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英語教科書における日本語からの語彙借用 : 「日本英語」研究の資料として

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英語教科書における日本語からの語彙借用

―「日本英語」研究の資料として―

橘 広司

キーワード

英語教科書,語彙借用,EIAL,「日本英語」

はじめに

本稿は,「国際補助語の1つとしての英語」(EIAL: English as an International Auxiliary Language)に立脚した「日本英語」研究の一環として,英語教科書の分析・考察を試みるもの である。筆者はこれまでの研究で,「日本英語」をはじめ多様な英語(Englishes)の教科書への 導入を提案してきた(橘 2011a, b,2012a, b)。筆者が拠りどころとするEIALとは,異言語間 対話において,話者の母語を基盤として形成された民族的特性や慣習,個々の価値観などを運 搬できる,「どのようなメッセージでも許容する器」(森住 2008:270)としての英語のことであ る。なお「日本英語」とは,EIALの1つとして,日本人(日本語を基盤として形成された民族 的特性・慣習・個々の価値観を有する人間の総体)のメッセージを運搬しうる英語である。 本稿では特に語彙に焦点をあて,EIALにおける「日本英語」の観点から中学校英語教科書の 調査を試みる。具体的な目的は,平成24年度版文部科学省検定済中学校英語教科書(以下,教 科書)に見られるアルファベット表記の日本語を語彙借用(lexical borrowing)の観点から調 査し,どのような語(語句)がどの程度採用されているかを分析・考察することである。語彙 借用とは,ある言語が「異なる言語ないし方言から個々の語や語句を採用すること」(Hock 1988:380)であり,借りられた語(語句)はしばしば「借用語(loanword)」と呼ばれる。つまり 本研究は,英語というひとつの言語への,日本語からの借用語に関する調査ということになる。 本稿ではAppel & Muysken(1987)にまとめられているAlbo(1970)による区分法に倣い,語 彙借用を2つの類型,すなわちaddition(追加:借用する側にない概念をもつ語を借用するこ と)とsubstitution(代用:借用する側に近似する概念を示す語があるにもかかわらず借用する こと)に分ける。ただし,厳密にいえば,ほとんどの借用語はadditionである。言語が違えば, それぞれの語が背負っている歴史や文化が異なるため,異言語間で同義と思われている語の間 には,程度の差こそあれ意味的な「ずれ」が生じるからである。このような考えを理解したう えで,本稿では一般的に翻訳可能とされる語(本→bookなど)の借用はsubstitutionとみなし, 翻訳が困難な語(味噌→fermented soybean paste など)の借用はadditionとする。教科書の分 析・考察に関しては,以下の4つの観点から行う。すなわち,①「採用度」(どの語が何社の教 科書に採用されているか),②「類型」(addition / substitution),③「範疇」(食文化 / 季節・祝 祭日 / 遊び・玩具など),④「辞書への掲載の有無」(英英辞典に掲載されているか)である。論

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考の流れとしては,まず,先行研究をもとに語彙借用の類型と要因についてまとめ,次に教科 書の分析・考察を試みる。 なお,学習指導要領の文言と語彙借用の関連を検証したり,過去の教科書との比較による調 査を行ったりすることで,より巨視的で通時的な論考が可能となるだろうが,それは次稿に譲 り,今回は現行の教科書の調査にとどめることにする。本稿が,今後のEIALおよび「日本英 語」研究のための有用な資料となれば幸いである。

1.EIAL から見た語彙借用の類型と要因

Hock(1986:380)は,語彙借用を「異なる言語ないし方言から個々の語や語句を採用するこ と」とし,「言語接触の際にごく一般的に起こりうる」現象だと述べる。また,Appel & Muysken(1987:164)は,「まったく白紙の状態から発達した文化がありえないように,他言語 からの借用語(borrowed words)をもたない言語は想像しがたい」と論じている。してみれば, もとより英語は歴史的に豊富な借用語を取り入れてきたことで知られるが,膨大な数の非母語 話者人口を抱え,様々な地域に土着化した今日の英語にはじつに多様な語彙借用が見られると いうこともうなずける。たとえば,マレーシアの英語には福建語からの語彙借用が多数ある。 Tan(2009)は,“...Malaysian drivers have gained international nortoriety for being selfish and kiasu”という新聞記事の一文を例として挙げている。福建語で kiasuとは「負けん気が強い」と いうような意味であるが,同概念をもった英語がないためにそのまま借用されたのだという。 このような例は諸英語において枚挙にいとまがない。EIAL,すなわち母語の価値観を許容する 器としての英語の視点からすると,諸言語から英語への語彙借用は,非母語話者にとってきわ めて直接的な価値観の表現手段として容認されるべき現象といえよう。 本章では,その語彙借用の類型と要因について先行研究をもとにまとめておく。冒頭に述べ たように,Appel & Muysken(1987)によると,語彙借用は①additionと②substitutionの2つ の類型に分けることができる。この分け方は,英語から日本語への語彙借用を例にとるとわか りやすいだろう。①は,テレビ,ギター,プライバシー,コミュニケーションなどのように, 日本語にその概念を示す語が存在しなかったために取り入れられた語である。一方,②は,シ ョップ(店),ブルー(青),ドリンク(飲み物)など,日本語にも相当する概念の語があるにも かかわらず取り入れられた語である。では,なぜadditionやsubsutitutionという現象は起こる のだろうか。Hock(1986)とMacalister(2008)から語彙借用の要因について表1にまとめた。 Hock(1986)は,語彙借用のもっとも明白な要因は,新しい概念をもった語の「必要性 (need)」だとしている。また,Macalister(2008)も,語彙借用のもっとも明らかな理由は,新 しいモノに名前を与えることだと述べている。彼は,借りる側に類似した概念がないために借 用された語を,あれこれ説明する代わりに一言で言い表せる語という意味で,economical loanword(経済的借用語)と呼んでいる。ここでは,この Macalister の要因を「経済性 (economy)」としておこう。これら2つは,いずれもadditionとしての語彙借用の要因として 考えられる。

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一方,Hock(1986)のprestige(高級感)は,substitutionの要因として考えられるものであ る。Hock はその例として,フランス語から英語への借用語としてよく知られる beef,veal, porkなどを挙げている。これらは,イギリスにおいてフランス文化が支配的であったノルマ ン・コンクエストの時代の借用語である。あるいは,戦後日本人のために例をあげるとすれば, 日本語における英語からの夥しい語彙借用を思い浮かべるのがもっとも手っ取り早いかもしれ ない。たとえばスポーツカーの宣伝文句に見られる「アグレッシヴなパフォーマンス」,ホテル の宣伝文句にあるような「ワンランク上のゴージャスなステイを」というふうなものである。 しかし,このprestigeという要因は,より小さな言語が,(言語の側面みならず政治的,経済 的,ないし軍事的に)より支配的な大言語から語彙借用する場合の要因として考えうるもので ある。本研究で扱うことになる日本語から英語へ,すなわち,より小さな言語から大言語への substitutionの要因としては,むしろMascalister(2008)の言うidentity(自己保持),value (価値),empathy(感情),aspiration(切望),impact(印象づけ)などの発露が当てはまるだ ろう。ニュージーランド英語におけるマオリ語からの語彙借用は,そのよい例である。マオリ 人は,支配者の言語である英語のなかにじつに豊富なマオリ語を取り入れ,自らのアイデンテ ィティや価値観を表現している。たとえば,彼らはtribe(部族)という語の代わりにiwiとい うマオリ語を使う。また,canue(カヌー)という語にはwakaというマオリ語を代用している (Macalister 2008)。「部族」や「カヌー」は,マオリ人のアイデンティティにとってきわめて重 要な語なのである。英語になったマオリ語の中には,additionもさることながら,このような substitutionの借用語も少なくない。 翻って,日本語から英語への語彙借用を考えてみよう。sushi,karaoke,judoなど,addition にあたる語彙はすぐに思い浮かぶが,substitutionとなると,そう多くはないように思える。し かし,諸民族の価値観の表明を是認するEIALの観点からすると,あえて母語で代用する仕方 で民族のアイデンティティを発信するsubstitutionは,諸英語(Englishes)の成立に重要な役 割を担っているといえる。その点において,ニュージーランド英語におけるマオリ語からわれ われが学ぶことは多いだろう。このような考えから,本研究では教科書にどの程度の substitutionが見られるかという点にも注目をしたのである(分析結果は第2章)。次章では, 教科書のなかに見られる日本語からの語彙借用を調査する。 表1 addition substitution Hock (1988) need (必要性) prestage (高級感)

Macalister (2008) economy (経済性) identity (自己保持) value (価値) empathy (感情) aspiration (切望) impact (印象づけ)

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2.教科書の調査

本調査で使用した教科書は,平成24年度版の Columbus 21 (光村図書),New Crown (三省 堂),New Horizon (東京書籍),One World (教育出版),Sunshine (開隆堂),Total English (学 校図書)である。6社それぞれ1 ∼ 3巻の計18冊,文部科学省の検定を通過しているすべての 教科書である。 2.1 方法 各教科書の対話文をはじめ,読み物,練習問題,単語リストなどに見られるアルファベット 表記の日本語を取りあげ,以下の4つの観点から分析する。  ①採用度:どの語(語句)が何社の教科書に採用されているか  ②類型:addition / substitution  ③範疇:食文化 / 季節・祝祭日 / 遊び・玩具 / サブカルチャーなど  ④辞書への掲載の有無:英英辞典に掲載されているか なお,アルファベット表記の日本語のなかでも,固有名詞,および借用語ではなくあくまで も日本語として用いられている語は分析対象から除外する。前者は,人名(Ken, Yuki, Natsume Soseki),地名(Kyoto, Hokkaido),建築物名(Horyu-ji, Kokugikan),作品名(Botchan, Doraemon)などであり,後者は “How do you say hon in English?” のhonなどである。 2.2 分析 分析の結果,全教科書におけるアルファベット表記の日本語の総数は149語であった。資料 1は①採用度をベースとし,②類型と④辞書への掲載の有無も示した借用語一覧,資料2は③ 範疇の観点から借用語を示した一覧である。以下,観点別に分析結果を見ていく。 2.2.1 採用度 表2は,どの語(語句)が何社の教科書に採用されているかを示す表である。左の欄の数字 は,採用した教科書の出版社数を表す。表によると,6 社すべての教科書に採用された語は sushiのみであった。その他,複数の教科書に共通して採用されているものも見られる一方で, 1社のみに選ばれたものも数多くあった。全体を俯瞰すると,いわゆる日本固有の伝統・文化・ 風習などに深く関連した語彙がその大半を占めているようである。

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表 2 6 sushi (1)

5 bon kanji kendo osechi (4)

4 hanami judo kimono manga miso origami soba sumo (8)

3 anime furoshiki kabuki karaoke kendama natto rakugo ramen setsubun shamisen shogi sukiyaki takoyaki tanabata tofu udon ukiyoe yukata zoni (19) 2 chanko geta haiku juku karate kotatsu mochi moshi-moshi okonomiyaki -san tatami shichigosan tempura uni yen (15)

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aikido Amanogawa arigato azuki beigoma chado -chan chashitsu chawan-mushi daikichi Daimonji dango dashi dengaku ebi enka fude fugu furin futon go hatsumode hibachi Hina-matsuri hiragana hiyashi-ramen ichigo-ichie ikura janken kadomatsu kaiten-zushi kaki kakizome kappamaki karakuri karesansui karuta katakana katana keichitsu kingyo-sukui kiritampo kobumaki kokeshi koma -kun kyogen manzai matcha Midori-no-hi monja-yaki mottainai nigauri obi omikuji onigiri orizuru rakugo-ka rickshaw san(Fuji-san) sanganichi sanshin semba-zuru sembei shakuhachi shika-senbei shika-yose shimafukuro shinai shogatsu shogun sudare sugoroku su-kombu taiko taimeshi takeuma tango-no-sekku temae tendon tohgarashi tokan-ya tokonoma tonkatsu tsukimi tsunami uchiwa unadon wadaiko wakarimasuka? wa-kei-sei-jaku wara-deppo wasshoi yakisoba yakitori yokan yuba yudofu yui yunomi zazen zen (102)

2.2.2 類型 日本語固有の語には,当然日本語のアイデンティティが内包されており,それらは必要に応 じてadditionとして借用される。他方,substitutionはといえば,民族の価値や感情を母語のま まあえて英語のなかに持ち込むのだから,こちらもアイデンティティの強烈な表明であるにち がいない。ここでは,教科書におけるそれぞれの採用の割合を見ていく。分析の結果,addition は131語(88%),substitutionは18語(12%)見られた。substitutionの18語は以下のとおり である。

amanogawa, anime, arigato, dashi, ebi, fude, fugu, janken, kaki, katana, manga, -san (Kato-san), -san (Fuji-(Kato-san), shogatsu, taiko, tohgarashi, uni, Wakarimasuka?

従来の英語では,それぞれMilky Way, animation, thank you, stock, shrimp, brush, blowfish, rock-paper-scissors, persimmon, sword, cartoon, Mr./Miss..., Mount-, New Year’s Day, drum, red pepper, sea urchin, May I help you?などとなるところである。最後のWakarimasuka?は, 道に迷って地図を見ている外国人にたいする日本人のことばであるため,May I help you?とし た。

2.2.3 範疇

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関する語が群を抜いて多く採用されていることがわかった(約31.5%)。ただし食・食文化に関 する語は元の数が多いため,採用度が高くなるということもあるだろう。たとえば,武道に関 して一般的に思い浮かぶ語の数は食・食文化に関するものよりはるかに少数だろうが,それで もaikido,judo,karate,katana,kendo,shinai,sumoなど,7語が採用されている。語数 こそ少ないが,この採用率は高いといえるだろう。その他,詳細は資料2のとおりである。 グラフ1 2.2.4 辞書への掲載の有無 ここでは,教科書に採用された日本語がどの程度英英辞典に掲載されているかを示す。調査 した辞書は,Collins COBUILD Advanced Dictionary of English (2009),Longman Dictionary of Contemporary English New Edition (2009),Oxford Advanced Learner's Dictionary 8th Edition (2010)の3種類である。それぞれの辞書への掲載率を表3に示した。調査の結果,掲載 されている語は,もっとも掲載率の高いOxfordでも17%ほど,Longmanは13%,Cobuildは 8%と,きわめて低い率であることがわかった。なお,3種類すべての辞書に掲載されていた語 は,futon,judo,karaoke,karate,kendo,kimono,origami,rickshaw,sumo,sushi, tsunami,yen,zen の 13 語であった。このうち rickshaw と yen は綴りや発音も nativise (anglicise)された日本語である。 表 3 掲載されている語 掲載されていない語 Oxford 26語 (17%) 123語 (83%) Longman 19語 (13%) 130語 (87%) Cobuild 12語 (8%) 137語 (92%)

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3. 考察

3.1 異文化間リテラシーの育成 第2章で述べたように,教科書には日本の伝統,文化,慣習に根ざした語彙が目立って見ら れた。この点に関して注目すべきことは,英英辞典への掲載の有無にかかわらず,それらが採 用されているという事実である。ある語が辞書に掲載されるということは,社会一般への認知 度と必ずしも一致しないとしても,その言語のなかの1語として認められたということである。 逆に,調査対象の8 ∼ 9割程度の語が辞書に掲載されていないということは,今のところそれ らの語が,少なくとも3種類の辞書には英語として認められていないということに他ならない。 そのような語は「借用語」とは呼べないという考え方もあるだろうが,EIALの観点から,それ らの「借用語」としての使用を容認べきだというのが筆者の考えである。実際,先にマレーシ ア英語の例としてあげた福建語のkiasuなども,辞書に掲載されている語ではないのである。 しかし,ここに実践的コミュニケーションでの通用性の問題がある。この問題を解消するた めには,「異文化間リテラシー」の育成も視野に入れなければならない。「異文化間リテラシー」 とは,本名(2003:168)によると「異文化間接触のさいに,各自がそれぞれの文化的メッセージ を適切に伝達し,そして相手のそれを十分に理解する能力」であり,「英語の多様性を維持し, 増進させながら,相互理解をはかる」ためには,「各自が自分の文化的規範に基づいて表現する ときは,相手にそれが理解されるような状況をつくり出すこと」が肝要であるという。じつは 教科書にも,次のような日本人登場人物による語の説明を含む対話文を見ることができる。

Bob: What’s that paper in your hand, Aya? Aya: It’s an Omikuji. It tells my fortune. Bob: What does it say?

Aya: It says daikichi. That’s the best kind of luck!

(One World 3: pp. 10–11) (下線は筆者) 語彙借用にともなって,こうした説明をするための異文化間リテラシーも必要になるだろ う。教科書中のこのような対話文は,その能力の育成に役立つものと考えられる。 3.2 substitution の奨励 additionは,借用する側にない概念をもつ語の借用であり,その点で借用される側の言語の アイデンティティを色濃く示す。一方,substitutionは,借用する側の語を使用せずにあえて話 者の母語からの語を採用するという点で,より意図的・戦略的にアイデンティティを表明する 仕方であるといえる。より小さい言語から大言語への借用であれば,それはMacalister (2008) の言うように,「価値」や「感情」の表現であったり,民族的な「印象づけ」であったりするだろ う。EIALにおける「日本英語」の観点から考えると,筆者は教科書におけるsubstitutionをよ り一層充実させるべきだと考える。表4は,教科書に出てくる英語に代わるsubstitutionの提案

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の一例である。たとえば,miso soupをmisoshiruとした場合,misoはadditionであるが,shiru はsoupに代わるsubstitutionである。日本人にとって,misoshiru(味噌汁)という語を発した り耳にしたりした途端に立ち現れる世界の広がりが,miso soupのそれと大きく異なるという ことは多くの人が首肯するところだろう。日野(2010)は,「〈日本式英語〉の実践は魂の解放 である」と述べたが,substitutionとしての語彙借用はその「日本式英語」の重要な要素といえ るのではないだろうか。 表 4 もとの英語 substitution もとの英語 substitution miso soup misoshiru Japanese food washoku

teacher sensei bath furo cherry blossom sakura fireworks hanabi

school festival bunkasai calligraphy shodo green tea ryokucha / (o)cha New Year’s Eve omisoka

temple (o)tera shrine jinja        

おわりに

本研究では,教科書における日本語からの語彙借用を①採用度,②類型,③範疇,④辞書へ の掲載の有無の4つの観点から分析・考察し,教科書にたいする若干の提案を試みた。借用さ れた語(語句)の総数は149語であった。分析の結果,6社すべての教科書に採用されたのは sushiの1語のみで,その他,複数の教科書に採用された語もある一方で,1社のみに採用され た語も多数見られた。類型別に見るとadditionが131語(88%),substitutionが18語(12%)と なった。範疇別に分けてみると,食・食文化に関する語彙の採用率が他を圧倒していることが わかった。英英辞典への掲載は一番多い辞書で26語(17%)であり,調査した3種類のいずれ の辞書にも掲載のない日本語が数多く教科書中に見られることがわかった。 考察では,借用語にたいする聞き手の理解を促すためにも英語教育における「異文化間リテ ラシー」の育成が肝要だと述べた。また,「日本英語」における意図的・戦略的なアイデンティ ティの表明のためのsubstitutionの重要性を説いた。今後は,過去の教科書との比較分析を通 じて教科書における語彙借用の変遷を調査することも必要となるだろう。

引用文献

橘広司(2011a)「中学校英語教育における母語話者志向と多民族尊重の二重性―異文化理解の新たな 範型へ」『言語文化教育研究』 第5号 言語文化教育学会 4 –18 ――― (2011b)「日本人における〈苗字の重視〉と英語教科書に見る呼称の問題―〈初対面〉の場を中 心に」『言語教育研究』創刊号 桜美林大学大学院言語教育研究科 67 –78 ――― (2012a)「日本の英語教育が拠るべきEIALの言語観・英語観―中学1年生の実態をふまえた6 つの留意点」『国際教育研究所紀要』第18号 国際教育研究所 55 –72

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――― (2012b)「中学校英語教科書における〈神話作用〉―日本人の名前に関する英語母語話者志向の 問題を中心に」『言語文化教育研究』 第2号 東京言語文化教育研究会 109 –120

日野信行「国際英語としてのJapanese Englishのモデルの構築」『英語展望』No.118 ELEC 本名信行 (2003)『世界の英語を歩く』集英社

森住衛 (2008)「EIALの一例としての〈日本英語〉―その目指すべき方向を求めて」日英言語文化研究 会編『日英の言語・文化・教育−多様な視座を求めて』三修社

Albo, Xavier. (1970) Social Constraints on Cochabamba Quechua, Dissertation Series no. 19, Latin American Studies Program, Cornell University, Ithaca, New York.

Appel, Rene & Muysken, Pieter. (1987) Language Contact and Bilingualism. London: Edward Arnord. Hock, Hans Heinrich. (1986) Principles of Historical Linguistics. Berlin: Mouton de Gruyter.

Macalister, John. ed. (2008) A Dictionary of Maori Words in New Zealand English. Oxford: Oxford University Press.

Tan, Siew Imm. (2009) Lexical Borrowing from Chinese Language in Malaysian English, In World

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資 料 2 日 本 語 か ら の 語 彙 借 用 分 野 別 頻 度 一 覧

表 2 6 sushi  (1)

参照

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