論 文 題 目 :ナノメータ空気浮上磁気ヘッドスライダの研究
著 者 : 竹内芳徳 研究科,専攻名 : 工学研究科 機械システム工学専攻 学位記番号 : 工課第2号 博士論文授与年月日:2005年3月23日 【論文の要旨】 コンピュータシステムのキーコンポーネントである磁気ディスク装置の性能は、近年飛 躍的向上した。特に面記録密度は、世界初の磁気ディスク装置が1957 年に開発されて以来、 約半世紀の間に約 500 万倍に増加し、それを実現するために磁気ヘッドスライダの浮上量 は1000 分の 1 以下に減少している。初期の静圧浮上型スライダから、現在の負圧利用型動 圧スライダに至るまでさまざまな方式の革新がうまれ、浮上量が低減され現在に至ってい る。今後さらなる記録密度の向上要求に対して浮上量はさらに低減が求められ、10nm 以下の領域に突入していくと予想される。磁気記録において、浮上量は主要パラメータの 一つである。スライダが不安定浮上すると、ディスクとヘッドの衝突にいたるおそれがあ り、ディスクに重大なダメージを与え、記録の信頼性が損なわれる。磁気ディスク装置の 性能と信頼性を確保するには、磁気ヘッドスライダの設計・開発に、精度良く浮上特性を 解析する解析法の確立と、浮上量を精度良く測定し管理する測定法の両立が必須である。 さらに、正しい設計指針に基づいてスライダを設計することがより重要である。 本研究はナノメータオーダ浮上磁気ヘッドスライダの基本設計指針を確立することを目 的とする。まずはじめに、浮上量測定装置の開発を行い、本測定機を使って従来の浮上理 論に基づく理論計算の妥当性を実験的に検証する。ついで、検証した解析法を使って、磁 気ヘッドスライダの浮上特性を明らかにし、実験的に確かめる。さらに、それらの知見を 基に、実際の磁気ディスク装置用ナノメータ空気浮上磁気ヘッドスライダの基本設計指針 を提案しようとするものである。 第Ⅰ編では浮上測定機の開発と、それを用いて解析法の精度検証を実験的に行なった。 第1章では、光干渉法を測定原理とする新規なスライダ浮上測定器を研究開発した。白 色光光源と、モノクロメータを用い、任意の単色光干渉縞を無残像TV カメラで電気信号化 し、画像処理装置、計算機を用い、干渉縞画像を処理する画像走査方式を採用した。浮上 測定範囲は100nm~2μm、測定精度は 5nm を達成した。この測定機を用いて予備的検証 実験を行ない、浮上特性予測理論の精度及び適用限界を検証できることを示した。第2章 では、第 1 章で開発した測定装置を用いて、大気圧における浮上実験を行なった。さらに スライダを減圧状態で測定する装置を付加し、減圧状態における空気の平均自由行程が浮 上特性に及ぼす影響について実験的に検討した。これらの結果、従来の浮上理論に基づく 理論計算と比較し、その限界と妥当性を実験的に検証した。一次すべり流れ理論、二次す べり流れ理論及び、線形化ボルツマン法のうち、線形化ボルツマン法が高精度な解析法で あり、浮上量10nm において実験と理論計算値の差は5%以下であることを確かめた。第Ⅱ編ではナノメータ浮上をめざして、低浮上スライダにおける種々の浮上特性および 特異な現象を、理論及び実験から明らかにし、低浮上スライダ設計における基本指針を得 ることを目的とした。 第3章では、磁気ディスク装置を小型化するために用いられる、揺動型アクチュエータ に固有な特性である、磁気ヘッドスライダ浮上量のヨー角特性を明らかにした。種々のス ライダ形状の数値実験を行ってヨー角に対し、浮上量の低下が少ない形状を明らかにした。 この研究によって、対ヨー角スライダの基本スライダ形状のアイデアを2件発明した。第4 章では、低浮上量化にともなって問題となる、磁気ヘッドスライダの動的な特性に着目し、 浮上安定性の判別条件を提案し、その安定判別を行い、理論値と実験結果が一致すること を明らかにし、安定判別法の妥当性をたしかめた。さらにその結果を基に、低浮上量化の ためにはスライダ形状を小形にすることが必須である、という設計指針を与えた。第5章 では、CDR 記録方式に適した低浮上特性が期待できる、負圧スライダの浮上特性解析の結 果、安定な低浮上モードと不安定な高浮上モードの2つの浮上モードがあることを明らか にした。さらに、2つの浮上モードを実験的に確認した。浮上量がディスク速度に影響さ れずに低浮上を保持するためには常に、低浮上モードが卓越したスライダ形状が必要であ るという設計指針を与えた。 本編で明らかにした低浮上スライダ設計の基本方針をまとめると 1)低浮上における安定性に対応してスライダを小型化する。 2)小型磁気ディスク装置に適した揺動アクチュエータ用対ヨー角スライダとして イ)マルチパッド方式、ロ)サイドステップ形状を採用する。 3)広いディスク速度において低浮上するには負圧スライダが望ましく、それのために 生じる不安定な高浮上モードを防ぎ、低浮上モードが卓越するスライダ形状とする。 第Ⅲ編では上記の知見および設計指針を基に、ナノメータオーダ浮上スライダを研究開 発し、実機に適用した。 第6章では、磁気ディスク装置用の 90nm浮上スライダのプロト機を開発し、その浮上 性能を確認した。このスライダ形状は従来のテーパフラットスライダのスライダ形状とは 全く違う X レール方式と称する負圧スライダ形状とした。本スライダは第Ⅱ編におけるス ライダ設計指針に基づいて、スライダ長さを小型化した。次にマルチパッド形状の変形で あるX レール3レール方式の形状とし、低浮上モードが卓越する負圧スライダ形状を考案 した。これを更に改良し、3.5 インチ小型磁気ディスク装置に組み込まれ、実用化している。 より低浮上をめざして、本研究の設計指針を徹底的に検討し、設計に適用した3パッド方 式15nm 浮上スライダをさらに開発した。本スライダは一部改良の上、2.5 インチおよび 1 インチ小型磁気ディスク装置に組み込まれ、実用に供されている。 これらスライダの実機における安定した実用例が示すように、本研究で提案した基本設 計指針の妥当性が証明されたといえる。