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まえがき

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Academic year: 2021

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− 123 − 小特集 ヴァナキュラー文化研究会

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まえがき

安保寛尚

本特集は,2018 年 3 月 3 日に開催された,国際言語文化研究所・ヴァナキュラー文化研究会 シンポジウム「西欧の伝統に対するアフリカン・ディアスポラ文学の交渉と実践―アメリカ, キューバ,ブラジルを例に―」の成果の一部である。 このシンポジウムの構想は,アメリカ,キューバ,ブラジル文学を専門として,各国の黒人 文学に関心を寄せる 3 人が,合同で何か企画できないか話し合った場から生まれた。そこで提 案されたテーマは,黒人の身体性や特殊な時間軸,レトリックなど多岐に渡った。けれどもそ れらを結びつけるように思われたのが,西欧の伝統と交渉するアフリカン・ディアスポラの実 践という切り口だった。奴隷制によって,アフリカ人は転地と離散を繰り返しながら,近代世 界のネットワークに組み込まれた。しかし彼らの伝統は,決して切断・消滅することなく,西 欧の伝統との交渉の中で更新・改変・再創造されてきたのである。アメリカ,キューバ,ブラ ジルにおけるそのような実践に注目し,アフリカン・ディアスポラの伝統の連続性や多様性を 浮き上がらせることがこのシンポジウムの趣旨であった。 ここに掲載するのはまず,シンポジウムに登壇した岡島慶氏と筆者が当日行なった発表をも とに,これを発展させた論文である。岡島論文は,『見えない人間』の分析を通して,ラルフ・ エリスンの思想がアメリカ国家主義的なものではなく,ディアスポラの歴史観に根ざしたリカ バリーと自己再創造の物語であると説く。また,黒人音楽が生み出すダイナミズムが,偶発的 な変容を遂げる共同体の未来像を描いていると指摘した。 拙論は,ヘンリー・ゲイツ・ジュニアの『シグニファイング・モンキー』におけるレトリッ ク理論の構築プロセスに注目した。ゲイツは,アフリカ,キューバ,アメリカの神話とトリッ クスターをつなぎ,レトリック原理によって接続されるアフリカン・ディアスポラのネットワー クの地図を描いて見せた。この論文では,「中継地点」として挿入されたキューバの神話とレト リック原理としての統一性を批判的に分析し,その地図の書き換えを試みている。 そしてシンポジウムにコメンテーターとして参加した武井寛氏には,個別に論文を寄稿して いただいた。武井論文は,アメリカの住宅政策と人種問題を扱っている。1937 年に制定された 連邦住宅法によるスラム・クリアランスなどの住宅政策は,郊外における画一的コミュニティ の形成を促し,人種的・社会的隔離を進めた。そのような住宅問題に取り組む人々との関係によっ て,住宅改革家のキャサリン・バウアー・ウースターが,住宅と人種問題の意識をどのように 変化させたのかを明らかにしている。 岡島論文と拙論を読み通すと,アフリカン・ディアスポラの歴史や伝統が,音楽,レトリック, 神話,宗教など,ヴァナキュラーな文化実践において,ただ再現されるだけでなく,ダイナミッ クに再創造されていることに気づかされるだろう。武井論文はもちろん個別に読まれるべきで はあるが,バウアーが住宅政策による人種隔離の深刻化を訴え始めたのは,エリスンの『見え

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− 126 − 立命館言語文化研究 31 巻 1 号 ない人間』が発表された 1952 年とおよそ時期が重なる。したがってその論考は,部分的にせよ, 岡島論文で扱われるこの作品のコンテクストを補う役割を果たしている。 シンポジウムと本特集が,言語や分野を超えたアフリカン・ディアスポラ研究の発展につな がることを期待したい。

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