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競争均衡と利潤について
近 藤 学 1 序 本稿の目的は,これまであまり重視されることがなかった競争均衡と利潤の わ 関連について,簡単なモデルによる検討を加えることである。周知のようにワ ルラス型の完全競争モデルでは, 「規模に関して収穫一定の場合には,均衡価 の 格体系の下では利潤は存在しない」と説明される。しかしながらこのような命 題は,利潤存在の客観的根拠を説明しえていないという点で問題であるばかり でなく,日常生活の実感とも大いにかけ離れたものと言わざるを得ない。実 際,近代的企業の行動は利潤の獲得を無視しては合理的に理解することは出来 ないが,その利潤が長期又は短期の均衡において消滅するのだとすると,一体 何のために,あるいは何を動因として「企業」なるものが存在しているのか説 明がつかなくなる。このようにワルラス型完全競争モデルは現実の「参照枠」 frame of referenceとしてすら説得的なものとはいえない。それでは翻って, 競争均衡の下で利潤が存在するという命題に肯定的な解答を与えることが出来 るだろうかというのが本稿の第1の問題意識である。 次に,従来の新古典派的なアプローチではいわゆる完全競争モデルを,特定 の歴史的現実や社会的状況の反映とみるのではなく,一つの理念上の構想物と 1) こうした試みの一つとして置塩〔1〕第1章・第2章がある。本稿の議論も多くは 彼に負っている。しかし彼の議論は直接に競争均衡と利潤の関連の解明を意図したも のではない。 2)均衡状態では「企業家は利得も損失も生まない。企業家は企業家としてではなく, 地主・労働者,あるいは自己ないし他人の企業の資本家として生計をたてるのであ る」Walras〔2〕P・225。また安井〔3〕,二階堂〔4〕P・272も参照。70 彦根論叢 第220号 して純粋に考察し,これを「参照枠」として設定しておいた上で,そこから逆 に現実をとらえようとする方法論が主流を占めてきたように思われる。しかし ながら,このような理解は果して正しかったのかというのが第2の問題意識で ある。すなわち,「完全競争モデル」を現実との直接的なかかわりをもたない 純粋の理念型としてのみ把握してしまえば,一方では現実の市場構造の変化と は無関係にモデルの分析に没頭できるという経済学者にとっての「利点」はあ るとしても,他方では理論と現実との連関が容易に見失われ,理論が現実の発 展にとりのこされてしまうという危険性を常に内包しているのではないだろう か。我々はこうした反省に立って,「完全競争モデル」を純粋の「参照枠」と して考察するのではなく,できるだけ具体的な歴史的文脈の中に位置づけ,特 お 定の歴史的現実の反映として解釈しようと思う。その点で,これまでの新古典 派的な議論のスマートさは犠牲にしなければならないが,逆に「完全競争モデ ル」の積極的な意義と限界を明らかにできるのではないかと思う。 尚,あらかじめ我々の議論の特徴を従来の競争均衡分析との対比で述べてお くと,第1にワルラス法則の否定,第2に二階級視点の導入,第3に労働供給 関数の事実上の放逐,第4に資本制的剰余条件の導入といった諸点を挙げるこ とができよう。また,以下の考察の範囲は,短期かつ実物的な封鎖経済に限定 される。 1[ モ デ ル 最初に,考察の対象となる経済の生産力構造からはじめよう。産業は2部門 から構成され,各産業の投入係数砺(i,戸1,2)は安定的かつ非負であるが, いかなる財を投入することもなく正の産出量を得ることはできない(桃源郷の の 否定)から,各列の要素のうち少なくとも一つは正である。労働は一種類で, 3) このような方法的反省としては,佐和〔5〕が興味深い。 4)α・ゴは第ゴ生産物を単位生産するのに必要な第i財の投入量を示す。生産物は生産 財・消費財というふうに蔵然とは区別しない。したがって「すべての生産物は原則と して最終生産物にも中間生産物にもあらわれる」と考える。安井〔3〕P.5。
競争均衡と利潤について 71 どの財の生産にも不可欠である(τi>0;i,ブ=1,2)。さらに,生産力の水準は, 適当な生産量(エDx2)をえらべば充分な純生産物が存在しうるような段階に あるものとする。すなわち[α記=且と書くと, (仮定D 行列工一AはHawkins−Simonの条件をみたす。 ら と想定する。 次に,上述のような生産力構造をもつ経済の上で市場機構を利用しつつ私的 利潤の追求や私的効用の充足をめざす各経済主体の行動について考えよう。周 知のように,収穫一定の技術の下では通常の利潤最大化という主体行動の仮説 からは解析的な供給関数は得られない。そこで各企業(=資本家)は,利潤率 を基準に財の供給を決定するものと考えよう。第疹部門の利潤率プ‘を ρ,一(㊨ρドトa2iP2+τiW) (i=1,2) (]1.1) ブ∫= alilt)t+a2if》z と定義すれば,第ゼ財の供給関数は Ci=Xi(ri)= Ui(Pi,P2,w) (i・=1,2) (∬.2) りと表わせる。ここで次の仮定をおく。 (仮定2) 供給関数鵡は正の価格P,,ち,wについて定義された非負の一 意連続関数である。 供給関数5Ciは利潤率の定義から明らかなように価格に関する0次同時関数で あることに注意しておこう。 次に労働者家計の行動について考えよう。労働者は貯蓄せず,「今期に雇用 された労働者は今期に賃金をうけとり,今期に全て支出する」と想定する。す なわち (仮定3) いかなる正の価格に対しても収支均等条件wN=PICt +p2c2が 成立する。ただしN・・min〔L,τ1④+τzc2〕。 5)Hawkins−Simonの条件については,例えば二階堂〔4〕§3,また本条件と純生産 可能との関連については,置塩〔6)を参照。 6) 根岸 〔7〕 p./20。 7) このような供給関数は置塩による。置塩〔1〕PP 77−80。またここでは(1[.2) の偏微係数の符号条件については特に仮定しない。
72 彦根論叢 第220号 ここでNは企業による現実の雇用量,Lは(主観的な)労働供給量,τ1夙+τ2鞠 は労働需要量,また砺は平ぎ財に対する労働者の消費需要量である。注意す べきは賃金収入はzvLではなくwNであるという点である。明らかに労働者 は自らの雇用量を決定することはできないから,現実の雇用量Nは,しとτIXI ラ +τ2×2の比較により小なる方に決定されるのである。 また労働供給量しと各消費需要Cl,C2についてはさしあたり通常の効用最大 ラ コ 化によって決定されるものと考える。すなわち Maximize:σ(Cl,c2,L) S.t, P[c; +P2c2=wL L≦L(Lは労働供給の上限) とする。効用関数に関して適当な仮定(2回微分可能,強い霜気,至福点をも たない等)をおき,かつcorner maximumのケースを排除すれば,最適化の ための一階の条件から労働供給量および労働者家計の消費需要量が(局所的 に)価格のみの関数として L=L(メ).D 1)2,w) (1[. 3) Ci=ci(P,,2り2,w) (i=1,2) (:[ll. 4) ユの と表わされる。ここで五,Ciは正の価格について定義された正の一意連続関数 であり,価格に関する0次同時関数となる。 次に資本家の行動について考えよう。資本家は家計としては消費需要を決定 し,企業家としては供給量および次期以降の生産拡大のための投資需要を決定 する。資本家の消費需要と投資需要をあわせて,資本家の最終需要fi(i一一1,2) と呼び,これらは考察の期間においては一定不変にとどまるものと考える。す なわち (仮定4) fi=fi>0 ¢=1,2) 8) (仮定3)はいわゆる狭義ワルラス法則と同じではない。狭義ワルラス法則は暗黙 のうちにN=Lを仮定している。 9) 労働者家計の効用最大化問題はのちに修正される。 10)労働供給関数(ff.3)はのちに事実上放逐されるgまた消費需要関数(瓢4)も のちに修正される。
競争均衡と利潤について 73 とする。ここで資本家の個人消費需要を一定としたのはたんなる単純化である が,投資需要をも一定としたのは重要な意味がふくまれている。すなわち,今 期の投資需要は今期の利潤率や今期の市場状態が不明のままで決定されなけれ ばならないということであり,別言すれば,資本家の投資需要そのものを,今 ユ 期の利潤率や価格を決定する主要因とみなすということである。こうした認識 は,ワルラス型完全競争モデルのように企業を受動的・消極的な行動主休とみ なすのではなく,不確実性にたちむかってゆく積極的な主体としてとらえよう エ とする企業観を内包している。 以上で超過需要関数を定義する準備がととの一,た。各財の超過需要関数粉 は次のように定義される。 El(Pi,メ)2,w)=αu Ct(・)十aizx2(・)一レ鉱(・)丹一f[一.lr1(・) (r[. 5) E,(Pi,P2,W) =αmXi(・)÷α、、娠・)+7,(・)+ゐ一睡・) (III.6) E,(Pl, i)z, ZV) =TIXI(’)+τ2・u’2(・)一L(・) (■.7) ただし(・)は(ρ〔,Pz,切の簡略化である。(:II[.!)∼(:[[.4)および(仮定 4)よりE,(i=/,2,3)は価格に関する0次同次関数となる。 ここで我々の想定するモデルを一定の歴史的文脈の中に位置づけてみよう。 まず第1に,旧い慣習や宗教的倫理観にとらhれることなく,目的合理性の論 でヨラ 理に適合的な近代的個人の存在が前提されなければならない。第2に広範な労 働力市場の存在が前提されなければならない。従って我々のモデルは,封建的 な諸制約(技術的,宗教的,政治的な)を打破して成立した単純商品生産の段 エ 階(「生産手段がまだ資本家的に私有されず,その生産手段が自ら労働する勤 労者の手に私有されている」ような段階)を経て,社会が両極に分裂し,一:方 11)置塩〔1〕第3章1・b。 !2) ワルラスのモデルでは「企業」の内部留保や投資活動における積極性といった要因 を意識的に回避してきた。こうした視角からワルラス模型を批判したものとして,青 木〔8〕第2篇第!章を参照。 13) 森lll爵 〔9〕 p.14。 !4)単純商品生産の段階における均衡価格の存在と安定性については犀塩〔10〕第2章 第2節を参照。
74 彦根論叢 第220号 は生産手段の集中・集積によって資本家階級へ,他方はその喪失によって労働 者階級へと変貌を遂げた,本来の資本制的市場経済の段階を理論的に反映した ものとみることができる。また,そこでは未だ当該産業への参入も比較的容易 であり,資本の結託,したがって価格への麦配も問題とならないような同質的 な市場構造が支配的であると想定しうるであろう。 以上の検討から,我々のモデルを簡単に,自由競争的市場経済モデルあるい は自由競争モデルと呼ぶことにしよう。 皿 市場均衡の成立と資本制的剰余条件 a.ワルラス法則の否定と問題の再構成 我々の自由競争経済においては,各々の経済主体は価格をパラメーターとし て相互独立に需給量を決定する。彼らの諸決定は市場機構の媒介によって価格 という情報に変換され,再び各経済主体に伝達される。こうした諸決定の逐次 ユら 修正を通じて,すべての財の需給を均等させる均衡価格がすみやかに模索され るものと考えられる。 ところで一般には価格を決定する方法としていわゆる競売買方式とザラバ (相対売買)方式とがあるが,以下ではどの財の価格も競売買方式によって決 ヱの 定されると考える。簡単のために価格の瞬間的変化率は超過需要量に比例する ものと考えると,上述の模索過程は
P, =cr,E,(P,,P,,w) (Ilff.1)
φ、一α、E、(ρ。P、,切 (皿.2) 吻=α3E3(Pi,P2,w) (皿. 3) 15)均衡価格の定義は,より一般的には,E(p*)≦0で,かつE(p*)〈0のときには P*;OなるP*≧0と定義されるが,本稿ではE(p*)=0をみたすp*>0を均衡価格 と呼ぶことにする。 16)経済的リアリズムの観点からすれば,ザラバ方式の方が一層現実的であるが,この 方式による需給の調整が,ワルラス均衡状態の成立や,通常の比較静学的分析と整合 的でないという問題については森嶋〔9〕第6章Bを参照。またジャッフェ〔11)5 も参照。競争均衡と利潤について 75 と表わされる。ここでcri(i=1,2,3)は,価格が超過需要量にどのように瞬間 的に反応するかを示す調整速度係数であり,正の一定値をとるものとしておこ う。 さて,自由競争的市場機構が均衡価格を発見しうるか否かをみる前に,均衡 価格の存在が確認されねぽならない。通常の議論によれば,均衡価格は(皿. 5)∼(五.7)で恥=0σ=1,2,3)とおいた3本の方程式により決定される。 しかるにEiは0次同次関数であるから,真の未知数は.2ケであり,ここに周 知の過剰決定という問題が生じる。この困難を回避するためにワルラス法則と いう救世主が登場する。もし(仮定3)におけるN=しの成立を仮定し, 1]1π1十¢2π2=ノ)}fi十P2プL. (IIIII. 4) すなわち資本家家計の収支均等条件の恒等的成立を仮定すれば.つねに {即1π1一娠あ一α、、カrα21ρr・、切}+{∬2π,一壕力、一α、、ρ、一か日、P,一τ、切} 十(PICI→一/)2c2−rwZ,)=O (工匠. 5) であるから,(亙。4),(1[1[.5)より ρ1(alIXI+a12x2+Cl+fl−Xl)+P2(aZIXI+a22x2+c2+乃一鞠) +xv(τIXI+τ、x、一L)=P、E、+P2E2+wE、=0 (巫.6) が成立する(広義ワルラス法則)。ここでπi(i=1,2)は第i産業の単位利潤で ある。(皿.6)より任意の二つの市場が均衡すれば自動的に他の一つの市場も 均衡していることになり,均衡価格の決定にまつわる困難は解消する。しかし ながら広義ワルラス法面が成立するためには二つの仮定が必要であった。第 1は資本家家計における収支均等条件(亙.4)の恒等的成立である。第2は N・=しすなわち今期の実際の雇用量が労働供給量と常に等しいということであ る。これらの2条件は次の理由でいずれも承服できない。 今期の利潤収入は今期の均衡価格が求まってはじめて(同時的に)確定する が,この均衡価格を決定するためにはあらかじめ資本家の最終需要fi,fzが 与えられていなければならない。だから(丑【.4)が意味することは,時間的 なパースペクティヴを考慮すれば「今期の資本家の最終需要は,今期の利潤の 実現に先だって丁度利潤収入に等しくなるように行なわれる」ということにな
76 彦根論叢 第220号 17) る。別言すれば資本家のどのような支出計画も必ず実現し,それにみあう利潤 ユの が獲得できるということである。明らかにこのような想定は分権的市場機構の 性格とは両立しえない。さらに条件(皿.4)は企業の積極的な行動を許容し ないという点からも問題点が指摘される。すなわち現実の企業は利潤所得(あ るいは内部留保)に直接的に規定されることなく,将来の予想や他企業との競 争を意識して積極的に投資をおこなうのであり,必ずしも収支均等条件にはこ ユの だわらないと考えられるからである。 次に広義ワルラス法則が成立するための第2の条件の成立についてみよう。 N=五が成立するのは,①労働者が生産手段を所有しているという全く馬鹿げ の た場合か,②資本家の最終需要ん∫2が極めて高い水準にあり,それゆえ価格 がつねにL(Pi,Pz,w)<τ1夙(A,P2,切+τ2x2(A,P2,切なる関係をみたすよ うな場合である。②については,景気の好況局面のような場合には労働力市場 が超過需要状態となることがあるとしても,任意の価格(従って任意の鶉,端) に対して常に労働力市場が超過需要の状態であると想定することは非現実的で ある。 以上の検討から,狭義のしたがって広義のワルラス法則を認めるわけにはい かない。それゆえ我々はワルラス法則を否定した上で,均衡価格の存在を論証 しなければならない。そこで,次の二つの仮定を追加しよう。 !7) 置塩 〔1〕pp.147−!500 18)均衡においては後にみるようにρ=がに対して(皿4)の関係が成立する。しか しそれはfiの最終需要が投じられた結果として生じる事後的関係式である。これに 対して狭義ワルラス法則は,任意の価格に対して事前に利潤収入が西を規制するこ とを要求しているのである。 {19)置塩〔1〕p.107。 20) 「生産手段を所有していること,自分の意思にもとづいて労働すること,労働供給 量を調整でぎるということ,これら三つはすべて同じことがらの異なる側面である。」 伊賀〔12〕P.86。 2!) 我々の実物体系においてはワルラス法則とセイ法則とは同じことである。森嶋〔9〕 第7章Cをみよ。またセイ法則の批判については置塩〔1〕p103および第2章第3 節,また新古典派理論における隠匿されたセイ法則については伊賀(12〕第3牽2を 1;.参照,
競争均衡と利潤taついて 77 (仮定5) 賃金率の調整速度係数α3は極めて小さく,当該;期間において は賃金率は一定値ω譜面(>0)とみなされる。 (仮定5)は賃金率が非伸縮的なために労働力市場が偶然的な場合を除き,短 ;期的には均衡しないということを意味している。 (仮定6) 労働力市場は超過供給の状態にある。すなわちL≧τエXl+τ2x2。 (仮定6)は,資本家の最終需要ft,乃が適当に制約されるため,価格が労働 力市場を超過供給の状態に保つような範囲に考察を限定するということを意味 している。このような限定は,議論の繁雑さを避けるという理由にもよるが, より判明的Uこは(仮定6)のような状態こそ資本制の下では一般的だと考えら れるからである。すなわち「資本主義社会においては,労働者になること,(雇 用されること)も労働者をやめること(労働力の供給を拒否すること)もきわ おの めて困難であ」り,労働者が雇用されるかどうかはもっぱら労働需要の状態に 依存していると考えられるからである。 (仮定6),(仮定3)より N=:τiX且十τ2a:2 (皿. 7) となる。すなわち現実の雇用量は労働需要量に等しくなる。またどのような資 本家の生産計画も労働力の調達という点からの制約は生じない。さらに(仮定 ラ 6)の導入によって労働者の労働供給計画は決して実現しないから,労働者家 計の効用最大化問題は次のように修正されなければならない。 Maximize:σ(Cl,c2) S. t. PIC玉詠1)2C2=覆)N これより労働者家計の消費需要関数は(皿.7),(仮定2)に注意して Ci .Ci(Pi,p2,面N)・・ Ci(1)i,p2,動 (i=1,2) (皿.8) と修正される。ここでCi(P,,P2,0)=0σ=1,2)とな:ることに注意しておこ う。 (仮定5),(仮定6)は次のような歴史的あるいは社会的状況を反映したも 22)伊賀〔12〕pp.86−87。 23) (仮定6)によって労働供給関数(H,3)は事実上無意味なものとなる。
78 彦根論叢 第220号 のと解釈することもできよう。すなわち資本制生産の発展,市場経済の拡大と ともに自足的な農村経済の解体がすすみ,潜在的失業者が発生する。こうした 潜在的失業者の存在は,労働力が超過需要の時にこれを解消し,賃金率を上昇 させない方向に作用すると考えられる。また労働組合の存在は,労働力が超過 供給の時に賃金率を切り下げない方向に作用すると考えられる。 いずれにせよ,ワルラス法則にかわる(仮定5),(仮定6)の導入により, われわれの経済においては均衡価格(ρさ,餅)は,次の2本の方程式 E且(Pi,P2,W)=a11 1)1(・)十a12x2(・)十Cl(・)十fi−x[(・)=O(]1正. 9) E、(Pl,P2,W)=α2、娠・)+a22x2(・)+・2(・)+ん一娠・)=0(皿.10) によって決定される。(皿.9),(皿。10)より
舞疏.。==一驚凱。。一一謬:ポ (皿:.)
であり,また絵L。べ絵L.。一一努誰凸・ (皿・・2)
である。 b.資本制的剰余条件 ワルラス法則を否定した我々のモデルにおいて市場均衡が成立するか否かを みるために,いささか迂回的ではあるが,社会に剰余生産物が存在するための 条件を考察しよう。 一般に,生産力水準が(仮定1)をみたすような段階にあれば,社会に剰余 生産物Zl,z2が存在可能であるためには,直接生産者の単位労働時間あたりの 実質消費を瓦,R,とすると,次の関係をみたすXL>0,x2>0が存在しなけれ ぽならない。 Zi=:Xl一{aiiXl−t−ai2V2−1−R1(TIXI+T2V2)}>O Z2=x2一{a21x「トα22∬2十R2(τIXi十τ2 1:2)}>0 (皿.14)より,a21+R2τ1>0であるから 1−a2z−RzT2>O となることが必要。すると(皿.14),(皿.15)より (皿.!3) (皿.14) (K. !5)競争均衡と利潤について 79
、鵠㌻病く÷
が成立し,また(皿.13)より,a12+RIτ2>0であるから差1<1誰鳶1
が成立する。よって(皿.13),(皿.14)をみたすXl>0,x2>0が存在するた めには,(皿.15)とともに a21+R2τ且 1−aii−R且τ且 (皿.16) 1=a、、一R、醜く一苅、+RIτ2 となることが必要である。 (条件(皿.15),(ff.16)は十分条件でもある) 条件(皿.15),(1正.16)の成立は,結局直接生産者の実質消i費Rl, R2が 一定の範囲内にとどまることを要求している。実際,投下労働量の概念を用い て(皿.16)をかきかえると,[二 H1=1:;、=訓;』〉・ (巫・・7)
う であるから, 1−R,tl−R2t2>0 (皿. 18) と書きかえられる。 ここにち(i=1,2) R, は第ど財1単位あたりの投下労働量で 1−a22 ある。(皿.18)を用いて(Rl,R,)の τ2 ヨら 存在領域を図示すれば,図1の斜線の t2 部分(境界含まず)となる。以上のこ とから,剰余生産物が存在するための 第1の条件は,直接生産者の実質消費 が技術的に定まる一定の範囲内に抑圧 R1 されることであると述べることができ 0 ⊥ 26) tl る。 図ユ 24) (仮定1)より〔1−A〕 i≧0。またτt>0,τ2>0よりtt>0, t2>0。 25)条件(皿.15)は(皿.18)にふくまれる。また明らかにRL>0, R2>0でなけれ ばならない。 26)以下この条件(皿.18)を置塩に従って剰余条件と呼ぼう。置塩〔1〕p.4g。80 彦根論叢 第220号 しかしながら,(R,,R2)が(皿.18)をみたす範囲にとどまったとしても, それだけでは実際に剰余生産物が存在することにはならない。実際に剰余生産 物が存在するための第2の条件は,生産量@1,切が a2 t 」f R2τ T x2 1−aHrR1τ1 (皿.19) 1二苑=R、τ、一くXlく。、2+R,τ2 なる関係をみたすように選択されるということである。 以上の検討から,社会に三余生産物が存在するためには,二つの条件(皿, 18),(皿.19)が成立しなければならないことが明らかとなった。どのような 社会であれ,直接生産者以外の社会成員が存在するためには剰余生産物が必要 であるから,こうした条件はどのような社会であれ長期的あるいは平均的には ラ 満たされてきたと考えることができる。 以上の考察を「導きの糸」として,資本制の下での剰余生産物の存在条件に ついて検討しよう。 資本制経済においては,あらゆる生産物は商品という形態をとっているか ら,実質レベルの議論だけでは十分でなく,価格レベルの議論を媒介させて検 討しなければならない。さて,(仮定3),(仮定5)より i一=R,一e.1一一 +R,,一1?4?. R.2 認り w であるから(ただしRF命・・一…)・ 実質賃金率尺,R・が剰余条件(皿.18) 一L をみたすためには,まず第1に,価格 t2 は Pi>五一、動(・・,,)(ur.、。)豊 なる条件をみたさなければならない。 (図2参照)ここでtiは(皿.17) o によって定まる投下労働:量である。 27) 崔立塩 〔1〕 p.94。 28) 会である。 Pi Ri 十P2R2 == W
酌⊥
P玉 t1 図2 R, ここで「!:t会」という場合は,少なくとも(仮定1)がみたされるような段階の社競争均衡と利潤について 81 (:II[.20)は資本制の下で剰余生産が存在可能となるためには,価格Piが任意 の値をとりえないということを要求している。さらに,資本制の下では各個別 企業は価格をパラメーターとして生産量を決定するが,こうして私的・分散的 に決定された生産量の総体(Xl,∬2)が条件(皿.19)をみたすかどうかは, 結局条件(皿。19)をみたすように生産量(Xl,x2)を誘導するような価格が 存在するか否かという問題に帰着する。それゆえ資本制の下で剰余生産物が存 在するための第2の条件は,生産編成が(if。19)をみたすような価格が存在 することである。しかもこうした価格は,ただ存在すればよいのではなく市場 機構の模索によって安定的に発見できなければならない。それゆえ第3の条件 は市場の動学的調整過程が安定であることである。 以上の議論をまとめると,資本制の下で剰余生産物が存在するためには,次 の連立不等式 Zi(?i,P2,動=∬且(・)一a⊥1・v1(・)一a12x2(・)一Ci(・)>O Z2(Pi,P,i, tE)) = u2(“)一α2[xユ(・)一a22x2(・)一。2(・)>0 が,A>Pi,P2>P2以外の解をもちえず,かつ市場の調整過程 ゑ瓢α、E1@Dρ、,{の b,=:ev,E,(P,,P2,tw) (]II. 21) (1涯.22) (M. 23) (ur. 24) が(局所的に)安定的でなければならないということである。我々は次の二つ の仮定を導入することによって,上述の問題に対する必要・十分条件をもとめ ることができる。 (仮定ア) 単位利潤πゴ=ρゴ《α1泊+a2iAp+Tiw)(z=1,2)をゼロとする ような価格の組(P?,Pl, wv)に対しては, Ci(P2,ρ1,ガ)== O(f=1,2)。 (仮定7)は,資本家による生産が利潤動機によるものであることを思い起こ せば,十分根拠のある仮定であろう。 (仮定8) (皿.21),(皿.22)を等号でみたす2曲線Zl(Pi,P2,あ)=0, Z2(あ,P2,w)=0の交点は唯一で,各∂Zi/ρゴ@ブ=1,2)の符号は一定。 このとき,後述するように(皿.20)で定義された価格(Pi,P2,動に対して は
82 彦根論叢 第220号 πi(Pl,P2,W)=0 (i=1,2) (皿.25) がなりたつ(Pi= Pi,P2ニP2は脚=湧なるとき両部門の単位利潤を消滅させる 価格である)から,(仮定7)より Xi(Pi,1)2,E,)=:O (i=1,2) Tl c t (P1, P2, iE}) 一F T2 rc2(Z)1, P2, ul) = O とな:り, (M.7),(皿, 8)より ci (Ps, lb,, iE,) =:O (i 一一 1, 2) が帰結される。よって
Zi(P,,P,,th)=O (i一一1,2) (M. 26)
が成立する。すなわち(皿.21),(皿.22)を等号でみたす2曲線は点(Pi, P2)で交わり,(仮定8)よりこの点以外では交わらない。これだけのことを 準備として次の定理を証明しよう。 定理二資本制の下で剰余生産物が存在し,かつ市場機構によってこのことが 達成可能であるための必要・十分条件は,卿陵渦:]七t]かv) EllE22−E12E21>・(皿. 27)
となることである。 〔証明〕 (十分性)Zi=fi−Ei(i=1,2)なる関係に注意しつつ,(皿.27) の成立を仮定すると,(皿.21),(皿.22)を等号でみたす曲線の勾配は,諭乙。r勇計一号1>・ .
諭し一。 ==一雨一一舞〉・ となり,また,箸胴一箸胴一一触㍊凸〉・
とな:る。ここでZガ=∂乙/∂Pノ,E‘ゴ=∂Ei/∂ρゴσ,ゴ=1,2)である。さらに(皿, 26)に注意すれば,(皿.21),(皿.22)をみたす(P,,P2)は図3の如く存29) ” 一
在し,たしかにρ1>Pi,カ2>P2以外の 解をもちえない(境界含まず)。また 市場の動学的調整過程(皿.23),(皿. 24)は(均衡価格が存在すれば) .=[%i 8,],e一=[g・;], q・=IS)i一ρ一5(i=1・2) P2 E=[E歪ゴ(油搾,吻] (i, f’ 一一 1, 2) とおくと,均衡価格(舜,拶)の近傍でa=crEq (wt. 2s)
と線型近似される。 (皿.24)は局所的に安定であるが, 30) の十分条件にもなっている。 (必要性) (仮定8),(孤. P2 競争均衡と利潤について 83 Z,==O Z,=O Pi O Pi 図3 このときαEが安定行列であれば調整過程(m.23), (]江.27)はαEが安定行列となるため 26)に注意すれば(IIII.21),(皿.22)があ〉 あ,P2>乃以外の解をもちえないためには,まず(皿.21),(皿.22)を等号 でみたす2曲線の勾配は正でなければならない。したがって EiiEi2〈0 (i=1,2) (1[. 29) であることが必要である。 次にもしEJl>0(E」2〈0)と仮定するとE〃=一Z〃よりZ11<0(Z12>0)と なるから,(皿.21)をみたす(Pi,P2)の存在領域はZ, =Oの上側となる。 従って(皿.21),(巫,22)をみたす共通領域が存在するためには,Z2 ・= Oの 曲線の勾配がZ, =・Oの曲線の勾配を上まわり,かつ(皿.22)をみたす(P1, 29)例えばZl>0の領域が図3のZL r=・Oの下方領域をあらわすことは次のように示さ れる。条件(亜.27)の成立を仮定しているからZil>0。 Z=0をみたすある佃i格 (武ρ婁,痴)のpYを4幽(>0)だけ変化させるとZ(pr十 「iPi, pS,面)>0。よってZl>0 ぱZi ==Oの下方となる。 Zz>0についても同様。 30)αEが安定行列となるための(必要)十分条件は,αtEii+α2石22<0,α1α2(E/lE2p.一E12 Eの>0となることであるが,G兀27)が成立すればこの条件はみたされる。詳し くはBellman〔13〕参照。84 彦根論叢 第220号 一P P2 Z 2==O Z ,=O 一P P2 Z,=一〇 Z,=O Pi P1 0 貢、 P、 図4一① 図4一② P2)の存在領域がZ,=Oの下側とならねばならない。(図4一①のケース)よ って
媚・コ乖;]かつEIIE22−E12E21〈・ 瓜3・)
となることが必要である。 反対にEll〈0(E12>0)を仮定すると同様の推論によって,この場合には, (皿.21),(]正.22)がPi>ρ1,P2>lba以外の解をもちえないためには,畷E・・]七i]かつEllE22−E12E21>・ (皿…)
となることが必要である。 (図4一②のケース) しかるに資本捌の下で剰余生産物が実際に存在するためには市場の動学的調 整過程が安定的でなければならないから(皿.30)のケースは排除されなけれ ばならない。 価.31)は安定のための十分条件ではあるが,必ずしも必要条 ヨエ 件ではない。しかし,(皿.21),(皿.22)が力王>Pi,P2>P2以外の解をもち えず,かつαEが安定行例となるためには,結局(皿.31)が成立しなければ 31) EがいわゆるD安定行列となるための必要条件は,我々の場合El:,E22が非正で少 くとも一つはGでなく,EuE2rE12E2iが正となることであるが,(Quirk&Ruppert 〔14))我々の議論はたんにEがD安定行列となるだけでなく,(皿.21),(皿.22) がPl>Pl, p2>p2以外の解をもちえないことも同時に要求している点に注意。競争均衡と利潤について 85 おヨ ならない。 (証明済) (皿.27)は資本制の下で剰余生産物が実際に存在することを保証する条 件であり,一般的な剰余生産物の存在条件(皿.18),(皿.19)の特殊・資本 制的な形態とみることができる。それゆえこの条件を資本制的剰余条件と呼ぼ う。我々は資本制社会が長;期的・持続的に存続しつづけてきたという歴史的事 実にかんがみて,資本制的剰余条件は十分満たされてきたと考える。かくして 次の仮定を導入しよう。 (仮定9) 資本制的剰余条件(III[.27)の成立。 c.市場均衡の存在と安定性 再び市場均衡の存在問題に立ちかえろう。我々はワルラス法則を否定し,若 干の,資本制経済にとって妥当と思われる諸仮定を加えつつ市場均衡の存在問 題を再構成してきた。ここで検討されるべきは,方程式(巫.9),(皿.10) を同時にみたす正の均衡価格@r,拶)の存在である。 (仮定9)によって, (颪.11),(巫.12)の符号は確定し,
脚脳〉窺。。〉・
となる。また価格が(Pi,P2,切)のと P・瓶__一
となるから,両部門は超過需要の状態 にあり,価格(Pi, P2)は上昇する。 P; 以上のことから市場均衡は図5のよう に確かに存在する。しかもこの均衡価 格はが>lbi,拷>Pzなる条件(資本 制の下で剰余生産物が存在するための c) 第1の条件)をみたし,またこの価格凶ム
Z/κ
属.
Lm=m
戸1 Plh 図5 Eコ=一〇 Z,=O Pi 32) もし市場の調整過程(皿.23),(皿.24)の安定性を要求しなければ,条件(皿, 27)は資本制の下で剰余生産物が(安定的ではないが)存存するための十分条件とな るだけであり,必要条件とはならない。86 彦根論叢第220号 おヨ の下ではZi =fi, Z2=んの剰余生産物が実際に存在し(第2の条件),かつ局 所的に安定(第3の条件)である。またこの市場均衡の状態を別の角度から見 れば, 「利潤」とはけっして単なる技術的な条件や均衡に到る過程で付随的に 生じる「現象」ではなくて,剰余生産物の特殊な形態にすぎず,それゆえ何よ りも社会的な人と入との文脈において理解さるべきものであることが明瞭とな ろうpすなわち市場均衡の状態では湾=娠ρ鴬ρ芋,湧),町;ら(ク肇,ρあ動と 書くと 尋=αll鱒十α王2」じ挙十。董‘ 十fi (皿:.32) ¢芽=α21記誉十a22x穿十〇穿十プ毛 (1正. 33) および P整。さ十力穿6挙=ED(τi ut’一{一τ2ぼ夢) (巫, 34) が成立する。 (巫,32)にP3を乗じ,(皿.33)にがを乗じ辺々加えあわ せ,さらに(皿.34)を考慮すれぽ 璋(搾一αH芽一働拶一τ画)+が(統一α、2芽一α、,可一τ、面) = Pffi+ρ}五 が成立する。また均衡においてはみ篇乙であるから結局 ぼ醤+罐π挙=ρ獣+拷∫2=ρ労Zl+ρ苧Z, が帰結される。すなわち総利潤は剰余生産物の特殊・資本制的な現象形態に他 ならず,総利潤が正となるのは剰余生産物が存在するからに他ならない。 以上の検討から,資本制の下では,資本制的剰余条件がみたされるかぎり, 経済的に有意味な市場均衡は必ず存在し,かつ市場の模索によってこうした状 33) (]1.g),(皿.ユ0)および(皿.21),(皿.22)よりEF、ん一ZδであるからEi=0 とおけば,Zi=fiがえられる.またEi=:Oの曲線は乙=0の曲線を図5の白い矢印 の方向にfiだけシフトしたものであることに注意。 34)資本制的剰余条件は,大域的安定性を保障しない。大域的安定性を保障するために は追加的な仮定が必要である。たとえばEを対称行列とし,αFαFαと仮定すれ ば,リヤプノブ関数をγ(,)=(El)2十(E2)2とおくことによってV=2αΣiΣゴEijEiEj がえられる。Eはピックス行列でかつ対称行列であるからΣiΣ」E・jEiEjは負値とな る。よってウ<0がえられる。しかしEが対称行列となるためには我々の場合EI2; E21と仮定しなければならないが,このような想定は有意味なものとはいえない。
競争均衡と利潤について 87 態を達成することができると結論することができる。 W 均衡価格と利潤 前節では「利潤」がr剰余生産物」の特殊な存在形態に他ならず,資本家の 最終需要,したがって剰余生産物が正値をとるかぎり,必ず総利潤も正値をと ることが明らかとなった。本節では,均衡価格と利潤の関連をもう少し別の角 度からとりあげることにする。その前に前節の議論において留保された論点 一両部門の単位三二をゼロとする正の価格(Pi,P2,動の存在一をとりあ げよう。 a.単位利潤と価格 単位利潤πげ=A一(aiilb{+a2iP2+τiW)が正となるためには価格(A,P2,働) が任意の値をとりえないことは明らかであるが,それでは両部門で単位利潤が 存在するためには価格(Pi, P2, xe,+)はどのような条件を満たさなければならな いだろうか。この問題は,結局次の連立不等式 rct(!)i,2b2,iE})=Pi一(aii2S)i+a2i!}2H一一TiiE))>O (IV. 1) x2(2bi,!)2,ib)==P2一(ai2Pi一一a22/}2十T2ib)>O (IV. 2) の共通領域をもとめるという形で検討することができる。まず両部門の単位利 潤を同時にゼロとする価格は,π1==O,π2 ==Oとおくと [i:“.:; ,IZ:1] BifT@2・] =[;1] であるから,(仮定1)より(1−A)嘆≧0が存在し, Pi =Pi ==tiW>O P2=P2=t2W>O となる。ここでtiは, (皿.17)より求まる投下労働量である。 また(仮定1)より
藷L。。一≒爵II>・・鵬恥一。一kt2,〉・(IV・3)
髪糺一。鷺L−Q一(1−al 1) (1 一az 2) 一ai 2az l azi(1−azz)〉・88 彦根論叢第220号 P2であるから,(IV.1),(IV.2)をみ たす価格(Pi,P2)の存在領域は図6 の斜線の領域(境界含まず)のように なる。図6から明らかなように, Ti(lt),,Pz,iE})=O (i一一1,2) である。またあ>Pi, P2>錫であって も,必ず両部門に利潤が存在するとは τ、耐 1−a22いえず,実際に両部門で利潤が存在す るためには,前節で存在が示された均 衡価格(酵,ρめが図6の斜線の領域 2 / P 嗣ーーーー1−1ーー P
a
rr1=’O rr 2==O 1−a22h
一一一L“M一一 一一 一 一 一一 Pi =一 Pi l−an a21 Pi O.壁_ 1 一・a1ユ 図6 内に存しなければならないことに注意しよう。 b.均衡価格と利潤 前節での議論によれば,資本制的剰余条件が成り立つかぎり,均衡価格は必 ず Zi(Pi,P2,iE))=:xt(・)一aiixi(・)一ai2x2(.)一ci(・)>O (IV. 4) Z2(Pl,P2,ib)=x2(.)一a2 ixl(.)一a22x2(.)一。2(.)>O (IV. 5) の共通領域内に存在する。そこで(Pi,P2)平面に(IV./),(W.2),(IV.4), (IV.5)を同時に重ねあわせると,典型的には図7のような6ケの場合が生 35) じうる。(次頁参照) ここで黒く塗りつぶした領域は,均衡価格が両部門でともに利潤をもつ場合 である。また①,⑥の場合にはどのような均衡価格も両部門でともに利潤をも ちえない。②,③,⑤の場合には資本家の最終需要fi,乃を適当に選べば均 衡価格が,両部門でともに利潤をもつようにすることができる。④の場合に は,任意のfi,f2に対しても均衡価格は,両部門でともに利潤をもつ。 ところで①,⑥のような場合は次の理由で考察の対象から除くことができ る。その第1の理由は技術進歩である。 (IV.3)より明らかなように,投入 35) (仮定1)によってπFOの勾配はπ2=0の勾配より大。また(仮定9)によっ てZl=Oの勾配はZ2=0の勾配より大でなければならない。Z2二〇 P2 Z ,= e. .z,=一 O幽 1)2= P2 1
1jf/ .n2−o
: pt de” pm mmp ny.rm m P i .= Pi−Pl
図7一①糧既凸
iレXii
.M.rv.mm一一一一一一一一tw P i 、 図7一③P2 ni=:0
wr[ :IZ. 一一.一 .. p i = P,e一 pl
図7一(1 競争均衡と利潤について 89 図7一一②P2 Zi=O
↑堅ノ∴凶
1 /71”i−//Y7−7r,・一〇附箋1一糾
図7一一④ P2 z1==e P2茸P2 , ,1 / /7Zr 2一一〇
1/ ./一Zi=O
l//77Z,一=O
Ie:.= 一 一一 一一 一nyH 一一 P l == Pl 一一一一一一一一一一一 p] 図7一⑥90 彦根論叢 第:220号 係数α〃が小さくなればπ1=・0,π2==Oの勾配は変化し,(IV.1),(IV.2) をともにみたす価格(Pi, P2)の存在領域は次第に拡大し,直線2bi=:1)i, P2= P2に接近してゆく。従って資本制生産が十全な姿で発展しつつある我々の自 由競争的市場経済の段階では,こうした①,⑥のような場合が生じる可能性は 極めて小さいと考えられる。第2の理由は経験による資本家の供給態度の修正 である。Zi =O, Z2=0の勾配は
糺司一一≦1調篶轟誰,〉・ (w・一6)
1謝_一皇線1歪畿烹1>・ (rv・7)
となる。ここで∬〃=∂Ci/∂勿,ら,=∂Ci/∂ρゴ(i,ブ=1,2)である。(IV.6),(IV. 7)から明らかなように,技術進歩とともにZi=0の曲線はπi=Oと同方向 にうごき,鳥=角に接近してゆくが,技術進歩がたとえ生じなかったとして も,資本家の供給態度勘や労働者の需要態度傷が変化すれば曲線ZI =・O, Z・ ・=Oの勾配は変化しうる。例えば図7の①のような場合,砺>O(i=1,2), 解くO(i,」=1,2:i≒」)と想定し,らノの大きさは無視しうる程のものと仮定す 37) れば,資本家の供給態度が幽の変化にヨリ鈍感(Xl 1,x21が減少),ちの変 化にヨリ敏感(VIz,x22が増大)になれば, Z, ・=O, Z2=0の勾配はともに減少 し,rrt=O,π2 =Oの直線に接近してゆくことができる。それゆえ,利潤が両部 門でともに正となる価格領域が存在するにもかかわらず,均衡価格がこうした 領域内に存しえない場合には,資本家は経験(霊失敗による学習)を通して次 第に供給態度を変更し,πゴ誕0の直線とZ戸0の曲線とがそれぞれ対応するよ うに供給態度を修正するであろうし,またしなければならない。 (適切に供給 態度を修正させることのできる資本家だけが資本家たりうるのである) 以上の理由によって我々は図7の①および⑥のような場合を無視することが できる。また,他の場合(②,③および⑤)においても,同様の理由で,両部 36) このような想定は供給関数についての想定(1正,1),(■.2)から首肯されよう。 37)c・jの大ぎさは.労働者の量的増大,所得水準の上昇とともに無視できないものに なると考えられるが,ここでは「資本家主権」を想定しておく、競争均衡と利潤について 91 門ともに正の利潤が存在しうる価格領域が存在するにもかかわらず,均衡価格 となりえない領域(図7の②,③,⑤において白丸を付した領域)は長期的に は次第に減少してゆくと考えられる。 こうして我々は今や一定の結論を下しうる段階に到達した。均衡価格の下で 利潤は存在するかという問題に対しては次のように答えることができる。 命題:(1)レオソチ=フ型の技術をもつ自由競争的な資本制経済において, 資本制的剰余条件がみたされるかぎり,短期的市場均衡は必ず存在する。し かもこの均衡価格体系の下では,資本家的最終需要が存在する限り剰余生産 物が必ず存在し,従って総利潤は必ず正となる。 (2)短期的な均衡価格体系の下では,両部門がともに正の利潤を獲得する可 能性は十分に高く,またこの可能性は長期的には一層増大してゆく。 V 結一自由競争市場経済の限界 前節までの議論によって我々は,「収穫一定の経済においても,競争均衡の 下で利潤が存在する」という命題に肯定的な解答を与えることができたと考え る。また同時に,「利潤」とはたんなる技術上の理由にもとづいて存在するも のではなく,もつぼら社会的な:人と人との文脈において一マルクスの言葉を 用いるなら「搾取」という関係を通じて一存在するものであることも明らか となったと考える。しかしながらこうした結論を導くためにはいくつかの前提 が必要であった。この前提とは何であったのか,またこの前提が不成立となっ た場合にはどのようなことが生じるのかという問題について,自由競争市場経 済の限界という視点から,小括を加えておこう。 我々の議論は,ワルラス型完全競争モデルを出発点としながらも,資本制経 済にとって妥当と思われる諸仮定を加えながら,これを我々のいう「自由競争 モデル」に再構成し,このモデルに基づいて行なわれたものである。ここで我 々のモデルを原モデルと比較すれば,次のような差異が浮かびあがってくる。 ① 資本家の最終需要(投資)を価格(および利潤)の規定因と考えたこと ② ワルラス法則の否定
92 彦根論叢 第220号 ③ 労働力市場は不完全雇用状態にあり,賃金率は非伸縮的であると考えた こと ④ 資本制社会を階級社会の一一maと考え,資本制的剰余条件を導いたこと 以上の諸点のうちで,①,②および④は特定の歴史的現実や社会的状況を反映 したものではなく,主として理論上,方法論上の立場にかかわるものである。 従って,我々の自由競争モデルを歴史的に位置づけようとする当面の関心から みれば,我々のモデルの最大の前提は③の想定にあるということができる。 ところで,我々のモデルにおいては労働者はどのような存在として想定され ていたであろうか。労働者は労働組合を結成してはいても,賃金率を引きあげ ることはできず,実質消費は資本家の満足のいくような水準にまで切り下げら れる。また労働市場においては顕在的あるいは潜在的な失業者が存在し,労働 者は雇用に対して何ら影響を与えることもなく,ただ資本家の望む時にだけ雇 用されるものと想定されていた。しかしながら市場構造の異質化とともに労働 者階級の力量が量的・質的に増大し,賃金率の引きあげ,実質消費の獲保ある いは引きあげ,さらには資本家の雇用政策に対して何らかの影響をおよぼすよ うになれば,我々の前提は到底維持することができず,従って「自由競争的市 場均衡」そのものも重大な修正を余儀なくされるであろう。 ゆえに,我々の議論は労働老階級の力量が一定の未成熟な段階においてのみ 妥当するものであることが指摘されなけれぽならな:い。この意味で「自由競争 的均衡」とは,資本家の要求だけが実現される「均衡」という意味で, 「資本 家主権の均衡」あるいは「資本家的均衡」と呼びうるであろう。だがしかし, このような「資本家的均衡」は,その前提が,労働者の階級的力量の増大によ 38)って破られるとともに早晩維持することはできず,不安定化しはじめる。そし て,こうした自由競争市場経済のもつ本質的欠陥あるいは脆弱性こそが, 「自 由放任」の賛歌にかわって,ミクP的経済主体のみによる経済過程の制御を断 念せしめ,国家による介入を不可避とするに到った経済的理由の一つであった 38)労働者の要求と資本家の要求が不両立な場合にξのような「均衡」が生じるかにつ いては,置梅〔15〕を参照。
競争均衡と利潤について 93 と考えることができるのである。 (1983. 4. 11) 参考文献 〔1〕 置塩信雄,『蓄積論』,筑摩書房,1976。 (2) Walras, L.: Elements of Pare Economics, ed. and tr. by W. Jaff6, (London: George Allen and Unwin, 1954). 〔3〕安井琢磨,「ワルラス体系の一考察」,「安井琢磨著作集第3巻』所収,創文社,1971。 〔4〕 二階堂副包,『現代経済学の数学的方法』,岩波書店,!960。 〔5〕佐和隆光,『経済学とは何だろうか』,岩波新書,1982。 〔6〕 置塩信雄,『:再生産の理論』,創文社,1957。 〔7〕根岸 隆,「価格と配分の理論』,東洋経済新報社,1965。 〔8〕 青木昌彦,『企業と市場の模型分析』,岩波書店,1978。 〔9〕i森嶋通夫,『近代社会の経済理論』,創文社,1973。 〔10〕 置塩信雄,『現代経済学の展開』,東洋経済新報社,1978。 〔11〕 ジャッフェ,ウィリアム,『ワルラス経済学の誕生」,安井琢磨・福岡正夫編訳,日 本経済新聞社,1977。 〔12〕 伊賀隆,『経済成長と所得分配』,日本評論社,1971。 〔!3) 13ellman, R.,ノ肋一〇盈漉。πto Mati’ix Area/yse’s, M:c(}raw−Hill, New York,1960. (14) Quirk, J. and R. Ruppert, C‘Qualitative iaTconomics and the Stability of Equili briam,” Review of Economic Stndies, Vol, 32 (1965). pp. 311−326. 〔15〕置塩信雄,「階級闘争の一表現としてのインフレーション」,『現代経済学』所収, 筑摩書房,1977。