1.は じ め に
数百 kg から数トンに及ぶ従来の大きな人工衛星を超 小型化・低コスト化する技術として,近年,数十 kg 以内, 数億円以内の地球周回の超小型人工衛星が,大学やベン チャー企業を中心に研究・開発・軌道上実証され,実用 的なレベルに達しつつある.この程度の小さい規模の衛 星であれば,多少の失敗があってもそれを乗り越えて高 頻度に新しいミッションや技術実証に挑戦していこうと する正のフィードバックがかかるため,今後さらに超小 型衛星が利用されていくことが期待される.一方で,地 球周回ではなく深宇宙探査ミッションの世界は,依然と して大型化・高コスト化*1・低頻度化の傾向にある.そ して,それに伴い今後起こると想定されるのは,挑戦的 な技術実証ミッションの頻度が低下し,さらに,この低 頻度化・高コスト化傾向が,失敗を恐れることによりさ らに高コスト化を招くという悪循環である.これを解消 するためには,数億円以内の規模で意味のある深宇宙探 査ミッションができるようにし,地球周回衛星と同様に 小規模・低コストで挑戦的なミッションを高頻度に実施 できるようにする必要がある. そこで,著者ら東京大学および JAXA 宇宙科学研究 所を中心とするグループは,50 kg 級の低コストで短期 開発可能な超小型宇宙機により深宇宙探査ができること を実証することを目的として,超小型深宇宙探査技術 実証機 PROCYON(プロキオン)(PRoximate ObjectClose flYby with Optical Navigation)を開発している. PROCYONは,2014 年 12 月に小惑星探査機はやぶさ 2 との相乗りで惑星間軌道へ打ち上げられる予定である. 本稿では,PROCYON のミッション概要と,そこで 用いられる予定の自動化・自律化技術について紹介する とともに,将来的に宇宙機(特に深宇宙探査機)に求め られる知能化技術についての展望を述べたい.
2.PROCYON のミッション概要
図 1 に,PROCYON のミッションシーケンスの概略 を示す.2014 年 12 月に,はやぶさ 2 と同じ惑星間軌道 に打ち上げられた後,超小型電気推進エンジンを用いて 軌道制御を行い,打上げから 1 年後の 2015 年 12 月に超小型深宇宙探査機
PROCYON
(プロキオン)
の
ミッションと自動化・自律化技術について
Mission of Small Deep Space Probe“PROCYON”and Its Autonomous
Operation Technology
船瀬 龍
東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻Ryu Funase Department of Aeronautics and Astronautics, The University of Tokyo.
[email protected], http://wwww.space.t.u-tokyo.ac.jp/
滝澤 潤一
(同 上)Jun’ichi Takisawa [email protected], http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/
Keywords:
small deep space probe, asteroid flyby, autonomous operation, verification and validation. 「宇宙に挑む人工知能技術」*1 海外の深宇宙探査機であれば数百億円以上,一般に低コスト といわれている日本の深宇宙探査機でも 100 ~ 200 億円以上の
規模の開発費になることが多い. 図 1 PROCYON のミッションシーケンス概要
地球スイングバイ*2を行う予定である.地球スイングバ イを経て小惑星(はやぶさ 2 の探査ターゲット天体であ る 1999JU3 とは異なる)をフライバイする軌道へ投入 した後,航法カメラを用いた光学航法により小惑星に接 近し,フライバイ時に小惑星の高分解能画像を取得する. PROCYONは,大きく分けて二つの工学技術実証ミッ ションを行う.一つは,50 kg 級超小型深宇宙探査機バ ス*3の実証ミッション,もう一つは,通信系やミッショ ン系などの各種深宇宙探査技術の実証ミッションであ る.以下,それぞれのミッションの概要・意義について 紹介する. 2・1 超小型深宇宙探査機バス技術の実証 50 kg級,開発費 5 億円以下の深宇宙探査機バスを開 発し,惑星間軌道(深宇宙環境)において宇宙実証を行う. 近年,地球周回の人工衛星の世界においては超小型衛 星が開発・実用化されてきており,超小型衛星を構成す る基本的な搭載機器の多くが国内で短期に入手できる状 況になってきている.本ミッションでは,それらの地球 周回衛星向けの小型の機器の中で深宇宙環境においても 使用可能なものは最大限流用することにより,開発リス クを極力低減している.ただし,通信系については,地 球周回衛星と比較して地球との間で超遠距離の通信が必 要になること,推進系については,深宇宙環境における 姿勢・軌道制御用アクチュエータが地球周回の超小型衛 星で用いられる構成とは異なることから,深宇宙探査向 けに PROCYON プロジェクト独自に小型の通信系 [小林 13a]・推進系 [稲垣 13] の開発を実施している. PROCYONは,打上げから数か月程度の間に,上記 新規開発機器も含めて,発電・熱制御・通信・姿勢制御・ 軌道決定・軌道制御などの深宇宙探査バス技術実証実験 を行う予定である. 2・2 GaN 半導体を用いた高効率 X 帯固体電力増幅器 の実証 深宇宙環境において地球との超長距離の通信を行うに あたっては,いかに効率良く電波を増幅・放射できるか, すなわち,電力増幅器への入力電力に対してどれだけ多 くの出力電力を得られるか(どれだけ熱損失となる電力 を減らすことができるか),という電力増幅器の効率が最 も重要な課題である.従来の深宇宙探査ミッションにお いては,高出力・高効率を得たい場合には進行波管を用 いた増幅器(TWTA)が用いられてきたが,サイズ・重 量の観点で超小型衛星(探査機)への搭載は難しい.一 方で,半導体を用いた固体増幅器は,小型・軽量ながら, 宇宙実績のある GaAs(ガリウムヒ素)を用いたものは 効率が 20%強しかなく,入力電力の大部分が熱になって しまう.高効率な固体増幅器を実現することにより,超 小型探査機への搭載可能性を確保しつつ,深宇宙におけ る限られた電力を有効に活用することが可能になる. GaN(窒化ガリウム)デバイスは,Si(シリコン), GaAsを用いた高出力増幅器に比べ高出力・高効率性能 が期待でき,比較的低い周波数帯では実用化レベルに達 している.また,GaN デバイスは,優れた耐放射線特 性が確認されており,宇宙環境での使用に適していると 考えられる.そこで,PROCYON ミッションでは,こ れまで JAXA で実施されてきた研究成果 [Kobayashi 13b]を応用して,総合電力効率 30%以上の高効率な GaN固体電力増幅器を開発し,世界初の宇宙実証を行 う計画である.本技術は,探査機の小型・軽量化に資す る技術であり,将来のより実用的な深宇宙探査機への応 用が期待されるものである. 2・3 小惑星に対する超近接フライバイ観測技術の実証 従来の小惑星探査ミッションは,探査機が小惑星近傍 を通過する際に遠距離から低分解能で観測するフライバ イ観測と,より高解像度での観測を目的としたランデブ 観測(小惑星に対して探査機が相対的に静止し,探査機 が小惑星に接近あるいは着陸することにより高分解能画 像を得る観測)のどちらかであった.ランデブ観測を実 現するためには探査機に大きなΔV(軌道の速度制御(加 減速)の量)発生能力が求められるため,1 回のミッショ ンで多数の小惑星を訪問することは搭載燃料量の観点で 難しい.一方で,フライバイ観測は,探査機を小惑星に 対して静止させるための大きな軌道変更ΔVが必要ない ため,軌道のタイミングさえ合えば複数の小惑星を順に 訪問するマルチフライバイ探査が可能であり,より多様・ 多種類の小惑星についての知見を 1 回のミッションで得 ることができる. PROCYONミッションでは,従来は遠距離からの低 分解能観測しか行われてこなかったフライバイ観測にお いて,高分解能観測を可能にする技術を実証し,マルチ フライバイによる多数の天体探査と高分解能探査の両 立,すなわち,観測の量(訪問天体のバラエティ)と質(観 測分解能)の両立を可能にすることを目指している. 具体的には以下に示すような技術を今回のミッション で実証する計画である.小惑星を高速でフライバイする 際に,電波航法とカメラによる小惑星相対の光学航法を 併用することで,数十 km の至近距離まで接近するパス を 10 km/s 程度の相対速度で高速に通過する.そして, 小惑星最接近時に至近距離から高分解能の画像を撮影す る.小惑星最接近時には,小惑星に対する距離が短く, フライバイ時の探査機に対する小惑星方向の時間変化率 が大きいため,重い(慣性モーメントの大きい)探査機 本体の姿勢を変更するのではなく光学系自身の視線方向 を振る方針を採用している.具体的には,駆動鏡をもっ た光学系を搭載し,機上の画像フィードバック制御によ *2 地球の重力を利用して探査機を加速させる軌道操作手法. *3 人工衛星や探査機の基本機能部分を「バス」という.
り駆動鏡の角度を変更し,小惑星方向を自動的に追尾す る [細沼 13].図 2 にフライバイ時の視線追尾制御の概 要を示す. 光学系の視線方向を機上画像フィードバックで高速に 変更して対象を追尾する超近接・高速フライバイ観測技 術は,はやぶさなどのランデブミッションでの低相対速 度での近接観測技術とは全く異なる技術であり,また, 海外での従来の小天体フライバイ探査ミッションと比較 しても 1 桁以上近い接近距離を目指しており [細沼 13], 高い新規性を有するものである.
3.PROCYON における自動・自律機能
他の深宇宙探査ミッションと同様に,地球の重力圏を 脱出し遠くへ飛行する深宇宙探査ミッションにおいては, 地球との通信に用いる電波の往復伝搬遅延時間の存在か ら,その運用は,すべてを地上で監視し地上から指令す ることは非効率かつ即応性がないため危険であり,一部 の機能は探査機側の自動・自律機能によって実現されて いる.本章では,まず,PROCYON のシステム構成を示 す.次に,それを参照しながら PROCYON ミッション に用いられている自動・自律機能について紹介する. 3・1 PROCYON のシステム構成 PROCYONのシステム構成を図 3 に示す.PROCYON は,電力を発生・蓄積し各搭載機器へ電力を分配する電 源系,探査機各部の温度環境を制御する熱制御系,探査 機の姿勢や軌道を計測・制御する姿勢軌道制御系,地球 との通信を行う通信系,小惑星観測などを実施するミッ ション系,これらすべての系の動作を管理する OBC (On-Board Computer:搭載計算機)から構成されている. PROCYONでは,東京大学を中心として進めてきた 内閣府最先端研究開発支援プログラム「日本発のほどよ し信頼性工学を導入した超小型衛星による新しい宇宙開 発・利用パラダイムの構築」(通称:ほどよしプロジェ クト)[Nakasuka 11] で開発済みの超小型衛星向けバス 機器を最大限活用したシステム構成を採用している.シ ステム構成の核となる電源系・OBC・姿勢軌道制御系 (一部)については,ほどよしプロジェクトで開発した 衛星(ほどよし 3 号機・4 号機)の構成をほぼそのまま 図 2 小惑星の超近接フライバイ観測のイメージ図 十 図 3 PROCYON のシステムブロック図流用している.通信系,姿勢軌道制御系(一部),ミッ ション系については,PROCYON 向けに新規開発して いる.通信系は,これまで JAXA 宇宙科学研究所とほ どよしプロジェクトで研究開発してきた通信技術を活用 して,小型ディジタルトランスポンダ(中継器),GaN を用いた高効率固体電力増幅器,超軽量アイソフラック ス LGA(低利得アンテナ),送受共用広帯域平面 MGA (中利得アンテナ)・HGA(高利得アンテナ),低損失 BPF(バンドパスフィルタ)・DIP(ダイプレクサ)の 開発を進めている [小林 13a].推進系は,ほどよしプロ ジェクトで開発済みの超小型電気推進システムに,姿勢 制御用のコールドガスジェット系を追加したシステムを PROCYON用に開発している [稲垣 13].ミッション系 としては,2 章で紹介したような,視線追尾機能をもっ た小型の光学系システムの開発を行っている [細沼 13]. 3・2 PROCYON の自動・自律機能 前節に示したとおり,PROCYON は,探査機内部の すべての機能の制御を,OBC がトップとなって管轄す る中央集権的なシステム構成となっている.OBC には, 接続される機器(SS(太陽センサ)などのセンサや RW(リ アクションホイール)などのアクチュエータ)からの情 報が集約され,OBC の搭載ソフトウェアの判断により, 一部の機能(動作)が地上を介することなく実行される 仕組みになっている.PROCYON で必要となる自律機 能としては,例えば以下のような機能が想定されている (いわゆる「姿勢制御」などのローカルなフィードバッ クループで行われる自律制御は除く).
● UVC(Under Voltage Control)機能
姿勢異常などの理由で太陽電池の発生電力が不足 し,バッテリからシステムへ電力を供給する状態が 継続した際に,バッテリを過放電から保護するため に一部の機器への電源供給を自動的に切断して負荷 電力を下げる機能 ● セーフホールド機能 搭載機器などに異常が発生して正常な運用が継続で きない場合に,電力・熱などの観点で安全な姿勢に 自動的に移行し,地上からのコンタクトを待つ機能 ● アンテナ切換え機能 機器の誤動作や地上からの誤操作などによって,探 査機が地上と通信するために使用するアンテナとし て地球方向とは異なる方向を向いたアンテナを使用 する設定になり,通信が確立できない状態が長時間 継続した場合に,自動的に別方向のアンテナに切り 換えて通信を試みる機能 上記のような自律機能は,打上げ前に要求を把握し ている範囲であれば数は限られているため,ハードコー ディングして実装することは原理的には可能である.し かし,想定していなかった事象が打上げ後に判明し,新 たな自律機能が必要となるケースは過去の衛星ミッショ ンでもよく観測されているため,打上げ後も比較的簡便 に書き換える(更新する)ことができるような形で自律 機能を実装しておくことが一般的に行われている [大島 03]. PROCYONでは,探査機内で発生する異常な状況を 記録・保存する「アノマリ記録機能」と,記録されたア ノマリに応じて適切な動作をトリガーする「アノマリ処 理機能」によって,自律機能が実現されている. 「アノマリ記録機能」は,複数のアプリケーションで 構成される搭載ソフトウェアが動作する中で,検知した 任意の事象をキューに登録する機能である.登録する内 容は, ● 事象の発生時刻 ● 事象の ID (どのアプリケーション内で(アプリケーション ID),どのような事象(ローカルアノマリ ID)が発 生したかの組合せ) である.探査機内部の処理は姿勢制御のような周期的な 処理が基本となるため,同一 ID のアノマリが連続発生 する可能性が高い.この際に記録キューが飽和してしま うのを防ぐため,ランレングス符号化を用いて同一 ID のアノマリ発生情報を圧縮して記録している. 「アノマリ処理機能」は,上記アノマリの記録と, ● 対象事象(アノマリ処理を実施する事象の ID) ● 判定条件 (連続して N 回同一事象が発生した場合,累積で N 回同一事象が発生した場合,などコマンドをトリ ガーするために成立すべき条件) ● トリガーするコマンドもしくはコマンドのシーケンス が登録されたテーブルを定期的に参照し,発生した事象に 対応する適切な動作(コマンド)を自動的に発行する機能 である.テーブルは地上から通信を介して書換え可能であ るため,起こり得る事象に対して探査機のとるべき自律的 な動作を打上げ後も自由に設定することができる.
4. 深宇宙探査ミッションにおける自律運用技術
の展望
本章では,宇宙開発で「使える」知能化技術について, 特に,深宇宙探査機が地上を介さずに自らの判断で動作 する「自律機能」に焦点を絞って,宇宙開発に携わる研 究者としての著者らの私見を述べたい. これまでの深宇宙探査ミッションは, ● たとえ通信の往復伝搬遅延時間があったとしても, 地上を介した制御が成立する部分は極力地上から制 御する. ● 可能な限り地上から制御するために,海外の地上局 を使用することも含めて,クリティカルなイベント においては常時(文字どおり 24 時間)探査機との通 信リンクが確立した状態を構築することに努める.● それでも無理なところだけを,探査機の自律機能で
実現する.
という非常に保守的なポリシーに基づいて,自律機能が 限定的に使われているのが現状である.
「Test as you fly, fly as you test(打上げ後と同じ状況 でテストし,テストしたときと同じ状況で運用せよ)」 の言葉が示すように,「一度打ち上げたら二度と直接手 が出せない」宇宙開発の世界では,地上試験で評価して いない機能を実際の運用で用いることを徹底して避ける 傾向にある.自律機能が限定的にしか用いられていない のは,動作の信頼性やソフトウェアの検証の問題が支配 的な要因といえる. 一方で,地上を介した制御ではなく探査機自身の自律 機能を用いることによって,周辺環境に対する即応性の 向上,トラブル発生時の安全性の向上,地上側の運用担 当者に関わる運用コストの削減など,多大なメリットが 生じるのは明らかである.したがって,探査機の自律化は, 将来の挑戦的な深宇宙探査ミッションを支える重要な技 術である.その際,特に重要になるのが,自律機能をい かに打上げ前に地上で検証するかという問題である. 探査機に使われる「自律機能」といった場合に,その レベルは以下の二つに大別できると考えられる. レベル 1:状況とそれに対応した動作(IF-THEN ルール)がすべて事前に explicit に記述されている ような自律機能 レベル 2:IF-THEN ルール自体を探査機自身がそ の場で自動生成するような自律機能 レベル 1 であっても,状況に応じて非常に複雑な動作 (あるいは一連の動作)を行うよう仕込むことができる が,その動作パスは,分岐に用いられる判断条件さえ与 えれば一意に決まるという点においては,より高度なイ メージのある「自律」よりは「自動」に近いものである. レベル 2 は,探査機のミッション(目的)を達成するた めに最適な動作パス自体を,状況に応じて探査機自身が 生成するものであり,人工知能分野におけるタスクプラ ニング技術に近い動作である. 本稿で紹介した PROCYON や,小惑星探査機はやぶ さなどではレベル 1 の自律機能が用いられている.この 自律機能の検証においては,特定の動作(例えば,いろ いろな不確定性をもっている小惑星周辺の環境を考慮し て,安全・確実に小惑星表面へ着陸すること)を実現す るための IF-THEN ルールのセットを,いかに多くの条 件に対して網羅的に事前に地上で検証できるか,という ことが課題となる.これに対してよく取られるアプロー チは,探査機やその環境を詳細にモデル化したシミュ レータを構築することと,極力多数の検証ケースを流す ためにシミュレータの動作を高速化すること,などであ り,レベル 1 の自律機能を宇宙探査ミッションで使う ことに対する宇宙工学コミュニティの心理的な障壁は, 徐々に下がってきていると思われる. 一方で,より高度なレベル 2 の自律機能を宇宙ミッショ ンで用いることは,ごく少数の例外(Remote Agent [Muscettola 98]という自律プランニングソフトを搭載 した NASA の DS-1 探査機や,CASPER [Chien 00] と いう自律プランニングソフトを搭載して,複数の観測 ターゲットを観測するための動作計画を衛星側で自動生 成することに成功した地球観測衛星 EO-1 など)を除い てほとんどない.信頼性が求められる宇宙システムで自 律機能を使うためには,その動作をいかに保証するかが 重要である.一般に,ソフトウェアの動作の自由度や柔 軟性が増えるほど検証も難しくなるため,どんな動作を するか(どんな動作計画が実際に立案されるか)事前に 予測しづらいレベル 2 の自律機能は,宇宙ミッションで は敬遠されるのが現状である. しかしながら,レベル 2 の自律機能を実現すること の多大なメリットは,宇宙工学コミュニティの誰もが認 めるところであろう.特に,未知の環境を探査するよう な深宇宙探査ミッションにおいては,事前に用意された ルールに従って探査機が自律的に動作すること(レベル 1)だけでなく,状況に応じてとるべき適切な対処を地 上を介することなく探査機自身が生成して危険な状況な どを乗り切ってくれること(レベル 2)は,ミッション サクセスの観点から非常に重要である.レベル 2 の自律 機能を実現することは研究として華のあるトピックでも あり,特に,その検証方法についての研究をぜひとも人 工知能コミュニティに期待したいところである.
5.お わ り に
本稿では,50 kg 級の世界最小クラスの超小型深宇宙 探査機 PROCYON について,そのミッションの概要と, そこで用いられる予定の自動・自律機能について解説し た.また,将来の深宇宙探査ミッションにおいて必要と なる知能化技術の例として,宇宙機が地上を介さずに自 らの判断で動作する「自律機能」を取り上げ,宇宙開発 の世界における自律機能の用いられ方の現状を述べた. 自律機能を宇宙ミッションで使う際の最大の障壁となっ ているのが「検証」の問題であり,この解決に人工知能 コミュニティの研究を期待したい.◇ 参 考 文 献 ◇
[Chien 00] Chien, S. and Knight, R., et al.: Using iterative repair to improve the responsiveness of planning and scheduling, 5th
Int. Conf. on Artificial Intelligence Planning and Scheduling,
Colorado, the United States(2000)
[細 沼 13] 細 沼 貴 之,五 十 里 哲 ほか: 超 小 型 深 宇 宙 探 査 機 PROCYONの小惑星近接フライバイ撮像システムに関する初期 検討,第 57 回宇宙科学技術連合講演会,2G13,米子(2013) [稲垣 13] 稲垣匡志,小泉宏之 ほか:マイクロ波放電式小型イオン スラスタとコールドガスジェット複合システムの超小型深宇宙 探査機への応用,第 57 回宇宙科学技術連合講演会,2B04,米子
(2013)
[小林 13a] 小林雄太,冨木淳史 ほか:50kg 級超小型衛星の小惑星 フライバイミッションにおける軽量 X 帯搭載深宇宙通信システ ムの開発,第 57 回宇宙科学技術連合講演会,3G02,米子(2013) [Kobayashi 13b] Kobayashi, Y. and Tomiki, A., et al.: Experimental evaluation of the trial production of X-band high efficiency onboard SSPA for deep space missions using GaN HEMT, 29th Int. Symp. on Space Technology and Science, Nagoya, Japan, 2013-j-18(2013)
[Muscettola 98] Muscettola, N., Nayak, P. P., et al.: Remote agent: To boldly go where no AI system has gone before,
Artificial Intelligence, Vol.103, No.1, pp.5-47(1998)
[Nakasuka 11] Nakasuka, S.: From education to practical use of nano-satellites - Japanese university challenge towards low cost space utilization -, 8th IAA Symposium on Small Satellite
for Earth Observation, Berlin, Germany(2011)
[大島 03] 大島 武,萩野慎二,川口淳一郎:小惑星探査機「はやぶさ」 のシステム設計と自動化自律化機能,第 47 回宇宙科学技術連合 講演会,2I14,新潟(2003) 2014年 6 月 4 日 受理 滝澤 潤一 現在,東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工 学専攻博士課程在学中.超小型人工衛星「Nano-JASMINE」,「UNIFORM-1」,「ほどよし 3 号機・4 号機」,超小型深宇宙探査技術実証機「PROCYON」 の研究・開発に携わる.特に,超小型人工衛星搭載 ソフトウェアの共通化・開発効率化などのアーキテ クチャに関する研究開発に従事. 船瀬 龍 2007年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専 攻博士課程修了.同年,(独)宇宙航空研究開発機 構入所.2012 年 10 月より東京大学大学院工学系研 究科航空宇宙工学専攻准教授.博士(工学).世界 最小の超小型人工衛星 CubeSat の開発,小惑星探査 機「はやぶさ」,「はやぶさ 2」,小型ソーラー電力セ イル実証機「イカロス」,超小型深宇宙探査技術実 証機「PROCYON」などの深宇宙探査機の開発・運用に携わる.専門は, 宇宙機システム,宇宙機の軌道・姿勢制御,宇宙機の自律化・知能化.