日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-83 462
-女子大学生における食行動異常の二過程モデルの検討
○上田 紗津貴1)、栗林 千聡1,2)、武部 匡也3)、佐藤 寛4) 1 )関西学院大学大学院文学研究科、 2 )日本学術振興会特別研究員、 3 )立正大学心理学部、 4 )関西学院大学文学部 【問題】 摂食障害は近年増加の一途をたどっており,若年女 性における摂食障害の有病率は10.4%であると報告さ れている (Fairweather-Schmidt & Wade, 2014)。摂 食障害は精神疾患の中でも死亡率が高く (Arcelus et al., 2011),非常に深刻な事態を招く疾患である。Stice (2001) は,食行動異常に影響する要因を明 らかにするために,Dual Pathway Model of Eating Pathology (食行動異常の二過程モデル) を示した。 これは痩身プレッシャー,痩身理想の内面化,自己像 不満,ダイエット行動,ネガティブ感情の 5 つの要因 が食行動異常に影響を及ぼすことを示したモデルであ る。海外では先述の食行動異常の二過程モデルに基づ いてBody Projectという摂食障害予防プログラムが作 成され,メタ分析によって最も予防効果が長く持続す るプログラムとして実証されている (Khanh-Dao et al., 2017)。 日本では食行動異常の二過程モデルが既に検討され ている (Kuribayashi & Sato, 2017)。その結果, Stice (2001) と同様のモデルが支持されたことに加 え,痩身プレッシャーからダイエット行動と食行動異 常への影響が新たに示された。しかし,Kuribayashi & Sato (2017) では食行動異常の測定にDSM-IVに基づ く尺度が使用されている。そこで本研究では,DSM-5 に基づく尺度を用いて,本邦のサンプルにおいてどち らのモデルが採択されるのか改めて比較検証し,先行 研究の知見を整理することを目的とした。 【方法】 調査対象者 近畿圏の大学に在籍する女子大学生460 名 (平均年齢19.40歳, 標準偏差1.13歳) を対象とし た。 調査手続き 2017年10月から11月,2018年 4 月から 7 月にかけて実施した。大学の授業時間の一部を利用 し,質問紙またはネット上の質問紙にアクセスできる QRコードを添付した紙を一斉配布し,その場で回答を 求めた。 調査材料 1 . 食行動異常
Eating Disorder Diagnostic-Scale-DSM-5 v e r s i o n (E D D S - D S M - 5 v e r s i o n) 日 本 語 版 (Kuribayashi et al., 2018) を用いた。この尺度
は,23項目からなる自己評定尺度である。 2 . 痩身プレッシャー
Perceived Sociocultural Pressure Scale (PSPS) 日本語版 (Takebe et al., 2018) を用い
た。 8 項目すべてに対し, 5 件法 (「1. 全くない」 から「5. よくある」) で回答を求めた。
3 . 痩身理想の内面化
I d e a l B o d y S t e r e o t y p e S c a l e - R e v i s e d (IBSS- R ) 日本語版 (Ueda et al., 2018) を用い
た。 8 項目すべてに対し, 5 件法 (「1. 強く反対」 から「5. 強く賛成」) で回答を求めた。 4 . 自己像不満 自己像不満尺度 (松本ら, 1999) を用いた。10項 目すべてに対し, 6 件法 (「1. 全くない」から「6. いつも」) で回答を求めた。 5 . ダイエット行動 ダイエット行動尺度 (松本ら, 1997) の非構造的 ダイエット 8 項目を用いた。 8 項目すべてに対し, 6 件法 (「1. 全くない」から「6. いつも」) で回答 を求めた。 6 . ネガティブ感情
日本語版The Positive and Negative Affect Schedule (PANAS; 佐藤・安田, 2001) のネガティ ブ感情 8 項目を用いた。 8 項目すべてに対し, 6 件 法 (「1. 全く当てはまらない」から「6. 非常によ く当てはまる」) で回答を求めた。 倫理的配慮 調査への参加は自由意志であること,個 人が特定されることはないこと,調査への参加の有無 が成績などには影響しないことを口頭で説明し,同意 が得られた者に対して調査を実施した。本研究は筆頭 演者の所属先の大学内研究倫理委員会の承諾を得て実 施した。
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463 -【結果】
Stice (2001) および Kuribayashi & Sato (2017) で示された食行動の二過程モデルに基づき,構造方程 式モデリングを用いた分析を行った。修正指標に基づ いてカイ二乗値の改善度が1.0以上であった誤差間に は共変を仮定した。なお,図では誤差変数と誤差変数 間の相関については省略している。 Stice (2001) のモデルを基にした分析の結果,モ デル適合度はχ2 ( 6 ) = 138.74, p <.001, GFI =
.93, AGFI = .74, CFI = .80, AIC = 168.74であった (Figure 1)。痩身プレッシャーと痩身理想の内面化に は有意な正の相関がみられた (β = .24, p <.001)。 痩身プレッシャーから自己像不満へ有意な正のパスが 認められた (β = .45, p <.001)。痩身理想の内面化 から自己像不満へ有意な正のパスが認められた (β = .16, p <.001)。自己像不満からダイエット行動とネ ガティブ感情へ,それぞれ有意な正のパスが認められ た (β = .31, p <.001; β = .19, p <.001)。ダイ エット行動からネガティブ感情と食行動異常へ,それ ぞ れ 有 意 な 正 の パ ス が 認 め ら れ た (β = .15, p <.01; β = .49, p <.001)。ネガティブ感情から食 行動異常へ有意な正のパスが認められた (β = .11, p <.01)。
Kuribayashi & Sato (2017) のモデルを基にした分 析 の 結 果, モ デ ル 適 合 度 はχ2 ( 4 ) = 24.73, p
<.001, GFI = .98, AGFI = .91, CFI = .97, AIC = 58.73であった (Figure 2)。痩身プレッシャーと痩身 理想の内面化には有意な正の相関がみられた (β = .24, p <.001)。痩身プレッシャーから自己像不満と ダイエット行動および食行動異常へ,それぞれ有意な 正のパスが認められた (β = .52, p <.001; β = .36, p <.001; β = .33, p <.001)。痩身理想の内面 化から自己像不満へ有意な正のパスが認められた (β = .15, p <.001)。自己像不満からダイエット行動と ネガティブ感情へ,それぞれ有意な正のパスが認めら れた (β = .12, p <.05; β = .20, p <.001)。ダイ エット行動からネガティブ感情と食行動異常へ,それ ぞ れ 有 意 な 正 の パ ス が 認 め ら れ た (β = .15, p <.01; β = .38, p <.001)。ネガティブ感情から食 行動異常へ有意な正のパスが認められた (β = .07, p <.10)。また,どの変数が食行動異常に最も影響を 与えているのかを明らかにするために総合効果を算出 した結果,痩身プレッシャーから食行動異常への効果 が最も大きかった (β = .50)。 【考察】 本研究の目的は,DSM-5に基づく尺度を用いて本邦 の大学生における食行動異常の二過程モデルを比較検 証することであった。構造方程式モデリングの結果, Kuribayashi & Sato (2017) に基づくモデルの方が Stice (2001) に基づくモデルよりも適合度が優れて いることが示され,日本においてはKuribayashi & Sato (2017) に基づくモデルが採択されることが示唆 された。また,Kuribayashi & Sato (2017) に基づく モデルにおいて,食行動異常に最も影響を与えている 変数は痩身プレッシャーであることが明らかになっ た。 本研究により,日本における摂食障害の心理社会的 背景の解明に繋がり,海外で有効性が示されている摂 食障害プログラムの実践研究が国内においても可能に なる。さらに,先述のBody Project は主に痩身理想 の 内 面 化 を タ ー ゲ ッ ト に し て い る。 痩 身 プ レ ッ シャーに焦点をあてたプログラムに改良することで, 日本文化に適した摂食障害予防プログラムが開発でき ると考えられる。