氏 名 堀井 辰衛 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第372号 学 位 授 与 年 月 日 平成28年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 機能材料システム工学専攻 学 位 論 文 題 目 水分散型導電性高分子の合成と階層構造制御による高導電化 に関する研究 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 奥 崎 秀 典 教 授 鈴 木 章 泰 教 授 柴 田 正 実 准教授 小 幡 誠 教 授 川 久 保 進 准教授 柳 博
学位論文内容の要旨
ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3, 4-エチレンジオキシチオフェン) (PEDOT/PSS)のコロイド水分散液は,実際に帯電防止材や固体電解コンデンサなどに広 く使用されており,現在最も成功した導電性高分子である。本論文は,水分散型導電性高 分子の合成と高次構造制御による高導電化に関する研究成果をまとめたものであり, PEDOT/PSS について詳細に検討している。特に,溶媒効果による PEDOT/PSS の高導電化 メカニズムを解明するとともに,1000 S/cm を超える高い電気伝導度を有する PEDOT/PSS 水分散液の合成に成功している。さらに,PEDOT/PSS フィルムを用いた電場駆動型アクチ ュエータについても検討している。 第1 章では,導電性高分子における PEDOT の研究背景や動向をまとめるとともに、本研 究の位置付けと目的を述べている。 第2 章では,市販の PEDOT/PSS 水分散液にエチレングリコール(EG)等の二次ドーパ ントを添加したときの電気伝導度の向上(溶媒効果)を,PEDOT/PSS の階層構造変化から 説明した。X 線光電子分光法(XPS)や X 線回折法(XRD),導電性原子間力顕微鏡(C-AFM) 測定から,PEDOT/PSS コロイド粒子表面にある絶縁体の PSS シェル減少や PEDOT 分子の 結晶化,コロイド粒子の凝集がEG によって引き起こされ,コロイド粒子内および粒子間のキャリア移動が,バルク状態における電気伝導度に重要な役割を果たすことを明らかにし た。
第3 章では,実際に PEDOT/PSS 水分散液の合成を行い,階層構造と電気伝導度の関係に ついてより詳細に検討した。具体的には,PEDOT/PSS 水分散液を中和したときの構造およ び電気特性変化について,紫外可視近赤外分光法(UV-vis-NIR)や四探針法,AFM,XRD を用いて検討した。NaOH による PEDOT/PSS コロイド水分散液の中和により,PEDOT の 高ドープ状態であるバイポーラロン吸収が減少するとともに,PEDOT の結晶性も低下する ことで電気伝導度が低下することを示した。 また,PEDOT と PSS の組成比(α)の異なる PEDOT/PSS コロイド水分散液を新たに合成 し,コロイド粒子の分散状態や電気伝導度について詳細に検討した。動的光散乱法と電気 泳動法によりコロイド粒径とゼータ電位,四探針法により電気伝導度を測定した。合成に より得られたPEDOT/PSS コロイド粒径は,α < 2 で平均粒径約 200 nm であるのに対し,α > 2 では 10~30 nm に減少することがわかった。これは,PSS の増加により PEDOT の割合が 減少し,PSS の分散力が PEDOT の凝集力を上回ることで物理架橋が消失し,PEDOT が均 質分散化されたためと考えられる。XRD 測定より,EG 添加により PEDOT/PSS フィルムの 結晶性は増大するが,α の増加とともに結晶化度は低下した。AFM のモルフォロジーから, α の増加とともに平均粒径は増大し,粒子数は減少した。一方,C-AFM 測定の電流像から はα = 1~4 において平均導電粒子数(Ncp)はほぼ変化しないのに対し,α = 2.5 で平均導電 粒子サイズ(Dcp)が急激に低下し,さらにα が大きくなると Dcp,Ncpの両方が低下するこ とがわかった。すなわち,α の増加により非常に小さな導電粒子が多数均一に分布するよう になることを意味している。ここで,電流像から平均導電粒子間距離(Lcp)を算出したと ころ,Lcpの減少とともに電気伝導度が上昇することがわかった。これは,導電粒子が多数 密に分布するため Lcpが短くなり,キャリアが容易にホッピングできるためと考えられる。 α = 2.5 で電気伝導度は最大 695 S/cm に達した。 一方,PEDOT の重合反応においてダイマー形成が律速段階であることに着目し,触媒で ある酸添加の効果について検討した。得られたPEDOT/PSS の階層構造と電気伝導度の関係 を,四探針法や動的光散乱法,電気泳動法,XRD,C-AFM を用いて検討した。硝酸濃度の 増加とともにコロイド粒径も増大したが,ゼータ電位はほぼ一定であった。XRD 測定の結 果から,硝酸濃度の増加とともに結晶化度は増加したが結晶子サイズはほぼ一定であるこ とがわかった。C-AFM 測定から,Dcpおよび Ncpは硝酸濃度の増加とともに増大し,Lcpは 逆に低下することがわかった。興味深いことに,電気伝導度はLcpと強い相関を示し,硝酸 0.2 M で 832 S/cm に達することが明らかになった。
さらに,PEDOT の重合度に着目し,重合温度を変化させて PEDOT/PSS コロイド水分散 液を合成した。重合温度の低下とともにPEDOT のベンゾイド構造が減少し,結晶子サイズ (D020)は逆に増加した。また,重合温度の低下とともに Ncpは増加し Lcpが減少すること で,電気伝導度は0℃の重合温度で最高 1145 S/cm に達した。興味深いことに,ベンゾイド 構造のピーク強度比ICH2/IC=CとLcpの間に強い相関がみられ,直線関係を示すことが明らか になった。すなわち,一次構造であるPEDOT の重合度が,四次構造の凝集状態に強い影響 を与えることを意味する。このように,PEDOT の重合度を高め,導電粒子数を増やすこと で,1000 S/cm を越える高い電気伝導度を得ることに成功した。 第4 章では,実際に合成により得られた PEDOT/PSS を用いて EAP アクチュエータを作 製した。PEDOT/PSS フィルムは電圧印加による水分子の吸脱着により空気中で可逆的に伸 縮することがわかった。また,フィルムの収縮率はα と相対湿度(RH)に依存し,α = 15, 70% RH で最高 7.8%に達した。得られた実験結果から,フィルムの電気収縮挙動において, 組成制御と湿度制御が重要な役割を果たすことが明らかになった。 第5 章では,総括として第 2 章から第 4 章で得られた結果についてまとめている。
論文審査結果の要旨
本論文は,水分散型導電性高分子の合成と高次構造制御による高導電化に関する研究成 果をまとめたものであり,ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3, 4-エチレン ジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)について詳細に検討している。特に,溶媒効果による PEDOT/PSS の高導電化メカニズムを解明するとともに,1000 S/cm を超える高い電気伝導度 を有するPEDOT/PSS 水分散液の合成に成功している。 第1 章では,導電性高分子における PEDOT の研究背景や動向をまとめるとともに、本研 究の位置付けと目的を述べている。 第2 章では,市販の PEDOT/PSS 水分散液にエチレングリコール(EG)等の二次ドーパ ントを添加したときの電気伝導度の向上(溶媒効果)を,PEDOT/PSS の階層構造変化から 説明した。 第3 章では,実際に PEDOT/PSS 水分散液の合成を行い,階層構造と電気伝導度の関係に ついてより詳細に検討した。具体的には,PEDOT/PSS 水分散液を中和について検討し,中 和により PEDOT の高ドープ状態であるバイポーラロン吸収が減少するとともに,PEDOT の結晶性も低下することで電気伝導度が低下することを示した。また,PEDOT と PSS の組 成比(α)の異なる PEDOT/PSS コロイド水分散液を新たに合成し,コロイド粒子の分散状 態や電気伝導度について詳細に検討した。α の増加により,非常に小さな導電粒子が多数均一に分布するようになり,平均導電粒子間距離(Lcp)の減少とともに電気伝導度が上昇す ることがわかった。これは,導電粒子が多数密に分布するためLcpが短くなり,キャリアが 容易にホッピングできるためと考えられる。α = 2.5 で電気伝導度は最大 695 S/cm に達した。 一方,PEDOT の重合反応においてダイマー形成が律速段階であることに着目し,触媒で ある酸添加の効果について検討した。興味深いことに,電気伝導度はLcpと強い相関を示し, 硝酸0.2 M で 832 S/cm に達することが明らかになった。 さらに,PEDOT の重合度に着目し,重合温度を変化させて PEDOT/PSS コロイド水分散 液を合成した。ベンゾイド構造のピーク強度比とLcpの間に強い相関がみられ,直線関係を 示すことが明らかになった。すなわち,一次構造であるPEDOT の重合度が,四次構造の凝 集状態に強い影響を与えることを意味する。このように,PEDOT の重合度を高め,導電粒 子数を増やすことで,1000 S/cm を越える高い電気伝導度を得ることに成功した。 第4 章では,実際に合成により得られた PEDOT/PSS を用いて電場駆動型アクチュエータ を作製した。フィルムの収縮率はα と相対湿度(RH)に依存し,α = 15,70% RH で最高 7.8% に達したことから,フィルムの電気収縮挙動において,組成制御と湿度制御が重要な役割 を果たすことが明らかになった。 第5 章では,総括として第 2 章から第 4 章で得られた結果についてまとめている。 これらの研究内容は論文4 報として発表され,実用上重要な知見を多く含むものである。 また,学会発表やプレゼンテーション能力も高く評価された。以上のことから,博士論文 審査委員全員の合意において,本論文は博士(工学)の学位論文として適格と認め,合格 と判定した。