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21世紀卓越した情報研究拠点プログラムの目指す研究(後編):4.次世代ユビキタス情報社会基盤の形成

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(1)4. 特集 21 世紀卓越した情報研究拠点プログラムの目指す研究(後編). 特集 21 世紀卓越した情報研究拠点プログラムの目指す研究(後編). 次世代ユビキタス情報社会基盤の形成 坂村 健 東京大学大学院情報学環/学際情報学府学際情報学専攻  . 21 世紀 COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」拠点リーダー. 東京大学大学院情報学環を核として,文部科学省 21 世. う扱われたか」のログを自動的にとることで,流通の効率. 紀 COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」(平成. 化から,不良品の回収までさまざまに利用するという製. 16 ∼ 20 年度)が採択された.あらゆる分野や場面にお. 品トレーサビリティ応用.道路や建物に電子タグやビー. いて,状況認識技術によって得られたコンテキスト情報. コンを組み込むことで「どこにいるか」を各自の持つ端末. を活用して,効率的で効果的な情報サービスが実現され. が自動察知できるようにし,観光ガイドから障害者の自. る ̶そのようなユビキタス情報社会基盤の確立と,そ. 律移動の支援まで行うユビキタス場所情報基盤など,さ. のためのさまざまな課題の解決に向け,情報学を核とし. まざまな応用が考えられる.. て幅広い学際的な学問基盤を確立することが本プログラ.  このようにユビキタスコンピューティング分野の研究. ムの目的である.本稿では,本 COE プログラムの目的,. 教育を積極的に推進することの緊急性と重要性はきわめ. 研究教育内容,最初の 1 年間の研究教育活動が終了した. て高い.そこで,我々東京大学大学院情報学環が核とな. 現時点における状況について報告する.. り,ユビキタスコンピューティング技術および,それを さまざまな分野に適用する研究,さらには当該分野の人. ユビキタスコンピューティング. 材育成を行う教育のための拠点として,文部科学省 21 世紀 COE に応募した結果,採択を受け平成 16 ∼ 20 年度. 現在,状況認識技術(Context-awareness)を中核とす. の 5 年計画でプロジェクトを開始した . 1). る新しい情報分野̶“Ubiquitous Computing”(ユビ.  ところで,筆者が 1984 年に開始したトロンプロジェ. キタスコンピューティング)の研究が,世界的な大きな. クト. 潮流となっている.このユビキタスコンピューティン. これが今で言う 「ユビキタスコンピューティング」 のルー. グ. は, “Pervasive Computing”などとも呼ばれること. ツである.このように,世界に先駆けてこのコンセプト. があるが,近年情報科学の分野で重要性が認識されるよ. を掲げたのは我々であり, またこの 「どこでもコンピュー. うになってきた分野であり,大量のコンピューティング. タ」の実現のためには,組み込みコンピュータを中心と. 要素が配置されネットワークされた環境を前提にするこ. したマイクロチップやリアルタイムオペレーティングシ. とから「Ubiquitous:遍在」と呼ばれる.それらのコン. ステムが要素技術として必須であり,トロンプロジェク. ピュータ群の持つ情報,察知した情報を使い,状況を多. トでもそのような分野を基礎研究の対象としてプロジェ. 角的に自動認識させ,その状況認識を利用することで人. クトを進めてきた.その努力も一端を担っていると自負. 間に負担をかけずに最適制御を行わせるというのが,こ. しているが,組み込みシステム分野において,我が国は. のコンピューティングモデルの目指すものである.. 高度な産業基盤を有している.その進化系ともいえるユ.  このようなユビキタスコンピューティングの適用分野. ビキタスコンピューティングの分野について,十分なア. は多岐にわたり,すでに農学,医学,薬学,地理学,生. ドバンテージを持っているといえる.. 物学等の諸学問分野をはじめ,災害支援や社会安全の実.  しかし,同時にこの分野は学術分野・産業分野の双方で,. 現,国土インフラ等の国家レベルの施策への適用も期待. ロボットと並び将来の成長分野として,近年世界的に活. されている .食品や薬品を含むさまざまな商品に電子タ. 発な研究開発がなされている分野でもある.進歩の早い. グを付着し,製造から流通さらには廃棄まで通しての, 「ど. ICT の世界においてはその優位は容易に覆るものであり,. 4). 3). 502. 46 巻 5 号 情報処理 2005 年 5 月. の技術目標が「どこでもコンピュータ」であり,. 2).

(2) 4 次世代ユビキタス情報社会基盤の形成. 本分野の研究をただちに推進しなければ,今後の日本の. か.その地道で粘り強い努力が必要とされる.それは結. ICT産業の将来に大きな悪影響があると考えられる.. 局,個人情報保護法のような法制度などとして明文化す るしかないし,それに呼応することで,技術がどこまで. プロジェクトの背景. やるべきかの線引きも明確化できる.  システムの情報セキュリティもまた技術だけで防御し. Back to the real world. ようとすればするほどシステムはコストアップし使いに.  研究対象としてロボットを考える場合,その大きな特. くくなる.しかも,技術で「改ざん」などの第三者の介. 徴は機械的システムとコンピュータ的システムとの密接. 入は防止できても,そもそも元から嘘の情報を入れると. な協調が必要とされることだろう.これと同様に,ユビ. いった当事者自身による「裏切り」を防止することは原. キタスコンピューティングにおいては社会的システムと. 理的に不可能であり,その分については法的罰則といっ. コンピュータ的システムとの密接な協調が必要される. た社会制度的な防止策以外に道はない.. ところに,その大きな特徴がある.組み込みからさらに.  たとえば直近の問題として,食品トレーサビリティ. ロボット,ユビキタスと,コンピュータシステムがより. などで,食品からその履歴情報を取り出すといった場合,. 現実世界の中に出ていくにつれ,その課題の中に占める. 「国産」など紙のシールで商品に貼った内容について嘘. 純粋電子工学的な要素の比重は相対的に下がる傾向にあ. があれば不当表示として罰則がある.しかし,食品につ. るといってもよいだろう.これはまさにユビキタスコン. けられた電子タグから読み出した識別番号を使いネット. ピューティング研究の標語の 1 つであるところの“Back. ワークアクセスで行う情報表示 ̶ つまり関係性が物理. to the real world”が示すように,現実世界との連携部. 的に固定的でない表示において嘘をつくことに関する罰. 分に研究の重心が移動していることを示している.. 則が現状では存在しない.これは,法律がこのような間.  従来の情報科学の研究においては,インターネット. 接アクセス的でネットワーク外部化された情報表示とい. に代表されるように,ホワイトハウスも地元の商店街も. うケースを想定していないためであり,ユビキタスコン. ともにワンクリックでアクセスできる世界 ̶つまりは. ピューティングを信頼するものにするためにはぜひ解決. 現実世界の物理距離などの制約を超越した論理世界の構. しないといけない課題となっている.. 築をその主眼としてきた.しかし,たとえば自律ロボッ.  このように,現実社会密着型の巨大システムでは,技. トが歩くとなれば,重力,路面の摩擦,モーターのトル. 術設計と同程度か,それ以上に運用や法制度を含む制度. クなどなど物理・機械的制約への対応がその主眼となる.. 設計が重要である.さらに言えば技術の課題を制度が埋. さらに歩くのが公道であれば,交通関係の法規など多く. め,制度ができることで技術要求が定まるというように,. の社会ルールも視野に入れなければならない .. この 2 つの設計が車の両輪のように働かない限り,望ま. 5). 技術設計から制度設計へ. しいユビキタスコンピューティング社会は実現できない といえるのである..  ユビキタスコンピューティングはいうなれば,環境 が状況を察知して自律的に反応して人間を助けてくれる ̶ つまりは,環境全体のロボット化といってもいい.. プロジェクトの目的. 当然,物理的環境の状況の察知から社会ルールへの対応.  ユビキタス情報社会を実現するには,情報科学が両輪. に ̶ さらにはユビキタスコンピューティングが一般. のハブになるにしても,比重的には計算機科学や認知科. 化するにあたって社会ルールがどのようになっているべ. 学,社会情報学,経済学,法学,社会学,歴史学,文化. きかといった制度設計にまで踏み込む必要がある.. 研究など多くの分野が関係する学際的研究が必須である..  たとえば,状況を自動察知するというユビキタスコン. また,研究のさらなる発展,またユビキタス情報社会の. ピューティングシステムは強力な「監視システム」にも. 実際の運用を考えても,従来型でない学際的な教養を持. 転用できる可能性を持っている.しかし,不安なことの. ち,さらにそれを現実に応用できる人材が多く必要であ. 多い昨今,監視カメラ問題でもいわれているように,子. る.そのため,ユビキタスコンピューティングに関して. 供を犯罪から守るなどの点で「監視すなわち悪」と言い. 多様な観点から学際的に研究を行うとともに,そのよう. 切れる社会情勢ではない.現実は「市民対権力」のよう. な研究現場と密接しながら新しい学際応用型の人材の教. な単純な構図ではない.ここで望まれるのは「全体でみ. 育や学際型の研究者の養成を行う統合的な研究拠点とし. た 場 合, 望ましくないことを 最 小 化するにはどうする. て,COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」を設. か」といった「程度の問題」 .そのバランスについて,い. 立することとなった.. かに多くの人の同意を得る落としどころを明示的に探る IPSJ Magazine Vol.46 No.5 May 2005. 503.

(3) 特集 21 世紀卓越した情報研究拠点プログラムの目指す研究(後編). 研究. アルタイムシステム,組み込みシステムなどの基盤情報.  ユビキタスコンピューティングにおいては当然基礎技. 技術の研究を実施する.さらに,こうした要素技術を組. 術研究も制度面での研究も必要であるが,全体が社会規. み合わせて社会レベルの巨大システムを構築するための. 模の巨大システムともいえるものであり,多様な基礎技. トータルアーキテクチャの研究を最重要視する.. 術を組み合わせてシステムを構築してみないと全体イ. ■社会適用研究. メージが見えない.そのために本プロジェクトでは応用.  ユビキタスコンピューティング技術を社会基盤とする. 研究を行い,積極的に実証実験を行っている.. 際の社会的課題についての研究も行う.ユビキタス社会.  実証実験の結果は実運用時の課題を明確にする.運. におけるセキュリティポリシーや IPR ポリシーといった. 用サイド ̶さらには社会との関係を持ち,設計時から. 方針レベルから,技術的な限界やコストの現実性などを. 利用者の意見を広く取り入れることで,技術設計や制度. 前提にしたあり得べき運用体制の指針,さらに,それら. 設計に対するフィードバックを与える.またこれにより,. を前提としたときの責任分界点や,必要とされる法制度. 実現イメージを広く知ってもらい社会的なコンセンサス. などの,制度設計的問題を検討し,最終的には政策提言. 醸成のための働きかけとなるとともに,研究の説明責任. を行うことを目指す.. の一環としても重要な意味を持つと考えている.. ■応用技術研究.  ユビキタスコンピューティングの基礎自体は,広く応.  ユビキタスコンピューティングの状況認識技術を,他. 用できるユニバーサルな汎用情報インフラとして設計す. のさまざまな分野に適用する応用研究を実施する.たと. ることがポイントである.そうでなければ社会コスト的. えば,農学分野に適用する食品トレーサビリティ研究,. に成り立たない.たとえば,電話は「救急車を呼ぶ」こと. 医薬分野に適用する医薬品のトレーサビリティや医薬品. にも使えるし「友達と無駄話をする」ことにも使える汎用. の適正利用支援システム研究,交通分野に適用したユビ. のインフラである.これが「救急車を呼ぶ」ことにしか使. キタス場所情報システム研究,博物館・美術館に適用す. えない専用インフラであれば成り立たなかったであろう. るディジタルミュージアムなどの応用分野であり,これ. ことは容易に想像できる.しかし, このような目的のはっ. らの研究に対して, 各種分野の研究者と連携して取り組む.. きりしない汎用インフラであるからこそ,明確な応用イ メージを持って開発しないと課題が見えてこないし,社. 教育. 会的な認知も得られなければ意見を言ってもらうことす.  従来型の教育を十分に行うことがまず前提ではあるが,. らできなくなる.. さらにユビキタス情報社会という新しい前提を置いて考.  電話で「いたずら電話」や「オレオレ詐欺」が問題に. えた場合の新しい教育課題に対応するため,以下のよう. なるというということが予見できなかったから,電話シ. な教育を行う.. ステムには発信者認証の機能が薄く,あとからナンバー.  まず,運用面の人材教育として,深いシステムに対す. ディスプレイ機能の追加という事態になった(それでも. る理解を前提とした上で,システムから得られる情報を. 偽装の可能性がとりざたされている) .これは技術的対. 分析・統合し,単なる断片的「情報」でない総合的「状況」. 応だが,同様に無言電話といった被害により,ストー. として把握し,その状況をもとに戦略を立てて対応でき. カー防止法といった制度的対応が必要になった.イン. る人材を教育することを目指す.ユビキタスコンピュー. ターネットでもメール発信に関する正当性の認証機能が. ティング分野の状況認識技術を研究開発することにより,. 薄かったために,現在大きな問題になっている.. 実世界に関してより多くの情報をすばやく得るための手.  社会により密着するユビキタスコンピューティングで. 段が確立されるが,そのせっかくの豊富な情報を活かす. は社会に対する影響もより大きく,また被害も短期間に. 面において大きな人材面での課題が我が国にはあるため. 極大化することが十分考えられる.そのため,電話やイ. である.必要があるにもかかわらず,これらの広い知見. ンターネットの轍を踏むことなく,それらでの失敗を参. を必要とする,「情報」から「状況」への統合・分析,そ. 考に,考えられる問題はぜひ避けるように,技術・制度. の「状況」に対応するための戦略立案といった,まさに. 両面での設計がなされなければならない.そのためにも,. 応用分野における学際はいまだ体系化・学問化されてお. 応用研究を基礎研究と並行して,それを社会にオープン. らず,属人的・経験知的なスキルに任されている.日本. にし広く周知を集め相互にフィードバックして進めると. にとって,せっかくの進んだ情報技術の進歩を災害や大. いう, 21世紀型の新しい研究スタイルが望まれるのである.. 規模テロなどの有事への対策に適用することは急務であ. ■基礎技術研究. る.この認識に基づき,情報応用側の体系化・学問化̶.  ユビキタスコンピューティングにおける状況認識技. さらには,そうした資質を持つ専門家の育成を基礎的研. 術の核となる,超小型 RFID やセンサネットワーク,リ. 究開発と並行し実施する.. 504. 46 巻 5 号 情報処理 2005 年 5 月.

(4) 4 次世代ユビキタス情報社会基盤の形成. 若手研究者の育成. 総括.  本拠点では,次の点に着目して若手研究者が活躍でき.  坂村 健:教授(拠点リーダー)/吉見俊哉:教授(拠. る場の提供を行う.日本ではトータルな研究が弱いとい. 点リーダー補佐)/石崎雅人:助教授(総括調整)/. われるが,ユビキタスコンピューティングにおいて求め. 越塚 登:助教授(総括調整). られるのは,まさにこのトータルな視野である.個別最. ユビキタス情報コンテンツ形成プロジェクト. 適はうまいが全体最適が下手といわれる我が国の専門家.  馬場 章:助教授/橋本良明:教授/石田英敬:教授. 教育のミスマッチが問題となる.アメリカでは,月に人. /西野嘉章:教授(総合研究博物館). を送るような,目的達成型のプロジェクト運営がうまい. ユビキタス情報技術研究プロジェクト. が,これは研究者を若いときから,スケールの大きいプ.  坂村 健:教授/原島 博:教授/河口洋一郎:教授. ロジェクトに参加させることにより得られる経験による. /中川裕志:教授(情報基盤センター)/清水謙多郎:. ものとも言われる.そのため,個別テーマだけを追わせ. 教授(大学院農学生命科学研究科)/石崎雅人:助教. るのでなく,大きなシステムの中での各自の位置をいつ. 授/越塚 登:助教授(情報基盤センター)/大石久和:. も意識させるような研究を行っている現場に立ち合わせ. 特任教授/井村 亮:特任教授/小川克彦:特任教授. ることで,このような人材をできるかぎり実践的かつ早. ユビキタス情報社会国際研究プロジェクト. 急に育成することを目指す..  吉見俊哉:教授/西垣 通:教授/濱田純一:教授/ 須藤 修:教授/佐倉 統:助教授/水越 伸:助教. プロジェクト実施の体制  本拠点が取り組む研究教育分野は,情報技術を中心と してあらゆる 分 野に 影 響を 及ぼし, しかもその 技 術に. 授/林 香里:助教授. 平成 16 年度の活動. よって得られる情報を活用するためにも,広い視野によ. 基盤技術研究. る総合的な知識が必要であり,大学院情報学環・学際. ■センサネットワークノード. 情報学府に本拠点を設置することとした.情報学環は.  ユビキタスコンピューティング環境を構成する超小型. 2001 年に作られた東京大学における最も新しい大学院. ノードとして,RFID と並んで代表的なものが,センサ. 研究科で,当初より学際的な研究を行うための場を目指. ネットワークのノードである.センサネットワークノー. し,学環所属の少数の基幹教官と他の研究科や研究所か. ドは,各種センサと無線ネットワークを搭載し,観測し. ら 3 ∼ 5 年間の任期で加わる流動教官とで構成される組. たデータを無線通信で送受信する.我々は,形状として. 織となっている.流動教官の制度はタスクオリエンテッ. 特にコインサイズまたはそれ以下のサイズになるアーキ. ドに才能をプロジェクトに加えられるという意義と,学. テクチャに着目している.そのためプラットフォームに. 際研究の経験を持った人間が任期後に元の所属に戻るこ. は pT-Engine(pico T-Engine) を利用し,300MHz 帯. とで,学内に学際を理解した人的ネットワークができて. の微弱無線通信や UWB 等による低消費電力型の PHY. いくという効果が望まれている.繰り返しになるが,ユ. 層上で動作するセンサネットワークに適した MAC 層プ. ビキタスのような研究はコンピュータの基礎技術研究だ. ロトコルの研究や,これらの通信システムやセンサから. けでも, 制 度 研 究だけでも, 応 用 研 究だけでもうまく. の入力を制御するための超小型の組み込み OS などの研. いかない.その意味で,それらの人材が協力して研究で. 究を進めた.. きる場としてデザインされた学環こそが,まさにハブと. ■ヒューマンインタフェース. なって他の専攻科と連携するのに最適な組織形態を持っ.  ユビキタスコンピューティング環境では,あらゆる. ているといえる.. 人々がサービスを利用するため,ヒューマンフレンド.  現在,本研究拠点は,東京大学大学院情報学環の教. リーなインタフェースが不可欠である.一方,状況情報. 員を中心として,計算機科学から社会科学,人文科学. を活用しながら人間に対して情報サービスを行うユビキ. の分野の研究者 19 人を結集している.さらに活発に研. タスコンピューティング環境では,ヒューマンインタ. 究を推進するために,特任助手 3 名,研究補助員を 4 名,. フェースも状況情報を利用し,ユーザの最小限の意思表. 技術補佐員 1 名などを採用した.またユビキタスコン. 示で ̶たとえば入力機器を用いた明示的な入力動作を. ピューティングの多様な基盤技術や応用技術をカバーす. 行うことなくインタフェースがとれることが望ましいと. るために,下記のように非常勤の特任教授に就任いただ. 考える.そこで, 我々は, ユーザの発話の音声認識をベー. いている.. スとして,さらにそのユーザがいる位置や向いている方. 6). 向,部屋の中の明るさ,機器の稼働状況といったコンテ IPSJ Magazine Vol.46 No.5 May 2005. 505.

(5) 特集 21 世紀卓越した情報研究拠点プログラムの目指す研究(後編). キスト情報を活用するユーザインタフェース技術の研究. 適用した実証実験も行っている.. を行っている.. ■医薬品トレーサビリティ. ■組み込みリアルタイムソフトウェア.  東京大学医学部附属病院,三菱ウェルファーマー等.  ユビキタスコンピューティングの小型ノードで利用. の 6 組織が,電子タグ医薬品流通ワーキンググループを. するため,サイズが小さく応答性能の高いスモールフッ. 設立した.そこでは,主に血液分画製剤等を対象として,. トプリントのリアルタイムカーネルの研究を行ってい. 工場から病院,病室にいたるまでの物流チェーンをト. る.すでに,我々の研究チームが開発したリアルタイム. レースするシステムを開発し,実際のフィールドによる. カーネルには,ITRON や T-Kernel がある .現在,さ. 実証実験を実施した. 非常に小さい薬剤に, 個体識別コー. らにこれらのカーネルを,携帯電話や PDA といった比. ドを格納した小型の RFID を貼り付け,その生産・流通. 較的高機能な組み込み機器に適用し,さらにワンチップ. に関する情報を,その識別コードと紐つけられたデータ. マイコンレベルの制御用コンピュータや,センサネット. ベースレコードに格納している.生産,流通の各段階に. ワークノードにも利用できるように研究開発を進めてい. おいて,これらのデータをチェックし,さらに発生した. る.また小型化のためのカーネルの適応化・最適化を行. 情報を上書きしていくことによって,医薬品のトレーサ. うことが必須であり,この適応化・最適化を自動的に行. ビリティが実現できる.本年度は,実際の医薬品の工場. うための研究も進めている.. から,卸売業者,病院薬剤部,病室にいたるまでの医薬.  ユビキタスコンピューティングを社会に浸透させる. 品のチェーンをトレースする実証実験を行った.これに. ためには大量のソフト開発がさらに必要であり,ソフト. より,生産過程や流通過程において何らかのトラブルが. ウェア生産性の向上が要求される.そこで,組み込みソ. 発生し,医薬品に危険性が生じた場合でも,その被害範. フトウェアを流通・再利用可能にし,それをセキュアに. 囲を特定し,すみやかにピンポイントで回収薬剤を特定. 実行するためのメカニズムの研究を進めている.. することが可能になる.. 6). ■食品トレーサビリティ. 実証実験.  食品トレーサビリティとは,「生産・処理・加工,流.  実証実験では,ユビキタスネットワーキング研究所な. 通・販売のフードチェーンの各段階で,食品とその情報. どとも協力し,できるだけ多くの省庁,企業,組織と連. を追跡し遡及できること」である.これには,食品の生. 携をとるかたちで進めている.我々の実証実験は,基礎. 産履歴や流通履歴を正確に把握し,その情報を消費者が. 研究へのフィードバックを目指したものであると同時に,. 追跡するトレーシング(tracing)と,逆に事故の発生後. より広く認知され,多くの意見を吸い上げコンセンサス. に,原因と被害範囲をすばやく特定するトラッキング. 醸成の一助となることを目指している.. (tracking)が含まれる.食品の物流量は膨大であり,食. ■場所情報システム. 品トレーサビリティは,低いコストで効率的に実施でき.  現在,国土交通省を中心として警察庁,総務省,厚生. ることが不可欠である.そこで,大量の情報管理を効率. 労働省,農林水産省,経済産業省などの省庁連携の下に,. 的に行うためにユビキタスコンピューティング技術が期. 60 社以上の企業サポーター企業,20 以上の自治体サポー. 待されている.. ターとともに「自律移動支援プロジェクト」 という,.  農林水産省,三越,京急ストアなどと共同で,食品の. ユビキタスコンピューティング技術を,場所に関するコ. 生産段階,加工段階,流通段階,店舗段階,消費段階の. ンテキストアウェアな情報サービスを行うための基盤と. 各段階において,食品情報を扱うシステムを構築し,実. する研究を行っている.この自律的移動支援プロジェク. 際のフィールドに適用して,その有効性等を検証する実. トでは,すべての人が持てる力を発揮し,支え合って構. 験を行っている.たとえば生産段階では,農薬や肥料に. 築する「ユニバーサル社会」の実現を目指して,社会参. RFID を取り付け,いつどこに何を散布したかといった. 画や就労などにあたって必要となる「移動経路」 ,「交通. 記録を,携帯型端末(UC)を使って簡便にとることがで. 手段」 , 「目的地」などの情報について, 「いつでも,ど. きる.また流通段階においても,パレットや運送用の通. こでも,だれでも」がアクセスできる環境の構築を目的. い容器等に RFID やセンサタグを取り付け,流通記録を. としている.そのためには,出発地から目的地までの移. 効率的に処理したり,また輸送中の品質管理に利用して. 動手段・移動経路に関する情報提供,移動途中の緊急時. いる.店舗でも, 棚の商品にバーコードや2次元バーコー. の支援情報,目的地周辺の標識・案内情報,目的の施設・. ド,RFID などのタグをつけて,携帯型端末や携帯電話. 空間内の情報,一連の自律的移動を支援する汎用的な場. で ID を識別し,その食品の履歴情報を閲覧することが. 所情報システムが重要である.そのために必要な基盤技. できる.また,自宅にその食品を持ちかえっても,携帯. 術の研究開発とともに,実際にその技術をフィールドに. 電話やインターネット接続された PC を使って同様の情. 7). 506. 46 巻 5 号 情報処理 2005 年 5 月.

(6) 4 次世代ユビキタス情報社会基盤の形成. 報を見ることができる.不幸にもいったん事故が起これ ば,この食品データベースを検索して,被害範囲を特定 し,どの食品を回収すべきかを判別できる. ■複写機トナーの物流管理実験  2004 年 11 月から 2005 年の 1 月にかけて RFID を 使 っ たユビキタス情報サービスの適用実験を,富士ゼロッ クス,ユビキタス ID センターと共同で実施した.富士 ゼロックスが東京大学・本郷キャンパスに配しているコ ピー機器およびそれらに供給するトナー等の消耗品に RFID タグを貼り,モノとその流通情報を一括報管理す ることで,消耗品の供給や回収の物流業務の効率を向上 させること,回収率を向上させることによる環境の保護 や資源の有効利用への貢献を目指した.. 図-1 第2回シンポジウムの様子. COE シンポジウム  研究の課題を抽出したり,また基盤技術の研究成果を. 的な技術体系である.こうした技術が,世の中の隅々ま. さまざまな分野の専門家に評価してもらい,基盤技術研. でに行きわたるユビキタス情報社会の実現に向けて,本. 究にフィードバックする場として,21 世紀 COE シンポ. 研究拠点が世界的なリーダーシップを発揮できるように,. ジウムをほぼ月1回の頻度で,開催している.シンポジ. さまざまな分野の専門家の方々と連携しながら本プロ. ウムは,本プロジェクトの重視する説明責任,社会的認. ジェクトを遂行していきたい.そして,5 年間の研究期. 知の獲得,さらには社会的コンセンサスの醸成に関して. 間の終了後にも,東京大学大学院情報学環に世界トップ. 大きな役割があるものである.. レベルのユビキタスコンピューティングの教育研究拠点.  今年度は,都合 5回のシンポジウムを実施した.特徴は,. が継続されるようにしたいと考えている.. 第 1 回目の設立記念シンポジウム以外は,すべてユビキ.  5 年プロジェクトで,1 年しかたっていないにもかか. タスコンピューティング技術を利用する応用分野や社会. わらず,すでに多くの成果が出始めており,シンポジウ. 分野との共同テーマで開催したことである.2回目は,国. ムにも数千人の人に参加いただき,研究を社会へフィー. 土交通省と共催し,国土のさまざまなところに RFID や. ドバックしそれをきっかけに多くの活動のハブとなると. センサネットワークノードを埋め込み,ユビキタスコン. いう新しい大学像を提示できていると評価している.今. ピューティングをベースとした社会インフラを構築する. 後ともこの研究・応用・周知・フィードバックというサ. ことをテーマとした.3回目は,こうしたユビキタスコン. イクルを進展させていきたいと考えている.. ピューティングの社会インフラを利用して,身体障害者 をどのように支援するかといったことをテーマとし,実 際に身体障害を持つ方々に多く参加していただいた.第 4 回は,ユビキタスコンピューティング技術を食品分野に 適用して,今社会的問題となっている,食の安心・安全 に役立てることをテーマとした.第 5 回は,ユビキタス コンピューティング分野では最も重要な要素技術の 1 つ である,セキュリティやプライバシー保護問題をテーマ とした.特に,4月より日本では個人情報保護法が施行さ. 参考文献 1) 「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」研究拠点 Web ページ , http:// www.ubinsoc.org/ 2)坂 村  健 :TRON プ ロ ジ ェ ク トの 15 年 , 情 報 処 理 , Vol.40, No.3, pp.216-222 (Mar. 1999). 3)坂村 健 : ユビキタス,TRON に出会う:『どこでもコンピュータ』の 時代へ , NTT 出版(2004). 4)坂村 健 : ユビキタス・コンピュータ革命:次世代社会の世界標準 , 角 川 One テーマ 21, 角川書店 (2002). 5) 坂村 健 : 21 世紀日本の情報戦略,岩波書店(2002). 6)T-Engine フォーラム Web ページ,http://www.t-engine.org/ 7) 自律移動支援プロジェクト Web ページ,http://www.jiritsu-project.jp/ (平成 17 年 3 月 22 日受付). れることもあり,情報法分野の専門家とともに,こうし た社会的・法的問題にも焦点を合わせて議論を行った.. 新しい大学像を  本研究拠点は,去年度よりスタートしたばかりである. ユビキタスコンピューティングはインターネット同様に, あらゆる分野で利用される社会インフラとなり得る汎用 IPSJ Magazine Vol.46 No.5 May 2005. 507.

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