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マイクロ波衛星リモートセンシングの偏波情報利用―地震被災地観測への応用―

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(1)

招待論文

マイクロ波衛星リモートセンシングの偏波情報利用

——

地震被災地観測への応用

——

佐藤

亮一

a)

PolSAR Data Utilization in Space-Borne Microwave Remote Sensing

—— Application to Stricken Area Observation

Ryoichi SATO

†a)

あらまし マイクロ波衛星リモートセンシング,特に偏波合成開口レーダ(PolSAR) を用いた衛星リモートセ

ンシングは,昼夜天候を問わず広域かつ高分解能で地表面観測が可能なため,様々な用途での活用が期待されて

いる.本論文では,PolSAR で取得される多偏波情報を含む衛星データの利用方法について述べ,散乱行列から

の二次統計量を要素にもつ偏波行列の導出,及びその解析手法について説明する.地震被災地の観測,特に被災 住宅領域の検出に関して,ALOS/PALSAR 及び ALOS-2/PALSAR-2 で取得された PolSAR データを用いて 画像解析を行い,マイクロ波衛星リモートセンシングの情報利用の有効性を明らかにする. キーワード マイクロ波リモートセンシング,衛星搭載PolSAR,災害観測,被災住宅検出,オリエンテーショ ン角補正

1.

ま え が き

マイクロ波リモートセンシングは,航空機や人工

衛星等のプラットホームからマイクロ波を照射し,対

象領域からの後方散乱電力を画像化することで遠隔

かつ広範囲に地表面を観測する技術である.観測が

昼夜天候に依存しない特徴に加え,合成開口レーダ

(Synthetic Aperture Radar: SAR) [1], [2]

の実用化

により,高分解能の地表面画像データの取得が可能と

なったため,様々な分野での利用が進められてきた.

特に,散乱電力の情報に加え,偏波散乱情報も同時に

取得できる偏波

SAR (Polarimetric SAR: PolSAR)

は,レーダポーラリメトリ技術

[3]

[11]

を用いるこ

とで,より正確に観測対象の分類や識別が可能とな

るため,米国

NASA-JPL

を筆頭に世界中で開発・運

用されてきた.日本においては,

1997

年から実験用

として観測をはじめた航空機搭載多偏波

SAR

であ

Pi-SAR

NICT, JAXA

の共同開発)

[12]

によって

新潟大学人文社会・教育科学系(教育学部),新潟市

Faculty of Education, Niigata University, 8050 Ikarashi-2-no-cho, Nishi-ku, Niigata-shi, 950–2181 Japan

a) E-mail: [email protected]

高解像度の全偏波データ(散乱行列)の取得・利用

が可能となった.更に,高性能

L

バンド

PolSAR

ンサ「

PALSAR

」を搭載した地球観測衛星「だいち

(ALOS)

[13]

の打ち上げ

(2006

1

24

)

により,

マイクロ波衛星リモートセンシングの情報利用が本格

化した.

ALOS/PALSAR

2011

5

月にその運用

を停止するまでの約

5

年間,日本のみならず全世界の

地表面を観測し,そのデータは現在も幅広い分野で活

用されている.

本論文では,

ALOS/PALSAR

及びその後継機であ

る「だいち

2

号(

ALOS-2/PALSAR-2

)」

[14]

で取得

される多偏波情報の利用方法について述べる.はじ

めに,

PolSAR

で取得される散乱行列をもとに導か

れる二次統計量,各種の偏波行列(

Covariance

行列,

Coherency

行列など)の導出及びその解析手法につい

て説明する.ここでは,近年広く利用されている散乱

モデルを基とした電力分解法

[15]

[22]

を中心に,固

有値・固有ベクトル解析

[23]

[25]

を用いた分解法を

示すとともに,それらを地震被災地観測へ適用する場

合に考慮しなければならない点について説明する.衛

PolSAR

データの活用例の一つとして,近年の大

規模自然災害の被災地観測,特に地震被災住宅の被災

(2)

前後の観測例を紹介する.本論文では,

2011

3

に発生した東日本大震災の被災地である石巻市,

2016

4

月に発生した熊本・大分大地震の被災地である益

城町の

PolSAR

画像データを用いて具体的な解析結果

を示し,マイクロ波衛星リモートセンシングの情報利

用の有効性を明らかにする.

2.

偏 波 行 列

ALOS-2/PALSAR-2

及び

ALOS/PALSAR

では直

線偏波で

PolSAR

データが取得されているので,本論

文では直線偏波基底の散乱行列から議論をはじめる.

2. 1

散 乱 行 列

観測対象に対して水平

(H)

及び垂直

(V )

の直線偏

E

t H

及び

E

Vt

を成分にもつ入射界

E

t

が入射した

場合の散乱界

E

s

は,

E

s

=



E

Hs

E

s V



=

S E

t

=



S

HH

S

HV

S

V H

S

V V

 

E

Ht

E

Vt



(1)

と表現できる.ここで,各成分の下付き文字

HH, HV ,

V H, V V

は,散乱波と送信波の偏波状態の関係を表

す.式

(1)

における

2

×2

行列

S

Sinclair

散乱行列

と呼ばれる.本論文では,送受信アンテナが同じ位置

にあるモノスタティックのデータを扱う.この場合は,

相反定理より

S

V H

= S

HV

となるので,散乱行列

S

は以下のようになる.

S =



S

HH

S

HV

S

HV

S

V V



.

(2)

PolSAR

画像データではピクセルごとに一つの散乱

行列が対応するので,観測対象がピクセル内に一つだ

け存在するような場合は,式

(2)

の散乱行列を直接解

析して散乱特性を調べることで対象を識別できる.一

方,観測対象が森林等の分布ターゲットの場合におい

ては,取得される画像(散乱行列)の時空間的な揺ら

ぎから対象についての情報を抽出するために,しばし

ば二次統計量を要素にもつ偏波行列が作られる.ここ

では,よく用いられる

3

× 3

Covariance

行列及び

Coherency

行列を示す.

2. 2 Covariance

行列

平均化

Covariance

行列

C

は二次統計量を要素に

もつ

3

× 3

エルミート正定値行列で,

C =

1

n

n



k

L

k

†L

=

C

11

C

12

C

13

C

21

C

22

C

23

C

31

C

32

C

33

(3)

で定義される.ここで,

·

は隣接する

n

ピクセルの

空間平均,

は複素共役転置を示す.

k

L

は散乱行列と

等価な散乱ベクトル

k

L

=

1

2

S

HH

2S

HV

S

V V

(4)

である.第

2

成分に

2

が付されているのは,ベクト

k

L

のノルムが散乱行列

S

のノルムと等しくなるよ

うにするためである.

2. 3 Coherency

行列

二次統計量を要素にもつ

3

× 3

の平均化

Coherency

行列

T 

T  =

1

n

n



k

P

k

†P

=

T

11

T

12

T

13

T

21

T

22

T

23

T

31

T

32

T

33

(5)

で定義される.ここで,

k

p

Pauli

散乱ベクトルで,

k

p

=

1

2

Tr(

S σ

0

), Tr(S σ

1

), Tr(S σ

2

)

T

=

1

2

S

HH

+S

V V

S

HH

−S

V V

2S

HV

(6)

で定義されるベクトルである.

Tr(

·)

はトレース,

σ

0

,

σ

1

,

σ

2

は,

σ

0

=

1

2



1

0

0

1



,

(7)

σ

1

=

1

2



1

0

0

−1



,

(8)

σ

2

=

1

2



0

1

1

0



(9)

である.

Pauli

散乱ベクトル

k

p

の第

1

成分

S

HH

+S

V V

は奇数回反射,第

2

成分

S

HH

− S

V V

は偶数回反射に

(3)

対応する.

S

HH

− S

V V

はしばしば人工物(建築物)

を示す指標として用いられる.

3. PolSAR

データ解析手法

本章では

3

× 3

の偏波行列を用いた

PolSAR

データ

の解析手法について述べる.

PolSAR

データから偏波情報を利用して観測対象の

分類・識別を行う場合,散乱メカニズムを考慮して分

解する「分解法」が有効である.分解法には,物理モ

デルを基とした分解法と,数学モデルを基とした分解

法がある.物理モデルを基とした分解法は,散乱メカ

ニズムに対応する基本偏波行列を用意して,それに

フィッティングさせるように測定偏波行列(

C

あるい

T 

)を分解する手法である.

Freeman

Durden

1998

年に発表して以来

[15]

,山口の

4

成分散乱電

力分解法

[16], [17]

をはじめとして,様々な散乱電力分

解法が提案されている.一方,数学モデルを基とする

分解法は,偏波行列の固有値

/

固有ベクトルを用いて

分解する手法で,エントロピー

E

,角度

α

¯

,アンアイ

ソトロピー

A

の偏波指標を導入して観測対象を分類

することが多い

[9], [23]

以下に,散乱モデルを基とした分解法と固有値

/

有ベクトルを用いた分解法を簡潔に説明する.

3. 1

散乱モデルを基とした分解法

散乱電力分解は文献

[15]

[22]

に示されるように,

多くの手法が提案されているが,

PolSAR

画像を用い

て観測対象の分類・識別に利用しようとする場合,極端

に大きな違いが見られないことが多い.本論文では,計

算コストが

Freeman

や山口の分解法と同等で,かつ分

解された電力が負になってしまう

Negative Power

題が発生しない利点を有する

NNED (Non-Negative

Eigenvalue Decomposition) [19]

という散乱電力分解

法を用いる.ただし,体積散乱成分は様々な植生の状

態に対応させるために,一様分布モデルではなく山口

の体積散乱モデル

[16]

を適用する.

Covariance

行列

Coherency

行列は互いにユニタリ変換の関係にあ

るので,どちらの偏波行列を用いても解析結果に違い

はない.ここでは文献

[19]

に従って

Covariance

行列

を用いた定式化を示す.

NNED

3

成分散乱モデル電力分解では,取得さ

れた平均化

Covariance

行列

C

を,

C = f

v

C

volume

+ f

d

C

double

+ f

s

C

surf ace

+ f

remainder

C

remainder

(10)

のように,体積散乱,

2

回反射散乱,表面散乱の基

本散乱モデルの

3

成分と,これらにフィッティングし

なかった「残り

(remainder)

」の成分で展開する(各

散乱モデルの展開行列は付録に示す).未知展開係数

f

v

, f

d

, f

s

, f

remainder

を決定することにより,全電力

P

t

は各散乱メカニズムの電力

P

v

, P

d

, P

s

と残りの電

P

remainder

に分解される.ここで,体積散乱成分

が実際より大きく評価された場合,

C

 remainder

=

C − f

v

C

volume

(11)

で定義される行列

C

remainder

の固有値が負になる,

すなわち

2

回反射散乱あるいは表面散乱の電力が負に

なる

Negative Power

問題が発生する.

NNED

では,

C



remainder

の固有値が

0

以上によるような条件を適

用して

f

v

を決定することでこの問題を回避している.

更に,

f

v

の決定後,

C



remainder

= f

d

C

double

+ f

s

C

surf ace

+ f

remainder

C

remainder

(12)

の関係式から,

C

remainder

の固有値に対応させるこ

とで

f

d

, f

s

, f

remainder

を決定できる.また,

C

double

,

C

surf ace

内に含まれる未定定数

α, β

C

remainder

の固有ベクトルを考慮することで決定される.残り電

P

remainder

(= f

remainder

)

0

にならないことが

多いが,被災地観測においては,被災後に発生する瓦

礫等からの散乱とみなすことで役立てられる.

3. 2

固有値

/

固有ベクトルによる分解法

3

×3

エルミート正定値行列である平均化

Coherency

行列

T 

は,固有値

λ

i

(> 0)

,固有ベクトル

e

i

によっ

て対角化できる

[23]

T  = [e

1

e

2

e

3

]

λ

1

0

0

0

λ

2

0

0

0

λ

3

⎦ [e

1

e

2

e

3

]

=

3



i=1

λ

i

e

i

e

†i

,

(13)

e

i

=

cos α

i

sin α

i

cos β

i

e j

δi

sin α

i

sin β

i

e j

γi

⎦ .

(14)

ここで,偏波角

α

i

は各固有ベクトル

e

i

S

HH

+ S

V V

基底ベクトルとの角度,偏波角

β

i

e

i

S

HH

−S

V V

基底ベクトルとの角度を表し,

δ

i

及び

γ

i

はそれぞれ

e

i

の第

1

成分に対する第

2

成分及び第

3

成分の位相

(4)

図 1 固有ベクトルeiと偏波角αi,βiの概念図

Fig. 1 Eigenvectoreiand polarization anglesαi,βi.

差を示す

[9]

.図

1

は,複素ベクトル空間の

Pauli

底ベクトルと固有ベクトル

e

i

の関係をわかりやすく

可視化するために,実ベクトル空間で置き換えて描い

た概念図である.また,式

(14)

j (=

−1)

は虚数

単位である.散乱現象は,確率

P

i

0

≤ P

i

=

3

λ

i j=1

λ

j

≤ 1

(i = 1, 2, 3)

(15)

で起こる独立した三つの散乱メカニズム

e

i

の和として

観測され,対応する固有値

λ

i

は各散乱メカニズム

e

i

の電力とみなせる

[9], [23]

.このため

PolSAR

画像に

おいて,各ピクセルの固有値・固有ベクトルの様子を

調べることで,ターゲットの識別や検出が可能となる.

被災建築物の検出が本論文の主目的なので,ここで

は偏波角

α

i

, β

i

に注目する.偏波角

α

i

及び

β

i

は,固

有ベクトル

e

i

Pauli

散乱ベクトル

k

p

との間の傾き

を把握するための指標とみなせる

[9], [23]

.式

(15)

用いると,偏波角

α

i

の平均

α

¯

は,

¯

α = P

1

α

1

+ P

2

α

2

+ P

3

α

3

(16)

と表現できる.

α

¯

が小さい場合は

S

HH

+ S

V V

,すな

わち表面散乱が主要な散乱メカニズムであることを示

す.一方,

α

¯

が大きい場合は他の散乱メカニズムの影

響が強いことを示す.同様に,偏波角

β

i

の平均

β

¯

¯

β = P

1

β

1

+ P

2

β

2

+ P

3

β

3

(17)

と表せる.この

β

¯

の値を調べることで,

S

HH

− S

V V

すなわち

2

回反射散乱の寄与を確認できる.

2

回反射

散乱が主要な散乱メカニズムとなるような観測領域で

β

¯

は小さな値となる.一方,交差偏波

S

HV

成分が

多く発生し体積散乱の寄与が大きい領域では,

β

¯

の値

は大きくなる.

以上より,建築物の検出には

S

HH

− S

V V

が主要と

なる条件

T h

1

< ¯

α < 90

, 0

< ¯

β < T h

2

(18)

を満足する必要がある.都市部の建築物群検出には,式

(18)

のしきい値

T h

1

, T h

2

を,おおむね

T h

1

∼ 45

,

25

≤ T h

2

≤ 35

の範囲で与えてやれば,良精度での

検出が可能となることが,文献

[24]

及び

[25]

での簡易

建築物モデルに対する

FDTD

[31]

を用いた偏波散

乱解析及び電波暗室での偏波散乱測定により確認され

ている.本論文でも上記範囲のしきい値を用いる.

4.

偏波オリエンテーション角補正

レーダ座標と観測対象座標の対称軸とが一致してい

ない場合,

PolSAR

データの補正が必要となる.

Pol-SAR

画像データを用いた建築物検出においては,対

象となる建築物群の配置方向がレーダ照射方向と大き

く傾いている場合,傾いた建築物側面からの反射に起

因して強い交差偏波成分

S

HV

が発生する

[28]

.この

S

HV

成分の一部が,レーダ座標と観測対象座標の対

称軸とが一致していない場合に発生していると考えら

れるため,ユニタリ回転行列

R

C

(θ), R

T

(θ)

R

C

(θ) =

1 + cos 2θ

2 sin 2θ

1

− cos 2θ

2 sin 2θ

2 cos 2θ

2 sin 2θ

1

− cos 2θ −

2 sin 2θ

1 + cos 2θ

⎦ ,

(19)

R

T

(θ) =

1

0

0

0

cos 2θ

sin 2θ

0

− sin 2θ cos 2θ

(20)

を用いて偏波行列

C, T 

を回転させることで,

S

HV

成分を小さくすることができる

[20], [26], [27]

.した

がって,

C

T 

に対して偏波解析を行う前に,偏

波オリエンテーション角の補正

(Orientation Angle

Compensation: OAC)

C(θ) = R

C

(θ)CR

C

(θ)

=

C

11

(θ)

C

12

(θ)

C

13

(θ)

C

21

(θ)

C

22

(θ)

C

23

(θ)

C

31

(θ)

C

32

(θ)

C

33

(θ)

⎦ , (21)

T (θ) = R

T

(θ)T R

T

(θ)

=

T

11

(θ)

T

12

(θ)

T

13

(θ)

T

21

(θ)

T

22

(θ)

T

23

(θ)

T

31

(θ)

T

32

(θ)

T

33

(θ)

(22)

を実行することは,偏波情報を正しく評価する上で有

(5)

効な手段と考えられるため,様々な解析に

OAC

が適

用されている

[26]

[30]

.特に,偏波オリエンテーショ

ン角と建築物の配置方向とレーダ照射方向との傾き角

が対応している

[28]

ので,式

(21), (22)

を実行するこ

とで,

PolSAR

データにおいては建築物の配置方向を

レーダ方向と正対させる効果が期待される.

なお,回転角

θ

は,

S

HV

成分の電力を最小となる

ように,

dC

22

(θ)/dθ = 0

あるいは

dT

33

(θ)/dθ = 0

り求められる.

5. PolSAR

データ解析

本章では

PolSAR

データの解析例を示す.はじめ

に,東日本大震災で被災した宮城県石巻市周辺の震災

前後を撮影した

ALOS/PALSAR

データの解析結果を

2

に示す.ここでは,隣接する

24

ピクセル

(=

ンジ方向

2

ピクセル

×

アジマス方向

12

ピクセル

)

図 2 石巻市周辺の ALOS/PALSAR データに対する NNED散乱電力分解結果

Fig. 2 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS/PALSAR quad-pol data around Ishinomaki city, Japan.

空間平均を行って

C

を求めた後,式

(21)

OAC

を適用した

C(θ)

に対して

NNED

散乱電力分解を

実行した.図は,

2

回反射散乱電力

P

d

に赤色,体積散

乱電力

P

v

に緑色,表面散乱電力

P

s

に青色を割り当

てた

RGB

合成画像である.図

2(a)

は震災前の

2010

11

21

日,図

2(b)

は震災後の

2011

4

8

に取得されたデータである.建築物の指標である

2

反射散乱

P

d

に着目して両図を比較すると,下部の海

岸沿いの広範囲の領域において,震災後の

P

d

がかな

り小さくなっている様子がわかる.これは,大津波に

よる沿岸の人工物(漁港,工場,住宅)の被害が大き

かったため,

P

d

が観測されなくなったと考えらえる.

被災前後の

P

d

の差

|P

d

(

震災前

)

−P

d

(

震災後

)

|

を画像

にすると,被害領域がより明確にわかる

(

3)

次に熊本・大分地震の被災地の被災前後を撮影した

ALOS-2/PALSAR-2

データの解析結果を示す.図

4

は震災後の

2016

4

21

日に熊本市

(

)

から阿蘇

(

)

までを含む広域で取得された

PolSAR

データ

の解析結果である.ここでは,隣接する

32

ピクセル

(

=レンジ方向

4

ピクセル×アジマス方向

8

ピクセル

)

の空間平均を行って

C

を求め,

OAC

を適用した後

C(θ)

NNED

散乱電力分解を実行している.な

お,

ALOS-2/PALSAR-2

は,

ALOS/PALSAR

と比

較して観測周期が大幅に短いので,定期観測に加えて,

災害直後の緊急観測が行いやすくなっている

(

1

)

.図

5

は被害が大きかった益城町周辺を拡大した

画像である.図

5 (a)

は地震前の

2015

12

3

日,

5 (b)

は地震後の

2016

4

21

日に取得された

データである.図

2

での考察と同様に,建築物の指標

となる

2

回反射散乱

P

d

(

赤色

)

に着目して震災前後の

図 3 石巻市周辺の|Pd(震災前)−Pd(震災後)| の画像

Fig. 3 Image of|Pd(before)−Pd(after)| around

(6)

図 4 熊本周辺の ALOS-2/PALSAR-2 データに対する NNED散乱電力分解結果

Fig. 4 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS-2/PALSAR-2 quad-pol data around Kumamoto area, Japan.

表 1 多 偏 波 モ ー ド 時 の ALOS/PALSAR と ALOS-2/PALSAR-2の主な仕様

Table 1 Main characteristics of ALOS/PALSAR and ALOS-2/PALSAR-2 in Quad-pol mode.

ALOS/PALSAR ALOS-2/PALSAR-2 分解能 25m 6m 観測幅 20km 40km 観測周期 46日 14日 オフナディア角 約 21◦∼ 24◦ 約 25∼ 35

図を比較すると,住宅領域においては震災後に

P

d

消滅しているピクセルが多く点在しているように見え

る.震災により全壊若しくは半壊した家屋の影響と思

われるが,石巻市ほどの広範囲におよぶ大規模損壊で

はなかったため,図

6

|P

d

(

震災前

)

−P

d

(

震災後

)

|

画像を用いても判断しづらい.

そこで,式

(18)

を用いた人工物(建築物)検出も

行った.式

(18)

の両式を満足する場合は

建築物

(18)

のどちらか一方の式を満足しない場合は

他の

散乱体

と判定した.ここでも,固有値・固有ベクト

ル解析を行う前に,平均化

Coherency

行列に

OAC

実行した.式

(18)

により震災前のデータで

建築物

と判定されていたピクセルのうち,震災後に

他の散

乱体

に判定が変わったピクセルを抽出したのが図

7

図 5 益城町周辺の ALOS-2/PALSAR-2 データに対す る NNED 散乱電力分解結果

Fig. 5 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS-2/PALSAR-2 quad-pol data around Mashiki-town, Kumamoto, Japan.

図 6 益城町周辺の|Pd(震災前)−Pd(震災後)| の画像

Fig. 6 Image of|Pd(before)−Pd(after)| around

Mashiki-town, Kumamoto, Japan.

図 7 震災後に “人工物 (建築物)” から “他の散乱体” に 判定が変わったピクセルの画像

Fig. 7 Image of the pixels that change from “man-made targets” to “other types of targets”.

である.なお,図を見やすくするため,散乱電力の小

さいピクセルは省いて表示している.正確な

ground

(7)

役場周辺の全壊若しくは半壊した家屋が多い地域(図

の中央下部分)で,

判定の変化したピクセル

が多く

観られているので,おおむね妥当な結果と考えられる.

6.

む す び

本 論 文 で は ,

ALOS/PALSAR

及 び

ALOS-2/

PALSAR-2

に代表される衛星

PolSAR

で取得され

る多偏波情報の利用方法の一つとして,地震被災住宅

の検出について述べた.散乱行列をもとに導かれる偏

波行列(

Covariance

行列と

Coherency

行列),及び

その解析手法(散乱モデルを基とした電力分解法と固

有値・固有ベクトル解析)を示し,被災住宅観測へ適

用する場合に必要となる条件,考慮しなければならな

い点について検討した.東日本大震災の被災地であ

る石巻市,及び熊本・大分地震の被災地である益城町

PolSAR

画像データに対する解析結果を示し,衛星

PolSAR

データの情報利用の有効性を明らかにした.

今後は,干渉

SAR

技術も取り入れ,広域自然災害

発生時の安全な避難・救出陸路の確保のための衛星

PolSAR

データ利用に関する研究を進めていく予定で

ある.

謝辞 本研究は

JSPS

科研費

(JP16K01285)

及び

ALOS-2

データ利用公募型共同研究

(

4

)(PI-1409,

PI:

佐藤亮一

)

の助成を受けたものです.レーダポーラ

リメトリに関して貴重なご助言をいただいた新潟大学

の山口芳雄先生,山田寛喜先生,

ALOS-2/PALSAR-2

データに関するご助言をいただいた

JAXA

の大木真

人氏に深謝いたします.画像解析処理を補助していた

だいた新潟大学教育学部電気研究室の学生諸君に感謝

いたします.丁寧に査読いただき,有益なコメントを

いただいた査読者の方々に感謝いたします.

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各散乱モデルの展開行列

〈体積散乱

[16]

木の幹や枝等の集合体をランダムな方向を向いたワ

イヤの集合体と仮定する.森林が一様に分布する場合,

すなわち

HH

− σ

V V

| < 2dB

の場合の

Covariance

行列

C

volume

は,

C

volume

=

1

8

3

0

1

0

2

0

1

0

3

(A

·1)

となる.森林の分布が非対称となり,

σ

HH

− σ

V V

<

−2dB

の場合,及び

σ

HH

− σ

V V

> 2dB

の場合は,

C

volume

=

1

15

8

0

2

0

4

0

2

0

3

(A

·2)

及び

C

volume

=

1

15

3

0

2

0

4

0

2

0

4

(A

·3)

となる.

2

回反射散乱〉

道路表面と建築物の壁などで観られる局所的な

2

リフレクタ構造では,

2

回反射

(

偶数回反射

)

の寄与が

主要となり,

HH

成分が強くなることが知られている.

Co-pol

比を

α(= S

V V

/S

HH

)

とすると,

2

回反射散乱

に対する展開行列

C

double

は,

C

double

=

|α|

2

0

α

0

0

0

α

0

1

(A

·4)

とおける.

α

は未知数

(

複素数

)

として扱われる.

〈表面散乱〉

畑,田園,水面等では,

HH,VV

の位相がほぼ等し

くなり,

1

回反射(奇数回反射)が支配的となる.

1

Bragg

反射モデルを取り入れると,表面散乱成分に対

する展開行列

C

surf ace

β

は複素数の未知数)を次式

のようにおける.

C

surf ace

=

|β|

2

0

β

0

0

0

β

0

1

⎦ .

(A

·5)

(平成 28 年 7 月 4 日受付,10 月 10 日再受付, 29年 2 月 7 日公開)

(9)

佐藤 亮一 (正員)

1992中大・理工・電気工卒.1997 同大 大学院博士課程後期課程了.同年新潟大・ 教・助教授.2002 米国ポリテクニック大 学・客員研究員.2005 新潟大・教・准教授, 2014同大・教・教授,現在に至る.電磁波 の散乱・回折,無線通信に関連した電波伝 搬解析手法の開発,レーダポーラリメトリの研究に従事.1994 MMET*94において Young Scientist Award,2000 電学会 論文発表賞,2008 EUSAR2008 にて Best Poster Award,各 受賞.博士 (工学),電学会正員,IEEE Member.

図 1 固有ベクトル e i と偏波角 α i , β i の概念図 Fig. 1 Eigenvector e i and polarization angles α i , β i .
Fig. 2 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS/PALSAR quad-pol data around Ishinomaki city, Japan.

参照

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