ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) : 登記土地法の成立過程を中心に
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(2) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). 42 (42). をえなくなる.ここに実定法という法形式の特. 帰属判断基準は確立されていなかった.実定法. 質があり,また,法内容が発展していく契機が. は,この共通の帰属判断基準を設立するもので. ある.. ある.述べたように,実定法は,かかる帰属判. 実定法上の所有権に関して,まず,所有の保. 断基準を含めて法内容が操作可能である点に形. 護について言えば,当事者の実力から分化し,. 式上の特徴を有するが,その操作の基準は,社. 国家の実力に担保された「予期」のレベルで,. 会における一般人の意見や感覚に合致している. 物の所有状態を保護することに所有権の機能を. べきであるとはいえ,そうするよう強制されて. 求めることができる.この意味するところは,. いるわけではない3).したがって,場合によっ. 他人の侵害を排除して所有を継続できるという. ては,社会の正当性感覚からずれた,あるいは. 事実と,他人の侵害を排除して所有を継続でき. それを否定する帰属判断基準が採用されること. るという予期とが区別され,後者のレベルで所. もありうる点が問題となる.. 有が保護されることであるが,これは両者が. 最後に,人格による物の支配(利用・収益・. 区別されていることを前提としている.伝統的. 処分)を確実にする一方,物の支配から帰結す. なケニア社会では,他人の侵害を排除して所有. る利益状態を他人の利益や公共の利益との間で. を継続できることへの期待は,当事者が自らの. 調整するという機能の側面では,次の点が問題. 実力によって行う占有回復の事実に依存してい. となる.近代的所有権は,物の諸支配権限が一. た.実定法上の所有権が機能していると言える. 人の人格へと収斂するに至り,当該個人の意思. ためには,かかる状況にある社会(特に,共同. による支配が(そこから派生する責任とともに). 体間)において,占有が侵奪されても第三者で. 確保されることを出発点としている.それに対. ある国家によって占有回復がなされるだろうと. して,慣習法では,土地の支配可能性が親族的. いう「予め抱かれた期待」を創出することが必. 身分秩序によって規律されていた結果,諸支配. 要である.実際に国家の実力でもって被侵奪者. 権限の統一体(イギリス法においては集束)で. の占有を回復させることは,この予期を創出・. ある所有権という概念が存在しないばかりか,. 固持するための一つの手段である.. 各支配権限にはそれらを親族的身分秩序(およ. 次に,このようにして占有回復をなすことが. び,そこから由来する諸義務)に反してまでも. できるのは,いかなる条件あるいは理由のもと. 行使できるという性質が欠けていた.問題は,. においてであるかが,予め明示されていなけれ. かかる性質を有する支配権限から近代的所有権. ばならない.ある人が所有権者であるとは,物. への移行が,いかなる理由で発生したかにある.. がその人格に正当に帰属していることを外部か. とはいえ,この変化の理由は第一に,すでに成. ら承認された状態を意味しているが,その帰属. 立していたイギリス法の近代的所有権制度が導. 判断基準として,明確に法定された原因が基準. 入されたことに求めるべきであるから,検討す. とされることによって,第三者による判断・決. べきは,いかなる理由でイギリス法が導入され. 定が可能になるとともに,その基準を利用した. たかにある.それに加え,この立法判断を支持. 所有権者 に よ る 物 の 処分(相続,取引等)が. するような社会変化が生じていたか,生じてい. 可能となる.これに加え,原因となる事実や所. たとすれば,いかなる変化であったかについて. 有客体にも明確さが求められる.慣習法におい. 分析する必要がある.. ては,共同体の内側で,親族的身分秩序を基準. 以上の諸論点については,本章と次章で併せ. にして,各構成員と土地との帰属関係および外. て考察していくとして,まず本章では,土地制. 部者の参入方法が規律されていたが,共同体外. 度改革以前における実定土地法の内容と機能に. 部(他の共同体および入植者)との間で共通の. ついて分析していく.その際,この成立過程が. ・. ・. ・. ・.
(3) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). 「植民地支配」という事情に規定されていたケ. (43). 43. 土地保有権(freehold)が,貸与の場合は定期. ニア社会(および,広くアフリカ社会に共通). 不動産賃借権(leasehold)が 設定 さ れ る.こ. の特殊性に注目しなければならない.植民地支. の 弁務官 の 王領地処分権限 は,1902 年王領地. 配に特有の利害判断は,所有権を実定法におい. 令(Crown Lands Ordinance, 1902)に よ り 詳. ていかなるかたちで規定するかの判断形成にお. 細に規定されていた.また,本令に基づいて譲. いても, 強く作用したと考えられるからである.. 与または貸与された土地の処分においては,イ ンド財産移転法が実体法として適用された.. 1.二 元 的 土 地 制 度 の 構 築:19 世 紀 後 半 ~ 1920 年代. それに対して,アフリカ人の土地所有はどの ように規定されていたのであろうか.まず,ア. ケニアの植民地化は,入植者(主としてイギ. フリカ植民地一般における「原住民の土地所有. リス人)による直接の土地取得と大規模農場経. 権」に対する,イギリス判例法の見解を見てお. 営という形態をとっており,植民地期の土地制. こ う.枢密院司法委員会判決 は,「地域 に よっ. 度は,基本的には,この形態に適合するよう構. て差はあるが,原理は単一である」としたうえ. ・. ・. ・. 4). 築されていたと言ってよい .具体的に言うと,. で,「個人的所有権(individual ownership)の. アフリカ人の既存の土地所有に対して干渉し,. 観念は原住民の考え方にとって異質である(is. 入植者所有地とアフリカ人保留地とへ物理的居. foreign).土地は,共同体に帰属するのであっ. 住空間を二分化すること,および居住空間の二. て個人にではない.原住民共同体の権原(title). 分化に対応して,それらを規律する実定土地法. は,一般的 に 用益権(usufructuary right)の. を二元化するという形態をとった.かかる入植. 形態をとる.これは,主権者が誰であれ,その. 形態に関連して,法的には,アフリカ人とその. 根源的または最終的権原に負担を課す唯一の制. 所有地との帰属関係をいかに扱うかに最も大き. 限である.そのような用益権は,不動産権譲渡. な関心が払われた.そこで,まず本節では,二. の通常の方法によって消滅することは困難であ. 元的土地制度の構築過程のなかで,アフリカ人. るが,当該土地を占有する,または完全な統制. の土地所有が実定法上いかに規定されていたか. をなすと推定される至高権力の行為によって消. 5). という点について見ていきたい .. 滅しうることは明白である」と判示しており6),. 保護領という法的地位のもとでは,ケニア. アフリカ人個人は土地所有権を有さず,土地は. 領域 の 土地 は,入植者 に とって の 外国人 で あ. 主権者(共同体の代表)に帰属すると判断した.. るアフリカ人の所有地と,国王に帰属する王領. この法理から,主権者たる共同体代表の意思に. 地(Crown Lands)と に 区分 さ れ る.王領地. より締結された土地明渡協定は,共同体構成員. については,1902 年東アフリカ枢密院令 2 条. 全員を拘束するとされた7).. によって, 「条約,協定,合意により国王の統. ケニアにおける判例もアフリカ人の個人的所. 制に服する,または国王の保護下にある,東ア. 有権を否定していたが,その根拠づけにおいて,. フリカのすべての公有地(public lands) ,およ. 文明/未開の区別を明示的に用いている点が. び公務その他の目的のため国王が取得したすべ. 注目される.すなわち,「土地の個人的所有権. ての土地を意味する」と定義されていた.王領. の理論は,アフリカ人が外部の文明(an alien. 地に対して国王が有するすべての権限は,弁務. civilisation)の諸理念を吸収し始めるまでは,. 官が,これを行使する(7 条 1 項) .弁務官は,. いかなるアフリカ人の精神にとっても絶対的に. 王領地 の 譲与(grant) ,貸与(lease) ,立入許. 異質である」ということを根拠にして,アフリ. 可(license)をなすことができる(7 条 3 項) .. カ人個人が所有権を有することを判例において. その場合,入植者に対して,譲与の場合は自由. 否定していた8).ただし,本件はアフリカ人間. ・. ・. ・.
(4) 44 (44). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). での土地の占有回復に係わる事件であり, 「国. 保有形態について調査した植民地行政官は,そ. 王またはヨーロッパ人に影響するような原住民. の伝承を根拠に正当権原に基づく占有であるこ. 土地法に関する問題は発生していない」ことか. とを認め,その収用にあたっては 1 エーカーあ. ら,部族の構成員が所持の権利および耕作の権. たり 7.5 ルピーの補償が相当と勧告した.しか. 利を有することについてはこれを認め,この権. し,司法省は,Dorobo からの譲渡が存在した. 利に基づいて損害賠償請求または差止め請求の. との伝承は「単なる憶測であり,証拠としての. 訴えを提起することは可能であると判示した.. 価値はなく」,また権原を証明する他の手段も. 次に,弁務官の王領地処分権限との関係にお. ないことから権原は認められず,事実としての. ける,アフリカ人の土地所有についての規定. 所持にすぎないと結論づけ,1 エーカーあたり. を取り上げる.1902 年王領地令は,弁務官は,. 2 ルピーの補償で足りるとした10).このように,. あらゆる処分において「原住民の権利と要請」. 権原証明には客観的証拠が要求され,客観的証. に配慮しなければならないこと,および「原住. 拠が存在しない限り,土地の保有は現実の所持. 民の現実の所持(actual occupation)にある土. であると法的に評価されていた.. 地を,譲与または貸与することはできない」と. このような実定法上の諸規定に基づき,弁務. 規定していた(30 条) .しかし他方で, 「弁務. 官は,「ハイランド11)」と呼ばれる地域一帯に. 官は,原住民の村落または居住地を含む土地領. おいて,入植専用地の取得を行った.保護領で. 域を,特にそれら村落または居住地を除外する. ある時期のアフリカ人は保護下にあるとはいえ. ことなく貸与できる.ただし,貸与の時点にお. 外国人であるから,無主地の処分の場合を除い. いて原住民の現実の所持にある土地は,現実に. て,アフリカ人との合意の必要性が法制度上前. 所持されている限りで,貸与から除外されたも. 提とされており,土地移転の合意に際しては対. のとみなす」 (31 条 1 項)とすることによって,. 価を提供する必要があった.ただし,圧倒的な. 一定規模の領域を分割することなく,ただしい. 武力を背景になされた土地明渡しの合意や,英. わば虫食い的に支配権限の及ばない土地を含ん. 文で書かれた協定文書の内容についての認識な. だままで,貸与することが可能とされていた.. ど,合意の有効性については問題となりうる.. この結果,慣習法上の勢力範囲の観念は「現実. しかし,その場合でも,前記マサイ事件判決が. の所持」 領域ではないとして実定法上否定され,. 判示 し た よ う に,当該合意 は 条約 で あ り,国. また放牧のための移住その他により土地を離. 内裁判所で審理することはできないとされてい. れることは所持の放棄とみなされることになっ. た.. た.ここでは,それ自体が一種の権原である. しかしながら,ケニアへの入植の必要性が高. possession ではなく,権原については別途証明. まるにつれて,植民地政府は合意による土地取. する必要のある occupation の概念が用いられ. 得では不十分であると認識し,より直接的な土. ている点が注目される.. 地統制をなしうる土地制度の構築を模索した.. この点に関して,書面等によらず証拠の存在. その結果,1902 年王領地令を改めた 1915 年王. しない売買により取得したとされる土地の所. 領地令が成立する.本令は,1902 年東アフリ. 持は,正当な権原に基づくか否かという問題. カ枢密院令 2 条における王領地の定義に,「植. が,入植を目的とした土地収用における補償額. 民地の原住民部族が所持するすべての土地,お. の算定に関連して提起された9).キアンブ県の. よび原住民部族の構成員による利用のために留. キクユ人の事例において,当事者らは土地を. 保されているすべての土地を含む」とする規定. Dorobo と呼ばれる狩猟民から売買によって譲. を追加し(5 条),アフリカ人の所持にある土. 受したという古来の伝承を主張し,同県の土地. 地もすべて王領地に含まれるとした.そのうえ.
(5) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). (45). 45. で, 「原住民部族構成員の利用と支援(support). りケニアが保護領から植民地へ転換されたこと. に必要であるとの総督の見解(opinion)により,. を根拠に,それらによって「原住民の私的権利. 王領地の譲与,貸与,その他の処分を留保する. (private rights)は留保されていない」から,. ことができる」 (54 条前段)とする規定を設け. 「かかる保留地における原住民のすべての権利. た.この規定に基づき,入植者所有地とは区別. は,[慣習的土地制度 で あ る]Gathaka 制度 の. され,総督の王領地処分権限(6 条)が留保さ. もとにある権利であっても消滅した」として原. れ る 原住民保留地(native reserve)が 指定 さ. 告の請求を退けた.そして,「原住民部族の利. れることになる.ただし,総督は,必要な場合. 用のために留保されている土地は国王に帰属し. に保留地指定を解除する権限(56 条) ,および. ており,その結果,……保留地を所持する原住. 特定目的のため保留地からその一部を除外する. 民は,国王の任意借地人(tenant at will)とな. 権限(57 条)を有していた.. る」と判示した.任意借地権は,コモンロー上は,. こうして,原住民保留地と呼ばれる特定領域. 当事者の意思表示によって直ちに消滅する借地. が原住民の「利用と支援」のために指定される. 権であるから,アフリカ人は自らの所有地に対. ことになり,アフリカ人は当該地域に居住する. して,国王の意思によっていつでも終了されう. ものとされたことで,入植者とアフリカ人との. る借地権を有するにすぎないことになる.これ. 居住空間そのものが物理的に分離されるに至っ. は,相続や先占といったアフリカ人の土地所有. たのである12).他方で,原住民保留地の地域指. の原因が,国王との関係において,正当な帰属. 定は絶対的なものではなく,総督の「見解」に. 原因として認められないことを帰結する.. 依存するものであって,結局のところ,ケニア. このように,植民地化は,土地所有権は最終. におけるすべての土地が保留地指定解除権や一. 的に国王に帰属するというイギリス封建的土地. 部除外権の行使による総督の全面的統制に服す. 制度をアフリカ人社会に対して拡張し,その. るようになった.さらに, 「 [処分権の]留保は,. 法理を入植という目的のために利用するもので. いかなる部族または部族の構成員に対しても,. あった.ここから実定法という法形式に対して. 保留地またはその一部を譲渡する権利を付与す. もたらされたと考えられる帰結として,以下の. るものではない」とも規定されていた(54 条. 三点を指摘しておきたい.. 後段) .かかる法制度は,アフリカ人の土地所. 第一に,アフリカ人の相続や先占という権原. 有に関して,国家に制約を課す憲法上の財産権. を国家が承認すべきであることの否定は,物と. を否定するものである.. 人格との帰属を判断する基準に関して,当のア. 国家を制約する憲法上の財産権の否定は,次 の 判例 に よって 確認 さ れ て い る.こ の 判決. 13). フリカ人が正当であるとみなしてきた判断基準 と対立するものであり,土地所有を正当である. (以下, 「バース 判決」と 呼 ぶ)は,両当事者. とする根拠について,アフリカ人社会の慣習法. をアフリカ人とし,慣習法上の相続に基づく権. と実定法とが乖離・対立する事態を帰結した.. 原を根拠に不法侵奪者に対する占有回復が請求. これは,国家が行う土地統制に対して,実定法. された事例であるが,原告による土地の権利確. が不正な根拠を与えているとの理解をアフリカ. 認の訴えを含んでおり,判決の大部分はこの争. 人の間に創出することにつながった14).この意. 点 に あ て ら れ て い る.判決 は,原住民保留地. 味で,実定法はアフリカ人に対して抑圧的に作. に指定された土地に関して,アフリカ人の譲渡. 用したと言える.. 権が 1915 年王領地令 54 条後段により完全に否. 第二に,入植者に認められる所有権(自由土. 定されていること,およびケニア(併合)枢密. 地保有権)がアフリカ人には認められないとす. 院令並びに 1921 年ケニア植民地枢密院令によ. る二元的土地制度の正当化のために,文明/未.
(6) 46 (46). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). 開の区別が採用された点が重要である.この区. する必要がある.特に,かかる実定法規定から. 別は,規範的判断というよりも社会状態の事実. 国家による占有侵奪は回復されない(そもそも. に基づく判断として構成されるゆえ,事実とし. 不法な侵奪と評価されない)という予期がアフ. てそれを否定できない限り,この区別によって. リカ人の間に生まれたと考えることで初めて,. およそあらゆる制度を正当化することが可能に. 1950 年代に発生した「自由と土地の回復」を要. なる.さらに,文明/未開の区別は,ヨーロッ. 求に掲げる大規模な反植民地闘争について,実. パ人/アフリカ人という人種の区別と一体化. 定法が与える否定的予期を否定するとの観点か. して理解されてもいた.人種は, (肌の色など). ら,これを大規模な権利の自力救済であったと. 自然的属性に基づく分類基準であるゆえ,それ. 解釈し,憲政史上の出来事として位置づけるこ. 自体を否定することはできない.したがって,. とが可能になる.その意味で,当時において不. 人種と一体化された文明/未開の区別は否定不. 正な実定法であっても,以後の展開──人々の. 可能な区別となり,かかる区別を根拠にして正. 法領域からの退出(exit)も含めて──にとって. 当化される二元的土地制度もまた否定不可能な. の出発点となりうることを正しく認識しておく. 15). ものと観念されるに至る .そして,この区別. 必要がある.. はアフリカ人のまったく関知しないところで 一方的に引かれた区別である──アフリカ人自. 2.慣習法と実定法の融合過程:1930 ~ 40 年代. 身が,自らを未開であると定義し,それを根拠. 以上の過程に対しては,すでに 1920 年代か. に二元的土地制度を選択したわけではない──. らアフリカ人による反植民地運動および土地回. ために,アフリカ人にとって実定法は受動的な. 復運動が始められていた16).また,原住民保留. (passive)法であるにとどまった.. 地内外に関わらず,アフリカ人の土地権をい. 最後に,そうとはいえ,実定法という法形式. かなる内容で承認していくかは,入植をほぼ完. の社会における存在あるいは機能までもが否定. 了しつつあった植民地政府にとって,増大する. されるわけではない(言い換えれば,法が政治. 土地問題への取り組みの要請と経済発展の必要. その他に解消されるわけではない) .実際に,人々. 性ゆえに,早急な対応を迫られる課題となっ. の予期を保障するという機能の点で,実定法形. ていた.かかる状況のもとで植民地政府は,慣. 式は,一方(入植者)には所有権を保障すると. 習法の効力を維持し,それに基づく共同体の. いうかたちで肯定的に,他方(アフリカ人)に. 秩序維持 お よ び 土地利用規制 を 可能 な ら し め. は所有権を保障しないというかたちで否定的に. る制度の構築を選択した.1930 年には,原住. 人々の予期を支えていたのであり,内容的に分. 民保留地内において慣習法が効力を有するこ. 裂しながら形式的には機能していたと理解でき. と の 承認 と,信託法理 に 基 づ く 土地管理制度. る.仮に入植者もアフリカ人も法のもとで平等. の構築を目的とした原住民土地信託令(Native. に扱うべし(同じ原因に基づくならば,同じ権. Lands Trust Ordinance)が制定された.さら. 利を認めるべき)とするのであれば,植民地化. に,1934 年には土地問題の調査委員会による. 自体が不可能であったか,または実定法の導入. 報告書17)が提出され,また,1938 年から 1939. 自体が不可能である.にもかかわらず実定法が. 年にかけて,上記の方向性に沿った制度改革が. 存在していたのは,内容的に分裂しているから. 実施された18).かかる一連の諸改革は,慣習法. であり,この点にこの時期の実定法の限界が存. の効力を承認するものにとどまったが,これに. 在したと言うべきである.勿論,かかる法内容. よって法形式上での慣習法と実定法との融合過. は今では正当化されるものではないが,他方で,. 程が始まった点に,この時期の特色を求めるこ. これが以後の展開の出発点となった事実に注目. とができる.以下では,この点を検討していく..
(7) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). (47). 47. 1930 年原住民土地信託令 は,地方政府 を 受. 発を目的として原住民保留地を除外する手続を. 託者,ア フ リ カ 人住民を受益者とする信託法. 定 め た 2 部(25 条以下)に お い て,保留地 に. 理を原住民保留地に導入し,保留地の管理およ. おける私的権利保持者(private right-holders). び処分はアフリカ人の利益になるよう行う旨を. に言及している 33 条および 34 条,⑤鉱業のた. 定めた政令である.重要なのは,本令および. め保留地を除外した場合の原住民への補償を定. 1930 年原住民裁判所令 を 根拠 に,ア フ リ カ 人. め る 15 条 A 項 が,補償額算定方法 に 関 し て,. の土地保有に関する法原則が変更されたと判例. 私的権利保持者とそうでない者との間に区別を. により解釈された点である.その解釈は,バー. 設けている点の 5 つである.このうち④および. ス判決を実質的に変更した 1937 年のサッカー. ⑤から,立法者は,二種類の所持の権利,すな. 19). 判決によって示された .本件は,原告(アフ. わち単なる所持者の権利とは異なる私的権利保. リカ人)が保留地に属する自己の占有地に対す. 持者の権利を認めているのだとする.そして,. る権利確認を求めた訴訟である. それに対して,. 「立法者 は,一定範囲 で,原住民保留地 に お け. 判決は,バース判決以降に制定された二つの政. る原住民の土地に対する権利を明確に承認して. 令が 「この問題に関する法を変更した」ゆえに,. いる」と結論した.. もはや「いかなる出来事においても私はバース. 二 つ 目 に,1930 年原住民裁判所令 が 検討 さ. 判決に従うべきではない」として,アフリカ人. れ,次 の 条項 に 注目 さ れ て い る.①原住民 を. の私的権利を否定し,アフリカ人は任意借地人. 両当事者とする訴訟および事件に対する原住. としての地位にあるとした先例を以下のように. 民裁判所 の 完全 な 裁判権 を 規定 す る 8 条,②. 変更した.. 不動産については原住民裁判所が裁判権を有す. はじめに,1915 年王領地令 54 条後段の解釈. る と す る 11 条,③原住民裁判所 は,枢密院令. が問題とされた.すなわち判決は,54 条後段. もしくは植民地において効力を有する他の法. を導入した立法目的は,主として原住民と非原. 律と一貫する限り,または正義と道徳に矛盾し. 住民との間の譲渡を禁止することであり,同一. ない限りにおいて,原住民の法と慣習を司る. 部族構成員間または他部族構成員 (アフリカ人). (administer)とする 13 条,④原住民裁判所の. との間での譲渡の問題は, 「立法者の念頭には. 実務と手続は原住民の法と慣習に従って規制さ. なかったように,私には思われる」とする.そ. れるとする 22 条,⑤とりわけ不動産に関係す. のうえで,譲渡を禁止する 54 条後段およびケ. る事件については上告しうるとする 34 条 4 項,. ニア植民地制定法が,保留地内におけるアフリ. 以上 5 点である.これらは,立法者が,保留地. カ人のすべての私的権利を否定しているかどう. 内において慣習法が効力を有することと,不動. かが検証された.. 産の占有回復の訴えを裁判所に提起できること. ま ず,1930 年原住民土地信託令 が 検証 さ れ. を認めている証拠であると解されている.. ている.判決が注目するのは,以下の条項であ. では,以上によって認められるアフリカ人. る.①原住民保留地は,植民地の原住民部族の. の土地における権利の性質はいかなるものか.. 利用と恩恵のため恒久的に留保され,除外され. 判決 は,「原住民土地信託令 2 条 1 項 に 基 づ. るとする 2 条 1 項,②総督は,王領地のさらな. き政府により留保されている土地の原住民部. る領域を,原住民部族の利用と恩恵のために留. 族 の 構成員 は,恒久的所持 の 権利(a right of. 保できるとする 2 条 2 項,③原住民保留地から. perpetual occupation)を 有 す る」と し た.そ. 保有地を除外されたことにより占有を喪失した. し て,こ の 権利 が「国王,お よ び 自己 の 部族. 原住民は,換地の利用と占有および補償に対す. に属さない人に対して,優越する(prevails)」. る権利をもつとする 15 条 3 項,④天然資源開. ことを確認し,権利者の属する部族権威の統制. ・. ・. ・. ・.
(8) 48 (48). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). には服するものの,国王を含むそれ以外の者に. 族,集団,家族,または個人が享受する権利に. 対する土地所有の不可侵性が実定法において承. いかなる時でも服す旨を規定した.また 1921. 認されていることを認めた.他方,部族内にお. 年枢密院令 の 王領地 の 定義(1915 年王領地令. ける各個人は対内的に(inter se)いかなる権. 5 条の定義と同じ)は,以後,原住民領地には. 利を有しているか.この点に関して,同令 7 条. 適用されないとして,原住民領地を王領地から. (1915 年王領地令 54 条後段 と 同 じ 規定)の 譲. 除外した.これに加え,原住民領地内における. 渡権の制限は,部族構成員以外の者への譲渡の. 土地の管理,運営,開発,統制がアフリカ人の. みを禁止するよう意図したものであると限定的. 最善の利益に適わない場合に総督に対して助言. に解釈する.以上から, 「保留地における原住. する権限をもつ原住民領地信託委員会(Native. 民所有者は,譲渡の権利を除いて,原住民の法. Lands Trust Board)が設立され,アフリカ人. と慣習によって与えられる権利はそれが何であ. の利益保護を図る制度とされた.したがって,. れ有している」とし,慣習法に基づく権利の効. 原住民領地は王領地の一部としての原住民保留. 力を承認したのである.. 地から区別され,慣習法の効力に完全に服する. かかる権利を根拠に,占有を侵奪されたアフ. 一方,その管理・処分は原住民領地信託委員会. リカ人はその回復の訴えを原住民裁判所に提起. が行うことになった.. することができる.また,政府による収用の際. しかし他方で,改められた 1938 年原住民土地. にも換地と補償への権利が認められる.これら. 信託令 70 条 1 項は,明確な権原を有する者,雇. の権利により,国王を含むすべての共同体外部. 用契約に基づく居住者,政府に認められた放牧. 者からの占有侵奪に対して実定法上の救済が与. 権保持者,保護領(沿岸部)における原住民を. えられるから,所有権の不可侵性という性質か. 除いて,原住民領地外部におけるアフリカ人の. らみれば,入植者に認められる権利との間に差. すべての土地における権利が消滅すること,お. はなくなった.しかし他方で,信託法理が適用. よび 1902 年王領地令 30 条,31 条(前述,Ⅳ. 1.). されていることから,アフリカ人の「恒久的所. の適用が廃されることを新たに規定した.この. 持の権利」は受益者としての権利(エクイティ. 結果,アフリカ人の慣習法上の土地権は原住民. 上の不動産権)にとどまり,コモンロー上の不. 領地内部においてしか認められないことになっ. 動産権は地方政府に帰属することになる──ア. た20).. フリカ人が保留地を任意に処分することはでき. 以上の土地制度改革前史を整理すれば,植民. ない──という違いもある.また,自部族構成. 者の入植専用地の確保という必要性からアフリ. 員以外の者への譲渡権が実定法上否定されてい. カ人とその占有地との帰属関係を実定法上いか. るほかは,帰属判断基準や諸支配権限の具体的. に規定するかという観点に主導された初期と,. 内容を実定法において直接に規定することは行. その結果形成された保留地内でアフリカ人の利. われておらず,これらの点については慣習法に. 益に資するためには慣習法の効力を維持すべき. 委ねられている.. との選択がなされた中期として位置づけること. この判決を受け,アフリカ人の土地におけ. ができる.初期には,アフリカ人の土地帰属を. る 権利 を 保護 す る 主旨 か ら,1939 年 ケ ニ ア. 国家が承認すべきことを要請する憲法上の財産. (原 住 民 地 域)枢 密 院 令( the Kenya (Native. 権が否定され,国家に対抗して所有を保護する. ・ ・. Areas) Order in Council, 1939)が制定された.. ことは不可能であったが,慣習法の効力を認め. こ の 枢密院令 は,原住民領地(Native Lands). るかたちで,徐々に所有の保護が図られるよう. という類型を新たに創設し,それが既存の原住. になっていった.また,土地の支配権限のうち. 民の法と慣習のもとで認められる,原住民部. 譲渡権が否定された点を除いて,慣習法の具体.
(9) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). (49). 49. 的内容については,当事者が所属する共同体の. 有権の社会的機能に注目する本稿としては,こ. 慣習法に委ねられるにとどまり,実定法が直接. の分析に限定したい.. 21). に規定するものではなかった .. 最初に確認しておくべきことは,現在でも多 くの地域で,慣習法に基づく長老の裁判が広く. 3.慣習法の運用をめぐる裁判所と行政. 行われており,近代的裁判制度よりもその裁判. 以上とは別に,慣習法を司る制度として原住. が優先されているとの事実である24).したがっ. 民裁判所(後に,アフリカ裁判所)が設立され. て,長老の裁判および慣習法に従って紛争が解. たことは,アフリカ人社会における紛争解決手. 決されている限り,近代的な裁判制度である原. 法だけでなく,慣習法の内容形成にも大きな影. 住民裁判所への提訴にまでは至らないで済む場. 22). 響を与えたと考えられる .原住民裁判所とい. 合が多い.とりわけ,日常的な紛争については,. う司法制度が構築されたことの法に対する影響. 現在でも,依然として近代的裁判制度の利用が. として,一般的には,慣習法内容や紛争解決手. 例外的な事例であるという事情に注目しておく. 続の意識的操作による法的論証の発展や判例の. 必要がある.そのうえで,長老の裁判とは別に,. 蓄積を挙げることができる.具体的にみれば,. 国家による所有保護が求められる動向が生じて. 土地の帰属をめぐる紛争においては,帰属判断. いた点について見ていきたい.. 基準の精緻化や帰属証明方法(証人の範囲,証. まず,当事者が自分の力で所有を保護するこ. 言方法,証拠物の扱い方など)の発展などがあ. とから国家による保護を期待できる状態へ移行. る.また,土地の支配権限をめぐる紛争では,. する必要性が,ケニア社会に発生していたかど. 土地処分に関する共同体の制約と個人の意思と. うかという問題から取り上げる.この必要性が. の関係,あるいは慣習法上の借地人と共同体と. 社会に生じていたことは,実際に原住民裁判所. の関係等が法的判断の対象となり,実体法の発. に占有回復訴訟が提起されていたという事実に. 展が促される.このような変化の全体像につい. 示されていようが,ここでは所有保護の必要性. ては,原住民裁判所の裁判記録等から明らかに. を社会の側から見た場合に,どのように見える. されるべきであるが,これについてはいくつか. かが問題である.この点に関して,農地所有者. 23). の先行研究に譲るほかない .. が行政官に文書で行った次の請願状は示唆的で. それに対して,土地紛争を解決するために裁. ある25).請願状から知ることのできる事実経過. 判所へ依拠するインセンティブが,社会のなか. を要約すると,以下の通りである.請願者であ. で,いかなる程度,いかなる形態をとって現れ. る農地所有者の土地に不法侵入し家屋を建設し. ていたかという問題,および,司法制度が設立. たとして一度処罰された者が,再び所有者の土. された結果,当事者の実力に基づく所有の保護. 地へ不法侵入し,その土地上でメイズを生産し. から国家による所有の保護へと移行し,そこか. 始めた.所有者はこの事態を行政官に訴え,こ. ら,他人による侵害は国家によって排除される. れに対して行政官は侵入者に対して土地から. であろうとの予期が社会のなかに生み出された. の立退きと生産しているメイズの撤去を命令し. か否か,あるいはどの程度の確実性をもってか. たが,侵入者はその命令を無視し不法占拠を続. かる予期を固持できるようになったかという問. けている.所有者は,この件に関して裁判所に. 題については,法内容の発展に対する観点とは. 提訴すると同時に,行政官に対して再度請願を. 別の観点から分析されなければならない.すな. 行ったというものである.そして,請願のなか. わち,社会における法の機能を分析するために. では,すでに作物の作付時期が迫っているが不. は,法の内部に注目するのではなく,法以外の. 法占拠によって畑を利用できないという問題を. ものとの比較という視点を採る必要がある.所. 指摘したうえで,これ以上の事態の放置は問題.
(10) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). 50 (50). の平和的解決につながらず「危険な地点」に達. Courts)47 条であり, 「土地に関するクラン間. するだろう,すなわち,行政官が行動を取らな. 紛争はアフリカ裁判所に提訴できない.裁判所. ければ, 「侵入者が行ったのと同じように,私. に提訴される土地紛争はすべて,本人自身に固. の手で法を手に入れるべきだろう」と述べた.. 有の利益を訴える個人間のものでなければなら. そして, 「私は,チーフと政府に対して,私と. ない」として,アフリカ裁判所へのクラン間紛. 私の財産を保護するようお願いしたい.これは. 争の提訴を許していなかった.そして,再審裁. 政府に対する私の正当な請求です」と締めく. 判所は,クラン間紛争については行政行為によ. くっている.これに対して,行政官は,侵入者. り解決されるべきと命じていた (後述,V. 1. (4)) .. を立ち退かせるため,チーフに対して行政的影. 行政官による紛争解決が求められた実質的理. 響力(administrative influence)を行使するよ. 由は,行政官が警察を直接に動員可能であるこ. う命令したとの回答を行った26).. とに伴う所有保護の実効性という理由である28).. この請願状からは,①当事者が自分と財産の. これに関して,行政官である県知事は,社会秩. 保護を政府に対して要求していること, しかも,. 序を維持するとの目的から,土地の不法占有者. その要求が正当なものであるとの信念を抱いて. に対して当該土地からの退去を命令する行政権. いること,②この要求が満たされなければ「私. 限を有していたが(Native Authority Ordinance. の手で法を手に入れるべき」としており,国家. 1937, 12 条) ,この権限は私的紛争の解決のため. による所有の保護と自力救済とが,違法な侵害. にも利用されていた.この実態を検討するため. に対する回復を実現するという点で競合関係に. に,以下の三つの事例を取り上げる.. 立つとの認識が示されていること,③所有保護 の請求が裁判所と並んで行政官に対しても行わ. 事例①:他の地域から移住してきた A が,現. れていることの三点が明らかになる.かかる見. 住地域の慣習法に従って婚姻関係を結ばずに事. 解が一般的であったとの判断は保留しなければ. 実婚の状態にあるのは慣習法に違反していると. ならないが,国家を通じて所有を保護すること. して,共同体の代表が行った請求を受け,退去. が正当なことであるとの観念が存在した事実を. 命令が発行された29).. 窺い知ることはできよう.. 事例②:過去に退去命令を受け他地域へ移動し. 次に,このような要請を受けた国家による. た B が,元地域 に 家屋 を 所有 す る(土地 は 所. 所有保護 の 実効性 が 問題 と な る.こ こ で,国. 有していない)ことを根拠に戻ってきたが,行. 家とは,裁判官だけでなく行政官を含んでいる. 政官は,B が当該地域の共同体に吸収される見. 27). 点に注意が必要である .つまり,上記請願状. 込みはなく,また当該地域の土地保有関係を乱. も示すように,所有を保護するとの目的にお. す恐れがあることを理由に再度退去命令を発行. いて,裁判所と行政とが競合関係に立たされて. した30).. いた点,さらに,かかる請願に対して行政官が. 事例③:ある入植者所有農場にスクワッターと. 肯定的な回答を行っている点に注目すべきであ. して居住していたアフリカ人家族のうち,居住. る.この場合,行政官による紛争解決が行われ. 労働者令のもとで契約を締結していない二家族. た理由は,実定法に根拠をもつ理由と,所有保. が不法占拠者として退去命令を受けた.農場所. 護の実効性という実質的理由とが考えられる.. 有者は彼らと契約を締結する意思はなく,退去. 前者については,特に共同体(クラン)間での. 命令の発行を行政官に求めていたからである.. 土地紛争に関する実定法の規定を確認しておき. その際,行政官は,その二家族の家長が高齢で. たい.これを直接的に規定していたのは,アフ. あることから,退去命令の執行にあたって移住. リ カ 裁 判 所 規 則( Standing Order for African. 先の選定を自ら行い,彼らにその地域へ移住す.
(11) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). るよう求めた31).. (51). 51. 存在する場合には,当事者が行政権力を慣習法 執行の手段として利用することも,あるいは行. 事例①は,慣習法違反を根拠にして共同体代. 政が慣習法を社会秩序維持に読み込んで行う退. 表から行政官に対する退去命令発行の要請がな. 去命令も,受容される可能性がある.しかし,. されており,慣習法を執行する手段として行政. たとえ明確な規範が存在し,それによって実定. 権限が利用されていた事実を示している. また,. 法の規定を待つまでもなく合法/不法について. 根拠となった慣習法が婚姻に関するものである. 判断可能であるとしても,その判断に基づき直. 点は,親族的身分秩序に基づいて土地支配関係. ちに行政官の手によって法を執行することは,. が規律されていたことを示している.それに対. 相手方に抗弁の機会を認めない点で法の適正手. して,事例②は,家屋を所有するという当事者. 続を欠いているし,行政官の権限行使に課され. の主張は判断材料になっておらず,共同体への. る制約が存在しない点で法の支配を否定するこ. 吸収可能性および土地保有関係の維持が退去命. とにもなる.さらに,明確な規範が欠如する場. 令の根拠となっており,また,行政官自らがそ. 合には,土地の帰属または支配権限に係わる紛. の判断を行っている点で,事例①と対照的であ. 争を行政が解決するということは,行政官の判. る.事例③の場合は,退去命令の根拠は制定法. 断により権利関係が決定されることを意味して. に基づいている (契約に基づく居住権限の欠如). おり,法定の要件に基づき形式的に帰属や権限. が,その執行にあたっては実質的価値判断が行. が決定される実定法上の所有権制度とは異質で. われ,他の退去命令書にはみられない移住先の. ある32).また,紛争当事者が均衡する力関係に. 提供という事実が示されている.. ある集団である場合には,行政的解決はより政. 本来であれば,行政法上の権限である退去命. 治的な性質をもつに至り,それだけより困難な. 令は授権法規の規定する範囲内でのみ許容され. 課題となる.規範の不明確な場合の問題につい. るものであるにもかかわらず,事例から明らか. ては,土地制度改革の社会的背景として,後に. になるように,様々な私法上の紛争に関連して. 検討したい(V. 1. (4)).ここでは,所有保護の. も権限が行使されていた.かかる慣行の背後に. 実効性という面において,司法手続による救済. は,次のような事情が存在したと思われる.あ. に依拠する実定法上の所有権制度が,自力救済. る一定領域を支配してきた共同体と慣習法が存. や行政の強制力と競合関係に立ち,この面での. 在すれば,ある人が土地を占有している事実が. 完全な分化を達成していなかった点を確認して. いかなる原因に基づいているかは,共同体構成. おきたい.. 員の認識に基づいて容易に判断されうるから, 例えば支配領域に無断で侵入してきた者のよう. Ⅴ.土地制度改革の背景・展開・帰結. に,誰の占有が不法占有であるかもおのずから. 本章では,以上に分析してきた土地制度改革. 明らかとなる.この状況では,客観的な帰属判. 前史を踏まえたうえで,土地制度改革(絶対的. 断基準を実定法に規定しておくことも,また法. 所有権 の 導入)が 従前 の 土地制度 を ど の よ う. 定された権原に依拠して紛争を解決することも. に変更するものであったのかについて,改革の. 必要ではない.規範的判断はすでに下されてい. 背景,展開,帰結の順に分析していく.Ⅲおよ. るのであり,後は執行の問題が残されているだ. びⅣにおける分析から導出される変化の方向性. けの状況であるため,実効性の要請が前面に出. は,第一に,慣習法における親族的身分秩序を. てくる.この点に,慣習法と行政の強制力とが. 前提とした所有の保護,帰属判断,支配権限の. 直接に結合する理由があったと考えられる.. 規律から,近代的な個人主義的所有権への移行. このように,紛争状況において明確な規範が. という法内容上の変化,第二に,慣習法の効力.
(12) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). 52 (52). を維持することが合理的であると判断されてい. て,立法者が政策転換を勧告した理由,および. た状態から,実定法において直接に法内容を規. 提案された新しい土地制度の概要について検討. 定し,それに基づいて紛争を解決する状態への. したい.. 移行という変化の重なりとして捉えることがで. 報告書は,まず,アフリカ人社会に変化が生. きる.以下では,まず,土地制度改革に対する. じているとして,以下のような分析を行ってい. 立法者の認識を検討したうえで,土地制度改革. る.報告書は,社会変化の最大の要因を貨幣経. の経済的・政治的・社会的背景について分析す. 済の浸透に求めたうえで 37),「貨幣は,時には. る.次に,土地制度改革の過程と新しく実体法. 家族やクランから遠く離れた場所で,アフリカ. として成立した登記土地法の規定を確認し,最. 人個人の努力によって獲得されるものであり,. 後に,土地制度改革の帰結について,土地所有. この富が共同体の財産となることを認めない願. に関するルールの転換に伴う問題を検討すると. 望が自然と現われ始めている」という変化を指. の本稿の関心に沿って検討する.. 摘する38).さらに,キリスト教文化の浸透の影 響等も併せて指摘し,一部地域において,「共. 1.立法者の認識と土地制度改革の経済的・政 治的・社会的背景. 同体的な生活形態の崩壊」が見られるとの認識 を提示する.次に,かかる変化の影響を以下の. ⑴ 土地制度改革の沿革と立法者の認識. ように整理した.市場経済化は,一方において. 土地制度改革 へ 向 け た 立法者 の 認識 の 変化. は,アフリカ人の生活水準を上昇させる契機と. を検討するにあたり,最初に改革の沿革を簡. なる.しかし他方で,共同体的生活形態が人々. 33). 単に整理し ,検討の対象とすべき素材を特定. に経済的・社会的安全(security)を提供して. し た い.改革 へ の 発端 は,一部 の 地方政府 が. きたことも事実であり,その崩壊によって「ア. 独自に個人的所有権を承認する政策を取り始. フリカ人の不安(insecurity)の感覚が疑いな. めていたことにある34).しかし,1952 年,法. く増大している」.そこから「公共政策が,脅. 務局はこの政策が現行法に違反することを指. 威の性質や重大性を認識すること,さらに,土. 摘し法改正を勧告した.これを受け,1953 年. 着の人々が自身の生活水準を改善できるという. から東アフリカ王立調査団(East Africa Royal. 願望と,安全[を保障してきた]部族秩序の崩. Commission)が,土地制度 の 調査 と 政策提案. 壊に伴う社会的分裂がもたらす有害な効果を回. を目的として,東アフリカに派遣され,1955. 避したいという願望との間で生じるジレンマを. 年に報告書が提出された35).この報告書は,ケ. 認識することが重要である」とする39).以上を. ニアにおいて土地の個人的所有権確立を承認す. 要約すると,市場経済への転換が事実として生. る方向性を明確に打ち出し,その方向への政策. じているなかで,人々の安全への脅威ないし社. 転換を勧告したものである36).この提案を受け,. 会への有害な効果が発生しているという現状認. 1957 年に改革の具体的手法を検討する作業部. 識のもと,原則として市場経済への転換を促進. 会(Working Party)が設置され,この作業部. すべく,ただし人々の不安や社会的に有害な効. 会の作成した法案が 1959 年に新しい土地法と. 果に対応する土地制度を構築する必要があると. して制定された.そして,本法に基づき,そ. いう方向性を提示している.. れまで慣習法が支配してきた原住民領地におい. そのうえで,「より重要なのは,この移行を. て,各人の土地における権利ないし利益を確定. 実行するメカニズムよりも,この変化に含まれ. し登記するという土地制度改革が実施されてい. る諸原理を理解することである」として,次の. く(詳細については後述する) .それゆえ本稿. ような「原理」を提示した40).すなわち,「交. では,1955 年の王立調査団報告書をもとにし. 換経済では,土地を自由に売買する可能性は,.
(13) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). (53). 53. 土地の価値が共同社会の諸利益からみて最善と. があり,また共有地において無制限の放牧を許. なりうる利用形態を概ね反映しているとの想定. 可する共同システムは,……農業的に非生産的. に依存 す る」か ら, 「部族的権威が,自部族構. である」と指摘する一方,「自由土地保有権は,. 成員または外部者による土地利用を,土地の最. ……土地利用規制に従って土地を利用する義務. 高度の生産性という基準以外の基準によって制. が欠如していることを意味するのではない」と. 限することは, [最善の利用形態を不可能にす. 言う.そして,共同体の制約を撤廃するだけで. るから] 彼らの真の 『安全』 を高めるのではなく,. は不十分であり,「なんらかの形態の土地利用. 失わせることになる.部族による他人の排除. 統制 と 計画(control and plan)を 有 す る 必要. に基づく,あるいは取引可能な資産としての土. がある」としている45).ここでは,共同所有が. 地の処分を妨げる慣習に基づく安全とは,自給. 無計画な利用を促すと理解したうえで,それと. 経済の幻想的な安全であって,そのなかで経済. の対比から,統制と計画に基づく個人的土地保. 41). 的進歩は不可能である」と言う .伝統的世界. 有の導入が提唱されている.. は, 「経済的交換および経済活動の自由が,近. そのうえで,具体的な土地制度改革の見取り. 代法によって保護されている世界と対照をなし. 図を次のように描く.まず,土地保有にかかわ. ている」のである42).そして, 「部族によって. る安全性の問題には,①土地の稀少化に伴って. 規制された土地保有制度から,財産が個人ある. 生じる一定区画を確実に保有できるという安. いは組合といった共同行為のための機関によっ. 全,②政府の土地政策からの安全46),③人種間. て所有されている近代社会への移行」を促進す. での土地取引の禁止に伴い生じる緊張の緩和と. る仕組みは, 「状況ごとに多様である」とはい. いう三つがあるとしたうえで, 「第一に,法が,. え,そこには「一つの原理が基盤にある.すな. 現存する財産権が恣意的に妨害されないであろ. わち,近代的経済制度が進化するためには,障. うという信頼(confidence)の基盤を形成する. 害となっている部族の政治的権威から最大限可. ことが必要である」という目的を定める47).そ. 能な程度の解放がなされなければならないとい. して,この目的を最も良く実現するためには,. う原理である43)」 .ここに,個人の土地処分権. 既存の土地における諸利益を確定および登記し. 限に対する共同体の制約の撤廃が,市場経済の. た後でなければ,政府はいかなる土地処分もな. 発展にとって不可欠であるとの原理が提示され. しえないと法定することが必要であるとする.. ている.. その次に,個人的所有権を導入・登記する過程. こうして, 「個人に基づく単位に安全を与え. が続くべきであるとされ,さらに,個人的所有. る」という「個人的土地保有」の導入が提唱さ. 権を導入した後に,①慢性的な債務超過,②保. れた.そこでは, 「個人的土地保有は,個人に対. 有単位の細分化,③非生産的な土地集積と少数. してその占有が安全であるとの感覚を与える点,. 者による土地独占を回避するための土地利用統. および,土地の売買を通して現在の不適切に細. 制制度の構築が必要であると勧告している48).. 分化された利用形態から経済効率的な農地規模. 以上に加え,かかる土地制度改革が包括的な. 単位への調整が社会的に可能となる点において,. 経済改革の一環として位置づけられ,そのなか. 大きな利得を有する」と指摘されている44).た. で実施されねばならないとされていた点にも注. だ し,個人的土地保有 は,土地支配権限 の 面. 目すべきである.包括的経済改革は,市場化の. で,当初から計画と統制の存在を前提にして理. 機構整備(生産物価格補償,市場設備,交通・. 解されていた点にも注意が必要である.すなわ. 通信手段,各種規制制度),生産 の 組織化(生. ち,報告書は,共同所有という形態には「何人. 産者団体等),信用制度 の 設立 と 拡充,製造業. も共同財産の管理をしないという人間性の問題. の振興,運輸手段の整備,水資源管理,労働力.
(14) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 1 号(2007年 7 月). 54 (54). 統制,公衆衛生および教育制度の拡充にまで及. 一部では,すでに入植の前後から市場経済へ向. ぶ.そして,これら「経済交換および経済活動. けた緩やかな変容を遂げつつあった.その後,. の自由」の基盤整備は,民間の能力が限られて. 1920 年代 か ら 徐々に,と り わ け 第二次世界大. いるなかでは,国家の主導でなされなければな. 戦後からは急速に,アフリカ人保留地内にも経. らないとしている.このように,農業経済に対. 済開発の機会が開放され,商品作物の栽培,農. して土地制度改革が独立してインパクトを与え. 業技術の導入,貸付制度の拡充等が進められて. うるとは,当初から考えられていなかった点に. いた51).また,消費財購入,納税,教育費,医. ・. ・. ・. ・. 49). 注意を要する .また報告は,経済効率的な土. 療費といったかたちで貨幣の必要性はアフリカ. 地制度への移行が土地なし階層を創出する可能. 人の日常生活にも浸透していた.これらを原因. 性があることを認めたうえで, 「農業開発にお. として,土地もまた貨幣経済に内包され,市場. ける進歩は,異なる地域,異なる人々および集. で販売される農産品の生産資源として所得創出. 団において,不均等なペースで進まざるをえな. 源になるとともに,土地自体もまた貨幣による. い」という50).. 交換の対象となった結果,土地の価値は急速に. 以上,土地制度改革 へ 向 け た 立法者 の 認識. 増大していった.以上に加え,保留地内におけ. は,安全を鍵概念として用い,土地所有の安全. る人口増加によって,土地区画あたりの人口密. 性に加えて,国家権力からの安全の必要性につ. 度が上昇した結果,土地をめぐる競争が激しく. いても指摘するなど,ただ単に個人に土地処分. なっていたことや52),慣習法上の均等分割相続. 権限を認めるという改革だけでなく,他人や国. 制度 に よって 土地 の 細分化 が 進 み,経済効率. 家からの財産権の保護およびその「信頼」の形. 的な保有面積を下回る事態が生じていたこと. 成,さらに所有者の土地利用統制などにも向け. も53),経済の展開に影響を及ぼしていた.この. られているように,極めて包括的である点に特. ような経済変容は,商品作物生産に適した一定. 徴がある.そして,この改革は,アフリカ人社. 規模の土地を所有し,その保有の安全を確保す. 会における農業経済の構造転換(商業化)の一. る必要と,土地取引に対する需要を高めたと言. 環として位置づけられているとともに, 「共同. えるが,これが一部地域においてのみ顕著な現. 体的生活形態の崩壊」という経済領域にとどま. 象であった点に注意が必要である.. らない帰結を有しうる社会変容に問題の原因を. 経済変容という現象に関して問題となるの. 求め,その対策として提案されていることから. は,かかる変容が慣習法上の土地保有関係にい. して,共同体による自助的な土地所有保護から. かなる影響を与えたかである.慣習法のもとに. 実定法制度による土地所有保護への転換とその. おける土地利用や取引は親族的身分秩序を原理. ために必要な法制度の整備,言い換えれば,社. としていたという事情から考えると,親族的身. 会において実定法の果たすべき役割の向上まで. 分秩序ないし共同体の権威と個人の意思との関. をも視野に収めた改革であると言ってよいと思. 係が問題になる.とはいえ,この関係は具体的. われる.. な状況に応じて多様である.例えば,個人によ. ⑵ 土地制度改革の経済的背景. る土地の譲渡が共同体の意思に反してなされた. 次に,立法者が社会変容として認識した問題. 場合であっても,譲渡により取得した利益を共. が具体的にいかなる形態をとって発生していた. 同体のために利用することや,譲渡後における. かについて,経済的側面,政治的側面,社会的. 土地の利用方法に規制を加えることによって共. 側面に分けて検討していく.まずは,経済的側. 同体の利益を害することがないなどの事情があ. 面から検討する.. れば,譲渡は許容されうる.このような場合に. 先述したように,ケニアのアフリカ人社会の. は,依然として,親族的身分秩序という原理が.
(15) ケニアにおける土地制度改革の法社会学的分析(二) (平田). (55). 55. 土地の利用や取引において働いている.それに. 認識することが必要となる.ここでは問題の指. 対して,土地保有関係を親族的身分秩序によっ. 摘にとどめ,ケニアにおける実例は土地制度改. て規律するという構造自体の変容が指摘されて いる.すなわち,ソレンソンは,キクユ社会に. 革の過程を検討するなかで扱うことにしたい (V. 3. (1)).. お い て,1930 年代 か ら「mbari 構造 が 崩壊 し. 次に,帰属確認手段の不備が問題となってい. 始めていた」こと, そして, チーフ,長老,教師,. た点を見ておこう57).これについては,慣習法. あるいは入植者農場での農業労働者といった階. によって認められていた売主の自由な買戻権に. 層──ソレンソンは, 「キクユ・ジェントリー」. 関連して指摘された問題を取り上げる58).第一. と呼ぶ──が資本蓄積を進めた結果,土地の囲. に,買戻し可能な取引に必要な人的関係の基盤. い込みと土地取引が頻繁に行われるようになっ. が消滅していたこと,特に,売買がなされた世. たと指摘している54).アフリカ人社会において. 代から離れ係争地が相続を経ている場合に,も. も,交換による利益獲得および価格に動機づけ. はや契約当事者同士の人的関係に基づいて買戻. られた経済的利益の秩序が生まれていたのであ. しを行うことが不可能となり,買戻権の行使を. る.. めぐる紛争が増大したことが指摘されている.. しかし,このような経済変容が直接に親族的. この理由は,売買(あるいは借地人としての受. 身分秩序の崩壊を導いたというのではなく,親. け入れ)に合意した当事者の人的関係は,相続. 族的身分秩序の外側で新たな経済的利益の秩序. されえないことにある.第二に,「裁判所にお. が生まれ,また土地が資産としてかかる経済秩. いて,『記憶にない時代』の取引を証明するこ. 序の対象となった結果,土地保有関係を規律す. とが徐々に困難となっていた」という帰属証明. る利益関心が親族的身分秩序によるものと経済. 手段の不備の問題が指摘されているが,これは. 秩序によるものとの間で複雑化し始めたと見る. 売買内容の証明を当時居合わせた人々の記憶に. べきである.なぜなら,例えば,商品作物生産. 頼る方法に限界が現れ始めていたことを示して. が拡大するなかでも,土地の生産性が低い地域. いる.第三に,取引された土地の開発が買戻し. では親族関係に基づく労働統制が強まる場合. のリスクによって妨げられていたという問題が. ・. ・. ・. 55). があることや ,生産過程における労働量と受. 指摘されている.これは,土地に投下した資本. 益との比率には男女間で格差があること56)な. を保護する関心が高まっていたことを示してい. ど,親族的身分秩序と経済秩序との関係がいか. る.第四に,土地の稀少化と価値上昇を背景に,. なる形態をとるかは,各地域や共同体の置かれ. 投機の目的で土地を買戻す事案が増大し,買主. た自然的・社会的状況,さらにそのなかでの各. が占有を奪われる事態が増え,紛争が多発する. 人の置かれた状況ごとに多様だからである.し. ようになったと指摘されている.同じような問. たがって,土地制度改革とは,土地が経済秩序. 題は,地主と借地人との間でも発生しうる.以. に組み込まれていくという新しい事態への対応. 上は,基本的には買戻権の問題であり,これに. として,慣習法による規律の維持ではなく,実. 対して地方政府による対策が採られていたとは. 定法によって直接に規律するという選択をした. いえ59),そこには,土地と人格との帰属関係を. ものであると位置づけることができるが,その. 当事者の人的関係に基づいて決定することの限. 場合でも,新しく導入された近代的な不動産譲. 界と,帰属関係を客観的に明確なものとするた. 渡法や登記制度が機能しているか否かと問う前. めの制度(権原を規定する実体法,および公示. に,かかる制度が必要になった背景である親族. 制度たる登記)に対する需要の存在が示されて. 的身分秩序 か ら 経済秩序 へ の 移行過程 に お い. いると言えよう.. て,いかなる対立や問題が生じうるかを正しく.
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