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自律性を高める教育的介入の効果 : ─ 自律性の高まった日本語学習者の事例研究から ─(II.基盤教育院における実践)

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─ 自律性の高まった日本語学習者の事例研究から ─

藤田 裕子

キーワード:自律、動機づけ、教育的介入、日本語学習、PAC 分析

概要

 本研究では、留学生を対象としたニュース聴解と新聞読解の選択科目において、自律性を 高める活動を取り入れた授業実践を行い、自律性が最も高まった学習者の動機づけの変化と、 その学習者が授業をどのように捉えていたのか、また、何が自律性を高めたのかを探った。  本研究における自律性を高めるための活動は以下 10 である。  ①学習計画シート:目標・課題・方法から成る  ②自己評価シート:学習者が評価項目・評価者・評価割合を決める  ③ポートフォリオ:学習した学習資料を整理して収める  ④学習ストラテジーの学習:毎回の読解・聴解の前に行う  ⑤クイズ:授業で扱った内容と関連するニュースと新聞記事から出題する  ⑥学習記録:授業中に課題を行い、それらを記入する  ⑦リアクションペーパー:新しく学んだこと・授業の達成度・教師への一言を書く  ⑧カンファレンス:ポートフォリオを見せ合いながらグループで学習について話す  ⑨個別セッション:ポートフォリオを見ながら教師と学習について話す  ⑩発表:テーマや発表方法は自由。評価は発表者以外の全員が行う  自律性が最も高まった学習者は聴解に苦手意識を持っており、学期開始時は社会的な圧 力や外的な評価を気にしたり、日本語学習を重要だと考えたりする外発的動機づけが高 かったが、学期終了時には学習そのものが楽しくなり、内発的動機づけが高まった。ま た、授業をチャレンジングで役に立ち、よい学習習慣がついて達成感が得られたとして肯 定的に捉えていた。  この学習者の自律性を高めたのは 1)チャレンジ精神、2)自分の能力を伸ばしたいとい う気持ち、3)自律学習の成果を発表する場、4)よい刺激となる友人であった。そして、 自律性を高めるのに役立った活動は、①学習計画シート、②自己評価シート、③ポート フォリオ、⑤クイズ、⑧カンファレンス、⑨個別セッション、⑩発表であったと考えられ る。以上の結果から、教育的介入への示唆を得た。

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1.問題の所在と研究目的

 近年、外国語の学習を通して学習者の自律性を高め、継続的な学習能力を身につけるこ とが重視されている。自律(autonomy)とは自己の学習に責任を持つ能力であり、自律学 習(autonomous learning)とは学習の目標を定め、内容と進度を決め、用いる方法や技術 を選び、習得したことを評価するなど学習に関する全ての側面について学習者が責任と決 定権を持つことである(Holec, 1981)。自律性は誰もが初めから持っているものではなく 教育の中で育てるものであるとされるが(梅田 , 2005)、教師はどのようにしたら学習者の 自律性を高められるのであろうか。  学習者の自律性を高めるための実践研究は、日本の大学の外国語教育分野でも近年盛ん に行われている(永倉 , 2011;林・金 , 2012 など)。ただし、授業実践自体に焦点が当てら れているものが多く、授業効果の測定は行われていないか、学習者の授業への感想を紹介 するに留まっている。太田(2012)は e-learning 英語教育の授業効果をテストの点数の伸 びによって測定したが、上位群と下位群を比較した結果、学習時間数や学習者が取り組ん だ問題数などで有意差が見られず、上位群の点数が伸びた理由が明確にならなかった。  一方、日本語教育においては、江田・飯島・野田・吉田(2005)が多読授業を実施し、 読解テストで実験群と統制群に有意差が見られ、アンケートとレポートの分析から読書に 対する態度や学習ストラテジーの使用に変化が見られることを報告している。齋藤・松下 (2004)は自律的な学習を基礎とした個別対応型の授業の概要・活動事例について報告し た上で、授業に対して肯定的・否定的・どちらでもない学習者について分析している。そ の他にも実践報告は多数見られる。ただし、授業効果については、質問紙による一斉調 査、教師の観察、学習者のレポートの分析からクラスの全体的傾向を報告するものが多 く、学習者に個別に質問したものは少ない。クラスの全体的傾向を把握することは重要で あるが、学習は個別的なものであり、授業に対する反応も学習者によって異なると考えら れるため、クラス内の個々の学習者の意見を知ることも必要であろう。  ところで、学習者が自律的に学習を行おうとする意思決定には、学習者がもつ動機づけ のあり方が大きく関わってくると考えられる。動機づけを自律性の観点から捉えたものと しては、自己決定理論(Self-Determination Theory;Deci & Ryan, 1985, 2002)がある。 ここでは、自己決定性(自律性)という一次元上から、次の 4 つの動機づけを想定してい る。「外的調整」は社会的な圧力や外的な評価のために学習するという動機づけである。 「取り入れ的調整」は不安や恥を回避するために学習するという動機づけであり、「同一化

的調整」は行動が自分にとって重要であるからという動機づけ、「内発的動機づけ」は興味 や楽しさから自発的に行動するものである。これらは内発的動機づけに向かうほど自律的

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なものとされている。なお、行動が自己決定されていないのが「無動機」とされる。  本研究では、自律性を高める活動を取り入れた授業実践を行い、自律性と動機づけの調 査を行う。そして、自律性が最も高まった学習者の動機づけの変化と、その学習者が授業 をどのように捉えていたのか、また、何が自律性を高めたのかを探り、今後の教育的介入 への示唆を得ることを目的とする。

2.研究の方法

2.1 対象授業の概要  本研究の対象授業は、本学において 2012 年度秋学期に開講されたニュース聴解と新聞 読解の授業である。日本語レベル上級の短期留学生と学群留学生対象の選択科目で、週 1 回の 90 分授業が計 15 回行われた。なお、上級とは日本語能力試験 1 級合格程度を指す。 履修者は 18 名、出身地は中国(13 名)・韓国(3 名)・台湾(1 名)・モンゴル(1 名)であり、 授業には日本人大学生のボランティア(以下「クラスゲスト」)も 1 名参加していた。 2.2 授業活動の内容と授業の構成  以下が本研究で取り入れた自律性を高めるための 10 の活動である。  ①学習計画シート:「目標」と「課題:目標達成のためにどのようなことができればよい か」、「方法:課題に対する学習方法」から成る。学習目標の設定と学習方法の選定は、自 律学習においては重要な一段階であるとされている(齋藤・松下 , 2004)。  ②自己評価シート:まず、既に用意されている評価項目から、学習者が何を評価対象と するかを選択する。ここで学習者が評価項目を加えてもよい。次に、選んだ項目について 学習者が評価者と評価割合を決める。ここまでを学期初めに行い、学期末に項目ごとに評 価者が評価し、評価の理由を教師に説明した。小山(1996)によれば、自己評価は、自律 学習促進の必要不可欠な要素であるという。  ③ポートフォリオ:授業で扱ったテーマに関する学習資料をすべて入れることとし、特 に授業外で行った学習資料を整理して収めるよう指示した。峯石(2002)は、ポートフォ リオを「学習者がある領域・プログラムにおける進歩の度合いを自己評価するために収集 する学習資料である」とし、学習者が自律的な能力を伸ばす指針となるとしている。  ④学習ストラテジーの学習:毎回の読解・聴解の前に行った。学習者の自律性を重んじ る欧米では、ストラテジーの意識的な選択・使用が学習プロセスを自律的にコントロール するとして、言語学習における学習ストラテジー指導の重要性が深く認識されている

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(JACET 学習ストラテジー研究会編 , 2006)。  ⑤クイズ:学習を振り返ることはメタ認知を高め、自律を導く(小嶋 , 2010)。本研究で は、授業を振り、学習事項や学習ストラテジーの定着を促し、自律学習能力を高めるた め、毎回、前回の授業で扱った内容と関連するクイズを実施した。  また、廣森(2006)は動機づけを高めるために、他者との相互作用の機会を多く取り入 れること、共通した目標を設定し連帯感を生み出すことが重要であるという。そこで、以 下の活動も実施した。  ⑥学習記録:まず今日の目標を記入し、重要語句を予想する。その後、読解では、読後 に重要語句の意味を確認し、自分の言葉で記事をまとめ、ペアワークで比較する。次にクラ ス全体で話し合って得た情報を記入し、最後に記事を要約する。聴解では、1 回目の聴解 後、ペアワークで聴き取れた情報を比べて次に何を聴けばよいかを考え、2 回目の聴解後 にクラス全体で話し合ってまとめた。最後に理解が不十分だったところについて聴いた。  ⑦リアクションペーパー:教師と学習者が個別にコミュニケーションを図るためもので あり、「今日新しく学んだこと」「今日の授業の達成度とその理由」「先生に一言」から成る。  ⑧カンファレンス:学習者同士の話し合いの場である。事前に「努力したこと」「できる ようになったこと」「今後さらに学習していきたいこと」を記述して来て、当日は 3 名のグ ループでポートフォリオを見せ合いながら互いに学習について話し合った。  ⑨個別セッション:教師との話し合いの場である。事前に学習計画シートと自己評価 シート、ポートフォリオを提出させ、教師が目標などと照らし合わせながら学習成果にコ メントを記入し、当日はそれらを見ながら学習について話し合った。  ⑩発表:自律学習の成果を発表する場である。テーマや発表方法は自由であった。評価 は発表者以外のクラスメート全員が行う。まず、「準備」「内容」「構成」「発表の仕方」につ いて 1 点から 5 点、計 20 点で評価し、「良かった点」と「頑張るとよい点」について記入 した。シートは回収し、評価者の名前を削除して次回授業時に発表者に渡した。  実際の授業では、初回オリエンテーションで自律学習について説明し、①学習計画シー トと②自己評価シートを作成した。第 2 回目に③ポートフォリオと④学習ストラテジーに ついて説明を行った。その後、⑥学習記録を用いて同じテーマで読解と聴解を行い、授業 の最後に⑦リアクションペーパーの記入を行った。第 3 回目からは通常授業となり、⑤ク イズを実施した後、その日のテーマで読解と聴解を行った。さらに、中間と期末には⑧カ ンファレンスと⑨個別セッション、⑩発表を行った。

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2.3 調査の内容 2.3.1 日本語学習における自律性  藤田(2010)を参考に日本語学習における自律性に関する質問項目を考案し、この調査 とは別の留学生に日本語を学習する際の学習方法として、5 件法(「1. 全く当てはまらない」 から「5. 非常に当てはまる」)で評定する質問紙を配布し、176 名分を回収した。そして主成 分分析を行い、第一主成分に 0.60 以上の負荷を持つ 6 項目を残して尺度とした。これら の合計(評定値をそのまま 1 点から 5 点とし、6 項目× 5 点= 30 点)を自律性得点とした。 本研究ではこの尺度を用い、履修者全員に対して学期開始時と終了時に調査を行った。 2.3.2 動機づけ  廣森(2006)による「英語学習における動機づけ尺度」を本研究に合わせて改訂して使用 した。この尺度は、下位尺度として「内発的動機づけ」「同一視的調整」「取り入れ的調整」 「外的調整」「無動機」がある。この尺度を本研究に合わせ、「英語」を「日本語」または 「ニュースや新聞」に置き換え、学習者の負担を考慮し各下位尺度より 3 項目を選んだ。 また、対象授業が選択科目であることから「無動機」を削除した。つまり、4 つの下位尺 度に各 3 項目、計 12 項目を使用した。項目内容を実際の表現内容を損なわないよう略記 すると以下の通りである。「学習するのが楽しいから」「学習して新しい発見があると楽し いから」「学習して知識が増えるのが楽しいから」(以上、内発的動機づけ)、「将来使える 日本語を身につけたいから」「自分にとって必要だから」「自分の成長に役立つから」(以上、 同一視的調整)、「学習しておかないと後で後悔するから」「ニュースや新聞が分かると格 好がよいから」「ニュースや新聞が分かるのは普通だから」(以上、取り入れ的調整)、「よ い成績を取りたいから」「学習するのは決まりのようなものだから」「学習しなければなら ない社会であるから」(以上、外的調整)。調査は履修者全員に、学期開始時と終了時に行 い、5 件法(「1.全く当てはまらない」から「5.非常に当てはまる」)で評定を求めた。 2.3.3 留学生の授業に対する態度

 内藤(2002)による PAC(Personal Attitude Construct:個人別態度構造)分析を用いた。 PAC 分析とは、当該テーマに関する自由連想、連想項目間の類似度評定、類似度距離行 列によるクラスター分析、当人によるクラスター構造のイメージや解釈の報告、調査者に よる総合的解釈を通じ、個人別にイメージ構造を分析する方法である。調査協力者が 1 名 でも分析でき、調査協力者自身の見方に沿った変数を取り出すことや、クラスター間の関 係に調査協力者のイメージや解釈を加えて因果関係を推論すること、開示されるエピソー ドから構造全体を共感的に理解することが可能である。  PAC 分析の手順は以下の通りである。1)連想刺激を印刷した文章を提示するとともに、 口頭で読み上げて教示する。「あなたは『ニュースと新聞の授業』と聞いて、どのようなこ

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とを感じたり考えたりしますか。授業全体の印象はどのようなものでしたか。授業で行っ た活動で印象に残っているのはどのような活動でしょうか。頭に浮かんできたイメージや 言葉を、思い浮かんだ順にカードに記入してください。」2)この連想刺激から連想される 項目を 1 枚のカードに 1 つずつ自由に書いてもらう。項目数は自由である。3)連想終了 後、調査協力者にとって重要であると感じられる順にカードを並べ替え、その順位をカー ドに記入してもらう。4)項目相互を比較し、2 つの項目が直感的イメージでどの程度近いか を 7 段階で評定してもらう。これを全てのカード間で行う。5)調査者がカード間の評定 結果をクラスター分析(ウォード法)で処理し、分析結果に調査協力者が書いた項目を記 入する。6)図に基づいて面接調査を実施し、図の分け方(以下分けられた項目の固まりを 「クラスター(CL)」とする)、各 CL から浮かぶイメージ、CL 間の関係、全体のイメージ、 各項目の意味とイメージ(+/ 0 /-を感覚的に評価)について尋ねる。さらに、 PAC 分 析における質問を確認・補足し、授業に対する全体像を見えやすくするため、半構造化面 接を行った。調査の使用言語は日本語であり、面接の所要時間は約 2 時間であった。 2.3.4 PAC 分析における調査協力者  日本語学習における自律性調査において、学期開始時と終了時で最も変化の大きかった 留学生 A に、授業改善に役立てるためとして調査協力を依頼した。留学生 A は 20 代前半 の中国人男性で、専攻の日本語は大学に入ってから学習し始め、調査当時 4 年生であった。

3.結果と解釈

3.1 日本語学習における自律性   クラス全体と留学生 A の授業前後における自律性の結果は表 1・図 1 の通りである。 クラス全体の自律性は、学期開始時も低くはなかったが、学期終了時にはさらに高まって いる(21.2/30 点→ 24.0/30 点)。一方、留学生 A の自律性は 14/30 点から 24/30 点へと変 化している。 3.2 動機づけ  図 2 がクラス全体の動機づけの平均の変化、図 3 が留学生 A の動機づけの変化である。 クラス全体の動機づけは学期開始時と終了時でほとんど変化がないのに対し、留学生 A は内発的動機づけが上昇し(9 点→ 12 点)、同一視的調整が下降している(15 点→ 12 点)。 取り入れ的調整には変化がなく(6 点→ 6 点)、外的調整にやや下降が見られる(12 点→ 11 点)。つまり、留学生 A は、日本語の学習が自分にとって重要であるから学習するという

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動機づけが弱まり、日本語を学習するのが楽しい、新しい発見があるのが嬉しいから学習 するという自発的な動機づけが高まったということである。 表 1 クラス全体と留学生 A の日本語学習における自律性の平均と変化 学期開始時 学期終了時 変化量 クラス全体 (SD) 留学生 A クラス全体(SD) 留学生 A クラス全体 留学生 A 1.学習目標を自分で決める 4.0(0.8) 2 4.2(0.7) 4 0.2 2 2.学習内容を自分で決める 3.3(1.2) 3 4.2(0.8) 4 0.8 1 3.学習進度を自分で決める 3.7(0.8) 3 4.0(0.8) 4 0.3 1 4.学習教材を自分で決める 2.9(1.1) 1 3.6(0.9) 4 0.7 3 5.学習方法を自分で決める 4.2(0.7) 3 4.3(0.7) 4 0.1 1 6.学習評価を自分で行う 3.1(0.8) 2 3.7(0.9) 4 0.7 2 計 21.2 14 24.0 24 2.8 10 *項目内容は実際の表現内容を損なわない程度に略記したものである 図 1 クラス全体と留学生 A の日本語学習における自律性の変化 学期開始時 学期終了時 30 20 10 0 全体 留学生 A 図 2 クラス全体の動機づけの変化 * :学期開始時、 :学期終了時 内発的 動機づけ 同一視的調整 取り入れ的調整 外的調整 15 10 5 0 図 3 留学生 A の動機づけの変化 * :学期開始時、 :学期終了時 内発的 動機づけ 同一視的調整 取り入れ的調整 外的調整 15 10 5 0

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3.3 留学生 A の授業に対する態度  図 4 は留学生 A の PAC 分析の結果である。図の左端の数字は項目の重要順位、横軸は 項目間の距離、項目の後の(+/ 0 /-)は各項目のイメージを表す。以下、留学生 A の 発話を囲みに入れ、CL ごとに結果を記載する。  CL1 は[チャレンジ]から[聴解・読解の目標]までの 6 項目である。留学生 A は聴解に 苦手意識を持っており、聴解力向上を決意して挑戦する気持ちで対象授業を履修したよう である。また、自宅で聴解に意欲的に取り組んだが、テレビ番組で話される日本語が速い ため、緊張しながら視聴していたという。さらに日本人との友人との会話でも緊張してい ると話し、履修の理由として日本語会話での聴解力向上も期待していたことを窺わせた。 図 4 留学生 A の対象授業に対する態度 1) 3) 5) 2) 15) 11) 4) 6) 9) 13) 8) 12) 7) 14) 10) チャレンジ(+) はやい(0) ディクテーション(+) 緊張(−) 番組(+) 聴解・読解の目標(−) ポートフォリオ(+) 習慣(+) 内容が少ない(−) 単語(+) 発表(+) 評価(+) カンファレンス(+) クラスゲスト(+) 全体討論(−) 0 距離 11.21 CL1 CL2 CL3 CL4  「まずチャレンジと言えば、やはり、外国語を勉強しているときは、なんか、聴解と口頭 表現が一番難しいところじゃないかなと思って…。特に聴解の場合は、テレビのニュースは スピードが速いし、分かりにくいところもいっぱいあるから、そのところがチャレンジだと 思います。」  「そもそもこの授業を取る目標がチャレンジしたいという感じで…。中国で 1、2 年生のと きもよくニュースを聞いたんですけれども、そのときはまだ半分、3 分の 1 しか分かりませ んので、今回はこの授業で挑戦しようかなと思って。」  「ディクテーションをするときも、なんか、細かい部分を聴き取れるまで随分時間がかか りますし、そのスピードに追いつけるためにもすごく大変で…。やはり、スピードが速いか らチャレンジだと思います。また、速いから自分が緊張していると思います。」  「実際は生活の中で、日本人の友達と話しているときも時々緊張します。自分がうまく相 手を理解できない場合は心配しています。…緊張しても、日本人と関わりたいなという気持 ちはあります。」

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 一方、留学生 A は聴解力を向上させニュースのすべてを理解するという大目標に向かっ て日々努力しているため、授業で毎回聴解や読解の目標を決める必要は感じられず、むし ろそのような時間があったら聴解の回数やテーマを増やしてほしいと語った。  「実は、授業で毎回目標を立ててもあんまり意味がないと思っている。自分にとっては資 料を全部分かるというのが目標です。…先生に悪いですけど、もっと授業の時間を効率的に 活かしてほしいから、毎回目標を立てる時間があったらもっともっと内容を聞いたほうがい いかなと。」  CL 2 は、[ポートフォリオ]から[単語]までの 4 項目である。授業で提出するポート フォリオのため、ディクテーションを毎日行うことが留学生 A の習慣となったという。 よい習慣は自分の成長に有用であり、この授業のポートフォリオには自分の努力が見られ るため達成感で満たされ、今後の動機づけにもなると述べた。  「ポートフォリオはこの授業に役立つだけでなく、今後の人生にも役立つと思います。確 かにポートフォリオの作成にはすごく時間がかかりますけれども、今学期が終わってから自 分のポートフォリオを振り返ってみると、なんか、私はこんなに頑張ってきましたか、そう いう達成感がいっぱいです。今学期のポートフォリオはこれからのモチベーションになりま すと思います。」  「ディクテーションは中国で先生に要求されましたが、そのときはそういう習慣が養われ ていなかったです。今回はこの授業を取りましたから、自分がそういう習慣を身につけなけ ればという感じが強くて、まあ、頑張らなければこの授業に合格できないかもしれないから、 そういう考えで、あの、やっと毎日ディクテーションをやるのはできました。…いい習慣が 自分の成長の動機づけとなります。習慣は非常に大きな力を持っていると思います。」  しかし、授業で扱うテーマが政治や経済に偏っており、社会や文化など日常生活に直結 するようなテーマが少ないため、授業も自分のポートフォリオも内容が少ないと感じてい るという。また、政治や経済では使う言葉や表現が似ており、新出単語をポートフォリオ にあまり収められなかったと述べた。  「[内容が少ない]は、実はこの授業だけを指しているのではなく、自分のポートフォリオ にも…まあ、政治的や経済的な内容が多いけれども、例えば社会や文化的な内容がまだまだ 少ないと思います。…とにかく、なんか、生活に活かせる内容が少ないと思います。」  「ポートフォリオにわからない単語を記入して、そういうことが非常に重要だと思います。… 授業に新しい単語が少ないと感じています。内容が主に経済と政治と関連しているからかも しれません。」

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 CL3 は[発表]と[評価]の 2 項目である。留学生 A は口頭表現も難しいとしていたが、 この授業での発表はテーマと発表方法が自由であり、自分の関心のある話題で話せる他、 クラスメートからも様々な話題が提供され、やる気が出ると語った。  「発表は非常にいい形だと思います。自分の意見が言えることはすばらしいと思います。 自分が好きなことをみなさんに紹介したいなという気持ちが、若い世代の中で強いと思いま す。…みなさんが、先生の配った資料を勉強しているだけではなくて、自分が興味を持って いるトピックを話題にして、それは、すごく自分が勉強したいという気持ちが湧いて出てく ると思います。」  また、留学生 A は評価に関し、自己評価やクラスメートからの評価といった評価方 法が面白いこと、成績の良し悪しよりも能力向上を重視していることを挙げた。さらに、 評価の厳しさが学習を継続する動機づけになり、聴解能力が向上したと感じているようで ある。  「自分が今学期頑張ったことを評価するのはいいアイデアだと思います。また、発表のと き、クラスメートからの評価は非常におもしろいと思います。みんなの自分に対する評価を 見て、自分が足りない点が、気づいていなかった点が発見できるのはおもしろいと思いま す。」  「クイズは厳しいと思います。2 回しか聴けませんので、それで全部聞き取れなかったこ ともありますから。そういう点から見れば、最初この授業の評価は厳しいなと思いました。 でも、成績がいいか悪いか別として、自分が本当に日本語の聴解力を上げたいという気持ち でこの授業を選びました。」  「評価が厳しいと思いますから、引き続き挑戦するという形です。…挑戦という気持ちも 学習習慣を維持するモチベーションとなります。簡単すぎたら挑戦する意欲がなくなると思 います。」  「日本語能力試験でも、聴解の点数が一番低いから今回の授業に挑戦したいと思ってまし た。…聴解にはまだ自信がありませんが、能力試験だったら多分大丈夫だと思います。」  CL4 は[カンファレンス]から[全体討論]までの 3 項目である。留学生 A は留学生の 友人も日本人の友人もなかなかできないと感じているが、授業を通じて友人ができ、さら に学習に役立つ情報が入手できたと述べた。  「カンファレンスはとても印象に残りました。2 回のカンファレンスは B さんと同じグルー プで、B さんに教えてもらったことが非常に自分の勉強に役立っていると思いますから。… カンファレンスで友達ができるし、その点が嬉しいと思いました。実際、交換留学生にとっ て、他の交換留学生と出会う機会が少ないです。」

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       一方、全体討論に関しては否定的である。自分が聴き取れなかった部分は自分で解決した いため、誰かと話すよりも再度聴き取りに挑戦したほうがよいと考えているためである。  「全体討論は必要ではないかなと思って。…まあ、別に自分が聴き取れなかった点を他の クラスメートに聞いても、何の役にも立たないかなと思って。所詮、自分が聴き取れないと、 ということですね。…別にチームワークとか嫌いなわけではないですが、やはり、…実際生 活、日常会話でも分からないところ、他人に助けを求めるわけにもいきませんよね。」  「[聴解・読解の目標]と同じで、もっと時間を効率的に使ってほしいです。」  留学生 A の対象授業に対する全体的なイメージは〈役に立つ授業〉であった。  「全体のイメージと言ったら、私はこの授業を通じていろいろ勉強できて、…自分の聴き 取りに役立っているだけではなくて、自分の他の勉強、この授業によって養われた習慣は他 の勉強にも役に立つと思います。〈役に立つ授業〉です。」 3.4 留学生 A の授業に対する態度に対する解釈  CL 1 は+、-、0 の項目が混在している。自分の挑戦に対し、日本語の速さはやる気 につながる一方で困難にもなる。また、毎回の目標設定は効率の点から不必要である。留 学生 A はこのように考えていると推察できるため、CL1 は〈大目標への挑戦と障害〉の CL であると言える。  CL 2 は+が 3 項目、-が 1 項目である。よい学習習慣がつき達成感もあるが、授業で 扱うテーマが偏っており、授業も自分のポートフォリオも生活に活かせる内容が少なく不 満を感じているようである。CL 2 は〈授業を振り返っての達成感と不満〉と解釈できる。  CL3 は 2 項目とも+である。発表では通常授業とは異なる様々なテーマで学習でき、 自分の発表に対するクラスメートの評価も参考になる上に、自己評価も面白いと述べてい る。また、挑戦するつもりで努力を続けた結果、聴解能力が向上したと感じているようで ある。これらのことから、CL3 は〈満足できる授業活動〉と命名できる。  CL 4 は+が 2 項目、-が 1 項目の CL である。留学生 A は日本語で話せる友人や日本 語学習に役立つ情報は欲している一方で、効率の面から聴き取りの活動を友人と共にする  「発表の時、クラスゲストがいろいろな表現を教えてくれて、非常にありがたいと思いま す。」  「クラスゲストは、友達ができるチャンスかなと思って。日本社会は友達ができるという こと自体が難しいと思います。なかなか日本人の文化圏に入れないという感じが強いです。… なんか集団主義かな。外人にとってはすごく難しい。」

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ことは欲していない。つまり、能力向上を図る際、友人はプラスともマイナスともなるの である。CL 4 は〈学習における友人の相反的イメージ〉から成ると言えよう。  CL の連鎖を見ると、CL2 と CL3 が[評価]で結びつき、CL1 の[聴解・読解の目標]と つながって、CL4 の[全体討論]と結合している。全体的には+のイメージが強いにも拘 わらず、各 CL を結節する項目のうち 2 つが-であるのが特徴的である。留学生 A は自 分自身の能力向上に重点を置いており、[聴解・読解の目標]と[全体討論]は、効率の点 から不満が残るものであった。留学生 A にとって、この授業は達成感もあり満足できる 部分が多く、全体的なイメージは〈役に立つ授業〉であるが、授業改善を念頭に置いて調 査に臨んでいたため、授業中の時間の使い方への改善点が CL を結びつけるポイントと なったと考えられる。 3.5 自律性を高めるための各活動への評価  PAC 分析と PAC 分析後に行った半構造化面接から、自律性を高めるための 10 の活動 について、留学生 A が語った内容をまとめたものを以下に示す。 ①学習計画シート:最初立てた目標に挑戦することで数ヶ月でいい学習習慣ができた。 ②自己評価シート:自分が今学期頑張ったことを評価するのはいいアイデアだと思う。 ③ポートフォリオ:今学期一番重要な成果。厚いのができて自分でも驚いている。 ④学習ストラテジーの学習:重要だと思うが、練習のほうが重要だと思う。 ⑥学習記録:簡潔にし、できるだけ多くの内容を読んだり聞いたりしたほうがいい。 ⑦リアクションペーパー:別に特に意見はないが、毎回は必要がない感じがする。 ⑤クイズ:聴解は 2 回しか聴けないので厳しい。読解はちょうどいい難易度だった。 ⑧カンファレンス:友達ができ、勉強方法を教えてもらえてよい。5 人程がよい。 ⑨個別セッション:先生と交流する機会。先生のアドバイスは役立つ。もっとしたい。 ⑩発表:友人の発表で視野が広がった。形式は非常に良いが、発表時間が短い。

4.考察

 本研究は、自律性を高める活動を取り入れた授業実践を行い、自律性が最も高まった学 習者の動機づけの変化と、その学習者が授業をどのように捉えていたのか、また、何が自 律性を高めたのかを探ることを目的としていた。  調査の結果、自律性が最も高まったのは、自律性得点 30 点中 14 点から 24 点に上昇し た留学生 A であった。留学生 A は特に、「学習目標を自分で決める」、「自分で決めた教

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材で学習する」、「学習の評価を自分でする」において得点が高まった。対象授業では、学 期初めに目標と課題、学習方法について考え、教師とやりとりをしながらそれらを決定し た。留学生 A は、「ニュースのすべてを理解する」という目標を掲げ、ディクテーション を毎日自分に課し、自分でニュースを選び、学習を積み重ねていった。また、学期終了時 の自己評価では、「ポートフォリオを見ると達成感でいっぱいになる」と述べ、自分の努 力を評価している。このようなことから、留学生 A の自律性の高まりが裏付けられよう。  一方、留学生 A の動機づけは内発的動機づけが上昇し、同一視的調整が下降し、取り 入れ的調整には変化がなく、外的調整にやや下降が見られた。留学生 A は「頑張らなけれ ばこの授業に合格できないかもしれないから、毎日ディクテーションをした」、「日本語能 力試験で聴解の点数が一番低いから今回の授業に挑戦した」と述べていること、また専門 が日本語で 4 年生であることから、学期開始時は社会的な圧力や外的な評価を気にした り、日本語学習を重要だと考えたりする動機づけにより授業を履修したと考えられる。し かし、ディクテーションを毎日実行していくうちに達成感を感じるようになり、中間と期 末の発表で自分の関心のあるテーマで話したりクラスメートの様々なテーマでの発表を聴 いたりしてニュースを学ぶことが面白くなったことに加え、聴解力の向上が自分で感じら れた。そのため学習そのものが楽しくなり、学期終了時には内発的動機づけが高まったと 推察できる。  次に、留学生 A が授業をどのように捉えていたかである。調査の結果、留学生 A は効 率の点と授業で扱うテーマに偏りがある点から多少の不満を感じていたものの、全体的に はチャレンジングで役に立つ授業であり、よい学習習慣がついて達成感が得られたとし て、肯定的に捉えていたことが判明した。  では、何が留学生 A の自律性を高めたのであろうか。まず、留学生 A のチャレンジ精 神が挙げられる。留学生 A は、対象授業に挑戦するつもりで臨んでいた。PAC 分析でも [チャレンジ]は重要度 1 位であり、面接中複数回発言している。そのチャレンジを継続 するのに役立ったと考えられるのが、①学習計画シートである。留学生 A が「最初立てた 目標に挑戦することで数ヶ月でいい学習習慣ができた」と述べているように、目標と課題 を明確にし、学習方法を考えることは、自律学習を始める上で重要であることが改めて支 持された。次に、②自己評価シートである。学期初めに自分で評価項目・評価者・評価割合 を決め、学期末に評価とその理由を教師に説明することで、何についてどのように努力す ればよいかが明確となり、学習への責任感が高まったと考えられる。さらに、③ポートフォ リオである。あまり自律的でない動機づけから始めたポートフォリオであったが、毎日実 行するうちに習慣となり、能力が向上して内発的動機づけが高まり、最終的に自律的に学 習できるようになったと考えられる。加えて、⑤クイズである。留学生 A は聴解クイズ

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で思うような点数が取れなかったことが「挑戦を継続する動機となった」と述べている。  留学生 A の自律性を高めたものとして次に挙げられるのは、自分の能力を伸ばしたい という気持ちである。留学生 A は「成績がいいか悪いか別として、自分が本当に日本語の 聴解力を上げたいという気持ちでこの授業を選んだ」と述べているが、この気持ちの維持 に役立ったのが⑨個別セッションであると考えられる。留学生 A は個別セッションにつ いて「先生のアドバイスは役立つ。もっとしたい」と述べており、実際 1 回目のセッショ ンで、ディクテーション以外に聴解力向上のためにどのような方法があるかを一緒に考え たところ、留学生 A はニュースや新聞記事の要約を行うようになり、要約にかかる時間 が短縮され、精度も上がっていった。学期途中で学習について教師と振り返り、学習方法 について検討することは有効であると言える。  また、自律学習の成果を発表する場が挙げられる。まず、⑩発表であるが、留学生 A は 自分の興味のあるトピックで発表することについて「すごく自分が勉強したいという気持 ちが湧いて出てくる」と述べている。また、⑧カンファレンスではクラスメートに、⑨個別 セッションでは教師に、ポートフォリオを見せながら自分の学習について話す。クラスメー トや教師に学習成果を話す機会は、自律学習を継続する動機づけになると考えられる。  さらに、よい刺激となる友人が挙げられる。留学生 A は「B さんに教えてもらったこと が非常に自分の勉強に役立っている」「他の交換留学生と出会う機会が少ない」と述べてい る。また、留学生 A は日本語会話での緊張をなくしたいと考えていたと思われるが、日 本語のレベルが同等で中国語を解さない B とは日本語で気軽に話せていた。そのため、B を友人として得たことは留学生 A にとって貴重であったと考えられる。  以上のことから、留学生 A の自律性を高めたのは 1.チャレンジ精神と 2.自分の能力 を伸ばしたいという気持ち、3.自律学習の成果を発表する場、4.よい刺激となる友人で あり、自律性を高めるのに役立った授業活動は、①学習計画シート・②自己評価シート・ ③ポートフォリオ・⑤クイズ・⑧カンファレンス・⑨個別セッション・⑩発表であったと 考えられる。  最後に、本研究の結果から教育的介入への示唆を述べる。チャレンジ精神は、学習者が 初めから持っているとは限らない。しかし、教師はチャレンジ精神を育むことができると 思われる。例えば、各学習者の目標と課題、何についてどのように努力すればよいかを明 確にすることや、学習者に様々なことを選択させて学習への責任感を持たせること、学習 者が努力すればできる程度に課題の難易度を調整することが挙げられる。そうすることで 学習者は自己効力感(学習過程に関するコントロール感)を持ち、チャレンジを行うと考 えられる。これは、一般的に自己効力感が高いほど、失敗をしても「自分ならできる」と 信じて努力を続けられるためである(Schunk, 1991)。さらに、よい習慣となるような課題

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を用意することも有効であろう。これは、留学生 A のように課題に取り組むことで能力 が向上し、学習が楽しくなって自律的に学習できるようになる可能性があるためである。  自分の能力を伸ばしたいという気持ちは、教師の支援で強めることができると思われ る。例えば、学習者の学習成果に対し、できないことを指摘するのではなく、できたこと を認めることや、学習者のつまずきに対してタイミングよくヒントを与えることで、学習 者が自分の学習成果に満足し、学習がうまく進んでいると感じられるようにする。 Mynard(2010)は、自律性を育てるためには指示的なアドバイジングよりも非指示的なア ドバイジングのほうが役立つとしている。また、廣森(2006)は、内発的動機づけを高め る上で学習者の有能性を認め、肯定的なフィードバックを与えることは有効であるとして いる。  自律学習の成果を発表する場は、授業の中で教師が設定できるであろう。その際、学習 者にテーマや発表方法、評価方法などについて選択肢を与えると自己効力感が高まり、自 律的に取り組みやすくなると考えられる。また、学期途中でクラスメートや教師に学習成 果を報告することも効果があると思われる。来嶋・鈴木(2003)は読解の独習を支援すべ く学習レポートの提出と読後座談会を実施し、自律学習の継続には学習レポートを提出す る相手(教師)、座談会で話す相手(仲間)、学習について話す相手(家族・友人)の存在が 大きかったと述べており、学習について他者に語るという行為の重要性を示唆している。  よい刺激となる友人は、教師が学習者同士が知り合う機会を設け、協同学習を行うこと で得られる可能性がある。自律学習は孤立した学習とは異なる。Little(1994)は学習者の 自律は、独立ではなく相互依存による産物であるとしている。友人から学習方法や学習情 報を得て学習に活用することは、自律学習を進めていく上で効果的であると考えられる。  なお、留学生 A は自律性を高めるための活動の④学習ストラテジーの学習、⑥学習記 録、⑦リアクションペーパーには肯定的ではなかった。理由は、これらの活動をする時間 をニュース聴解や新聞読解に当てて欲しいというものであった。ただし、④に関しては留学 生 A が上級レベルであるため、このレベルに達するまでに既に学習ストラテジーを身に つけており、必要性が感じられなかった可能性がある。また、時間的な制約から授業にお いてストラテジーの紹介が主となり、十分定着するまでに至らなかったことを勘案する必 要がある。今後はこれらの活動の方法を見直して実践し、検証していくことが課題である。

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参考文献

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Deci, E.L. and Ryan, R.M.(Eds.)(2002)Handbook of self-determination research. University of Rochester Press, NY 江田すみれ・飯島ひとみ・野田佳恵・吉田将之(2005)中・上級の学習者に対する短編小説を使った多読 授業の実践.日本語教育 , 126:74-83 藤田裕子(2010)留学生は自律的な学習を目指した授業をどのように捉えているか─教師主導型を好む者 と好まない者を対象として─. Obirin Today, 10:81-96 廣森友人(2006)外国語学習者の動機づけを高める理論と実践 . 多賀出版. Holec, H.(1981)Autonomy in Foreign Language Learning. Pergamon, Oxford

JACET 学習ストラテジー研究会編(2006)大学教師のための「学習ストラテジー」ハンドブック . 大修館 書店. 来嶋洋美・鈴木 庸子(2003)独習による日本語学習の支援 : その方策と ARCS 動機づけモデルによる評 価、日本教育工学雑誌 27(3):347-356 小嶋英夫(2010)学習者と指導者の自律的成長.小嶋英夫・ 尾関直子・廣森友人編 , 成長する英語学習者 ─学習者要因と自律学習 . 大修館書店 , 東京:133-161 小山悟(1996)自律学習促進の一助としての自己評価.日本語教育 , 88:91-113 林炫情・金恵媛(2012)韓国語学習者の自律学習を促すアカデミックポートフォリオの構築に向けて─学 習目標と評価を明確にした自律学習支援─. 山口県立大学学術情報 , 5:75-84

Little, D.(1994)Learner autonomy:A theoretical construct and its practical application. Die Neueren Sprachen, 93: 430-442 峯石緑(2002)大学英語教育における教授手段としてのポートフォリオに関する研究 . 溪水社. Mynard, J.(2010)学習者の自律を支援するセルフアクセス学習.小嶋英夫・尾関直子・廣森友人編 , 成 長する英語学習者─学習者要因と自律学習 . 大修館書店:193-212 永倉由里(2011)英語学習者の自律と動機づけを促す授業実践の方向性 , 常葉学園短期大学紀要(42):35-48 内藤哲雄(2002)PAC 分析実施法入門「改訂版」─個を科学する新技法への招待-.ナカニシヤ出版 太田かおり(2012)e-learning 英語教育の学習効果に関する研究─学習者の自律学習へ向けた教師の役割─. 九州国際大学国際関係学論集 , 7:51-80 齋藤伸子・松下達彦(2004)自律学習を基盤としたチュートリアル授業─学部留学生対象の日本語クラス における実践─. Obirin Today, 4:19-34

Schunk,D. (1991) Self-efficacy and academic motivation. Educational Psychology, 26:207-231

梅田康子(2005)学習者の自律性を重視した日本語教育コースにおける教師の役割─学部留学生に対する 自律的な学習コース展開の可能性を探る─.言語と文化(愛知大学語学教育研究室),12:59-77

参照

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