトの実態を検討した。調査参加者は、高校のSC としての勤務時にバーンア ウトを経験した人1 名、小学校の SC としての勤務時にバーンアウトを経験した人 2 名で あった。Sheffield & Baker(2005)は、質問項目に、(a)バーンアウトとみなした経験、(b) バーンアウトが起きるまでのプロセス、(c)バーンアウトの原因、(d)専門家としてのバー ンアウトの対処法、(e)個人的な要因とバーンアウトについての 4 つを含め、半構造面接 を実施した。インタビュー内容は、グラウンデッドセオリー(Charmaz, 1994 ; Glaser & Strauss, 1967)によって分析された。分析の結果、4 つの共通概念が明らかになった。4 つ の概念とは、(a)重要な信念 (important beliefs), (b)バーンアウトの感覚(burnout feel-ing), (c)バーンアウトの態度 (burnout attitude), (d)同僚間のサポート (collegial sup-port) であった。調査参加者 3 名全員が、生徒との接触を増やし、子どものために素晴ら しいことをしたいという「重要な信念」を有していた。しかし3 名は、期待と異なる無関 係な仕事や、事務作業を与えられると、「バーンアウトの感覚」である、心身の疲労感を 感じた。3 名の「バーンアウトの態度」は、これ以上は無理だと思うこと、無気力、転職
意思だった。3 名とも SC 勤務中や、バーンアウトに陥っているときに、他の SC からの サポートを受けなかった。また3 名は、スーパービジョンの機会の不足のため「バーンア ウトの感覚」や「バーンアウトの態度」に陥った時に、適切な対処が不可能だったと話し た。さらに、3 名は家庭での問題も抱えており、それらがバーンアウトに影響していたと 回答した。以上の結果から、Sheffield & Baker(2005)は、主に次の点を明らかにした。 それは、(a)個人的・外的要因が、バーンアウトに影響を及ぼす ,(b)バーンアウトの経 験が、専門家としての自己肯定感の低下を招く、(c)スーパーバイザーの言動や行動が、バー ンアウトの防止要因となる、(d)同僚間のサポートが、バーンアウトの防止要因となる、(e) バーンアウトの経験は、専門性の損失を招く、(f)専門的な組織や雇用主は、バーンアウ トの防止や治療に貢献できる、であった。Sheffield & Baker(2005)は、バーンアウトの 防止には、SC の個人的な努力だけではなく、専門組織や雇用側の組織的対応も必要であ ると指摘した。
3.3 SC の職務と、職務満足に関する研究
Pyne(2011)は、SC の過重労働や本来の業務以外の職務が、SC の職務満足の低下やス トレスとしてSC の心身にネガティブな影響を及ぼしている(Bemak, 2000)点を取り上 げた。そして、ASCAが定めたカウンセリングプログラムであるASCA National Model(2005) に準拠したプログラム の Comprehensive School Counseling(CSC)program の履行がおろ そかになると、SC の職務満足の低下やストレスとして SC の心身にネガティブな影響が 表れるのではないかと仮定した。CSC プログラムとは、全児童生徒の学業上、個人的、 社会的、将来的なwell-being のために、SC の専門性を生かして関わるモデルである (ASCA National Model, 2005)。そこで Pyne (2011)は、103 名の中学校 SC に、CSC プログラムの 履行に関する項目と、職務満足に関する項目で作成した質問紙を使用して、調査を実施し た。その結果、CSC プログラムの履行と SC の職務満足に、正の相関が見られた。Pyne(2011) は、CSC プログラムの履行は、SC の職務満足と関連があるとし、CSC プログラムの履行 には、管理職のサポートや理解、プログラムに関する学校スタッフとの話し合いの時間の 確保、CSC プログラム履行の効果に関する SC から児童生徒への説明、等が重要と述べた。 4. SC のストレスに関する日本の研究 2019 年 12 月までに公刊された、日本の SC のストレスに関する研究論文は、3 件であっ た。 荻野・今津・岩崎(2001)は、99 名の SC を対象に質問紙調査を実施し、ストレッサー 要因の検討、バーンアウトの因子構造の検討、及び属性による比較、ソーシャルサポート とストレッサー及びバーンアウトの関連を検討した。当時、SC 制度導入の初期段階であっ たことから、SC のストレッサーの尺度開発も目的とした。調査の結果、SC のストレッサー 要因として5 因子を抽出した。荻野・今津・岩崎(2001)は、5 因子を(a)生徒・保護 者との関係、(b)役割不明瞭さ、(c)教師との関係、(d)多忙・困難な仕事、(e)守秘義 務、と命名した。また、荻野・今津・岩崎(2001)は、調査した SC のバーンアウト構造は、 Maslach & Jackson(1981)が示した「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感」とは異 なり、「身体的疲弊」「情緒的消耗感と脱人格化」「個人的達成感」であったと述べた。属
性とバーアウント因子の関連では、女性や経験年数が長いSC は「身体的疲弊」が高く、 在籍年数が短いSC は「情緒的消耗と脱人格化」が高かった。さらに、荻野・今津・岩崎 (2001)は、サポートに関しては、実際に受けているサポートは「臨床心理関係者」から のものが多かったが、バーンアウトの低減に直接効果が見られるのは「学校関係者」から のサポートであったと述べた。 山田・菊島(2007) は、SC と相談員のストレッサー要因を検討した。相談員とは、生 徒が悩みなどを気軽に話せて、ストレスを和らげることができる場として設置された「心 の教室相談員」を指す(文部科学省、2002)。山田・菊島(2007) は、荻野他(2001)の SC のストレッサー尺度に、予備調査によって得た項目を加え、新たな質問紙を作成して 使用した。SC89 名、相談員 49 名を対象に調査を行った結果、SC のストレッサー 8 因子 を抽出した。山田・菊島(2007) は、8 因子を(a)対管理職関連、(b)学校での存在の薄 さ、(c)対教師関連、(d)学校での相談環境、(e)勤務体制、(f)対生徒・保護者関連、(g) 勤務に対するとまどい、(h)自分自身に対する不満、と命名した。 清田・根津(2015)は、SC と教師との視点の違いから、SC と教師との間に認識や感情 のズレが生じているとし、SC の抱えている様々なストレッサーとストレス反応を、サポー トに着目して検討した。清田・根津(2015)は、73 名の SC に対して、山田・菊島(2007) のストレッサー尺度、心理的ストレス反応尺度 (小杉他、2004) 及び、教師のサポート資 源の利用についての尺度 (関山・園屋、2005) を使用し、調査を行った。調査の結果、清田・ 根津(2015)は、SC のストレッサー 5 因子を抽出し、5 因子を(a)力量不足による役割 不全感、(b)SC の役割認識のズレ、(c)SC の存在感の薄さ、(d)対管理職関連、(e)学 校での相談環境、と命名した。また、清田・根津(2015)は、SC のサポートに関する 5 因子を抽出し、(a)専門家への相談、(b)学校内の人への相談、(c)専門家以外への相談、 (d)書籍やインターネットで調査、と命名した。SC のストレッサーの 5 因子全てと「抑 うつ反応」に、「力量不足による役割不全感」「対管理職関連」と「緊張感」と、それぞれ 正の相関が見られた。SC のサポートでは「書籍やインターネットで調査」のみ、ストレ ス反応の「抑うつ」「身体不調感」「疲労感」に負の相関が見られた。ストレッサーとサポー トに関しては、相関が見られなかった。清田・根津(2015)は、「ストレッサー→サポー ト→ストレス反応の流れは見られなかったが、ストレッサーによって、ストレス反応が異 なる」(p.100)と述べた。 5.考察 4 で行った、日米の SC のストレスに関する先行研究のレビューを踏まえ、日米の SC のストレスに関する研究の動向を明らかにし、今後の日本のSC のストレスに関する研究 の留意点について考察する。 アメリカでは、SC のストレスは、職業性ストレス研究の一つとして位置づけられ、継 続的に研究されていた。そして、例えば、Wilkerson & Belini (2006)や、Wilkerson(2009) に見られるように、多くの研究で、カウンセラーの職業性ストレス尺度(COSI)、バーン アウト尺度 (MBI)などの尺度が共通して使用されていた。さらに、職業性ストレッサー の解明や、バーンアウトに関連する、個人的要因、組織的要因の解明だけにとどまらず、バー ンアウト防止のための方策も、検討されていた。方法としては、質的研究は多くなく、質
問紙調査による研究が大半を占めた。他方、日本のSC のストレスに関する研究は 3 件の みであり、その数は限られていた。
アメリカで、SC のストレスに関する研究が継続的に実施されている背景には、SC のス トレスの問題が、児童生徒のwell-being に影響を及ぼすものとして、認識されていること があると考えられる。実際、Morrissette (2000)は、SC のストレス全般の問題は学校活動 に影響を与えるものだとし、Mullen & Gutierrez(2016)は、SC のバーンアウトは、児童 生徒へのサービスの質の低下を招くものだと位置づけていた。さらに、アメリカでは、 SC のストレス研究は、それまでに発展していた職業性ストレス研究の影響を受けてきた (Moracco et al., 1984)。Cooper & Dewe (2004 大塚他訳 2006)によると、「職業性ストレ スの研究は、ストレスの要因分析と尺度開発に重点がおかれ、信頼性、妥当性の高い尺度 が多く、研究が豊富である」(p.107)とされる。そのため、SC のストレスの研究におい ても、共通した尺度を使用しての量的研究が多くなされてきたと理解できる。 アメリカと比較すると、日本では、SC 制度の開始(文部省、1995)から 2019 年で 24 年経過したところであり、その歴史は短い。そのためもあると考えられるが、日本のSC のストレスに関する研究は少なく、初期段階にあると言える。ただし、前掲のとおり、ア メリカにおいても、SC のストレスに関する初めての研究論文を Kremer & Owen が発表し たのは、1952 年に SC の全国組織である ASCA が設立されて、24 年経過した 1976 年であっ た。日本においても、今後、SC のストレスの問題がより顕在化してくる可能性が否定で きず、今後の研究展開が求められる。 その際、アメリカに限らず、諸外国のSC のストレスに関する先行研究を参考にしながら , 同時に、日本の社会文化的背景や、教育のシステム、SC の雇用条件や雇用形態の特徴を 踏まえた研究を行っていくことが必要である。なぜなら、SC に求められている職務が、 アメリカなどの諸外国と日本では異なっているからである(高原、2006)。そのためもあっ て、日本のSC のストレスは、他国の状況とは異なった様相を示すと予想され、その実態 の解明が重要であると考えられる。実態解明には、量的研究とともに、一つ一つの現象よ り丁寧にとらえることができる質的研究の実施も求められる。Sheffield & Baker (2005) は、量的研究では、現象の一般的な傾向について明らかになるが、操作的に定義された現 象以外を捉えることが難しいとし、質的研究の重要性を強調した。また、Cooper & Dewe (2004 大塚他訳 2006)は、職業性ストレスの要因の頻度や、強度、持続性、意味などは、
測定尺度だけで明らかにできないとし、量的研究と質的研究を組み合わせた研究デザイン の必要性を示した。日本のSC のストレスの実態解明のため、今後の活発な研究展開が求 められる。
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