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潜在避難者を考慮した大規模災害における避難所避難者数推移の動的モデル

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Academic year: 2021

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(1)47.  システム制御情報学会論文誌,Vol. 34, No. 2, pp. 47–57, 2021. 論. 文. 潜在避難者を考慮した大規模災害における 避難所避難者数推移の動的モデル* 岡島  寛 † ・甲斐しずく † ・徳永 慎也 †. Time-series Modeling of Evacuees in Large-scale Disasters Considering Number of Potential Evacuees* Hiroshi Okajima† , Shizuku Kai† and Shinnya Tokunaga†. Management of evacuation centers and flexible support of supplies are required when a largescale disaster occurs. It is necessary to predict demand in order to transport relief goods quickly and appropriately to evacuation centers. Therefore, it is effective to predict the number of refugees in evacuation centers. Generally, the supply and demand trends vary not only due to the scale of the earthquake disaster but also depending on the occurrence situation, power outages and other conditions. In this study, we propose a dynamic model for predicting the number of evacuees. The effectiveness of the proposed model is illustrated by numerical example about case study of the Kumamoto earthquake.. 1.. はじめに. 震のほかにも 2011 年の東日本大震災,2004 年の新潟県. 本論文は,地震発生直後の避難者数推移の一次予測モ. 中越地震など,各地で幾度となく甚大な被害がもたらさ. デルを構築することを目的とする.地震発生時にわかる. れた.また,今後数十年の間にも大規模な地震の発生が. 情報を用いて発災以降 1 カ月程度の避難者推移を見積も. 予測されているため防災への取り組みは重要になってく. ることで,発生後の避難計画や支援計画に大いに役立つ. る.また,地震に限らず,台風や水害などの大規模災害. と期待される.そのため,本論文は高い精度で実際の数. は多く,その発生自体を防ぐことはできないため,可能. 字と合うようなモデルを構築するというよりは,さまざ. な限り被害を最小化するための対応が必要となってくる.. まな地域,発生状況に対して初期見積もりとして妥当な. また,日本だけでなく世界に目を向けても,スマトラ島. 避難者推移を与えるモデルの枠組みを構築することに着. 沖地震やメキシコ地震など,大規模災害は各地で発生し. 眼するものである.. ていることから,防災のための施策は重要である. 個別の震災に対する時系列の分析は,過去に被災した. 2016 年 4 月に熊本地震が発生した.熊本地震は直下 型の地震であり,震度 7 が 2 度も観測されたうえに余震. 都道府県や市町村を中心に調査・研究されている [1–3].. 回数が観測史上最多となる大規模な地震であった.筆者. 過去の震災被害に対する分析は防災計画等に利用され. らが直面した熊本地震において,非常時における物流の. る.この結果は被災した地域だけでなく災害実績のない. 重要性や避難所,防災意識の重要性を肌で感じることに. 地域でも参考になりうる.しかし,インフラ状況が地域. なった.とくに,被災現場においては,物流構造や交通. の種類や地形によって異なること,震災が発生する季節. インフラ,ライフライン状況などが劇的に変化すること. によって必要な支援が異なることなどから,将来発生す. から,機動的な支援を実施するうえで,経時的変化を予. る災害への対応という観点では個別の震災に対する時系. 測することが重要であるとの認識に至った.. 列の分析だけでは不十分である.一方,災害実績のない 地域における震災時の被害状況の予測研究 [4] がされて. 日本では地震災害が多く,近年では 2016 年の熊本地 ∗ †. いるが,いずれも個別地域での推論に留まっている.こ. 原稿受付  2020 年 5 月 7 日 熊本大学 大学院 自然科学教育部. のようなことから,時間的な災害被害の推移を記述する. Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University; Kurokami, Kumamoto city, Kumamoto 860-0862, JAPAN Key Words : stock, investors, artificial market.. 汎用的な動的モデル化に関する研究は従来されていない. 地域の特性や人口密度は千差万別であり,公共施設数や 商業施設数,インフラ状況が地域ごとに異なることを考. – 19 –.

(2) 48. システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 2 号  (2021). えると,冒頭で述べたように経時的な状況の変化を予測. 16 日 1 時 25 分に同県で再びマグニチュード 7.3,震度 7. するための動的モデルを構築することは有用である.モ. の地震(本震)が観測され,現在の気象庁震度階級が制. デルを用いて避難者数の推移予測を立てることによって,. 定されてから初めて震度 7 が 2 回観測された地震災害と. 政府や地方公共団体を中心とした被災者支援が効果的に. なった [6].また,余震も多発し,関連する地震の発生回. 行える.. 数は日本での観測史上過去最多となった. 熊本県内ではピーク時で避難所数は約 800 箇所,避難. 本論文では,地震における避難者数に着目し,避難者 数推移の動的モデル化について検討する.大規模災害が. 者数は約 18 万人に上った.避難者の多さの理由としては. 発生した際には,多くの被災者は指定避難所への避難行. 余震への恐怖やライフライン復旧の遅れなどがあげられ. 動をとる.避難所へ行く避難者の動機はさまざまであり,. る.一方,避難所の混雑やそれによるストレスを理由と. 一時的な避難をする避難者もいれば,しばらくの間避難. して車中泊などの避難所外避難をする被災者も多かった.. 所での生活を余儀なくされる避難者も存在する.また,. 熊本地震では各避難所での需要の把握が困難であったこ. 同じ状況に置かれた被災者でも,避難所に避難するか避. とから,発災初期はうまく支援物資が各避難所に行き渡. 難所外での避難をするかの選択は被災者ごとにさまざま. らなかった.また,車中泊者は数の把握が難しく,車中. である.本論文は,個別の要因や潜在的な避難者を加味. 泊者に対する食料などの物資供給の不足が起こったり,. した形で避難者数の動的な推移のモデルを提案する点に. 健康状態が把握できなかったりと対応・支援は困難を極. 新規性がある.. めた.車中泊の避難においては数の把握,駐車スペース の確保,エコノミークラス症候群による災害関連死が課. 汎用的なモデルの導出の結果として避難者数推移の 一次予測ができれば,それに基づいた支援体制の計画を. 題となった.. 行うことができる.仮に人数推移の避難所での実測値が. 2.1.2 阪神淡路大震災 平成 7 年 1 月 17 日 5 時 46 分,淡路島北部で深さ 16 km を震源とするマグニチュード 7.3 の地震が発生した.地 表の揺れを表す震度は最大の 7 が観測され,これは戦後 初めて日本の大都市を直撃した直下型地震であった [6]. この地震による死者の死亡原因の 7 割は圧死・窒息死に. 予測値と離れた場合には,その情報に基づいてモデルパ ラメータを変更することになる.このように,モデルに 基づいて支援計画を行うことで,過度に現在時刻のみの (時には誤った)情報に振り回されることなく,適切に支 援を進めていくことが可能になる.. 2.. よるものである.これは早朝の時間に地震が発生したこ. 震災被害と避難行動. とで大多数の人が就寝中で家にいたこと,また強い地震. 日本では,古来より地震による甚大な被害を何度も受. により瞬時に家屋が倒壊したことでその下敷きになった. けている.ここでは,過去 30 年の災害からとくに規模. 人が多いことに起因する.地震の周期としては 1∼2 秒. が大きい四つの地震を取り上げ,その概要と特徴につい. の成分が多く含まれていた.また,地震発生直後から各. て述べる.また,震災時の避難者の行動について各要因. 地域において火災が同時多発的に発生した.. 別に考察する.. 2.1. 震災による避難人数はピーク時で 32 万人に上った.当 時の防災計画において想定以上の被害となったため,指. 過去の震災被害の概要. 定避難所だけでは対応できない人数の被災者が発生し,. 地震は大きく分けて二つの種類に分類することができ る.一つ目が海溝付近でプレート同士がぶつかり合うこ. 指定外の高校や大学,公共施設などに人があふれる事態. とで発生する「海溝型地震」,二つ目が活断層が擦れる. となった.指定避難所が 234 箇所,指定外避難所が 365. ことによって発生する「直下型(内陸型)地震」である.. 箇所あり,すべての避難所に職員を配置することはでき. 海溝型地震は地震規模が大きくなる傾向にあり被害は広. なかったため,約 2/3 の避難所は自主運営の形となった.. 範囲になりやすい.加えて津波が発生する場合もあるた. また,避難所の開設期間はライフラインの回復や,仮設. め,沿岸部を中心に被害が拡大する場合もある.東日本. 住宅の建設などができるまでの 7 カ月にも及んだ.避難. 大震災や従来より予測されている南海トラフ地震が海溝. 生活の長期化により,地域コミュニティが崩壊し「孤独. 型地震に該当する.その一方,直下型地震は海溝型に比. 死」が社会問題となった. 新潟県中越地震. べて規模は小さめではあるが,都市直下が震源になるこ. 2.1.3. とがあり,局地的に大きな揺れが発生する傾向にある.. 平成 16 年 10 月 23 日 17 時 56 分,新潟県中越で深さ 13. さ 11 km を震源とするマグニチュード 6.5,最大震度 7. km を震源とするマグニチュード 6.8 の地震が発生し,阪 神淡路大震災以来の観測史上 2 回目の最大震度 7 を観測 した.またマグニチュード 6 を超える規模の大きな余震 が複数回発生した [7].中山間地での大規模地震であった ため土砂災害が多数発生した.新潟県内では道路が 6000. を観測する地震(前震)が発生した.その 2 日後の 4 月. 箇所以上で損壊し,道路が寸断されることにより孤立す. 熊本地震,阪神淡路大震災,新潟県中越地震がこれに分 類される.. 2.1.1. 熊本地震. 平成 28 年 4 月 14 日 21 時 26 分,熊本県熊本地方で深. る集落もあった.. – 20 –.

(3) 岡島・甲斐・徳永:潜在避難者を考慮した大規模災害における避難所避難者数推移の動的モデル. 避難所への避難者数はピーク時には約 600 箇所の避難. 49. ら,避難所を避ける被災者が少なくない.. 所で約 10 万人に達した.この震災においては余震が群. 震災により家屋が倒壊した場合や半壊となった場合,. 発していたことから,住宅の倒壊や二次災害の懸念が大. 避難所への避難を余儀なくされる.また,家屋の損傷が. きく,日を追うごとに避難者の数は増えていき,各地で. 少ない場合でも,停電や断水により生活が困難な場合に. 避難所の人数が飽和状態となりスペースや物資が不足す. は避難所への避難行動を取ることになる.電気・水道・. る事態となった.これらの理由から,避難所には行かず. ガスのライフラインの被害は一般家庭だけでなくスー. に車中泊をする避難所外避難者も多く見られた.そのた. パーマーケットやコンビニエンスストアなどの店舗にも. めエコノミークラス症候群で亡くなる被災者も発生した.. 波及するものであり,多くの店舗が休業を余儀なくされ. また,長期の避難生活による疲労,ストレスなどに起因. るような場合には,物資の調達ができなくなり,食料や. する震災関連死による死者が多く報告された.降雪によ. 生活用品の調達拠点としても避難所が活用されることに. る二次災害などの懸念から避難生活は長期化したものの,. なる.そのほか,災害発生時には,被災者の多くは情報. 全国からの支援や自治体,被災者の努力もあり,約 2ヶ. 収集も兼ねて家屋被害の有無に関わらず避難所に避難す. 月後には新潟県内すべての避難所が閉鎖された.. るケースが多い. このように,避難所への避難の要因はさまざまである. 2.1.4 東日本大震災 平成 23 年 3 月 11 日 14 時 46 分,三陸沖で深さ 24 km を震源とするマグニチュード 9.0 の地震が発生し,これ は日本周辺における観測史上最大の地震となった [6].ま. うえ,被害状況やライフライン状況の地域差や季節要因 が存在する.さまざまな要素を分離して避難状況を予測 する必要があることがわかる.また,避難所として活用. た津波の発生により東北地方の太平洋沿岸部を中心に甚. できる公共の施設は限られており,この人数容量によっ. 大な被害がもたらされ,被災地だけでなく周辺都市での. ても避難行動の有無が違ってくる.避難所としては小学. 物資不足や産業生産にも影響を及ぼす未曾有の大災害で. 校などの公共施設が利用されることが多いが,地域に. あった.本震災においては,地震の周期は 1 秒以内の短. よって人口に対する公共施設の比率は異なってくる.. 周期のものが多かった. 避難所数は約 2,000 箇所,避難者数はピーク時で約 47 万人にも上った.このとき,避難所として指定されてい. 3.. 避難者数の推移モデル. 3.1. 動的モデル導出の目的. ない場所やライフラインが途絶した場所に設けられたた. 論文の冒頭で述べたように,本論文の目的は地震発生. めに,そのような場所での避難所の状況把握や支援が困. 直後の避難者数推移の一次予測モデルを構築することで. 難であった.情報通信手段の確保ができず,正確な需要. ある.具体的には,地震発生直後に観測される種々の情. 情報が伝わらなかったため,数日経過しても避難所に物. 報に基づいてさまざまな初期の見積もりとして妥当な避. 資が届かない,支援された物資がニーズと食い違ってい. 難者推移を推定する汎用的なモデルの枠組みを構築する.. る等,需要と供給に齟齬が生じた [9,10].. さまざまな地域に対して汎用的に利用できるモデルの枠. 2.2. 組みにするためには,避難者の避難目的を分けて考える. 震災時の避難行動. 必要がある.このようなモデルが得られれば,発災初期. 本節では,前節までの過去の震災におけるデータを踏 まえ,震災における避難者の避難行動について考察する. 震災時は多くの場合,想定以上の避難者が発生するた. における支援計画や復旧計画をより高い精度で実施して いくことができる.. め当初より指定されている指定避難所以外の場所も避難. 3.2. 所となる.そのため,地震発生直後の避難者数の把握は. 第 2.2 節の考察結果を踏まえ,ここでは地域差や地震. 難しい.また,混雑から避難所への避難を諦め,車中泊. の発生状況の差を統一的に扱えるよう,避難要因を分離. などを行う避難所外避難者も多く,どの程度の支援が必. した形で避難所避難者数の推移に関する動的モデルを導. 要になるかの予測は困難を極める.. 出する.本論文では一つの地域に着目し,地域間での被. 避難者数推移モデルの概要. 災者の移動はないものと仮定する.. 前節までで示した代表的な震災において,避難者数や. 本論文のモデル化におけるアイディアの一つとして,. 避難所数の規模がそれぞれ大きく異なっていることがわ かる.とくに,直下型地震では集中的に被害を受けるこ. 潜在的な避難者と実際に避難所に避難する避難者とを分. とから避難需要に対して避難所の容量が足りずに避難所. けて考える.避難所への避難者数を xev ,避難所外避難. 外避難を行う被災者が多くなる傾向がある.実際,直下. 者数を xex と表記する.さらに,それらの和を潜在避難. 型地震における避難所数に対するピーク時の避難者数の. 者数 xt として xt = xex + xev が成り立つものとする.そ. 割合は,海溝型地震である東日本大震災での割合に比べ. のため,潜在避難者数 xt には,居住地から避難しようと. て多くなっている.避難所は人が密集することから感染. 考えているが何らかの理由で避難所外へ避難している人. 症リスクがあり,とくに冬場のインフルエンザなどの季. 数 xex を含んでいる.避難所外の避難先としては車中泊. 節においては避難所での二次災害リスクが高まることか. や親族・知人宅が想定される.地域人口を h とすると,. xt < h を満足するものとする. – 21 –.

(4) 50. システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 2 号  (2021). するものとして考える.. 3.3. 家屋倒壊被害による潜在避難者. 阪神淡路大震災では,住宅被害は全体で全壊が 10 万 棟,半壊が 27 万棟であり,一部損壊を含めた住宅被害 Fig. 1. Block diagram of proposed evacuee model. 総計は 64 万棟に上った.また,火災による焼損被害も 多く,焼損棟数は 7 千件超,焼床面積は 83 万 m2 となっ. 本論文においては,まず潜在避難者数 xt の増減推移に. た.消防力を上回る同時多発火災が発生した場合には,. 関して動的モデルを導く.被災者が避難する理由は,家 屋の倒壊やライフラインの停止などの物理的被害から, 備蓄不足や余震などの二次災害に対する心的不安による. における構造別の被害では,木造建物の被害が極めて多 いことが確認されている.新潟地震では,住家被害は全. ものまでさまざまである.. 壊 3 千棟,半壊 1 万棟超,一部損壊は 10 万棟を数える震. 潜在的な避難者 xt の推移はインパルス応答モデルと. 災となった.地震規模のわりに倒壊家屋が少なかったの. してモデル化する.xt の推移モデル導出に当たり,最も. は,日本有数の豪雪地帯でありそれに対応する家屋の強. 重要な要素は自宅で生活可能か否かである.さまざまな. い構造が被害を少なくしたと考えられている.東日本大. 避難要因の分類のために,ここでは,次の四つの項目を. 震災においては,住宅被害は広域にわたっており,全壊. 考える.. X X X X. 大規模な延焼火災となる可能性がある.なお,この震災. 12 万棟,半壊 28 万棟,一部損壊 74 万棟を数える結果と. 家屋倒壊被害. なり,家屋の被害が大きいことがわかる.この震災にお. 電気・ガス・水道のライフライン被害. いては,津波被害が多く発生しており,損壊以外にも浸. 生活物資・食料不足. 水被害や津波火災等による問題が生じている.熊本地震. 心的不安・情報収集. では,住宅被害は全壊 8 千棟超,半壊 3 万棟,一部損壊. 自宅生活が不可能になる最たる理由は家屋の倒壊被害で. は 16 万棟を数えた.. ある.また,停電や断水などのライフライン被害がある. これらのデータから,家屋の倒壊等の住宅被害は,震. 場合,家屋が生活可能な水準であっても自宅での生活が. 度の大きさだけでなく,住宅の密集度や地震の発生時刻,. 困難になる.ほかにも,食料調達の可否や,心的な不安. 季節などの火災の誘因につながる事項にも大きく依存す. などによっても潜在避難者数は増減する [3].. ることがわかる.また,建築基準法の耐震に対する基準. つぎに,潜在避難者は,避難所への避難者と避難所外. が強化された 1986 年以前の古い住宅での被害が大きい. 避難者に分けられる.前節の結果からも,自宅生活が困. 傾向にあったことから,建物の構造にも依存する.とく. 難な場合でも車中泊や自宅近くにテントを張るなど,避. に,1∼2 秒の周期振動成分を多く含む地震では建物被害. 難所外避難者も多く存在することがわかる.支援を行う. が大きくなる [12].家屋倒壊の因子による潜在避難者は,. うえでは避難所外避難者の推定も重要になってくる.避. 被害率曲線などを用いてその被害状況等を詳細に分析す. 難所の収容人数の問題や,前述のように感染症などのリ. ることにより推計することが可能である [11].家屋倒壊. スクのため,やむを得ず避難所外避難を行う場合も多. 被害による潜在避難者率 ut を推計することができる.以. い [11].避難所避難者数 xev は潜在避難者数 xt を入力と. 上より,家屋倒壊による避難者を xb として,次の離散時. したダイナミカルシステムとしてモデル化する.. 間状態方程式を考える.. なお,政府や公共機関の集計は地震の直後数日以外は. 1 日に 1 回である場合が多いこと,より短いサイクルで. xb [k + 1] = Ab xb [k] + But [k]. は日常生活における昼夜時間帯のバラツキの影響を大き. (1). ただし,B は被災地域の人口である.家屋倒壊被害があ. く受けることなどに鑑み,本論文でのサンプリング時間. り,全半壊の場合には家屋の早期復旧は見込めないこと. を 1 日として定義する.ここでは,60 日分の避難者推移. から,潜在避難者数が 60 日のうちに減少はないものと. のモデル化を想定し,60 サンプリング時間での推移を特. 考え,Ab = 1 とする.. 徴づけるモデルの構築を考える.以上を踏まえ,避難者. 3.4. 数推移の動的モデルを Fig. 1 のような形で構築する.. ライフライン被害による潜在避難者. 社会インフラの被害のうち,本論文においては,電気,. 四つの要因を考え,それぞれ離散時間状態方程式を立 てて潜在避難者の数の推定を行う.u∗ (∗ = t,p,w,g) を. 都市ガス,水道の三つのライフラインに着目する.この. インパルス入力とし,地震の規模(震度)が各項目に与. ほか,通信ネットワークや道路の損壊や電車,港の被害. える影響を表現するものとする.これはすなわち,地. 状況なども社会インフラに含まれるが,本論文では考慮. 震発生時刻を k = 0 とすると,ut [k] = 0 であり,かつ. しないものとする.. ut [k] = 0, k = 0 となるインパルス状信号に相当する.な. ここで扱う項目は,電力会社などの供給に携わる企業. お,熊本地震のように大規模な地震が立て続けに複数生. は全容を短期間で把握することができることから,本論. じた場合には,対応する時刻にインパルス状信号が発生. 文で想定するサンプリング時間である 1 日と比較して短. – 22 –.

(5) 岡島・甲斐・徳永:潜在避難者を考慮した大規模災害における避難所避難者数推移の動的モデル. 51. い時間で個々のインフラ被害状況の把握が可能なものと. れた場合は,火力発電所では運転を停止する.Fig. 2 に,. する.また,これらのライフラインのうち,とくに断水. 熊本県全体の停電割合の時間推移を示している [13].図. に関しては実生活において重要であり,トイレが利用で. より,熊本地震では 14 日の余震ではあまり停電は発生. きないことに起因して避難するケースは数多く存在する.. しなかったが,震災 2 日目(本震)での 16 %をピークに. たとえば文献 [11] では,建物被害なし人口のうち,断水. 停電が多くの世帯で発生した.図から,この停電は 6 日. に起因する避難について詳しく記載されている.. 程度で解消していることが確認できる.. まずはライフライン被害を受けた人口を水道,電気,. 阪神淡路大震災では,地震発生時約 260 万戸が停電し. ガスのそれぞれに分けて算出しそれぞれの復旧の推移を. たが,被災設備から直ちに系統を切り離し順次切り替え. 示す.各項目についてモデルを定義し,そのパラメータ決. 送電を行うことで約 2 時間後には 100 万戸に低減した.. 定の方針について考察する.各項目について,停電割合を. さらに,地震発生から 6 日後には停電は解消した.東日. up [k],断水割合を uw [k],ガスの供給を停止した割合を ug [k] としインパルス入力として定める.前述のように, 各企業が全容把握に要する時間が短いものとし,up [k], uw [k],ug [k] は即時に測定可能なものとする.インパル. 本大震災では,津波被害の影響により東北電力管内にお. ス信号で規定するため,信号はたとえば,地震などが発. いて約 466 万戸,東京電力管内において約 405 万戸が停 電した.これらの原因は変電所近傍の送電線や一次変電 所で短絡・地絡がほぼ同時に発生したことによるもので ある.. 生した時刻を k = 0 とすれば u∗ [0] = 0, u∗ [k] = 0, k = 0. 電力はライフライン被害のうちでも復旧が早く,Fig. 2. の形で表される.それぞれ一次の離散時間状態方程式と. のケースに限らず約 1 週間で大半が復旧することが多い.. して表記する.. このことを踏まえ,水道,都市ガスのライフラインと比. xp [k + 1] = Ap xp [k] + Bwpg up [k]. (2). xw [k + 1] = Aw xw [k] + Bwpg uw [k]  Bwpg ug [0] (k = 0,···,M − 1) xg [k + 1] = Ag xg [k] (otherwise). (3). べると Ap の値は小さな値に設定されることとなる.. 3.4.2. 水道復旧モデルのパラメータ. ここでは,過去の震災に基づいて水道復旧に関するモ デル係数 Aw を決定する方法について考察する.. (4). 地下に埋設された上下水道は地震の影響で破損し,断. ただし,xp を停電被害を受けた被災者数,xw を断水被. 水などの形で日常生活に影響を与える.液状化地域での. 害を受けた被災者数,xg をガス供給被害を受けた被災者. 被害が高くなることが知られており,また,浄水場の被. 数とする.ここで,Bwpg は地域人口のうち家屋倒壊被. 災や停電によっても断水することになる.水道復旧まで. 害にあっていない人口として Bwpg = (B − xb [k]) と設定. に要する期間は 1 から 3 週間とバラツキが大きいうえに,. した.Ap ,Aw ,Ag はそれぞれの復旧速度を規定する係. 停電の場合と比べて復旧までの期間が長い.これは,水. 数であり,0∼1 の間の値を持つものとする.ガスの被害. 道の場合には地中埋設管を利用することに起因している.. モデルに関しては感震遮断装置(マイコンメータ)にて. 数日程度の供給停止を行う.したがって,ガス供給を停. Fig. 3 は,熊本県全体での断水戸数の時系列を示してい る [8].震災 2 日経過時点でピークを迎え,7 日経過時点 で 5 万戸程度となっていることが確認できる.そのため, このような時系列をモデル化するうえで Aw は電力イン. 止する日数を M としてモデル内部に組み込んでいる.. フラと比べて大きく設定することになる.. 自動で遮断され,漏洩したガスへの引火による 2 次被害 を防止する.ガス管に問題がない場合も余震を考慮して. ここで与えたモデルは,ライフライン被害を受けた人. 直下型地震である阪神淡路大震災では,水道は約 127. 口を水道,電気,ガスのそれぞれに分けて算出しそれぞ. 万戸が断水し,神戸市などはほとんど全域が断水するこ. れの復旧の推移を示すものである.以降では,熊本地震. とになった.補修・復旧するのに多大な時間を要したた. におけるインフラの被害と復旧に関するグラフを参考情. め,市民生活に大きな支障をもたらした.応急給水車な. 報として記載したうえで,各インフラについてパラメー. どによる給水も行っていたが,車両や運搬量には限界が. タの設定の方針について述べる.. あり,十分な給水には至らなかった.東日本大震災では. 3.4.1. 約 180 万戸,新潟地震では約 11 万戸,熊本地震では約 44. 電力復旧モデルのパラメータ. 万戸がそれぞれ断水した.過去の震災においては,直下. ここでは,電力の停電時復旧に関する係数 Ap を決定. 型地震での断水被害の割合が大きいように見受けられる.. する方法について考える.Ap の値は地域のライフライ ン修繕に要する時間や電力ネットワークの構造などが関. 水の利用については地域差があり,地下水を生活用水. 連してくるほか,送電線等の損傷規模に依存して決めら. として利用している世帯割合は地域ごとで異なっている. そのため,uw [k] の推計においてはこのことを考慮する. れる必要がある.. 必要がある.. 通常,送電線などの被害に加えて,発電所での被災に. ガス復旧モデルのパラメータ. より需要に対して供給が不足することから,地震が生じ. 3.4.3. ると広範囲で停電する.とくに,震度 6 弱以上が観測さ. 本節では,ガス管の復旧に関するモデル係数およびモ デル構造について考察する.. – 23 –.

(6) 52. システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 2 号  (2021). ることが確認でき,16 日経過時点で全世帯でガス供給 が再開されていることがわかる.この傾向はほかの震災 においても確認できる(阪神・淡路大震災 [15],東日本 大震災 [16]).また,ガス供給の停止日数に関する決定 は震災の規模や各事業者の判断になるが,地震規模と日 数の関連性については,たとえば文献 [17] で考察されて いる.. 3.4.4. ライフライン被害に起因する潜在避難者総数. つぎに,(2)∼(4) 式からライフライン被害に起因する Fig. 2. Percentage of power outage in Kumamoto Prefecture. 潜在避難者数の総数 xwpg を算出する方法について考え る.このとき一つのライフラインだけの被害を受けた被 災者だけでなく,二つもしくは三つ同時に被害を受けた 被災者も現れる.それぞれの被害数は独立したものでは なく複合したものとして考えなければならない.ライフ ライン被害において停電時には冷蔵庫や冷凍庫が使えな いことや,断水によってトイレが使えないこと,ガス供 給停止によってお湯が沸かせないことなど,生活におけ る重要性は簡単には比較できない. また,先に示したように,それぞれの復旧速度は異な. Fig. 3. るため,その比率も時間とともに変わってくる.これら. Number of water outage in Kumamoto Prefecture. の重複を加味する方法として,たとえば重み付き和を利 用した次式. xwpg = wp xp + ww xw + wg xg. (5). が挙げられる.ただし,重み 0 < wp ,ww ,wg < 1 である. また,各種ライフラインの被害数の最大値を表した次式. xwpg = max[xp ,xw ,xg ]. (6). も xwpg の設定方法として挙げられる. Fig. 4. 3.5. Percentage of gas outage in Kumamoto City. 物資不足に起因する潜在避難者. 本節では,生活用品や食料等の物資不足に起因する潜 阪神淡路大震災では約 86 万戸,東日本大震災では約 200 万戸,熊本地震では約 10 万戸へのガス供給を停止. 在避難者数推移をモデル化する.. した.一方,新潟地震でデータがないことからわかるよ. のような局地的被害であれば被害がない,もしくは少な. うに都市ガスの有無は地域に依存する.ガスの供給形式. い隣接地域からの支援を受けれられる.また,工場など. は地域によって大幅に異なっており,地域の防災計画上. の被害も比較的少ないため物流の回復も早くなる.その. は電気や水道と比較して地域性の影響を大きく受ける.. 一方,海溝型地震のように広範囲の被害が生じる場合は,. 都市部では都市ガスが多くを占めることから,同時多発. 隣接地域の被害も大きいため物資不足の長期化が想定さ. 地震の種類によって支援状況は変化する.直下型地震. 的にガス漏れが発生した場合には ug を大きく設定する. れる.また物流と生活用物資の供給には前述の社会イン. ことになる.また,修復には極端に時間を要し,ガスの. フラの復旧度合いにも影響する.発災初期は道路の損壊. 復旧は 1 から 5 週間程度という期間を要することが知ら. による輸送ルートの寸断,燃料の不足なども影響因子と. れている.このような場合には Ag は 1 に近い値となる.. なる.. 一方,プロパンガスの利用者が多い地域では,都市ガス. まずは物資の不足量について考える.生活必需品や食. 地域に比べて震災直後の影響を受ける被災者数は少なく. 料等の物資が不足する主な要因は,店舗の倒壊だけでな. なり,ug を小さく設定することになる.. く,停電等のライフラインの停止,店員も被災者になる. Fig. 4 では,熊本地震における,都市ガスを契約して いる戸数に対するガスの供給停止割合を示している [13]. 地中埋設部が多いこと,安全の観点から 5 日程度供給が. ことに起因する人員不足,そして輸送における物流の機. 停止されており,そこから段階的に供給が開始されてい. 多めに備蓄しようという心理が働くことから,被災者の. – 24 –. 能停止などが考えられる.さらに,通常時ではいつでも 買うことのできるものが震災時には手に入りにくくなり,.

(7) 岡島・甲斐・徳永:潜在避難者を考慮した大規模災害における避難所避難者数推移の動的モデル. 購入意欲が高まることなども物資が不足する要因となり. 3.7. うる.ここでは,物資の不足を表す指数を m[k](> 0) と. 3.7.1. 53. 避難所避難者数に関する全体モデルの構築 潜在避難者数を用いた避難所避難者数推移モ デル. 定義する.また,物資不足に影響する因子をまとめた入 力 um [k] を与え,震災の規模や状況に応じた不足量の程. 本節では,Fig. 1 のように前節までの各要因別の潜在. 度や解消の推移は,係数 C および D により決定した次. 避難者の状態方程式に基づいた避難所への避難者数の推. の一次の離散時間モデルを考える.. 移に関する動的モデル化を考える.本論文では,先に述. m[k + 1] = Cm[k] + Dum [k]. べた潜在避難者数を入力とし,避難所への流入人数と流. (7). 出人数の関係に着目したモデルを構築する.. C ,D の値や um [k] は詳細に設定されているものとする. とくに,本来であれば um [k] は xwpg に依存するものと なる.. まず,前節までの結果から,潜在避難者数は次式で与 えられるものとする.. xt [k] = xb [k] + w1 xwpg [k] + w2 xm [k] + w3 xa [k] (10). つぎに,物資の不足量 m を入力として物資の不足の 不安による潜在避難者数を算出する.物資の流通が不足. ただし,w1 ,w2 ,w3 は各避難者の重複度を加味するための. しているほど物資の支給を求めて避難所にやってくる被. 係数で 0∼1 の値をとる.たとえば,仮にそれぞれの避難. 災者は多くなる.流通が復活していくにつれて避難者は. 者が重複せずに独立している場合には,w1 = w2 = w3 = 1. 減っていくモデル構造を以下のように与える.. とすることで避難者数を表現できる.. xm [k + 1] = Am xm [k] + Bm m[k]. 潜在避難者のうち多くは近くの定められた避難所へと. (8). 避難する.しかし,避難所の収容人数の関係でやむを得. Am の値は不足量の入力 m に対して,震災ごとでの状況 に応じて設定する.また,前節と同様に Bm = B − xb [k]. ず避難所に行くことをあきらめる避難者が存在する.ま. とする.このとき,物資の不足に起因する潜在避難者数. 者も一定数存在する.. た,感染リスクを考えて避難所に行かない避難所外避難. のモデルは 2 次モデルとなっていることがわかる.物資. 具体的な避難所避難者数の動的モデル化は以下のよう. の供給については,店舗の再開状況の概算値が震災から. に行う.潜在避難者数 xt から避難所避難者数 xev を引い. 十数時間程度で入手されたいた熊本地震での状況を考え. た数は避難所外避難者 xex であり,避難所への流入人数. れば,それらの値に基づいてパラメータ Am の設定を行. は xex の値に比例するものと仮定する.一方,避難所の. うことは可能と考えられる.. 避難者数が多ければ多いほど避難所からの流出が多いも. 3.6. のとし,避難所の収容人数に対する避難所避難者数の比. 心的不安や情報不足に起因する潜在避難者. に依存して流出人数が決まるものと仮定する.この結果,. ここでは,心的不安や情報不足に起因する潜在避難者. 次式が得られる.. をモデリングする.地震発生から数日はたとえ自宅での 生活を問題なく行えるとしても,余震による恐怖や不安, もしくは情報収集などのために避難所に行こうという心.  xev  xev [k + 1] = xev [k] + kin (xt − xev ) − kout (11) c. 理に傾く.たとえば,熊本地震では結果的に前震とされ. ただし,c は避難所収容人数を特徴付ける係数,kin , kout. た 4 月 14 日の地震の後,4 月 16 日により強い本震が発. は正の係数である.. 生しており,本震直後の心理的な負担はとくに大きかっ. 以上のように,潜在避難者数に基づいて避難所避難者. た.一方,しばらくして余震やその他の状況が落ち着い. 数の推移モデルを構築した.なお,潜在避難者数の経時. ていき,情報を収集できる環境が整うにつれて自宅での. 推移が同じであっても,係数 c によって避難所避難者数の. 生活が可能な被災者は避難所に滞在する必要がなくなる.. 実際の推移が異なるようなモデルとなる.人口に対して. ここでは,心的不安による潜在避難者数を xa として,次. 避難所となりうる公共施設数や容量が少ない場合は c が. の心的不安に関する避難者の 1 次モデルを考える.. 小さく,公共施設数や容量が多い場合は c が大きくなる.. xa [k + 1] = Aa xa [k] + Ba ua [k]. kin , kout の値は季節などにも依存して決める必要があ. (9). る.たとえばインフルエンザが流行している季節では,. ここでは,前節と同様に Ba = B − xb [k] とする.震災の. たとえ避難所収容人数よりも避難者数が大幅に少なく. 規模や余震,二次災害の有無を考慮しつつ短期間で需要. ても,できるだけ避難所などの密集地に行きたくない心. が減るよう Aa の値を決定することになる.心理的なモ. 理が働く.また,季節によって避難所に行く必要性が変. デルは震災規模によるところが大きく,地域差の影響は. わってくると想定されることから,これらの値を適切に. 少ない項目であると考えられる.よって,過去の震災規. 設定することで,より高い精度で避難所外避難者と避難. 模と避難者のデータに基づいて発震直後に係数 Aa を定. 所避難者の比率や潜在避難者数の推定が可能になる.. めることは可能と考えられる.. – 25 –.

(8) 54 3.7.2. システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 2 号  (2021). X 家の備蓄不安に対するモデルパラメータ 熊本地震の震災事例から約 3 週間程度で物資不足が 解消されると仮定し,(8) 式において Am = 0.70 と. モデルパラメータの迅速な設定. 震災発生直後にモデルを利用して潜在避難者数の推 移を推定するためには,発震直後にモデルパラメータを. する.. 設定する必要がある.震災が生じる地域や震災規模は毎. X 心的不安に対するモデルパラメータ. 回異なることから,個別の要素ごとに適切にパラメータ. 地震における人間心理を扱った文献 [11] を参考に. 設定を行う必要がある.パラメータ設定を行えるだけの. Aa = 0.30 とする.. データが現状では少ないため,現状では詳細にパラメー. さらに,(6) 式の各種ライフラインの被害数の最大値をラ. タを決定することができない可能性がある. 各自治体が出している情報を筆者が確認した限りでは,. イフライン被害に起因する潜在避難者 xwpg とした.こ. 地方自治体等が震災発生時にまとめたデータにおいては. れらの条件のもと地震発生から 60 日間の潜在避難者数. 人数の推移等は確認できるものの,何が原因で避難所に. の推移を Fig. 5 に示す.. 来たかという細かい情報は調べられていない.他方,二. Fig. 5 より,各要素ごとに異なったダイナミクスが表. 次被害の予防という観点では震災発生時にどのような調. 現されており,それらの和として全体の潜在避難者数の. 査を行っておくことが将来につながるかを加味して調査. 推移を得ている.前震および本震発生直後は,心的不安. 項目を決めることが必要になる.調査分析によってパラ. に起因する避難者が多い傾向が図から確認できる.また,. メータの設定を行うことでモデル精度を向上させていく. 家屋倒壊の避難者は 60 日の期間では一定値となってい. ことが可能と考えられ,この点に着目した研究は今後の. ることが確認できる.ライフラインの被害に起因する潜. 課題である.. 在避難者の割合は当初は多いが,ライフラインの復旧に. 4.. 伴って潜在避難者の総計が減少していることが確認でき. 数値シミュレーション. る.この人数推移は,係数やインパルス入力さえ与えら. 本章では,提案した避難者数推移モデルの表現能力や. れれば発震直後に瞬時的に得られるものであり,支援計. 汎用性について検証する目的で数値シミュレーションを. 画に即座に活用することができる.. 行う.本章のシミュレーションでは w1 = w2 = w3 = 0.8. つぎに海溝型地震を想定したシミュレーションを行う.. と設定する.まずは,直下型地震と海溝型地震の二つの. 震源は沖,マグニチュードは 9.0,最大震度 7 を観測した. タイプの地震を取り上げ,過去の震災事例に基づいた係. 地震が発生し,二次災害として津波が発生した東日本大. 数を設定し,潜在避難者数の推移について検証する.つ. 震災をモデルとしている.おもな被害は沿岸部の 3 都市. ぎに,避難所の容量の違いによる避難所避難者数の推移. とし,合計人口は 540 万人とする.ここでのシミュレー. についてシミュレーションに基づいて議論する.. ション条件は,東日本大震災の例を参考に以下のように. 4.1. 直下型地震と海溝型地震を想定したシミュ レーション. ここでは,直下型地震と海溝型地震を想定したシミュ レーションをそれぞれ行い,モデルの記述能力に関する. 設定した.. X 家屋倒壊被害のモデルパラメータ (1) 式において Ab = 1 と設定する. X ライフライン被害のモデルパラメータ ライフライン被害は広範囲であり,各種ライフライ. 検討を行う. まずは直下型地震の発生を想定したシミュレーション. ンの復旧速度は直下型地震の場合と比べて遅くなる. を行う.ここでのシミュレーション条件は,熊本地震を. ものと考える.東日本大震災では,それぞれ水道が. 参考に設定している.震源は都市直下で,マグニチュー. 約 21 日,電気が約 14 日,ガスが約 35 日で復旧し. ドは 7.0,最大震度 7 の地震を観測したものとする.お. たことを想定し,Ap = 0.40,Aw = 0.78,Ag = 0.82. もな被害は震源周辺の内陸の平野にある都市とし,人口. とする.また,ガス供給の遮断日数 M = 10 とする.. X 家の備蓄不安に対するモデルパラメータ 約 30 日程度で物資不足が解消された東日本大震災 に基づいて,(8) 式の Am を Am = 0.85 とする. X 心的不安に対するモデルパラメータ. は 180 万人である.熊本地震では,震度 7 の前震の 2 日 後に本震があり,その後も幾度か強い余震が生じた.熊 本地震における個別要素の復旧推移を踏まえて,試行錯 誤的に以下のようなパラメータを設定した.. X 家屋倒壊被害のモデルパラメータ (1) 式において Ab = 1 と設定する. X ライフライン被害のモデルパラメータ 第 3.4 節の結果を参考に,各種ライフラインの復 旧にはそれぞれ水道が 11 日,電気が 6 日,ガスが 15 日要するものと考え,各式において Ap = 0.40, Aw = 0.52,Ag = 0.58 と設定する.また,ガス供給 の遮断日数 M = 5 とする.. – 26 –. 直下型地震の場合と同様に,Aa = 0.30 と設定する.な お,海溝型地震では直下型地震の場合と比較して被害が 広範囲であることから,Ap ,Aw ,Ag に加えて Am の値も 直下型に比べて大きな値としており,時定数は大きく設 定している.このように,復旧の遅れ具合は A 行列を用 いて特徴付けられている. これらの条件のもと,地震発生から 60 日間の潜在避.

(9) 岡島・甲斐・徳永:潜在避難者を考慮した大規模災害における避難所避難者数推移の動的モデル. Fig. 5. Time-series of potential evacuee for direct type earthquake. Fig. 6. Time-series of potential evacuee for subductionzone earthquake. Fig. 7. Evacuee in shelter(cap=200,000). Fig. 8. Evacuee in shelter(cap=120,000). 55. る.一点鎖線が潜在避難者数,実線が避難者数である. とくに,地震発生直後では避難所容量が小さい Fig. 8 に. 難者数の推移を Fig. 6 に示す.Fig. 6 から,ライフライ. おいて,潜在避難者数と避難所避難者数の間の乖離が大. ン被害に起因する潜在避難者や家屋倒壊に起因する避難. きくなっていることがわかる.乖離が大きい場合には,. 者が多いことが確認できる.また,被害が広範囲な場合,. 避難所外避難者の割合が多いと推測され,救援物資は避. ライフラインの復旧速度が遅くなる傾向が潜在避難者数. 難所避難者数の実測値よりも,より多く必要になること. の推移にも現れていることが Fig. 6 と Fig. 5 の比較から. が容易に予想できる.. わかる.以上より,Fig. 5 と Fig. 6 とでは各要因による. また,同じ潜在避難者推移でも,容量によって大きく. 避難者の比率が異なっている.ここで,被災者数推移は. 避難者数推移が異なることがシミュレーションで確認で. 載せていないが,それぞれの震災の特徴に合わせた潜在. きたことから,避難所の容量をどのように設定すべきか,. 避難者数推移を表現できており,表現の汎用性が確認で. 避難所容量を途中で減らした場合にどのような不具合が. きる.. 生じうるかなどを検証できるモデル構造になっているこ. 4.2. 避難所の容量に起因する避難所への避難者 数の推移. とがわかる.さらに,提案したモデル構造で表現できる. 本節では,避難所の収容人数に起因する避難者数推移. の第 2 波があった場合には,つど,定係数を変更する必. 人数推移は指数関数的(減少)となる.そのため,地震. に関して数値シミュレーションを行う.避難所の容量 c. 要があることがわかる.. を 2 種類設定し,避難所への避難者数の推移の差異を検. 以上のように,発災時の情報のみに基づいて避難者数. 証する.避難所容量はそれぞれ全体で 20 万人と 12 万人. 推移の動的モデルを導いたことで,現在時刻での実績値. とした.また,潜在避難者は,Fig. 5 のものを用いた.. だけでなく,これまで陽には扱われていなかった避難者. Fig. 7 および Fig. 8 に,避難所容量が 20 万人,12 万. 数の未来予測値に基づいた震災支援が可能となる.以上. 人のそれぞれの場合の避難者数の推移を示す.それぞれ. のことから,モデルに基づく予測は二次被害の防止の観. の図において破線が避難所容量であり,一定値としてい. 点から有用である.さらに,各日ごとのデータに基づい. – 27 –.

(10) 56. システム制御情報学会論文誌 第 34 巻 第 2 号  (2021). た避難者予測の結果と提案手法とを併せて利用すること. 行動の特性; 日本建築学計画系論文集, Vol. 537, pp.. で,過度に現在時刻のみの情報に振り回されずに支援を 進めることができる.. 5.. おわりに. 本論文では,さまざまな地域で生じうる地震被害を扱 うために汎用的な表現能力のある避難者数推移に関する 動的モデルを構築した.4 種類の個別要素に基づいたモ デル化を行うことで,地域の多様性や震災規模に対して 広く対応可能なモデルを構築した.避難所における需要 は,食料・飲料水や生活必需品,自治体職員や医師といっ た人的物資など多岐にわたる.需要の種類や性質によっ て必要な支援が異なることから,避難者の状況を個別要 因に分類した本論文のモデル構造は有益であると考えら れる.何を計測し評価することが二次被害の抑制のため に効果的であるかを議論するためには,ベースモデルを 構築することが必要不可欠である.そのようなベースモ デル化の一例として避難者数推移モデルを構築した点に も本論文の意義がある.. 141–147 (2000) [4] U. Tamima and L. Chouinard: Development of evacuation models for moderate seismic zones : A case study of Montreal; International Journal of Disaster Risk Reduction, Vol. 16, pp. 167–179 (2016) [5] 一般財団法人消防防災科学センター: 地域防災データ 総覧平成 28 年熊本地震編; http://www.bousaihaku. com/bousai_img/data/kumamoto28_all.pdf [6] 内閣府: 震災復興対策事例集; http://www.bousai. go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/ saigaitaiou/ [7] 佐藤,能島,杉戸: 2004 年新潟県中越地震における供給 系ライフラインの機能的被害と復旧過程について; 土木 学会第 60 回年次学術講演会 (2005) [8] 熊本県: 平成 28 年熊本地震に関する災害対策本部会議 資 料; http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_15459. html [9] 木村,濱岡,佐藤: 東日本大震災における仙台市の避難 実態に基づいた避難者発生ポテンシャルの評価その 1: 仙台市の町内会住民を対象としたアンケート調査の概 要と結果; 東北地域災害科学研究, Vol. 52, pp. 233–236. 近年,支援手法の一つのアプローチとして,被災地か. (2016). らの要請がなくても避難所避難者ならびに避難所外避難 者のニーズを予測し物資を供給する「プッシュ型(フィー ドフォワード型)」の支援が用いられており,ニーズの把 握ができない場合でも迅速に物資を提供できるという利 点がある一方で,ニーズ予測が外れることによる支援物 資の余剰・不足が生じたりするという欠点があった [5]. 本論文のモデルは集計可能な避難所避難者と違って人数 推定が難しい避難所外避難者を含めた避難者の人数推移 の予測を行っていることから,フィードフォワード型の 支援においてとくに有用なモデルであると考えられる. 今後の課題として,地域間での被災者の移動に鑑みた 連携・協調動作をモデルにおいて加味することが挙げら れる.また,本論文においては避難要因ごとのダイナミ クスをそれぞれ 1 次の線形離散時間系として表現した が,精度を上げるためにはより適した表現能力を持った 構造設定も重要になってくる.さらに,避難要因の分析 をより詳しく行うことによる Ap ,Aw ,Ag の設定手法の確 立や,妥当なモデルパラメータ(たとえば第 3.4.4 節の. wp ,ww ,wg など)の設定方法の確立が,今後の課題とし. [10] 濱岡,佐藤: 東日本大震災における仙台市の避難実態 に基づいた避難者発生ポテンシャルの評価その 2:アン ケートを利用した避難要因の詳細検討; 東北地域災害科 学研究, Vol. 52, pp. 237–240 (2016) [11] 矢代,佐藤,鳥澤: 震災工学,コロナ社 (2016) [12] 八木,大澤: 巨大地震による複合災害,筑波大学出版社 (2015) [13] 内閣府: 熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状 況等について; http://www.bousai.go.jp/updates/ h280414jishin/index.html [14] 菊池,市川,金谷,出口: 災害時における避難所支援の ための需要推計と資源供給の研究; 第 10 回社会システ ム部会研究会 SICE (2016) [15] 能島: 阪神・淡路大震災における電力・ガス施設の被害 と復旧; 安全工学, Vol. 35, No. 1, pp. 50–56 (1996) [16] 能 島: 東 日 本 大 震 災 に お け る ラ イ フ ラ イ ン 復 旧 概 況( 時 系 列 編 ); 土 木 学 会 地 震 工 学 委 員 会 資 料 (2011)https://www1.gifu-u.ac.jp/~nojima/ LLEQreport/110311-GEJEQD-LL-GUNN-ver.3.pdf [17] 加藤,能島: 供給系ライフラインの地震時機能的被害・ 復旧評価モデル―市区町村別簡易評価法のシステム構築 ―; 日本地震工学会論文集, Vo. 15, No. 7, pp. 354–367. て挙げられる.. 参 考 文 献. (2015). [1] 三木,福島: 兵庫県南部地震における避難者数の推移 に関する研究; 土木計画学研究・講演集,No. 20, pp. 519–522 (1995) [2] 阪田: 震災時における避難者数の推移のモデル化に関 する研究—阪神・淡路大震災における避難所の研究; 日 本建築学会近畿支部研究報告集. 計画系, Vol. 39, pp. 157–160 (1999) [3] 阪田: 震災時における避難者数推移および避難所選択. – 28 –.

(11) 岡島・甲斐・徳永:潜在避難者を考慮した大規模災害における避難所避難者数推移の動的モデル か. 著 者 略 歴 おか じま. 岡 島  . 57. い. 甲 斐 し ず く. ひろし. 2018 年熊本大学工学部情報電気電子工. 寛 (正会員) 2002 年大阪大学工学部応用理工学科飛 び級,2004 年大阪大学大学院工学研究科. 学科卒業,2020 年熊本大学大学院自然科 学教育部情報電気工学専攻修了.在学中は, 避難者数の時系列モデル化の研究に従事.. 電子制御機械工学専攻博士前期課程修了,. 2007 年同博士後期課程修了.熊本大学大 学院自然科学研究科助教,2015 年同准教授 となり現在に至る.博士(工学).IEEE, 計測自動制御学会,電気学会の会員.. とく なが. しん. や. 徳 永   慎 也 2020 年熊本大学工学部情報電気電子工 学科卒業.現在,熊本大学大学院自然科学 教育部情報電気工学専攻,在学中.熊本地 震の震災復興に関する研究に従事.. – 29 –.

(12)

Fig. 1 Block diagram of proposed evacuee model 本論文においては,まず潜在避難者数 x t の増減推移に 関して動的モデルを導く.被災者が避難する理由は,家 屋の倒壊やライフラインの停止などの物理的被害から, 備蓄不足や余震などの二次災害に対する心的不安による ものまでさまざまである. 潜在的な避難者 x t の推移はインパルス応答モデルと してモデル化する. x t の推移モデル導出に当たり,最も 重要な要素は自宅で生活可能か否かである.さまざまな 避難要因の
Fig. 3 Number of water outage in Kumamoto Prefecture
Fig. 5 Time-series of potential evacuee for direct type earthquake

参照

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