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どのような人が理想の配偶子ドナーとなりうるか
−ニュージーランドと英国のドナーたちの経験から−
What Types of People Constitute Ideal Donor Candidates ? :
A Study Based on the Experience of Donors in New Zealand and the UK
■
KEY
WORDS
配偶子ドナー(gamete donor
) 理想のドナー(ideal donor
) ドナーリクルート(donor recruitment
) ニュージーランド(New Zealand
) 英国(the UK
) 要 旨 本研究の目的は、今後日本でさらに提供配偶子による生殖医療の需要が増えたときに、将来起こりうるリス クをできる限り回避するためには、どのような人がドナーとして望ましく、またこうした理想的なドナーを確 保するためには、どのようなところでリクルート活動をするべきかを、ニュージーランドと英国のドナーたち の経験を参考に探ることである。2019
年現在、日本には第三者のかかわる生殖医療に関する法律や規定は存在しない。日本の今後の配偶子提 供医療を考えると、法が出来た場合には、ドナーへの報酬の支払いを禁止する可能性が高く、また世界的な流 れを受けて、自分の素性を明かしての提供が可能な人をドナーとして求めるようになると推察される。そこで 提供精子や卵子での出生者にドナー情報の開示を法で保障しているニュージーランドと英国の配偶子ドナーに 焦点をあて、配偶子提供の経験を持つ計5
人に、2017
年、半構造化インタビューを実施し、彼らの語りをもと にこれらを探った。理想的なドナーとして重要なのは、利他的な動機で、非匿名での提供が可能で、自分の パートナーや子どもに、提供の事実をオープンにできる人であり、さらに、不妊を経験するか、不妊に理解の ある者が望ましい。こうしたドナーを確保することはたやすいことではないが、提供後のトラブルを避けるた めにも重要といえる。日本でもドナー応募者は限定されるが、婚姻カップル、子どもを持つ親、不妊に悩む知 り合いを持つ人、不妊治療を経験した人などの目につくクリニックや公共の掲示板、広告等を利用して、配偶 子ドナーを募集することが理想のドナーの獲得につながるだろう。SUMMARY
In Japan, a need exists for more gamete donors. The present study, which is based on the
ex-perience of donors in New Zealand and the UK, explores what types of people constitute ideal
do-nor candidates from the perspective of mitigating future risk, as well as what are the most
effec-tive methods of recruiting donors to satisfy the growing demand in Japan.
As of 2019, there are no laws or regulations regarding donor conception in Japan. However,
based on global trends, it seems likely that in the future, laws will be enacted to prohibit
com-pensation to gamete donors and to abolish anonymous donation. In this study, I focus on gamete
仙波 由加里
Yukari SEMBA
donors in New Zealand and the UK, two countries where compensation of gamete donors is
prohib-ited and the right of donor offspring to know the gamete donor
’s identifying information is secured
by law. I conducted semi-structured interviews with a total of five gamete donors in 2017. Based
on those interviews, it appears that the ideal donors are those who donate their gametes
altruisti-cally, who are able to disclose their identities to donor-offspring, who disclose the experience of
gamete donation to their partners and children, and who have personally experienced infertility or
are acquainted with infertile people. It is not easy to secure such donors, but the effort to do so is
worthwhile in order to avoid future troubles related to gamete donation. An effective way to
re-cruit such donors in Japan would be to follow these two countries in posting advertisements at
fertility clinics and on public bulletin boards, where they are likely to be seen by those who have
experienced infertility treatments or have infertile acquaintances as well as by married couples
and others with children.
1.問題の所在
提供精子を使った人工授精は、日本ではこれまで 約 70 年にわたって実施されてきた。提供卵子の利 用については、日本産科婦人科学会の会告により実 質禁止されているものの、これを求めて海外へ渡る カップルも少なくない1)。日本生殖補助医療標準化 機関 ( JISART) に加盟している医療施設の中には、 JISART 独自の倫理基準にもとづき、提供卵子での 体外受精を実施しているところもある。2016 年、岡 山大学の中澤らが全国の約 1,300 人の一般人を対象 に実施した意識調査では、卵子提供を「認める」と 回答した人と「条件付きで認める」と回答した人が 合計で 72.6%もいたと報告されている2)。このよう な状況をみても、近い将来、日本は精子提供のみな らず卵子提供も容認せざるを得ない状況に至る可能 性が高いといえよう。 しかし、日本で提供配偶子 (精子・卵子) を使っ た医療が正式に容認されたとしても、果たして配偶 子ドナーを確保できるのかという問題が残る。日本 では現在、日本産科婦人科学会のガイドラインで、 精子ドナーは原則匿名とされているが、諸外国に目 をむけると、近年では、提供配偶子で出生した人の 「出自を知る権利」を子の人権擁護として、法で保 障する国が増えてきている。日本国内で、2014 年に 20 代から 50 代の男女を対象に実施した第三者を介 する生殖医療に関する意識調査では、2,500 人余り の有効回答のうち、出生者の出自を知る権利を認め るべきと回答した人が 46.3%もいたと報告されてい る3)。しかし、日本で出生者の「出自を知る権利」 を尊重するためにドナーの匿名性を廃止した場合、 今以上に配偶子提供する人が減少することは避けら れないだろう。実際、2018 年秋、日本の提供精子で の人工授精 (donor insemination − DI) の半数を実施 してきた慶應大学病院が「提供時の同意文書に『生 まれた子が提供者に関する情報開示を病院に求めた 場合、応じる可能性がある』旨明記したところ、新 たな提供者が確保できなくなった」4)と発表した。 慶應大学病院は、出生者の「出自を知る権利」を尊 重してこのような措置をとったわけだが、ドナーの 匿名性が保障されなければ、ドナーの確保が難しく なるということが、この事例からも伺い知ることが できる。 ドナーを確保できないために国内での提供配偶子 医療の実施が難しくなった場合、これまでの卵子提 供や代理出産を求めるカップルに見られるように、 提供配偶子を求めて海外に渡るケースが増えること だろう。海外に配偶子提供を求めれば、不妊カップ ルには渡航費や滞在費もかかり、国内での提供より 多くの経済的・精神的・物理的負担が増えることが 予測される。また言語も違い、現地でのコミュニ ケーションも容易ではないだろう。ドナーのスク リーニングも不確実で、多くの提供が商業ベースで 行われている点も懸念される。カナダでは、健康で 学歴も高く、理想のドナーとされていた人が、実は 統合失調症を患い、犯罪歴も持っている人だったと国で精子提供や卵子提供の経験のある計 5 人を対象 に、報告者が半構造化インタビューを実施してすす めた。インタビュー協力者には研究の目的、研究方 法を説明した後、録音の上、インタビューを実施 し、インタビューは文字起こしして、それらを協力 者に送り、発言の内容を確認してもらい、結果の公 表についても同意を得ている。
2.調査国の提供配偶子医療をめぐる法的
背景と調査の概要
2
−1.
調査国の第三者の介入する生殖医療をめぐる 背景 ニュージーランド (NZ) では、「2004 年ヒト生殖 補助技術法」 (Human Assisted Reproductive Technol-ogy Act 2004 −以下 HART 法と記す) が 2005 年 8 月 22 日に施行され、この施行日からヒト生殖補助技術 登録 (Human Assisted Reproductive Technology Reg-ister) が開始され、ドナーや出生者の情報が管理さ れるようになった。そして、HART 法によって 2005 年 8 月 22 日以降の提供配偶子で生まれた 18 歳以上 の者は、ドナー情報にアクセスする権利が保障され ている。しかし、NZ で本研究に調査協力してくれ た 3 人は、皆、この HART 法施行前に配偶子を提供 しており、匿名提供が可能であった時代に、あえて 出生者のために自分の氏名等も残して提供している という点で興味深い考え方の持ち主であることがわ かった。 英国でも 1991 年 8 月に「ヒト受精と胚研究に関す る法律 (Human Fertilisation and Embryology Act − HFE 法)」が施行され、この法によって、1991 年 8 月以降に配偶子提供医療で生まれた者は、ドナーの 氏名を除くその他の情報を得ることができるように なった。HFE 法は 2004 年に改正され、2005 年 4 月 以降に配偶子提供医療で生まれた者は 18 歳になる と、ドナー個人を特定できる情報を得る権利が保障 されるようになった。2008 年 10 月にはヒトの受精 および胚研究認可局 (Human Fertilisation and Em-bryology Authority − HFEA) が自主的連絡先登録 (Voluntary Contact Register) を設置し、配偶子提供 にかかわったドナーやレシピエント、出生者が自主 的に自分の情報登録もできるようになった。 本研究のため、英国で調査協力してくれた 2 人の いうケースも報告されている5)。また英国では、サ イモン・ワトソン (Simon Watson) の提供した精子 で、16 年間で 800 人以上の子どもが生まれた例も報 じられている6)。海外で提供を受ける場合には、こ のようなリスクもあり、国内であってもインター ネット等を介して、闇で金銭の授受をともなう精子 の取引が増え、遺伝的な病気のリスクを有するド ナーの精子が使用されるケースも増えるかもしれな い。第三者の介入する生殖医療を安全に行うために は、専門家を介入させ、正確な情報を提供し、ド ナーとレシピエントの情報を管理したうえでの実施 が不可欠であろう。しかし、海外のドナーを利用す る場合には、こうした管理はむずかしく、利用者に も生まれてくる子どもにも不利益をもたらす可能性 があることは否めない。 では、国内でこのまま匿名の提供を継続してよい のだろうか。マックウィニー (McWhinnie) は、生 殖医療で生まれた英国の人たちの調査を通して、出 生者の福祉を最優先すべきだと言っている。すなわ ち不妊夫婦を救うためよりも、長期的視野に立ち、 生まれてくる子どもや、彼らの将来の子どもの福祉 を考えることが大事だと述べている7)。さらに諸外 国では DNA 検査等の普及から、すでに配偶子ドナー の匿名性を保障することが難しくなりつつある8)。 そうした状況は遠くない将来、日本にも影響を及ぼ し、匿名を維持しようとしても、遺伝子検査などを 通して出生者がドナーを突き止める事例も出てくる だろう。 2019 年現在、日本には生殖医療に関連する法律や 規制は存在しない。しかし、将来日本で配偶子提供 が法的に容認されるとすれば、これまでの精子提供 に倣い、ドナーへの報酬は禁止され、世界的な時流 を受けて、ドナーを非匿名とする可能性が高いと推 察される。そこで本研究では、ドナーへの報酬の提 供を禁止し、出生者にドナー情報の開示を法で保障 しているニュージーランドと英国の 2 か国で配偶子 提供の経験を持つ 5 人の研究協力者の語りを参考 に、どのような人が理想の配偶子ドナーとなりうる のか、また、理想の配偶子ドナーを確保するために はどのようなリクルート方法があるかを探った。 本調査は、お茶の水女子大学人文社会科学研究の 倫理審査委員会の承認 (2016-18) を得て、この 2 か表1 ドナーのプロフィール一覧
Donor A Donor B Donor C Donor D Donor E
提供配偶子 精子 精子 卵子 精子 卵子 出生年 1961 年 1963 年 1958 年 1981 年 1957 年 提供国 ニュージーランド ニュージーランド ニュージーランド イギリス イギリス 提供年 1994 年、2000 年 1991 − 1992 年 1992 年 2015 年 1991 年 提供時婚姻状況 既婚 未婚 既婚 既婚 未婚 子どもの有無 6 名 なし 3 名 1 名 1 名 不妊経験の有無 なし なし あり あり あり 知った。また当時就いていた職で子どもの患者やそ の親と接する機会が多く、誰であっても子どもを授 かる機会が与えられるべきとも感じ、それが提供の 動機となった。大学の掲示板で精子ドナーの募集を 知り、妻にも相談の上、精子提供した。また子ども が好きで、自分の血を引く子がたくさん生まれた ら、その子たちがどのような子になるのか、研究者 としても興味があった。A は 2000 年にも提供した が、その時は、同僚が仕事で生殖医療に携わってお り、ドナーの不足を知ったことが提供の動機となっ た。この提供も妻と相談の上決め、妻もドナーにな りたいと言っていたが、彼女はすでに年齢が高すぎ るため、その希望はかなわなかった。A は利他的動 機を示すために一切の報酬を受け取らなかった。 A は初婚と再婚を通して、彼自身にも 6 人の子ど もがいる。そして 1994 年と 2000 年の提供で、7 人 の子どもが生まれているとクリニックから知らされ ていた。初婚でできた 2 人の子ども (30 歳と 26 歳) と再婚の妻との間の一番上の子ども ( 9 歳) には、 すでに父親である自分は、精子提供の経験があるこ とを伝えていた。そして他の子どもにも理解できる 年齢が来れば話すつもりだと述べていた。また父親 は子どもを育てている親と考え、血縁はあっても自 分はドナーで生まれた子の親ではないと断言してい た。その一方で、提供配偶子での出生者は自分の生 物学的背景を知る権利があり、異父母兄弟姉妹がい ることも知るべきだと主張した。提供当時は匿名提 供も可能だったが、A はこうした考えから、情報開 示を承諾した。 提供経験者は、自分たちも配偶子提供によって子ど もを持った親である。1 名は、ドナーを匿名として いた時代に卵子提供し、もう 1 名は HFE 法の施行 後に精子提供していた。
2
−2.
調査の概要 ニュージーランドでの調査は、カンタベリー大学 のケン・ダニエルズ (Ken Daniels) 氏から研究協力 者を紹介してもらい、2017 年 2 月末から 3 月初旬に かけて精子ドナー 2 名と卵子ドナー 1 名にインタ ビューを実施した。また英国調査については、ヨー ク大学のマリリン・クロショー (Marilyn Crawshaw) 氏とドナーコンセプションネットワークの協力を得 て、2017 年 9 月、精子ドナー 1 名、卵子ドナー 1 名 から調査協力を得ることができた。 調査協力者には、研究の目的等を説明した後、1 人約 1 時間の半構造化インタビューを実施した。イ ンタビューでは主に提供の動機、提供で生まれる子 どもに対する思い、匿名提供についての考えを中心 に自由に語ってもらった。3.ドナーたちの語り
3
−1.
精子ドナーA(ニュージーランド) ドナーA は、1961 年生まれで、大学の分子工学の 教授および医療技術系の会社を立ち上げ、この会社 の CEO で も あ る。A は 1994 年 ( 当 時 33 歳 ) と 2000 年 (当時 39 歳) に異なるクリニックでそれぞれ 3 回 ずつ精子提供した。最初の提供時、A はまだ医療生 物工学の大学院生だったが、結婚して子どもにも恵 まれ、子どもを持つことで得られる人生の豊かさをと夫は自分の子どもたちに出生の経緯を伝えた。一 家にとって DI は特別なことではなく、家族全員が 父親と血縁がないことを自然のこととして受け止め ていた。しかし、3 人の子どもの精子ドナーは匿名 であるために、誰であるのかわからない。 子どもたちのドナーがわからないということも影 響し、卵子提供の際には、生まれてくる子どものた めに、自分の氏名を含むすべての情報を与えること に同意した。しかしクリニックからは、C が提供し た卵子では、妊娠にいたらなかったと伝えられた。 C も親子にとって重要なのは、血のつながりではな く、生活を一緒に共にすることだと述べていた。
3
−4.
精子ドナーD(英国) D は、結婚 7 年目で、妻との間に、スペインでの 卵子提供であると生まれた女児がいる。英国国内の 提供卵子を希望していたが、待機リストが長く、妻 の年齢も考えてスペインで卵子提供を受けるに至っ た。妻の不妊治療で医師から卵子提供という選択肢 を提示された時には、D は「ありえない、聞きたく なかった」と思ったと言う。しかし妻が年齢的にさ らに妊娠しにくくなる状況を前に、提供卵子を検討 し、これを利用して子どもが生まれた。 妻が提供卵子で体外受精を受けている時、妻のす すめもあって精子提供を決断した。D は提供の動機 について、自分自身が不妊治療を経験して、同じよ うな境遇にある誰かを助けたいという思いがあった のと同時に、このまま治療を継続しても、子どもが できないかもしれず、その時、どこかに自分の遺伝 子を受け継ぐ子どもがいればという思いもあったと いう。 D は精子提供については、公共交通機関の広告で 知り、インターネットで詳細を検索して情報を得 た。D と妻はそれぞれの親には、孫が卵子提供で生 まれたことを話し、子ども ( 2 歳) にも将来、提供 卵子で生まれたことや、近親婚を避けるために、父 親が精子提供したことを話す予定だという。D には 英国の法によって、将来、自分の精子提供で生まれ た子どもが、D を知り、連絡をとってくる可能性が あることも認識しており、それを期待しているよう でもあった。しかし、自分の提供で生まれた子が現 れた時、自分の娘はスペインでの提供のため卵子ド3
−2.
精子ドナーB(ニュージーランド) 精子ドナーB は、1962 年生まれで、不妊に悩む知 人がいて、精子提供についてメディアで知ったこと が一番の提供の動機となった。また B は一生独身を 貫くつもりだったので、どこかに自分の生物学的な 子どもがいても、将来誰にも心配をかけることはな いだろうという思いもあって提供に踏み切った。 1991 年に近所のクリニックで精子ドナーを募集し ていることを知り、1992 年 (当時 30 歳) から 1993 年 の間の 18 か月間、提供プログラムに参加した。当 時は匿名提供も可能だったが、B は養子の知り合い の影響もあって、出生者がドナーの医学的遺伝情報 や、ドナーの名前や連絡先、家族の情報等あらゆる 情報を得たいと思うのは当然のことだろうと考えて いた。そのため、出生者が希望すれば、自分の氏名 を含む情報の開示を許可する指示を同意書に残し た。その一方で、出生者がドナーに興味がないのな ら、無理に知らせることもないし、出生者の希望を 尊重する道を残すべきだと考えていた。 2004 年の HART 法の可決から 10 年を迎える 2014 年、クリニックからの連絡で、自身の提供で 4 家族 に、男児 5 名、女児 1 名が生まれていることを知ら された。その 6 か月後、出生者の一人が B とコンタ クトを取りたがっているとクリニックから連絡があ り、クリニックの仲介のもと、2014 年にその出生者 と会い、現在も良好な関係を築いている。 B は、出生者にとっての父親は、生まれた子を育 て、面倒をみてきた親であると考えていたが、ド ナーにとっても出生者は非常に特別な存在であると も述べた。B は独身で子どもはいないが、不妊の人 の苦しい思いや苦労への理解はあった。3
−3.
卵子ドナーC(ニュージーランド) C は 1958 年生まれで、夫が無精子症であったた め、提供精子による人工授精 (DI) で 3 人の子ども を持った女性である。C は 3 人目の子どもを出産し た後、自分たちと同じように不妊に悩む夫婦を助け たいという思いから、年齢的な制約もあり 1 度だけ 卵子提供した経験を持つ。C が DI を受けた当時、 医師から DI を利用したことは周囲に黙っているよ うに言われたが、家族に嘘があってはいけない、家 族は信頼関係で結ばれているべきであると考え、C4.調査結果の考察
本研究では、5 名にしか配偶子提供の経験をイン タビューしていないため、彼らの経験を一般化する ことはできない。しかし、彼らの語りには、今後日 本でさらに提供配偶子による生殖医療の需要が増え たときに、将来起こりうる様々なトラブルを回避す るために、ドナーはどのような人であるべきか考え る上で、参考になる点がいくつかある。第 1 は、ド ナー 5 名はすべて無償提供していた点である。5 名 のうち 4 名は自身にも子どもがいて、うち 3 名は配 偶子提供を利用して子どもを授かっていた。彼らは 子どもができたことで、より幸福になれたと感じ、 不妊の人を助けたいという利他的理由から提供して いた。残りの一人も単身ながら不妊に悩む知人がい ることで、不妊の人と助けたいという思いが提供の 動機になっていた。配偶子提供で子どもを持った人 や、親となって幸福感を得ている人、不妊の人の苦 しみを理解している人がよりドナーとして望ましい と言えよう。第 2 に、パートナーと提供の事実を共 有できるかという点である。5 名のうち 3 名は既婚 で、パートナーの了解も得たうえで提供していた。 既婚であることが理想のドナーとしての必須条件で はないが、単身者の場合は将来パートナーに提供の 事実を話せて、パートナーがそれを肯定的に受け止 められるかが問題となる。その意味では B のように 生涯独身を通すと決めているような人もドナーとし て好ましい条件を備えているといえるかもしれな い。第 3 に、自身の子どもにも提供の事実を伝えら れるかという点である。子どものいる 4 名のドナー のうち、2 名はすでに子どもに自身がドナーであっ たことを話し、1 名も子どもが理解できる年齢に達 した時、事実を伝えると話していた。残り 1 名は自 身の提供では子どもは生まれていないと知らされて いるために、子どもに提供の経験があることを伝え ているかどうかは不明である。いずれにしても、自 身が配偶子提供していて、異母異父きょうだいが存 在するかもしれないという情報を子どもに話せると いうことは、子どもの将来にとっても重要である。 こうしたことから、配偶子提供したことをオープン に話せる人であることが、ドナーとしての条件に重 要であると言えよう。第 4 に、親子関係やドナーと ナーを知ることができず、不公平だと感じ、父親の 血を引く子に嫉妬したり、彼女自身の人生を否定的 に見るのではないかということを懸念していた。3
−5.
卵子ドナーE(英国) E は 1957 年生まれで、英国で初めて卵子提供し た女性である。29 歳のときに、当時のパートナーの 子を子宮外妊娠し、卵管を摘出していた。そのパー トナーと別れ、30 代に入って、子どもを持つことを 強く希望するようになり、提供精子と自分の卵子で 体外受精をして、1991 年 6 月に、34 歳で男児を出産 した。子どもを持ってからは精子提供してくれたド ナーに感謝し、さらに自分も誰かのために卵子提供 したいと考えるようになった。E は 1991 年 11 月に、 匿名ではあるが、無償で 8 個か 9 個の卵子をクリ ニックに提供した。卵子提供から 5 週間後、英国初 の卵子提供での妊娠ということで、メディアを通し て自分の卵子でレシピエントが双子を妊娠している ことを知った。誰かの助けになれたことをうれしく 思う一方、自分の息子と異母きょうだいである双子 の名前や住所等を意図せず知ってしまったことは複 雑な気持ちもあった。双子が 18 歳になり、卵子提供 で形成された親子のドキュメンタリーフィルムが作 成されることになって、フィルム作成会社を通して 双子の一人とその母親がドナーへの面会を希望して いることが知らされた。彼女はその家族に自分がド ナーであることを手紙で知らせ、その後、E もド キュメンタリーに出演している。 E の息子は HFE 法の施行以前の 1990 年に提供さ れた精子で生まれたため、ドナーを知ることができ ない。しかし、彼女の卵子で生まれた双子は 1991 年 11 月に提供した卵子で生まれたので、自分にた どり着くことができた。息子は提供精子で生まれた ことを知っており、それを受け入れているが、息子 もドナーを知ることを希望し、ドナーを探した。し かしクリニックからドナーがすでに事故死し、ド ナー自身が情報開示に同意していなかったために、 一切の情報を提供できないと言われた。ただ、息子 の精子ドナーも自分と同様、無償提供していたこと を知り、安堵したと述べていた。本報告論文は、第30回日本生命倫理学会年次大 会 一般演題Ⅴ「理想的な配偶子ドナーとはどの ような人か ―ニュージーランドと英国でのド ナーへのインタビューから―」における発表に、 加筆訂正したものです。 自発的に応募していた。 日本においても、数は少なくても、不妊治療を経 験した人、子どものいる人生に大きな価値を置いて いる人、不妊に悩む知り合いを持つ人などの目につ く公の場に、配偶子ドナーの募集広告などを掲示す ることが、ドナーとして好ましい人が配偶子提供を 検討する機会を与える上で効果をもたらすのではな いかと思われる。また、多くの人の目に留まる公の 場でドナーの募集がおこなわれれば、配偶子提供に 対する偏見や差別の払拭にも一役買い、今まで以上 にこの技術についてオープンに語れる環境を形成す ることもできるかもしれない。しかしそれと同時 に、公の機関が責任をもってドナーのリクルートに 取り組み、カウンセラーなどの専門家も養成して、 そうした専門家とともにドナーとしての適性を見極 め、スクリーニングしていくことが、将来的なリス クをできる限り回避するためにも不可欠である。 謝辞 本調査に協力してくれたカンタベリー大学のケン・ ダニエルズ氏、ヨーク大学のマリリン・クローショー 氏、英国のドナーコンセプションネットワーク、そし て調査協力してくれた方々に感謝します。 本研究におけるニュージーランド調査は、科学研究 費 助 成 事 業 基 盤 研 究 (C) 平 成 28 年 度 ∼ 平 成 30 年 度 「AID で生まれた人の「出自を知る権利」を保障するた めの教材作成に関する研究」(研究代表者:城西国際 大学 清水清美)の研究助成によって実施し、英国調 査は、トヨタ財団研究助成プログラム、2017 年 5 月∼ 2019 年 4 月、「生殖補助技術で形成される家族につい ての研究」より助成を受けて行いました。 参考資料・引用文献 1) 産経 WEST (2014/04/27)、人生の楽譜③卵子提 供、進まぬ法整備、『卵子』求めて海外へ渡る女 性たち https://www.sankei.com/west/print/140427/ wst1404270075-c.html(2018 年 12 月 20 日 ) 出生者の関係ついても明確な意識を持っているかと いう点も意識する必要がある。調査では 5 名とも、 子どもを養育している人が子の親だと考えていた。 将来、提供先の家族や出生者と自分との間のトラブ ルをなるべく回避しようとするなら、親子関係やド ナーと出生者の関係をについて明確に区別できる人 がドナーとして望ましいと言えよう。
5.まとめとして
本調査で協力を得られたドナーたちの経験は、特 殊なケースといえるかもしれない。しかし、彼らの 語りから、今後日本でさらに提供配偶子による生殖 医療の需要が増えたときに、将来的なリスクを避け るためにも、ドナーとなる人にはどのようなことが 求められるかについてのヒントを、調査を通して得 ることはできたと思われる。最低限、出生者に自ら の情報を開示でき、不妊に悩む人たちを助けたいと いう利他的な動機から無償での提供が可能で、パー トナーの理解も得て、自身の子どもにも提供の事実 を話せる人が、理想的なドナーとして浮かびあがっ てくる。また、養子で形成された親子やステップ ファミリーの親子であっても安定した親子関係を築 いている事例は多く9)、そうした家族を身近に知っ ているなどから、親子に血縁はそれほど重要でない ことやドナーと出生者の関係についても明確に区別 して考えらえる人であることも、ドナーとして好ま しい人の条件に挙げられるだろう。 このような理想的ともいえるドナーを確保するこ とは、当然、匿名のドナーを確保するよりもむずか しい。しかし本調査を通して、ドナー獲得のため に、どのような人をターゲットにどのように広報を すすめると、将来的に問題が少なく、ドナーとして 好ましい人からの提供が期待できるかも見えてき た。不妊治療を経験した人の中には、自分に子ども ができたあと、他の不妊カップルを助けたいという 意識を強く持つ人がいることがこの調査でも示さ れ、また自分は不妊でなくても、身近に不妊に悩む 知り合いがいる場合、B のように人助けのための提 供を思い立つ人もいる。調査協力してくれたドナー たちは、自分の経験や知り合いのことを意識し、ク リニックでの募集広告、公共交通機関での募集広 告、職場 (大学) での募集広告などを見たときに、ain’s most prolific sperm donor – with 800 children,
Metro,
https://metro.co.uk/2016/01/13/this-man- says-he-is-britains-most-prolific-sperm-donor-with-800-children-5619960/(2018 年 1 月 3 日検索) 7) McWhinnie A, 2001, Gamete donation and
anonym-ity: Should offspring from donated gametes contin-ue to be denied knowledge of their origins and an-tecedents, Human Reproduction 16 (5) : 807-817 McWhinnie A, 2001, Gamete donation and anonym-ity: Should offspring from donated gametes contin-ue to be denied knowledge of their origins and an-tecedents, Human Reproduction 16 (5) : 807-817 8) Joyce, C. Harper, Debbie Kennet, and Dan Reisel,
2016, The end of donor anonymity: how genetic testing is likely to dirve anonymous gamete dona-tion out of business, Human Reproducdona-tion 31 (6), pp. 1135-1140. 9) 野辺陽子、2016、終章〈ハイブリッド〉性からみ る「ハイブリッドな親子」のゆくえ―融合、反 転、競合、『〈ハイブリッドな親子〉の社会学 血 縁・家族へのこだわり解きほぐす』青弓社、174-198 頁。 【原稿受理:
2019
年1
月15
日】 2) 朝 日 新 聞 デ ジ タ ル(2017 年 6 月 21 日 )「 岡 山 ) 「 卵 子 提 供 」 の 意 識 調 査、 岡 山 第 が 公 開 セ ミ ナー」、https://digital.asahi.com/articles/ASK6F5S-JNK6FPPZB00R.html?_requesturl=articles%2FAS K6F5SJNK6FPPZB00R.html&rm=265(2018 年 6 月 21 日検索)3) N. Yamamoto, T. Hirata and et.al, 2018, A survey of public attitudes towards third-party reproduction in Japan in 2014, PLOS ONE, https://jour nals. plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal. pone.0198499
4) 朝日デジタル(2018 年 11 月 26 日)「(社説)精子 提供 改めて議論をおこす時」https://www.asahi. com/articles/DA3S13785129.html
5) Jake Polden, April/12/2016, ‘Healthy, working on a PhD and a renowned drummer’: How ‘perfect’ US sperm donor used by British families lied about his schizophrenia and criminal history, Mail Online https://www.dailymail.co.uk/news/article-3536228/ Healthy-working-PhD-renowned-drummer-perfect- sperm-donor-used-British-families-lied-schizophre-nia-criminal-history.html(2018 年 1 月 3 日検索) 6) Amy Willis, Jan/13/2016, This man says he is