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現代韓国社会の男性性 ――軍事主義との関係から――

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(1)現代韓国社会の男性性(佐々木). G 論文 H. 現代韓国社会の男性性 ――軍事主義との関係から――. . 佐々木正徳 (長崎外国語大学). はじめに 2018 年、韓国言論振興財団メディア研究センターは異性嫌悪に関して、20 ∼ 50 代の男女 1000 1 名にオンラインアンケート調査を実施した。以下は、調査結果を報告した記事の一部である 。.  調査によると、回答者の 28.5%は性別による嫌悪表現問題が「深刻」と考えていた。「やや深 刻」という回答も 52.2%と、回答者全体の 80.7%は性別による嫌悪表現問題が深刻だと判断して いた。「深刻でない」は 15.0%、「関心がない」は 4.3%だった。  特に女性は男性よりも性別嫌悪表現の深刻性を感じている。女性の 85.8%が「性別嫌悪表現問 題が深刻」と答え、男性は 75.6%だった。年齢別に見ると、若い世代であるほど深刻性を強く認 識する傾向があった。 昨今の韓国のメディアでは、男女間の対立を問題視する記事や対立を. る書き込みが散見され. る。きっかけの一つと考えられるのが 2016 年 5 月に発生した「ソウル江南駅殺人事件」である。 これは、ソウルの江南駅近所の男女共用トイレで 30 代の男性が 20 代の女性を刃物で何度も刺し殺 害した事件である。犯人は被害女性と面識はなく、逮捕後に「女達が自分を無視して耐えられず、 2 どの女でもいいので殺そうと思った」と供述したとされる 。他にも、女性を無差別に狙ったと思 3 われる事件の報道を目にすることは珍しくない 。. 韓国で 100 万部、日本でも 13 万部(2019 年 4 月現在)売り上げている、チョ・ナムジュの小説 『82 年生まれ、キム・ジヨン』へのリアクションも、現在の韓国の男女間対立を知る上で示唆的で ある。web 通販サイトであるアマゾンジャパン(https://www.amazon.co.jp/)で同書籍のページを 開くと、2019 年 5 月 1 日現在で 86 件のカスタマーレビューが書き込まれており、うち 9 件が最低 4 評価の星 1 つである 。しかし、最低評価をつけたレビューで内容について. かでも触れているの. は 1 件のみ である。また、9 件中 8 件が「デタラメ」「妄想」など作品を強く非難するものである 5. が、具体性に欠けるため感情的な語りという印象を受ける。さらに、日本語の不自然さなどから少 なくとも 6 件が韓国人(の男性)によるものと思われ、彼らが作品を批判すればするほど、韓国の 6 女性嫌悪(ミソジニー)の深刻さが伝わる結果となっている 。 7 こうした男女間の対立は主に web で活発である 。web での語りは今のところ社会に大きな影響. を及ぼしているわけではないが、新聞が報道したり、インターネット使用中に偶然アクセスしたり することで、男女が深刻に対立しているという印象が広まり、過激な思想を持たない人たちの間で も実際に問題になってしまうという恐れがある。先述の記事にあるように、若い世代ほど深刻さを 8 強く認識しているのは、web でそうした情報に触れる機会が上の世代よりも多いためであろう 。. 19.

(2) ジェンダー史学 第 15 号(2019). しかし、なぜ韓国社会では異性嫌悪についてアンケートをとるほどに、また、海外のサイトに慣 れない外国語でレビューを書く人が存在するほどに、異性からの反応に過剰に反応する層が存在す るのであろうか。本稿では韓国の男性性に焦点を当てることで、この問題についての考察を試み る。まず、1 章では韓国の男性性がどのように研究されてきたのかをレビューする。それにより、 男性が研究対象として扱われるようになってくる中で、男性性は「軍事主義」「軍事化」と関連し て分析されてきたことが明らかになる。続く 2 章では韓国の男性性の変遷を軍事化との関わりから 明らかにする。それにより、男性性のキーワードが「自己犠牲」から「被害者」へと変遷していっ たことが明らかになる。3 章では、現代の男性たちがなぜ「被害者」であると自己を認識している のか、メスナーの議論を用いて考察し、女性嫌悪(ミソジニー)が生じる背景について考察する。. 1.韓国における男性性研究 1 - 1.男性に注目したジェンダー研究 韓国における男性研究の第一人者は. 菜基(チョン・チェギ)である。. は American Men’s. Studies Association(AMSA)の会員であり、韓国男性学研究会の会長や男性運動団体の共同代表 を務めるなど、韓国での男性学・男性運動の普及に尽力した。日本の男性運動団体とも関係が深 く、論文を寄稿(. 2000)したり、メンズリブ団体が企画した「男のフェスティバル」に参加し. たりしている。韓国では、チョ・ジョンムンらと共著で 2000 年に『男性学と男性運動』(조 2000)、 筆者らと共著で 2007 年に『フェミニズムに対する男性学と男性運動』(사사키 2007)を刊行して いる。いずれの著作も韓国と諸外国の男性学・男性運動についての報告、事例紹介、提言などで構 成されているが、これは当時の韓国に男性学としての蓄積がほとんどなかったためであろう。ま た、. が主に関わっていた男性運動団体は家父長的ではない父親、家庭内で育児役割を担う父親と. いう、「新たな父親像」を定着させようという団体であった。 韓国社会を男性のジェンダーという視点から分析したのは、権仁淑(クォン・インスク)であ 9 る。権はその著作(권 2005、権 2006)の中で、韓国社会を「軍事主義」 がヘゲモニーを掴んでい. る「軍事主義社会」と規定した。権はいくつかの現場から軍事主義を抽出する。例えば、軍事独裁 政権に反対し自由や平等を標榜する勢力であった民主化運動団体の内部に存在した、不平等や暴力 を是認する価値観などを明らかにすることで、民主化運動団体内の軍事主義を指摘した。他に、義 務兵役に対する世間の反応を分析することを通して社会に存在する軍事主義を明らかにし、軍隊内 での同性間性暴力の問題を扱うことで、個人に内在する軍事主義についても考察した。 権の著作に続く男性性研究はなかなか現れなかったが、クォンキム・ヒョノンらが 2011 年に 『男性性とジェンダー』(권김 2011)、2017 年に『韓国男性を分析する』(권김 2017)を刊行し、権 の研究を発展させた。クォンキムらは韓国的な男性性として「植民地男性性」という概念を提唱す る。「植民地男性性」とは、被支配地域で生まれ育った人間として「周辺的」な男性性であるが、 同地域の女性に対してはヘゲモニーを握っているという、女性化を装った男性性を意味している。 つまり、ヘゲモニックな男性性に対しては従属的でありながらも、女性に対しては優位な位置にあ る男性性ということである。クォンキムらの議論は韓国社会の男性性の特徴として「支配された 者」という認識が存在することを明らかにする。「支配される」のは、自身が「弱い」からである。 ゆえに、支配されないための手段は「強くなること」であり、そのことが暴力を容認する価値観を 導き、「軍事主義」を補完することに繋がるのである。クォンキムらは、社会の中で「軍事主義」 20.

(3) 現代韓国社会の男性性(佐々木). がヘゲモニーを掴む理由を権とは別の角度から明らかにしたと言える。 チェ・テソプは『韓国、男子』(최 2018)の中で韓国の男性性研究についてレビューをした上で、 解放後から現代に至る韓国社会の男性性について考察している。チェが注目するのは、主に web に. れる男性の被害者言説と女性嫌悪である。そこでは、IMF 時代以降、「稼得役割を一手に担う. 男性」像が虚構であることが明白になったにもかかわらず、新たな男性像を形成せずに時代を経て いった男性たちが、徐々に「俺達だけが苦しい」と主張するようになっていく過程が明らかにされ る。よい父親になることを目的としていたはずの男性運動も、徐々に男性の被害者性を主張する女 性嫌悪に満ちあふれた活動になっていく。チェは義務兵役が「稼得役割を担う」男性像の形成と 「被害者としての男性」言説の双方の要因になったと指摘し、韓国社会における義務兵役の影響の 深刻さについて指摘した。 以上のように、韓国における男性性研究は、何らかの形で男性性と「軍事主義」「義務兵役」と 関連付けて議論されてきた。 1 - 2.軍事主義と軍事化 韓国社会を分析し韓国の「軍事主義」を定義したのは、先述した権仁淑である。権は『韓国の軍 10 「韓国のように、軍隊と社会の相互関係だけでなく国家安保が経 事文化とジェンダー』 の中で、. 済開発や愛国の核心論理として長い間機能した国の軍事主義的影響力を説明する」(権 2006、19 頁) ための定義として、軍事主義を次のように規定する。  軍事主義は複合的な信念体系として軍隊の存在と力の付与を正当化するイデオロギーである。 効率的な組織運営と管理のために、ヒエラルキーと統制と訓練が重要であると信じ、効率的な兵 士役割のために必要な男性性に価値を与え、民族と友邦という大組織の名の下に集団暴力を行使 することを正当化する価値が互いに作用する。これらの特性は、現代社会で民族主義、国家主 義、家父長制の信念体系に依拠してその特性を支持し、強める。(権 2006、19-20 頁) この定義には、軍隊的価値観が社会に影響を及ぼしているだけではなく、軍隊も「社会的に形成 された各種の役割や価値観、文化的属性」から影響を受け、依存しながら維持・支持されていると いう含意がある(権 2006、18 頁)。そして、「理念または価値体系としての軍事主義が日常化・社 会化すること」が「軍事化」である(権 2006、20 頁)。次章では、解放後の韓国社会の主要な男性 性を軍事化との関わりから明らかにする。. 2.韓国社会の男性性の変遷 2 - 1.軍事政権期〈1963 ~ 1987〉の男性性 韓国社会の「軍事化」を進めていったのは朴正熙(パク・チョンヒ)〈大統領在任:1963 ∼ 1979〉 である。軍事クーデターで政権を掌握した朴は、反共、経済成長、政権維持のために、韓国を「軍 事化」していった。当時の韓国は朝鮮戦争の記憶も生々しく、また最貧国の一つであったことか ら、常に北朝鮮の脅威に晒される状況であった。朴は「北の脅威」を払拭するための軍の整備. 11. と. 経済発展のための施策を進めていく。日本との国交正常化〈1965〉やベトナム戦争への派兵〈1965 ∼ 73〉がその典型である。これにより韓国は多額の外貨を獲得し、それを国内インフラの整備や 21.

(4) ジェンダー史学 第 15 号(2019). 産業開発に用いることで、漢江の奇跡と呼ばれる高度経済成長を達成した。経済成長は以降も続 き、全斗煥(チョン・ドゥファン)政権期〈1980 ∼ 1988〉の 1986 年には初の国際収支の黒字転換 を達成する。この間、急激な都市人口の増加と中間層の増加. 12. を韓国社会は経験することになる。. さて、短期間でインフラを整備したり生産性をあげたりする上で重要なのが、労働力の確保であ る。そこで重要となるのが「産業戦士」の育成、すなわち祖国近代化のための苛酷な労働に自発的 に従事する人材、換言すれば「自己犠牲」できる人材の育成である。言うまでもなく、これは典型 的な軍隊の規律である。また、北朝鮮に攻められないために国力をつけることが必要であり、その ために国民は率先して協力しなければならないという論理は、当時の人々にとって与しやすい価値 観であったようである。「60 年代末以降、 『戦いながら建設しよう』というスローガンのもと、産業 化と軍事化の意志と実践が結合して進められた全社会的な動員は、強制性ないしは暴圧性だけでは 説明できない」(権 2006、37 頁)ゆえに、そこには自発的合意が含まれていたと考えられる。植 民地化、解放後の米ソによる国土分割、朝鮮戦争といった激動の経験を経た韓国社会に生きる人々 は「国家単位の力の均衡によって平和が維持されるという論理を深く内面化」しており、「強い国 家だけが平和を手に入れ、国民の運命決定権を持てるという論理が形成」(権 2006、28 頁)され ていたのである。力による平和を国家が指向し国民が同意する社会の場合、軍事化はスムーズに進 行する。そして、安全保障、経済成長、生活の質の向上など目に見える成果が出ていく中で、社会 の軍事化は特に大きな摩擦を生じることなく進んでいくことになる。韓国社会の軍事化は「国民の 同意を前提にして進められた」(権 2006、36 ∼ 37 頁)ものであり、国家の安全や発展のために 「自己犠牲」という「(軍事化された)男性性」が社会にとって理想とされたのが、この時代である。 2 - 2.運動圏(進歩派)の男性性 民主化運動は朴正熙政権期から存在していたが、全斗煥政権期になるとより活性化・過激化して 13 いき、1987 年の民主化宣言へと展開していく。中心となったのは後に「386 世代」 と呼ばれる. 「運動圏」の若者たちであった。「運動圏」とは「労働運動、人権運動、学生運動などのような社会 14 変革運動に積極的に参与する人たちの集団」 のことであり、「保守派」に対する「進歩派」に属. する集団である。つまり、「運動圏」は軍事独裁政権やその系譜である保守政党と対立する人々の 集団である。彼らは、現在の分断状態をもたらしたのは解放後のアメリカの対朝鮮半島政策にある と考えているため、基本的に反アメリカであり、米韓同盟は韓国の自立性を損ねるものとみなす。 彼らが打倒しようとしてきた軍事独裁政権が親アメリカ. 15. であるということも、反アメリカ傾向に. 大きく関係している。親北朝鮮的で朝鮮半島の平和的統一を志向しており、民族主義者として愛国 心が強い。また、多くは解放後の混乱や朝鮮戦争を現実に経験しておらず、そのことも反アメリ カ、親北朝鮮の要因の一つとして指摘できる。以上の典型が「386 世代」である。 一方、韓国の保守は親アメリカ(米韓同盟維持)、反北朝鮮、反共産主義である。米韓同盟が韓 国の資本主義体制の構築に寄与したため、現在の発展した韓国があるとみなす。解放後の混乱や朝 鮮戦争を現実に経験してきた高齢者に強く支持されているほか、軍政期に多くの利益を得ることが できた地域に支持者が多い。民主化後の韓国の政治は大まかに言うと、運動圏側の政権(金大中、 盧武鉉、文在寅)か、保守側の政権(盧泰愚、金泳三、李明博、朴槿恵)かに区分できる。両者の 対立は深刻で、時に暴力的になる。 16 権は、軍事政権に反対する学生運動も家父長的で「軍事化」されていたことを明らかにする 。. 民主主義の実現を標榜する彼らも「個人を国家の繁栄と平和のための付属物とみなし、国家や集団 22.

(5) 現代韓国社会の男性性(佐々木). を絶対的に優先」(権 2006、8 ∼ 9 頁)させていたのである。強権的な軍事独裁政権を打倒し平 和な社会を構築しようという運動であるにも関わらず、彼らの闘争は平和的ではなく「戦闘的で攻 撃的」(権 2006、79 頁)であり、特定の女性性以外は排除し卑下する文化. 17. を作り出していた。. 民主主義国家の実現のために「自己犠牲」できること、平和のためには力に訴えることを厭わない こと、これらが運動圏の成員にとって理想とされた男性性であった。民主化運動は非民主的な軍事 独裁政権に強烈に反対するものであったが、その内部は軍事独裁政権と同様「軍事化」されていた のである。そして、学生運動にみられた暴力是認の傾向は、民主化宣言という成功体験をもって正 当化され、その後の社会にも影響を及ぼすことになる。 2 - 3.IMF 期〈1997 ~ 1999〉の男性性 1987 年、民主化宣言後に行なわれた最初の大統領直接選挙. 18. で当選したのは、軍事政権の流れ. む元軍人の盧泰愚(ノ・テウ) 〈大統領在任:1988 ∼ 1993〉であり、5 年後の大統領選挙で. を. 19. 20 当選したのは、文民ではあったが盧泰愚と政党を同じくする金泳三(キム・ヨンサム) 〈大統領. 在任:1993 ∼ 1998〉であった。文民でかつ軍事政権の系譜を継がない大統領の誕生は、次の金大 中(キム・デジュン)まで待つことになる。 金大中〈大統領在任:1998 ∼ 2003〉が最優先して取り組まなければならなかったのは、IMF 危 機. 21. からの脱却であった。ここで重視されたのは軍事政権期に政府が要請し社会が受け入れた価値. 観、すなわち「自己犠牲」である。未曾有の国難からの脱却には「挙国一致」で立ち向かわなくて はならない。ゆえに、個人よりも国家や集団を優先することが要請されたのである。金大中政権の 支持層であった運動圏の人々もこの価値観に従った。前節で述べたように、軍事主義的な価値観を 持つ彼らにとって、個より国家を優先させることは難しいことではなかったからである。軍政期の 頃の「北の脅威」のように、「国難」というリアリティが彼らに自己犠牲を選択させ、「挙国一致」 22 を実現させた。そして、大規模なリストラを伴う改革が次々と進められていった 。.  「IMF 体制下」の韓国の優等生ぶりは顕著であり、そこには単に通貨危機を体験したことのみ に還元できない、韓国独自の事情が存在するように思われる。韓国において顕著だったのは、極 端な「危機」においても、例えば、インドネシアで見られたような秩序崩壊が見られず、逆に、 金大中を首班とする新政権の下、危機克服のための規律強化と、挙国一致的雰囲気が成立したこ とである。金大中政権による、IMF の当初の予想をも裏切る、急速でかつ劇的な改革は、この ような社会的状況に支えられることにより、はじめて可能となったと言うことができる。(木村  2009、231 頁) はたして、大規模な構造改革が功を奏し経済は V 字回復、1999 年末には IMF 時代の終結を大統 領が宣言するに至る。しかし、急激な改革の副作用として生じた競争の激化、就業難、貧富の差の 拡大といった問題は、現在に続く深刻な社会問題の萌芽となった。また、軍政期の「自己犠牲」が 「産業戦士」という言葉に象徴されるように、ひたすら国家の繁栄のために労働し続けるというこ とを意味していたのに対して、IMF 期の「自己犠牲」は、国家が衰退しないように自身がリスト ラされてもそれを受け入れるという「痛みを伴う」ものであった。前者の自己犠牲は、男性をして 家長としての役割を担わせるのに十分であった。つまり、稼得による家父長制の維持である。とこ ろが、後者の自己犠牲はそれまで前提. 23. とされてきた家長としての役割を男性から奪う可能性のあ 23.

(6) ジェンダー史学 第 15 号(2019). るものであった。社会が要求する男性性である「自己犠牲」を体現した結果、家庭における権力を 手放す男性が出てきたのである。公的領域で要求される男性性が私的領域での男性の生きづらさを 24 招くというねじれは、その後の韓国社会の男性性に負の影響をもたらすことになる 。また、女性. 政策を担う女性部(現・女性家族部)が行政機関として新設され、女性の人権の向上と社会進出が 進んでいくのもこの時代からである。 2 - 4.兵役不正問題〈1997〉と男性性 25 民主化後の男性性の変化を予言するような出来事が 1997 年大統領選挙の最中に起こる 。大統. 領選挙に出馬していた李会昌(イ・フェチャン)候補の息子が不正に兵役逃れをしていたことが判 明し、李会昌候補に対する非難が沸き起こったのである。李会昌は. 26 差で落選し 、息子の不正兵. 役逃れが落選の一要因とされた。 この出来事から、義務兵役を巡る当時の韓国社会の状況として次の 4 点を指摘できる。一点目 は、多くの男性が兵役に行きたくない(家族にとっては行かせたくない)と感じていたこと、二点 目は、「男子皆兵」に対する猜疑心が人々の間に存在していたこと、三点目は、兵役に行かない人 を強者、行く人を弱者とみなす認識が存在していたこと、四点目は、兵役に対して否定的であるに もかかわらず、制度廃止に対する議論が盛り上がらなかったことである。一点目について、韓洪九 は次のように述べている。  兵役に就くのがある種の身分的な特権であり、兵役に対して正当な対価が与えられる社会で は、兵役拒否傾向はそれほど顕著ではありません。しかし、兵役に就いた人に負担と不利益ばか り与えている社会では、兵役に対する拒否感がないはずがありません。(韓 2003、294 頁) 二点目は、「男子皆兵」が原則でありながらも、不正に兵役を逃れる男性がいることから生じて いる。三点目は、兵役不正をする人物が、特権層、富裕層の子弟に多いことから生じている。兵役 不正の報道は人々に、兵役不正ができる者=権力者、できない自分=弱者という認識をもたらすの である。四点目は、兵役不正を糾弾することはあっても、これを機に兵役制度を改革しようという 議論が盛り上がらなかったことを指す。当時の韓国社会は、冷戦後の緊張緩和の時期であり、盧泰 愚大統領の北方外交で共産圏の国家と国交を持つようになった時期であり、自国の経済成長と北朝 鮮の停滞で「北の脅威」が弱まっていた時期である。何より、義務兵役は朴正熙が整備したもので あることを考えると、運動圏の人にとっては改革や廃止を優先的に考えてもおかしくない。また、 民主化運動を主導した人たちの中には、1 年半の実刑を受けたために、兵役の義務を果たせない人 たちも含まれていた。そうした、義務兵役を見直す環境が整っていながらも、焦点化されたのは兵 役の見直しではなくて厳格化だったのである。これは当時の韓国社会がいかに「軍事化」されてい たかを示す好例と言えるであろう。 義務兵役の厳格化を支えるロジックは、市民社会とは全員が平等な社会であるのだから兵役も 27 「平等に」負担すべきという考え方である 。この「平等負担」のロジックにより、兵役圧力は民 28 主化後にむしろ強まっていくことになる 。. 2 - 5.加算点問題〈1998〉と男性性 1998 年 10 月、梨花女子大学校の卒業生 5 名と延世大学校の男子学生(障がい者)1 名が、軍加 24.

(7) 現代韓国社会の男性性(佐々木). 算点制度. 29. の違憲審判を憲法裁判所に請求し、12 月に憲法裁判所が全員一致で平等権と公務担任. 権の侵害と判断した。判決後、訴えを起こした女性 5 名の個人情報がネット上に晒され、実生活で も脅迫や嫌がらせを受けることになる。また、訴えを支持していた女性団体のホームページが攻撃 されたり、賛意を示した女性に脅迫や嫌がらせがなされたりするなどして、社会問題となった。い わゆる「加算点問題」である。これは、韓国社会が「兵役義務を負えない人々や集団が、社会的発 言権・労働権・平等権を主張することがいかに社会的説得力をもちにくいか」(権 2006、230 頁) を示す事例とされる。同時に、脅迫や嫌がらせが他の当事者である男子学生や憲法裁判所の裁判官 になされなかったこと. 30. を考えると、女性嫌悪が表出した出来事であるともいえる。どちらにせ. よ、社会の軍事化を証明するものである。 また、当時の社会状況をふまえると、次のような解釈も可能である。当時は金大中大統領の就任 年であり IMF 危機の真只中、街には失業者が. れる就業難の時期である。訴えは、全国民が就業. 難の時代に特定の、本人の意志によらない義務を果たした男性が優遇されるという事実への反発で ある。一方、軍畢. 31. 男性は就業困難な時代だからこそ加算点まで奪われてはたまらないと、既得権. 益の維持のために大いに反発する。結果的に軍畢男性の反発がその他の人々の反発を凌駕したのが 加算点問題なのである。ここでも、義務兵役の存廃については触れられず、むしろ既得権益を維持 することによって義務兵役の価値を維持しようとする傾向が見られる。兵役不正問題と加算点問題 はいずれも、男性性と義務兵役の強い結びつきを示す事例である。二つの出来事に対する人々のリ アクションの「爆発力と驚くほどの敏感さは、何よりも徴兵制度が韓国社会の中核に位置している ことを示して」(権 2006、216 頁)いるのである。 2 - 6.「被害者としての男性」と男性性〈2000 ~〉 兵役不正問題と軍加算点問題は社会および政治体制が民主化していく過程で生じた出来事であ る。問題が過熱する中で明らかになったのは、義務兵役を「犠牲」とみなす認識の存在である。兵 32 役の義務は本人の意志が及ぶところではない、国家の都合によるものである 。よって、兵役の義. 務を果たすことは自身の都合を捨て、国家の枠組みに自らを委ねるということになる。「兵役自体 が国家のために個人を犠牲にすることで成立しているが、男性はこうしたより大きな利益のために 自分の個人的利害を犠牲にするという精神を持ち、国家防衛の役割を果たさなければならない」 (春木 2011、99 ∼ 100 頁)のである。ゆえに、彼らは自己犠牲の見返りとして何らかの利得を求 めるようになる。そして、何の利得も得られないのであれば、自らを「国家のために無駄な時間を 過ごした」被害者であると認識するようになる。また、女性も親族など親しい知り合いが入隊する という経験を経ると、抗えない義務に従う男性に憐憫の情を持ち、本人たちの被害者言説を支持 し、何らかの利得を得るのもやむをえないと考えるようになる。しかし、女性は憐憫の情を持つこ とはあっても持たれることはない。ここに非対称が生じる。つまり、義務兵役とは被害者性が強調 されればされるほど男性を特権化し、男女を差異化していく制度なのである。 IMF 危機脱却以降、社会が個人に自己犠牲を強要する必要性はなくなった。それでも、「自己犠 牲」の象徴である義務兵役は廃止されなかった。「自己犠牲」の獲得が社会での成功を意味しなく なった後、義務兵役は被害者性を強調することで男女の差異を維持することに成功し、その命脈を 33 保ったのである 。. 25.

(8) ジェンダー史学 第 15 号(2019). 2 - 7.「88 万ウォン世代」の男性性 運動圏による 10 年の政権運営を経て、2007 年の李明博(イ・ミョンバク)の当選をもって保守 政権が復権する〈大統領在任:2008 ∼ 2013〉。保守の復権は、運動圏の政治に対する批判が高まっ たこと. 34. もあるが、植民地支配や朝鮮戦争のみならず、軍事独裁政権の記憶すら人々から薄れてし. まったことも意味している。また、民主化宣言から 20 年、民政移管から 15 年、政権交代から 10 年を経て、保守派を支持することが軍事政権を支持することとイコールではなくなったという、現 35 実的な側面もあろう。しかし、政党間のイデオロギー対立は維持されたままであり 、有権者の多. くは、細かな政策の違いよりは自身のよってたつイデオロギーに応じて投票行動を決定しているよ うである。現代の若年層にとっては、保守政権を支えてきた層の北朝鮮への記憶も、386 世代が対 抗してきた軍事政権への記憶も、リアリティを持たない。そして、両者の間に大きな政策の違いが 36 あるわけでもない 。ゆえに、若年層は政策よりは現政権への満足度やイデオロギーで投票行動を. 決することになる。 李明博当選と同じ年、禹晳熏(ウ・ソックン)と朴権一(パク・クォンイル)は当時の 20 代を 「88 万ウォン世代」と名付け、社会に問題を提起した(우 , 박 2007、禹・朴 2009)。「88 万ウォン 世代」とは、2007 年当時 20 代で 10 代の頃に通貨危機〈97 ∼ 98 年〉を経験した世代を指す。社会 の二極化の影響をダイレクトに受けた世代であり、当時の 20 代非正規職の手取りの平均が 88 万 37 ウォン(当時のレートで 10 万円程度)であったことから名付けられた 。禹と朴は著作を通して、. 若者の貧困の原因が若者自身にあるというよりは、上の世代が若者世代を搾取する社会構造にある と指摘し、若者の問題を世代特有の問題から社会全体で共有すべき問題へと転換させた。ちょう ど、10 年に及んだ進歩派政権が終わろうとしていた時期のことであった。この時代は「自己犠牲」 が要求されることはなくなったが、かといって社会を優位に生きていくための確固とした要素が見 出されたわけでもなく、被害者としての男性性の側面が、本人のみならず社会にも広がりつつある 時代であった。 以上のように、軍政期から現在に至るまで、男性性のいくつかは軍事主義と密接な結びつきが あった。そして、多くの場合、軍事化された男性性が社会で活躍する上で必要であった。IMF 危 38 機を境に社会からの「自己犠牲」 の要請はなくなったものの、男性の「被害者性」を強調するこ. とで義務兵役制度は維持され、男女の差異に正当性を与えてきたのである。. 3.現代韓国社会の男性性を分析する視角 3 - 1.若年男性を取り囲む現状 88 万ウォン世代から 10 年、若者の雇用を取り巻く状況は変わっていないか、むしろ悪化してい る可能性がある。中央日報日本語版の記事. 39. によると、2017 年の中小企業の平均賃金は、大企業. の 55%、20 ∼ 24 歳の失業率は 10.9%、25 ∼ 29 歳の失業率は 9.5% である。ちなみに、同年の 15 ∼ 24 歳の失業率は 10.73%. 40. である。若者の失業問題には高学歴失業者と潜在的失業者という問題. がある。高学歴失業者とは、大卒、大学院卒の失業者のことである。潜在的失業者とは就職活動の ため卒業せずに休学、進学をする学生たちのことを指す。統計上は失業者には含まれないが実質的 には失業者である。就職の厳しさは修業年限の長期化をもたらし、金銭的負担を強いることにも なっている。 そうした時代に生きる男性たちにとって、義務兵役が男性優位の構造を維持する装置になってい 26.

(9) 現代韓国社会の男性性(佐々木). るという説明はリアリティがないばかりか、承服しづらいものである。彼らにとって、兵役の義務 を果たすことに義務以上の意味はない。兵役を終えたところで目に見える利得はないからである。 労働市場では上の世代からの搾取が日常であり、就職の厳しさも変わらない。IMF 後に登場した、 被害者性の強調による男女の差異化という説明もピンとこない可能性が高い。なぜなら、労働市場 (就職活動)のライバルの半分は同世代の女性たちだからである。男女平等の政策が進んだ現在、大 学入試においても労働環境においても、男性だけの空間を見出すことは難しい。就職難は社会状況 のせいではあるが、そうであっても実際にライバルとなるのは同世代であり、生活の安定のために は同世代との競争に勝たなくてはならない。女性の就職が厳しいことも理解してはいるが、男性は 就職の厳しさの前に兵役の苦しさも経験しているのである。それなのに、なぜ兵役が男性の特権で あり、男性が女性を支配していると言われなければならないのか、被害者性を強調しているのでは ない、れっきとした被害者なのだ、そういった所であろう。兵役でも搾取され、市場でも搾取され る、若年男性の剥奪感はかなり強いことが予想される。 3 - 2.制度的特権、コスト、差異と不平等 彼らの男性性をどのように把握することができるだろうか。メスナー(Messner 1997)の男性性 分析の枠組みを用いて考えてみることにする。メスナーは男性問題には「男性の制度的特権」「男 らしさのコスト」「男性内の差異と不平等」の三つの視点があると指摘する。「男性の制度的特権」 とは、男性というジェンダーであるがゆえに得られる特権、「男らしさのコスト」とは、男性とい うジェンダーであるがゆえに負担するコスト(例えば、短命、自殺率が高いなど)、「男性内の差異 と不平等」とは、男性というジェンダーゆえに得られる利得は本人の属性などによって差が大きい 不平等なものであるという考え方. 41. である。これに従うなら、「義務兵役が男性優位の構造を維持. する制度となっている」という議論は「男性の制度的特権」と「男らしさのコスト」に属する議論 であることがわかる。およそ 2 年の自己犠牲、心身のストレス、兵役中の事故などといったコスト を支払う代わりに、男性優位の社会に参与する権利を獲得できるとみなすのである。ところが、現 代の若年男性の剥奪感は「男らしさのコスト」と「男性内の差異と不平等」に属する議論である。 つまり、現代の若年男性の多くは兵役のコストを支払ったとしても、加算点は廃止され、労働市場 の富は上の世代が独占しているため、それに見合う特権を得ることはできないのである。コストは 男性全員にかかるが、特権は若者には配分されないため、多くの若年男性は現状への剥奪感を募ら せることになる。ゆえに、兵役と制度的特権を結びつける言説に実感を持って反対し、兵役は負担 でしかないと言い、さらに、男性が優位であると結論づける種々の言説に感情的に反発するのであ る。彼らにとっては、自らの意志が反映されず強制的に経験させられる義務兵役をもって、自身の 所属する性である男性が社会的に優位であるとされることに我慢がならないのであろう。ゆえに、 韓国のジェンダー構造を語る際には、男性間の多様性と男性内の差異と不平等をふまえた上で理論 化する必要がある。 ところで、剥奪感を感じているのなら構造を変えるべく行動を起こせという意見もあるかもしれ ない。しかし、「個々の男性がそうした構造を完全に無視して思い通りに振る舞うことができるわ けではない」し「構造から逸脱した振る舞いを蓄積していくことで長期的に構造を変化させられる 可能性」はあるが、「必ずしも生きづらさの軽減に繋がるとは限らず、構造に抗うことはそれに従 うよりもずっと辛い場合もある」(多賀 2019、30 頁)のである。「88 万ウォン世代」はまさにこの 状況におかれていると考えられる。また、構造に抗うためには自身がおかれている環境についての 27.

(10) ジェンダー史学 第 15 号(2019). 深い理解が必須である。しかし、多くの男性は自身の男性性を取り巻く環境に決して敏感ではない であろう。 3 - 3.女性嫌悪(ミソジニー)の行方 剥奪感からくる怒りの矛先はなぜ女性に向けられるのだろうか。先述したように現代の韓国社会 において男性であることの制度的特権を多く享受しているのは、上の世代の男性のごく一部の成功 者である。しかし、剥奪感に苛まれている男性たちの怒りは同様に(あるいはそれ以上の)剥奪感 を感じているかもしれない女性たちに向けられる。目前の就業を妨害している(ように見える)の は彼女たちであるし、彼らにとっては言いがかりにしか聞こえない男性の制度的特権を主張するの も、概ね女性たちだからであろうか。 伊藤公雄(2003)は、近代社会の男性性として「優越指向」「所有指向」「権力指向」の三点を指 摘している。「優越指向」とは競争などで他者より上位になりたいという欲望、「所有指向」とは他 者より多くのものを所有し他者にそれを示したいという欲望、「権力指向」とは他者に言うことを 聞かせたい、権力を振るいたいという欲望のことである。これらは従来、男性間で競われる指向で あり、韓国においても同様であった。しかし、現在は女性も含めた競争が生じているのである。 例えば、優越指向が競われる場として就職活動を考えてみよう。優越指向を満たす方法の一つ に、厳しい就職活動を勝ち抜いて、有名で経営が安定しており給与も高い企業に就職することがあ る。従来、この競争には男性だけが参入できた。しかし、市場が自由化し、女性の就学率が高ま り、男女平等についての動きが社会に生じるようになってくると、女性たちもこの競争に参入する ようになる。単純に競争率が拡大すること以上に、多くの男性にとって女性「だけには」負けたく ないという思いは強い。何故なら、軍事化された社会で女性に優越していることが前提であると社 会化されてきたため. 42. である。女性に対する優位が不変であると社会化されている個人が、女性に. 優越されるかもしれない状況におかれた場合、そこにはかなりのストレス、恐怖、危機感、剥奪感 が生じることになる。ここに女性嫌悪の言説が誕生する。もともと軍事化された女性 観が存在しているところに、女性にも男性の競争の場に参加する機会. 43. 視的な価値. が提供されたため、男性か. らの反発が強まっているというのが、韓国社会の現状である。. おわりに 韓国社会は義務兵役制度によって軍事化されている。ゆえに、現代においても多くの男性が軍事 独裁政権や運動圏が有していた女性を卑下する文化、価値観をもって社会化されている。IMF 後 の社会は男性に「被害者性」を付与することにより軍事化を維持してきた一方で、女性の社会進出 も促進させてきた。被害者性をもってしても自身の既得権益が維持されないと男性が危機感をもっ たとき、そこに女性嫌悪(ミソジニー)が生まれる。一方、男性のせいで社会進出ができないと感 じた女性たちは、男性たちを批判し始め、過激化すると男性嫌悪(ミサンドリー)が生まれる。女 性嫌悪は男性嫌悪を増長させ、男性嫌悪は女性嫌悪を増長させる。現在の韓国社会では、こうした 増長のループが繰り広げられている。ここから抜け出すためには、韓国社会が軍事化された社会で あること、自身もそれにより社会化されている可能性があること、そして、男性間に差異と不平等 があること、以上をふまえた上で社会問題に処していくことが求められている。男性性研究の果た すべき責任は大きい。      28.

(11) 現代韓国社会の男性性(佐々木). 【注】 1「韓国人 8 割『男女性別による嫌悪が深刻』」(中央日報日本語版、2018 年 7 月 31 日掲載、2019 年 4 月 28 日 アクセス) 。 https://japanese.joins.com/article/614/243614.html?servcode=400&sectcode=400 2 犯人の供述は次の記事を参考にした。 「女性対象犯罪に立ち向かう『江南駅 10 番出口現象』=韓国(1)」 (中央日報日本語版、2016 年 5 月 22 日掲載、2019 年 4 月 28 日アクセス) 。 https://japanese.joins.com/article/981/215981.html?servcode=100&sectcode=110 3 例えば、 「 【取材日記】韓国の女性は道を歩くのが怖い」(中央日報日本語版、2017 年 4 月 11 日掲載、2019 年 4 月 28 日アクセス)という記事では、「私をあざ笑うようで」女性を殴った男性や「女が勉強はせず、 外で歩き回っているのが気持ち悪い」ので、大学内にコーラをばらまいた男性の例が紹介されている。 https://japanese.joins.com/article/925/227925.html?servcode=100&sectcode=120 4 他の内訳は、最高評価の星 5 つが 58 件、星 4 つが 14 件、星 3 つが 5 件、星 2 つが 0 件である。 5 一件、流暢な日本語の長文レビューがあったが、作品を読まなくても書ける内容だったので「内容に触れ た」とは判断しなかった。他の短いレビューについても同様である。 6 ゆえに、彼らのレビューが対立を. り既成事実化するための「ネタ」である可能性も否定できない。. 7 女性嫌悪(ミソジニー)で有名なサイトが「イルベ」 、男性嫌悪(ミサンドリー)で有名なサイトが「メガ リア」 (現在は閉鎖)、「WOMAD」である。 8 web に. れる嫌悪言説を若年層が受容することを憂慮するコラムもある。「【コラム】嫌悪がお金になる世. の中=韓国」(中央日報日本語版、2018 年 12 月 21 日掲載、2019 年 4 月 30 日アクセス)。ここでは、嫌悪 言説の受け手として男子小学生が想定されている。 https://japanese.joins.com/article/375/248375.html?servcode=100&sectcode=120 9 定義については次節で述べる。 10 原題『대한민국은 군대다』を直訳すると『大韓民国は軍隊だ』となる。原著はさらに副題として「女性学的視 点で見た、平和、軍事主義、男性性」と続く。 11 韓国の義務兵役は朝鮮戦争の最中である 1951 年 5 月に兵役法が改正され実施されることになるが、60 年 代までは兵役逃れなどが非常に多かったとされている。義務兵役が現在のように人々に定着していくのは ベトナム戦争への派兵がなされた 1965 年(尹 2004)、兵役不正への取り締まりが激しく行なわれるよう になったのは 1973 年(韓 2003)、いずれも朴正熙政権期の出来事である。 12 後述する民主化運動は当時の大学生が中心的な役割を担っていたが、都市の中間層が学生たちを支持して いたことも民主化達成の要因として見逃せない。小針(2012)などを参照。 13 1960 年代に生まれ、80 年代に学生運動を経験した、(世代名が名付けられた 90 年代に)30 代のことであ る。87 年の民主化宣言に大きな役割を果たした。マルクス主義の影響を受けている者も多く、反共を唱え る軍事政権からは危険視され弾圧された。2002 年末の大統領選挙において、盧武鉉の当選に大きな役割を 果たしたと言われている。2000 年代以降は社会の中心層となり、現在でも話題にされることが多い。 14 NAVER 국어사전の記載内容を筆者が日本語に翻訳した。2019 年 4 月 21 日アクセス。 https://ko.dict.naver.com/#/entry/koko/e8dfcd790edc47c8a429fe17244fb0b0 15 ちなみに、軍事独裁政権は日本の保守政権との関わりも深い。長く暗礁に乗り上げていた日韓の国交を樹 立したのは朴正熙であったし、現職の大統領としてはじめて日本を公式訪問したのは全斗煥である(前年 には、中曽根康弘が現職の首相としてはじめて韓国を公式訪問している) 。これは、戦後の冷戦秩序の中 で、韓国と日本はともにアメリカとの同盟を基軸にする自由主義国家であったためである。米国にとって も日韓関係の安定は東アジア政策の安定という点で大いに歓迎すべきことであった。昨今の韓国で見られ る歴史の見直しともとれるいくつかの発言・行動は、こうした軍事政権と日本の保守政権との結びつきに 対する運動圏からのリアクションとして理解する必要がある。 16 権(2006)の第二章「一九八〇年代学生運動の軍事化とジェンダー化」参照。 17 例えば、理想とされる女性活動家とは「ほとんど男性化されながらも母性性を備えている姿」であり、 「い. 29.

(12) ジェンダー史学 第 15 号(2019) わゆる女っぽさがある女性活動家」は不適格と見られ「男性的な姿で言葉遣いも荒々しい女性活動家の姿 は、目立ちすぎて嫌がられる存在」であった(権 2006、133 ∼ 134 頁)。 18 民主化宣言後、韓国の大統領は有権者の直接投票で選ばれることになった。合わせて、任期 5 年、再任不 可とすることも定められた。 19 盧泰愚は、仮に民主化宣言がなされなかった場合、全斗煥の後継として大統領になる予定の人物であった。 民主化後の直接選挙にもかかわらず元軍人かつ前大統領の後継者が当選した要因として、民主化勢力側の 大統領候補を一本化できなかったことが一般的に指摘される。つまり、民主化勢力の中心であった金泳三 と金大中がともに立候補したために、民主化勢力内で票が分割されたのである。とはいえ、各候補の得票 率は、盧泰愚 36.6%、金泳三 28.0%、金大中 27.1%(小針 2012)であり、民主化勢力(運動圏)に賛同 しない有権者も一定数存在していたことがわかる。民主化宣言直後の選挙で民政移管がなされなかったこ とにより、韓国社会の民主化はゆっくり時間をかけて進むことになった。 20 金泳三は民主化運動の中心人物の一人であったが、1992 年の大統領選には当時与党であった民主自由党の 候補として立候補し当選した。民主自由党は、盧泰愚政権期に盧泰愚の政党である民主正義党、金泳三の 政党である統一民主党、金鐘泌(キム・ジョンピル)の政党である新民主共和党が合同し誕生した政党で ある。 21 1997 年初より中堅財閥の経営破綻が続いていたところに、東南アジア発の通貨危機が波及し韓国経済への 国際的信用が低下、株価とウォンが暴落し対外債務の返済が困難になり IMF へ緊急支援を要請するに至っ た出来事。同年の大統領選挙では IMF 体制からの脱却方法が争点の一つとなった。 22 金大中の支持基盤は運動圏の人々、つまり民主化運動を支持した進歩派勢力である。通常、進歩派勢力は 極端な構造改革や市場開放政策に反対し、雇用の安定、労働者の保護を要求するはずである。にもかかわ らず金大中が開放政策を採用できた理由については、木村(2009)の第 10 章「97 年末通貨危機のなかの 韓国ナショナリズム」を参照。同論文では、進歩派の側に属していたはずの労働組合が、財閥と同様に改 革を妨害する守旧派として認識されていき、世論の批判を浴びるようになっていく過程が述べられている。 23 理念あるいは目標として前提とされていただけであるので、多数派だったか否かはここでは問題ではない。 いわゆる日本の核家族(男性:サラリーマン、女性:専業主婦、子ども)のような家庭が当時の韓国でど のくらい主流であったかは別途検討する必要がある。 24 結論から言えば、ここでねじれを解消する男性性を見出し、多くの男性がそれを獲得できるようになって いれば、異性嫌悪を. る言説は現在よりもずっと穏やかなものとなっていたはずである。男性運動の初期. に見られた、よい父親をめざす父親運動などはその萌芽であったはずだが、実ることはなかった。 25 時系列で言えば IMF 改革以前の出来事であるが、2000 年代以降の男性性を示す予兆と言える事例である ため、ここに掲載した。 26 得票率は、当選した金大中が 40.3%、李会昌が 38.7%。得票数の差は 390,557 票であった(小針 2012)。 27 この考え方には韓国の義務兵役が基本的人権を侵す国家の暴力であるという視点が欠けている。韓国の義 務兵役と基本的人権との関係は、佐々木(2013、2015)を参照。 28 昨今の芸能人は軍隊に行くこと(国民の義務を果たすこと)がむしろ自身のプラスイメージを維持するこ とに繋がっているようであるが、以前はそうではなかった。2004 年に明らかになった俳優ソン・スンホン の不正兵役逃れは日本のファンも巻き込んだこともあり大きな話題となったが、ちょうどこの時期が転換 点だったように思われる。(佐々木 2013) 29 兵役を終えた者(軍畢)が 7 級以下公務員試験を受験した場合 5%加算する制度のこと。 30 記録がないだけで、ある程度はあったのかもしれない。しかし、社会問題になるほどではなかったという 点が重要である。 31 兵役の義務を終えたこと。 32 韓国の義務兵役の場合は、本人都合による代替服務の制度が整っていないため、より「犠牲」の側面が強 くなる。ただし、長年認められてこなかった良心的兵役拒否について 2018 年 6 月に憲法裁判所が良心的兵 役拒否者を処罰することを定めた兵役法が憲法違反であると判定したのに続き、11 月に大法院(最高裁). 30.

(13) 現代韓国社会の男性性(佐々木) が良心的兵役拒否を認める判決を下した。軍事主義に風穴を開けることになるのか要注目である。 33 もちろん義務兵役は「自己犠牲」が必要なければ廃止されるというほど単純なものではない。例えば、弱 まったとはいえ北朝鮮の脅威に備えて必要であるとする議論や、 「兵役産業」が成り立っているため廃止で きないという議論がある。本稿では義務兵役が実際に廃止されるか否かではなく、廃止が検討できる状況 にありながらも廃止の議論が盛り上がらない背景として、社会の軍事化を挙げているということである。 ちなみに、分断状態と義務兵役とを結びつける議論については、韓(2003、2005)が批判している。 34 例えば、親北朝鮮的な政策をとっても統一が達成できなかったこと、失業率が改善されなかったこと、な どである。 35 政党支持構造の変化については大西(2014) (2016)を参照。イデオロギーに基づく政党間対立が冷戦後に おいても維持されている理由と、有権者の投票行動を左右する要因について述べられている。 36 2012 年大統領選挙(朴槿恵が当選)の両派の政策の類似性については、大西(2014)を参照。 37 ちなみに「386 世代」と「88 万ウォン世代」の間の世代は「X世代」と言われる。X世代とは 90 年代に 20 代を過ごした世代、すなわち通貨危機の影響を大きく受け、労働市場へのアクセスに大変な困難を伴っ た世代である。 38 もちろん女性にも自己犠牲は強いられていた。しかし、義務兵役というシステムに組み込まれていない女 性は自身が自己犠牲できる存在であることを証明する手段を持たず、軍事化された社会の周縁に位置づけ られていった。 39 「『韓国の 20 代失業率、日本の 2 倍以上』…その主要原因は?」 (中央日報日本語版、2018 年 12 月 5 日掲 載、2019 年 4 月 30 日アクセス)。 https://japanese.joins.com/article/815/247815.html?servcode=300&sectcode=300 40 KOSIS(http://kosis.kr/index/index.do) の各種統計より、筆者が作成。 41 多賀(2016)、Messner(1997)参照。コンネルが主張する「ヘゲモニックな男性性」と「従属的な男性性」 の関係をイメージすると分かりやすいかもしれない。 42 繰り返しになるが、義務兵役がこの社会化に大きな影響を与えてきた。 43 平等な条件での競争であったかどうか(あるのかどうか)は、別途検討の必要がある。. 【参考文献】 石坂浩一・福島みのり編著 2014『現代韓国を知るための 60 章【第 2 版】 』明石書店。 伊藤公雄 2003『 「男らしさ」という神話――現代男性の危機を読み解く』日本放送出版協会。 ―――― 2019「男性学・男性性研究= Men & Masculinities Studies」 『現代思想』2019 年 2 月号。 伊藤公雄監修 日本ジェンダー学会編 2000『ジェンダー学を学ぶ人のために』世界思想社。 禹晳熏・朴権一著 金友子ほか訳 2009『韓国ワーキングプア 88 万ウォン世代』明石書店。 大西裕 2014『先進国・韓国の憂鬱』中央公論新社。 ―――― 2016「政党政治の変容――地域主義からイデオロギーへ」小倉紀蔵・大西裕・. 口直人『嫌韓問題の. 解き方 ステレオを排して韓国を考える』朝日選書。 小倉紀蔵・大西裕・. 口直人 2016『嫌韓問題の解き方 ステレオを排して韓国を考える』朝日選書。. 小倉紀蔵編 2012『現代韓国を学ぶ』有斐閣。 木村幹 2008『韓国現代史 大統領たちの栄光と蹉跌』中央公論新社。 ―――― 2009『近代韓国のナショナリズム』ナカニシヤ出版。 権仁淑 2006『韓国の軍事文化とジェンダー』御茶の水書房。 小針進 2012「韓国の政治――歴代大統領と国民意識の変化」小倉紀蔵編『現代韓国を学ぶ』有斐閣。 佐々木正徳 2013「代替服務という生き方――韓国の男性性と兵役の多様性――」 『長崎外大論叢』第 17 号。 ―――― 2015「公益勤務要員からみた韓国の軍事主義」 『日本ジェンダー研究』第 18 号。 多賀太 2011『揺らぐサラリーマン生活――仕事と家庭のはざまで』ミネルヴァ書房。 ―――― 2016『男子問題の時代? 錯綜するジェンダーと教育のポリティクス』学文社。. 31.

(14) ジェンダー史学 第 15 号(2019) ―――― 2019「日本における男性学の成立と展開」『現代思想』2019 年 2 月号。 田中恒夫 2011『図説 朝鮮戦争』河出書房新社。 中央日報(日本語版)https://japanese.joins.com/ チョ・ナムジュ 斎藤真理子訳 2018『82 年生まれ、キム・ジヨン』筑摩書房。 菜基 2000「韓国における『男性学』と『女性学』 」伊藤公雄監修・日本ジェンダー学会編『ジェンダー学を 学ぶ人のために』世界思想社。 中川雅彦 2006「韓国の教科書論争」『海外研究員レポート』日本貿易振興機構亜細亜経済研究所。 春木育美 2011「韓国の徴兵制と軍事文化の中の男性と女性」韓国・朝鮮文化研究会『韓国朝鮮の文化と社会』 第 10 号、風響社。 韓洪九(ハン・ホング)高崎宗司監訳 2003『韓洪九の韓国現代史 韓国とはどういう国か』平凡社。 ―――― 2005『韓洪九の韓国現代史Ⅱ 負の歴史から何を学ぶのか』平凡社。 ―――― 李泳采監訳 2015『韓国・独裁のための時代 朴正熙「維新」が今よみがえる』彩流社。 尹載善(ユン・チェソン)2004『韓国の軍隊』中央公論新社。 Messner, Michael A. 1997. Politics of Masculinities : Men in Movements. Sage Publications. 권인숙 2005『대한민국은 군대다』청년사 . 권김현영[엮음]2011『남성성과 젠더』자음과모음 . ―――― 2017『한국 남성을 분석한다』교양인 . NAVER 사전 https://dict.naver.com/ 사사키마사노리[기타]2007『페미니즘에 대한 남성학과 남성운동』원미사 . 우석훈 , 박권일 2007『88 만원세대』레디앙 . 정홍기혜 , 이명선 2018「 한국 , 남자 너희는 누구니 ? [ 인터뷰 ]< 한국 , 남자 > 저자 최태섭」 『프레시 안』 (2018 年 11 月 15 日掲載、最終確認日 2019 年 5 月 4 日) . http://www.pressian.com/news/article/?no=217562 조정문[기타]2000『남성학과 남성운동』동문사 . 최태섭 2018『한국 , 남자』은행나무 . KOSIS(국가통계포털)http://kosis.kr/index/index.do 한국언론진흥재단 http://www.kpf.or.kr/site/kpf/main.do. 32.

(15) 現代韓国社会の男性性(佐々木). On Masculinities in Contemporary Korean Society: From the Involvement of Militarism SASAKI Masanori In today’s Korea, articles on misogyny and misandry are often found in the media. Also, many Koreans consider misogyny and misandry to be a serious problem. In this paper, I will focus on Korean masculinities in order to clarify the cause of misogyny. Section 1 reviews Korean masculinity studies. Through the review, it becomes clear that Korean masculinity has been analyzed using the concepts of “militarism” and “militarization.” Section 2 will clarify the change of Korean masculinities from their relation with militarization. Firstly, there have been points in common between the military regime’s masculinities and the prodemocracy masculinities. Secondly, the masculinities called for by the military regime and the IMF Era were similar. Thirdly, since the 2000s, the difference between men and women has been maintained by a way of thinking that men who serve military service are victims of society. Section 3 examines the reasons why men are hostile to women using the framework of Messner and Ito. Firstly, a general sense of deprivation felt by today’s young men makes it difficult for them to feel superior to women. Secondly, because of the socialization of male-dominated values in the militarized society, young men’s anger is directed at women. In other words, the reason for the spread of misogyny is recent women’s social advancement despite the fact that a debasing attitude toward women still exists in society. In order to break out of the negative cycle of misogyny and misandry, people should realize the following: Firstly, Korean society is a militarized one. Secondly, there is a possibility that people are being socialized by militarization. And lastly, there are differences and inequalities between men.. 33.

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参照

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