招待論文
マイクロ波衛星リモートセンシングの偏波情報利用
——
地震被災地観測への応用
——
佐藤
亮一
†a)PolSAR Data Utilization in Space-Borne Microwave Remote Sensing
—— Application to Stricken Area Observation
Ryoichi SATO
†a)あらまし マイクロ波衛星リモートセンシング,特に偏波合成開口レーダ(PolSAR) を用いた衛星リモートセ
ンシングは,昼夜天候を問わず広域かつ高分解能で地表面観測が可能なため,様々な用途での活用が期待されて
いる.本論文では,PolSAR で取得される多偏波情報を含む衛星データの利用方法について述べ,散乱行列から
の二次統計量を要素にもつ偏波行列の導出,及びその解析手法について説明する.地震被災地の観測,特に被災 住宅領域の検出に関して,ALOS/PALSAR 及び ALOS-2/PALSAR-2 で取得された PolSAR データを用いて 画像解析を行い,マイクロ波衛星リモートセンシングの情報利用の有効性を明らかにする. キーワード マイクロ波リモートセンシング,衛星搭載PolSAR,災害観測,被災住宅検出,オリエンテーショ ン角補正
1.
ま え が き
マイクロ波リモートセンシングは,航空機や人工
衛星等のプラットホームからマイクロ波を照射し,対
象領域からの後方散乱電力を画像化することで遠隔
かつ広範囲に地表面を観測する技術である.観測が
昼夜天候に依存しない特徴に加え,合成開口レーダ
(Synthetic Aperture Radar: SAR) [1], [2]
の実用化
により,高分解能の地表面画像データの取得が可能と
なったため,様々な分野での利用が進められてきた.
特に,散乱電力の情報に加え,偏波散乱情報も同時に
取得できる偏波
SAR (Polarimetric SAR: PolSAR)
は,レーダポーラリメトリ技術
[3]
∼
[11]
を用いるこ
とで,より正確に観測対象の分類や識別が可能とな
るため,米国
NASA-JPL
を筆頭に世界中で開発・運
用されてきた.日本においては,
1997
年から実験用
として観測をはじめた航空機搭載多偏波
SAR
であ
る
Pi-SAR
(
NICT, JAXA
の共同開発)
[12]
によって
†新潟大学人文社会・教育科学系(教育学部),新潟市
Faculty of Education, Niigata University, 8050 Ikarashi-2-no-cho, Nishi-ku, Niigata-shi, 950–2181 Japan
a) E-mail: [email protected]
高解像度の全偏波データ(散乱行列)の取得・利用
が可能となった.更に,高性能
L
バンド
PolSAR
セ
ンサ「
PALSAR
」を搭載した地球観測衛星「だいち
(ALOS)
」
[13]
の打ち上げ
(2006
年
1
月
24
日
)
により,
マイクロ波衛星リモートセンシングの情報利用が本格
化した.
ALOS/PALSAR
は
2011
年
5
月にその運用
を停止するまでの約
5
年間,日本のみならず全世界の
地表面を観測し,そのデータは現在も幅広い分野で活
用されている.
本論文では,
ALOS/PALSAR
及びその後継機であ
る「だいち
2
号(
ALOS-2/PALSAR-2
)」
[14]
で取得
される多偏波情報の利用方法について述べる.はじ
めに,
PolSAR
で取得される散乱行列をもとに導か
れる二次統計量,各種の偏波行列(
Covariance
行列,
Coherency
行列など)の導出及びその解析手法につい
て説明する.ここでは,近年広く利用されている散乱
モデルを基とした電力分解法
[15]
∼
[22]
を中心に,固
有値・固有ベクトル解析
[23]
∼
[25]
を用いた分解法を
示すとともに,それらを地震被災地観測へ適用する場
合に考慮しなければならない点について説明する.衛
星
PolSAR
データの活用例の一つとして,近年の大
規模自然災害の被災地観測,特に地震被災住宅の被災
前後の観測例を紹介する.本論文では,
2011
年
3
月
に発生した東日本大震災の被災地である石巻市,
2016
年
4
月に発生した熊本・大分大地震の被災地である益
城町の
PolSAR
画像データを用いて具体的な解析結果
を示し,マイクロ波衛星リモートセンシングの情報利
用の有効性を明らかにする.
2.
偏 波 行 列
ALOS-2/PALSAR-2
及び
ALOS/PALSAR
では直
線偏波で
PolSAR
データが取得されているので,本論
文では直線偏波基底の散乱行列から議論をはじめる.
2. 1
散 乱 行 列
観測対象に対して水平
(H)
及び垂直
(V )
の直線偏
波
E
t H及び
E
Vtを成分にもつ入射界
E
tが入射した
場合の散乱界
E
sは,
E
s=
E
HsE
s V=
S E
t=
S
HHS
HVS
V HS
V VE
HtE
Vt(1)
と表現できる.ここで,各成分の下付き文字
HH, HV ,
V H, V V
は,散乱波と送信波の偏波状態の関係を表
す.式
(1)
における
2
×2
行列
S
は
Sinclair
散乱行列
と呼ばれる.本論文では,送受信アンテナが同じ位置
にあるモノスタティックのデータを扱う.この場合は,
相反定理より
S
V H= S
HVとなるので,散乱行列
S
は以下のようになる.
S =
S
HHS
HVS
HVS
V V.
(2)
PolSAR
画像データではピクセルごとに一つの散乱
行列が対応するので,観測対象がピクセル内に一つだ
け存在するような場合は,式
(2)
の散乱行列を直接解
析して散乱特性を調べることで対象を識別できる.一
方,観測対象が森林等の分布ターゲットの場合におい
ては,取得される画像(散乱行列)の時空間的な揺ら
ぎから対象についての情報を抽出するために,しばし
ば二次統計量を要素にもつ偏波行列が作られる.ここ
では,よく用いられる
3
× 3
の
Covariance
行列及び
Coherency
行列を示す.
2. 2 Covariance
行列
平均化
Covariance
行列
C
は二次統計量を要素に
もつ
3
× 3
エルミート正定値行列で,
C =
1
n
nk
Lk
†L=
⎡
⎢
⎣
C
11C
12C
13C
21C
22C
23C
31C
32C
33⎤
⎥
⎦
(3)
で定義される.ここで,
·
は隣接する
n
ピクセルの
空間平均,
†
は複素共役転置を示す.
k
Lは散乱行列と
等価な散乱ベクトル
k
L=
1
√
2
⎡
⎢
⎣
S
HH√
2S
HVS
V V⎤
⎥
⎦
(4)
である.第
2
成分に
√
2
が付されているのは,ベクト
ル
k
Lのノルムが散乱行列
S
のノルムと等しくなるよ
うにするためである.
2. 3 Coherency
行列
二次統計量を要素にもつ
3
× 3
の平均化
Coherency
行列
T
は
T =
1
n
nk
Pk
†P=
⎡
⎢
⎣
T
11T
12T
13T
21T
22T
23T
31T
32T
33⎤
⎥
⎦
(5)
で定義される.ここで,
k
pは
Pauli
散乱ベクトルで,
k
p=
1
√
2
Tr(
S σ
0), Tr(S σ
1), Tr(S σ
2)
T=
√
1
2
⎡
⎢
⎣
S
HH+S
V VS
HH−S
V V2S
HV⎤
⎥
⎦
(6)
で定義されるベクトルである.
Tr(
·)
はトレース,
σ
0,
σ
1,
σ
2は,
σ
0=
1
√
2
1
0
0
1
,
(7)
σ
1=
1
√
2
1
0
0
−1
,
(8)
σ
2=
1
√
2
0
1
1
0
(9)
である.
Pauli
散乱ベクトル
k
pの第
1
成分
S
HH+S
V Vは奇数回反射,第
2
成分
S
HH− S
V Vは偶数回反射に
対応する.
S
HH− S
V Vはしばしば人工物(建築物)
を示す指標として用いられる.
3. PolSAR
データ解析手法
本章では
3
× 3
の偏波行列を用いた
PolSAR
データ
の解析手法について述べる.
PolSAR
データから偏波情報を利用して観測対象の
分類・識別を行う場合,散乱メカニズムを考慮して分
解する「分解法」が有効である.分解法には,物理モ
デルを基とした分解法と,数学モデルを基とした分解
法がある.物理モデルを基とした分解法は,散乱メカ
ニズムに対応する基本偏波行列を用意して,それに
フィッティングさせるように測定偏波行列(
C
あるい
は
T
)を分解する手法である.
Freeman
と
Durden
が
1998
年に発表して以来
[15]
,山口の
4
成分散乱電
力分解法
[16], [17]
をはじめとして,様々な散乱電力分
解法が提案されている.一方,数学モデルを基とする
分解法は,偏波行列の固有値
/
固有ベクトルを用いて
分解する手法で,エントロピー
E
,角度
α
¯
,アンアイ
ソトロピー
A
の偏波指標を導入して観測対象を分類
することが多い
[9], [23]
.
以下に,散乱モデルを基とした分解法と固有値
/
固
有ベクトルを用いた分解法を簡潔に説明する.
3. 1
散乱モデルを基とした分解法
散乱電力分解は文献
[15]
∼
[22]
に示されるように,
多くの手法が提案されているが,
PolSAR
画像を用い
て観測対象の分類・識別に利用しようとする場合,極端
に大きな違いが見られないことが多い.本論文では,計
算コストが
Freeman
や山口の分解法と同等で,かつ分
解された電力が負になってしまう
Negative Power
問
題が発生しない利点を有する
NNED (Non-Negative
Eigenvalue Decomposition) [19]
という散乱電力分解
法を用いる.ただし,体積散乱成分は様々な植生の状
態に対応させるために,一様分布モデルではなく山口
の体積散乱モデル
[16]
を適用する.
Covariance
行列
と
Coherency
行列は互いにユニタリ変換の関係にあ
るので,どちらの偏波行列を用いても解析結果に違い
はない.ここでは文献
[19]
に従って
Covariance
行列
を用いた定式化を示す.
NNED
の
3
成分散乱モデル電力分解では,取得さ
れた平均化
Covariance
行列
C
を,
C = f
vC
volume+ f
dC
double+ f
sC
surf ace+ f
remainderC
remainder(10)
のように,体積散乱,
2
回反射散乱,表面散乱の基
本散乱モデルの
3
成分と,これらにフィッティングし
なかった「残り
(remainder)
」の成分で展開する(各
散乱モデルの展開行列は付録に示す).未知展開係数
f
v, f
d, f
s, f
remainderを決定することにより,全電力
P
tは各散乱メカニズムの電力
P
v, P
d, P
sと残りの電
力
P
remainderに分解される.ここで,体積散乱成分
が実際より大きく評価された場合,
C
remainder=
C − f
vC
volume(11)
で定義される行列
C
remainderの固有値が負になる,
すなわち
2
回反射散乱あるいは表面散乱の電力が負に
なる
Negative Power
問題が発生する.
NNED
では,
C
remainder
の固有値が
0
以上によるような条件を適
用して
f
vを決定することでこの問題を回避している.
更に,
f
vの決定後,
C
remainder
= f
dC
double+ f
sC
surf ace+ f
remainderC
remainder(12)
の関係式から,
C
remainderの固有値に対応させるこ
とで
f
d, f
s, f
remainderを決定できる.また,
C
double,
C
surf ace内に含まれる未定定数
α, β
も
C
remainderの固有ベクトルを考慮することで決定される.残り電
力
P
remainder(= f
remainder)
は
0
にならないことが
多いが,被災地観測においては,被災後に発生する瓦
礫等からの散乱とみなすことで役立てられる.
3. 2
固有値
/
固有ベクトルによる分解法
3
×3
エルミート正定値行列である平均化
Coherency
行列
T
は,固有値
λ
i(> 0)
,固有ベクトル
e
iによっ
て対角化できる
[23]
.
T = [e
1e
2e
3]
⎡
⎢
⎣
λ
10
0
0
λ
20
0
0
λ
3⎤
⎥
⎦ [e
1e
2e
3]
†=
3 i=1λ
ie
ie
†i,
(13)
e
i=
⎡
⎢
⎣
cos α
isin α
icos β
ie j
δisin α
isin β
ie j
γi⎤
⎥
⎦ .
(14)
ここで,偏波角
α
iは各固有ベクトル
e
iと
S
HH+ S
V V基底ベクトルとの角度,偏波角
β
iは
e
iと
S
HH−S
V V基底ベクトルとの角度を表し,
δ
i及び
γ
iはそれぞれ
e
iの第
1
成分に対する第
2
成分及び第
3
成分の位相
図 1 固有ベクトルeiと偏波角αi,βiの概念図
Fig. 1 Eigenvectoreiand polarization anglesαi,βi.
差を示す
[9]
.図
1
は,複素ベクトル空間の
Pauli
基
底ベクトルと固有ベクトル
e
iの関係をわかりやすく
可視化するために,実ベクトル空間で置き換えて描い
た概念図である.また,式
(14)
の
j (=
√
−1)
は虚数
単位である.散乱現象は,確率
P
i0
≤ P
i=
3
λ
i j=1λ
j≤ 1
(i = 1, 2, 3)
(15)
で起こる独立した三つの散乱メカニズム
e
iの和として
観測され,対応する固有値
λ
iは各散乱メカニズム
e
iの電力とみなせる
[9], [23]
.このため
PolSAR
画像に
おいて,各ピクセルの固有値・固有ベクトルの様子を
調べることで,ターゲットの識別や検出が可能となる.
被災建築物の検出が本論文の主目的なので,ここで
は偏波角
α
i, β
iに注目する.偏波角
α
i及び
β
iは,固
有ベクトル
e
iと
Pauli
散乱ベクトル
k
pとの間の傾き
を把握するための指標とみなせる
[9], [23]
.式
(15)
を
用いると,偏波角
α
iの平均
α
¯
は,
¯
α = P
1α
1+ P
2α
2+ P
3α
3(16)
と表現できる.
α
¯
が小さい場合は
S
HH+ S
V V,すな
わち表面散乱が主要な散乱メカニズムであることを示
す.一方,
α
¯
が大きい場合は他の散乱メカニズムの影
響が強いことを示す.同様に,偏波角
β
iの平均
β
¯
は
¯
β = P
1β
1+ P
2β
2+ P
3β
3(17)
と表せる.この
β
¯
の値を調べることで,
S
HH− S
V Vすなわち
2
回反射散乱の寄与を確認できる.
2
回反射
散乱が主要な散乱メカニズムとなるような観測領域で
は
β
¯
は小さな値となる.一方,交差偏波
S
HV成分が
多く発生し体積散乱の寄与が大きい領域では,
β
¯
の値
は大きくなる.
以上より,建築物の検出には
S
HH− S
V Vが主要と
なる条件
T h
1< ¯
α < 90
◦, 0
◦< ¯
β < T h
2(18)
を満足する必要がある.都市部の建築物群検出には,式
(18)
のしきい値
T h
1, T h
2を,おおむね
T h
1∼ 45
◦,
25
◦≤ T h
2≤ 35
◦の範囲で与えてやれば,良精度での
検出が可能となることが,文献
[24]
及び
[25]
での簡易
建築物モデルに対する
FDTD
法
[31]
を用いた偏波散
乱解析及び電波暗室での偏波散乱測定により確認され
ている.本論文でも上記範囲のしきい値を用いる.
4.
偏波オリエンテーション角補正
レーダ座標と観測対象座標の対称軸とが一致してい
ない場合,
PolSAR
データの補正が必要となる.
Pol-SAR
画像データを用いた建築物検出においては,対
象となる建築物群の配置方向がレーダ照射方向と大き
く傾いている場合,傾いた建築物側面からの反射に起
因して強い交差偏波成分
S
HVが発生する
[28]
.この
S
HV成分の一部が,レーダ座標と観測対象座標の対
称軸とが一致していない場合に発生していると考えら
れるため,ユニタリ回転行列
R
C(θ), R
T(θ)
R
C(θ) =
⎡
⎢
⎣
1 + cos 2θ
√
2 sin 2θ
1
− cos 2θ
√
2 sin 2θ
2 cos 2θ
√
2 sin 2θ
1
− cos 2θ −
√
2 sin 2θ
1 + cos 2θ
⎤
⎥
⎦ ,
(19)
R
T(θ) =
⎡
⎢
⎣
1
0
0
0
cos 2θ
sin 2θ
0
− sin 2θ cos 2θ
⎤
⎥
⎦
(20)
を用いて偏波行列
C, T
を回転させることで,
S
HV成分を小さくすることができる
[20], [26], [27]
.した
がって,
C
や
T
に対して偏波解析を行う前に,偏
波オリエンテーション角の補正
(Orientation Angle
Compensation: OAC)
C(θ) = R
C(θ)CR
C(θ)
†=
⎡
⎢
⎣
C
11(θ)
C
12(θ)
C
13(θ)
C
21(θ)
C
22(θ)
C
23(θ)
C
31(θ)
C
32(θ)
C
33(θ)
⎤
⎥
⎦ , (21)
T (θ) = R
T(θ)T R
T(θ)
†=
⎡
⎢
⎣
T
11(θ)
T
12(θ)
T
13(θ)
T
21(θ)
T
22(θ)
T
23(θ)
T
31(θ)
T
32(θ)
T
33(θ)
⎤
⎥
⎦
(22)
を実行することは,偏波情報を正しく評価する上で有
効な手段と考えられるため,様々な解析に
OAC
が適
用されている
[26]
∼
[30]
.特に,偏波オリエンテーショ
ン角と建築物の配置方向とレーダ照射方向との傾き角
が対応している
[28]
ので,式
(21), (22)
を実行するこ
とで,
PolSAR
データにおいては建築物の配置方向を
レーダ方向と正対させる効果が期待される.
なお,回転角
θ
は,
S
HV成分の電力を最小となる
ように,
dC
22(θ)/dθ = 0
あるいは
dT
33(θ)/dθ = 0
よ
り求められる.
5. PolSAR
データ解析
本章では
PolSAR
データの解析例を示す.はじめ
に,東日本大震災で被災した宮城県石巻市周辺の震災
前後を撮影した
ALOS/PALSAR
データの解析結果を
図
2
に示す.ここでは,隣接する
24
ピクセル
(=
レ
ンジ方向
2
ピクセル
×
アジマス方向
12
ピクセル
)
の
図 2 石巻市周辺の ALOS/PALSAR データに対する NNED散乱電力分解結果Fig. 2 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS/PALSAR quad-pol data around Ishinomaki city, Japan.
空間平均を行って
C
を求めた後,式
(21)
の
OAC
を適用した
C(θ)
に対して
NNED
散乱電力分解を
実行した.図は,
2
回反射散乱電力
P
dに赤色,体積散
乱電力
P
vに緑色,表面散乱電力
P
sに青色を割り当
てた
RGB
合成画像である.図
2(a)
は震災前の
2010
年
11
月
21
日,図
2(b)
は震災後の
2011
年
4
月
8
日
に取得されたデータである.建築物の指標である
2
回
反射散乱
P
dに着目して両図を比較すると,下部の海
岸沿いの広範囲の領域において,震災後の
P
dがかな
り小さくなっている様子がわかる.これは,大津波に
よる沿岸の人工物(漁港,工場,住宅)の被害が大き
かったため,
P
dが観測されなくなったと考えらえる.
被災前後の
P
dの差
|P
d(
震災前
)
−P
d(
震災後
)
|
を画像
にすると,被害領域がより明確にわかる
(
図
3)
.
次に熊本・大分地震の被災地の被災前後を撮影した
ALOS-2/PALSAR-2
データの解析結果を示す.図
4
は震災後の
2016
年
4
月
21
日に熊本市
(
左
)
から阿蘇
山
(
右
)
までを含む広域で取得された
PolSAR
データ
の解析結果である.ここでは,隣接する
32
ピクセル
(
=レンジ方向
4
ピクセル×アジマス方向
8
ピクセル
)
の空間平均を行って
C
を求め,
OAC
を適用した後
の
C(θ)
に
NNED
散乱電力分解を実行している.な
お,
ALOS-2/PALSAR-2
は,
ALOS/PALSAR
と比
較して観測周期が大幅に短いので,定期観測に加えて,
災害直後の緊急観測が行いやすくなっている
(
表
1
参
照
)
.図
5
は被害が大きかった益城町周辺を拡大した
画像である.図
5 (a)
は地震前の
2015
年
12
月
3
日,
図
5 (b)
は地震後の
2016
年
4
月
21
日に取得された
データである.図
2
での考察と同様に,建築物の指標
となる
2
回反射散乱
P
d(
赤色
)
に着目して震災前後の
図 3 石巻市周辺の|Pd(震災前)−Pd(震災後)| の画像Fig. 3 Image of|Pd(before)−Pd(after)| around
図 4 熊本周辺の ALOS-2/PALSAR-2 データに対する NNED散乱電力分解結果
Fig. 4 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS-2/PALSAR-2 quad-pol data around Kumamoto area, Japan.
表 1 多 偏 波 モ ー ド 時 の ALOS/PALSAR と ALOS-2/PALSAR-2の主な仕様
Table 1 Main characteristics of ALOS/PALSAR and ALOS-2/PALSAR-2 in Quad-pol mode.
ALOS/PALSAR ALOS-2/PALSAR-2 分解能 25m 6m 観測幅 20km 40km 観測周期 46日 14日 オフナディア角 約 21◦∼ 24◦ 約 25◦∼ 35◦
図を比較すると,住宅領域においては震災後に
P
dが
消滅しているピクセルが多く点在しているように見え
る.震災により全壊若しくは半壊した家屋の影響と思
われるが,石巻市ほどの広範囲におよぶ大規模損壊で
はなかったため,図
6
の
|P
d(
震災前
)
−P
d(
震災後
)
|
の
画像を用いても判断しづらい.
そこで,式
(18)
を用いた人工物(建築物)検出も
行った.式
(18)
の両式を満足する場合は
“
建築物
”
,
式
(18)
のどちらか一方の式を満足しない場合は
“
他の
散乱体
”
と判定した.ここでも,固有値・固有ベクト
ル解析を行う前に,平均化
Coherency
行列に
OAC
を
実行した.式
(18)
により震災前のデータで
“
建築物
”
と判定されていたピクセルのうち,震災後に
“
他の散
乱体
”
に判定が変わったピクセルを抽出したのが図
7
図 5 益城町周辺の ALOS-2/PALSAR-2 データに対す る NNED 散乱電力分解結果Fig. 5 Result of scattering power decomposition (NNED) for ALOS-2/PALSAR-2 quad-pol data around Mashiki-town, Kumamoto, Japan.
図 6 益城町周辺の|Pd(震災前)−Pd(震災後)| の画像
Fig. 6 Image of|Pd(before)−Pd(after)| around
Mashiki-town, Kumamoto, Japan.
図 7 震災後に “人工物 (建築物)” から “他の散乱体” に 判定が変わったピクセルの画像
Fig. 7 Image of the pixels that change from “man-made targets” to “other types of targets”.
である.なお,図を見やすくするため,散乱電力の小
さいピクセルは省いて表示している.正確な
ground
役場周辺の全壊若しくは半壊した家屋が多い地域(図
の中央下部分)で,
“
判定の変化したピクセル
”
が多く
観られているので,おおむね妥当な結果と考えられる.
6.
む す び
本 論 文 で は ,
ALOS/PALSAR
及 び
ALOS-2/
PALSAR-2
に代表される衛星
PolSAR
で取得され
る多偏波情報の利用方法の一つとして,地震被災住宅
の検出について述べた.散乱行列をもとに導かれる偏
波行列(
Covariance
行列と
Coherency
行列),及び
その解析手法(散乱モデルを基とした電力分解法と固
有値・固有ベクトル解析)を示し,被災住宅観測へ適
用する場合に必要となる条件,考慮しなければならな
い点について検討した.東日本大震災の被災地であ
る石巻市,及び熊本・大分地震の被災地である益城町
の
PolSAR
画像データに対する解析結果を示し,衛星
PolSAR
データの情報利用の有効性を明らかにした.
今後は,干渉
SAR
技術も取り入れ,広域自然災害
発生時の安全な避難・救出陸路の確保のための衛星
PolSAR
データ利用に関する研究を進めていく予定で
ある.
謝辞 本研究は
JSPS
科研費
(JP16K01285)
及び
ALOS-2
データ利用公募型共同研究
(
第
4
回
)(PI-1409,
PI:
佐藤亮一
)
の助成を受けたものです.レーダポーラ
リメトリに関して貴重なご助言をいただいた新潟大学
の山口芳雄先生,山田寛喜先生,
ALOS-2/PALSAR-2
データに関するご助言をいただいた
JAXA
の大木真
人氏に深謝いたします.画像解析処理を補助していた
だいた新潟大学教育学部電気研究室の学生諸君に感謝
いたします.丁寧に査読いただき,有益なコメントを
いただいた査読者の方々に感謝いたします.
文
献
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