アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察 : 企業税制とのれん、課税管轄権を中心に
38
0
0
全文
(2) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). 税を行うようになった変遷の経緯を明らかにし、また、その過程で直面した諸 課題について、州政府の租税(州税)であることを念頭に考察を加えることで ある。それは、州政府間における課税管轄権の競合について過去の議論から得 られる知見は、将来的な国家間の課税管轄権の議論に資する基礎を提供するも のと思われるからである。そのうえで、法人所得税の課税にあたり、所得の帰 属に定式配賦法(FA: Formulary apportionment)7)を用いることとした場合、 その配賦要素に無形資産(のれん)を含めるべきであるかどうかについて論じ る。なお、定式配賦法における全般的な配賦要素の検討については、誌面の都 合により別の機会に譲ることとする 8)。. 一.1900 年代初頭の時代背景 1902 年時点で、州政府の歳入のおよそ半分は財産税で占められており、残 りは個別消費税(excise tax)等であった 9)。アメリカ合衆国において、州政 府による近代的な所得課税制度が創設されたのは、1911 年のウィスコンシン 州 10)が初めてであるとされる 11)。 そこで、法人所得税の議論に入る前に、まず、当時の財産税の議論のうち、 州際企業が所有する資産の課税管轄権を中心に、州法人所得税と係わりのある 部分について本稿で扱うこととする。 NTA では、財産税(従価税)の分野で、州際企業が所有する資産(価値) を各州に配分する方法の議論が行われており、1916 年に車両等の走行可能な 資産について一応の結論が示されている。他方で、企業を継続企業価値で評価 した場合の、個別資産の価値の合計を超過する部分の取扱いが課題とされる。 これらののれんを含む無形資産の評価は、投下資本利益率の計算(分母)をと おして、 州政府による営業許認可の規制(公共運送業における上限運賃規制)や、 連邦政府による超過利潤税と係わりがある。 また、産業の発展に伴い、従来の税制だけでは十分な財源が確保できない州 176.
(3) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 政府にとって、産業インフラの受益者である企業への新しい課税方法が模索さ れていた時期であった。. 二.財産税と課税管轄 (1)動産の配賦 1915 年の NTA 年次総会で「複数州に存在する州際資産の各州への帰属割 合の決定方法について、調査報告のための委員会設置を求める」決議がなさ れ、複数州の管轄に服する財産への課税 12)のための配賦(apportion)の公平 な(equitable)方法を報告することが求められていた 13)。これを受け発足し た委員会は、翌 1916 年の年次総会 14)でその検討結果を報告した。 当時、財産税について、継続企業体としての企業全体の価値を考慮すること はせずに、法人資産の構成要素単位でその所在地(situs)で課税する仕組みが 確立されていた 15)。そこで、有形動産は、通常、その所在地で課税が行われた。 動産の所在地は、当初、その所有者の居住地(domicile)16)であるとされたが、 やがてこのルールは変化し、州内に恒常的に所在することがあきらかなものに ついてのみを課税することとされた 17)。 車両や船舶といった走行可能な動産は、課税の所在地決定の訴訟が頻繁に起 こされていたため 18)、NTAでは車両の配賦方法について、①車両日数を基 準とする方法、②トンマイル(輸送容積距離)を基準とする方法、③路線距離 を基準とする方法、④入替機関車など一つの州内に恒常的に存在する財産につ いてはその実在の所在地に、残りの車両については距離を基準に配賦する方法、 の 4 種類の方法について検討を行っている 19)。まず、①の方法について、鉄 道会社は、通常、日数が分かる記録を保持しておらず、また、この情報を得る ためには費用が生じることとなり、費用対効果の点でこの方法は正当化されな いとした。②の方法については、ほとんどの鉄道会社は州間で分割されたトン マイルの記録を保持しておらず、また、そもそもトンマイルが適切な基準であ 177.
(4) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). るかどうかについて疑義があるとし、さらに、空車の輸送距離を完全に無視し ているため、たとえば、帰路に運ぶ貨物がなく空車を運搬した場合、その距離 は無視されることとなるとして反対した。③の路線距離を基準に配賦する方法 については、経済的に優れた方法であり、裁判所によりたびたび支持された方 法であると評価しながらも、一定の車両が特定の場所だけで用いられてはいな いという事実の前提が必要である 20)とした。また、州により産業規模が異な るため、この方法が車両の所在地を公正に表しているかどうか疑義が生じる可 能性があるとし、必ずしも車両の所在地を反映していない可能性について言及 している。最後に④の方法について、入替機関車など一つの州内に恒常的に存 在する財産についてはその所在地に割り当て(assign)し、他の全ての財産の 価値については、車両の種類に応じて実態に即した(機関車の価値が各州に帰 属する割合は、全ての機関車の走行距離の合計に占める、全ての種類の機関車 による各州内での走行距離の比率を用いる。客車の価値は、全ての客車の走 行距離の合計に占める、各州内での走行距離の比率を基準に、各州に帰属さ せる 21))基準により、配賦(apportion)されるべきであるとした。 ここで、NTAが排除した①の方法(車両日数を基準とする方法)は、課税 管轄内に課税対象である車両が所在していた日数による、課税対象との関係性 において直接的な基準である。そこで、課税対象とその所在地の関係性を重視 したならば、①の方法が合理的な方法として選ばれたであろう。 一方で、実務で用いられていた③の方法(路線距離を基準とする方法)は、 課税対象である車両そのものではなく、車両が路線を平均的に走行しているこ とを前提として、その距離を基準に配賦するものであり、配賦基準と課税対象 との間には間接的な対応関係しか見いだすことができない。ここで仮に、実際 には車両が路線を平均的に走行していなかったとするならば、この方法による 車両の価値の配賦計算は経済的な実態を反映していないこととなる。 それにもかかわらず、課税対象の車両そのものではなく、距離を用いた基準 が容認された理由は、費用対効果の観点からの判断であろう。つまり、課税管 178.
(5) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 轄権の競合の問題解決にあたり、経済的実態を精緻に追究することによる企業 と政府の負担が、それにより得られる利益よりも大きいと考えるならば、他の 簡便的な方法を採用するという判断もあり得るのである 22)。これは、その後 のアメリカ合衆国の州法人所得税で間接的な配賦基準である定式配賦法が採用 されるに至る素地があったことを示すものであるといえよう。 そして、各課税管轄への分割について、まず特定の州との係わりの強いもの についてその州に帰属させたうえで、その他の残りを何らかの基準を用いて配 賦するという段階的な帰属の方法は、その後の州法人所得税の配賦 23)の仕組 みの原型であるといえる。. (2)企業資産の評価 1915 年 の NTA 年次総会 で は、上述 の 内容 に 加 え、 「州際法人企業 の 継続 企業としての価値の分配」について考慮することが委員会に求められていた。 しかし、この州際法人企業の継続企業としての価値の分配はとても困難であ り、また多様な観点からの検討が必要であったことから、その状況について翌 1916 年の総会で次のように報告されている。 「無形資産の価値の分割について 言及した一般的性質の法(general law)は存在せず、また調和のとれた実務 への注目に値する一般的方向性も存在しない。多様な実務のなかには、多数の 相容れない原則のもとで課税がなされ、結果的に、複数の州が同一資産に課税 する一方で、ある資産はまったく課税から逃れているケースが生じている」24) とあり、統一ルールの欠如を原因とした「多重課税または課税漏れ」が生じて いたことを示しており、これを解決するための方法が必要とされていたのであ る。 この課題について、委員会は「会社資産を全体として評価すること」あるい は「州ごとに収益と費用を配分(allocation)すること」の 2 点を指摘し、こ れらの方法について、NTA 以外の組織によりこの 5 年間に多くの考察がなさ れていることを踏まえ、以下のように報告している。 179.
(6) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). まず、会社資産を企業全体として評価することについて、 「近年の州による 法人資産の評価は、資本と運賃の規制および課税目的であったが、その結果の 係争は相反する方法と原則を顕在化した」25)とあり、順調ではなかったことが わかる。なお、ここで、州政府が資本と運賃の規制を目的として企業資産を評 価しているとあるのは、当時、州政府は、投下資本利益率を用いて上限運賃の 規制を実施していたためである 26)。また、この事態の対応として成立した連 邦法 27)は、州際事業を営む全ての公共運送業者および電信電話会社の評価を 求めたが、それは必ずしも課税目的だけではなかった 28)にもかかわらず、 「同 法は、明らかに継続企業価値での資産評価を要求していたにも拘らず、州の代 表は、州際通商委員会から要求されるまで、そうすべきではないと主張してい た」29)とする記録もあり、継続企業価値による評価が実際には困難であったこ とが窺える。このためNTAは、州際通商委員会による今後の展開を待つべき であるとし、結論を先送りしている。 次に、州ごとに収益と費用を配分(allocation)することについて、 「全米州 鉄道局長協会(National Association of State Railway Commissioners)に よ る 数年間にわたる活発な議論が行われている。1911 年、同会の委員会は、全米 鉄 道 会 計 責 任 者 協 会(National Association of American Railway Accounting Officers)の委員会と合流し、当時点において、この目的のための満足なルー ルを用意することは不可能であると報告された」30)として、この方法による解 決も実際には困難であったことがわかる。なお、この委員会は、翌 1912 年に、 この問題は非常に複雑でありターミナル・コストの慎重な研究が解決されるま で直接的な議論を延期することが望ましいとして結論を先送りしている。なお、 ターミナル・コストとは、文字どおり駅(ターミナル)での業務に関連して発 生するコストであり、たとえば駅の建設・維持、切符の販売・改札・集札、荷 役のコストがある。ターミナル・コストは、輸送距離に比例しない固定費であ るため、運賃設定にあたってはターミナル・チャージ(基本料金)として回収 されることとなるが、たとえば均一運賃を採用することにより改札・集札のコ 180.
(7) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. ストが削減できる一方、長距離客の輸送距離に比例するコストを短距離客が負 担することになるなど複雑である。 そして、NTA の委員会の意見として、 「州際資産の価値の配賦は、州内の 純利益(net earnings)に関連付けて行われなければならない」31)とし、 「早い 時期の収益と費用の配分に関する統一に努められるべき」32)と纏めている。仮 に州ごとの純利益が計算できるならば、これを基準として、企業を全体として 評価した場合の継続企業価値を各州に配分することは難しくない。つまり、州 ごとに計算された純利益を、各州の上限運賃規制で用いられている投資利益率 で還元する(資本還元率で除す)ことで、州ごとに分離された企業価値を計算 することが理論的には可能である 33)。 報告の最後には、 「現時点では、配賦のための方法は何も提案できないが、 この問題の検討を継続させ、次回の総会で展開を報告する」34)ことを勧告して いる。. (3)継続企業価値 前述のとおり、当時の財産税は、継続企業価値(going concern value)を考 慮することはせずに、法人資産の構成要素単位でその所在地(situs)で課税す る仕組みが確立されていた 35)。 継続企業価値とは、 (のれんなどの事業経営に関する一切の資産を含む)企 業を全体として評価した場合の価値のことであり、たとえば、その企業の買収 を検討する場合に考慮される価値である 36)。この継続企業価値に対応する概 念(対義語)が、企業を構成する個々の資産を別々に評価した場合の価値であ る清算価値(liquidation value)であるが、当時の財産税は、この清算価値を 基準に企業への課税が行われていたことになる。そこで、財産税の評価にあた り、清算価値を用いて個別の資産を評価することにより、継続企業価値との差 額、つまりのれんをはじめとする無形資産については評価から除外され、課税 ベースから漏れる結果となっていた。 181.
(8) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). 企業を全体として評価した場合の継続企業価値のうち、個々の資産の清算価 値の合計を超過する部分は、ビジネスモデルや組織力といった様々な経営資源 の組み合わせによる(シナジーを追求するため経営戦略のもとで調和させられ た)稼ぐ仕組みのことであり、いうならば無形資産である企業システムそのも のの本源的な価値である。この価値への課税が漏れていたのである。 1900 年代初頭、産業の発展に伴い、従来の財産税の仕組みでは十分な財源 が確保できない州政府にとって、産業インフラの受益者である企業への課税方 法が模索された。まず、既存の財産税の強化として、企業の無形資産(のれん) への課税を試みたわけであるが、評価の問題、各課税管轄への分割の問題がそ れに立ち塞がっており、困難を極めていた。そこで、NTA では、次にみるビ ジネス・タックスの可能性に希望の望みが託されたのである。. 三.ビジネス・タックスの誕生 (1)ビジネス・タックスの根拠 この時期、NTA ではビジネス・タックス(business tax)37)への期待が高 まっていた。当時、前述のとおり無形資産への財産税課税が困難を極めてい た 38)ことの不満に加え、政府活動の活発化に伴う州政府の歳出急増 39)、さら に従来からの財産税と新しい所得課税 40)による多重課税が問題となっていた。 1916 年 11 月 の 州税地方税 に 関 す る 模範税制委員会(committee upon a model tax system)の設置後、ただちに意見交換が開始され、解決策は所得税 と財産税の組合せのなかに最良の方法があると考えられたものの、第一次世界 大戦への参戦 41)もあり、なかなか議論に進展がなかった。このような状況の なかで、この問題解決にあたり、ビジネス・タックスが必要であるとの意見が あり、委員会は、この主題について造詣の深いイェール大学のアダムズ教授 42) に 1917 年の総会のための論文を依頼することとなった。 アダムズ教授は、アメリカ合衆国の国際租税政策の起草において中心的な役 182.
(9) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 割を果たした著名な研究者である 43)。 このような経緯で 1917 年 11 月にジョージア州アトランタで開催された第 11 回 NTA 年次総会(6 セッション)には、委員会の報告に代えて以下で紹介 するアダムズ教授の論文が提出された 44)。 アダムズ教授は、まず、 「ビジネス・タックスは、世界中でほぼ普遍のもの であり、将来にわたり消滅する気配はない」45)とビジネス・タックスの可能性 を高く評価する。そのうえで、企業に課税する根拠を以下のように説明する。 「政府コストの大部分が、適切な企業環境を維持するために用いられている。 (中略)企業は、裁判所、警察、消防、軍隊といった任務に費やすコストに責 任を負っている。新規企業は新たな任務を生じさせ、新たな公的支出を必要と させる。 (中略)民間企業と政府のコストの関係性は、厳密ではなく、鉄道の 費用と輸送量の関係に類似している。しかしながら、この関係は実在しており、 長期的には、ビジネスの増加に伴い政府の一定の基礎的なコストは増加するで あろう」46)として、企業が社会のインフラを利用するにあたり、政府は企業に そのコストの負担を求めるという、応益説的な立場の説明である。それも、 「政 府コストの大部分」といった、やや強めの表現が用いられているが、その理由 として考えられるのが、1900 年代初頭の時代背景である。つまり、この時代、 従来の公共性の高い企業(鉄道会社や電信電話会社)のみならず、自動車会社 の GM 社 (前身のビュイック・モーター社の設立は 1903 年) やフォード社 (1903 年設立) 、クライスラー社(1925 年設立)といった巨大企業が次々に誕生した。 このようななかで、急増する政府支出 47)について、その恩恵にあずかる企業 に適切な負担を求めようと考えたのは自然な発想といえよう。そして「政治的 および道徳的な見地から、この優れた類の課税が正当化されることは明白であ る」48)として、企業が社会的に負担すべき当然の租税として、新しいビジネス・ タックスの必要性を唱えたのである。また、このビジネス・タックスの対象と なる企業は、法人に限らず、あらゆる企業活動を営む主体が含まれることとな る。つまり、ビジネス・タックスは(市場等の社会インフラを利用する)企業 183.
(10) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). 活動に対して課せられるものであり、企業活動を営む限りにおいては、それが 法人であっても非法人であっても課せられるのである。. (2)ビジネス・タックスと個人所得税の関係 さらに、アダムズ教授は、企業が負担するビジネス・タックスと、個人所得 税との関係について、以下のように区別して捉える。 「企業 の 純所得(net income)へ の 課税 は、個人所得税(personal income tax)とは明確に区別されなければならない。 (中略)個人所得税は、個人に対 してその消費の能力に課せられるものであり、その個人の居住地に帰属する。 これに対して、企業の所得税は、生産力または商業能力に課せられるもので、 その所得の源泉地に帰属する。 」49) ポイントは、個人の所得税はその消費能力に対するものであるのに対し、企 業の所得税は、生産力・商業能力に担税力を見出している点である。つまり、 アダムズ教授は、ビジネス・タックスと個人所得税は別個のものであるから区 別すべきである、と主張しているのである 50)。また、法人企業の場合、ビジ ネス・タックスは企業活動を営む法人段階で課せられるべきものであり、資本 の所有主(株主)段階での課税とは、別個のものとして捉えられることとなる 51). 。そして、アダムズ教授は、組織単位、企業の確立された部門単位で、法的. に課税できるとする。これは、配分に関する複雑な問題を引き起こすが、この 問題は複数の課税管轄で事業を行う組織の所得または資本に対して課せられる 「あらゆる」租税の適用において発生する問題であるとし、次で検討する解決 策の素案、すなわち現在の州法人所得税で用いられている定式配賦法の考え方 の素案を提唱する。. (3)ビジネス・タックスの課税管轄 ビジネス・タックスの課税管轄について、 アダムズ教授は、 まず 1 つのユニッ トとしての企業の純所得を計算し(つまりユニタリー事業全体の純所得を計算 184.
(11) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. し) 、その後、事業の資産および賃金給与に基づいて純所得を分配することを 提案している。具体的には、以下のように説明する。 「純所得の一部について、つまり資産の純額の 6%を有形資産の所在地に従っ て分配する。これは、より説明が難しいビジネスの要素を考慮に入れる前の段 階の、投資に対する公正な利回りと仮定する。その後、事業の正当な要素であ る生産、マーケティング、販売、そして購買でさえも、賃金および給与の支出 額に従う配賦により、大雑把ではあるかもしれないが、公正に認識されること となる」52)とし、 つまり、 企業の純所得のうち、 まず資産の 6%を有形資産の「所 在地」を基準に課税管轄に帰属させ、残りを賃金給与の金額を基準に配賦する というのである。この発想は、単に資産を所有することによる所得と、ビジネ ス(組織)の活動による所得との計算上での分割を試みるものといえよう 53)。 この引用部分の分析を行うまえに、6%というやや唐突感のある数字について 先にコメントをする。 「資産の純額の 6%」という数字は、この論文の報告年 (1917 年)の Standard & Poor’s 社による高格付け地方債の利回りは 4.2% 54)で あったことから、 (ビジネスの要素を考慮しない場合の)資産に対する投資利 回りについて、高格付け地方債よりも多少のリスク・プレミアムを上乗せした ものではないかと推測される。このような言い回しは、NTA における他の記 録でも、 「事業を行っていないあるいはリスクを負っていない納税者が、債券 または優先証券への投資で 5 ~ 6%の利回りが保証されているとする。この納 税者が企業に投資する場合には、当然に追加的な利回りを期待するであろう。 合衆国財務省により収集された情報によれば、成功している企業が得る平均投 資利回りは 10 ~ 12%である。言い換えると、資産は単独では 5 ~ 6%の利回 りであるのに対し、資産にビジネスが加われば、10 ~ 12%になる」55)という 記録があるため、当時、ここでいう 6%という数字は議論参加者の間で違和感 なく受け入れられる数字であったと思われる。そのうえで、資産の純額の 6% を有形資産の「所在地」にいわば優先的に配分するとしたのは、当時の州税の 主力はまだ財産税であったことから、その考え方に囚われたところが大きいだ 185.
(12) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). ろう。そして何よりも、州政府にとって、税収の主力が財産税からビジネス・ タックスによるものへと移行するに際し、移行後も財産の価値を基準とする部 分について優先的な分配が行われるということの安心感の効果を期待したので はないかと思われる。つまり、 ここで、 財産税からビジネス・タックスへと(動 産への財産税を廃止しビジネス・タックスに一本化するという)税制のルール を変える税制改革を提唱するにあたり、州政府はそれまでの財産税からの税収 を失うことについて危機感をもつことが予想される。そこで、それを和らげる 効果が期待できる要素(移行後も優先的な配分が行われる)を予め盛り込むこ とにより、ビジネス・タックスをスムーズに導入することができるのではな いかとも考えたのではなかろうか。なお、後のいわゆるマサチューセッツ方 式 56)と呼ばれる配賦計算式でも、有形資産の価値は、配賦要素のひとつとし て引き継がれている。 また、残余部分の利益についてを、賃金給与を基準に配賦するとした点につ いても、賃金給与は、生産、マーケティング、販売、購買などの多くの企業活 動をカバーするものであり、また当時の産業が労働集約型であったことを考え れば、合理的であったといえよう。何らかの分かりやすいもの(ここでは有形 資産、賃金給与)を基準として配賦する方法は、まさに、現在の州法人所得税 で用いられている定式配賦法の考え方の素案であるといえる。 さらに、アダムズ教授は、 「この配賦方法は、単なる経験則に基づく簡便法 に過ぎない。ゆくゆくは、配分についての複雑な問題を、より科学的に解決し なければならなくなるであろう」57)とし、企業活動の実態に即した配賦方法の 検討を見越しているのである 58)。 もっとも、その後で「最も必要なものは何かといえば、統一したルールであ る。競合する課税管轄による同一ルールの全面的な採択は、どのルールが選ば れるかよりも遥かに重要なことである」59)とも述べており、定式配賦法の成功 のためには、 (科学的な正確性も大切ではあるが)同一ルールを共同して採択 することの重要性も説いている。つまり、定式配賦法の目的は、多重課税また 186.
(13) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. は課税漏れを防ぐことであるから、この目的を達成できるのであれば、その方 法が科学的な正確性を犠牲にすることもやむをえないということであろう。と はいえ、この目的達成のためにも、当事者の合意を取りつけるうえで、科学的 な見地は説得力のある証拠のひとつであることは間違いない。. (4)ビジネス・タックスの課税標準 それでは、ビジネス・タックスの成功のためには、何を課税標準として用 いるべきであろうか。アダムズ教授は、まず、総事業(所得)60)に課税するこ との可能性について言及する。 「総事業(所得)への課税は、公式調査を必要 とせず、損失や減価償却などの複雑な問題が生じることがなく、純所得(net income)に課税する場合と比べて、競合する管轄間での配分が容易である」61) と、その長所を挙げ、またその具体的な適用について、 「おそらく、企業課税 の最も厳格な論理的な方法は、総事業(所得)に、取引または業界の各種クラ スに対応する異なる税率(これは取引または業界の各種分類の純所得と総事業 (所得)の通常の関係性または平均的な関係性により識別される)を課すこと である」62)と、業種ごとに推計された収益力による間接的な課税方法を説明す る 63)。 この総事業(所得)に課税する根拠として、さらにアダムズ教授は、以下の ような噛み砕いた説明で補足する。 「政府は企業に、 『あなたは、我々の社会で我々の市場を利用しています。あ なたは、あなたの同業者と同様に取引を行っています。あなたが、あなたの同 業者と同様の機会(opportunity)を利用したかどうかは、政府には関係あり ません。あなたの取引の総量(gross volume)は、 あなたの機会を表すとともに、 政府の経費を生じさせる原因となります。そこで、あなたは納税しなければな りません』と述べるであろう」64)。これは、政府が企業に、その企業活動の成 果に関係なく、むしろ、事業の機会を利用することについて、つまり市場にア クセスすることのいわば参加料を徴収するという発想であるといえよう。つま 187.
(14) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). り、 「政府の経費を生じさせる原因」ともあるように、 ビジネス・タックスを (納 税者の担税力というよりもむしろ)政府の経費との関係で捉えた発想であると いえる。確かに政府の経費の発生は、企業活動の成否(企業努力)と直接の関 係はないであろうから、この考え方にも一理あるように思われる。 アダムズ教授も、この考え方について特段の異論を唱えるつもりはないとし たものの 65)、より実践的で成功する可能性が高い印象の原理として、アダム・ スミス(Adam Smith)教授の「公平の原則」を引用 66)したうえで、あらゆる 租税について完全な尺度というものは存在せず、純所得も完全な尺度ではない ものの、総所得と比較して優れた尺度であるとして、純所得(net income)を 課税標準として用いることを提唱した 67)。 ここで純所得を課税標準とすることの優れた点として、未熟な産業を育成し、 不況の年にはあらゆる産業を保護し、産業界の研究開発を促進する点を挙げて いる。さらに、過去の経験を踏まえて、実務的に、仮に総所得または総事業(所 得)に課税する場合に設定が必要とされる多数の税率を区分する不快な作業 (invidious task)から解放される点についても言及し、産業育成を含む総合的 な観点から、純所得をビジネス・タックスの課税標準として用いることが相応 しいとした。. (5)ビジネス・タックスの税率構造 ビジネス・タックスについて、アダムズ教授は、単に純所得を課税標準に用 いることのみならず、さらに、累進的に課税 68)するべきであるとする 69)。ま た、その可能性について、 「企業に累進的な所得課税を行う根拠を得ることは 困難に感じられるかもしれない。この問題は、長い間、理論を探求する租税研 究者を悩ませ続けてきた。信じるべき理由のある解決策が、いま発見された。 それは厳密な解決策ではないが、 ほぼ正確な解決策である。超過利潤税(excess profits tax)は、昨年または一昨年に初めて採用され、現在では 14、15 カ国に 普及しており、多くの国々で魅力的な歳入を生みだしている」70)と、ここで「い 188.
(15) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. ま発見された」とあるように、やや興奮気味に、当時世界的な広がりをみせて いた超過利潤税をとりあげ、累進的な課税を正当化する。つまり、全ての企業 の純所得に対して軽税率の所得税を課すが、通常以上に成功した企業に対して は重い税率あるいは重い租税を課すべきであると主張し、アメリカ合衆国の超 過利潤税は本質的にビジネスからの純所得に対する累進的な付加税であると位 置づけている。さらに、この時点ではまだ結論に至ってはいないものの、 「超 過利潤税は、アメリカ合衆国の租税制度の恒久的な要素として継続する可能性 が非常に高く、そうなれば、連邦政府に限れば、企業への累進的な所得課税と なる」71)と、個人的な見解とは断りつつも、強い調子で法人企業に累進的に課 税することの将来性を示唆しているのである。. (6)超過利潤税と投下資本利益率による州政府規制 ここで、アダムズ教授が、 「超過利潤税」を高く評価していることに注目を したい。 当時、連邦政府は、第一次世界大戦の戦費調達、戦争による好業績企業群の 追加利潤の掬いあげを目的に通常の租税に付加する形での数々の増税を実施し た。1916 年 9 月に法人資本課税(capital stock tax)を導入 72)し、また 1917 年 3 月にはカナダの制度を参考に超過利潤税法(excess profits tax law)を制定 した 73)。 なぜ、アダムズ教授は、 (アメリカ合衆国国内でも実績のある法人資本課 税 74)ではなく)未だ実績の乏しい超過利潤税を引き合いに出し、これに将来 性を見出したのであろうか。 アダムズ教授の別の論文によれば、この超過利潤税の課税の根拠は、企業に よる通常を上回る成功に対する州の取り分であり、コミュニティにより提供さ れたファシリティ、援助、環境の利用対価であるという 75)。 超過利潤税制度は、年間の純所得のうち、$5,000 の法定控除および実際の投 下資本額(actual capital invested)の 8%を超過した部分について、8%の税率 189.
(16) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). で課税される予定であったが 76)、実際には、水増株(watered stock)と、特権、 のれん、その他の無形資産の評価に関する困難性により、投下資本額の確定が 非現実的であることを理由に断念 77)され、その代わりとして、同年 10 月 3 日、 1917 年歳入法 78)に よ り 戦時超過利得税(war excess profits tax)が 創設 さ れ ている。この戦時超過利得税制度は、内国法人の場合、純所得のうち、原則と して投下資本額に戦前の期間(1911 年、1912 年、1913 年)79)の投下資本利益 率(ただし 7 ~ 9%の範囲)を用いて計算した利得額および法定控除$3,000 の 合計を超過した部分について、20%~ 60%の 5 段階による超過累進税率が課 せられるものである 80)。なお、戦時超過利得税の対象は、法人(原則として 純所得$3,000 以上内国法人、国内源泉による純所得が$3,000 以上の外国法人 81). ) 、 パートナーシップ(原則として純所得$6,000 以上の内国パートナーシップ、. 国内源泉による純所得が$3,000 以上の外国パートナーシップ 82))および個人 (原則として営業、事業または職業の遂行による純所得が、$6,000 以上の合衆 国市民または居住者、国内で遂行されたこれらからの純所得が$3,000 以上の外 国人 83))であり、 (法人資本課税とは異なり)法人に限定されるものではなく、 基本的に企業を対象とするものである。 もっとも、この戦時超過利得税も、1918 年歳入法 84)で、超過利潤の基準に ついて当時のイングランドの制度を採り入れた戦時利得及び超過利潤税(warprofits and excess-profits tax)として代えられている 85)。ここでいう超過利潤 とは、純所得のうち、投下資本額の 8%および$3,000 の法定控除の合計額を超 過した部分をいい 86)、投下資本額の 20%までの部分は 30%の税率で、投下資 本額の 20%超の部分は 65%(1919 年度以降は 40%)の税率で課税されるもの である 87)。ただし、別の方法による戦時利得税の計算による税額 88)が、この 超過利潤の計算による税額を上回る場合には、戦時利得税の計算による税額を 納めることとされていた 89)。これは、投下資本額に動きがない(ビジネスが 同じである)にも関わらず、戦時を背景に所得が大幅に増加するケースを想定 したものといえる 90)。つまり、この 1918 年の制度においては、超過利潤税の 190.
(17) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 計算と、戦時利得税の計算の 2 種類の計算方法が用意されており、いずれか高 い方の税額が適用されることとなっている点で、現行の連邦税法における代替 ミニマム税(alternative minimum tax)の制度 91)と同じであり、課税の公平を 保つための制度設計の先駆けであったといえる。 さて、ここで、超過利潤税の計算では、投下資本利益率という尺度が用いら れていることについて触れておきたい。 (前年 1916 年の NTA 総会でも議論さ れた)州政府による鉄道業への運賃規制でも、州政府は、営業免許を付与して いる鉄道会社に投下資本利益率という尺度を用いて上限運賃規制を行い、大資 本による超過利潤の稼得を統制していた。連邦政府による超過利潤税も、投下 資本利益率という尺度を用いた規制を行ったのである。 投下資本利益率(ROA)は、事業からの総合的な収益性を示す財務指標で あり、つまり事業の利回りを示すものであるから、一般に高いほど収益性が高 い企業として評価される。そこで、企業の経営者はこの指標を高めるように経 営を行う 92)。とくに資本市場からのプレッシャーを受ける上場企業の場合に は尚更のことであろう。 ところが、規制を受ける事業の場合には、この指標を低く見せかけようとす るインセンティブがはたらくことがある。総合的な収益性を表す投下資本利益 率は、事業の収益性を示す売上高利益率と、資本運用の効率性を示す総資本回 転率に分解することができるが、規制企業の経営者は、この利益率が高いこと を隠す目的で、総資本回転率の数値を故意に低くなるように操作し、表面的に 利益率を引き下げようとするインセンティブがはたらく。具体的には、資本を 水増しし、総資本を大きく見せかけることで、総資本回転率、そして投下資本 利益率を低く見せかけることが可能となる。このように、法人による企業結合 を利用したのれんを含む無形資産の積極的な計上(資本の過大計上)は、州政 府による上限運賃規制を回避し収益拡大をねらう目的のみならず、連邦政府に よる超過利潤税を回避する目的でも、魅力的であった。 鉄道会社においても、19 世紀後半から、株式を用いた企業結合が積極的に 191.
(18) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). 進んでおり、発行した株式の金額をもって資産計上するなどの方法でのれんを 含む無形資産を計上し、資本の過大計上が行われることがあった。 これについて、1918 年歳入法(戦時利得及び超過利潤税)は、超過利潤の 計算で控除される投下資本額の計算にあたり、様々な制限を設けている。有形 資産については、調達価格(原価)での評価を基本とし未実現の評価益は原則 として除外され、また、無形資産については、株式の交付により取得された場 合には社外流通株式総額の 25%までと制限が設けられた 93)。なお、ここでい う 無形資産 に は、特許権、著作権、秘密製法(secret processes or formulae) 、 のれん、商標、ブランド、特権、および類似する資産が含まれる 94)が、広告 宣伝費等の支出については、その成果の価値にかかわりなく基本的に費用処理 されるものとし、いわゆる自己創設のれんは投下資本額の計算から除外された 95). 。このように、連邦法において、無形資産の一部について評価に制限を設け. るなどの措置が講じられていた。. 四.財産税からビジネス・タックスへの移行 (1)企業ののれんと担税力 1900 年代初頭は、産業の発展に伴い、従来の財産税だけでは十分な財源が 確保できない州政府にとって、産業インフラの受益者である企業への課税方法 が模索された時期である。そこで、州政府は、まず既存の財産税の強化として、 企業の無形資産、とくに企業結合により生じたのれんへの課税を検討した。つ まり、前述のとおり、従来の財産税は、企業が所有する個々の資産を個別に評 価し、これに課税する、清算価値を基準とした課税であった。これを、企業を 全体として評価し、これに課税する、継続企業価値を基準とした課税の方法に 変え、 課税ベースを拡大することを試みたのである。その結果は、 実際には(評 価額と各課税管轄への分配の問題から)困難を極めたのであるが、ここでは、 理論的な側面から若干の考察を加えたい。 192.
(19) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 継続企業としての企業価値(のれんを含む継続中の企業の収益価値)のうち、 個々の資産として識別できない部分(本稿でいうのれんの価値)は、その企業 の将来の超過収益力を反映するものである 96)。そこで、のれんの価値に対し て財産税を課すことは、将来に見込まれる所得への課税ということになる。企 業の将来に見込まれる所得は、端的に言って、不確実なものであり(その不確 実性の程度も、社債や不動産といった通常の資産への投資と比べて高いものと いえよう)97)、また評価の時点では企業に納税のための現金の裏付けもないも のであるから、十分な担税力を有しているとは言い難い 98)。つまり、財産税 をのれんの価値に課税しようとする試みは、いわば、将来の(未実現所得とい うよりも)不確実な所得の見積りに対する課税の試みということになる。 ここでの議論にあたり重要なことは、政府機能の増大に伴う税収確保を強化 する必要性の観点から、担税力(ability to pay)に応じた税の徴収を重視すべ きことである。 租税の本来の機能は、政府が必要とする膨大な資金を調達することにある 99) から、効果的かつ効率的な方法で(つまり納税者にとって、より痛みの少ない 方法で) 、より多くの税収を確保することが求められる 100)。 納税者の税制に対する不満は、単に負担額の多寡の問題だけではなく、担税 力の問題によるところも大きいから、能力に応じて適時に(納税者の手元に納 税のための現金の裏付けがあるタイミングが好ましい)課税することの配慮が 必要であるといえよう 101)。その点で、企業の純所得への課税は、担税力に応 じた課税を行うことができるため 102)、多額の財源を確保する必要がある政府 にとって優れた租税であるといえよう 103)。 なお、超過利潤税と同時期に導入された(前述の)連邦法人資本課税は、法 人資本の公正価値$1,000 に対して$1 の割合で課せられるものであったが 104)、 法人資本の評価には、未実現の評価益や、のれん、商標、特許権などの無形資 産を含むものであった 105)。この意味で、法人資本課税は、 (超過利潤税とは根 本的に異なる)それまでの財産税の概念の延長として捉えることができる。 193.
(20) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). (2)ビジネス・タックスからの資本主の分離 ビジネス・タックスの発想は、当時議論されていた別の角度(当事者)の財 産税の問題、すなわち資本の所有主の段階における財産税の課税(株式や債券 への財産税の課税)の問題に有用な示唆を提供した。主要な産業が農業や軽工 業、商業など個人経営中心の単純な経済の時代には、個人が所有する財産の価 値(多くの場合、収入の裏付けがあった)と担税力の間には関連性があり、財 産の所有者に対する課税は、担税力に応じた課税として合理的であった。とこ ろが、鉄道業や重工業など企業が規模の経済性を追求する時代になると、多額 の資金調達が可能な株式会社形態による大規模かつ複雑な事業 106)が行われる ようになり、それは、資本の所有者(株主や債権者といった企業の間接的な所 有者)と企業実態を分離させることとなった (法人資産の所有者は法人である) 。 ここで、株主や債権者が所有する株式や債券に、財産税を課すべきかという議 論が生じたのである。 企業実態について、アダムズ教授の見解によれば、企業体は有機的一体性 (organic unity)を保持しており、法人または企業組織の段階で担税力の基準 が適用されるべきであるとする 107)。つまり、既存の財産税や個人所得税の体 系から、ビジネス・タックスを切り放し、 (資本主段階ではなく)企業そのも のが稼いだ所得への独自の租税として課すべきということである。アダムズ教 授は、NTA に提出した論文の最後で、 「ビジネス・タックスは、企業組織が 所有する動産への課税にとって代わるべきである。私がこの結論に至った理由 は、私の理解によれば、動産税(personal property tax)には理論的根拠もな ければ、将来性もないからである。動産税には、その過去の歴史への誇りもな ければ、将来への希望もない。現時点で、動産税は、単に、無原則の、非科学 的な、不公平な歳入確保の方法でしかない。それは、同時に、科学的な基礎に よらないものであり、顕著な管理運営上の長所をもたないものである」108)と、 動産への財産税の課税を痛烈に批判し、 「私は、不動産への課税、および個人 所得税、企業の純所得への課税の組み合わせと、もちろん、批判に耐え得るも 194.
(21) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. のであることを条件に相続税、贅沢規制の課税(sumptuary taxes) 、その他種々 の副次的な歳入で補強させられた制度を期待する」109)として企業の純所得へ の課税を自信をもって提唱した。動産税については、 (所得税と比較した場合 の)担税力の問題に加え、個人が所有する動産のように登録や開示制度のない 場合には隠匿が容易であり、課税の公平の点でもおおいに問題があるといえよ う。つまり、ここで不動産に財産税を課すことについては反対していない。不 動産は、その所在地により課税管轄権が明確であり、また隠匿できないことも 容認した理由の一つであろう。他方で、企業が有するのれんなどの無形資産は、 担税力との関係で不確実であり、将来のシナジー効果を期待するなど複雑な要 素を持ち合わせていることから、とうてい容認することはできなかったのであ る。. (3)ビジネス・タックスが内包する技術的な課題 従来の財産税の課税は、一定時点における個々の財産の評価額に対してであ り、財産と課税の関係性は直接的であった。つまり、一定時点における個別財 産の価値というストックの情報が入手できれば、その所在地において課税され るという、単純な関係であったのである。とくに、不動産については、その所 在地が不動であり、地理的な属性を有するものであるから、地理を基準とする 課税管轄権と不可分の関係が成り立ち、同一レベルの政府間での課税管轄権の 競合の問題は生じることがなかった 110)。 企業の純所得への課税、すなわち取得型(発生型)所得税の課税は、便宜上、 人為的に一定の会計期間を区切り、毎期に決算を行い、一定期間の所得を計算 して課税がなされることとなった。この計算過程においては、何処で何を用い て所得を稼得したかという所得の源泉に関する情報はとくに必要とされず、一 定の会計期間に帰属する所得の「金額」の計算が重視されるのである。ところ が、複数の課税管轄で企業活動を行う企業は、その所得金額を各課税管轄に分 割する必要がある。そこで、所得稼得に関連する企業活動が複数の課税管轄で 195.
(22) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). 行われる場合には、課税管轄間での多重課税または課税漏れが生じないように するため、共通の理解に基づくルールが必要とされるようになるのである。. (4)所得の実現と源泉の関係 NTA では、アダムズ論文の提出を受け、企業の純所得への課税にあたり実 際に直面する問題、すなわち州際企業により稼得された所得の課税管轄間の配 賦の問題 111)を専門に研究する委員会が 1920 年に設置された 112)。この委員会 は、1922 年 9 月にミネソタ州ミネアポリスで開催された NTA 年次総会 113)で、 商業および製造業の企業課税での定式配賦法(模範企業所得税法 309 条から 311 条 114))の検討結果を報告した。 ここでまず議論となるのが、企業所得の源泉地についてである。NTA は、 「各州に分離された所得は存在しない(no separate income in each state) 」115) という。企業の利益は企業のあらゆる活動から稼得されたものであるとし、地 理的に分離された所得という概念は存在しないというのである 116)。NTA は、 商業または製造業を営む企業が稼得する所得の源泉について、次のように捉え た。原材料の調達を 1 つ目の州で行い、それを製品に加工することを 2 つ目の 州の工場で行い、3 つ目の州で製品を流通、販売する場合について、 「3 つの州 すべてでの投資および活動が、取引の利益を産み出していることはあきらかで ある。ある時点において、この利益が、効率的な購買、能率的な製造、効果的 な販売手法により、ある部門の努力で高められることがあるが、これらの要素 による増加または減少を測定することはできず、ただ言えることは、取引の利 益を得るためにすべてが必要ですべてが役立っているということである」117) という。一般的な商業、製造業における収益は、通常の場合、顧客に商品が引 渡された時点(実務上は一般に出荷された時点)で認識されるが、この取引に よる利益(純所得)の源泉地は、どこであろうかという議論である。NTA の 見解は、取引の利益を得るためにすべてが必要で全てが役立っている、つまり 「すべて」の場所がこの利益の獲得にとって必要であるという。さらに、 「もし、 196.
(23) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 組織の一部でも機能しなかったならば、利益の稼得は達成されなかったであろ う。これらのケースで明らかなように、正しい場所を調査することによる、あ るいはある一定の会計や計算式を用いることにより確定させられる、ある州の ための分離された所得などというものは存在しないのである」118)とし、一部 でも欠けたならば、取引は成立せず、利益の獲得はないというのである。この 見解は、一見、強く言い過ぎているように感じられるかもしれない。しかし、 なぜ商品が販売できたのか、実現されたのかという点を追究すると、もちろん 消費市場の存在や営業ノウハウといった営業所の所在地に帰属する要素は不可 欠であるが、それだけでは十分とはいえない。たとえば、消費者による購入の 動機が「安価だから」ということであれば、原材料を安く調達した購買部門や、 効率的に製品を生産した生産部門にも利益の源泉があるであろう。あるいは、 消費者が、 「高くても品質が良いから」というのであれば、購買、生産、品質 管理など企業システム全体に利益の源泉があるといえよう。企業(組織)とし て活動をしているのであるから、一部の特定の資源だけが利益獲得に貢献して いるとはいえないはずである。 他方で、当時、実現を所得の要素として捉え、販売された場所こそが全ての 所得の源泉地であるとする考え方が存在していた。しかし、この考え方につい て、NTA は、利益の実現した場所とその利益の真の源泉との関係性(実現に 先行して投資と活動が行われていること)を見逃しているとして批判する 119)。 確かに利益の実現を源泉とする捉え方は、配賦の法規および実務に多大 な影響を与え続けてきたとされる 120)が、NTA は、連邦最高裁判所による Underwood 事件の判決を参照して、この捉え方に否定的な立場をとっている。 ここで、Underwood 事件 121)の概要について紹介する。Underwood 事件は、 デ ラ ウェア 法人(コ ネ ティカット 州外法人)で あ る Underwood Typewriter 社(以下、Underwood 社と省略する)が、コネティカット州を相手に同州の 法人課税制度について、合衆国憲法により保障された納税者の権利 122)を害す ることを根拠に、同州裁判所の判決見直しを求め連邦最高裁判所に申し立てた 197.
(24) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). ものである。Underwood 社は、主としてタイプライターの製造から販売修理 賃貸等を営む製造業であり、ニューヨークに本社を置き、全ての製造活動はコ ネティカット州で行う一方で、コネティカット州を含む多くの州に営業拠点を 設置していた。コネティカット州では、1915 年に州内で事業を営む州内法人 および州外法人に適用される包括的な課税制度を確立していた。同制度により、 1916 年に、Underwood 社がコネティカット州に提出した申告書では、前年度 の純所得は主に有形動産から稼得された$ 1,336,586 であり、コネティカット州 内の不動産および有形動産の金銭的価値は、$ 2,977,827 で、コネティカット州 外の不動産および有形動産の金銭的価値は$ 3,343,155 であった。この結果、コ ネティカット州内の不動産および有形動産の金銭的価値の全体に占める割合は 約 47%であるから、純所得$ 1,336,586 のうち、その割合で計算された$ 629,668 がコネティカット州内の純所得であるとされた。これについて、Underwood 社は、コネティカット州内で稼得された純所得は$ 42,942 に過ぎず、同州の制 度には基本的な誤りがあると主張した。判決では、Underwood 社は州が採用 する配賦方法が本質的に恣意的であり同社への適用が不合理な結果を生じさせ ることを証明していない等として、その主張を斥けているが、その理由のなか で Brandeis 判事は、利益の源泉について、デラウェア法人(州外法人)であ る Underwood 社の利益は「コネティカット州内での製造に始まり多州での販 売にて終結する一連の取引(a series of transactions)からその大部分が稼得さ れている」123)ことに言及し、コネティカット州は、全体の純所得のうちコネ ティカット州に合理的に帰属する部分について課税できるとした。 ここでのポイントは、利益の源泉について、製造から販売までの「一連の取 引」から稼得されたと説明したことである。一連の連続した取引の存在により、 結果的にある金額の利益を獲得することができたのである。つまり、この連続 した取引のうち、一部でも欠けると、ある金額の利益は獲得できないし、また、 一連の取引を個別の取引単位に分解して、この個別の利益を積み上げたとして も、一連の取引からの利益には及ばないかもしれない。そこで、やはり、企業 198.
(25) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. の利益は、企業活動全体から稼得されているのである。 NTAは、この Underwood 事件の判決を受け、1921 年連邦歳入法が 1918 年歳入法のものとは異なる所得源泉の概念を採用したように思われるとする見 解を示している 124)。1918 年歳入法は、国内で商品を販売する外国法人が稼得 した利益全体に対して課税するのに対して、1921 年歳入法では、合衆国内で の販売のために出荷する以前の外国における商品の生産に帰属される利益の部 分を認識しているためである。つまり、1921 年の新規定では、動産の販売か ら得られた利益について、国内で生産され国外で販売された場合または国外で 生産され国内で販売された場合には、 (内国歳入長官により承認され定められ た方法である、純所得の一部を国内の源泉に帰属させるための計算式および一 般の配賦により)一部を国内源泉所得として扱い、一部を国外源泉所得として 扱うこととされた 125)。従前はこの問題についての明確な規定が存在していな かったため、照会を受けた司法長官は、全ての所得は有形資産が販売された国 内源泉とすることとした。そこで、単に有形資産を生産した時点では、所得は 生じていないとされたのである。 また、アメリカ会計士協会(AIA: American Institute of Accountants)126)の 公式機関誌 Journal of Accountancy(1922 年 3 月号)は、1921 年歳入法の所得配 分の規定に関して、 『利益の源泉』と題する論説記事を掲載している。 「販売の 完了は、利益を得た時点を決定するものであり、源泉の決定を目的とするもの ではない。製造業における利益の真の源泉は、財の転換に用いられる資本と労 働力である。販売することは、利益の実現であり、源泉ではない。利益の金額 は、生産に用いられる資本資産および労働力の効率性の程度により影響を及ぼ されるのと同じように、実現の方法の効率性の程度により影響を及ぼされるか ら、利益のある部分(しかし全体ではないだろう)が販売に帰属されることは 全く公平である」127)とし(製造業の)利益の源泉は「資本と労働力」であり、 実現ではないとしたのである。つまり、実現は収益認識のタイミングを規制し ているにすぎず、利益の源泉を示すものではないという。また、ここで利益の 199.
(26) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). 源泉について、利益の金額に影響を及ぼす要素という表現を用いて、資本資産 や労働力の効率性に販売方法の効率性を並べ、全てが利益稼得に貢献している ことを示している。 ここで見た 3 つの事例(Underwood 事件、AIA の論説記事、NTA の見解) は、ともに利益の源泉は、 (企業活動の一部ではなく)企業活動全体であるこ とを明らかにしている。. 五.定式配賦法の配賦要素と無形資産(のれん) 最後に定式配賦法の議論へと進むことになるが、本稿では、配賦要素に無形 資産の価値を含めるべきかどうかの問題についてのみを扱う。 この点について、NTA は、有形資産(有形動産および不動産)のみを考慮 に入れ、無形資産を計算式から除外することを提言した。除外することを正当 化する理由として、以下の 3 点を挙げている。 「第一に、無形資産を地理的な所在地に帰属させることの実務的な困難性。 第二に、無形資産を除外する顕著な立法の傾向が存在するという事実。この傾 向は考慮に入れる必要があるように思われる。第三に、無形資産を考慮に入れ ることなしに、公正な配賦を行うことができるように思われること。のれん、 特許権、商標権の性質の無形資産に関して、裁判例の大多数では、全ての有形 資産および企業の事業所に比例的に結びつけられることが最も公正であると推 定されている」128)と、3 点の具体的な理由を挙げて、無形資産を定式配賦法の 計算式に含めないことを提言している。第一の点について、地理的な情報と密 接不可分な不動産や実体のある有形資産と異なり、無形資産を地理的な所在地 に帰属させることは確かに困難である。また、第二の点について、異なるルー ルを統一化する作業にあたり既存の実態を考慮に入れることは合理性がある。 第三の、無形資産を考慮に入れることなしに、公正な配賦を行うことができる ように思われるという点については、用いられる配賦要素に依ることとなろう。 200.
(27) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. ここでは、無形資産は、有形動産および不動産、企業の事業所と結び付けられ ていることを前提に、 無形資産を考慮に入れないこととしている。そこで、 仮に、 将来的に有形動産および不動産を配賦要素から外し、他の要素を用いることと する際には、その新しい要素との関係について再検討される余地は残る。全体 として、この 3 点の主張は説得力があり、無形資産を定式配賦法の計算式に含 めないことは、当時の前提(有形動産および不動産を配賦要素とすること)の もとで合理的であると考える。 また、上記 1 点目と重複するが、所得の配賦基準は、地理的空間と直接的に 結びついたものとすべきであろう。なぜならば、所得を地理的に帰属させたい にも関わらず、その配賦要素に地理的な結びつきが乏しいものを用いたならば、 間接的な配賦となり複雑化する可能性があるからである。 最後に、租税の配賦基準には、その安定性の観点から、相当の確実性を持ち 合わせた基準が望ましい。 仮に将来の見積りに基づいて算出される無形資産 (の れん)の価値という不確実な要素を採り入れた場合には、配賦計算そのものを も不安定な状態へと陥らせることとなり、定式配賦法の最大の長所である簡便 性を損なうこととなりかねない。. むすび 本稿では、1900 年代初頭の州法人所得税の創成期における、それまでの財 産税から企業課税への移行過程を明らかにした。当時、産業の発展に伴い、従 来の財産税の仕組みでは十分な財源が確保できない州政府にとって、産業イン フラの受益者である企業への課税方法が模索された。まず、既存の財産税の強 化として、企業の無形資産(のれん)への課税を試みたわけであるが、評価の 問題、各課税管轄への分割の問題が立ち塞がっており、困難を極めた。さらに、 財産税は、財産の価値と担税力の関係を前提とするが、工業化社会の到来を迎 えこの前提が崩れたこともあり、アダムズ教授が提唱する「ビジネス・タック 201.
(28) 横浜国際経済法学第 20 巻第 3 号(2012 年 3 月). ス」 、すなわち企業の純所得への課税に期待が高まった。 ビジネス・タックスは、一定期間の所得金額を課税標準とすることで、担税 力に応じた課税による多額の財源確保と、 (企業の無形資産に財産税を課税す る代わりとして、無形資産から得られる所得に課税することで)財産税におけ る無形資産の評価の問題を回避することに成功した。一方で、企業により稼 得された所得は、 (企業活動の一部ではなく)企業活動全体によるものであり、 所得を地理的に結び付けることはできないことが明らかとなった。そこで、企 業の所得を何らかの基準を用いて各課税管轄に分割する必要が生じたのである が、アメリカ合衆国の州税では、アダムズ教授の、単に資産を所有することに よる所得とビジネス(組織)の活動による所得の計算上での分離(の試み)の 発想を起源とする、定式配賦法が用いられることとなった。 定式配賦法の要素について、アメリカ合衆国の州税における、財産税からビ ジネス・タックスへと移行した歴史的な経緯から、伝統的な配賦計算式(マ サチューセッツ方式)では、有形資産の価値を配賦要素の一つとする。最後 に、定式配賦法の配賦要素に無形資産の価値を含めるべきかどうかについて、 NTA が示した 3 点の理由に若干の考察を加え、含めるべきではないことを示 した。 法人所得税の創成期の時点で既に、企業所得は企業全体の活動から稼得され たものであり、地理的に分離された所得は存在しないことが指摘されていた。 この指摘は、今後の国際的な法人所得税の課税管轄権の議論に際しても、考慮 に入れられるべきであると思われる。 1) 「全米租税学会」とする訳が多いようである。1907 年にアメリカ合衆国で設立。歴代の 会長には、E. R. A. Seligman 教授(会長任期、1913-1915) 、Thomas S. Adams 教授(19221923) 、Robert M. Haig 教授(1931-1932) 、Stanley S. Surrey 教授(1979-1980)など、国際 的に著名な研究者も数多い。 2)1 Jerome R. Hellerstein & Walter Hellerstein, State Taxation ¶8.03(3d ed. 2004). 3)訳語は、田中英夫(編集代表) 『英米法辞典』675 頁(東京大学出版会、1991)による。 202.
(29) アメリカ合衆国における州法人所得税の生成過程に関する考察. 4)1900 年代初頭のアメリカ合衆国におけるのれんについて、Henry Rand Hatfield, Modern Accounting: Its Principles and Some of Its Problems 109(1909)に は、パート ナーシップ または法人を(現金ではなく)自社株式を用いて取得する場合、自社株式の額面が取得 した有形資産の価値を超過する部分について、のれんの取得なのかそれとも単なる株式 のディスカウントなのかを判断することは困難であり、通常、アメリカ合衆国の実務では、 会計士はのれんと考えるとある。 5)本稿でいう無形資産は、1900 年代初頭の NTA で議論されていた、継続企業としての企 業価値(のれんを含む継続中の企業の収益価値)のうち個々の資産として識別できない 部分についてである。 なお、会計の分野においては、このようなのれんを無形資産に含める言い回しを奇異 に感じられるかもしれない。現行会計においては、識別可能な無形資産は、 (会計上の) のれんとは区別して識別するため、 「のれん」とその他の「無形資産」の用語を使い分 けることがあるためである(たとえば、現行のアメリカ合衆国の会計基準では、のれん とは区別して識別される無形資産の例として、営業関連無形資産、顧客関連無形資産、 芸術関連無形資産、契約に基づく無形資産、技術に基づく無形資産が挙げられている (ASC805-20-55-13 ~ 45; SFAS141(R)A29 ~ A56) ) 。しかし、本稿では、当時の議論で の用法(たとえば、後述の 1918 年歳入法(戦時利得及び超過利潤税)の無形資産にのれ んが含まれる)に従い、使い分けることはしない。 6)財産税は、従価税であり、多くの州・地方は不動産を対象とするが(州税地方税のた め、課税の範囲は課税管轄により現在でも大きく異なる) 、原則論は動産を含む全ての 財産を対象とするものである。19 世紀後半のニューヨーク州の実態を記した文献(John Christopher Schwab, History History. of. State. and. of the. Local Finance. New York Property Tax: An Introduction in. to the. New York 97(Baltimore, Press of Guggenheimer,. Weil & Co. 1890) ) には、 法的な複雑性と多くの動産に課税することの実務的な困難性から、 全ての財産に統一的に課税することはまったく不可能であると一般に認識されていると あり、動産への課税に苦労していたことが窺える。 7)定式配賦法(FA: Formulary apportionment)とは、ユニタリー事業から稼得された所得 を合算し、所定の計算式で各課税管轄に配賦する方法であり、現在までにアメリカ合衆 国の州の他、カナダの州(province) 、スイスの州(canton)で導入されている。近年、 定式配賦法を国際取引に用いる機運が高まるなかで、これを検討するのにあたり、アメ リカ合衆国の州税での経緯を丁寧に調べることは有用であると考える。 8)アメリカ合衆国において近年増加の傾向にある売上高のみを基準とした配賦についての 検討として、伊藤公哉「法人所得税の課税管轄権―チャールズE.マクルアー著『歴史の 長い影:アメリカ合衆国及び欧州連合の法人所得税に関する主権、租税帰属、立法と司 203.
関連したドキュメント
本章の最後である本節では IFRS におけるのれんの会計処理と主な特徴について論じた い。IFRS 3「企業結合」以下
もちろん, 「習慣的」方法の採用が所得税の消費課税化を常に意味するわけではなく,賃金が「貯 蓄」されるなら,「純資産増加」への課税が生じる
所得税法9条1項16号は「相続…により取 得するもの」については所得税を課さない旨
そして,我が国の通説は,租税回避を上記 のとおり定義した上で,租税回避がなされた
アメリカの FATCA の制度を受けてヨーロッパ5ヵ国が,その対応につ いてアメリカと合意したことを契機として, OECD
支払の完了していない株式についての配当はその買手にとって非課税とされるべ きである。
本資料の貿易額は、宮城県に所在する税関官署の管轄区域に蔵置された輸出入貨物の通関額を集計したものです。したがって、宮城県で生産・消費
本資料の貿易額は、宮城県に所在する税関官署の管轄区域に蔵置された輸出入貨物の通関額を集計したものです。したがって、宮城県で生産・消費