日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-22 340
-母親の知覚したソーシャルサポートおよびマインドフルネスと育児幸福感の関連
○水崎 優希1,2)、松岩 七虹3)、吉岡 真有梨2)、奥 咲季3)、加藤 香美3)、西川 美沙紀4)、政氏 奈緒4)、 佐藤 寛3) 1 )関西学院大学大学院文学研究科、 2 )日本学術振興会、 3 )関西学院大学文学部、 4 )関西学院大学文学部卒業生 【問題】 現代の日本では,子育て中の母親の孤立が社会問題 として注目されている。地域社会の機能の脆弱化や核 家族化が進行する中で (伊藤, 2017),母親は一人で 子育てを担うという歴史上類をみない状況にあること が指摘されている (原, 2018)。子育ては多くの時間 と労力がかかる作業であり,物理的,社会的資源が十 分でないと知覚した場合に養育者は子育ての継続が困 難になることが指摘されている (長谷川, 2016)。以 上のことから,母親を取り巻く厳しい現状への支援が 求められる。 心理学的支援策を講じる上での幸福感の重要性が示 唆されている。世界保健機関によると, 「健康とは単 に疾病や障害のない状態ではなく, 身体的, 精神的, 社会的に調和のとれた状態」と定義づけられており、 幸福感が重要と考えられている。育児においても、ポ ジティブな感情を引き出すような支援の重要性が指摘 されている (清水, 2016)。幸福感は時間的安定性 と, 状況に対する一貫性を持つとされていることから (伊藤・相良・池田・川浦, 2003), 育児といった長期 間にわたる行動に影響を与える可能性が高いと指摘さ れている (加藤, 2008)。 ソーシャルサポートは,育児幸福感を増やす上で効 果があると示唆されている一方 (加藤, 2008), 問題 点も指摘されている。たとえば,多くの場合育児サー クル活動は母親にとってプラスに働くことが多いもの の,他の母親から得た育児に関する情報によって不安 感が高まることもある (荒牧, 2005)。育児幸福感を 高めるためには, 単純にサポート源を広げること以外 にも別の援助が必要であると考えられる。 マインドフルネスによって子育て中の母親のポジ ティブな体験を促進できることが示唆されている。母 親がマインドフルネスに関連するトレーニングを受け ることにより,子育てに関する満足感が高まったり (Singh, Lancioni, Winton, Singh, Curtis, Wahler, & McAleavey, 2007),母親自身の本来感が改善するこ とが示されている (相馬・越川, 2013)。しかしなが ら,マインドフルネスと育児幸福感の関連についての 知見は不足している。 本研究では,マインドフルネスおよびソーシャルサ ポートが,育児幸福感にどのような影響を与えるか検 討することを目的とした。 【方法】 調査時期 2017年 9 月から11月であった。 調査参加者 0 歳から 6 歳までの子供を持つ母親 369名を対象に調査を行った。 調査材料 1. マインドフルな子育て尺度 (Five Facet of Mindful Parenting Scale: FFMPQ, 水崎他, 印刷中) 養育者のマインドフルネスを測定する尺度。 「描写」,「観察」,「自分の体験に過剰に反応しないこ と」,「子供に過剰に反応しないこと」,「距離をおくこ と」の 5 つの下位尺度から構成される。25項目 5 件法 で回答を求める。本研究では合計得点を用いた。 2 . 育児ソーシャル・サポート尺度 (原口・手島, 2006) 育児環境について尋ねる尺度である。「精神的 サポート」,「育児ヘルプ」,「居場所作り」の 3 つの下 位尺度からなる。 9 項目 4 件法で回答を求める。 3 . 育児幸福感尺度短縮版 (清水・関水・遠藤, 2010) 育児中に感じるポジティブな感情について尋ね る尺度である。「育児の喜び」,「子どもとの絆」,「夫 への感謝」の 3 つの下位尺度から構成される。13項目 5 件法で回答を求める。 手続き 乳幼児健診施設や子育て支援施設に調査協 力を求め,同意の得られた施設において調査用紙を配 布した。調査参加者は,施設内で回答してもらい,備 え付けの回収ボックスに入れてもらうか,家に持ち 帰ってもらい,返信用封筒で後日郵送をしてもらうか のいずれかの方法をとった。 倫理的配慮 倫理的観点から個人情報の保護,匿名 性の保証,調査参加は任意であり回答を中断できるこ とを対象者への調査依頼文書に記載し,調査への協力 を求めた。質問紙への回答・提出をもって調査への同 意が得られたものとみなした。 【結果と考察】 分析対象者 調査を依頼した母親369名のうち,回 答を得られたのは144名であった (回収率39%,平均 年齢34.23歳,SD =4.42歳)。調査協力者の95.41%は核 家族世帯であった。 育児幸福感尺度の天井効果 「育児の喜び」,「子ど もとの絆」,「夫への感謝」に天井効果が認められた。 育児ソーシャルサポートの下位尺度得点,FFMPQ合 計得点,育児幸福感の下位尺度得点間の相関係数を算 出した (Table1)。育児幸福感とソーシャルサポート の関連について,「夫への感謝」と「育児ヘルプ」と日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-22 341 -は弱い正の相関,「精神的サポート」に中程度の正の 相関がみられた。育児幸福感の各下位尺度はいずれも FFMPQと弱い正の相関関係を示した。 育児幸福感に対する育児ソーシャルサポートおよび マインドフルネスによる影響を検討するために, 育児 ソーシャルサポートおよびFFMPQの下位尺度を説明変 数, 育児幸福感の下位尺度を目的変数とした重回帰分 析を行った (Table 2)。育児幸福感の種類によって, ソーシャルサポートやマインドフルネスから受ける影 響が異なることが示唆された。 育児幸福感に対するソーシャルサポートの影響につ いて,「夫への感謝」に対して「精神的サポート」が 中程度の正の影響を与えることが示された。「夫への 感謝」は,夫が育児に協力してくれたり,話を聞いて くれることに対してのポジティブな感情に関わるもの である。「精神的サポート」は,子どものことを夫婦 で話し合うことができたり,夫が母親に理解を示すな ど,母親が夫から受けるソーシャルサポートに関わる 下位尺度である。本研究の結果より,母親が夫からの ソーシャルサポートを知覚することによって,夫に対 してポジティブな情動を感じる頻度が増えることが確 認された。 育児幸福感に対するマインドフルネスの影響につい て,「育児の喜び」と「子どもとの絆」に対して,マ インドフルネスが弱い正の影響を与えることが示唆さ れた。「育児の喜び」は,子供が生まれたことや育児 ができることそのものへのポジティブな感情を感じる ものであり,「子どもとの絆」は子供と母親がお互い に必要としあっていたり,愛情を感じることに関する ものである。子育て中に母親自身や子供へ十分に気づ きを向けることで,子育ての楽しさや子供との情緒的 なつながりを知覚しやすくなると考えられる。 臨床的示唆 マインドフルネスは幸福感を高める上 で有効である可能性が示唆された。それに加え,母親 がポジティブな情動を感じるためには,夫からの実行 されたソーシャルサポートを増やすことなど,母親自 身のソーシャルサポートの知覚しやすさへのアプ ローチも有用であることが示唆された。 本研究の限界と今後の課題 本研究は調査協力者の 育児幸福感が比較的高く,天井効果がみられた。その ため,育児幸福感とソーシャルサポートやマインドフ ルネスの関連をどの程度正確に測定できたのか検討の 余地がある。対象者を拡大した更なる研究が求められ る。