緒 言
自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorder,以 下 ASD)児は定型発達児と比較してう蝕罹患率が高い ことが報告されている1,2).しかし,適切に口腔衛生管 理がなされている場合は必ずしもう蝕に罹患しやすいわ けではない3).以前われわれは 20 歳以上の知的能力障 害者の口腔衛生管理開始時期と DMF 歯数との関連性を 調べた研究において,永久歯列完成期以降に歯科での継 続的な管理を開始した者は,それ以前に開始した者と比 べて 1 人平均 DMF 歯数が高いことを報告した4).その なかでも,ASD に合併する知的能力障害者で乳歯列期 から管理していた 18 人中 10 人が成人後の DMF 歯数が 0 であった.ASD を有しない知的能力障害者では 17 人 中 2 人であったことと比較して,特に ASD 児に対して はできるだけ早期から管理を開始することで良好な口腔 衛生状態が維持できると考えられた4). 近年,う蝕の診査・予防を目的としてう蝕に罹患する 前から歯科を受診する小児の割合が増加しており5),こ のことが小児期のう蝕罹患率減少の要因の一つであると
原
著
低年齢から管理している自閉スペクトラム症児の
う蝕罹患と口腔衛生習慣との関連
大 西 智 之・金 高 洋 子・藤 原 富 江・田井ひとみ
中井菜々子・久木富美子・浜 田 尚 香・樂 木 正 実
大阪急性期・総合医療センター障がい者歯科 (原稿受付日:2020 年 5 月 21 日) (原稿受理日:2020 年 9 月 11 日) 考えられる.しかし,低年齢から管理を開始しても必ず しもう蝕に罹患せずに成長するわけではなく,個人の口 腔衛生状況などを診査し適切な対策を施すことが重要で ある.特に ASD 児は,定型発達児と比較して介助磨き への適応が困難である6,7),こだわりなどのため間食の 管理が困難であるなど8,9),ASD に特有の問題を有する ことからう蝕予防に苦慮することも多く,ASD の特徴 を考慮したう蝕予防対策が必要となる3).われわれはこ れまでに,ASD 児を対象として,初診時のう蝕罹患状 況と口腔衛生習慣との関連性について調査し,間食回 数,家庭での介助磨きへの協力性,食べ物・飲み物への こだわりの有無がう蝕罹患と関連性が強いことを報告し た9).しかし,低年齢から口腔衛生管理を行う過程でう 蝕に罹患する要因に関しては明らかになっていない.そ こで今回,う蝕に罹患する前から口腔衛生管理を開始し た低年齢の ASD 児の,その後のう蝕罹患と食生活習慣 や刷掃習慣との関連性について調べた. 対象ならびに方法 2014 年 10 月から 2017 年 9 月までに,初診患者として 大阪急性期・総合医療センター障がい者歯科(以下当科) を受診した 3 歳の自閉スペクトラム症児のうち,初診時 にう蝕に罹患しておらず,さらに 6 歳まで定期的に当科 を受診した 20 人(男児 16 人,女児 4 人)を対象とした. 要旨:低年齢から,特にう蝕に罹患する前からの口腔衛生管理は重要であるが,低年齢から管理を開始しても必ず しもう蝕に罹患することなく成長するわけではない.今回,3 歳から口腔衛生管理を開始した自閉スペクトラム症 (ASD)児のうち初診時にう蝕に罹患していなかった 20 人を対象とし, 6 歳時の食生活習慣および刷掃習慣に関する 項目,発達年齢,ASD の障害特性と,6 歳でのう蝕経験との関連性について調べた.その結果,介助磨きへの協力 性がう蝕罹患と関連性が強いことが示された.一方,間食回数や夕食後の間食の有無などは関連性が低かった.ま た,項目間の関連性を調べたところ,発達年齢および触覚過敏性と介助磨きへの協力性との間に関連性を認めたこと から,発達年齢が低かったり,触覚過敏性を有していたりした場合は家庭での介助磨きに対して非協力的であり,こ のためにう蝕に罹患しやすい傾向があると考えられた.以上から,介助磨きへの協力性が改善しない者に対しては注 意深い口腔衛生管理が必要であり,特に,発達年齢が低い者や触覚過敏性を有している者は家庭での介助磨きへの協 力が難しいことから,プロフェッショナル・ケアの強化など慎重なう蝕予防が必要であると考えられた.対象者は 2〜3 カ月程度の間隔で定期健診を継続し,中 断した者はいなかった.今回の対象者に身体あるいは内 部障害を有する者はいなかった. 初診時および 6 歳に達した最初の定期健診時に,保護 者に記入させた医療面接用の問診用紙から,食生活習 慣,刷掃習慣および ASD の障害特性に関連する項目を 抽出し(表 1),それぞれの項目を初診時と 6 歳時の間 で比較した.なお,「パニックを鎮めるために甘い物を 与えることがある?」の項目は,該当者が 1 人のみで あったため調査項目から除外した.問診用紙は,当科で 初診時および定期健診時に医療面接の資料として通常用 いているものを使用し,初診時および定期健診の医療面 接時に歯科医師 1 人が問診用紙の内容を確認し,不明な 箇所を聞き取り,追記した.ASD の障害特性に関して は問診用紙と聞き取り内容から歯科医師 1 人が判断し た.また,遠城寺式乳幼児分析的発達検査を用いて 6 歳 時の発達年齢を算出した.さらに,対象者を 6 歳までに う蝕治療を行った者(う蝕あり群)と行わなかった者(う 蝕なし群)に分類し, 6 歳時の問診用紙から抽出した各 項目および発達年齢を群間で比較した.なお,う蝕の評 価は歯科医師 1 人が行った. 統計学的検定として,う蝕あり群とう蝕なし群の初診 時年齢の比較は Mann-Whitney U 検定を用いて行った. 初診時と 6 歳時の比較のうち,2 群に分類された項目は McNemar 検定で,3 群以上に分類されている項目は Wilcoxon signed-rank 検定を用いて行った.食生活習 慣,刷掃習慣,ASD の障害特性,発達年齢の各項目が 管理期間中のう蝕罹患の有無に与える影響に関しては数 量化Ⅱ類を行った.う蝕罹患の有無を目的変数とし,そ れぞれの項目のうち目的変数との間の Cramer の連関係 数が 0.2 以上のものを説明変数とした.説明変数の多重 共線性は項目間の Cramer の連関係数(0.5 以上)で確認 し,多重共線性が認められた項目のうち,目的変数との 間の Cramer の連関係数が小さいものを説明変数から除 外した.なお,発達年齢は,う蝕罹患との間で Fisher の直接確率検定を行い,χ2値が最も大きくなるような境 界で 2 群にカテゴリー化した.さらに,介助磨きへの協 力性と他の項目との関連性を調べるために,介助磨きへ の協力性を目的変数として,上記と同様の方法で数量化 Ⅱ類を行った.なお,統計学的検定はエクセル統計 2012 for windows®(社会情報サービス,東京)を用いて行っ た. 本研究は大阪急性期・総合医療センター倫理委員会の 承認を得て行った(S201911001). 結 果 対象者 20 人のうち 6 歳までにう蝕治療を行った者は 8 人,行わなかった者は 12 人であった.う蝕なし群の 初診時年齢の最小値,中央値,最大値はそれぞれ,3 歳 3 カ月,3 歳 9 カ月,3 歳 11 カ月であり,う蝕あり群は それぞれ,3 歳 6 カ月,3 歳 8 カ月,3 歳 10 カ月であっ 表 1 医療面接で用いる問診用紙より抜粋した項目 食生活習慣について 間食回数? 夕食後の間食を食べることは? 間食の規則性は? 買い置きをしている? 間食を本人が選ぶことは? 偏食は? こだわりで甘い者を飲食する? パニックを鎮めるために甘い物を与えることがある? ( )回 (あり,なし) (不規則,普通,規則的) (あり,なし) (あり,なし) (あり,なし) (あり,なし) (あり,なし) 歯磨きについて 歯磨き回数? 介助磨きへの協力性は? フッ素入り歯磨剤の使用は? ( )回 (無理矢理,嫌々,好んで) (使わない,使う ) ASD の障害特性について 特に嫌う刺激は? こだわりは? じっとしているのは苦手? 奇声をあげる? ( 子供の泣き声,音楽,人の多い場所,ざわざわした雰囲気,顔を触られる, 頭を触られる,体を触られる,先の尖ったもの,光るもの,日光などの光) (時間・スケジュール,服装,食べ物・飲み物,物の配置,電気の点灯・消灯) (苦手,そうでもない,問題ない) (あげる,あげない)
た.う蝕なし群とう蝕あり群の間で初診時年齢に有意な 差は認められなかった. 3 歳時と 6 歳時の食生活習慣および刷掃習慣を比較し た結果,3 歳時と 6 歳時の間で 5%の危険率で有意差を 認めたのは,間食回数,間食の規則性,間食を本人が選 ぶことがあるか,介助磨きへの協力性,フッ素入り歯磨 剤の使用であった(表 2).3 歳時に間食回数が 3 回以上 であった者は 10 人であったが,6 歳時には 3 人に減少 した.間食の規則性は,不規則と回答した者が 3 歳時の 11 人から 6 歳時には 2 人に減少し,規則的と回答した 者は 9 人から 14 人に増加した.また,介助磨きへの協 力性に関しては,3 歳時に介助磨きを無理矢理行ってい たのは 11 人であったが 6 歳では 4 人となり,好んで行 えた者は 3 人から 10 人に増加した.一方で,3 歳時に は間食を本人が選ぶ者はいなかったが,6 歳時には 12 人が本人も選ぶと回答した.ASD の障害特性に関して は,3 歳時と 6 歳時の間で有意な差が認められた項目は なかった(表 2). 6 歳時の食生活習慣,刷掃習慣および障害特性に関す る各項目から,Cramer の連関係数により,間食の規則 性,買い置きをしているか,間食を本人が選ぶか,偏食, 食べ物・飲み物へのこだわり,奇声が,管理期間中のう 蝕罹患との関連性が低いことが示され説明変数から除外 された(表 3).次に,6 歳時の発達年齢とう蝕罹患との 関係を表 4 に示す.χ2値により求めた,う蝕あり群と う蝕なし群を分ける発達年齢の境界は,基本的習慣,対 人関係,発語,言語理解でそれぞれ,3 歳 10 カ月,2 歳 1.5 カ月,3 歳 2 カ月,4 歳 2 カ月であった.言語理解は う蝕罹患の有無との関連性が低く,説明変数から除外さ れた.次に,多重共線性を確認し,重度の多動性,触覚 過敏性,聴覚過敏性,視覚過敏性,基本的習慣,対人関 係を説明変数から除外した.以上から,間食回数,夕食 後の間食,歯磨き回数,介助磨きへの協力性,フッ素入 り歯磨剤の使用,こだわりで甘い物を飲食する,発語を 説明変数とし,管理期中のう蝕罹患の有無を目的変数と した数量化Ⅱ類を行った結果,う蝕罹患への寄与率は介 助磨きへの協力性が 38.6%で最も高かった.次に寄与率 が高かったのは,間食回数,夕食後の間食であったが, それぞれ 15.9%,14.0%であり,介助磨きへの協力性の 半分以下であった(表 5). 介助磨きへの協力性はう蝕罹患と最も関連性が高く, また,多重共線性から複数の項目と関連していると考え られたため,介助磨きへの協力性に影響を与えている項 目を検索する目的で数量化Ⅱ類を行った.Cramer の連 関係数により選択された説明変数は,間食回数,間食の 規則性,本人が間食を選ぶか,偏食,歯磨き回数,触覚 過敏性,聴覚過敏性,こだわりで甘い物を飲食する,基 本的習慣,対人関係,発語であった.多重共線性が疑わ れる項目を除外し,本人が間食を選ぶか,偏食,歯磨き 回数,触覚過敏性,聴覚過敏性,対人関係を説明変数, 介助磨きへの協力性を目的変数として数量化Ⅱ類を行っ たところ,対人関係の寄与率が 46.3%と最も高く,次に 寄与率が高かったのは触覚過敏性で 28.5%であった(表 6). 考 察 今回,3 歳から 6 歳まで継続して口腔衛生管理を行っ た ASD 児の,管理期間中のう蝕罹患の有無と最も強い 関連性を示したのは介助磨きへの協力性であった.以前 行われた,4〜5 歳の ASD 児を対象とした初診時のう蝕 経験と口腔衛生習慣との関連性についての調査におい て,介助磨きへの協力性がう蝕の重症度と最も強い関連 性を示すことが報告されており9),介助磨きへの協力性 が改善するかどうかがう蝕罹患性において重要であると 考えられた.4〜5 歳の ASD 児と定型発達児の保護者に 対して行われたアンケート調査では,保護者が介助磨き を「困難」と回答した者の割合は,ASD 児 45.0%,定型 発達児 10.6%であり,定型発達児と比較して ASD 児が 有意に高い割合を示した6).また,介助磨き時に表出さ れる不協力行動がある者の割合は,ASD 児 95.0%,定型 発達児 44.7%と ASD 児が有意に高い割合を示した6). このことは,ASD 児の家庭での介助磨きの困難さを示 唆している.今回,3 歳時と 6 歳時の比較で介助磨きへ の協力性は有意に改善しており,「無理矢理」であった 人数の割合は,3 歳時で 55%(20 人中 11 人),6 歳で 20%(20 人中 4 人)であったことから,定型発達児と 比べるとゆっくりではあるが ASD 児でも介助磨きへの 協力性は改善すると思われる.しかし,乳歯う蝕が好発 する 4〜6 歳時に家庭での介助磨きが困難であることが, 乳歯う蝕に罹患しやすくなる要因であると考えられる. 介助磨きへの協力性とその他の項目との関連性を調べ た結果から,発達年齢の対人関係が介助磨きへの協力性 との関連性が最も強いことが示された.また,基本的習 慣は対人関係との多重共線性のため数量化Ⅱ類の説明変 数から除外されたものの,介助磨きへの協力性との間の Cramer の連関係数は高く,関連性は強いことが推察さ れる.小笠原ら10)は,発達年齢の対人関係が 2 歳未満, 基本的習慣が 3 歳 6 カ月未満,言語理解が 1 歳 6 カ月未 満であると寝かせみがきに適応しにくいと報告してお り,また福山ら11)は,広汎性発達障害を合併する者を 含めて,知的能力障害者の保護者は介助磨きに困難さを 感じている者が多いと述べていることから,発達年齢の 低い者は介助磨きへの協力性が獲得しにくいと考えられ
表 2 3 歳時と 6 歳時における口腔衛生習慣および障害特性の比較 3 歳 6 歳 p 値 食生活習慣 間食回数 3 回以上 2 回 1 回 10 6 4 3 12 5 0.042+ 夕食後の間食 あり なし 8 12 6 14 0.617 間食の規則性 不規則 普通 規則的 11 0 9 2 4 14 0.038+ 買い置きをしているか あり なし 8 12 4 16 0.134 間食を本人が選ぶことは あり なし 0 20 12 8 0.002** 偏食 あり なし 13 7 13 7 1.000 こだわりで甘い物を飲食する あり なし 2 18 3 17 1.000 刷掃習慣 歯磨き回数 1 回 2 回 3 回 7 9 4 3 12 5 0.248 介助磨きへの協力性 無理矢理 嫌々 好んで 11 6 3 4 6 10 0.008++ フッ素入り歯磨剤 使わない 使う 14 6 3 17 0.015* ASD の障害特性 触覚過敏性 あり なし 8 12 9 11 1.000 聴覚過敏性 あり なし 9 11 11 9 0.617 視覚過敏性 あり なし 3 17 3 17 1.000 食べ物・飲み物へのこだわり あり なし 8 12 6 14 0.617 重度の多動性 あり なし 8 12 9 11 1.000 奇声 あり なし 3 17 7 13 0.221 +p<0.05,++p<0.01;Wilcoxon signed-rank 検定 *p<0.05,**p<0.01;McNemar 検定
る.今回,う蝕罹患の有無に対する境界は,対人関係は 2 歳 1.5 カ月,基本的習慣は 3 歳 10 カ月であった.この 値は,上記の小笠原ら10)の報告の寝かせみがきのレディ ネスの境界と近い.これらの結果から,発達年齢の対人 関係や基本的習慣が低い者は,家庭での介助磨きへの協 力が困難な傾向にあり,そのことがう蝕罹患に影響を与 えている可能性が考えられた.また,今回,発達年齢と 同様に触覚過敏性も介助磨きへの協力性との関連性が示 された.これまでに,介助磨きへの協力性と感覚過敏性 との関係についての報告は少ないが,Stein ら7)は感覚 過敏性を有する ASD 児は家庭での口腔ケアが困難であ ると述べている.また,触覚過敏性が強い ASD 児・者は 歯科治療に適応しにくいことが多く報告されており12〜16), 触覚過敏性と介助磨きへの協力性が関連している可能性 が考えられた.藤井ら17)の就学前の歯磨き習慣に関す る調査において,定型発達児では 16.1%が保護者による 介助磨きを行っていなかったのに対して,ASD 児の保 護者はすべてが介助磨きを行っていたと報告されてい る.このことは,ASD 児の保護者の児の口腔衛生に対 する関心の高さを示している.以上から,介助磨きに対 して協力性が改善するまではう蝕に罹患しやすいため, 注意深い口腔衛生管理が必要であるが,特に発達年齢の 対人関係が低い者や触覚過敏性を有する者に対しては, 介助磨きへの協力性が改善するのに時間を要することを 表 4 6 歳時の発達年齢と管理期間中のう蝕罹患の有無との関連 発達年齢 う蝕あり(歳:カ月) う蝕なし(歳:カ月) カテゴリー化した 境界(歳:カ月) Cramer の 連関係数 最小値 中央値 最大値 最小値 中央値 最大値 基本的習慣 対人関係 発語 言語理解 2:1.5 0:7.5 0:7.5 0:9.5 3:2 1:9 2:4.5 4:0 4:2 3:10 3:6 4:6 2:1.5 1:7.5 0:7.5 1:1 4:6 2:7.5 3:2 4:2 4:6 4:6 4:6 4:6 3:10 2:1.5 3:2 4:2 0.612# 0.685# 0.328# 0.167 #は Cramer の連関係数が 0.2 以上のもので,数量化Ⅱ類の説明変数として用いる. 表 3 6 歳時の口腔衛生習慣および障害特性と管理期間中の う蝕罹患の有無との関連 Cramer の連関係数 食生活習慣 間食回数 夕食後の間食 間食の規則性 買い置きをしているか 間食を本人が選ぶか 偏食 こだわりで甘い物を飲食する 0.475# 0.356# 0.134 0.153 0.167 0.167 0.515# 刷掃習慣 歯磨き回数 介助磨きへの協力性 フッ素入り歯磨剤 0.236# 0.850# 0.229# ASD の障害特性 触覚過敏性 聴覚過敏性 視覚過敏性 食べ物・飲み物へのこだわり 重度の多動性 奇声 0.493# 0.329# 0.229# 0.043 0.287# 0.043 #は Cramer の連関係数が 0.2 以上のもので,数量化Ⅱ 類の説明変数として用いる. 表 6 介助磨きへの協力性に関する数量化Ⅱ類の結果 説明変数 レンジ 偏相関係数 寄与率(%) 対人関係 触覚過敏性 聴覚過敏性 偏食 歯磨き回数 本人が間食を選ぶか 1.337 0.824 0.469 0.222 0.030 0.007 0.654 0.494 0.352 0.174 0.014 0.005 46.3 28.5 16.2 7.7 1.0 0.3 相関比:0.866 表 5 管理期間中のう蝕罹患の有無に関する数量化Ⅱ類の結果 説明変数 レンジ 偏相関係数 寄与率(%) 介助磨きへの協力性 間食回数 夕食後の間食の有無 歯磨き回数 フッ素入り歯磨剤の使用 こだわりで甘い物を飲食する 発語 1.892 0.779 0.686 0.458 0.454 0.360 0.275 0.735 0.401 0.378 0.272 0.250 0.215 0.195 38.6 15.9 14.0 9.3 9.3 7.3 5.6 相関比:0.910
念頭においた管理を行う必要があると思われる.すなわ ち,児が抵抗するなかで介助磨きの方法を指導するとと もに,保護者のモチベーションが高くても家庭では十分 なケアができないことを考慮し,定期健診の間隔を短く してプロフェッショナル・ケアを強化するなどの慎重な う蝕予防が重要であると考えられる. 間食の摂取状況がう蝕罹患に対して強い影響を与える ことは,これまで定型発達児を対象として多く報告され ている18〜21).また,ASD 児を対象として,初診時のう 蝕の有無や重症度と間食回数との関連性が強いことが報 告されている9).しかし,今回の数量化Ⅱ類の結果で, 6 歳時の間食回数や夕食後の間食の管理期間中のう蝕罹 患への寄与率は,介助磨きへの協力性に次ぐ値であった ものの,介助磨きへの協力性と比べると半分以下であっ たことから,う蝕罹患との関連性は強いとはいえず,ま た間食の規則性とう蝕罹患との間の Cramer の連関係数 は 0.2 以下であったため関連性は低いと考えられた.今 回の研究は初診時における口腔衛生状況とう蝕との関連 性に関して調査したものではなく,管理期間中に発生し たう蝕に関連する要因を調べたものである.したがっ て,6 歳時の食生活習慣に関する項目がう蝕罹患と関連 性が高くなかったのは,管理期間での食事指導により食 生活習慣が改善した者が多いためであると考えられる. 管理期間中のう蝕罹患と強い関連性を示す介助磨きへの 協力性と比べると,間食回数などの食生活習慣は食事指 導などによりコントロールしやすいのではないかと思わ れる.森主ら8)の,初診患者として来院した ASD 児と 定型発達児の食生活習慣を比較した調査において,定型 発達児では 5 歳以降に間食回数が減少する傾向があった のに対して,ASD 児においては,5 歳では 4 歳とほぼ 変わりなく,7 歳ではかえって 3 回以上摂取する者が増 加していた.このことは ASD 児に対する間食管理の困 難さを示唆している.しかし,今回の 3 歳時と 6 歳時の 食生活習慣を比較した結果において,間食回数および間 食の規則性は有意に改善しており,ASD 児のう蝕予防 に対しても間食指導が有効であることが示された. 今回用いた刷掃習慣の項目のうち,歯磨き回数とフッ 素入り歯磨剤の使用は,う蝕罹患との関連性が低かっ た.われわれが以前行った 4〜5 歳の ASD 児を対象とし た研究においても,歯磨き回数はう蝕との関連性は低い と述べており,歯磨き回数では刷掃効果の判定ができな いためう蝕罹患との関連性の評価は難しいと考察してい る9).今回の結果でも,歯磨き回数と介助磨きへの協力 性との関連性が低く,歯磨き回数が多くても介助磨きを 嫌がっていれば十分な刷掃効果は得られにくいと考えら れ,う蝕罹患性を歯磨き回数で評価することは難しいと 思われる. また,フッ素入り歯磨剤の使用がう蝕予防に対して効 果的であることは広く認知されており,日本口腔衛生学 会は乳歯萌出直後の 0〜1 歳からのフッ素入り歯磨剤の 使用開始を推奨している22).また,山本らは,3 歳の定 型発達児が 5 歳までにう蝕に罹患する要因について調 べ,乳歯う蝕の予防には 3 歳以前からのフッ素入り歯磨 剤の使用が有効であると述べている23).また,神奈川 県の 14 市に在住する 3 歳児 4,047 人を対象とした調査 では,フッ素入り歯磨剤を使っていなかったのは 27.5% であったのに対して24),今回 3 歳時にフッ素入り歯磨 剤を使っていなかった者は 20 人中 14 人と多かった.以 上から,今回の対象者は 3 歳以前にフッ素入り歯磨剤を 使っていた者が少なかったために,6 歳までにフッ素入 り歯磨剤を使用できるようになった者が増加しているも のの,乳歯のう蝕罹患抑制への効果は限定的であったと 考えられる. 結 論 低年齢から口腔衛生管理を開始した自閉スペクトラム 症児に対して,間食回数や間食の規則性の改善などの間 食指導は有効であると考えられた.一方で,家庭での介 助磨きへの協力性が改善しない者は,6 歳までにう蝕に 罹患する可能性が高く,注意深い管理が必要である.特 に,対人関係の発達年齢が低い者や触覚過敏性を有する 者は,介助磨きへの協力性が改善しにくいことからう蝕 罹患性が高いため,プロフェッショナル・ケアの強化な ど慎重なう蝕予防が必要であると考えられた. 本論文発表に際して,すべての著者に開示すべき COI 関係 にある企業・団体などはない. 文 献
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The Association of Oral Hygiene Habits with the Incidence of Dental Caries in
Autistic Spectrum Disorder Children Who Were Managed from a Young Age
ONISHI Tomoyuki, KANETAKA Youko, FUJIWARA Tomie, TAI Hitomi, NAKAI Nanako,
KUKI Fumiko, HAMADA Naoka and RAKUGI Masami
Dentistry for Disabled Persons, Osaka General Medical Center
Oral hygiene management from a young age is important, but children who started management from a young age do not necessarily grow up without developing dental caries. In this study, we investigated the relationship between the incidence of dental caries during the management period and factors related to oral hygiene habits, developmental age, and characteristics of autistic spectrum disorder (ASD) for ASD children who started oral hygiene management from 3 years of age. The management period was until 6 years of age. As a result, the incidence of dental caries was associated with adaptation to tooth brushing. Moreover, adaptation to tooth brushing was associated with the sensitivity to sense of touch stimulation and the developmental age based on item analysis. Thus, ASD children who are sensitive to touch stimulation or have a low developmental age have difficulty adapting to tooth brushing, and therefore often develop dental caries. These results suggest that careful oral hygiene management is needed when ASD children have difficulty adapting to tooth brushing. For children who are sensitive to touch stimulation or have a low developmental age, measures to prevent dental caries, such as reinforcement of professional care, are needed because of their difficulty adapting to tooth brushing.