赤門マネジメント・レビュー 12 巻 2 号 (2013 年 2 月) 169 〔も の づ く り 紀 行 第 七 十 七 回 〕
アフリカの日本型ハイブリッド工場シリーズ
(O)
マツダ・ジンバブエ
公文 溥
法政大学社会学部 E-mail: [email protected]銭 佑錫
中京大学経営学部 E-mail: [email protected]1 はじめに
本稿の目的は、ジンバブエのマツダを対象として、現地の工場管理のシステムを説明す ることである。われわれは、日本の生産システムの海外への移転可能性を課題とする調査 研究をおこなっており、現地の日系工場をその視点から分析するのである。訪問の経過を いうと、現地工場に二度訪問した。一回目は 2010 年 9 月 6 日である。大変丁寧に受け入れ ていただき、インタビューと工場見学を行うことができた。ところが、ジンバブエの経済 状況が悪く工場が稼働していなかった。それで翌年の 9 月 13 日に改めて訪問を依頼し今回 も快く受け入れてもらった。前回同様、インタビューと工場見学を実施した。1 1 インタビューに応じていただいたのは、1 度目の訪問では、社長 (managing director) のマレヤ (Eng Dawson Z Mareya) 氏と製造担当取締役 (manufacturing executive) のカンゴニ (Jeremy Kangoni) 氏、そして営業担当取締役 (sales & marketing executive) のシバンダ (William Sibanda) 氏である。そして 2 度目には、マレヤ氏とカンゴニ氏に対応していただいた。カンゴニ氏は National University of Scientific Technology で IE を学び、卒業後この会社で 14 年働いている。カン ゴニ氏は、インタビューの後、我々のインタビュー項目に文章で答えた報告と会社と現場の作業 組織に関するデータを送っていただいた。こうして二度にわたる訪問と、カンゴニ氏の文書及び 資料提供により、正確な情報を得ることができた。2 WMMI の概要
会社の名称は、WMMI (Willowvale Mazda Motor Industries (Pvt) Ltd.,) である。工場の立 地は、ジンバブエの首都ハラレの近郊にあるウイローベール工業団地にある。工業団地 は、ハラレの中心地から車で 1 時間ほど離れたところにあり、工場がいくつか並んでい た。 次に会社の歴史を説明する。ジンバブエの政治的独立以降の歴史とともに歩んできたこ とがわかり、大変興味深い。この会社は、フォード社が設立したものである。マツダとフ ォード社の関係を前提とすると、マツダがそれを受け継いだのかと想定するが、そうでも ない。1961 年にカナダ・フォード社が設立した。そして 1965 年に、白人政府が一方的に 独立を宣言した。2 工場は政治的理由で一時強制的に閉鎖された。そして 1967 年に、IDC (Industrial Development Corporation) が工場を買収した。3
それ以降、政府によって外貨割り 当てを受けていた外車の委託販売業者 (フランチャイジー) のために多様なモデルを生産 した。トヨタ、BMW、プジョー、シトロエン、ダットサン、スカニア、ルノー、ベッドフ ォード、アルファロメオ、さらにはトラクターなどを委託契約ベースで組み立てた。 1980 年に、ジンバブエは大英帝国から政治的独立を達成した。1986 年に、政府が自動車 産業合理化計画を発表した。垂直統合化計画のもとで、委託販売業者は自動車組立工場に より所有されることになった。このとき会社名が WMMI となり、マツダ・フランチャイジ ーを管理下に置いた。その後生産は順調であった。1990 年代のジンバブエの新車市場規模 は、25,000 台であり、WMMI は 9,000 台を生産した。 1997 年以降、経済情勢が悪化する。その年ムガベ大統領は土地改革を行う。白人所有地 を無償で黒人に引き渡すのである。このため農産物の輸出が激減し、外貨不足から工業生 産も減少する。2000 年には販売不振から、完成品在庫が累積し、WMMI は 9 か月間生産を 停止せざるを得なかった。そして生産は再開するものの、生産規模は以前に比べて激減し た。月 600 台生産していたのが月 140 台生産となり、労働者を解雇し、550 人から 220 人 へ削減した。 その後、史上まれなハイパー・インフレーションが発生し、ジンバブエ経済は大混乱に 2 ジンバブエの正式国名は、ジンバブエ共和国 (Republic of Zimbabwe) であり、かつてはセシル・ ローズに由来してローデシアと称した。ジンバブエの人口は、1,139 万人 (2009)、一人当たり GDP は、200 ドル (2008) であり、最貧国に属する (Appiah & Gates, 2010, pp. 573–579)。
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IDC は、WMMI の親会社の Motec Holdings の株を 75%所有する。政府系の産業開発の会社であろ うと推測する。
陥った。しかし、3 年間続いたハイパー・インフレーションの時期にはむしろ WMMI の売 り上げは悪くなかったという。マツダ車が格好の富の価値保存手段となり、大量に買われ たからである。2009 年 4 月ジンバブエ通貨を廃止し、外貨使用となってからジンバブエ経 済は落ち着いた。4 だが、それは全くゼロからのスタートであった。そのため、WMMI にお いても流動性の問題から部品輸入の決済ができず、2010 年 2 月以降生産は再び停止状態と なる。こうして、我々が最初に訪問した時点 (2010 年 9 月) は、生産再開の直前であっ た。二度目に訪問した 2011 年 9 月現在、日産生産台数は 5 台であり、年間生産予定台数 は、1,057 台である。 現在、WMMI は更なる試練を迎えているという。まずは、中古車の輸入である。主に日 本から輸入される中古車の価格は新車の 30%程度で、ジンバブエ自動車市場における中古 車の規模は新車の 3 倍に達している。2010 年のジンバブエ自動車市場は約 2 万台規模であ ったが、そのうち新車市場の規模は 5 千台にとどまっている。また、南アフリカ政府の輸 出奨励金政策によって南アフリカからグローバルメーカーの新車が輸入されるようにな り、ジンバブエ新車市場における競争はますますその激しさを増しているという。
つぎに、表 O-1 WMMI の工場概要、を見ながら、会社の説明をする。WMMI は、 Motec Holdings (Private) Limited の子会社であり、そこが 58%を所有する。Motec Holdings は、IDC 自動車部門の持株会社であり、ほかにもディーラー、自動車部品輸入業者、など を所有する。IDC が、Motec Holdings の株式 75%を所有し、残りの 25%を日本の伊藤忠商 事が所有する。WMMI の所有者をさらにみると、マツダが 25%、伊藤忠商事が 8%、そし て Worker’s Trust が 9%を所有する。マツダが株式の 4 分の 1 を所有し、製造技術を提供す るのである。伊藤忠商事は、WMMI が生産する車両用の CKD (Completely-knocked-down) 部品の注文をだし、WMMI は製品を販売したら、伊藤忠商事に代金を支払うのである。そ れゆえ、伊藤忠商事は IDC に資本参加しており、日本人を一人派遣している。IDC が、事 実上部品の発注を決定しているので、WMMI の生産もそれに規定される。 工場は、発展途上国にみられるノック・ダウンタイプの工場であり、年間生産能力は 9,880 台である。生産設備としては、スタンピングがなく、溶接、塗装、組立の 3 工程から なる。この他エンジンの最終組立工場がある。生産品目は、すべてマツダ車であり、商用 車の BT-50 と乗用車の Mazda3 である。 4 筆者の手元に現地で入手したハイパー・インフレーション時代の紙幣がある。それには、100 兆ド ル (One Hundred Trillion Dollars, Reserve Bank of Zimbabwe) と金額が記載されている。この紙幣は 世界で発行された最も高い高額紙幣としてギネスブックにも載っているという。この紙幣はもち ろん現在では使用されていない。われわれは、現地で、US ドルと南アフリカ・ランドを使用した。 ユーロも使用できる。
次に三つの工程の設備について説明する。2011 年 9 月の 2 回目の訪問の際、商用車のみ を生産していたので、説明はトラック・ラインについてである。溶接工程の設備は、すべ て手作業であり、上部から溶接器具が下に降りている。これはノック・ダウンタイプの工 場で普通に見かける姿である。商用車の BT-50 用の溶接器具は、マツダが設計し、南アフ リカとジンバブエで製作したものである。Mazda3 用の器具は、マツダが設計し、韓国と南 アフリカで製作した。商用車の部品を固定するジグは、BT-50 のシングル・キャブとダブ ル・キャブの両方の溶接に対応可能である。 塗装工程の設備も簡単なもので、プライマー、ベースコート、そしてクリーンコートの 三つのプロセスからなり、手作業が多い。塗装工程の次は、組立工程である。トラック は、キャブ (車両の上部の運転席) を組み立てるトリム・ラインと、シャシーを組み立て るシャシー・ラインに分かれる。トリム・ラインでは、キャブの部品を取り付ける。車両 の移動方法は、車両を乗せた台車を 2 本の鉄製のラインからなる線路の上でゆっくりとチ ェーンで引っ張る方法である。商用車のシャシー・ラインは、シャシーを組み立てるサ ブ・アッシーとそれをキャブと合体させる組立工程からなる。シャシー・ラインの次は、 調整、シャワーテスト、そして最終評価の工程である。 エンジンとトランスミッションの組立工程は、二つのラインからなる。エンジンライン では、ドレス・アップをギア・ボックスラインではやはり最終の部品組み付けを行う。 ローカル・コンテントは、5%である。バッテリー、ルーフ、カーペット、ドアパネル、 シーツは現地調達が可能という。かつては 20%であったが、現在は、大変少なくなった。 表 O-1 WMMI の工場概要
会社名 Willowvale Mazda Motor Industries (WMMI)
操業開始 1961 年
所有 Motec Holdings; 58%, Mazda; 25%, Itochu Corporation; 8%, Worker’s Trust; 9% 年間生産能力 9,880 台 (日産 40 台) 生産品目 商用車 (Mazda BT-50 シリーズ)、乗用車 (Mazda3) 設備 溶接、塗装、組立、エンジン組立 生産量 1,115 台 (2009 年) ローカル・コンテスト 5% 国内市場シェア 35% 従業員数 204 人 (2010 年)、250 人 (2011 年) 労働組合 あり 出所) インタビュー (2010 年、2011 年)、J. カンゴニ氏 (製造担当取締役) の報告
3 職務区分
我々は、現地調査の際に、現場従業員の技能形成に注意を払う。そのため欧米の影響の ある地域においてはその制度前提となる職務区分を聞く。 まず型どおり、職務区分について聞くと、パターソン・システムを採用しているという のがその答えであった。パターソン・システムは、意思決定を重視して職務のランク付け を行うのが、特徴である。トップ・マネジメントから、現場までを連続的につなげて、意 思決定の重要度から職務の等級を設定する。筆者の経験ではマレーシアや南アフリカなど 英国の旧植民地の工場でよく聞いた職務等級づけのシステムである。英国生まれのシステ ムだが、現場とマネジメントを分けずに一本でつなげるのである。WMMI の職務等級 (job grading) は、トップ経営者から現場労働者までを一本のラインで表記している。まず、バ ンドと称する大括りの職位のランクがある。このバンドに、職位ランクを対応させてい る。 WMMI の管理組織は次の五つの機能部門に分かれている。すなわち製造部、販売部、経 理部、 人事部、 そして COO (Chief Operating Officer’s Office)、以上の 5 部門である。この 5 部門を通して、六つのバンドがある。すなわち上位職から順にいうと、F バンド のトップ経営者、E バンドの取締役、D バンドの課長、C バンドの熟練工 (Skilled)、B バ ンドの半熟練工 (Semi-skilled)、そして A バンドの非熟練工 (Unskilled)、以上の 6 ランク である。 この 6 ランクは、パターソンの提唱する理論モデルと同じである (Paterson, 1972, p. 25)。われわれが、工場のものづくりで重視する職務は、このうち C、B、A の三つであ る。欧州でよく見る、熟練工、半熟練工、非熟練工の三つに対応するランクである。ここ では、工場の管理に直接的に関係する製造部の賃金等級を見ておこう。製造部は次の二つ の課、すなわち生産課と技術サービス課に分かれている。生産課には生産工が所属し、技 術サービス課には、いわゆる熟練工と品質管理担当が所属する。生産課の職務等級はつぎ のようになっている。今度は最下層からみると、A バンドの非熟練工の中は、最下層の A1 から A3 までの 3 の級 (grade) に分かれている。生産工は最下層の A1 および A2 には配置 されておらず、A3 に、溶接、塗装そして組立のオペレターが入る。生産工が最も多く配分 されるのが B バンド (半熟練工) であり、B1 から B5 までの 5 の級に分かれている。C バ ンドには、生産工のフォアマン、スーパーインテンデントが分類される。つぎに技術サー ビス課をみると、fitter や turner などのいわゆる熟練工は C バンドに分類されている。そし
て品質管理担当は B3 から C1 に分類されている。
4 技能形成
次に、職務配置と技能形成についてみておこう。WMMI は、量産型の工場ではなく、日 産 5 台程度の少量生産の工場である。それゆえ、一人あたりの仕事の範囲は広い。さらに 製品の販売市場は国内市場のみなので、国際市場に出すような出荷品質レベルは要求され ない。こうした現場作業の条件を考慮しながら、工場見学とインタビューを行った。作業 配分が固定的か、技能形成は生産、保全、品質管理担当者の分離育成方法か、そして賃金 体系などを聞くのである。我々の関心にしたがってまず、生産工の多能工化に即してみて ゆく。英国生まれの職務評価制度を採用していることから、本来は明確に職務が分かれる システムを採用している。しかし工場の性格が、ノックダウン工場で一人の労働者の仕事 の範囲が広く、厳密な職務固定性ではない。ただしいわゆる熟練工の職務を生産工が部分 的に担当することはなく、品質管理についても基本的に品質管理担当のエンジニアと修理 担当者の仕事となっているようだ。工場が動いていた 2011 年 9 月訪問当時の状況によりな がらより詳しく説明する。 まず溶接工程から説明する。この工程の人員は 6 名であり、グレードの B2 が 4 名、B1 が 1 名、そして A3 が 1 名である。この 6 名の上に、フォアマン (C2 のグレード) が 1 名 である。一人のフォアマンが 6 名を管理するのが溶接職場の作業組織である。さらにその うえに生産のスーパーインテンデントが 1 名配置されるが、これは溶接ばかりでなく塗装 を除く生産職場のすべてを管理しているようだ。六つの職務名称は、A3 が metal finish operator、B1 が spot welder、B2 が、welder、utility spot welder、repairman metal finisher、そして repairman-body shop、以上の四つである。生産 を行っていた 2 度目の訪問時点では、商用車の BT-50 を生産していた。多能工化に関して は、この工場の従業員は勤続年数が長く、平均 12 年になる。そのためか生産規模に応じて 柔軟な職務配分を行っており、すべての作業者が一人で全溶接工程をこなすことが可能で あるという。そうなると、職務給の金額が異なる A3、B1、B2 の三つの職務の 6 名がお り、それぞれ本来の職務でない仕事をしたときには、どの賃金を受け取るのか、職務給と 多能工化の矛盾のところは聞けなかった。 つぎに塗装工程を見る。塗装工程は、塗装のムラ、塗料のタレなど、品質不具合が最も 発 生 し や す い 工 程 で あ る 。 こ の 工 程 の 職 務 は 、 つ ぎ の 五 つ す な わ ち A3 (paint shop-operator) 、 B1 (paint-mixer) 、 お な じ く B1 (touch-up spray) 、 B2 (spray painters) 、 B3
(repairman-spray painter)、そしておなじく B3 (repairman paint-shop) 以上の五つの職務があ る。Repair man は、溶接工程では B2 に分類されていたが、この溶接工程では一級うえの B3 に位置づけられている。
そのうえに、C2 (paint-shop foreman) そして C3 (paint-shop superintendent) が配置され る。その上には、先に見た溶接工程とおなじ production superintendent (C4) が来る。したが って、溶接工程は、上位職位から順に見ると、Superintendent⇒foremen⇒生産工、という作 業組織になる。ここで、溶接作業を担当するのは生産工であり、foreman は、欠勤者がいる ときに作業に入るという。三つの工程、すなわちプライマー⇒ベースコート⇒クリーンコ ート、があり、これは、下塗り、中塗り、上塗りの三つを指す。作業標準書は、マツダか らくるが、それは一般的なものなので、この工場で必要に応じて修正するという。実際、 この工場は手作業が多いので、自動化の進んだ日本から来た作業標準書は、修正の必要が 大きい。 つぎに、組立工程のトリム・ラインについて説明する。トリム・ラインでは、BT-50 に 運転席と荷台を組み付け、運転席の部品を組み付けるのである。この工程の従業員は本来 12 名の作業者と 1 名のフォアマンから構成されるが、2012 年の訪問時点は作業者が 10 名 であった。ライン長は約 65 メートルであり、非常にゆっくりと車両は動いている。タクト タイムは、1 日 5 台の生産で、1台当たり 1.6 時間 (1 時間 36 分) である。
トリム・ラインの職務を確認しておこう。このラインでは、A3 (vehicle assemblers)、B1 (utility assemblers)、B2 (repairman trim line)、B2 (repairman elect. trim line) の四つの職務が ある。そしてこのうえに、C1 (charge hand:foreman) と C4 (production superintendent) が 配 置 さ れ て い る 。 職 務 の 配 分 は 、 エ ン ジ ニ ア (process controller) が 、 フ ォ ア マ ン (foreman) と相談して決定する。フォアマンは現場での仕事の状況やラインバランスにつ いて説明するという。フォアマンは、製造品質の確保と生産効率ターゲットの達成を任さ れている。このようなフォアマンの役割はマツダのアドバイスによるものであるという。 しかしその日の生産計画によって作業量が異なるからであろうか、作業配分はエンジニア が決定している。ノック・ダウンタイプの工場らしく、現場労働者の仕事の範囲は広い。 労働者はひとつのステーションで 23 の部品を扱う。そして一人が三つから五つのステーシ ョンを担当することが可能なので、60~80 の部品を組み付けることができる。しかし、ひ とつひとつの作業は簡単なものであるという。そしてトリム・ラインの最後で quality controller が、品質をチェックする。問題に応じてその対応は異なるが、大きい不良の場合 は隣接する修理場へ移動させる。 次に組立工程のシャシー・ラインを説明する。このラインの従業員は、6 名の現場作業
者と 1 名の現場監督者から構成される。作業は、シャシーの組み立てを行うサブ・アッシ ーとシャシーとキャブを合体させるアセンブリーの二つからなる。訪問当時は、生産量が 少ないため、午前はサブ・アッシーを午後はアセンブリーを行っていた。技能と職位の違 いをユニフォームによって分けており、通常の生産工は青色、(他の職場でも作業が可能 な) 多能工は緑色、訓練中の生産工は赤色、品質管理は白色である。 最後にエンジンとトランスミッションの工場を見ておこう。ここはエンジンとトランス ミッションの最後のドレス・アップの作業を行う。エンジンやトランスミッションを最初 から組み立てているわけではない。エンジンラインは 5 名、ギア・ボックスラインは 2 名 である。ここの現場職務は、B2 (assembler)、B1 (checker) そして B3 (repair man) の三つ である。その上に、C2 (foreman) がいる。説明によると、エンジン工程の現場作業者は、 ガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンの両方の作業ができるということであった。 そしてこの工場には個人別の作業習熟表が掲載されている。円で左側はガソリン・エンジ ン工程を示す緑色、右側はディーゼル・エンジン工程を示すという。そして説明では、全 員がエンジンショップ内のすべての仕事ができるようになっているとのことであるが、シ ートの表記を見ると全員がすべてできるようにはなっていなかった。最近グラフの改定を していないのだという。この技能習熟表は他の工程では見なかったので、後からできたこ の工程独自の掲示なのだが、それが有効に利用されていないようだ。 社内の教育訓練についてみる。教育訓練は、現場労働者を対象に実施する。企画を担当 するのは製造担当取締役 (カンゴニ氏) である。そして実際に訓練をするのは、エンジニ ア (process controller) である。現場監督者が直接指導することもある。人の入れ替えがあ るため、現場の訓練を継続的に実施している。必要に応じて外部講師を呼んで全従業員を 対象にした講座を設けることもあるが、社内教育が主である。
5 賃金
つぎに賃金をみる。賃金は通常、技能形成のシステムと整合的なものである。職務区分 のところで説明したように、保全工 (熟練工) の fitter や turner などは、現場作業者のなか では最上層の C バンドに位置する。そして品質管理担当の、quality control inspector や repair man は、それよりもやや下の B2、B3 そして C1 に分類されている。生産工よりも、 熟練工は上位に、そして品質管理担当はやはり一般生産工より上位の職位に位置づけられ る。ただしこのように保全工と品質担当者が、一般生産工より上位の職務に位置づけられ るのは、欧米システムのもとでは一般的である。それより、一般生産工の中が、単純にひとつではなく、さらに細分化されていることが興味深い。 賃金は、バンド (A、B、C) 別、グレード (B1、B2 など) 別に決まるのだが、実はグレ ードの中がさらに 5 段階に分かれており、それをノッチ (notch) と呼んだ。つまり B1 や B2 のグレードの中が 5 段階に分かれるのである。五つのノッチは、最下級がノッチ 1 であ り、最上級がノッチ 5 である。ノッチ 1 は、その下のグレードのノッチ 5 と重なる。それ ゆえ、例えば、B2 グレードのノッチ 1 は B1 グレードのノッチ 5 と同じ賃金になる。こ の、同じグレードでも内部で賃金が異なるのはジンバブエでは一般的であるという。そこ で、グレード内の昇給の基準は何か、能力なのか勤続年数なのか、興味あるところであ る。説明によると、グレードは仕事の種類で決まるが、ノッチは、勤続年数、パフォーマ ンス、そして多能工化の度合いで決まるという。具体的には、ノッチ 1 から 3 までは時間 がたつとほぼ自動的に昇給する。これは勤続年数できまる。しかしノッチ 3 から 4 へ、さ らに 4 から 5 への昇給は自動的ではない。パフォーマンスと多能工化の度合いが作用す る。パフォーマンスは、職場グループの成果のことであり、年 4 回、生産の課長が評価す る。いわば職場集団の成果である。個人の査定については、職場の「雰囲気や環境が個人 評価をできる段階ではない。」というのが、経営者の答えである。査定について、二度の 訪問で同じことを聞いたが、答えは同じであり、査定はない。それでも、多能工化の度合 いが、評価基準に入っているので、技能のレベルは賃金に反映されると言える。日本風に 言えば、勤務態度などは評価基準にないのである。というわけで、賃金は仕事で決まる職 務給だが、グレード内にノッチと称する段階があり、いわば範囲職務給である。その範囲 は勤続年数、集団の成果、そして多能工化の度合いで決まるという微妙なものであった。 この場合の多能工化は、職場内の複数の職務をこなすことを言う。 賃金水準は、トリム・ラインの場合、A1 のノッチ 1 は、月にして 250 US ドルであり、 おなじくアーチザン (artisan) は、600 US ドルである。アーチザンは、現場の熟練工をさ す。それゆえ現場労働者のうち、最下層の A1 と C の熟練工との賃金格差は、約 3 倍とな る。この間に現場で多数を占める B バンドの労働者の賃金が散らばるのである。われわれ の調査によれば、サブサハラ・アフリカと言われる地域は、総じて労働賃金が高い。生活 は貧困なのだが、労働賃金は高いのである。ジンバブエは、最貧国に属する。それでも A1 が 250 US ドル、そして熟練工が 600 US ドルの賃金水準は、アジアと比較するとかなり高 い。 昇進についてみると、空席がでたときに、フォアマンが推薦し、労働者がそれを受けて 応募する。そして人事部門が応募者にインタビューし決定する。基本的に内部昇進の方針 であり、昇進に天井はないという。
職長や組長に相当するフォアマン (foreman) についてみておく。各工程に当然フォアマ ンが 1 名配置されている。例えば、トリム・ラインは 12 名の作業者に 1 名というようにで ある。フォアマンの職務は、マツダのアドバイスで、製品品質と生産効率の確保に焦点を おくようにしたとのことである。そして欠勤者がいれば、フォアマンも作業に入る。しか し職務配分は、エンジニア (process controller) が行い、それにフォアマンはアドバイスを する。そして、賃金に査定は作用しないので、フォアマンのそれ以上積極的な仕事は説明 からは見えてこなかった。
6 メンテナンスと品質管理
ここでメンテナンスと品質管理について説明する。保全担当者は合計 24 名である。保全 の説明に、次の四つのカテゴリーを上げた。すなわち、エンジニア、アーチザン (熟練 工)、アシスタント、そしてアメニティである。まずエンジニアは、大学卒で保全の計画を 担当する。現在 2 名いるが、1 名はマネジャーであり、1 名はトレニーと答えたので、その 後継者であろう。 このうち我々が、現場の保全工としてその役割を重視するのは、アーチザンとそのアシ スタントである。アーチザンは、南部アフリカでよく聞く職務名称で、熟練工である。イ ン タ ビ ュ ー で は 、 ア ー チ ザ ン と い う 名 称 と と も に 熟 練 工 と も 呼 ん だ 。 現 在 、 機 械 工 (mechanical) として 3 名、電気工 (electrical) として 2 名いる。このうち、機械工の 1 名は 社内養成で、次に説明するアシスタントから昇進した。そして他の 4 名は、アーチザンと して外部から採用した。アーチザンは、ジンバブエ国内の会社で訓練を受けて、機械工や 電気工の資格を取得することでなる職務である。欧州の熟練工に相当する職務である。熟 練工の資格には 4 段階あり、クラス 4 が最下層で、クラス 1 が最上層である。クラス 1 の アーチザンは上述した職務等級では C バンドに属する。この最上層の熟練工をジャーニー マンと呼んだ。ジャーニーマンになるためには、カレッジを卒業して外部機関で理論と実 技の試験を受けて合格しなければならない。夜間や週末を利用したカレッジがあるので、 すべての人にそのチャンスは開かれているという。会社では、カレッジに行く費用を貸し 出しており、一定の試験に合格したら返済を免除するという。 アシスタント (workshop assistant) は、工場の現場労働者から特別の社内訓練を受けてな ることができる社内資格である。上述した職務等級では B バンドに位置づけられており、 工場のスタートアップ、塩酸工場、溶接工場、配管工として登録されている。この職務 は、保全の仕事だけを行い、組み立て作業は担当しない。アメニティ (amenity guys) は、清掃である。資格はなく、生産作業も行わない。 現場労働者と保全との作業の分担関係については、明確に分離している。現場労働者が 保全作業に関与することを期待しておらず、今後もその計画はないという。アメリカや欧 州でよく聞く、分離方式である。それでも現場労働者の仕事として清掃と注油をあげた。 注油は、現場労働者が機械の保全に関与するさいの初歩作業である。 品質管理について説明する。当然のことながら、品質管理は専門の担当者が配置されて いる。Quality Controller (B4 グレード) が、各工程に配置されており、かれが品質をチェッ クし、サインしたのちに次の工程に車両が進む。この quality controller のサインがないと次 の工程には進めない。工場全体で 13 名おり、主要な工程に 配置されている。すなわち、 製造工程では小計 9 名であり、溶接工程に 2 名 (body shop 1, metal finish 1)、塗装工程に 2 名、トリムとシャシーのそれぞれに 1 名、最終検査工程で 3 名となっている。そして部品 受入 (ローカル・コンテント) に 2 名、化学等に 2 名で、合計 13 名である。 われわれの関心は、生産工が如何に品質管理に関与しているかである。品質管理担当者 とは別に、実際に生産作業を行う生産工のそれへの関与である。Quality controller によって 不良が発見された際には、生産管理マネジャーの判断で生産を停止する。そして、フォア マンと労働者が集まって議論をする。その際、フォアマンが現場労働者に対して作業指示 を行う。まず簡単なものはライン上で手直しをする。ライン上の手直しは、repair man を呼 んで直し、作業が済むと彼は自分の位置に戻る。重度の不良は、修理スペースに移して、 repair man が手直しする。生産工も不良を指摘することができるが、生産作業そのものに興 味があるという説明であった。したがって、生産工の品質不具合への関与は少なく、品質 不具合の指摘は quality controller (B4 グレード) の仕事であり、修理はライン上であれオフ ラインであれ、repair man (B2 と B3 グレード) の仕事である。 生産管理は、何しろ 1 日 5 台の生産ペースなので、タクトタイムによる管理とは言えな い。ラインは大変ゆっくりとチェーンで動いており、日々の厳密な生産管理は必要のない スピードである。しかし、月単位の生産管理はしっかりなされており、日々の生産量を調 整していた。部品は輸入部品が主であり、その管理も整理されていた。各工程に配給され る部品を、トローリーにつめて、ラインに運ぶのである。トローリーには、部品名、ステ ーション名を記載したラベルを添付している。これは、マツダの指導で作られたものであ るとのことである。
7 労使関係と親子会社関係
つぎに労使関係について説明する。QC サークル活動のような小集団活動は実施していな い。1991 年に 10 週間おこなったが、やめた。従業員がお金を要求することが問題であっ たと言う。手当を払って実施するという選択肢もあるが、それについては聞けなかった。 採用は、注意深い選別をおこなうという。正社員として雇用すると解雇が困難なことが その理由である。労働組合は、組織されており、もちろん産業別労働組合である。組織対 象は、A、B、C の 3 グレードである。賃金交渉は労働組合とすることはなく、産業の経営 代表と労働組合代表が行うという。そこが賃金のグレードとグレード別の最低賃金を決め る。それをうけて、企業別の労使が、どのグレードに特定の職務を割り当てるか、いくら 支払うかを決めると言う。経営者は、企業内の交渉のことを、ワークス・カウンシルと呼 んだ。現在の労使関係は比較的良好であるが、2000 年の生産縮小による大量解雇の際に は、2 日間工場が占拠されるなど大規模な争議があったという。 最後にマツダとの関係をみておく。1995・96 年にはマツダの人がラインマネジャーに入 ったことがある。そして 1998 年から 2000 年の間、2 名が派遣されてきた。現地人経営者 は、マツダの人は技術移転と日本との情報交換の役割をしたという。現在は、マツダから は派遣されておらず、IDC に、伊藤忠商事から 1 名派遣されているが、工場管理にはかか わっていない。 工場見学では、作業標準がマツダから来ること、フォアマンの仕事に品質と効率の確保 を入れたこと、部品管理の方法、エンジントランスミッションの星取表、などで日本らし さを感じた。マツダが資本参加してから、エンジンとトランスミッションの組み立てをす るようになり、そこでは技能習熟状況を示すいわゆる星取表を見たが、本文で説明したよ うに、それが有効に活用されている風ではなかった。マツダからこの工場への人的派遣 は、必要に応じてくるということである。昨年 (2010 年) は 2 回 (2 名と 1 名) 来たとい う。生産の再開にあたって、必要なアドバイスをするためであろう。現場のマネジャーク ラスの人が、改善の状況などを見てアドバイスをすると言う。ルーチンの監査の時は 1 週 間程度滞在し、モデルチェンジの時はもう少し長く滞在すると言う。8 おわりに
WMMI の工場管理のシステムは、歴史的経過からみてフォードによる大量生産方式と欧州型の職務編成 (パターソンシステム) で初期の形ができあがったと言えるであろう。そ して日本のマツダの技術移転により、日本の管理システム (多能工、無駄のない品質重視 の生産管理など) が追加されたものと理解できる。 生産工の多能工化は、現場のジョブ・ローテーションに関しては実施していると言え る。そもそも 1 日 5 台の生産なので、仕事の範囲が広く、かつ従業員の勤続年数が長いの で、職場の仕事はほとんどできる。しかし、日常作業以外の職場の問題解決への関与は極 めて弱い。保全への関与はない。品質管理についても問題が発生した際には、労働者もデ ィスカッションするという説明はあるが、修理は repair man が行っている。総じて、現場 の問題解決は、エンジニアの仕事で、生産工が積極的に参加するということではなさそう だ。賃金は、典型的な職務給であり、個人別の査定はない。それでもグレード内にノッチ と呼ぶ 5 段階の差があり、それには多能工化 (ジョブ・ローテーション) の度合いが作用 する。それは、ジンバブエでは一般的であるというから、単純な職務給がジンバブエにお いて支配的であった訳ではなさそうだ。欧米のシステムが移転されて賃金は職務給になっ たが、ジンバブエ本来の影響か、職能給的な運用が行われているのである。 工場管理において、現場労働者の発言は、あまり強くなさそうだ。作業配分、保全そし て品質管理においてエンジニアの主導力が強い。それでも現場のフォアマンは、品質不具 合が発生したときには、現場作業者をあつめて作業指示を行っている。 また正社員の勤続年数は長く、社内教育を通して従業員の技能を高めている。マツダの 技術指導が、どこまで工場管理に生きているのか必ずしも明確ではなかったが、技能形成 における星取表や品質重視、部品管理などでその影響を確認できた。そして正社員の長期 雇用と社内における技能教育・技能形成などは後発工業国ジンバブエの事情を反映するも のと推測されるが、それが結果的に、日本のシステムと整合的である。 したがって、マツダは、人を派遣していないのであるが、その影響は生産工の多能工化 (ジョブ・ローテーション、星取表)、フォアマンの職務 (品質、効率重視)、部品管理等に 直接的に認められる。賃金の職務給や個人別の査定ができないことなどは、欧州型である が、ジンバブエ特有の事情も確認できた。同一グレード内の技能を反映する賃金の昇給そ して長期雇用や社内の技能教育などであり、それらは日本と共通する側面が認められる。 参考文献
Appiah, K. A., & H. L. Gates Jr., (Eds.). (2010). Encyclopedia of Africa: Vol. 2. New York, NY: Oxford University Press.
Kaplinsky, R., with Posthuma, A. (1994). Easternization: The spread of Japanese management techniques to developing countries. Oxon, UK: Frank Cass.