受付日:2020 年 7 月 1 日 受理日:2020 年 11 月 1 日
所 属 1)厚生労働省 関東信越厚生局 2)武庫川女子大学 看護学部 , 武庫川女子大学大学院 看護学研究科 連絡先 *E-mail:[email protected]
-報
告-中堅看護師のキャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験と支援
Experience and support that influence the formation of mid-level nurses’ career vision
宮地由紀子
1)・久米弥寿子
2) 要 旨 [目的]中堅看護師のキャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験と支援を明らかにする。 [方法] キャリアビジョンが明確になっている看護師経験年数が5 ~ 10 年で管理職ではない病院勤務 の中堅看護師8 名に対して、自身のキャリアビジョン形成に影響した経験と支援について半構 成的面接を実施し、内容分析法を用いて分析した。 [結果] キャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験は、【部署異動の経験】【日々の看護実践や看護ケ アを意識した感情体験】【ロールモデルとの出会い】等の5 カテゴリーが抽出された。キャリ アビジョン形成に影響を及ぼした支援は、【同僚からの内省支援】【上司からの内省支援】【上 司からの精神的支援】等の6 カテゴリーが抽出された。 [考察] 部署異動や日々の看護実践から得た経験、同僚や上司による内省支援等が中堅看護師のキャリ アビジョン形成に影響し、看護管理者は中堅看護師に意図的に関わることが重要であると示唆 された。 キーワード:中堅看護師、キャリアビジョン形成、経験、支援 Ⅰ.はじめに 日本看護協会による看護者の倫理綱領の条文 の8 番目に「看護者は、常に、個人の責任とし て継続学習による能力の維持・開発に努める。」 と明示され(日本看護協会 , 2003)、新人看護 職員ガイドライン(厚生労働省 , 2009)や継続 教育の基準ver.2(日本看護協会 , 2012)等によ り看護師の継続教育が推進されている。しかし、 その継続教育の対象は概ね新人から中堅前まで の看護師であり、中堅看護師以降は自己研鑽に 委ねられていることが多い。 中堅看護師は看護実践経験が多く、看護職組 織の中核であり、臨床現場の看護実践における 中心的役割を担うだけではなく、病棟全体の運 営参画や後輩看護師に対する指導的役割等が期 待される年代である(下川 , 片山 , 2015)。反 面、日々の過密化した業務に追われてマンネリ 化し(関 , 2015)、看護師としてのキャリアビジョ ンに悩む時期でもある。先行文献では看護師臨 床経験5 ~ 9 年の中堅看護師のキャリアビジョ ンを、看護管理者、特定の看護実践分野のスペ シャリスト、看護実践分野を特定せずに幅広く 看護全般に渡る知識・技術を持つジェネラリス ト(以下ジェネラリスト)といった方向性が明 確になっている者は34.4%であり、キャリアビ ジョンが定まっていないか、考えていない者が 65.6%という報告がある(津本 , 長田 , 樽井 , 小野田 , 内田 , 2008)。中堅看護師の多くは日々 の繁忙さによる精神的ストレスや慣れによる鈍 感さ等から、実践の経験を看護師としてのキャ リアビジョンを考える機会にできていない(関 , 2015)。また、中堅看護師の能力開発に関する 看護管理者の取り組み(長谷部 , 升田 , 2017; 星野 , 栗田 , 西田 , 2016; 佐野 , 平井 , 山口 , 2006; 下川 , 片山 , 2015)や、看護管理者が 行う中堅看護師のキャリア発達支援(星野ら , 2016 ; 里光 , 今野 , 須釜 , 市橋 , 佐藤 , 鈴木 , 古橋 , 2008; 竹生 , 土屋 , 2008)、看護管理者のキャリア発達の構造について(グレッグ , 池邉 , 池西 , 林 , 平山 , 2003; 水野,三上 , 2000)述 べている。しかし、中堅看護師のキャリアビジョ ン形成に焦点を当て、経験と支援を関連づけた 研究はされていない。看護師としてのキャリア 発達は、職業継続や職業能力の向上、自己実現 や生きがいに繋がり(グレッグら , 2003; 西田 , 星野 , 栗田 , 2016)、キャリアビジョンを有す ることは看護師としてのキャリア継続や充実に 重要であると考える。 勝原(2007)はキャリアの考え方は、キャリ アを歩む中でどのような過程があったかに注目 する必要性を述べている。また、福井(2013)は、 臨床看護師の成長において、看護師としての経 験の意味を考えることが重要であると指摘して いる。以上のことから、中堅看護師のキャリア ビジョン形成における経験という観点では、看 護師あるいは生活者として遭遇した出来事を内 省することで自身にとっての意味を見出し、次 へ生かす過程が重要であると考える。また、松 尾(2006)は、経験の意味を考える過程を促進 させる要因に上司や同僚など他者からの影響や その時期があると述べている。従って、中堅看 護師のキャリアビジョン形成において、本人が 状況や出来事をどう意味づけて認識したのかも 含む経験とその経験に係る支援についてそれぞ れ明らかにすることは、中堅看護師のキャリア ビジョン形成に対する看護管理者の支援を具体 的に検討していくために意義があると考える。 さらに、キャリアビジョン形成に影響を及ぼし た経験と支援は、各看護師の職場環境や生活背 景など個別性が関係すると考え、質的記述的に 明らかにすることとした。 Ⅱ.目的 病院に勤務する中堅看護師のうち、すでにキャ リアビジョンが明確になっている者に対して半 構成的面接を行い、キャリアビジョン形成に影 響を及ぼした経験と支援の内容について質的記 述的に明らかにすることを目的とした。 Ⅲ.方法 1.用語の定義 本研究における用語の定義を以下に示す。 1) 中堅看護師:看護師経験年数が 5 ~ 10 年の 管理職でない看護師を指す。なお、中堅看 護師の特性等に関する文献検討(小山田 , 2009)では、看護師経験年数の下限を 5 年 以上としている場合や役職についていない者 という設定が多いが、経験年数の上限は一定 ではなかったと報告していること、また、A 病院では中堅看護師としての定義を概ね看護 師経験5 〜 10 年としていることを参考に本 研究における中堅看護師の定義をした。 2) キャリア:看護師である個人の職業上の立場 や役割のことで、例えば、組織内での昇進や 昇格、資格や職業経歴を含むものを意味する。 3) キャリアビジョン:生活者及び看護師として の諸経験を基にして形成されたもので、10 年程度先までの看護師としての職業上の立場 や役割に関する具体的な将来像のことを指 す。複数のキャリアビジョンを有する場合も ある。 4) キャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験: 看護師である個人の職業上の立場や役割に関 する具体的な将来像を持つことに影響したと 本人が認識したもので、生活者及び看護師と して、身体を通して直接的に実施したことや 把握したものと映像や言語等を通して間接的 に把握した出来事や状況であり、その把握さ れた内容について各自が意味づけた内容も含 むものとする。 5) キャリアビジョン形成に影響を及ぼした支援: 10 年程度先までの看護師としての職業上の 立場や役割に関する具体的な将来像に関し て、生活者及び看護師として経験をする中で のキャリアビジョン形成において他者から受 けたと本人が認識した支援を意味し、その支 援の前提として、中原(2010)の著書を参 考に業務支援、内省支援、精神支援の3 つの 内容を含むものとする。 (1) 業務支援は、仕事の相談にのってくれる、 アドバイスをくれる、自分にはない専門的 知識・スキルを提供してくれる、勤務調整等、 業務に関連する支援のことを指す。 (2) 内省支援は、自分自身を振り返る機会を与 えてくれる、自分にない新たな視点を与え てくれる等、振り返りを助け、物事の考え 方や捉え方の支援のことを意味する。 (3) 精神支援は、仕事の息抜きになる、こころ の支えになってくれる等の気持ちの支援の ことと定義する。また、本研究では生活者
である中堅看護師を対象としていることか ら家族や友人からの精神的支援も含める。 2.研究デザイン 半構成的面接法を用いた質的記述的研究を 行った。 3.対象 便宜的抽出法により、病床数約600 床の一般 病院であるA 病院に依頼し、中堅看護師、つまり、 看護師経験年数が5 ~ 10 年の管理職でない看 護師のうち、研究協力の承諾を得られた者8 名 を対象とした。なお、本研究では近年の男性看 護師の増加を加味し、今後の男性看護師へのキャ リア支援も重要になると考え、男女を問わずに 募集を行った。 4.調査方法 研究対象者に対してプライバシーが保護でき るA 病院内の別館研修棟内の個室にて、研究対 象者1 名に対し 1 回 30 分程度の半構成的面接 を行った。面接内容は許可を得てIC レコーダー に録音した。インタビューガイドの主な内容は、 1)研究対象者の 10 年ぐらい先までの看護師と しての具体的な将来像(キャリアビジョン)、2) キャリアビジョンに影響したと思う経験や出来 事、3)キャリアビジョンに影響を及ぼした支援、 によって構成した。研究対象者の基本的属性は、 研究対象者の性別、年齢、教育歴、看護職以外 の就業の有無、キャリアに関する教育を受けた 経験等について、インタビュー前にフェイスシー トに自記してもらった。 5.分析方法 インタビュー内容は対象者に承諾を得て録音 し、録音データから逐語録を作成した。 本研究では、逐語録より文脈に沿ってデータ を区切り、意味内容を損なわないよう要約し、 キャリアビジョンに影響を及ぼした経験と支援 に関する文章の抽出を行い、有馬(2007)を参 考に内容分析法にてコード化し、サブカテゴリー 化、カテゴリー化を進めた。初期段階では、で きるだけ研究対象者の言葉を用いて本質的な意 味を表すよう表現してコード化し、意味内容に 基づき抽象化し、サブカテゴリー及びカテゴリー 化した。なお、データ分析の信用性については、 看護師のキャリア形成に関して臨床経験の中で 現実的状況を理解できると共に本研究に関して 第三者として客観的に信憑性を判断できる能力 を有する臨床経験が豊富である看護管理者2 名 及び既にキャリアビジョン形成している大学院 生の認定看護師2 名(感染管理、皮膚・排泄) に確認し、さらに研究指導者のスーパーバイズ を受けた。 6.倫理的配慮 本研究は武庫川女子大学研究倫理委員会(承 認番号No.17-92)の承認を得て実施した。研究 対象施設では、前述研究倫理委員会の承認を以っ て研究実施の承認を得た。 研究協力者には、研究の趣旨・目的・方法の 説明と共に、プライバシー保護や匿名化、また 研究参加は研究対象者の自由意思で、参加の可 否に関わらず不利益を被らないこと等を書面と 口頭で説明し同意を得た。 Ⅳ.結果 1.研究対象者の基本的属性(表 1) 研究対象者8 名の背景は、男性 2 名、女性 6 名で平均年齢32.9 ± 6.9 歳、看護基礎教育は看 護師養成課程卒6 名、看護大学卒 2 名であった。 また、キャリアに関する教育を受けた経験あり が3 名で、その機会は就業後の院内研修であっ た。現在の勤務場所はIntensive Care Unit が3 名、 病棟が3 名(うち産科病棟が 1 名)、手術室が 1 名、 外来が1 名であった。インタビュー時間は 22.3 分から39.0 分で、平均 29.5 分であった。 2.キャリアビジョンの内容 研究対象者8 名のキャリアビジョンの内容は、 ジェネラリストが1 名、看護師長等の管理職が 3 名、認定看護師が 2 名、関連領域の資格を活 かした看護実践者が2 名であった。 3. キャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験 (表2) 以下の結果では、コードを< >、サブカテ ゴリーを≪ ≫、カテゴリーを【 】で示す。 データ分析の結果、キャリアビジョン形成に 影響を及ぼした経験として、40 コードからなる 14 サブカテゴリーと 5 カテゴリーが抽出され、 5 カテゴリーは、【部署異動の経験】【日々の看 護実践や看護ケアを意識した感情体験】【ロール モデルとの出会い】【研修と役割拡大の機会】【学 生時代の実習経験】であった。 1)【部署異動の経験】 研究対象者8 名のうち 5 名がキャリアビジョ ン形成に影響を及ぼした経験として部署異動を あげ、そのうち、本人の希望による部署異動は
表1 研究対象者の基本的属性 一般 看護基礎教育 有無 教育の機会 1 女性 20代後半 5 高校 看護師養成課程3年 なし あり あり キャリアアンカーに関する院内研修 2 女性 20代後半 5 高校 看護師養成課程3年 なし あり あり キャリアに関する院内研修 3 男性 30代後半 9 大学 看護師養成課程3年 なし あり なし ― 4 男性 40代前半 9 大学 看護師養成課程3年 あり あり なし ― 5 女性 30代前半 9 高校 看護師養成課程3年 なし なし なし注1) ― 6 女性 20代後半 8 高校 看護大学 なし あり あり 管理者選考研修 7 女性 40代前半 9 大学 看護師養成課程3年 あり あり なし ― 8 女性 30代前半 7 高校 看護大学 あり あり なし注1) ― 注1)キャリアに関する教育を受けた経験:看護基礎教育以降での経験のみを意味しているため中学生での職場体験等は含めない 部署異動 の経験 キャリアに関する教育を受けた経験注1) ケース 性別 年齢 経験年数看護職 教育 看護職以前 の就業の 有無 表 1 研究対象者の基本的属性 表2 キャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験 カテゴリー サブカテゴリー コード ICUへの異動で集中治療を経験し外科病棟で幅広く見ることができるジェネラリストになりたいと思った キャリアビジョンを考えるきっかけは異動で環境が変わったことが一番大きく自分で考え出した 集中治療系を勉強したいと思って異動したが、外科病棟の術前からターミナルまで幅広く長期的に患者に 関われる病棟看護に魅力を感じた 婦人科系の病棟から産科病棟に異動し女性のがん看護をしたいと再確認した 異動前の診療科の看護の楽しさを実感しそれに関連した資格を取ろうと思った 病棟再編成で異動するしかなく自分も変わるしかないと思った 異動先の医療に関連した資格を取ろうと思った 私の指導で患者が新しい技術ができて自信を持ってもらえた 症状改善の時期を伝えたことで、つらい時期を乗り越えられたと患者に言ってもらえた 集団指導で患者や家族と病室とは違った会話ができて楽しさを感じた 医師が検査について画像を見せながら教えてくれて、知識が増えることがおもしろくなっていた タイミングよくサポートすることで検査時間が短縮でき看護師の役割の大きさを感じた 患者と家族に互いの感謝の気持ちを伝達することで嬉しそうにされる表情を見て看護の役割を認識した もっと知識があれば、患者やスタッフに効果的に対応できたのではというもどかしさを感じた 後輩が看護について悩んでいるのに「大変ね」としか言えずつらかった ターミナル期の患者にうまく関われなかった 実践したい看護との現実とのギャップ 病院では、ひとりの患者に時間をかけて関われない現状に疲弊し、将来は地域で個々の患者や家族に関わりたい 先輩は患者の都合に合わせることを教えてくれた 先輩のようにお手本になるような存在になりたい 認定看護師の知識の豊富さや患者との関わりのうまさを実感した 一番悩んでいた時に認定看護師が特別に見えた 副看護師長は患者のことを一番に考えているところが尊敬できた 副看護師長のようにスタッフのために働ける管理職になりたい 誰にでも同じような態度でいつも接し、精神的サポートをしている副看護師長みたいになりたい モデルとして頑張っている副看護師長を見て自分も目指したいという気持ちになった 管理職を目指したのは、看護師長の影響もある 看護師長が患者のことを一番に考えているところが尊敬できた 看護師長の管理者としての病棟運営に魅力を感じた 看護師長のようにスタッフ個々に応じた指導ができるようになりたい 身近に管理経験のある男性管理職の存在によって自分の目指すビジョンが明確になった 男性の上司によって管理職のイメージ化につながった 上司に男性看護師がいることで男性看護師は相談しやすいと感じた ラダー修了が管理職を目指すきっかけで区切りとなった ラダーを修了したことで今後の自分の看護師としての将来について考えるようになった 5年でラダーが終ることから次を考えないといけない時期であった 研修受講により知識不足を実感し認定看護師を目指した 研究活動に関係する研修受講での刺激による資格取得への意欲がわいた 新たな役割の付与 チームリーダーを任されたときに管理的な視点の必要性を感じた その人らしさを大切にする地域実習の楽しさを感じ、訪問看護師への将来的な希望を持った 家族看護とその人の生活を支えることができる地域看護に将来的な希望を持った 部署異動の 経験 異動前の看護の楽しさ・魅力の再発見 異動先での看護との出会い 日々の看護実践 や看護ケアを意識 した感情体験 行った看護に対する肯定的な感情 十分にできなかった後悔 ロールモデル との出会い お手本となる先輩看護師の存在 認定看護師の存在 副看護師長の存在 看護師長の存在 男性管理者の存在 研修と役割拡大 の機会 院内ラダー制度の修了 院外研修への参加での学び 学生時代の 実習経験 学生時代の実習での学び 表 2 キャリアビジョン形成に影響を及ぼした経験
1 名で、他 4 名は看護部門の命令であった。【部 署異動の経験】は、≪異動前の看護の楽しさ・ 魅力の再発見≫、≪異動先での看護との出会い≫ の2 つのサブカテゴリーから構成された。 ≪異動前の看護の楽しさ・魅力の再発見≫で は、<婦人科系の病棟から産科病棟に異動し女 性のがん看護をしたいと再確認した>等という コードで、部署異動という経験をきっかけに異 動前の看護の楽しさや魅力の再発見を実感して いた。 ≪異動先での看護との出会い≫では、<異動 先の医療に関連した資格を取ろうと思った>と いうコードで、新たな部署での看護との出会い について語られた。 2)【日々の看護実践や看護ケアを意識した感情体験】 このカテゴリーは、≪行った看護に対する肯 定的な感情≫、≪十分にできなかった後悔≫、 ≪実践したい看護と現実とのギャップ≫の3 つ のサブカテゴリーで構成された。 ≪行った看護に対する肯定的な感情≫では、 <私の指導で患者が新しい技術ができて自信を 持ってもらえた>等のコードで、日々の看護実 践に対する肯定的な内容が語られた。 ≪十分にできなかった後悔≫では、<後輩が 看護について悩んでいるのに「大変ね」としか 言えずつらかった>、<ターミナル期の患者に うまく関われなかった>等のコードで、患者や 仲間に対し、十分に関われなかったという後悔 が語られた。 ≪実践したい看護と現実とのギャップ≫では、 <病院では、ひとりの患者に時間をかけて関わ れない現状に疲弊し、将来は地域で個々の患者 や家族に関わりたい>という1 つのコードで あった。 3)【ロールモデルとの出会い】 このカテゴリーは、≪お手本となる先輩看護 師の存在≫、≪認定看護師の存在≫、≪副看護 師長の存在≫、≪看護師長の存在≫、≪男性管 理者の存在≫の5 つのサブカテゴリーで構成さ れた。 ≪お手本となる先輩看護師の存在≫では、<先 輩は患者の都合に合わせることを教えてくれた> 等のコードで、日々の看護実践の中での先輩看 護師の姿から目指す看護師像について語られた。 ≪認定看護師の存在≫では、<認定看護師の知 識の豊富さや患者との関わりのうまさを実感し た>等のコードで、自分にはない看護の能力の 高さについて語られた。≪副看護師長の存在≫ では、<副看護師長は患者のことを一番に考え ているところが尊敬できた>等のコードで、患 者やスタッフを大切にしている姿勢を感じてい ることが語られた。 ≪看護師長の存在≫では、<看護師長の管理 者としての病棟運営に魅力を感じた>等のコー ドで、看護師長の看護管理者としての存在に影 響されたという内容が語られた。≪男性管理者 の存在≫では、<身近に管理経験のある男性管 理職の存在によって自分の目指すビジョンが明 確になった>等のコードで、同性である男性管 理職の影響について語られた。 4)【研修と役割拡大の機会】 このカテゴリーでは、≪院内ラダー制度の修 了≫、≪院外研修への参加での学び≫、≪新た な役割の付与≫の3 つのサブカテゴリーが抽出 された。 ≪院内ラダー制度の修了≫では、<ラダーの 修了が管理職を目指すきっかけで区切りとなっ た>等のコードで、ラダーの修了が看護師とし てのキャリアビジョンを考えるきっかけとなっ ていたことが語られた。 ≪院外研修参加での学び≫では、<研修受講 により知識不足を実感し認定看護師を目指した> 等のコードで、院外研修に参加し新たな知見に 遭遇したことから資格取得しようと考えたこと が語られた。≪新たな役割の付与≫では、<チー ムリーダーを任されたときに管理的な視点の必 要性を感じた>というコードで、役割を果たす ために必要な視点について述べられた。 5)【学生時代の実習経験】 このカテゴリーでは、≪学生時代の実習での 学び≫という1 つのサブカテゴリーが抽出され、 <家族看護とその人の生活を支えることができ る地域看護に将来的な希望を持った>等のコー ドで、学生時代の楽しいと感じた実習経験が語 られた。 4. キャリアビジョン形成に影響を及ぼした支援 (表3) キャリアビジョン形成に影響を及ぼした支援 として、28 コードからなる 9 サブカテゴリーと 6 カテゴリーが抽出された。6 カテゴリーは、【職 場からの人的・時間的な業務支援】【同僚からの 内省支援】【上司からの内省支援】【上司からの
精神的支援】【周囲の人からの精神的支援】【家 族の理解・協力】に分けられた。 1)【職場からの人的・時間的な業務支援】 このカテゴリーは、≪実践したい看護に対す る職場の理解と協力≫、≪働き方に対する看護 師長の配慮≫の2 つのサブカテゴリーが抽出さ れた。 ≪実践したい看護に対する職場の理解と協力≫ では、<実践したい看護のために専念できるよ う人員の調整に協力してくれる看護師長とス タッフがいた>等のコードで、実践したい看護 に対する理解と実現のための人的な協力につい て語られた。業務支援として業務や人員の調整 に関する協力体制をとってくれた人が、特定の 者だけではなく、構成される職員全体が尊重し 合い、協力をする風土もカテゴリーとして抽出 された。 ≪働き方に対する看護師長の配慮≫では、<看 護師長は資格取得のための時間的な勤務調整を してくれた>等コードで、個別な事情に対する 看護師長の勤務調整について語られた。 2)【同僚からの内省支援】 このカテゴリーは、≪看護師としてのキャリ アを考えさせられる同僚看護師の関わり≫とい う1 つのサブカテゴリーが抽出され、<同僚か らの発言で看護師として何がしたいのか考えさ せられた>等のコードで構成されており、同僚 看護師からの内省支援について語られた。 3)【上司からの内省支援】 このカテゴリーは、≪面接時の看護師として のキャリアビジョンを考えさせる看護師長のア ドバイス≫、≪キャリアに対する気づきにつな がる日々の看護師長との関わり≫の2 つのサブ カテゴリーが抽出された。≪面接時の看護師と してのキャリアビジョンを考えさせる看護師長 のアドバイス≫では、<将来について、どうす るのか考えるように看護師長から言われた>等 のコードで、面接の機会を活用した看護師長か らの内省支援について語られた。≪キャリアに 対する気づきにつながる日々の看護師長との関 わり≫では、<看護師長との関わりで看護や教 育を頑張りたいと思う新しい感情がわいた>等 のコードで、日常の看護業務における看護師長 の関わりによるキャリアに対する気づきが語ら れた。 4)【上司からの精神的支援】 このカテゴリーでは、≪副看護師長の悩みへ の共感と支え≫、≪看護師長の理解者としての 支え≫の2 つのサブカテゴリーが抽出された。 ≪副看護師長の悩みへの共感と支え≫では、 表3 キャリアビジョン形成に影響を及ぼした支援 カテゴリー サブカテゴリー コード 職場は自分の実践したい看護を理解してくれるスタッフがいた 実践したい看護のために専念できるよう人員の調整に協力してくれる看護師長とスタッフがいた 看護師長は、資格取得のための時間的な勤務調整をしてくれた 家庭の事情に応じて子育てしながら働ける勤務調整をしてくれる看護師長に感謝している 同僚からの発言で看護師として何がしたいのか考えさせられた 同僚と話す中で自分に足りないものを考え、資格を取ろうと思った 異動先の同僚看護師からのアドバイスにより資格取得という自分になかった新たな考えができた 認定看護師に興味があるという発言に対しての看護師長からの適正への承認で興味が増した 今後について聞かれたことでのキャリアビジョンを意識した 看護師として何か強味を持ったほうがよいというアドバイスがあった 上司が変わっても同じようにキャリアビジョンを考えるように言ってくれた 将来について、どうするのか考えるように看護師長から言われた キャリアについて考えるように言われ、元々、興味を持っていた認定看護師を受験してみようと思った 看護師長との関わりで看護や教育を頑張りたいと思う新しい感情がわいた 日々の業務をこなす看護ではなく、努力を継続する考え方を看護師長から教わった 看護師長からのアドバイスで深めたり、極めたことがなかった自分に気づき看護について極めたいなと思った 副看護師長による一番の悩みの除去によってキャリアビジョンを考えることができた 副看護師長に精神的に支えられたことが大きい 副看護師長は病棟全体を見渡していて、すごくわかってくれていると感じる 副看護師長が私の悩みを理解し、一緒に考えてくれたことで頑張ろうと思えた 担当患者を外された際の看護師長による患者との調整や傾聴・見守りがあった 絶対に諦めてはいけないという看護師長からの一言で救われた 看護師長は応援してくれていると感じる 母親や副看護師長、職場の同僚の姿をみているだけで支えられている 食事などに誘ってくれる同期が支えとして大きかった 研究や資格取得のための研修参加などやりたいことを行うことができる配偶者の支えがあった 子どもの世話などの配偶者や実家のサポートがあった 結婚や出産で生じた仕事の継続などの悩みに対する配偶者の支えに対して感謝している 家族の理解・協力 仕事や研究、研修に取り組める家族の理解・協力 周囲の人からの 精神的支援 周囲の人の存在による職業継続への 精神的支援 職場からの人的・ 時間的な業務支援 実践したい看護に対する職場の理解と協力 働き方に対する看護師長の配慮 同僚からの 内省支援 看護師としてのキャリアを考えさせられる 同僚看護師の関わり 上司からの 内省支援 面接時の看護師としてのキャリアビジョンを 考えさせる看護師長のアドバイス キャリアに対する気づきにつながる 日々の看護師長との関わり 上司からの 精神的支援 副看護師長の悩みへの共感と支え 看護師長の理解者としての支え 表 3 キャリアビジョン形成に影響を及ぼした支援
<副看護師長が私の悩みを理解し、一緒に考え てくれたことで頑張ろうと思えた>等のコード で、副看護師長の精神的支援について語られた。 ≪看護師長の理解者としての支え≫では、<担当 患者を外された際の看護師長による患者との調 整や傾聴・見守りがあった>等のコードであった。 5)【周囲の人からの精神的支援】 このカテゴリーは、研究対象者にとって心の 支えとなっている≪周囲の人の存在による職業 継続への精神的支援≫という1 つのサブカテゴ リーが抽出され、<母親や副看護師長、職場の 同僚の姿をみているだけで支えられている>等 のコードで構成され、信頼できる人の存在自体 から得られている精神的支援について語られた。 6)【家族の理解・協力】 研究対象者のインタビューの中で、生活者と しての視点でのキャリアビジョン形成に影響し たコードが抽出された。そのため、1 つのカテ ゴリーとして独立させた。このカテゴリーは、 ≪仕事や研究、研修に取り組める家族の理解・ 協力≫という1 つのサブカテゴリーが抽出され、 <研究や資格取得のための研修参加等やりたい ことを行うことができる配偶者の支えがあった> 等のコードで、家族の理解・協力が語られた。 Ⅴ.考察 1. 中堅看護師のキャリア形成に影響を及ぼした 経験 1)【部署異動の経験】 本研究の研究対象者8 名のうち 5 名がキャリ アビジョン形成に影響を及ぼした経験として部 署異動をあげ、そのうち、本人の希望による部 署異動は1 名のみであった。このことから、希 望の有無に関わらず、【部署異動の経験】をする ことで、≪異動前の看護の楽しさ・魅力の再発 見≫や≪異動先での看護との出会い≫を経験し、 キャリアを考える機会となり、キャリアビジョ ン形成に影響していたと考える。部署異動とい う経験は看護職としての今までと今後のキャリ アを考える機会になり(中村 , 2010)、職場の 環境等が直接的にキャリア発達に影響を与える (小松 , 中西,鈴木 , 2012) と言われている。今 回の結果も前部署の看護についての気づきや異 動先での看護との出会い等の内容が抽出され、 部署異動により置かれている立場や役割が変化 することでキャリアビジョン形成に影響を受け た状況が推測される。また、部署異動は中堅看 護師のキャリアにおいて身近で重大な節目であ り(中村,2010)、今回の対象者も部署異動をキャ リアの節目と捉え、キャリアビジョン形成に繋 げたと考える。 反面、中堅看護師が希望しない部署異動によっ てキャリアが中断することもあり、モチベーショ ンの低下や離職に繋がることもあると言われて い る( 境, 前 田, 2011)。中村(2010)は、中 堅看護師が部署異動に価値を見出し、前向きな 「開始」を迎えるためには、なぜ、自分が部署異 動の対象なのか、十分な説明を受ける重要性を 述べている。成長や役割発揮を期待している等、 個別の理由を丁寧に説明することで、部署異動 という経験がキャリアビジョン形成にとって前 向きなものにできると考える。 2)【日々の看護実践や看護ケアを意識した感情体験】 船越 , 河野(2006)は、患者・家族から笑顔 や感謝の言葉を得るという経験を通して看護師 は働きがいを実感すると述べている。また、卯 川 , 細田 , 星(2011)は、人は自分が行なった ことがうまく行ったと感じる時に仕事にやりが いを感じ、仕事の面白さの実感がキャリアデザ インの中心であると述べている。≪行った看護 に対する肯定的な感情≫から、中堅看護師は自 分の行った看護ケアによる患者の行動変容や感 謝を伝えられた経験は看護師としての自己の存 在意義を感じた経験となり、さらに学習意欲を 高めて実践したい看護を意識させ、キャリアビ ジョン形成に繋がったと考える。 また、失敗というネガティブな出来事が発生 した後に、それをどのように解釈するのかが重 要である(池田 , 三沢 , 2012)。福井(2013)は、 キャリアを考えるきっかけの1 つに、ジレンマ を感じた患者との出会いをあげ、経験を重ねて いく中でポジティブな要因もネガティブな要因 のどちらも力にして看護を深め、実践したい看 護のためにキャリアビジョンを明確にしていく と述べている。≪十分にできなかった後悔≫と いうサブカテゴリーでは、うまくいかなかった という後悔をネガティブな感情として放置せず、 学習教材として振り返り、課題克服に向かうポ ジティブな思いへ転換しキャリアビジョンに繋 げたと考える。また、Kolb(1984)の経験学習 モデルで示されているように、経験を内省する ことで自身にとっての経験の意味を見出し、次
へと生かしていくことが行われていたと捉えら れる。 3)【ロールモデルとの出会い】 ≪お手本となる先輩看護師の存在≫というサ ブカテゴリーでは、日々の看護実践の中で先輩 看護師と関わる経験が看護師としての身近な目 標となったことが分かった。 ≪認定看護師の存在≫では、専門的な知識や 技術に長ける認定看護師には自分にない看護の 能力があり魅力を感じていた。専門性を生かし 看護を存分にできる環境にある専門・認定看護 師に対し一般看護師は憧れや羨ましいという思 いがあり(福井 , 2013)、専門的な知識・技術 を用いて実践したい看護に集中できる存在は、 看護師としての存在意義を実感させる経験であ り、キャリアビジョン形成に重要である。 ≪副看護師長の存在≫では、患者やスタッフ を大切にする副看護師長の姿勢を日々の業務の 中で感じていた。一番身近な管理者と看護実践 者の両方の視点を有する副看護師長は相談しや すい存在で、ロールモデルとしても重要な役割 を担うと考えられる。 ≪看護師長の存在≫では、中堅看護師は看護 師長の職責を活かした発言や行動の影響力を実 感しており、組織横断的な看護管理を目にする 経験が看護管理者へのキャリアビジョン形成に 関係したと考える。日高 , 鶴田 , 長友(2015)は、 身近な看護師長の魅力ある看護管理の実践や人 となりが看護管理者の選択に向かわせると述べ ており、本研究結果に一致する。 ≪男性管理者の存在≫では、女性の多い職場 において同性である男性管理職の姿は男性看護 師が自身の将来像を重ねることができるキャリ アであると考えられる。辻本ら(2014)は、男 性看護師がキャリア継続する上でのモデルや目 標となる同性の看護師の存在やネットワークの 重要性を述べている。また、林 , 米山(2008)は、 キャリア形成に職場におけるモデルやメンター の重要性を述べており、本研究の結果と一致す る。管理職を含めた同性の先輩看護師と交流で きる研修会の実施等、組織として取り組む必要 があると考える。 4)【研修と役割拡大の機会】 ≪院内ラダー制度の修了≫は中堅看護師に とって節目として捉えることができ、将来を考 える機会になったと考える。≪院外研修参加で の学び≫での新たな知見に遭遇したことや≪新 たな役割の付与≫により、自覚を促しキャリア ビジョンを考えるきっかけとなったと考える。 水野 , 三上(2000)は、看護師のキャリア発達 の影響要因の1 つに役割の付与をあげ、役割付 与によって組織からの期待や承認を感じ、仕事 への取り組みが変化したと述べている。今回の 対象者は、チームリーダーという責任ある役割 を任命されたことで上司からの期待と承認を得 て、期待に応えようと努力し、行動したことが キャリアビジョン形成に影響したと考える。 5)【学生時代の実習経験】 このカテゴリーでは、≪学生時代の実習での 学び≫というサブカテゴリーが抽出され、学生 時代の楽しいと感じた実習がキャリアビジョン に影響していた。初学者である学生時代の経験 は貴重であり、その後のキャリアビジョン形成 に影響を及ぼすと考える。 2.キャリアビジョン形成に影響を及ぼした支援 1)【職場からの人的・時間的な業務支援】 ≪実践したい看護に対する職場の理解と協力≫ では、実践したい内容を理解し支援する職場の 環境が中堅看護師の成長を促し、それを実践す る充実感がキャリア形成に影響を及ぼしたと考 えられる。キャリア開発への意欲には、看護実 践の充実感が最も影響すると言われており(小 松ら,2012)、充実感が得られる職場の重要性 が示唆された。看護管理者はスタッフが互いに 実践したい看護ができるための職場環境づくり に取り組む必要があると考える。 また、≪働き方に対する看護師長の配慮≫で は、看護師長による自分の実践したい看護につ いての理解や勤務調整等の業務支援の実感が キャリアビジョン形成に影響したと推測され、 看護管理者の理解や配慮をどう表明するのか重 要な点であると考える。中原(2010)の一般企 業を対象にした調査では、上司からの業務支援 は比較的多く実践されているにも関わらず、調 査対象者への影響は少ないと述べている。本研 究では実践したい看護のための勤務調整など実 感できる業務支援であったため、中堅看護師に は支援として認識されたと考える。 2)【同僚からの内省支援】 中原(2010)の一般企業を対象にした調査で、 同僚・同期の内省支援が能力向上に奏功すると 述べている。本研究の研究対象者においても同
様に同僚・同期の内省支援は能力向上の意欲に 繋がり、さらにキャリアビジョン形成へと発展 させたと考える。看護管理者は同僚看護師と実 践したい看護や看護師としてのキャリアビジョ ンについて語り合える環境を意図的に設けるこ とが必要であると考える。 3)【上司からの内省支援】 面接という機会を活用し、経験について中堅 看護師に内省支援を促すことや日々の業務にお ける看護の振り返りの効果が示された。先行研 究にて、看護師のキャリア発達における上司か らの助言や承認の有用性(西田ら , 2016)や直 属の上司による支持的な態度がキャリア発達に 影響を及ぼす(卯川ら,2011)と述べられており、 看護管理者は、日頃から継続的に人材育成を意 識した関わりを持つと共に面接という機会を効 果的に活用することが重要であると考える。 4)【上司からの精神的支援】 中原(2010)の一般企業における調査におい て上司からの精神的安息を与えるような支援が 部下の能力向上に意味があると述べている。ま た、中堅看護師はスタッフをよく見ていて相 談しやすい看護師長像を求めており(里光ら, 2008)、看護師長に精神的支援を求めている(竹 生,土屋 , 2008)という先行研究と本研究の結 果は一致しており、副看護師長と共に看護管理 者が日頃から中堅看護師に目を配り、いつでも 相談に応じる雰囲気作りや必要時に悩みの傾聴 と一緒に考える姿勢を持つという基本的な支援 が重要であると考える。 5)【周囲の人からの精神的支援】 信頼できる人の存在による精神的支援があげ られ、看護管理者は広い視野で中堅看護師のソー シャルサポートや人間関係の状況等の視点を持 つことも必要であると考える。 6)【家族の理解・協力】 新井 , 野崎 , 田中 , 徳本(2016)は、中堅看 護師は結婚・育児等のライフイベントがあり、 キャリアについて自分だけで決定するのは難し く、多くの役割遂行のためには周囲の支援が不 可欠であると述べており、家族の理解・協力の 必要性を裏付けるものである。中堅看護師はラ イフイベントにより看護師としてのキャリアを 中断や断念せざるを得ない状況も推測され、看 護管理者はライフイベントを経てキャリア発達 を遂げている先輩看護師等の話を聞く機会を設 け、ライフイベントを肯定的に捉えられる支援 も必要である。 7) 中堅看護師のキャリアビジョン形成に影響を 及ぼした経験と支援から考えられた看護管理 者の支援に関する示唆 福井(2013)は、経験により看護が深まり、 キャリアの選択肢が増えて実践したい看護やキャ リアビジョンが明確になると述べている。中堅看 護師は経験を自ら内省してキャリアビジョン形成 に繋げる場合と他者からの支援による場合、また は、その両方の場合があると考える。松本 , 赤沼 (2007)は、看護管理者による中堅看護師への継 続的な働きかけは経験の意味づけや自信に繋げる と述べており、日々の看護実践や成果、看護の楽 しさや難しさを実感でき、経験を学びに変える看 護管理者の関わりが重要であると考える。さらに、 中堅看護師の看護の悩みや興味・関心を把握し、 先輩看護師、副看護師長、認定・専門看護師等 のロールモデルを見つける手助けやチーム編成も キャリアビジョン形成の視点で必要である。 また、看護管理者は自分自身もロールモデル であり、影響を及ぼす存在であることを自覚し、 人材育成の立場である強みを活かして、どんな 病棟を作りたいのか提示することがキャリアビ ジョン形成に役立つと考える。 加えて、看護管理者はスタッフ個々の能力を 的確に判断し、自発的な自己研鑽の姿勢を導く ように中堅看護師の役割を拡大し、新たな役割 付与に伴う課題が達成できるよう支援すること が重要であると考える。 Ⅵ.研究の限界と今後の課題 本研究では、同一施設所属の中堅看護師を対 象としたため、結果に組織の風土の影響がある ことは否定できない。また、中堅看護師のキャ リアビジョン形成にどのような経験と支援が影 響しているかを抽出するために質的デザインに よる調査研究とした。今後は、今回、抽出され たカテゴリーを参考に異なる組織を対象にした 量的調査や看護職以外の中堅職員と比較分析を 行うことで、さらに中堅看護師のキャリアビジョ ンの特徴が明確となり、信頼性の高い知見につ ながると考える。 Ⅶ.結語 中堅看護師のキャリアビジョン形成に影響を
及ぼした経験として、【部署異動の経験】、【日々 の看護実践や看護ケアを意識した感情体験】、 【ロールモデルとの出会い】、【研修と役割拡大の 機会】【学生時代の実習経験】という5 つのカテ ゴリーが抽出された。 また、中堅看護師のキャリアビジョン形成に 影響を及ぼした支援として、【職場からの人的・ 時間的な業務支援】【同僚からの内省支援】【上 司からの内省支援】【上司からの精神的支援】【周 囲の人からの精神的支援】【家族の理解・協力】 の6 カテゴリーが抽出された。 以上のことから、看護管理者は、部署異動、日々 の看護実践、ロールモデルとの出会い、研修と 役割拡大の機会等の経験が中堅看護師のキャリ アビジョン形成に影響することを意識して支援 することが重要であることが示唆された。 謝辞 本研究の実施にあたり、研究の趣旨をご理解 くださり、ご多忙の中ご協力いただきました対 象施設の8 名の看護師の皆様ならびに看護部の 皆様、本研究にご理解を頂き、心から感謝申し 上げます。 なお、この論文は平成30 年度武庫川女子大学 大学院看護学研究科修士論文に加筆・修正した ものである。 利益相反 本研究における利益相反は存在しない。 文献 新井麻紀子 , 野崎由里子 , 田中千鶴子 , 徳本弘 子. (2016). 中堅看護師が認識する自己の置か れている状況に関する国内文献の検討. 日本 看護学会論文集 , 看護教育 , 218-221. 有馬明恵. (2007). 内容分析の方法 . ナカニシヤ 出版. 福井純子. (2013). 看護師のキャリア選択に影響 を及ぼす要因-経験を積んだ看護師の振り返 りの語りから-. 北海道医療大学看護福祉学 部学会誌 , 9(1), 133-139. 船越明子 , 河野由理 . (2006). 看護師の働きがい の構成要素と影響要因に関する研究-急性期 病院に勤務する看護師を対象とした分析から -. こころの健康 , 21(2), 35-43. グレッグ美鈴 , 池邉敏子 , 池西悦子 , 林由美子 , 平山明子.(2003). 臨床看護師のキャリア発達 の構造. 岐阜県立看護大学紀要 , 3(1), 1-8. 長谷部尚子 , 升田由美子 . (2017). 中堅看護師の 看護実践能力の実態と影響要因. 日本看護教 育学会誌 , 27(2),15-26. 林有学, 米山京子 .(2008). 看護師におけるキャリ ア形成およびそれに影響を及ぼす要因. 日本 看護科学学会誌 , 28(1), 12-20. 日髙真美子 , 鶴田来美 , 長友みゆき . (2015). 看 護師のキャリア開発において看護管理者にな るという選択に向かわせる要因. 南九州看護 研究誌 , 13(1), 1-11. 星野純子 , 栗田孝子 , 西田友子 . (2016). 病棟看 護師長が行っている中堅看護師のキャリア発 達のための支援-看護師のキャリア発達を促 す看護師長の役割モデルの構築に関する研究 より-. 日本看護学教育学会誌 , 26(1), 55-67. 池田浩 , 三沢良 . (2012). 失敗に対する価値観の 構造-失敗観尺度の開発-. 教育心理学研究 , 60, 367-379. 勝原裕美子. (2007). 看護師のキャリア論 . 株式 会社ライフサポート社.
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