Author(s)
吉川, 博也
Citation
沖縄大学紀要 = OKINAWA DAIGAKU KIYO(15): 279-310
Issue Date
1998-03-01
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5850
沖縄型環境アセスメントとその制度化の提案
博也
吉
川
1章沖縄型環境アセスメントの必要`性 (1)自然の社会の多様性 (2)忘れがちな公平さ (3)海洋保全計画が必要 (4)いかに信頼性を高めるか 2章環境アセスメント・モデル (1)環境アセスメントの社会的背景 (2)方法論上の特性 (3)環境アセスメント・モデルの提案 3章沖縄県環境影響評価条例の提案 第1総則 第2沖縄環境管理計画 第3環境影響評価の審査 第4環境調査報告書等 第5環境影響評価審議会 第6雑則 第7罰則 付則 -279-1章沖縄型環境アセスメントの必要性
宇井純、大嶺哲雄両先生は、沖縄の多くの環境問題提起、政策提言、自然保護に係わられ、環境問題解決に御努力をされてきた。両先生は、本年、停年退
官をむかえられたが、幸いに引き続き、沖縄大学で特任教授として後輩の指導
に当たられる。両先生を記念するにふさわしいテーマとして日ごろ考え、体験 している沖縄の環境問題を、その背景にある沖縄の自然環境、社会構造特性を 踏まえ問題解決のための、環境アセスメントを提言してみたい。 また、前任の大学で大学院レベルで環境アセスメント(以下、EAと略記) と銘打って開講しているのは、おそらく日本では初めてではなかったかと思わ れ、一方で沖縄の環境の問題に対して義務的なものも感じていた。議論のきっ かけを作るという意味で沖縄に移り住んで丸3年になるが、日ごろの沖縄での 体験に基づき「問題意識→問題解決のための方法論(モデル)の開発→制度 (条例)の提案」というフレームで整理して述べてみたい。 国民の、国民による、国民のためのアセスメントを目的にしたEA法は、国 会で継続審議を再三繰り返したものの、現在に至っても、成立の日の目をみて いない。この主要な要因は産業界の根強い反対によるものである。しかし読者 は意外と思われるかもしれないが、日本の環境問題に対する本質的な問題点が 幾つも含まれている。例えば日本の法体系全体は伝統的に(プロシヤ的な)実 体法であるのに対して、導入しようとしているEA法・制度は英・米流の手続 法的指向という、いわば木に竹を継ぐたく、いの問題をはじめとして多くの課題 がある。 (1)自然、社会の多様'性 〈画一的なものでいいだろうか〉 日本の自然はそれこそ、北は北海道のサロベッ原野から南は西表島のマング ローブ林まで、南北三千キロの極めてバラエティーに富んだ多様な環境がその 特`性である。 例えば赤土流出問題は、沖縄の年間平均降雨量が2,400ミリにもかかわらず、 これらを考慮せずに本土標準の1,000ミリ前後を基準にした農地開発方式や土 -280-木施行方法をそのまま適応実施していることが原因である。また、在日米軍基 地の専用施設の約75%、本島の面積の約20%を沖縄が抱えており、EAの対象 としてこれをはずすことは当然、できない。 一方、社会構造としてわが国の中でも最も共同体的(意思決定の)傾向が強 い社会で、かつ現状、現実(権威主義、能率主義)に対して強い不満を持って いるのが沖縄である(沖縄地域科学研究所「沖縄県の県民像とその展望」1982 年、123ページ)。そしてこれらの社会的な要素がはしなくも、それも絵にかい たように表出したのが、新石垣空港EAを巡って起きた一連の社会現象であっ た。 EA制度の対象である自然、環境問題、その実効'性を担保する住民参加の仕 組みは、当該地域の自然・社会特`性と社会関係、構造とが強く関係する。仮に EA法が国会を通過し、実施されることになったとしても、国の画一的な調査 と予測方法、標準的な評価基準と住民参加形態とによって全国で同一のEAを 実施して、果たして本当によいものだろうか。 〈逆に国をリードするのが真骨頂〉 国の指導を単純にうのみにしたり、ほかの自治体との無意味な横並びを心が けるのは無意味である。ここに、沖縄の自然、社会、政策・意思決定、風土特 '性を十分に見据えた、県民のためのEA制度の確立が期待されるゆえんである。 そしてこのことは法的にも十分保障されており、言うまでもなく憲法92条の 地方自治の趣旨は、地域の問題は地域の自主`性にゆだねるとの理念のもとに、 とくに住民福祉・厚生・環境に関する行政は自治体にまかせることを意味して いる。さらに生活環境等に関しては自治体固有の事務領域であって、仮に国が EA法案で規制措置をとるようになるとしてもナショナル・ミニマムでしかな く、沖縄県が上乗せ、横出し規制を行うことは何ら規制されるものではなく、 むしろ歓迎されるべきものである。この点については昭和58年3月7日の福岡高 裁判決、いわゆる「飯盛町条例事件」においてすでに古くから確立され、広く 認められている。
多くの自治体の福祉、公害防止条例がそうであったように、県(そして市町
-281-村)国に先行して条例化を行い、むしろ国をリードすることが自治体の環境行
政の真骨頂ではなかろうか。沖縄の自然が前述したように、本土のそれとは著
しく異なることはだれもが認めるところで、EAの独自性を主張するには沖縄
県は最も理論的に理解を得やすいところであり、かつその必然`性もある。
(2)忘れがちな公平さ く制度に対する信頼性の確立〉環境アセスメントとは「開発行為を行う前に周辺環境にどのような影響を与
えるかを事業者が事前に予測、評価、公表し、地域住民の意見を反映すること
によって、環境破壊を防止するための一連の手続きを定めた制度」である。こ
の定義からも明らかなように、EAには科学的な二つの側面、すなわち科学的、
社会的側面を持っている。にもかかわらず、どうもEAは一方の側面、正確に、十分な環境項目(カバ
レッジ)でそして詳しく行うことで必要性のみが強調されがちである。科学的
な調査要件である正確さと同様に重要な、社会的な(手続き要件である)側面
でのポイントである公平さが、とかく忘れられがちである。EA制度は住民か
ら信頼されてはじめて機能するものであって、それには正確`性と公平性の両視
点がどうしても必要不可欠なのである。このことをEA制度の要である、EA報告書を例にしてわかりやすく説明を
してみよう。一つは開発主体(企業、県など)が仮に2,000万円の費用を掛け
て、自らが選定したコンサルタント会社に依頼して報告書を作成し公表したと
しよう。もう一つは開発主体と地域住民が、それぞれ選定した異なったコンサ
ルタント会社に1,000万円ずつの費用で依頼して報告書を作成し、両者を比較
して公表したとしよう。たしかに費用を二倍掛けた方がより詳しく、十分な範囲で、正確な報告書で
科学的な意味で正確性が担保されるから住民からも信頼されるはずである。し
かし現実的にはむしろ後者の方が信頼されるのではなかろうか。現在の日本の
社会状況から判断して、住民感情からすればお金をもらう発注者に対して事実
関係はぬきにしてコンサルタント会社が告発するような報告書を作成するとは
-282-とうてい思えない。ここに公平'性の必要性があり、かつそれを確保・担保する ためには当該社会の特性が強く絡んでくる。 新石垣空港EAで「合け)ワセメント」という不名誉な新造語を生むよう な社会状況の沖縄で、ではどのようにすればEA制度が沖縄で本当に社会的に 機能するための信頼,性を確保できるか。これは単に沖縄の問題、課題ではなく、 全国に共通する。沖縄では、このことが見えやすい、わかりやすいのである。 〈事前の環境保全計画の立案と公表〉 EAの制度化と平行していやそれに先行して、沖縄全域についての環境保全 (管理)計画を立案すべきである。これは地域ごとの開発・環境容量、すなわ ち保全すべき地域と開発の許容できる地域とを示したもので、これを事前に県 民に公表しておく。いわばベース・アセスメントが必要である。 開発事業が提案されたならば、この影響の大きさと事前に公表されている開 発・環境容量とを比較し、その開発が許容できるかどうかを判断すればよい。 この環境保全計画の導入によって恐意性を大幅に排除することが可能となり、 EA制度に対する住民からの信頼』性が確保できる。また私の経験からすれば沖 縄のように面積の小さいところでは、EAごとに個別に環境の基礎調査をする よりも一括して実施する方がコスト的にも有利である。 沖縄においてはその基礎はすでに整っているといってもよい。復帰直後の 1972~74年、財・政策科学研究所が県の委託で「沖縄県土地利用基本計画』を 作成している。また大嶺先生からは、発刊された時点から報告書を高く評価し ていただいた。これは5万分の1のスケールで、海域を含めた沖縄全域の各種の 環境容量が詳細に示されている。この調査費が当時で1億円という破格なもの であったことによっても、いかに県が力を入れていたかを知ることができる。 私も本土側のコーディネーターの-人として参加しており、この調査結果が現 在でも、その考え方は十分利用可能であることを熟知しているし、活用(後に その一例を示した)していただきたいと思っている。 -283-
(3)海洋保全計画が必要 一海と陸をワンセットにした環境保全一 〈沖縄の自然特性とアセスメント制度〉 沖縄の環境アセスメント制度の信頼性を確保するために環境保全計画の必要 `性を提案したが、これを具体的な例にして本土とは異なる沖縄の自然特性が EA制度にいかに関連し、逆に規定するかを述べてみたい。 この環境保全計画を立案するにあたって、沖縄では何よりもまず自然特性で ある島しょ生態系、なかでも海と陸をワンセットとする保全思想(システム) が尊重されなければならない。今まで、海域は常に陸域の開発、利用のつじつ ま合わせの場、処理の場に供されてきた。最も極端な例が埋め立て利用であっ て、これは陸域の空間不足そのものを、海でつじつま合わせをしようとしたも のである。 沖縄の海域に特徴的なサンゴ礁は光合成による海の一次生産者として重要で あるとともに、海底に複雑、多様な地形を形成し、魚類をはじめとする海の生 態系の基盤をなしている。開放`性のサンゴ礁と遮へい性のサンゴ礁の入り組む 場所は多様性からも豊かさからも特に重要であって、魚類の産卵、稚魚の成育 の場となっている。一方、この沖縄の海域は前述した特性ゆえに、きわめてぜ い弱である。 さらに陸上部での岩石の(深層)風化特性と、赤土の存在が深刻な問題とな る。これらは浸食性が高く、表面流によって浸食され、多量の微粒物資を含む ために、流水中に懸濁または溶解して運びきられやすい。また沖縄の降雨は本 土と違い、強雨の出現頻度が大きく十分間雨量20ミリ以上、時間雨量80ミリ以 上の集中豪雨がしばしば襲う。こうした強雨によって、開発によって植物の除 去された土地からはバイオロジカル・バランスが崩れ赤土が多量に流出する。 くわえて沖縄の河川はいずれも短小であって、降雨の海への流出は速い。こ のようにして、陸上における環境変化の影響はたちまちにして海へ及び、海岸 と海域の多様な自然を急速に破壊してしまう。それ故、流域ごとの環境容量の 設定と確保がぜひ必要である。沖縄における土地利用、開発を評価するにあたっ て陸上からの発想のみならず、一番の環境弱者であるといってもよい海域、そ -284-
図-1海洋生態分級図 一石垣島周辺のサンゴ礁と海藻の分布図一 綴 lomul 20-IO
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海域の境界 海域ナンバー 出所:共著「沖縄土地利用基本計画」(離島編)財・政策科学研究所、479頁、1974年。 -285-図-2生態・漁業沿岸分級 一石垣沿岸漁業図一 凡例
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些崔uヨニは 出所:共著「沖縄土地利用基本計画」(離島編)財・政策科学研究所、609頁、1974年。 -286-図-3海洋汚染危険分級図 =垣海域の海洋保全
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出所:共著「沖縄土地利用基本計画』(離島編)財・政策科学研究所、663頁、1974年。 -287-してインパクト(影響)の発生する流域側からの検討が必要である。詳細は省 略するがそのため一例として前述した「沖縄県土地利用基本計画』を利用し、 海域、流域ごとに図-1「海洋生態分級」、図-2「生態・漁業資源分級」、図一 3「海洋汚染危険分級」を作成し、これを総合化した海洋保全計画を示した。 これをモデルとして発展させたのが後述の図-5であって、図-1は図-5の h、iに、図-3はgに対応する。 さてEAの制度化にあたって主要な検討事項は、どの事業をEAの対象にす るかという対象事業、その評価すべき項目の範囲を示す評価項目、制度の実効 性を担保する手続き中における住民参加の仕組みと審査手続きである。 このうち、評価項目は前述した沖縄の自然特性と直接に関係してくる。沖縄 の自然は多様でぜい弱で、環境容量は海域、流域ごとに異なる。 従って対象事業に関しては少なくとも本島と宮古、石垣、西表そしてその他 離島とでは対象事業の種類と規模が当然、異なる。本島ではEAの対象としな いような事業でも、小さな離島にとっては環境に大きな影響を与えることがあ る。また西表のように特別に保護をする必要のある地域と、そうでない地域と でも異なる。このように沖縄においてはきめ細かに関する指定が必要である。 (沖縄県環境影響評価条例、実施規則の中には付表として離島の規模ごとに対象 事業規模を指定した。ここでは紙幅の関係から省略した。)例えば逆に「列記 事業と同程度に影響を及ぼすおそれのある事業」というように、米国の国家環 境法(NEPA)に包括的な規定をこれに加えることも考えられる。 また評価項目が沖縄の自然特`性と密接に関係してくることは、今まで述べて きたことで読者には明確であると思われる。これに加えて現在、そして今後の 沖縄を支えていくリゾート産業と自然保護とのために、これまで含められてい なかった資源(という視点から)として、これに「レクリエーション資源」を ぜひ加えることを提言したい。 (4)いかに信頼'性を高めるか -専門委員会のあり方が重要一 く沖縄の社会特性とアセスメント制度〉 -288-
環境アセスメントの制度化への自然特性の影響を述べたが、沖縄の社会特性、 構造ともまた深く関係してくる。それは主として、EA制度の実効`性を担保す るための手続きである住民参加と審議会・評価委員会の仕組みである。 大勢の人々がみんな環境問題の専門家ではないわけで、EAへの「信頼性」 の問題は「信頼できると思うか」という主観的なものによって左右される。従っ て社会を代表して、この「信頼性の程度」を決めることになる制度、機関に対 する信頼`性の問題に帰着する。EAの技術指針を決定し、報告書を審査、評価 し、知事(首長)へ意見を具申する専門委員会や審査・評価委員会のあり方が EA制度への信頼性、定着を高める上できわめて重要である。 しかし現在、国、自治体が公共事業をはじめとする開発事業の促進者、媒介 者としての`性格を強めている結果、環境問題にかかわる紛争を歯止めのきかな いものにしている。EA制度においてこれをカバーするのが住民参加と審議. 評価手続きである。これは事業実施主体が行ったEAと、直接影響を受ける住 民の意見を反映させることを保障し、さらに第三者機関が客観的に検討して、 誤りや虚偽を正し、評価の不備を補うものである。 わが国の中でも共同体的な色彩が特に強く、共同型準拠集団主義の沖縄の社 会特`性からすると、利害当事者間の直接型交渉は準拠(血縁、地縁)集団の決 定と規範にしばられ、柔軟'性を欠き、しばしば抜きさしならない対立に至る。 これは石垣新空港をおはじめとして、沖縄の多くの地域紛争にみられる現象で ある。ここに沖縄社会に適した、実効性のあるEAの社会的システムが求めら れる。 〈アセス制度での中労委型合意形成〉 戦後、日本本土で経営者側と労働組合とでかなり深刻な対立が多発し、労働 紛争が長びき日本経済の再建が-時、危ぶまれたことがある。この対立と紛争 を解決し、両者の合意形成をはかるものとして考え出されたのが「中央労働委
員会」方式である。これは経営者側と労働者側の両者が、いってみれば日本社
会、コミニテイー(のコモン・センス)を代表する中央労働委員会および委員
と、一旦リライヤビリテイー(信頼)をオン(ゆだね)して、そこで仲裁して -289-もらう。そしてその結果を、それぞれの組織に持ち帰り決定事項あるいは修正 を加えるという方法である。ここでのポイントは委員会の構成が、両者にとっ ていかに公平かにかかっているかが決め手になる。
EA制度において現実的な問題・紛争解決の方法として同様なシステムの導
入を提案したい。この点も前述した環境制度上の基本問題、日本の間接.専門家型問題解決法という実体法的な指向と、米国などの直接的・市民型問題解決
という手続法的な指向に関係してくる。その典型が米国の裁判制度にみられる 陪審員制度である。 この場合は中労委にかわるべき「審査・評価委員会」の構成が重要になる。 客観的な判断を期待される学識経験者とともに、事業者側と地域住民の双方の利益と意見を反映する代表者を加える必要がある。EA制度の審議・評価委員
会において、このような配慮が行われているのが川崎市、名古屋市、八尾市で
ある。ちなみに川崎市における市民代表は町内会連合会、公害監視会議、労働
協議会、商工会議所、公害をなくす会、農業を守る会である。さて、『沖縄型環境アセスメントの必要`性』を述べてきたが、何も沖縄だけ
が自然特性、社会特`性を考慮しなければEA制度に実効性を担保できないわけ
ではない。このことは日本の自治体すべてに言えるが、そのなかでも特に沖縄は必要性が大きく、このことを国からも理解されやすいであろう。従ってEA
法案に関しては国との関係で、他自治体の範となるべく期待されるし、その義
務もある。沖縄型のEA制度、技術が確立されれば途上国には沖縄と同様の亜熱帯、島
しょ、サンゴ礁の地域が多くかつ自然破壊の危険にさらされている。技術移転をはじめとして、国際的な貢献が大いに可能である。また国は国際援助開発、
日本企業の進出・事業に対してEAの義務づけを検討しているところである。
このような時、EAの技術開発、よい意味での実験の場として沖縄を位置づけ、
国は財政・技術・人材面で大いに支援をすべきではないか、場合によってはODA(海外援助予算)の使用も検討してほしいところである。
-290-2章環境アセスメント・モデル (1)環境アセスメントの社会的背景 前述したように環境アセスメント、さらに沖縄型環境アセスメントの必要`性 が叫ばれている第一の理由は、今まで開発に関する評価は主としてプラスの側 面で事足りていたが、開発の巨大化、急激な増加に比例してマイナスの側面が 大きくなったためである。これは本来は人間の福祉の手段であるべきはずの生 産活動が、その手段であることを忘れて、自己目的化してしまったことにより 環境破壊を招くようになったからである。生産や消費活動のプロセスにおける 自然への働きかけがあまりに大きいため、環境の悪化が急速かつ深刻になって きたのである。 第二は現在の技術の欠陥である。ごく最近の例だけみても、巨大タンカー座 礁による原油流出、さらに事故続きの新幹線にもみられるように、従来の技術 に対する信頼が失われ、あらためて人間にとって技術とは何かの問題を根底か ら考え直さねばならなくなったためではないかと思われる。 第三は、現在の社会制度・システムの欠陥である。巨大開発、新技術などに 対して、安全』性確保、公害防止についての社会制度がそれに追いついていくこ とができないことによって、問題をさらに大きくしているのだ。 ここに述べた3点は、環境問題が発生している社会的背景であるが、このこ とは即、環境アセスメントが挑戦すべき課題でもある。しかし、環境アセスメ ントだけが環境問題を解決する唯一の方法でないことはもちろんであって、公 害防止技術による方法、生態系のメカニズムを明らかにすることによって解決 をはかる方法など種々の方法がある。ここでは前述した沖縄型環境アセスメン トの必要`性を踏まえ、かつ環境問題解決のための他の方法との比較で、環境ア セスメントのレゾンデートルを明らかにしてみたい。 ①開発と保全との調整による問題解決:環境アセスメントは必ずしも保護、 保全の立場だけをとるのではなく、開発と保全を“調整,,する問題解決方法と して位置づけられる。これは環境問題が必ずしも開発プロジェクトの中止によっ て解決するわけではないことを示している。“調整',するといってもいろいろ なレベルがあるが、環境アセスメントは主として個別事業段階での調整である。 -291-
これは個別事業段階になってはじめて計画の細目が明らかになるので、具体的 に環境に与える影響を事前に評価し、開発行為実施の可否、規模の縮小につい て言及することが可能となるからである。 ②問題解決志向型・目的志向型のサイエンス:環境アセスメントはきわめ て複雑な問題に対する一つのホーリスティック(全体的)なアプローチの仕方 であって、統計学とか生態学という単一の領域ではない。これはある問題を解 くために、いろいろな学問分野を必要とする。そして、特定の知識の集合とい うようなものではなく、分析手法の体系、あるいは-つの考え方、整理箱といっ た方がよいかもしれない。このようなタイプの方法論としては、オペレーショ ンズ・リサーチやシステム分析と同じようなカテゴリーに属する。 ③制度化による実行性の確保:環境アセスメントは、その実行性を法の裏 づけのある制度化によって担保しようとするものである。これは技術的な進歩 や経済的な誘導でなく、法・制度といういわば強制力を伴ったものによる安全 性の確保である。現在の市場メカニズムによる運営では、安全性は経済性と競 合するので、この方法はきわめて有効である。しかし、このような強制に人々 が納得して従うのは、その運用が公平であること、および、運用機関に対する 信頼性の裏づけがなければならない。 環境アセスメントの性格づけをこのように確認したが、これを踏まえて環境 アセスメントが挑戦し解決しなければならないことがらは、次の2点に収敵さ れる。 不完全、不確実'性下での政策決定問題:環境アセスメントが対象としなけれ ばならない問題は、まだその過半が未知のきわめて不完全なシステムのものを、 不確実性下で意思・政策決定しなければならないことである。 社会的な合意形成システムの問題:環境アセスメントでしばしば問題になる のは、環境基準や目的などに絶対的な判断が下せないことである。かつ、アセ スメントにおいては、その結果もさることながらプロセスそのものも重視され なければならない。従って、社会的な合意が重要になってくる。 本章では、この両者を問題意識としながら環境アセスメントの体系と方法論 を展開しようとするものである。 -292-
(2)方法論上の特性 環境アセスメントの方法・手法の方向は、近代科学の細分化・計量化に対す るアンチテーゼとして問題解決型、問題発見型の総合科学として位置づける。 また、環境アセスメントを各主体間の社会的合意形成システムであるとするな らば、いままでの科学のようにあまりバリュー・フリーにこだわる必要はない。 さて、このように環境アセスメントを意思決定、合意形成システムとみなす ならば、次の二つの側面を検討する必要が生じる。 第一の側面は、決定プロセス、合意形成システム自身に関するものであって、 環境アセスメントにおける合意形成で述べたように情報をインプットして合意 形成をアウトプットする変換の仕方、変換のメカニズムである。 第二の側面は、環境アセスメント・モデルにインプットする情報の質であっ て、情報がよくないものであれば、アウトプットも当然よくない。 さて、政策決定プロセス、合意形成システムとしての変換プロセス、いいか えれば方法論についてであるが、まずその一般的な特性を考えてみたい。 すなわち、環境アセスメントは、高度の不確実`性を含む状態における、きわ めて複雑な問題に対する-つの全体的なアプローチであって、経済学、経営学、 数学、生物学、地理学というような単一分野の科学ではない。これに類似した ものとしては、システム工学、オペレーションズ・リサーチ、マネージメント・ サイエンスという意思決定、政策決定に関する科学がある。特定の知識の集ま りというよりは、むしろ研究に対する態度、心構えのようなものであり、特定 の分析手法の体系というよりも、むしるものの見方である。
環境アセスメントは物理学や工学と同じようなタイプの科学ではない。分析
の明示`性、経験的データの利用、計量化、モデルの利用など広い意味での科学 的方法に関しては、環境アセスメントも同じように科学的であるが、政策決定 レベルの分析は単なる科学的方法の応用以上のものを必要とする。政策決定の前提となる環境に関する仮定や関係の多くが、厳密には検証不可能な性質のも
のであり、そこには政策決定に関する価値判断や、不確実な将来に関する主観
的な予測、あるいは模範的判断が含まれる。であるから環境アセスメントは、問題に対する答そのものを与えることよりも、むしろ答がいろいろな仮定や判
-293-断にどのように依存しているかを明白に示すことにある。 環境アセスメントの分析と結論は仮定に依存する。そして、この仮定は正し いとぎれる仮定がただ一つしか存在しないというものではなく、いろいろな仮 定が考えられ、かつそれぞれの仮定は多かれ少なかれ根拠をもつ。これらの仮 定は、議論の対象として検討される必要があったり、これに対する討論の場を 強調するものであって、討論を不要にしてしまうものではない。建設的で収束 的な討論が行われるための基礎となるべきものである。 すなわち環境アセスメントは、政策レベルでの意思決定に関する明示的な分 析によって、政策決定者がよりよい決定をするための情報を組織化する-つの 方法である。 環境アセスメントの特徴は次の点に要約できよう。 ①事前に問題点を指摘し解決する:開発プロジェクトに伴う環境問題を事 後的ではなく、プロジェクトの計画段階から事前に予測をたて、その対策をた てる。 ②広範な影響範囲を把握する:開発プロジェクトがもたらす影響を一次的・ 即時的なもののみではなく、二次的、三次的な間接的なインパクト、またすぐ 顕在化せず時間差を伴って発生する影響もできるかぎり摘出する。 ③個別性、地域特性を考慮する:環境問題には共通の部分と固有な部分が あるが、後者の方により大きなウェイトがある。このことはもちろん、環境に 対する学問的な経験蓄積の少なさとは無関係ではありえないので、今後前者に 対するウェイトは増してくるであろう。 ④環境アセスメントにおける調整機能の重要性:環境アセスメントの重要 な機能の一つは調整である。開発と保全という一見質の異なった両者の関係を 明らかにし、調整することである。そのほとんどは対立し、紛争が生じている ものであり、トレード・オフの関係である。したがって、両者にとって同時に 最適解というものはありえない。それゆえ既存の概念とは異なったいわば調整 原理とでもいうものを具体的な技法として開発し、環境アセスメントに組み入 れる必要がある。
⑤環境問題を単なるフイジカルな現象面に限定しないで把握する:環境問
-294-題それ自身は確かにフイジカルな現象であるが、それが発生する背景との関連 で問題発生のメカニズムを解明する必要がある。背景との関連を明らかにしな いと、これを解決するための対策、解決策を明示することができない。
⑥未知、不確定性を伴った解決策である:環境分析の研究はその緒につい
たばかりであり、未知の部分が過半を占めるといっても過言ではない。将来に おいてもすべてが明らかになることはないであろう。また、環境現象の特`性と して不確定`性を伴うことが多い。この両者、すなわち未知と不確定`性を伴って いることを承知のうえで、政策・意思決定をしなければならないという特性が ある。⑦事実に対する認識プロセスと評価システムの峻別:環境アセスメントで
は価値観、未知、不確定性という要素を含まざるをえないとすれば、事実に対 する認識プロセスと、この結果を評価するプロセスを峻別することが必要であ る。このことによって、環境アセスメントはだれが行っても同じ結果が得られ、 第三者からの批判に耐えられるものとなる。 ③社会的合意形成システムとしての位置づけ:前述したように、未知、不 確定性を含み、かつ価値観を含んだ定性的な部分の多い政策決定をしなければ ならないとすると、絶対的な基準以外の判断も含まざるをえない。であるから、 その判断に社会的な概念を持ち込まざるをえない場合が多いので、環境アセス メントを社会的な合意形成システムとして位置づける必要がある。 ⑨意見を多面的に取り入れられるようなシステムを確立する必要がある: 環境アセスメントの一つの側面を合意形成システムとみなすならば、一つの専 門分野だけからの判断で決定してはならない。いいかえると、多方面の分野か らの意見や判断がとり入れられるようなシステムを、環境アセスメント自身の 中に組み込んでおく必要がある。これには、方法論そのものの中に組み込む方 法と、運用による方法とが考えられる。 (3)環境アセスメント・モデルの提案 a、インパクト・プロセス・レスポンスーモデル 前述した環境アセスメントの方法論における特性を具体的に展開するために、 -295-アセスメント・モデルの提案を行いたい。まず具体的な、環境現象をモデル化 するための概念としてインパクト・プロセス・レスポンスーモデル(以下、IP R-モデルと略記)を提案したい。 ①⑦③ プロセス
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レスポンス (影響の顕在化) 図-4IPR-モデルの概念 このIPR-モデルは、図-4に示すように環境の変化をインパクト、プロセス、 レスポンスの三つの段階に別けて分析し、かつそれぞれの相互関係を明らかに したうえで総合化しようとするものである。すなわち、ある人為的な行為が自 然に加えられると、インパクトはその自然が属している特性が媒介変数となっ て伝播され、極端な場合は公害や災害として顕在化する。このように環境変化 は、これら三者が相互に関連して一つの特`性を生ずるのである。 しかし、現在行われている環境分析や環境アセスメントは、プロセスに対す る解明に重点がおかれているように思える。通常、大気、水の解析というと大 気汚染の拡張シミュレーションや水質汚濁の拡散シミュレーションを指すよう な感すらある。 しかし、環境アセスメント・モデルにおける最終的な目的は、どのような動 植物や人間が、どの程度被害を受けるかを明らかにすることである。そのため には、まず環境アセスメントが対象としている陸域や水域に被害者となる可能 性のあるものがどのように分布しているか、人為的行為によって発生するイン パクトに対して、どのように反応、感応するかという特性を明らかにしたうえ でなければ、どのようなタイプの拡散シミュレーションを行ったらよいかがわ からないはずである。 例えば、温排水を例にとると、魚卵などはきわめて短時間のものであっても、 ある一定温度以上を受ければ死滅してしまうが、成魚は瞬間的な高温よりはむ しろ累積された積算温度のようなものに影響される。また、大気汚染の場合も -296-影響を受ける地域が都市と農村ではレスポンスの特性が異なるので、当然プロ セスの分析はこれに応じて異なってこなければならない。都市地域のように人 口密度が大きいところでは、人に対する被害の分析に重点がおかれよう。その 中でも大気汚染に弱い老人、小児、病人のレスポンスと、健康な成人とのそれ は異なるので、これらの人々の分布に留意する必要がある。農村地域の場合は 人に対する被害もさることながら、農業生産物に対する被害も重要である。 これらの例によって明らかなように、プロセスに対する分析はアセスメント の対象としているものの、インパクトとレスポンスの特』性を明らかにしたうえ で、はじめて分析のタイプ、方法を決定できるのであって、どのようなものに も共通に有効な分析手法というものはありえない。いくら精密なモデルを使っ ても、それは分析の有効性、正当性をなんら証明することにはならない。現実 の環境問題を解決しようとするならば、どのような人為的インパクトによって 何が環境問題として顕在化するか、そしてそれを解決するために対象の関連と の対応で有効な分析プロセスを採用することが大切になる。 b・環境アセスメント分析の段階 ここで提案したIPR-モデルの概念を拡張、応用することによって、環境ア セスメント分析の段階を設定することができる。 環境アセスメント・モデルの中心は次の四つの段階によって構成されている。 すなわち、i`インパクト特性分析(またはプロジェクト特`性分析)”、“伝播 プロセス分析,,、‘`レスポンス特性分析(または環境特性分析),,そして“影 響総合評価,’である。これらの四つの段階を中心に位置づけて、一般的な環境 アセスメントの流れを示したのが図-5である。前述した図-1,2,3を参 照されたい。 “インパクト特性分析”は、計画ないしは予定されている事業が環境に対し てどういう影響を与えるかを分析する段階である。 “伝播プロセスと環境被害分析”は前述のインパクトがどのような伝播メカ ニズムを通して被害者としての環境要素へ特定化されるかを分析する段階で ある。 -297-
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x問題地域 △要検討地域 O適合地域(
/ 」 '0 × --“レスポンス特性分析”は、前述で分析されたインパクトに対して対象地域 の環境がどのように反応するか、いってみれば強い環境か、弱い環境かを分析 する段階である。すなわち、その対象地域で許容される開発行為(インパクト) と許容されない開発行為(インパクト)とを明らかにすることである。 ‘`影響総合評価”は、前述の二つの分析の結果、すなわち“インパクト特性 分析”によってプロジェクトに伴うインパクトを明らかにし、“レスポンス特 '性分析,,によって対象地域の地域特`性が明らかになっているので、これをいわ ば重ね合わせればインパクトが大きく環境の弱い地域ではそのプロジェクトは “許容されない,,とされ、逆の場合は“許容,,と判断されるわけである。 次に、これらの三つの段階を組み入れた環境アセスメント・モデルを、手順 に従って説明しよう(図-5)。 まずa-1に検討すべきプロジェクトがリストアップされており、その空間 的な配置を示したのがa-2(プロジェクト配置図)である。次のステップb はaでリストアップされたそれぞれのプロジェクトの環境アセスメントからみ た特性を分析したものであって、ここではこれを“プロジェクト別特性表,,と よぶこととする。cの“プロジェクト・インパクト解析”ではプロジェクトに 伴ってどのようなインパクトが発生するかを明らかにするステップである。そ して、ここで解析されたインパクトがどのような伝播(現象)メカニズムを通 して環境要素へと特定化されていくかを明らかにするステップdが“伝播プロ セス図”である。 一方、対象地域の環境特性を解析して許容されるインパクト、許容されない インパクトとして評価する必要があり、このためのステップがgの“自然環境 特性”である。そして、このgにもっていくためのステップとしてhとiがあ る。この流れでは説明を簡単にするために対象地域の特性を代表しているもの として、地形と植生の両者の組合せによって環境を解析する方法を示した。 そして最後のステップがeの``環境保全対策”と“環境影響総合評価”であっ て、ここではeとgとの分析結果を解析することによってどのインパクトが、 どこにどの程度の被害を与えるかということを明らかにする。また、このステッ プにおいてどのような保全対策があり、どの程度有効かということの分析も必 -299-
要である。 3章沖縄県環境影響評価条例の提案一吉川研究室案一 本章では前出した沖縄の環境に対する問題意識、解決のためのモデルの開発 を踏まえて、これを実現化するための条例を提案したい。 (前文、目的) すべての人は、良好で豊かな環境を享受する権利と、保全する責任を有する。 われわれは、この原則を認識し、自然的・社会的・文化的諸環境を良好な状態 で管理し、次代にこれを継承する責務を自覚するものである。 かかる認識の基に、われら沖縄県民は、英知を結集し、開発行為その他の活 動が環境に及ぼす影響を事前に予測・評価・公表することにより、人と環境と の調和を図り、健康で安全かつ快適な環境の保全を推進することを目的とする。 とりわけ、沖縄県は国内でも唯一の亜熱帯海洋性気候に属し、陸海の動植物の 珍種や貴重な環境資源に恵まれているものの、基地建設やリゾート開発等の乱 開発の進行により、環境バランスの破壊の危機に直面しており、これらの破壊 から環境を保全するために、この条例を制定する。この取り組みは、沖縄の環 境資源のみならず近隣アジア諸国の貴重な環境資源を守ることに連動すると確 信する。 第1総則 (定義) 第1条この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各 号に定めるところによる。 ①環境影響評価開発行為が生活環境・自然環境・社会環境・文化的環境 に及ぼす影響の程度及び範囲、その防止策等について、代替案の比較検討 を含め、事前に予測及び評価を行うことをいう。
②指定開発行為環境に影響を及ぼすおそれのある土地の造成、工場及び
-300-事業所の設置等で規則で定めるものをいう。また、③で定める環境管理計 画を踏まえて指定開発行為を定める。 ③環境管理計画良好な環境の保全を図るため、中・長期的な目標として “自然環境の保全と産業の誘致・振興・開発との調和,,を図るために、そ の指針を策定したものをいう。 (県の責務) 第2条1県は、県民の健康で安全かつ快適な生活を確保するため、あらゆ る施策を通じて良好な環境の保全に努めなければならない。さらに、レクレー ション・リゾート資源や農業漁業資源の保全のためには、生業安定のために も、強く留意しなければならない。2知事は、前項の施策を実施するに 当たって必要があると認めるときは、国・市町村・開発企業に対し、適切な 措置をとるよう要請しなければならない。 (県民の責務) 第3条県民は、良好な環境を保全するよう努めるとともに、これらに関する 県の施策について協力しなければならない。 (開発事業者の責務) 第4条1環境に影響を及ぼすおそれのある事業を行う者は、当該事業が環 境に及ぼす影響を充分に調査し、良好な環境に支障をきたさないように努 めるとともに、県の施策について積極的に協力しなければならない。 2指定開発行為を実施しようとする者は、この条例の定めるところにより、 自己の責任と負担において、当該指定開発行為の実施に係る環境影響評価 を行わなければならない。 第2沖縄環境管理計画 (沖縄環境管理計画の策定及び公表) 第5条1恵まれた自然環境は、沖縄のみならず世界の貴重な財産であり、 -301-
これらを将来にわたり守り育て整備するため、5年から10年単位の中・長 期の目標で、どの地域を保全し、どの地域に産業を立地するか等、その条件・
自然保護のための施策を「沖縄環境管理計画」(以下、「環境管理計画」とい
う)を策定することによって明確にする。 2環境管理計画には、次の各号に掲げる事項を定めるものとする。①自然生態系目録(気象・水象・地象と動植物の調査に基づく)を作成
②県土についての土地適性評価(立地条件の基準の確立、土地の持つ可
能性と限界の把握)の策定 ③環境影響評価に当たっての標準的技法 ④その他環境影響評価に関する事項3知事は、環境管理計画を策定し、または変更しようとするときは、沖縄
県環境影響評価審議会を設置(詳細は第12条、第20条)し、その意見 を聴かなければならない。 4知事は、環境管理計画を策定し、または変更したときは、速やかにこれ を公表するものとする。 第3環境影響評価の審査 (届出) 第6条1指定開発行為を実施しようとする者は、規則で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を知事に届出なければならない。但し、非常災害
のために必要な応急措置として実施するものについては、この限りでない。①氏名または名称及び住所、並びに法人にあっては代表者の氏名
②指定開発行為の種類 ③指定開発行為の計画 ④その他規則で定める事項 2前項の規定による届出には、次の各号に掲げる書類を添付しなければな らない。①指定開発行為の実施に係る環境影響評価の報告書(以下、「環境影響
-302-評価報告書」という) ②指定開発行為の実施区域及びその周辺の状況(環境管理計画を踏まえ ること)を示す図面 ③指定開発行為に関する設計書等 ④その他規則で定める必要な書類 (変更の届出) 第7条1前条第1項の規定による届出をした者(以下、「指定開発行為者」 という)は、その届出に係る事項を変更しようとするときは、その旨を知事 に届出なければならない。 2前項の規定にかかわらず、前条第1項2号及び3号に規定する事項の変 更については、新たな指定開発行為とみなして、前条の規定を摘要する。 (届出の告示及び縦覧) 第8条1県知事は、第6条第1項の規定による届出を受理したときは、そ の旨及び環境影響評価報告書の要旨を告示しなければならない。 2知事は環境影響評価書の写しを、前項に規定する告示の日から起算して 30日間縦覧に供しなければならない。 3第1項の規定は、第7条第1項の規定による届出について準用する。 (説明会の開催等) 第9条指定開発行為者は、前条第2項に規定する縦覧期間中、当該指定開発 が実施されることによって、環境に影響を受ける関係住民(以下、「関係住 民」という)に対し、当該指定開発行為に係る環境影響評価について、説明 会の開催、要旨を記載した書類の提供その他適切な方法により周知させるた めの措置を講じるものとする。この場合において、当該指定開発行為者は、 周知のための方法等について知事に届出て、その結果について報告しなけれ ばならない。 -303-
(意見書の提出) 第10条1関係住民その他縦覧に供された環境影響評価報告書について意 見を有する者は、第8条第1項に規定する告示のあった日の翌日から起算し て、45日を経過する日までに、知事に対して意見書を提出することができ る。 2知事は、前項の規定による意見書の提出を受けたときは、当該意見書の 写しを当該指定開発行為者に送付するものとする。 (修正の報告) 第11条1前条第2項に規定する指定開発行為者は、当該意見書に基づき、 環境影響評価報告書について、修正の有無を報告書により速やかに知事に報 告しなければならない。 2知事は、前項の報告を受けたときは、当該報告書を30日間縦覧に供し なければならない。 (環境影響評価報告書の審査) 第12条1知事は、第6条第1項の規定による届出のあった指定開発行為 の実施に係る環境影響評価報告書及び前条第1項に規定する報告書の内容を 審査し、当該指定開発行為の環境影響評価審査書(以下、「審査書」という) を速やかに作成しなければならない。 2知事は、審査書を作成しようとするときは、あらかじめ環境影響評価 審議会(以下、「審議会」という=第20条に詳細)を設置し、その意見 を聴かなければならない。 3知事は、審議会の意見を聴こうとするときは、次の各号に掲げるものを 提出するものとする。 ①環境影響評価報告書 ②第9条の規定による報告書 ③第10条第1項の規定による意見書 ④前条第1項の規定による報告書 -304-
⑤次条第1項の規定による公聴会の意見書 ⑥その他知事が必要と認めたもの (公聴会) 第13条1知事は、第11条第2項に規定する縦覧期間満了の日の翌日か ら起算して7日以内に、関係住民または指定開発行為者から要請があった場 合で知事は、審議会の意見を聴き、知事が必要と認めるときは、速やかに公 聴会を開催するものとする。 2前項に定めるものの他、公聴会の開催方法等について必要な事項は、規 則で定める。 (審査書の公表) 第14条1知事は、審査書を作成したときは、直ちにその写しを指定開発 行為者に送付するとともに、規則で定めるところにより公表するものとする。 2前項の規定による審査書には、次の各号に掲げる事項を記載した書類を 添付するものとする。 ①環境影響評価報告書に対する関係住民等の意見書の概要、公聴会にお ける意見の概要並びに指定開発行為者の見解及び対策 ②第17条の規定による勧告の内容 ③その他知事が、必要と認めた事項 (審査書の遵守) 第15条指定開発行為者は、前条第1項の規定による審査書を遵守しなけれ ばならない。(指定開発行為の実施の時期) 第16条指定開発行為者は、第14条第1項の規定により審査書が公表され た日以後でなければ、当該指定開発行為を実施してはならない。 (勧告) 第17条知事は、第6条第1項の規定による届出があった場合においての届 -305-
出に係る指定開発行為の実施が、良好な環境の保全に支障を及ぼすおそれが あると認めるとき、または第15条の規定に違反していると認めるときは、 当該指定開発行為者に対して、環境保全上必要な措置をとるべきことを勧告 することができる。 第4環境調査報告書等 (環境調査報告書等) 第18条1規則で定める事業を行っている者は、現に行っている当該事業 によって、環境に及ぼす影響の程度及び範囲を調査し、その調査結果を記載 した報告書(以下、「環境調査報告書」という)を規則で定めるところによ り知事に提出しなければならない。 2前項の規定にかかわらず、同項に規定する者は、良好な環境を保全する ため知事から環境調査報告書の提出を求められたときは、規定で定めると ころにより環境調査報告書を提出しなければならない。 3知事は、環境調査報告書の内容について、良好な環境を保全するために 必要があると認めるときは、速やかに当該環境調査報告書を提出した者に 対して、必要な措置をとるべことを勧告することができる。 (県民の申出) 第19条県民は、知事に対して、前条第2項の規定による環境調査報告書の 提出を求めるよう申出ることができる。 第5環境影響評価審議会 (環境影響評価審議会) 第20条1良好な環境の保全に関する重要事項を調査審議するため、知事 の付属機関として沖縄県環境影響評価審議会を置く。 2審議会は、知事の諮問に応じ、次の各号に掲げる事項を調査審議する。 -306-
①第5条第1項に規定する環境管理計画の策定及びその変更について意 見を述べること ②第12条第1項に規定する審査書の作成について意見を述べること ③第13条第1項に規定する公聴会で意見を述べることができる ④その他環境影響評価に関し、知事が必要と認めた事項 3審議会は、委員25人以内をもって組織する 4委員は、県民(公害をなくする会等を含む)、学識経験者及び県職員の うちから知事が委嘱し、または任命する。 5委員の任期は2年とし、補欠の委員の任期は前任者の残任期間とする。 但し再任を妨げない。 6前各項に定めるものの他、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、 規則で定める。 第6雑則 (調査研究等) 第21条知事は、この条例に定める手続きが適正に運用されるために必要な 環境影響評価に関する手法の開発、調査研究の体制の整備、技術者の養成等 の措置を講じるとともに、地域の環境に関する情報の収集、整理、分析等の 措置を講じるよう努めなければならない。そして、近隣アジア諸国と相互協 力し、`情報の交換等を積極的に推進する。 (市町村との協議) 第22条知事は、環境影響評価について必要があると認めるときは、各市町 村と協議して良好な環境を保全するための適切な措置をとるよう努めなけれ ばならない。 (県外及び近隣諸国との協議) 第23条知事は必要に応じ、他県との協議や、近隣アジア諸国とも協議して、 -307-
ポーダレス時代の環境保全に努めなければならない。 (実施調査) 第24条1知事は、審査書を作成するため、または環境調査報告の調査の ため、他人の所有しまたは占有する土地において実施調査を行う必要がある ときは、その土地への立入りについて、当該所有者または占有者に協力を求 めることができる。 2知事は、必要に応じて関係当局に要請し、提供施設内における立入調査 を実施し、当該軍用地の責任者及び国に対して、県土の保全の協力を働き かける。 (違反事実の公表及び要求) 第25条知事は、この条例の規定に違反して、良好な環境の保全に支障を及 ぼしている者があるときは、その違反の事実を公表するものとする。 2知事は、提供施設内における環境保全が損なわれた場合は、地位協定第 3条第3項に基づき、当該軍用地の四軍司令官及び国に対し、復元及び補 償の協力を要求する。 (委任) 第26条この条例の施行について必要な事項は、県知事が定める。 第7罰則 第27条第6条第1項の規定による届出をせず、または偽りの届出をした者 は、50,000円以下の罰金に処し、並びに公表する。 第28条第16条の規定に違反した者は、30,000円以下の罰金に処し、 公表する。 第29条第18条第1項または第2項の規定による報告をせず、または偽り の報告をした者は、10,000円以下の罰金に処し、公表する。 -308-
第30条法人の代表者または法人若しくは個人の代理人、使用人その他の従 業者が、その法人または個人の業務または財産に関して、前3条の違反行為を したときは、行為者を罰するほか、その法人または人に対して各本条の罰金 刑を課する。 付則 (提供施設内への適用) 1軍用地(施設・区域)内においても、地位協定第3条第3項に基づき、こ の条例は適用する。 (施行期日) 2この条例は、公布の日から9か月を超えない範囲において規則の定める日 から施行する。但し、第1章、第5条第3項、第5章及び第6章(第23条 及び第24条の規定を除く)の規定は、公布の日から施行する。 (経過措置) 3第6条の規定の施行の際、現に開発行為を行っているものについては、第 3章の規定を適用しない。 4前項に規定する者は、第6条の規定の施行の日から2か月内に、知事のこ の条例による指定開発行為を行っている旨を届出なければならない。 なお、本環境影響評価条例の実施規則、要綱は紙幅の関係から掲載を省略 した。 -309-
参考文献 1.吉川博也『都市環境のシステム分析一アセスメント・モデルとメッシュア ナリシス』鹿島出版1973年7月。 2.〃『環境アセスメントの基礎手法一地域計画への導入一』鹿島出 版会、1975年9月。 3.〃「環境アセスメント手法について」「環境アセスメントの法的側 面」人間環境問題研究会編集、環境法研究4号、有斐閣、1975年 11月。 4.′「環境アセスメントのフレームワークと社会化の条件」『地理』 第21巻4号、古今書院、1976年4月。 5.〃「環境工学の体系化一環境アセスメントとコロジカループランニ ングの基礎理論」環境技術研究会理工新社、1976年12月。 6.〃「環境アセスメントを例にした日本型合意形成のあり方」『自治 研修」211号、ぎようせい、1978年2月。 7.〃「環境アセスメント標準手法」「プロジェクト別アセスメント」 『環境アセスメント・マニアル」環境技術研究会、1978年4月。 8.〃「環境アセスメント定着化への提言」「産業と環境』9巻5号、1980年 5月。 9.HiroyaYoshikawa‘ThePresentStateofJapaneseEnvironmental lmpactAssessment,“Japanese-AmericanEnvironmental Conference-m'’1980.6. 10.吉川博也「環境アセスメント」『環境科学Ⅱ』古今書院、1989年11月。 11.渡久地健・吉川博也「サンゴ礁地域の開発と保全」「熱い自然』サンゴ礁 地域研究グループ編、古今書院、1990年9月。 -310-