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Microsoft Word - 君の容貌01.doc

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(1)

君の

第一回

ばん

くら

ひと かん ば せ

(2)

見始め て 、 す ぐに夢 だ と分かった。 それが、子供の頃、見 て い た景 色だったからだ。 見慣れ た 景色で は あるが 、 もう 随分長 い 間 、 足を向けて い な い 場所。 赤茶けた大地。 強く 吸 い 込 め ば 、 肺が 痛くな る ほど 乾 い た空 気。 真っ青 な 空から逃れ よ うと でも するかのよ うに地平線 に沈 みゆ く 赤い太陽。。 こん な場所 は 他 に は な い 。 しか も、 この景 色 は、 そそ り 立 つ崖 に立つあの場所か らの もの に違 いな い。 遠い 昔に見 慣 れた 光景 だ。 これ は夢 だ。 どう せ夢なら覚めるまで 楽 しん で や るさ。 そう 思 っ た時 … … 突然 、 視 界が空を見 上 げた。 紺碧の中に、 見る者を圧倒 するよ う に巨大 な 月が三つ浮かん で いる。 天空に浮かぶ巨大 な球体、 ペ ・ ディオ、 パ ・ ディオ、 ノ ・ ディオを、 その順に、視線はゆっくりと眺め て いく。 夢 だ けに、自 分の思い 通りに体 は動か な い。 ま る でス ク リ ー ン を 見 てい るよ うに、目に入 る景 色を見 る だけだ。 やがて 、 視点 は一番小さなノ ・ ディオ で 止まり、 しばらく月を注視 したあと、突然、後ろ を振り向いた。 一瞬、金色の何か が視界に入り、 次 い で すべ てが暗転 する。 自分 の 叫 び声で 、 リ ュ ウ ・ バ セ ラ は 目を 開 い た。 最初に目に飛び込ん で きたのは、 ベ ッ ド の上に表示された 宇宙船の 航行ホロ情報 だ。 それで 、 彼は 、自分が 愛機の寝 室に いるこ と を思 い出した。 リュウは、荒 々し くシ ーツをはねの けると上半身を起 こした。 全身に汗をかい て る。 「どう し たの?リュウ」 声が した。女の声だ 。 ベッ ドサイ ド の机に置かれたブ レスレッ トから発せられた声だ。

(3)

もちろ ん 、ブレ ス レ ッ トが 意思をも っ て 話かけ た ので はな い。 ブレ スレ ット を 通 じて 、 こ の 船 の生 体コ ンピ ュ ー タ 、 ミ ー ナ ク シが 声をかけたのだ。 うん ざりした 口 調 でバセ ラ が答 える。 「どうもしな いさ」 ベッ ドから滑るよ うに降りると、 メ サ ド 麻のシ ャ ツを脱 ぎ ながら洗 面所に向か う 。 浅黒い肌には無数の傷跡が浮かん で い る が、 贅肉の な い痩せた体は、 いたずらに力を誇示 す る無駄 な 筋肉を載せ て おらず、 鞭のよ う なし な やかさを秘め てなめ ら かに動く。 顔を洗っ て 、 鏡に映る自 分 の顔を見る。 変わ り 映 え の しな い顔だ 。 切れ上がったアーモンドのよ う な目。 ダー ク ・ ブ ラ ウ ン の瞳 。 細く釣 り 気味の 眉 。尖 っ た 鼻と 顎 の 線。 自嘲す る かのよう に 、 軽く両端が引き上げられ た 口元。 その瞬間、 彼 の 脳 裏に、 金 色の髪 と 瑠璃色のアイシ ャ ドウがフ ラ ッ シュバ ッ クす る 。 あれは―― リュウの視線は 、 一瞬だけ その焦点をぼかしたが 、 す ぐにその視 点 は定まり、 素 早 く 踵 きび す を返すと、寝室を横切っ て 操縦室(コ ン トロー ル・ルーム)に向かった。 途中 、テー ブ ルの上に置かれ た ブレ スレ ットを 取 る 。 「ミーナ。状況報告 だ 」 操縦席 コ ン ソ ー ル に座り な がら、ブ レス レッ トに話しか け る。 「さ すがに、まだUGP 統一銀 河 警 察 の警戒 態 勢 は 解 け てない わ 」 「今、俺た ち のいるギ ラ ル 小惑星帯はどうだ」 「誰も来な い わ よ 。 普 通の神経なら、 巨 大ブ ラ ッ ク ・ ホールの すぐ側 の、 ち っ ぽけな 石 の塊に近づこうとはし な い もの」 「しかし 長い な。 ここに潜 ん で 七二 時 間 だ。 そ ろ そ ろ 警戒 が緩 ん で も いい と思うが」

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「 ダ メ 。 こ の 近く には いな いだ け よ 。 今 も グ ラ ソ 銀河中 に 警 戒 が 張 ら れて いる み た いね 」 「あいつも根に持つな」 「あな た が、 トアル太陽系長官の結婚指輪を盗 む から で し ょ う 。 ア ル バ族の ト ー キ ナイ ト鉱 星採掘権 利 書 を破 り捨 てる だけ で良かった の に」 「 俺 は 、 金目のも のを 盗みに長 官 の 家に 入っただ け さ 。 つ い で に 、 前 から 金の亡者だ っ たあ いつが 気 に 入 らな かったから 、 たま たま 目につ いたあの書類を焼い て やったんだ」 「金庫の 中に、 た また まあった書類 を ね 。 で もそ れ で アル バ族の子供 たち は 助 か っ たわ 」 大盗賊と し て 銀河に名をは せるリュウ ・ バセ ラ は 、 小 さく ため息を ついた。 少し 前に 、 盗 賊 船 のコ ンピュー タと して は 話 し方が 丁 寧過ぎ る ため、 もう少し砕けた話し方を す るよ うに調整しよ うとしたの だ が、 やはり バイ オ・ニューロン・サーキ ッ トが 手に 負え ず、一 度 は 諦 めたのだ 。 しかし、 後に思いつい て 、 UGNL (統一銀河ネットワーク ・ ラ イ ブ ラ リ) にアクセスし て 「 砕けた女性の話し方」 を学べ、 と命令し た ところ――効果がありすぎ たのだ っ た。 俗語 スラ ン グ から、 下 品な 言葉まで 網羅 し て 行わ れるミーナと の会話は 、 知 らな いも のが 声だけ 聴 いたな ら 、 泥 棒夫婦 の 会話にほ かな らな いだろ う。 「――ミーナ、 これを見 ろ 」 「指 輪 ? 長官の指 輪 ね 」 「ス キャンし てみ ろ」 「――何 こ れ!鉛にメッキされ て るだけじ ゃな い」 「投機のため に、 本物の指輪 は 妻にだまっ て 売り飛ばした らしい。 裏 社会の噂は本当だ ったな 」 「それを確かめるために指輪を盗んだの?」 「こ の間 、ゴルゾと 賭 を し たのさ」

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「 で も変 ね。 普通、 偽 物 な ら盗 まれた こ とを黙っ て い る と 思 う けど… …」 「さ すが、 宇 宙 ふ 船 ね 一杯に 詰 ま っ た脳 み そ だけ のこ とはある」 「嫌 な言い 方 し な い で よ 」 「それが――あいつ、今 で もアグルダ と 一緒に寝 て た のさ」 「アグ ル ダ ? 」 「 奴 の妻だ 。 それで 、 俺と したこ と が 指 輪を引き抜 い た時に 、 彼女の 胸元に落と し て し まった」 「まさか! そ れで 、 彼 女の 胸に 手を いれて 取 り出したんじ ゃ な い で し ょう ね 」 「アグ ル ダ に 指輪 を盗 まれた こ とを知 ら れた奴 は 、 必 死に なっ て 指 輪 を取り戻そ う とし て い るん だ。 なにし ろ 奴の今の地位は、 妻の兄 で あ るUGP長官のおかげだからな」 「 で も、 この 騒動 で 、 アルバ族の件 は、 うや むやに な る。 あなたそこ まで 考えて … …」 「考 え過 ぎ だ 。 な ん せ 今 や 俺た ちの命 は 風前 の 灯 火なん だ ぜ。奴 は 、 俺た ちを捕まえるつ も り は ないから な」 「ああ、 な まじ捕ま え て 、指輪 が 偽 物 だと公表される と まずいか ら。 だか ら、 これ ほど厳 重 な警戒 態 勢 を とっ て い るのね。 納得はできたけ ど、 これか ら どう するのよ !」 「 そ うキンキンした声を出すな よ。それより、何か飲み物をくれ」 「紅 べに 酒 しゅ 以外なら」 リュウ ・ バセ ラは、 少 し だ けブ レス レッ トを睨みつけると、 た め息 をついた。 「ヴェポア珈琲 だ 。エスプレッソ でくれ」 「C珈琲 (カプセル ・ コーヒー) じ ゃだ め な の。 そんな 旧 時代の作り 方じ ゃなく て 」 「だ めだ 。嫌なら紅 酒 だ 」 「分かった わ よ。あれはあとの掃除が大変だから嫌なんだけど ……」 宇宙船 が いれ てくれた珈琲 を飲 みながら、 銀 河盗 賊は、 窓 一杯に広 がるブ ラ ックホールを眺め て い た。 ミーナは 船内カメラで その横顔を捉える。

(6)

美の黄金律からは少し外れて い るも のの、 生 体コ ンピュータ で ある 彼女には 、彼の持つ独 特の美しさが 理解 で き た。 もし、 今 後、 彼女にもう少し人 間的な 感 性 が 備わるならば、 お そら くこ う 描 写 し たこ とだろ う 。 リュウ・ バセ ラには、 ど こ とは 知れず高貴な風 格 が備わ っ て い る。 例えて 言 えば、 戦 いに独り赴く王に似た、 孤独の中に、 大らかさと 毅 然 と し た厳 しさを 併 せ持つ矛 盾の大器、 激 しく 飛び交う 銃弾の中を、 無人の野を行くが 如く、悠然と 歩く神 話 の英 雄のようだと 。 読唇術を心得 な い 彼女には、 そ の横顔から彼 が何を考え て いるかは わか ら な い 。 「ミーナ」 突然 、 リ ュウが声をか けた。 い つ 果 て るともない、 内部 思考演 算 に入っ て いた ミーナが、 コ ン マ 数秒遅れ で 返 事をする。 「なに?」 「マイロ星系のアバド星は分かるな」 「もちろ ん」 「そ こに行 く 。警戒 網 を避 け て 、ル ー ト を 設 定し てくれ」 「まだ 警 戒 は 厳しい わ よ」 「いい加 減 に し ろ 。 お 前 に とっ て、 この 程度 の警戒 を すり 抜 け るの は 簡単 だ。 行く先 が 決まっ て なかったから、 こ こで蹲っ て た だけだろう」 「そ れ は そ う だけど…… あ ん な 辺 境 に何 があるの ?」 「何 もない ― ―だか ら 身を隠 す にはもっ てこい だ ろう?」 三日 後、 ミーナは、 宇 宙船 をア バド星の北緯 四 十 度 付 近の大 陸 に向 けて 降下 さ せ て い た。 「データベースにも、 ほとんど何も載っ て い な い けど、 実 際に見 て も ほ ん と 、 何にもな い 星ね 」 「かつ て は、 重力制御用の レア ・ メ タル が産出され て 栄 え た が 、 こ の 二 百 年 は 寂 れ る 一 方 だ 。町 と 呼 べ る の は 、今 、降 下 す る 場 所 か ら 二 百 キロ離れたオウセ・シティだけだな」

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「どう し て オ ウ セ ・ シ ティに 降 りな いの?UG P の追っ 手 もこ んな 所 にまで は 来てな いのに」 「知り合い が い る ……い や 、いた 」 赤茶けてひ び 割れた大地の上に、 ふ わりとミーナは着地した。 激しい 戦 闘にならない限り、 リ ュウ ・ バ セ ラ が自 ら操縦桿を手 に す るこ とはな い 。 それが 、 生 体 コ ン ピュー タ 、 ミ ーナク シ に対 して 、 リ ュウが 示 す 最 大の信頼と賛辞で あることが 、 近 頃 、ミ ー ナ にも 分 か り 始 めて いる 。 百メート ルほど向こう に 崖 があ り、 その手前に 石 で 造 られ た家が 建 って い た 。 宇宙船から伸びたタ ラ ップは、 リュウ ・ バセ ラが地面に降りると自 動的に収納された。 「変ね。 あな た が いった通り、 わ た した ち の データを、 あ の家の人に 送信し て おいたのに。 なぜ出迎え て くれな い のかしら」 久しぶりにリ ュウ の左 手に 納ま ったミーナ ク シが呟く 。 船室 キャ ビ ン に置い て い く といっ て 聞か なかった リュウに、 頼 み込ん で なん とか 連れ てき てもらったの だ。 筋肉質の リュウの浅黒い腕には、 古 代イ ウレカ調の彫刻が施された 金色のブレ ス レ ッ ト 自 分 は、絶 対 似 合 うと彼 女 は思っ て い る 。 ミーナの言葉を無視し て 、 リュウは石造りの家に向かっ て 歩き出し た。 赤茶けた砂岩の上、 赤 い石 で 造 られた家にあっ て 、 緑 色の玄関扉が 妙に印象的だ った。 近 づ く と 、 か つ て は 濃 い 緑 色 で あ っ た ろ う 木 造 の 扉 は 、 今 は 色 も 褪 あ せて 傷だ ら け な の が わ か る 。 扉をノックしよ う とした、 その時、 屋根から灰色の何かが降っ てく るの と同時に、 玄 関前の地面からも、 砂 を吹き上げ て 何か が飛び出し た。 一瞬の出来事だ っ た。

(8)

リュウ ・ バセラ は 、 真 横に飛ぶと 、 着地す る と 同 時に向きを変えて 、 さらに後方に飛んだ 。 その数センチ 後を、 屋根から落 ちてきた何か が撃つ銃弾が追いかけ る。 リュウは、 回 転し ながらパルス ・ ブ ラ ス トを引き抜き、 地 面から飛 び出し て 砂煙に紛れながら銃弾を撃つモノに向けて 速 射する。 砂煙の中 で爆炎 を あげ、そいつは沈 黙した。 さらに リ ュウは、 玄関の雨よ け 屋根の柱 を片手 で つかみ、 横向きに 一回転 す ると、素 晴らしい早 さ で扉の前 に戻っ て きた。 着 地 と同 時に パルス ・ ブ ラ ス ト を 屋 根か らぶ ら 下 がっ てい るモ ノ に 向け て 静 止した。 リュウの 顔の すぐ前 に も銃口 が あった。 灰色の塊の一部 が 開き、 白 い歯が 見 えると大きな声が、 荒 野に木霊 こ だ ま した。 「さ すがだな、ビ リィ・ボウイ。腕は鈍っ ち ゃ い ねぇや」 そのまま、 顔 を中心にくるりと 回 っ て 着地 すると、 大きな 男 が玄関 前の岩の上に立 っ て い た。 お互い 、 銃口 は向 けた まま だ。 「驚いたか?」 「 い や 、 あ ん たの歓迎の仕方な らわ かっ て い るさ」 ニヤ リ 、 と 男 は 笑 う と 、銃をホ ルスターに し ま っ た。 リュウが、 瞬 きする間に銃をしまうのを横目に顎をし ゃくり な がら いう 。 「まあ、中に入れよ。あいつも いるから」 ドカン、と大きな音をた て て 、 重そ うな緑の扉は開いた。 よく 見ると 、 扉には 、 銃弾 の跡ら し き 傷 跡も 無数にあ る 。 手で 示 さ れ る ま ま 、 リ ュ ウ が 広 い 室 内 の 真 ん 中 に あ る テー ブ ル に 座 ると、ミーナが 早 口 で まくした て た 。 「 今 のあ の動きを分析す る と 、 どち らも本 気 で 相 手を 撃とうと して い たわ 。ど う い うこ と ? 」 銅製のマグ カ ップに、 得体の知れない、 不気味 な 煙の立つ飲 み 物を いれて 近 づ い た男が 目 を 丸 くす る 。 「な んだ 、そいつは?女みたいじ ゃ な い か」

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「みたい じ ゃ なく て、 女。 とい うより女神 な の。古代 地 球 の神話 の 、 魚の目をした女神」 「も しかし て 、それは AI 人工知 能 かい」 部屋の隅から別な声が し て 、 ミ ーナは 宝 石を模したカメラ を そ ち ら に向けた。 背の高い痩せた男 がこちらを向い て いた。 「さっ き の は 、 ど うし てもミッブ が や ろ うっ てい うか ら。 俺 は とめ た んだけど」 「かまわな い さ、 ナーブ。 あんたのおかげで 、 俺 はマシンの奇襲に強 くなった。昔の弾のあとが、 ふ くらはぎに残っ て いるがね」 「さ すがに、あの時はマリアに怒られた ね」 「おい、その名を口にするな」 灰色の服 を着 た 大男、 ミッブ と い う らしい 、 が大 声 で 睨みつ け る と 、 ナーブ と 呼ばれた男は震え上がったよ う だった。 「ご、ごめんよ。悪かったよ」 ミ ッ ブは 、今 度はリ ュ ウ を 睨 み つけ る 。 「 で 、ビ リィ・ ボ ーイ 。今頃 何 し に やっ て来た 」 「返事次第 で は、お前 を生かし ては帰さ ない 」 「分かっ て い るだろう」 「分からな い ね」 「俺は 、 マリ アに逢 い に来 た」 ドン、 と い う 大 き な音 がし て 、 巨大な テ ー ブ ルがひ っ くり返った。 「そ の 名 を口 に す る な 。特 にお前 は 」 「あんた が怒るのは分かる。 だ が、 俺は、 彼 女との約束を果たさなけ ればならな い んだ。そのために来た」 「何 十年も放りっ ぱ な し で 、今さら何の 約束 だっ て い うん だ」 ミッブ は 悪鬼 さ な がらの 形 相 だ った 。 レンズ を 通し て 見 る ミ ーナで さ え、居心地の悪さを 感 じたほどだ 。 「ミ ッブ」 ナーブ が 声を掛けた。 かたり、 ことり、と音を鳴らし ながら歩い て くる。 ミーナの解析によると 、 ナ ー ブ と い うこ の男の足は 、 両方とも機械 仕掛 けだった。

(10)

右足は足首から、左足は膝から下が 。 しかも 、 恐ろ しく 旧式だ 。 こ ん な 辺 境で は仕方がな い のかも し れな いが 。 中 央 で は 、 ク ロー ン技 術の応用で 、 いく らで も 生 身の体が 手に 入る とい うの に。 「ビ リィの話 を聞い て やった ら どうだ」 「聞 く必要 な ぞ な い さ 。 こ ん な 恩知 らず 」 「で も 」 「黙れ!さもな い と」 大男は、ナーブに指を突きつけた。 「ミ ッブ」 「うるさい!黙れ!」 「黙らな いよ。マリア との」 ミッブ の 顔 が 怒り に赤 黒 く 変 わ った 。 ナーブ に 突きつけた指 が小刻みに震え て い る 。 しかし、 今度 はナーブ も震 え上 がら なかった 。 胸 を反らし てきっ ぱ りと いう 。 「彼 は、 マ リ ア と の 約 束 だ といっ て い る 。 だ った ら、 俺た ちは聞い て やらな い と」 「ナーブ。お前……」 ミッブの目から、怒りの色が急速に退( ひ ) い て いった。 「わ かった。言っ て み ろ 」 そ う いっ て 、 大男は、 さっきの騒ぎで 奇 跡的に倒れ て い な かった大 きな椅子に、どさりと 座り込んだ 。 「俺は、地球を見つけた」 「何 だと?」 ミッブ は 立 ち 上 が りそ うに なるのを必 死 に抑え て いた。 ナーブ も 驚 き に目を見 開い て い る。 「しばらく 前の ことだが 。そし て 実際に行っ て きた」 「あったのか、本当に。地球が」 「そ うだ。 だ か ら 、 俺 はマ リア に会 わなければ な ら な い 」 大男 は、 うつ むき、しばらく黙り 込ん だ。 やがて 、 顔を上げ 、いった。

(11)

「で は 、 会 っ て 来 い」 「彼 女は洞窟か?」 「そ うだ」 「分かった」 リュウは、 椅 子から立 ち上 がると、 倒れたテ ーブルに近づき、 片手 でそ れ を 起 こ し た 。 一見、簡単そ うに見 え るが、凄 まじい力が必要 な 行 為 だ。 「こ いつは、 ここに置い て おく」 そ う いっ て 、 ミーナを外そ うとする。 ミーナは考 え る限りの言葉を使っ て 抵抗を試 みた が、 結局 は腕から 外され、テーブルの上に置かれたのだ っ た。 そのままリュウは 家を出 て 行った。 部屋に残され た二 人の男と 一 人 の女 ?は、 し ばらく何も い わ ずに黙 って い た 。 最初に口を開いたのはナーブ だ った。 「君は、AIだ よ ね」 そう い い な が ら テ ー ブ ルに 近づ き 、 椅 子 に 腰 掛け る 。 「失礼ね。AIな ん て、誰かが作ったプログ ラ ムと 同 じ にしな い で 。 わた し は 、 生 体細 胞 を 核 に 使 っ た バ イ オ ・ ニ ュ ー ロ ン ・ サ ー キ ッ ト の 知性体なの。 自己増殖し て 、 自 分で 自 分 を進化させる生命体よ。 お 仕 着せのプログ ラ ム 知能とは違うわ 。 だ い たい、 わ たしは、 あんたた ち よ り ずっ と年上 な ん だ か ら 、そのつ もり で敬意を払っ てね」 「ご、ごめんなさい。マム」 「だ からと い っ て 、オバさん扱いもや め て 。 マムな ん て ご めんだわ 」 突然、爆発音のよ うな音がした。 やがて 、 ミーナは 、それが ミ ッ ブ の 笑 い 声だ と い う こ と を 知 っ た 。 「な かな か、こ い つは 、いいネェちゃ ん だ ぜ 。なあ、ナー ブ」 「そ 、そ うだね。 なん だか、 マ リア に似 てる」 「確かに……似 て るな」 な ぜ か タ ブーと さ れて いる 『 マ リ ア 』 と いう 言葉だ が 、 ミ ー ナ はこ れを機会に思 い切 って 尋ねて み た 。 「も し、よかったら、マリ アさんについ て 、 教えて く れな い」

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「マリアについ て は話した くない」 「じ ゃあ、 リ ュウとあなたた ち の 関 係につい て」 「それを話 す とマ リアの話をし なく ちゃならない。 だ め だ 」 「頑 固 ね ぇ……そ うい えば、 あ なたた ち 、 リ ュウの こ とをビ リ ィ と 呼 んで たわ ね 」 「あいつは、昔、ビリィ・アルトと呼ばれ て たんだ」 「マリ ア さんが名付け たの? ひ ょっと し て 、 マリ アさん て 、 彼 のお母 さん?」 「――あんた 、 あい つか ら何 も聞い て ない のか ?」 「ええ」 「そ の 通 り だ 。 マ リア があい つ をビ リィ と名付 け た 。 だ が 、 マ リア は あい つの 母親じ ゃ ねぇ 」 ミーナは、ミッブの顔に苦悩がよ ぎ るのを見た。 「さっきの会話からす ると 、 子 供の頃の彼を鍛え たのは 、 あな たた ち なの ね」 ミーナは話題を変える ことにした。 「そ うだ」 「覚えは良かった?」 「覚えが良かった、 な ん てもんじ ゃ な い 。奴には才能 があった」 「そ れ は 控えめ 過 ぎる ね。 ビ リ ィ は 戦闘の天 才 だ った 。 天 才とい う 言 葉が 逃げ 出す ほど のね 」 ナーブ が 口をはさ む 。 ミッブ は 遠い 目 を した 。 「確か に あい つ は すごかったよ 。 俺 はよ く こ い つ ナ ー ブ と話した もん だ。 や っぱり、血は 争えな い っ て ね 」 「ミ ッブ!」 「ん? あ あ、 わかっ て るよ、 ナ ーブ 。 だ が、 この お嬢 さん は、 本当に マリ アに 似 て る」 「ミーナっ て 呼ん で 」 「よ し、 わかった 。 ミ ーナ、 話 し て や ろ う。 もう随 分 まえの話 だがな ――」

(13)

ロス ・ サ ンテ ス ・ マ リ ア は 盗 賊 だった 。 父親 もそ の 父 親 も そ う だっ たから、まあ家業みたい な ものだな。 盗賊 と い って も 、 貧乏 人から 盗 む ん じゃ な い 。 汚 いこ と を して 私 服 を肥やす 政府の人間や企業の重役か ら金目の ものを奪 う、 い わ ゆる義 賊と い う やつだな。 も っとも、 マリ アはそ う 呼ばれるのを嫌がっ て い たが 。 どんなに美化し て も、所詮はドロボウに過ぎな い のだ、と。 その辺の考え方もハンサムだ っ た。 そう 、マリ ア は ハ ンサ ムな 女だ っ た んだ 。 金髪 に緑色の目、大 き な体。 まる で 、 ヨモスの美の女神の化身 だ った な。 え、俺?俺か? 俺は、もともと 、 ある星の 軍 人 だ っ たんだ 。 秘密潜入任務や荒仕事のどち ら もこな し て 何 度も 表彰されたな 。 英 雄とも 呼 ばれ た。 だが、ずっ と 、いつも空しかった。 俺には戦う理由がなかったからだ。 職業 とし て軍 人を選び、それに適性 があった、た だそれだけだ。 だが、マリ ア と出会っ て 俺 は変 わ っ た。 戦う 目的が出来 た んだ 。 マリ アを守り、彼女のやるこ と を 手 伝う 。 彼女の歓びが俺の歓びだ っ た。 こ い つだっ て そ う だ。ナーブは、もともとGCG(銀河中央政府) 直属の研究機関で 、 将 来を嘱望された研究者だ っ た。 専門はロボット ロ ボ テ ィ ク ス 工学 だった な 。 だが、やはり空しかった。 研究は楽しい、 だ が、 その先の、 研 究 す る理由を奴は持 ち 合 わせ て いな か っ た 。 だが、 マ リア と出会っ て 、 こ い つにも生き て 、 研 究 す る理由 ができ たんだ 。

(14)

こい つ自 身 は 盗 み に入 る こ と は でき ない が、 こい つ の 作 っ た マ シ ン がマ リアを助 け て よ く 働いた。 俺た ちは良い トリオだった。 まさに理想 的 。 愚かだ っ たよ。 俺もこ い つも 、 こ のす ばらしい生 活 が 、 ずっと続くと思 い こ ん で い た。 しかし、 黄金 時代 (ゴ ールデン ・ エ イジ ) は 、 た ちま ち過 ぎ去っ て しま った。 それからしばらくし て 、 マ リ ア は 不 幸な出会いを続けて 二 度 す るこ とになる。 どん なに優秀な盗 賊 で も失敗 は する。 問題は 、 その時のプラ ンB (代替案) を どれだけ多く作っ て お ける か、 だ。 だが、い つ も 用意 周到の盗 み が できる わ けじ ゃない 。 状況によっ て は、や む なく見 切 り発車 す る こ ともある。 ある 星の 軍部 が、 恐 ろ しい 生物兵 器 を開発 し た と 聞い て俺た ち はそ れを盗みに入った。 大した も の で なければ、 そ れを敵対する星に売り、 本 当に残酷な 兵 器な ら歴史から末 梢す る た めだ った。 急に入った情報のため、準備には三日しかかけられな か った。 ロクなプ ラ ン Bもな い まま、仕事にかかった わけだ。 案の定、マリ アは軍 に つかまった。 そこ の将軍 と いう や つ が 、 サ デ ィ ス ティ ッ ク な 奴 で 、 捕 ま れ ば 、 ど んな ひ ど い拷問をされるか わ か らな い と い う 噂だった。 俺た ちは、情報を集め、 な ん と かマ リア を助 けだそ う とした。 しかし失敗した。

(15)

万 策 尽 き て 、 ほとん ど マ リ アの ことは諦めた 時 「 あの男」 が現 れた んだ 。 第一回終 わり。 了

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