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気候変化と変動の観点から

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Academic year: 2021

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(1)

特集

 

1

「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」を多様な視点から考える

気 候 変 化(

Climate Change

) と 気 候 変 動 (

Climate Variability

)は、「国連海洋科学の

10

年」 においてその実態とメカニズムや影響を解明す べき重要な基礎概念である。このうち、気候変 化は往々にして一方向への変化、たとえば地球 温暖化に代表される人為起源の不可逆的な変化 を意味する。気候変動はそれに対して、両方向 への動きを伴う、たとえばエルニーニョ・ラニー ニャのような変動現象を意味する。この気候変 化と気候変動は、そこに働くメカニズムは別々 であっても、両者が重なり合って海洋に影響す る。この両者の影響は、比較的短い時間では気 候変動が、長い時間では気候変化が卓越する。 そのため、海洋科学の

10

年の実行計画で定義さ れる

7

つの成果の一つである「予測できる海」に おいて重要であるのは、数年から十年程度まで の予測では気候変動であるのに対して、数十年 以上では気候変化であり、またその間の時間ス ケールでは気候変動・変化の両方である(

Boer

et al., 2016

)。 気候変動は多くの場合、モードという特定の 空間パターンを持つ現象として理解される。た とえば、熱帯東太平洋の海面水温が通常よりも 暖かくなるエルニーニョ、通常よりも冷たくな るラニーニャ、あるいは通常の海面水温からの ズレが熱帯インド洋の東と西で逆になるイン

気候変化と気候変動

ド洋ダイポールモードなどは、大気と海洋が相 互に影響を与え合うことで形成される気候変動 モードである。中緯度では、北太平洋十年振 動(

Pacific Decadal Oscillation

)という海面水温 の変動モードが存在しており、北太平洋中央お よび西で同符号、北太平洋東部では逆符号の 水温の平年値からのズレを持つ。また、この北 太平洋十年振動と概ね似ているが中心を熱帯に 持つ気候モードとして、熱帯太平洋数十年振動 (

Interdecadal Pacific Oscillation

)も提案されてい る。これらの太平洋の十年スケール変動は、地 球温暖化の進行の加速減速をもたらしているこ とが指摘されている(

Kosaka and Xie, 2013

)。

これらの気候変動は我が国にも重要な影響 を与える。エルニーニョが暖冬・冷夏をもたら すことはよく知られており、またインド洋ダイ ポール現象は日本に猛暑をもたらすことがある (

Guan and Yamagata, 2003

)。北太平洋十年振

動は

20

世紀の我が国のマイワシの漁獲に大き な影響を与えたと考えられている(

Yasuda et al.,

1999

)。 このような変動現象を理解するには、まず変 動の発見、そして詳細な記述、そしてメカニズ ムの理解と進んで行くことが期待される。比較 的短期の現象であるエルニーニョやインド洋ダ イポールモードについては実際にそのように研 究が進展したが、長期の現象である北太平洋十 年振動・熱帯太平洋数十年振動については、観

「国連海洋科学の10年」―One Oceanに向けて

石井雅男・見延庄士郎

気候変化と変動の観点から

(2)

生起する回数が少ないために、未だそのメカニ ズムについて結論は得られていない。 一方、気候変化に関連して海洋で特に注目す べきは、温暖化の進展そのものに関係する海洋 の熱と二酸化炭素(

CO

2)の吸収、それらによる 水温上昇、海洋酸性化、酸素減少を通じた海洋 生態系への諸影響、そして人間の生存域を直接 的に脅かす海面水位上昇であろう。 全海洋平均での海面上昇は、南極およびグリー ンランドを覆う氷床と山岳の氷河といった陸氷 の融解と、海洋の熱吸収による海水の膨張に起 因する。

IPCC

5

次評価報告書や

IPCC

海洋・ 雪氷圏特別報告書では、両者の寄与は概ね半分 ずつと評価されている。ただし、場所ごとに見 れば、この他に、海洋循環の変化による効果な ども重要な要素である。過去

100

年間の日本沿 岸の海面上昇速度は、海洋循環と関係して大き く変動しているが、平均すれば全球平均と同程 度である(

Sasaki et al., 2017

)。しかし、今後、 日本の東方沖では全球平均よりも高い海面上昇 が予想されている(図

1

)。これには日本の東方 沖で大気から海洋への熱の取り込みが係わって いる(

Terada and Minobe, 2018

)。ただしこの 日本東方沖の高い海面上昇の影響を、主要四島 には及ばないようにしている働きが、高緯度か ら沿岸に沿って南に伝播する沿岸ケルビン波に よってもたらされると予想されている(

Liu et

海面水位上昇

盾のように主要四島の沿岸を守るのである。た だしこの盾は、沖合の島には及ばないため、伊 豆諸島、小笠原諸島、南西諸島などでは、海洋 の力学的な応答によって日本沿岸よりも海面上 昇幅が高くなる可能性が高い。 図1 (a)RCP8.5および(b)RCP2.6シナリオにおい てそれぞれ21と16モデルによるCMIP5モデル 実験より得られた、2081–2100年と1986–2005 年との間の海面高度変化(陰影)、および海面高 度変化の全球平均からのずれ(等値線)。

(3)

特集

 

1

「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」を多様な視点から考える

地球温暖化が海洋生態系に与える影響には、 海水温の上昇による直接的な効果と、次に説明 する海洋酸性化・海洋貧酸素化や、海洋貧栄養 化による影響とがある。前者では水温が高くな ると、生物種は、それぞれの生存に適した水温 域へと、高緯度に、或いはより深い深度に移動 すると予想されている。このような移動はすべ ての生物種が円滑に行えるわけではない。特に 海底地形に生息域が制約される底生生物は、浮 遊生物に比べて困難となる可能性が高い。また 後述する海洋貧酸素化も、表面付近の生物より も底生生物により重要な影響を与える可能性が 高い。実際に、北太平洋の底魚類では、再生産 の顕著な減少が

20

世紀後半を通じで生じていた ことが指摘されている(

Yati et al., 2020

)。また 海洋において、通常よりも大幅に高温の海水が 発生する、海洋熱波という現象も注目されてい る。特に、北東北太平洋で

2013‒2016

年に発生 した

blob

(大目玉の意味)は有名である。一方、 北西北太平洋の東北沖でも

2010‒2016

年の夏季 に、海洋熱波が親潮の弱化に伴って生じたこと が指摘されている(

Miyama et al., 2020

)。 海洋は、温暖化による地球表層の貯熱増加 分のおよそ

90

%を蓄積すると同時に、化石燃 料の燃焼や森林破壊などの土地利用変化によっ て人為的に排出された

CO

2のおよそ

25

%を吸

海洋熱波

海洋のCO

2

吸収

収することで、地球温暖化を緩和する大きな 効果を有している(

IPCC

5

次評価報告書、

Friedlingstein et al., 2019

)。こうした定量的な評 価には、地球規模の現場観測や数値シミュレー ションが必要である。海洋の

CO

2吸収について は、世界の

CO

2排出量統計と大気中の

CO

2濃 度の精密観測に加えて、海洋大循環・生物地球 化学モデル、海面付近の

CO

2飽和度に関する 海洋の広範囲の時間・空間変化の精密観測、海 洋内部の炭酸物質の顕著な自然変動から人為起 源

CO

2吸収による変化を検出する精密な海洋観 測、大気中の

CO

2濃度と酸素濃度の精密観測、 大気中の

CO

2濃度と大気輸送モデルによる逆推 定など、それぞれに長所・短所のある様々な方 法を総合して評価されてきた。一方、今後の海 洋への

CO

2吸収量予測は、これらの成果を踏ま えつつ、スーパーコンピューターで地球の気候 システムを再現し、大気中の

CO

2濃度の増加シ ナリオや

CO

2排出シナリオに基づいて気候変化 を予測する「地球システムモデル」により、気温 や海水温など様々な要素の変化とともに予測さ れている。 大気への人為的な

CO

2排出量は、

C. D.

キー リングがハワイのマウナロアと南極で大気

CO

2 濃度の観測を始めた直後の

1960

年代は、年に平 均

4.5

±

0.7 PgC

1 PgC

10

億トン炭素)だっ た。しかし、

2009

年から

2018

年の

10

年間には 年に平均

11.8

±

0.8 PgC

となり、過去

50

年間に およそ

2.6

倍に増えた。しかし、海洋の

CO

2吸 収割合がその間に顕著に変化した様子はなく、

25

%の比率をほぼ保ったまま吸収量は増加して

(4)

CO

2 大気

CO

2濃度の増加は減速しにくくなる。 原因のひとつは、海水に溶けた

CO

2の化学 平衡状態に関する「ルベルファクター」の非線 形の増加(

CO

2緩衝能の低下)である。ちなみ に「ルベルファクター」は、

1950

年代に国際地 球観測年を推進し、ユネスコ政府間海洋学委員 会(

UNESCO/IOC

)の設立にも深く関わり、そ の名をアメリカの観測船に残す

R.

ルベルらが、

1957

年に発表した論文(

Revelle and Suess, 1957

) に由来する。 そのほか、大気

CO

2濃度増加による気候変化 が海洋の三次元的な循環を変化させ、それによっ て海洋の物質循環や生態系が変化した結果、大 気から海洋への

CO

2吸収量が変化する「炭素- 気候フィードバック」の影響も見逃せない。大 気・海洋間の

CO

2交換は、気候変動の影響を受 けて時間・空間的に変動している。エルニーニョ の発生に伴う太平洋中部・東部赤道域からの自 然の

CO

2放出の著しい減少は、その代表例であ る(

Ishii et al., 2014

)。また、海洋表層の

CO

2観 測が長期に続けられてきたことで、南大洋では

CO

2吸収量が

10

年規模で変動していることも示 唆されている(

Landschützer et al., 2016

)。さら に、観測船による高精度の海洋観測により、海 今後、観測船や篤志観測船による精密観測の ネットワークに、アルゴフロートに

pH

や酸素 のセンサーなどを搭載した生物地球化学アルゴ (

BGC‒Argo

)などの自律型海洋観測ネットワー クを連携させれば、海洋

CO

2観測の時空間密度 を劇的に向上させることができるはずである。 それによって、海洋の

CO

2吸収・蓄積と炭素- 気候フィードバックの実態評価を進展させ、気 候変化の将来予測を向上させる必要がある。 海洋の

CO

2観測は、海洋酸性化の実態解明に も不可欠である。

CO

2は水に溶けると炭酸にな る。したがって、海洋が

CO

2を吸収すると、も ともと弱アルカリ性の表層海水(

pH

はおよそ

8.1

)が中性方向に「酸性化」してゆく。気象庁 が

1980

年代前半から行ってきた東経

137

度線に 沿った海洋

CO

2の長期観測のデータなどから、 海洋酸性化の進行は、すでに疑いようのない観 測事実と言える(

Ono et al., 2019;

2

)。水素イ オン濃度の負の対数値として表される

pH

の変 化速度は

10

年あたり

-0.02

ほどで、必ずしも大 きくは見えないが、水素イオン濃度の変化に換 算すると、その濃度増加率は、大気中の

CO

2濃

海洋酸性化と酸素減少

(5)

特集

 

1

「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」を多様な視点から考える

度の相対増加率に匹敵するほど速い。 一方、海水温の上昇は、海水中の酸素濃度の 低下を引き起こしている。大気では、地表付近 の気温が上がれば、対流が活発化するのが道理 だが、海洋では、海面付近の水温が上がれば成 層化して、対流が弱まる。そのため、海面付近 の海水に大気から溶け込んだ酸素や、海洋表層 で植物プランクトンが生み出した酸素は、海の 内部に運ばれにくくなる。水温上昇によって海 水中の酸素の溶解度が下がるとともに、成層化 によって海の内部が淀めば、有機物分解が進ん で酸素濃度が減少する。有機物分解は、酸素を 消費すると同時に

CO

2を放出する ので、海の温暖化は海洋内部の酸 性化を助長することにもなる。 世界の海の水深

1000

メートルま での深さでは、

1970

年から

2010

年までの

40

年間に、酸素濃度が平 均して

0.5%

から

3.3%

減少したと 推測されている(

IPCC

海洋・雪氷 圏特別報告書)。北太平洋は、海 の中層の酸素減少が顕著な海域の ひとつである。その要因は、オ ホーツク海の冬の海氷形成が減少 し、深い混合が起こりにくくなっ て、表層の酸素が中層に運ばれに くくなったためと考えられている。 北海道沖の親潮域には、気象庁が 過去

60

年にわたって溶存酸素の 観測を続け、長期的な酸素濃度の 低下を実証した世界的に見て稀有 な海域がある。この海域での酸素濃度の低下に は、およそ

20

年周期の自然変動が重なっている (

Sasano et al., 2018

)。 海洋の酸性化や酸素濃度の低下は、海洋生 態系の変化による食糧供給への広範な悪影響な どを通じて、国際社会に大きな影響を及ぼすこ とが懸念される。国連が「持続可能な開発目標 (

SDG

14

・海の豊かさを守ろう」の設定や、関 連する諸活動を通じて、海洋酸性化の抑制を呼 びかけている所以である。しかし、それらの実 態が多くの海域で明らかにされているわけでは ない。海洋酸性化の長期変化のシグナルが、自 図2 本州南方の亜熱帯域北部(東経137度・北緯30度)の海洋表層に おけるCO2分圧、全炭酸濃度(塩分35における値)、pH、炭酸カ ルシウム(アラゴナイト)飽和度の変化(丸は観測値または観測 値に基づく計算値。線はそれらに基づく月平均値の推定値。CO2 分圧の図中上部の線は、大気中のCO2分圧の長期変化を表す(Ono et al., 2019)。

(6)

だが、潮汐混合や河川による淡水や栄養塩類な どの物質供給の影響なども大きい沿岸域や縁辺 海域でも、実態評価はあまり進んでいない。こ れらの海域は生活圏に近く、社会の依存度も高 い。調査と影響評価の進展が、これらの海域に おいても強く望まれる。 気候変化・変動の様々な様相の実態や、パリ 協定による温室効果ガス排出削減の効果を評価 して、温室効果ガスの排出削減策や気候変化へ の適応策に活かすには、沿岸域から外洋域まで、 気象・海洋物理・海洋化学・海洋生態系に関す る観測を学際的かつ継続的に行うことが肝要で ある。加えて、それらを支配するプロセスを解 明し、プロセス相互の関係を定量的に評価する ことで数値モデルの向上に活かすといった作業 も必要である。数値モデルは現象の再現とその 解明だけでなく、将来予測にも不可欠である。 それらの実現には、観測機器の開発と改良、観 測のネットワーク化、品質評価した観測データ の統合と公開、数値モデルの開発と運用、そし て観測データやモデリング結果の解析など、様々 な作業が必要であり、それらによって社会で情

おわりに

の育成も不可欠である。これらのひとつひとつ をいかに実現するか、「国連海洋科学の

10

年」 を成功に導くため、十分に考慮されなければな らない課題である。 文献

Boer, G. J., et al. (2016). The Decadal Climate Prediction Project (DCPP) Contribution to CMIP6. Geoscientific Model Development, 9, 3751-3777. doi:10.5194/gmd-9-3751-2016 Friedlingstein, P., Jones, M.W., OʼSullivan, M., Andrew, R.M.,

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特集

 

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「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」を多様な視点から考える

Liu Z.-J., Minobe, S., Sasaki, Y. N. & Terada, M. (2016). Dynamical downscaling of future sea level change in the western North Pacific using ROMS. Journal of Oceanography, 72, 905-922. doi:10.1007/s10872-016-0390-0

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Sasano, D., Takatani, Y., Kosugi, N., Nakano, T., Midorikawa, T., & Ishii, M. (2018). Decline and bidecadal oscillations of dissolved oxygen in the Oyashio region and their propagation to the western North Pacific. Global Biogeochemical Cycles, 32, 909-931. https://doi.org/10.1029/2017GB005876

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