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我がこと防災意識の醸成による地域防災力の維持・向上

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Academic year: 2021

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I. は じ め に 2017 年 8 月に閣議決定された新たな「土地改良長 期計画」において,「農村協働力を活かした防災・減災 力の強化」が政策目標の一つとして掲げられ,「日頃か ら想定外を想定するといった地域住民の防災意識を高 め,災害時の人命への影響を軽減するため,…地域の コミュニティを活用した防災・減災活動等のソフト対 策を推進する」1)と明記された。そのソフト対策の一 つとして,住民一人ひとりが自分たちの地域の災害リ スクを良く認識し,災害が発生した時に迅速に適切な 避難行動がとれるように,住民の防災意識の向上に取 り組む必要がある。 そこで課題となるのが,防災意識の持続性である。 多くの地域で防災マップの作成を通じて地域の防災力 の向上が図られているが,その作成時には住民の防災 意識は一時的に高まるものの,時間が経つにつれて防 災意識は薄れてしまう。そのため防災意識を向上さ せ,かつ,それを持続させる方策が求められている。 そこで本報では,山梨県甲府市の中山間部に位置す る帯おび那な地区での実践を踏まえて,①手作り防災マップ の作成,②雨量自主観測の取組み,③自主防災行動指 針の策定,という 3 つの活動からなる地域防災力の維 持・向上手法を提案する。 II. 我がこと防災意識の重要性 1. 住民の避難行動の傾向 2013 年 10 月に伊豆大島で豪雨により土石流が発生 し,多くの犠牲者がでた。この時,土石流が発生する まで町から避難勧告は出されなかった。きわめて激し い雨となったのが深夜 0 時頃であったことや,それま では時間雨量が 30〜40 mm/h で推移していたことな どから,町が空振りを恐れて避難勧告の発令を 躊ちゅう躇ちょ してしまったようである2)。このように行政から避難 勧告・指示が発令されるタイミングは遅くなりやすい が,一方で住民自身の避難行動も概して遅いのが実状 である。 なぜ早期の避難が難しいのか,これについて,2005 年 9 月に九州・中国地方に大規模な土砂災害をもたら した台風 14 号の事例から考えてみたい。 その際に早期の避難行動ができなかった理由とし て,被災現場住民から次のような声3),4)が寄せられた。 ・毎年台風が来ているので,台風襲来には慣れてし まって,避難まで考えなかった。 ・テレビでも情報が流れる一方で,行政の情報伝達 頻度が少なく,聞き逃した。 ・既存の広報では避難する意欲が出てこない。 ・目の前の河岸浸食や農地決壊の方が気になり,裏 山が危ないという認識はなかった。 ・夜中,台風が吹きすさぶ強い雨の中,避難する方 がむしろこわい。 ・近くに避難所がなかった。近くに避難所がないと 誰も避難しない。 ・危ないのはわかっていて家で警戒していた。 ・避難するよう言われたが,家や家畜を放っておけ ず母屋の隣の牛小屋にいた。 ・家や農具が心配で避難の決心が付かなかった。 行政は,防災計画やハザードマップを作成し,広く 住民に広報する努力をしているが,以上のように住民 の避難行動の傾向を良く理解し,それを踏まえて住民 の防災意識を改善させる努力もしなければ,地域防災 力は十分に高まらないであろう。 2. 我がこと防災意識の醸成・保持 これまでの防災計画は,土地情報分析などから得ら れた科学的知見のみに基づいて作成されており,経験 知や生活知など住民の危険認識による情報は参照され ていない。そのため住民の関心や理解を得られず,地 域の自主的な防災・減災活動に結び付いていないこと が多い,と指摘されている5)。また,そのことが住民 の多くが防災計画やハザードマップにあまり関心を持 たない要因の一つになっている,と考えられる。住民 の危険認識による情報を加味して防災計画を立てるこ

我がこと防災意識の醸成による地域防災力の維持・向上

Upbringing of Self Disaster Prevention Consciousness for Reconstruction

of Community Disaster Prevention Power

HIGEOKA OSHISAKO UKUMOTO

重 岡

(SHIGEOKATetsushi)

吉 迫

(YOSHISAKOHiroshi)

福 本 昌 人

(FUKUMOTOMasato) * *農研機構農村工学研究部門 地域防災力,防災意識,雨量観測,自主防災,ハ ザードマップ

報 文

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とが今後求められる。 地域に起こりうる災害をよく理解し,そのリスクを 我がこととして身近に認識する「我がこと防災意識」 を住民に持ち続けてもらうことも重要である。その意 識が保持されていなければ,避難勧告が出されても速 やかに避難行動に入るのは難しいであろう。また,平 時からその意識が少しでも保持されていれば,防災計 画やハザードマップの効力は十分に発揮されるであろ う。突発するゲリラ豪雨などの自然災害に備える地域 防災・減災力を維持・向上するためには,住民の「我 がこと防災意識」を醸成し,かつそれが平時にも保持 されるような仕組みを作ることが重要である。 III. 地域防災力の維持・向上手法 図-1 に,提案する地域防災力の維持・向上手法を 示す。本手法は,①住民の防災への取組みに対する関 心や理解を喚起する「動機付け」の取組み,②喚起さ れた防災への取組み意識を継続する「繋つなぎ留め」の取 組み,③継続する意識を具体的な減災・防災行動に結 実させる「規範化」の取組みを段階的に実施すること によって,住民の「我がこと防災意識」を醸成し,保 持させようとするものである。 1. 動機付けの取組み 第 1 段階の「動機付け」の取組みは,図-2 に示すよ うな 4 つのステップからなる「手作り防災マップ作成 ワークショップ(WS)」プログラムを実施して住民の 地域防災活動への参加意欲を動機付けようとする活動 である。その詳細については,別報6)を参照されたい。 本プログラムを実施することにより住民は地域環境に 顕在・潜在化する災害リスクを認識・理解するととも に,災害時での避難経路や避難場所などを共通確認 し,我がこと防災意識が喚起されていく。 帯那地区で本プログラムを実施したところ次のよう な成果が得られた。第 1 ステップの「環境点検」によ り,住民は,自らの生活環境を災害の観点から客観的 に眺めることができるようになった。第 2 ステップの 「リスク評価」により,住民は,豪雨に伴う生活環境の 被災リスクや避難行動をリアルに認識できるように なった。第 3 ステップの「我がこと評価」で,自宅と災 害リスクや避難行動との距離感などの関係を可視化す ることにより,住民は,我がこと防災意識を強く持つよ うになった。最後の第 4 ステップの「リスク抽出」で, 住民の描いた災害リスクマップの上に,地形勾配デー タや県が公開しているハザードマップを重ね合わせて 示すことにより,住民は,地域の災害リスクを重く受け 止め,地域防災への取組みに向き合うようになった。 2. 繋ぎ留めの取組み 第 2 段階の「繋ぎ留め」の取組みは,雨量の自主観 農 業 農 村 工 学 会 誌 第 85 巻 第 12 号

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図-1 地域防災力の維持・向上手法

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測を通じて,「手作り防災マップ作成 WS」プログラム で喚起された住民の地域防災への取組み意識が平時に おいても一定の水準で保たれるようにしようとする活 動である。 手作り防災マップ(図-1 の(a))を作成していく過 程で,地区の雨量を自分たちで観測すると防災意識が 持続できるかも知れない,と意欲的な提案が住民から なされた。そこで農研機構が開発した,誰でも容易に 扱える「スマートフォンを活用した簡易雨量観測閲覧 システム(図-1 の(b))」を本地区に導入し,2014 年 6 月から雨量の自主観測に取り組むこととなった。 雨量観測は初めてであるため,観測データに対する 住民の関心は高かった。同年の梅雨時期が過ぎた頃に 観測結果を WS で示したところ,比較的まとまった降 雨のあった 7 月 9 日の雨量データに参加住民の関心 が集まった。17 時から 19 時までの本地区(集落,昭 和池,大正池の 3 地点)の雨量が,本地区から 4.5 km 離れた甲府市街に位置する甲府気象台が観測した雨量 よりも予想外に多かったことや,本地区で降雨が始 まった 17 時の時点では甲府市街ではまだ雨が降って おらず,市街地に先行して降雨が始まっていたことが 観測データからわかったからである。これを題材にし て参加住民の議論が進み,低平地部と山間部で降雨の 発生パターンに大きな違いが見られることや,近年の 特徴としてきわめて狭い範囲で集中的に豪雨が発生す ることなどが話題となった。 こうした中,豪雨災害の発生が予想される時に能動 的かつ迅速に避難行動ができるようにするため,雨量 の自主観測を継続していくことが重要であると認識さ れ,表-1 に示すような自主観測活動の運用規程が取 りまとめられた。 なお,隣接の集落にも簡易雨量観測システムが設置 され,つい最近(2017 年 9 月),雨量観測結果の WS 検討会を開催したところである。 3. 規範化の取組み 第 3 段階の「規範化」の取組みは,自主観測した雨 量を基準とした地区独自の防災行動指針を整備する活 動である。 雨量と災害発生率は密接に関係しているが,住民に は,時間雨量や累積雨量といった数値から災害リスク を直感的に判断することは難しい。自主観測した雨量 を住民の自主防災行動に結び付けるためには,雨量を 日常的会話で使われる言葉で表現し,その雨量表現を 防災行動と対応させるようにする必要がある。 そこで,第 3 段階の「規範化」の取組みとして,日 常的な雨量表現を基準とした地区独自の防災行動指針 を防災連絡体制とともに整備し,それらを地区の自治 活動の中に位置づけた。 本地区では,降雨の強度を“おしめり”,“降ってき た”,“大降りだね”,“大変な降りだね”という言葉で 表-1 地区組織による自主観測活動の運用規程(平成 26 年 5〜11 月の試行運用) 組 織 対 応 観測部設置 ・協議会の自主観測専門部会 ・10 人構成(協議会役員から選出) ・部長は協議会長 ・閲覧タブレット 5 台を常設 観測員任命(4 人) 常時在宅している観測部員(=協議会役員) 住民への閲覧アプリ配布 住民は閲覧アプリで随時観測データを閲覧可能 観測器の設置・メンテナンス 観測方法の考案 観測器設置場所選定 ・協議会役員(37 人)で検討 ・手作り防災マップ作成時の住民意向を踏まえ検討 ・設置場所所有者の許可申請 観測部が設置工事 観測員がメンテナンス 観測器は 2 基設置。 スマートフォンの再起動, バッテリー交換など 観 測 方 法 観測員がタブレットで確認 ・観測結果は日誌(雨日誌)に記録 ・天気予報で観測タイプを判断 ・激しい雨量を観測したら部長に連絡 定時観測(毎日) 2 回/日:8,16 時 強化観測(弱い降雨時) 4 回/日:6,10,14,18 時 〃 (普通降雨時) 7 回/日:6,8,10,14,16,18,20 時 〃 (強い降雨時) 12 回/日:2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24 時 非常時観測(激しい降雨時) 毎時(24 回/日) 表-2 自主防災行動指針 日常的 雨量表現 自主観測雨量の基準(mm) 防災行動指針 1 時間 6 時間 24 時間 おしめり 〜3 〜10 〜20 自治会長,土地改良区役員,消防団は観測機器の動作確認を行う。 降ってきた 3〜5 10〜15 20〜25 自治会長,土地改良区役員,消防団は降雨の推移に注意を払う。 大降りだね 5〜10 15〜20 25〜30 自治会は監視態勢に入る。地区役員・組長などと防災行動の協議に入る。 大変な 降りだね 10〜 20〜 40〜 自治会,住民全員は警戒態勢に入る。 自治会役員などは関係機関と緊密に連絡をとる。 自治会長は行政防災部局に防災対応について打診。

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表現していた。たとえば,“大降りだね”,“大変な降り だね”は地区では年に数回あるかないかの豪雨を指 す。住民の共同作業により,それらの表現と自主観測 した雨量との対応付けが行われた。すなわち,これま での観測データをもとに,各観測時の雨の降り方を思 い出しながら,4 つの表現それぞれに対応する雨量が 決められた。さらに各雨量が観測された時の防災行動 のとり方が検討された。こうした作業を経て,表-2 に示すような自主防災行動指針がまとめられた。 その行動指針の特徴は,雨量基準のレベルが行政の 提示している雨量基準のレベルよりもかなり低いこと である。そしてこの行動指針は,行政の避難勧告や防 災計画に備えるためのいわば事前準備(心構え)の指 針として位置づけられている。 行動指針の作成と連動して,指針に基づいた運用を 実施するための連絡体制づくりが進められた。たとえ ば,「大変な雨だね」に対応する雨量が観測された場 合,自治会役員などは関係機関と緊密に連絡をとり, 自治会長は行政防災部局と防災対応について打診する ことになっている。その連絡体制が整備され(図-3), 地区内の各組織それぞれに具体的な役割が振り分けら れた。 IV. 結 語 帯那地区での取組みは現在も継続されており,住民 の防災に対する関心が 4 年以上も持続されている。こ のように長期に関心が持続できた背景として,地区の 社会的性格,豪雨災害の頻発,強力な地域リーダーの 存在といったことがあげられる。では,そのような背 景のない地区ではどうであろうか。提案した地域防災 力の維持・向上手法は,ステップアップ仕立てになっ ており,「我がこと防災意識」の①喚起,②継続,③規 範化のうち,①が②の仕掛け,②が③の仕掛けになっ ているので,活動がきわめて円滑に継続していく。そ の仕組みが住民に分かりやすく,参加のモチベーショ ンの持続につながったと考えている。このため本手法 は,上記のような背景のない地区でも効力が発揮され る,と考えている。 自主防災の組織づくりや防災マップの作成といった ソフト対策を行うだけでは,地域防災力を持続させる のは難しい。今後,本手法のような住民の「我がこと 防災意識」を醸成・保持をするソフト対策も強く推進 していく必要がある。 引 用 文 献 1) 農林水産省:新たな土地改良長期計画,p.31(2017),http: //www.maff.go.jp/j/press/nousin/keityo/attach/ pdf/160824-1.pdf(参照 2016 年 9 月 26 日) 2) NHK 時論公論「伊豆大島土砂災害 出されなかった避難 勧告」,2013 年 10 月 22 日放送 3) 天野 篤,高山陶子:土砂災害と防災情報〜台風 0514 号災 害 の 避 難 に 学 ぶ 〜, 日 本 地 す べ り 学 会 誌 43 (6), pp.370〜375(2006) 4) 高橋和雄,河内健吾,近藤久泰,中村聖三:2005 年台風 14 号における土砂災害警戒情報の運用と鹿児島県内市町村お よび住民の対応,自然災害科学 26 (4),pp.343〜353 (2008) 5) 福和伸夫,倉田和己,飛田 潤,護 雅史:減災行動誘導の ための地震ハザード・リスク情報の説明力向上に関する研 究 (その 1)Google Earth を用いたハザード・リスク情 報の相互作用,日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.209〜210(2009) 6) 重岡 徹,山本徳司:防災・減災意識を醸成する「手作り 防災マップ WS」プログラム,水土の知 81(8),pp.13〜17 (2013) 〔2017.10.25.受理〕 重岡 (正会員) 1960年 熊本県に生まれる 1986年 明治大学大学院農学研究科修了 2016年 農研機構農村工学研究部門技術移転部 教授 現在に至る 吉迫 (正会員・CPD 個人登録者) 1964年 東京都に生まれる 1990年 東京農工大学大学院農学研究科修了 2016年 農研機構農村工学研究部門施設工学研究 領域地域防災ユニット長 現在に至る 福本 昌人(正会員) 1964年 三重県に生まれる 1986年 京都大学農学部農業工学科卒業 農林水産省北海道農業試験場 2016年 農研機構農村工学研究部門農地基盤工学 研究領域農地利用ユニット長 現在に至る 農 業 農 村 工 学 会 誌 第 85 巻 第 12 号

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1. 我がこと防災意識の醸成による地域防災力の維持・向上 重岡 徹・吉迫 宏・福本 昌人 地域防災力を高めるためには,住民や自治会が平時から地域 に起こりうる災害リスクを我がこととして捉える意識(我がこ と防災意識)を持ち続けることが重要である。多くの地域で は,防災マップの作成を通じた防災力向上が取り組まれている が,作成時に一時的に住民の我がこと防災意識は高まっても, 時間を経るにつれて意識が薄れていく傾向が指摘されるなど, 実行性のある防災力を持続することに苦慮している。本報で は,住民や自治会の災害リスク対応能力を維持し向上させるこ とを目的として,手作り防災マップの作成,雨量自主観測の取 組み,自主防災行動指針の策定の 3 つの取組みからなる我がこ と防災意識の醸成によって,地域防災力の維持・向上手法を提 案する。 (水土の知 85-12,pp.3〜6,2017) 地域防災力,防災意識,雨量観測,自主防災,ハザード マップ 2. 水田の有する多面的機能を活用した地域防災の取組み 椿 一雅 近年,全国的に多発している集中豪雨による浸水被害の軽減 策として,田んぼダムの有効性がこれまでの研究で示されてい る。全国の田んぼダムの取組みにおいて最も先進的とされてい る見附市の田んぼダムについて,その能力や効果,推進するた めの事業スキームという視点ばかりではなく,農家の協力が不 可欠となる本取組みを見附市が大規模に導入できた背景や当初 の課題とそれに対応する「仕掛け」や「仕組み」などのプラン, アクションについて報告する。 (水土の知 85-12,pp.7〜10,2017) 豪雨災害,多面的機能,田んぼダム,見附市,水位調整管, 見附市広域協定 3. 洪水調整機能向上に向けたため池群の用水調整手法の提案 吉迫 宏・吉田 明・草 大輔 嶺岸 憲一・出井 宏樹 用水計画手法に基づいて,ため池の日当たり貯水率を降雨に よる貯水池への流入量と受益水田で必要な用水量の収支で求め る計算式を提案するとともに,灌漑期間を通じて求めた日当た り貯水率を指標として,用水に余裕のあるため池から用水が不 足するため池へ用水調整を行う検討手順を提案した。兵庫県高 砂市内のため池群を事例に提案した手法を試行し,洪水吐にス リットを設置して洪水調整容量を設定した場合の灌漑期間中の 貯水率を指標とした利水余裕度を求めるとともに,ため池間の 用水補給と貯水池の拡張を組み合わせることにより,ため池群 内の用水調整で 1/10 非超過確率年においても灌漑期間を通じ た用水の確保が可能なことを例示した。 (水土の知 85-12,pp.11〜14,2017) ため池,計画手法,用水管理,水収支,洪水調整 4. 直列ため池の連鎖決壊時における氾濫解析手法の提案 正田 大輔・堀 俊和・吉迫 宏 安芸 浩資・長尾 慎一・三好 学 新たな土地改良長期計画では,「ハザードマップ等ソフト対 策を実施する防災重点ため池」を 10 割とする政策目標が掲げ られている。親子ため池や重ね池とよばれる谷筋に直列的に連 続するため池では,上流側のため池の決壊が引き金となり下流 側のため池も決壊して,被害を拡大させる場合がある。そこ で,直列ため池における連鎖決壊の発生を簡便に判断した上 で,連鎖決壊に基づく浸水想定区域を求めるための実用的な氾 濫解析手法を提案する。平成 16 年台風 23 号で決壊した兵庫 県洲本市の三連直列ため池を対象に検証した結果,災害時同様 に上池の決壊に伴い連鎖して下池が決壊したことから本手法で 連鎖による破堤を判定できたものと考えられる。 (水土の知 85-12,pp.15〜18,2017) 親子ため池,重ね池,連鎖決壊,氾濫解析,ハザードマップ

小特集 「農村協働力」を活かした防災・減災力の強化

特集の趣旨 近年,自然災害が頻発化,激甚化してきており,昨年は熊本地震,北海道・東北豪雨,鳥取県中部地震など,集中豪雨や 地震により各地で農業・農業用施設に甚大な被害が生じました。さらに,今後,南海トラフ巨大地震や首都直下地震など, 東日本大震災を上まわる規模の自然災害の発生も懸念されています。 他方,人口減少・高齢化や農業構造の変化などが進む農村地域では,農村協働力が脆弱化し,共同活動を営んできた集落 の弱体化,施設の管理や防災の担い手の減少により,地域の防災・減災力の低下が都市部より深刻化しています。 このような中,平成 28 年 8 月 24 日に閣議決定された新たな土地改良長期計画では,「社会資本の継承・新たな価値の創 出と農村協働力の深化」を基本理念に掲げ,政策課題の一つである「強くてしなやかな農業・農村」では,農業水利施設の 老朽化対策や耐震化等のハード対策のほか,農村協働力を活用したソフト対策を組み合わせ,地域の防災・減災力の向上を 促進するとしています。 頻発化・激甚化する自然災害に対し,時間や費用を要するハード対策だけでは限界があり,「想定外」,「最悪の事態」を想 定して地域のコミュニティを活用した防災・減災活動などのソフト対策の推進が一層必要となっています。そのためには, 農村協働力の維持・向上を図りつつ,被災状況の迅速かつ的確な把握,防災情報の伝達体制の整備,地域住民の防災意識の 向上,ハザードマップの作成,ダムやため池などの基幹水利施設のモニタリング体制の構築や災害時のリスク評価,迅速な 復旧活動,業務継続計画(BCP)の策定などに係る知見やノウハウの蓄積と技術開発が重要となります。 そこでこれら「農村協働力」を活かした防災・減災力の強化に関する取組事例や課題・知見,調査・研究についての報文 を紹介します。

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