図書館の行政 : 戦前と戦後の比較研究
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(2) ゴθ4. 図書館 の行政. 公布 され た 時,全 国 の 図書館数 は38館 , うち府県立 図書館 は宮城県立 (明 治 14年 7月. )京 都府立. ぎなか った。. (明 治31年. 4月. )秋 田県立. (明 治 32年. 4月 )の 三 館 に過. 1). 最初 の 図書館令 は 7ケ 条 か ら成 る短 い勅令 で あ ったが,明 治 39年 ,明 治 43 年 ,大 正10年 と部 分 的小修正を経 て,次 の よ うな 6ケ 条 の法令 とな った。 第 1条. 北海道府県郡市 町村 (北 海道及沖縄県 ヲ合 ム)二 於 テハ 図書 ヲ蒐. 集 シ公 衆 ノ閲覧 二供 セムカ為 図書館 ヲ設 置 スル コ トヲ得 第 2条. (略 ). 第 3条. 私人 は本令 ノ規定 二依 り図書館 ヲ設置 スル コ トヲ得. 第 4条. 図書館 ハ公立学校又 は私立学 校 二 附設 スル コ トフ得. 第 5条. 図書 ノ設 置廃止 ハ 其 ノ道府県立 二 係 ルモ ノハ 文部大 臣其 ノ他 ノ公. 立 二 係 ルモ ノハ 地方長官 ノ認可 ヲ受 ケ其 ノ私 立 二係 ルモ ノハ 地方長官 ニ ` 開 申ス ヘ シ 第 6条. 公立 図書館 二於 テハ 図書 閲覧料 ヲ徴収 スル コ トヲ得. この段 階 で は公 共 図書館 の使命 は,図 書 を集 め公 衆 の 閲覧 に供す る文化施 設 に過 ぎな い。 しか し,法 規上文 化施設 とされ た 図書館 で はあ ったが,早 くも中央政府 の 官僚 によ って農 村 青年 団編成強化 の手段 と して運 営 され た と指摘 されて いtる. c). 例 え ば石 井敦氏 は「官 製地方改良運動 の 中軸 と して 青年団を強化す る」 運動 が起 り,「 その運 動 の推進 は図書館 ・ 巡 回文庫 を 青年 教化 ,精 神指導 の拠点 と して とヽ らえ」 て全 国画 一 的設置 を促進 した。 読書 す ることで ,青 年 たちを 近 代化 の波 か ら隔離 し,淳 風美俗 を護持 で きると,「 また優良 な青年 団活動 のヽ シンボル と して 図書館設置 が 奨励 され た」 と断 じて い る. 2)石. │。. 井氏 による と. この よ うな農村部 での 図書館行政 は内務 省 が中心 で あ るが,一 方都市部 で は 文部省 によ って 「 図書館 の本来 的機能 が伸長す るのを警戒 し,そ れを規制 す る方 向」 を とった と し,そ の具体例 と して,1910年 の小松原文 相 の訓令 を 弓l. 1)松 本喜一 :図 書館令 の改正 図書館雑誌 2)石 井 敦 :史 的 にみた 日本 の図書館行政. 第27年 第10号 図書館界 22巻 6号.
(3) 三 輪 計 雄. Iθ. 5. 用 して 図書 内容 の干 渉があ った と し,さ らに1911年 の「 図書館書籍 標準 目録」 の 刊行 を,積 極的行政指導 の例 と して い る。 政府 の積極的奨励 のため;明 治 の末葉 か ら大 正 期 にか けて 図書館 の数 はだ ん だん と増加 した。文部省調査 で は明治 39年 (1906)に 127館 ,明 治43年 小 松原文相 の「 図書館設 立 二 関 スル注意事項」 の 出た年 には 374館 ,大 正10年. (1921)に は2,385館 に達 し,さ らにその後 TO年 経過 した昭和 6年 の統計 で は 4,300館 に増加 した。. 3). こ うした背景 にお いて,昭 和 8年 図書館令 が館界多年 の要望 を いれ て 改正 公 布 された。 この 改 正で は明治 32年 の旧図書館令改 正 だ けでな く明治43年 の 図 書館令施行規則 ,大 正 10年 の公立 図書館職員令 も同時 に改 廃 され ,画 期的 大 改 正 とな った。 新 図書館令 は昭和 8年 6月 30日 公布 し, 8月 1日 か ら施行 された。今 度 も本文 14条 ,附 則 3項 とい う短 い法令 で あ るが,法 令 立案者 の 文 部省社会 教育局成人教育課長松尾長造 氏 は改正 法規 の重 点 と して. 1)図 書館法令 で は内外 の先例 に 目的の明示 はな いが,こ の法令 で 明示 し た6. 2)図 書館 の普及発達 を奨励 した。 、 3)中 央書館制を採用 し,道 府県 知事 がその管下 の一 館を 中央図書館 に指 定 し,中 央図書館 が 管下 の 図書館 の連絡指導 に 当 ることと した。. 4)図 書館職員組 織 を整 備 した。 5)図 書館 の設置 には認可制 を と り,図 書館 の美名 にか くれ て,不 適 当な 施設 の 濫立 を防止 した。. 6)図 書館員 の養成 の機 関を考慮 した。 と述 べ てい る。 日本 図書館協会 は この 図書館令施行 を記念 して 図書館雑誌第 27年 第 10号 (昭 和. 8年 10月 号 )を 図書館令改 正記念号 と し,そ れ に文部省社会 教育局 長. 関 屋 竜吉 ,成 人教 育課長松尾長造 の論文 を執筆 者 の写真 を いれ て掲載 し,協. 3)関 屋篭吉 :図 書館令 の改正 と今後の図書館運動. 図書館雑誌 第27年 10号.
(4) ヱθ6. 図書館 の行政. 会 側 か らは帝 国図書館長松本喜 一 ,大 阪府立 図書館長今井貫 一 ,静 岡県葵文 庫 長貞松修蔵 の三 氏 の論文 を もって 館界 の喜 びを現 した。 以上 の諸論文 で当 時 の館界 の 状態を知 る こ とがで きるが,特 筆 す べ き こ とは この 改 正 令 によ っ て ,初 めて公 共 図書館 が社会 教育機 関 として 法文化 されたので あ る。即 ち改 正 図書館令第 1条 には 図書館 ハ 図書記録 ノ類 ヲ蒐集保存 シテ公 衆 ノ閲覧 二供 シ其 ノ教養及学術研 究 二資 スル ヲ以 テ ロ的 トス 図書館 ハ 社会 教育 二 関 シ附帯施設 ヲ為 ス コ トヲ得 と明示 され た。 社会 教育機 関 とな った公共 図書館側 で はその ことを大 変歓迎 した。 当時 の 帝 国図書館長松本喜 一氏 は「 図書館令 の改 正」 と題 す る論文 の 中 で「今 次 の 改 正 によ って図書館 が単 に図書 を蒐集 して,公 衆 の 閲覧 に供す るを以て足れ りとせ し消極的態度 と訣別 し,図 書記録 の類 を蒐集保存 して公 衆 の 教養 と学 術 の研究 に資す るを 目的 と為す に至 り,社 会 教育 に 関 して 諸 々の事業 を 営 み 得 る こ とにな ったの は図書館 を書庫 の観念 か ら社会生活 の セ ンターヘ と大転. :. 回 をな さ しめた もので ,仮 令吾人 が既 にか うした態度 で其 の経営 に任 じ来 っ た とす るも,新 令 は まさ に この事実 を公 認 した もので あ る」 と記 して い る。 松本論文 にみ られ る図書館 の社会 教育機 関化歓迎 は他 の今 井,貞 松両館長 の 論 旨に も伺われ ,当 時 の 図書館界 の与論 とみて よいで あろ う。 改 正 図書館令 の今一 つ の柱 は松尾課長並 に今 井館長 の論文 に述 べ られた中 央 図書館制度 で あ る。即 ち改 正 図書館令第 10条 には. ,. 地方長官 ハ 管 内 二於 ケ ル 図書館 ヲ指導 シ其 ノ連絡統 一 ヲ図 り,之 ガ機能 ヲ 全 カ ラ シムル 為文部大 臣 ノ認可 ヲ受 ケ公立 図書館 中 ノー 館 ヲ中央図書館 ニ 指定 ス ベ シ 中央 図書館 ノ職能 二 関 シ必要 ナ ル事項 ハ 文部大 臣之 ヲ定 ム と,こ の制度 を規定 して い る。 この 条文 に基 き北海道並 に各府県 知事 は道及 府県 立 図書館 を,ま それ の末設置 の と ころで は市立 図書館 を 中央 図書館 に指 定 した。 これ ら中央 図書館 の具体 的職務 につ いて は条文 の第 2項 に あ る通 り,.
(5) 三 輪 計 雄. ヱ θ π. 図書館令施行規則 にゆだね られ た。 その こ とにつ い は昭和 8年 7月 26日 公布 の文部省令第 14号 の 同規則第 7条 に次 の よ うに規定 せ られ て い る。 第 7条. 中央 図書館 二於 テハ 凡 ソ左 ノ事項 ヲ実施 ス ベ シ。. 1)貸 出文庫 ノ施 設 2)図 書館経営 二 関 スル調査研究及指導 3)図 書館書籍標準 目録 ノ編 纂領布 4)図 書館 二 関 スル機 関紙類 ノ発行 5)図 書館 二 関 スル研究会協議会展覧会等 ノ開催並 二其 ノ開催 ノ斡旋 6)図 書及 図書館用品 ノ共 同購入 ノ斡旋 7)郷 土 資料 ノ蒐集其 ノ他 適 当ナル 附帯施設 8)前 各号 ノ外 図書館 ノ指導連絡統一上必要 ナ ル事項 と 8項 目が列挙 せ られ てい る。 中央 図書館制度 は各道府県単位 に図書館活動 を統制 で き,そ れ ら中央図書館 を中央 の文部省 に統括 で きる組 織作 りで もあ る。 中央図書館制度 は一 面 に,当 時 の不十分 な図書館組 織を強化 し,そ の 活動 を 活発 にす るための有効 な手段 で あ るが,反 面 この統制 的行政機構 を通 じて, 中央政府 の文献 による教化政策 を推進で きる図書館網 作 りとも言 え る。従 っ て 中央 図書館 の職務 として列 挙 せ られた 8項 目中最 も重視 せ られた のは第 1 の貸 出文庫 の施 設 で あ り,図 書館未設置 の 町村 に直接 中央 図書館 の本 を貸 出 し,そ の読書 を すす め る読書指導 を す る こ とで あ った ので あ る。 しか し,こ うした行政上 の 意図が あ った と して も,こ の法令制定 の昭和 8 年 の段 階 で は まだ府県立 図書館 さえ設置 して いない府 や 県 が東京府 は じめ14 県 もあ つた。即 ち東京 ,神 奈川 ,群 馬 ,栃 木 ,愛 知 ,二 重 ,岐 阜 ,福 井 ,富 山,滋 賀 ,兵 庫 ,広 島,島 根 ,香 川 ,愛 媛 の諸県 であ る。東京 ,愛 知 ,兵 庫 な どの有 力県 にはそれぞれ有力 な市立 図書館 が あ り,府 県 立 図書館 の設立 が 遅 れ たので あ る。 理 由 は兎 も角 と して,多 数 の府県 立 図書館 を欠 ぐ こ と は 肝 心 の 中央図書館制度 の活動 を阻害 す るもので,全 国 に図書館網 を拡 げ,国 民全部 もれ な く文 化 に接触 で きる組 織 を と念 願 した 図書館 人 の夢 ,ま たその 図書館網 を通 して社会教化 を図 ろ うと した文部 官僚 の考 は現実 には大 きな網.
(6) 図書館 の行政. Jθ 8. の破れ 目を も つていたのであ る。従 って法令公布後県立図書館 の設立を促 し. ,. 中央図書館 の指定が奨励 された。 しか し,昭 和13年 にな って も,府 県立図書 館未設置 の府県 は全 国47の 府県中11,ま た中央図書館 の指定を しない府県 は 14を 数えたので ある。. 4)こ. れは中央図書館制を とり,貸 出文庫を活躍 させ る. ためには図書費 の増額,専 任職員の配置,設 備備品費など相当の経費的裏付 けが必要 で あるにもかかわ らず,中 央政府 にそ うした用意がな く,法 令 の 出 し放 しに終 った図書館行政 の貧 困さにほかな らない。. Ⅲ 法令 の公 布 され た昭和 8年 か ら,い わゆ る支那事変 の 始 ま った昭和12年 ま で の 図書館施設面 での不備 は上述 の通 りで あ るが ,図 書館 の社会教育 を ど う す るかの理 論的研究 はそれ とはかかわ りな く進 んで いた。 日本 図書館協会 は 昭和 9年 (1934)に 図書館社会教育調 査委員会」 を結成 し,社 会教育 の在 り 方 につ いて 検討を始 めた。 この会 の発 足の事 情 は,こ れ よ り先改 正 図書館令 中 の公 共 図書館 の 附帯事業 と しての社会教 育 活動 の 位置 づ け につ いて,文 部 省 側 の 松尾友雄 と公 共 図書館側 の 中 田邦造 との間 に論争 が あ り,そ れを契機 と して 出発 したので あ る。. 5)委. 員 は中 田邦造 (主 査)秋 岡梧朗 一. 林靖一 ,松 尾友雄. 員長 は早稲 田大学 附属図書館長林癸未夫 ,委 乙部泉 三 郎. 大佐 三 四五. 竹 林熊彦. 田村盛. 小林堅 三 (幹 事 )の 諸氏 で あ った。この委員会 は昭和 12. 年 6月 「図書館社 会教育調査報告」 を提 出 した。. 6). この報告書 は図書館 の機能 を分 析 し,図 書館 と社会教 育 の 関連 を理 論的 に 考 察 した ばか りで な く,図 書館 での社会教育 の進 め方 を具 体 的 に展 開 し,最 後 に「図書館社会教育 の徹底要件」 と して ,① 図書館令 の 改 正 ② 図書館局 の 新 設③ 図書 館費 の 国庫補 助④ 図書館員養成機 関 の整 備を要請 して結 び として. 4)昭 和13年 2月 14日 第37回 帝国議会提出「公共図書館国庫補助制定 に関す る請願」 5)裏 田武夫 ,小 川剛編 :図 書館法成立資料 6)図 書館雑誌 第31年 第 9号.
(7) 三 輪 計 雄. ヱ θ 9. い る。 かな り長文 の もので現代社会 にお け る図書館 の社会教育 を理論 的 に論 述 した最初 の文献 とな った。 報告書 は先 ず「 図書館 は通常個人 の書斉 か ら私有 の文庫 へ ,私 有 の文庫 か ら公 開 の 図書館 へ と発展 して現状 に まで進 化 して来 たが,そ の 間 には形 式 的 に も内容的 に も著 しい変遷 を経 たのであ る」 と し,現 在 の 図書館 の職能 を① 文 化的職能. ②教育 的職能. に分類す る。 そ して 読書 のため に来 館す る利用. 者 の求 め る図書 は純粋 に学術研究 に資す るもの,修 養 のための もの,興 味本 位 の もの,実 用本位 の もの,慰 安娯楽乃 至退屈 しの ぎ もあ り,広 く文化 一 般 の もの にわた り,必 ず しも教育 的 と限 らな い。 それ 故 そ うした要求 で来 る読 者 を第 一種 対象 と呼 び,そ の人 々のために提 供す る図書 を第一種 図書 と名付 け る。 図書館 は一 面 において この よ うな職能 を果 たす ので,こ れを文化 的職 ヒと呼iぶ 。 育 しか し,図 書館 は単 に文化 的職能 に止 るべ きでな く,図 書館 の文化的職能 に若千 の条件 と工 作 を加 え る こ とで,教 育 的職能 を発 揮 で きる。例 え ば蔵書 中 に特 に知識 の 向上徳性 の 涵養 ,情 燥 の純化等 に役 立 つ 良書 を選 び,そ の 閲 覧 をすすめ るな どであ る。 そ こで 図書館 の 教育 的職能 を果 たす本 を第 二 種 図 書 ,こ れ らの図書 を教 育 的 に利用す る人 を 第 二 種対象 と呼 ぶ 。 第 二 種対象 の人 々は 自己教育 ので きる人 で あ るが,世 の 中 には読書 を通 じ て の 自己教育 を行 う能 力 の乏 しい者 ,あ るいは多少 の 自己教育 の能力 はあ る が,そ れを 活用す る機会 を見 失 つて い る多数 の人 があ る。 この人 々に対 して 図書館 は特別 の 図書 を選 び,特 別 の方法を講 ず る必要 があ る。 この人 々を第 二 種 の対象 ,こ の対象 のために特 に選 定実用 され る図書 を第二種図書 と呼ぶ。 以上 の第 二 種対象並 に第 二 種対象 のために図書館 は教育 的職能 を発 揮 しな く て はな らぬ とす るので あ る。 報告書 は さ らに社会教育 の本質 や 特徴 を論証 す るが,中 で も社会 教育 は 自 由性 が あ ると し,社 会教育 を受 けるか否 かの 自由 のほか に,そ の方式 に時間 的乃至空間的拘束 のない こ とを述 べ てい る。次 に社会教育機 関 と して 博物館 美術館動植物 園 や社会 教育 を意 図 した講演会講習会 な ど多様多種 の施 設 や催.
(8) 図書館の行政. 1lθ. のあ る こ とをあげ,図 書館 もそれ の一種 で あ るとす る。 つ ぎに図書館社会教育 の特徴 につ いて説 明 し,教 材 と して は図書 だけ,被 教 育者 は大衆 中 のの第 二 種及第 二 種対象. 教育者 として は図書 を選ぶ利用者 自. 身 あ るいは図書 の著者 とも言 えない こ とはないが,適 書 を適時 に与 え る図書 館人 で あ る。従 って図書館社会教育 の指導者 で あ る図書館員 は博識 で あ り. ,. また図書 内容 につ いて理 性 的公平 な批判力を もつ 人 でな くて はな らぬ とす る。 報告書 は一 歩 を進 めて図書館社会教育 の方法 につ いて 具体 的 に次 の よ うに 述 べ て い る。 ①第 一種対象者 この種 の人 々は図書館社会教育 の対象外 の文化的領域 で読書 す る人 で あ る が ,時 によ って は第 二 種 図書 を読 む こ ともあ る し,ま た第一種 図書 として の 小説 も単 に娯楽書 として読書す る場合 は第 一 種 で あ るが,そ れを教訓書 と し て 読 む 場合 は第 二 種 とな る。 つ ま り第 一 種対象者 も固定 した ものでな く,第 一種 図書 も固定 した図書 とはな らぬ故 ,時 と場合 によ り,変 化す る こ とを考 慮 にいれ るべ きで あ る。 ②第 二 種対象者 このノ、々は相 当高 い読書力 と理解力を もって いて,図 書館社会教育 を受 け た い と望 んで い る人 で あ るか ら教育 しやす い。 しか し,そ の効果 があが って 伸)図 書館 自 い な いのは に)自 己教 育手段 と しての図書館 の存在 に気付 かない。 体 の規模設備蔵書 な どが不備 で,利 用者 に満足を与 えないか らで あ る。従 っ て 次 の よ うな改善 を計 るべ きで あ る。. 1)第 二 種 図書 の充実 を図 り,需 要多 い ものは多数 の複本 を備 え る。 2)第 二 種 図書 は書庫 でな く開架す る。 3)第 二 種 図書 の 目録を作 り解題付 とす る。 特 に新 たに図書 館 に来 た人 の ためには分類方式 や検索方法 につ いて懇 切 に説 明す る。. 4)閲 覧 時間 は地 域社会 の生 活事情 を考慮 して決 め る。 5)図 書 の館外持 出 しには不便 を感 じな い よ うに して 利用率 を高 め る。 6)貸 出文庫 を盛 に し,場 合 によ って は分館 の設立 を考 え る。.
(9) ″ヱ. 三 輪 計 雄. 7)読 書 相談事務 を拡大 し,館 員 と利用者 の接触 を簡易化す る。時 には同 種類 の閲覧者 を あつ めて 読書会 を 開 く。 ③ 第 二 種対象者 この人 々は従 来 図書館社会教育 の領域外 に放置 されて いた。従 って 第 二 種 対 象者 の場合 よ りも一層 積極 的 に図書館側 が取組 まね ばな らぬ。第 一 彼 らは 読書能力が弱 く,あ るいは多少能力を もって い るとして も読書 の機会 に乏 し い人 々で あ る。 それ故彼 らに先 ず必要 なのは読書力 を そなえ させ る こ とであ ろ う。 その こ とは学校教育 の果 た す べ き領域 で あ る。しか し,そ れが事実上実 行 され なか ったか らこそ,こ の よ うな境遇 にな ったので あ る。 彼 らは読書 の 利益 を知 らず,読 書 の欲望 を もたず 読書 の機会 を放棄 して い る。 それ 故彼 ら には読書 の興 味を起 こ させ 読書継続 の欲望 を起 こ させ るのが先 決 で あ る。読 書 の興 味を起 こ させ るため に読書 の面 白 さを悟 らせね ばな らな い。 その方法 と して はで きるだ け読 みや す く分 りや す い興 味本位 の 図書 (講 談. 小説. 遊. 戯 その他 の通 俗的読物)を 先 ず与 え る。 そ うして あ る程度読書興 味を起 こ し た 後 には職業 に 関連 の あ る書物 ,例 え ば農 ・工 ・商 その他 の職業 に直接役 立 つ 図書 を選 んで与 え る。 それ に次 いで処世上 の心 得 ,衛 生 あ るいは修養 事 問題. 時. 簡単 な歴史や 伝記 を与 え る。 それ らは一律一 体 に与 え るわ けでな く. ,性 ,年 齢,身 分 ,職 業 な ど種 々の要件 を考 え適人適書 の必要 があ る。 それ だ け に図書館員 の苦 労 は一段 と困難 とな る。 この場合 図書館員 は学 校教 師 と 異 な り,被 教育者 に強制す る こ とはむ づ か しい。何故 な ら社会教育 は元 々 自 由性 を もつ か らで あ る。 結局第 二 種対象者 に対 す る指導 はあ らゆ る機会 に手段 を尽 して 図書 を手 に す る こ とを励奨 す る。 しか も読 みた い と思 う図書 を入 手す るのに一 々 目録 に よ って検索す る手間 を省 き現物 を 目前 にお く必要 が あ る。更 に読書 相談部 を 拡充 し,相 談 と指導 を徹底 す る。 その指導 は時 には人事 相談 的性 質 を帯 び さ せ る。例 え ば新 たに就職又 は転職 を希望す る人 ,あ るいは海外旅行 を志 す者 に直接参考 にな る図書 を届 けるよ うにす る。以上 のほか に下記 の事項 を実施 す る必 要 が あ る。.
(10) 図書館の行政. 夏12. 1). 入館料 を無料 にす るほか に簡便 に図書 の配達 をす る。. 2). 男女青年 団 0在 郷軍人 会 ・産業組合 0農 民組合 な どと連絡を とり,読 書 を奨励す ると共 に図書 の貸 出をす る。. 3 . 図書 の貸与 ・帯 出手続 を 簡便 にす る。. 4. 読書奨励 のため 臨時講演会 ・座談会 を開催 し,又 継続 的 に読書会 あ る いは読書学級 を組 織す る。. 5)個 人 の読書 録 な どを作 らせ る。 6)絵 画 ・標本 ・模型 な どを利用 し,読 書 の啓家運動 をす る。 以 上 は第 二 種対象者 に対す る図書館社会教育 の具体 的方法 で あ る。 末尾 に列 挙 して い る諸条項 は戦後 の図書館奉仕活動 にほ とん どが採 用 せ られ てい るが. ,. 当時 と して はかな り思 い きった案 と考 え られ た。. Ⅳ 改 正 図書館令公布後 ,現 場 で の 図書館社会教育 の理 論研究 が進 み ,そ れ の 集 約 と して 「図書館社会教育調 査報告」 の発表 とな った。一 方 それ と併行 し て ,中 央図書館 の指定 を受 けた各館 はそれ ぞれ の府県 で,そ の府県 の実情 に ふ さわ しい 図書館活動 を進 めた。全 国的 にみて,そ の活動対象 は若 い男女青 年 層 に集 中 した。 それ は図書館社会教育 の対 象 は理 論的 には社会 の 中 の第 二 種対象第 二 種対象全部 で あ るが,総 ての大衆 に及す こ とは困難 な ので,先 ず 青年層 に着手 した とも言 え る。 当時 の学校教育 は小学 校 ,中 学校女学校実業 学校. 高等専門学校大学 の制度 で あ るが,こ の うち小学校 だ けが義務制 で あ. り,中 等教育 や 高等教育 に進 学す るのは少数 の エ リー トだ けで あ った。農 山 村 の男女 の大半 は小学校卒業 後 ,定 時制 の青年学校 に学 ぶ にす ぎなか った。 従 って国家 と しての社会教育 には,こ れ らの学校教育 の外 に あ る青年層 の教 育 が焦眉 の課題 で あ った。 それ 故図書館社会教育 と して も青年層 に焦点 をお い たので あ る。.
(11) 三 輪. 計 雄. ヱヱ3. そ うした中央 図書館活動 の 中 で,当 時最 も注 目され たのは石川県 立 図書館 長 中 田邦造氏 の読書運動 で あ った。氏 は東大哲学科 の 出身 で 読書 につ いての 独 自の哲学 を もって い た し,図 書館界 に あ って も理論家 と して 活躍 し,さ き の「 図書館社会教育調査 報告」 の主査 も務 めて い る。氏 が昭和 2年 か ら昭和 15年 に至た る館長在任 中 に石 川県 下 に展 開 した読書運動 ,中 で もそ の読書 指 導 は社会 教育 の実践 と して,高 く評価 せ られ たので あ る。 氏 は調査報告 に言 う第 一種 対象第 二 種対象第 二 種対象 の識別 につ いて は. ,. ① 自か ら進 んで来館 し欲 す る図書 を 自 ら選定 し且 それを理 解す る能 力を有す る ものは一応 第一種対象 ,② 図書館 に来 て 自身図書 の選 定 がで きず館員 の指 示又助言を要す る人 は第 二 種. ③ 図書館 に来 ない者 は第 二 種 で あ る。 図書館. 事業 に習熟 した者 な ら以上三 つ の 区別 はよ ういにつ くし,利 用者 に応接す る 館員 が少 し注意 すれ ば,そ れが 純粋 に第二 種 か,あ るいは第一種 に近 い人 か, 逆 に第二 種 かが判 ると した。 氏 は上述 の直接 的観察 の他 に調査統計 的処理 によ って知 る方法 があ ると し, 特定地域 の人 口密度 ,教 育程度 ,職 業分布 ,生 活状態 によ って第一種 ,第 二 種 ,第 二 種 に属す る人員 数 を推 計 で きる。 この よ うに して 図書館 の働 きか け る対象 の質的量的 区分 を明 にす る こ とがで きると し,こ うした見地 で 中央 図 書館 と しての 図書館社会教育 のための 図書費 を 計上 し,貸 出文庫 の出先 を選 定 した。石 川県立 図書館 の読書運動 は貸 出文庫 の貸 出先 に熱 心 な読書 指導家 を見 出 し,そ の人 を通 じて県 の貸 出文庫 を運営 し,上 述 の第 二 種並 に第 二 種 対象 の人 た ちの向上 を 期 したので あ る。 この場合 どの よ うな図書 を貸 出文庫 の 内容 とす るか即 ち図書 の選択 と輸送 が県立 図書館 の責 任 で あ る。 この 図書 選択 が 中田館長独 自の もので 図書群 と呼 ん だ。 図書群 は 甲,乙 ,丙 の三 種 が あ り,甲 は小学 校卒業 を対象 と し, 5年 間 に 中学校卒業 の資格 を修 得 で きる もの ,乙 は高等学校 ,丙 は大学 卒業 の学力 と教養 の修得 を 目的 とす るもので あ った。 これ ら図書 群 内 の 図書 の読了 には読書指導家 の助言 と指導 とを加 え るので あ る。 この 図書群 を 内容 とす る貸 出文庫 は,文 庫 開始以来 4年 目の昭.
(12) コ14. 図書館 の行政. 和 12年 には約30ケ 所 ,文 庫生 2,000人 に達 して いた。梶井氏. 7)の. 追憶 に よ る. と,「 当時 の文庫生 が戦後の石 川県下各町村 の 中堅 的指導者 と して 活躍 して い る」 か ら,そ の効果 が実証 されて い るので あ る。 中 田館長 はその後東大 司 書 官 ・ 日比 谷図書館長 を歴任 し,そ の 間 に図書館 協会 の理 事 と して 活躍 し. ,. 戦 中戦後 の 図書館界 に偉大 な足蹟 を残 したが,石 川県立 図書館長時代 の読書 指導 は ま こ とに華 々 しい もので あ った。 中 田邦造氏 の読書 活動 が石 川県 とい う農 山村 が比 較的多 く, しか も雪 国 と して農 閑期 が長 く,読 書 以外 の娯楽施設 の少 ない地帯での読書運動 の成功例 で あ ったの に対 し,そ れ と対 照的 な都会地域 の大 阪府立 図書館 の 中央図書館 活動 につ いて述 べ てみ よ う。 この 図書館 は大 阪市 中島公 園内 に あ り,住 友家 の 寄贈 によ って創設 され たが,昭 和 8年 頃 には公 共 図書館 と して最大 の規模 と職員数 を もつ 図書館 とな って いた。 当時 の館長 は三 代 日長 田富作氏 で あ る。 氏 は広 島高 師 出身で,長 らく大 阪府視学 も経験 し,府 下 の教育事情 に も通 じ, 一面典籍 に深 い造詣 を もった学者 タイプの人 と言われてい る。長 田館長 の 図 書 館活動 も,や は り町村 に 向 けての貸 出文庫で あ った。大 阪市 や堺市 な ど市 部 には独立 図書館 が あ るので ,そ れ ぞれの市 立 図書館活動 にまかせ ,郡 部 の 町村 だ けを 目標 と した と思 われ る。 貸 出文庫 は巡 回文庫部 と呼 び,図 書館 の一 部局 と したが ,こ の部 の 図書 は 本 館 と別 個 の もの と し,選 択 ・受入 ・分類 ・書庫 も全部別系統 と してい る。 係員 は司書 2名 助手 2名 計 4名 で ,他 の図書館 の場合 に比 較 し,か な り余裕 の あ る陣容で あ る。 貸 出文庫 の 出先機 関は小学校 や 青年学校 が最 も多 く,町 村 役場 や神社 ・寺 院 な ど若 干 の特例 もみ られ る。 これ ら出先機 関は貸 出文庫 の 配付 を願 出で る形 を とって い るが,図 書館側 で はその受入順 の番号を その まま,そ の 町村貸 出文庫先 の名称代 りと し,事 務処理 の能率化 を 計 って い る。. 7)梶 井重雄. :石 川県 時代 の 中田 さん 。図書館雑誌 1957年 1月 号. 梶 井氏 は貸 出文庫 出先 の指導者 と して , 中田館長 に協力 し, 後 に七尾 市 立 図書館 長 ,中 田氏没後 の記念 論文 で あ る。.
(13) 三 輪. 計 雄. これ らの番号 か ら推 して,出 先機 関 は毎年 200ケ 所前後 で,大 阪府 の全 町村 に 及 んで い る。 貸 出文 章 の対象 は広 く一般成人 で あ ったが,事 実的 には石 川県 同様 20才 未 満 の男女青年層 で あ る。 こ うした前途 あ る若者 に読書興 味 を起 こ させ ,読 書 の 良習慣 を つ けさせ よ うとす る啓家運動 で あ った と思 われ る。従 って石 川県 の 場合 と異 った図書選択 が実施 され,貸 出文庫 の 出先地域 の希 望 を容れ ,専 任 の司書 と館長 ・ 司書部長立会 いで 決定 して い る。 巡 回文庫 とい う名 称 を もった貸 出文庫 で あ ったが,そ の貸 出方法 は図書館 と貸 出先 との直 接交換す る,い わゆ る行 き戻 り式 で あ り,隣 の 町村 の読 了 し た文 庫 を受 け次 ぐ形式 で はない。 50冊 の本 を入 れ た「行 り」 を一 般 の運送会 社 に頼 んで 貨 出先 に届 け,利 用がすん だ ものは 同 じよ うな方法 で返送 した。 その運 賃 は図書館 と利用者 の折半 で あ った。但 し戦前戦 中 の長 い文庫 の歴 史 で は,青 年 が リユ ックを 背負 って 図書 の貸 出返却 に あた った時代 もあ る。 文庫 の利用状況 は娯 楽 の施設 を もた ぬ交 通不便 の 町村 ほ ど利用率 が 高 い。 大 阪府下 の交通状況 は現在 と余 り変 らず,大 阪市 を中心 と して,四 方 に放射 線状 の私鉄 が走 って い るが,私 鉄 の 沿線 で大 阪市 内 の盛 り場 に便利 な地 域 ほ ど読 書状況 は秀 れず,反 対 に 山村 ほ ど読書 熱 は高 い。 これ は読 書入 門の娯楽 書 を読 む よ りも都会 の娯楽 を求 めて,大 阪市 へ 行 く青年 の少 な くなか った こ とを実証す る。. 8). 以上 は大 阪府立 図書館 の 中央 図書館 と しての貸 出文庫 の一 般状況 で あ るが, この館 の読書指導 と して,当 時注 目され た こ とは地 域 の産業 に結 びつ いて の 読 書運動 で あ る。 この政策 は昭和12年 ごろか ら顕著 に現 われて い る。 大 阪府下 の 町村 は大都市周辺 の郊村 と して,野 菜果樹 の栽培 や花 の 園芸 が 発 達 して い る し,ま た大企業 の下諸 け企業 の電 線加 工 ,機 械部 品製造 工 業 や 雑 貨 ・ タオ ル な どの家 内工 業 の発達 した地 域 が少 な くな い。 この よ うな点 に 注 目 し,貸 出文庫 の 図書 に若千 の職業 関連書 を混ぜ ,そ れぞれ の 町村 の特殊. 8)大 阪府立 図書館年報. 昭和 10∼ 16年.
(14) 図書館 の行政. ゴゴδ. 産業 と結 び つい た読 書 指導を試 み たので あ る。 読書力 の弱 い第 二 種対 象者 に職業 に 関す る図書 を供給 して,そ の読書力 を 高 め る指導 方法 は「図書 館社会教育調 査 報告」 で 提 唱 されて いたが,そ れを 実践 に移 したので あ る。 この試 み は予期以上 の好応 績を お さめた。例 え ばあ る農村 で は野菜 の 改良栽培運動 が起 こ り青年 たちが品種 改良 ,速 成栽培 ,肥 料 の研究 に図書 を利用す るよ うにな り,読 書会 で はそ うした図書 につ いて. ,. また実地 の栽培方法 につ いての 討議 が 活発 とな り,読 書会 へ の 出席 もまた発 言 もだん だん高 まった。 さ らに青年達 はかな り高度 の 図書 を要求す るに至 っ たので あ る。 又別 の 山村 の青年 た ちは筍や栗 の改良を テー マ と して,同 じよ うな活発 な読 書 活動 を始 めたので あ る。 以上 の貸 出文庫 の廻 付 先 での読書活動 に共通す る点 は娯楽書 によ って読書 の世界 に導入 せ られた青年 た ちが, 自分 の 日常職業 と関係す る図書 を得て読 書 興 味 を増 し,知 識 の獲 得 に熱意を示 し,独 りで は と うて い読破 で きな い専 門書 も読書会員相互 の読書力 と実物 を知 る有利 さに助 け られ解読 で きる こ と を知 ったので あ る。 この よ うな読書指導方法 は石 川県 と並 んで 当時 と して は 多 くの 関心を 集 めたので あ る。 以上 図書館社 会教育 の実践伊」と して ,戦 前 の公 共 図書館 が貸 出文庫 を通 じ て 実施 した成 功結果 を述 べ たので あ るが,公 共図書館 は同時 に情報 源 として 調査研究資料 の提 供を してい るので あ る。 その好例 と して前記大 阪府立 図書 館 で は特許部 とい う係をお き,国 内 の発 明特許 明細書 ・商標 意匠登録書 の ほ か に米英独仏 な どの外 国特許 明細書 を収集 し,分 類整 理 して研究者 に提 供 し て い る。 これ らの資料 は 関西 で は唯 一 で あ った し,外 国特許 の分類製本 した ものは 日本 中唯一 つで あ ったため,大 企業 の調査部 か ら専 門技 師 を派遣 して 調査す る場合 も多 く,特 に戦局 の進む につ れ ,外 国資料 が入手 難 とな った の で一 層利 用が ま した。図書 館側 も印届1機 械 を備 えて ,そ の 目録 の速 報 を 出 し. また複写 がで きるよ うに,独 乙製 の35ミ リライ カカメ ラ,拡 大写真装置 を. もって いた。 この よ うな図書館機 械化 は戦後 は当然視 され るが,戦 時下 に お.
(15) ヱ ヱ 7. 三 輪 計 雄 いて,こ うした方針 を打立 て 実践 したのは長 田館長 の卓見 と言 え よ う。. 9). V 「 図書館社会教育調査報告」 を公表 したのは昭和 12年 6月 で あ るが,翌 7 月 7日 には芦溝橋事件 が起 こ り,我 が 国 はいわゆ る支 那事変 に突入す る こ と にな る。 その年 の10月 には政府 は 「 挙 国一 致尽忠報 国 ノ精神 ヲ以 テ堅 忍 持久 ア ラユル 困難 ヲ打 開 シ,所 期 ノ 目的 ヲ貫 徹 スル」 ため,国 民精神総動員運動 を起 こす こ とと し,そ の 中央連 盟 を成立 し,実 践 活動 を始 めた。一 方 12月 には「 教育審議会 官制」 を公布 し,新 たに教育審議 会 を設 け,時 局 に合致 した教育 の基 本方針 を審議 し,重 要 な答 申を求 め るこ ととな った。 この審議会 の答 申 はその後学 校教育 ・社会教育制度 ,教 育行政 や その他 の教育全般 につ いて行 なわれ,戦 時 中 の我 国 の教育 を規定す る こ と とな った。 この二 つ の 国策 は図書館社会教育 に重 大 な影響 を及 ぼ したので あ る。先ず 前者 と図書館 の 関係 をみ ると,支 那事変 の初 めには局地 解 決戦争不拡大を声 明 し続 けた政府 も,そ の意 に反 して次 々 と戦局 の拡大す るにつ れ,つ いに戦 争遂行 のためにす べ てを傾倒す る こ ととな る。 この よ うな政府 の方針 の変化 とそれ に伴 う社会情勢 を敏感 に受 けとめた図書館界 は昭和12年 11月 東京 で 開 催 した 中央 図書館長会議 で ,積 極的 に「 国民精神総動員 運動」 に協力す るこ とを表 明 した。 そ して翌13年 5月 東京 で 開催 した全 国図書館大 会 には文部大 臣諮 問 の「 国民精神総動員 ノ為図書館 ノ採 ル ベ キ具体 的方策如何」 に. 討議. の末答 申を行 な うとい う協力振 りで あ った。 この こ とは後 の 国民精神総動員 文庫」廻付 に連 な るもので あ る。 一方 教育審議会 との 関係 はその権威 を認 め戦 時下 の図書館振興策 と して. 9)大 阪府立図書館要覧. ,.
(16) 図書館 の行政. 118. 進言書提 出の件 が13年 の 図書館大 会 で 決議 された。 この進言書 は「 国民 ノ立 場 ヨ リスル 国民教育革新 案」 の名 目で 昭和 13年 6月 28日 教育審議会 に提案 し た。. 10)そ. れ は次 の諸項 目か ら成 って い る。. 1)教 育 二 関 スル基本観念 ノ是 正 ノ必 要 2)社 会教育 ノ中枢機 関 トシテ図書館 ノ能動 的機能 ヲ重用 スル ノ必要 3)学 校教育 卜図書館教育 トノ接続 二 関 シテ特 二方途 ヲ講 ズル ノ必要 4)国 民必読 図書 群並 二雑 誌 ノ推 セ ン編 サ ンノ為特別 委員会 ヲ設置 スル ノ 必要. 5)社 会教育 ノ中枢機 関 トシテ ノ図書館 ノ組 織拡充並 二機能 充実 ノ必要 6)図 書館 ノ職 員組 織充実 ノ必要 7)統 制監督 機 関設置 ノ必要 8)図 書 館 二 関 スル諸法規 ノ改 正並 二制定 ノ必要 以上 は従来 図書館 で要望 し続 けた項 目で あ るが,若 干 の解説 をす ると ① で は従 来教育 の 中心 が学校教育 にあ るとの世俗観念 があ るが, これ は明治時代 の過 渡 的取扱 いが 今 日に及 んで い るに過 ぎな い。成 る程学校教育 は国民 の完 全 な教育 の基礎 を与 え る。 しか しその上 に立 った生涯教育 の社会教育 が中心 で あ ると主張す る。② の項 目で は社会教育 の 中枢機 関は図書館 だ と考え,そ の 能動的機能 を重視す る。③学校教 育 と図書館教育 の接続方法 は現在何 もな いが ,小 学校 の最終 2年 間 に図書 の使 い方 を加 味 した教育 を行 な う。それ には 先 ず小学校教師 に図書館学 を修得 させ る要 が あ るので,師 範学校 に図書館学 科 を新設 し,ま た現職者 のためには図書館学講 習 を行 な うとい う構想 を示 し て い る。④ で は既 に学 校 を卒業 して い る青年 に対 し,国 民教科書 ともい うべ き必読 の 図書群 を選定 して供給す る。 この選定 と雑誌 の推せん事業を 目的 と した特別 委員会 を作 り,学 識経験者 に委員 を委 嘱す る。 ⑤ で は兼 ねてか らの 図書館 界 の要請 を記 し,市 町村毎 に公 共図書館 を設置 し,そ の数 も小学校 の 学 区毎 に 1館 をお き専任 1人 以上 の 閲覧所 とす る。大都市 で は中央館 の他 に. 10)裏 田武夫,小 川剛編 :図 書館法成立資料第 1部 4.
(17) ヱ ヱ θ. 三 輪 計 雄. 20閲 覧所毎 に 1分 館 を お く。市 以上 の行政 区劃 で あ る府県毎 に中央 図書館. ,. 更 に 中央 に国立 の総 中央図書館 を設置 す る。以上 のよ うな 図書館設置 の構想 に 附随 して,そ れぞれ の図書 館費 を計上 してその規模 を示 して い る。即 ち国 立 の総 中央館 は全 国民 1人 当 り10銭 ,市 町村 立 はその住 民 1人 当 り40銭 と し. ,. 地方 図書館費 の半分 は国庫補助 によ るもの と した。⑥ で は図書館職員 の養成 と再 教育 につ いて 専任官 の配置. ⑦ で は文 部省及 び各府県 に図書館 を専管す る担 当部局 と. ③ は以上 の こ とを 規定す る図書館法令 の改 正 に触 れて い る。. 以 上 は図書館 の立 場 と して は当然 の要請 とも言 え る要望書 で あ った。 しか し,当 時 の 図書館 の実情 は甚 だ貧 弱 で あ った。 昭和 13年 2月 14日 第73 回 帝 国議会 に提 出 した「 公共 図書館費 の 国庫補助法 に 関す る請願」 はその実 情 を示 してい る。 この種 の請願 は この 時 に 引 き続 き何 回 か議会 に対 して提 出 されて い るが,そ の最初 の請願書 で は 「 今 日全 国 の道 府県数 は47,そ の 中 い まだ府県立 図書館 を もたぬ府県 は11, ` また中央 図書館 の指定 を しない府県数 は14で あ る。市 町村 立 図書館 は市 町村 数 (大 凡 12,000)の 半 に も達 しない。 しか も既存 図書館 の蔵書 はその70%に お いて は1,000冊 以下 ,経 費 は100円 未 満 の貧 弱 な状態」 と述 べ,こ の よ うな 状 態で は満足 な図書館 活動 はで きない。一方 で は「学 校教育 や 社会教育 の 中 で も青年 学校 な どには総 計 1,000万 円 (義 務教育 の教員費補 助 の8,500万 円 は 別 )国 庫補助 が あ るのに図書館 には 1銭 の補助 もな い」 と窮状 と補 助 の不公 平 を訴 えて い る。 こ うした,戦 時体制下 での 図書館無視 の行政が行 なわれた理 由 につ いて は, 石 井敦氏 は「 少 ない費用 で イ ンス タ ン トに教化事業 の行 なえ る他 の社会事業 とちが って,相 当の経費を必要 と し, しか も本 質 的 に民主 的 で あ り,読 書 の 自由 を前提 とす る図書館 は,戦 時体制 に従 属 させ ,協 力 させ よ うと して も効 果 が ないので,事 態が急迫 す るにつ れ て,読 書会 一 読書 指導 だ けを抜 き出 し, 他 の 図書館一般 は不要 不急 の施設 とされ た」 ■1)石 井敦 :史 的 にみた 日本 の図書館行政. 11)と. して い る。. 図書館界 22巻 6号.
(18) ゴ 2θ. 図書館の行政. 石 井論文 の 指摘す る読 書会 と読書 指導重視 は教育審議会 の答 申 に も現 われ て い る。教育審議会 は戦時下 の教育全般 の審議 の過程 で ,先 ず学校教育 につ いての答 申を完 了 し,昭 和 15年 5月 ごろか ら社会教 育 につ いての論議 を進 め, その間 に 日本 図書館協会代表 と して,中 田邦造 を招 き,さ きに協会 か ら提 出 してい る「 国民 ノ立 場 ヨ リスル 国民教育 改革案」 の 内容 の説 明を求 めた りし たが,昭 和 16年 6月 16日 「社 会教育 に 関す る」答 申を行 な った。 この答 申で は「 社会教育 は学 校教育 と相侯 ちて 国民 の生 活及文化を充実す るもので あ るか ら現下 の高度 国家体制 づ くりに緊要 な もので あ る」 と して い るが,そ の社会教育 の進 め方 につ いて は「 国家 ノ指導方針 二基 キ官民協カ シ テ教育 効果 ノ完 キ ヲ期 スル コ ト」 と し,社 会教育 は国家 の統 制下 に実施す べ き こ とを 明示 して い る。 国家統制下 の社会教育 で は図書館 は博物館 な どと共 に文化施設 の一 機 関 と して位置 づ け られ て い る。従 って 答 申 の「文 化施設 の要綱」 の 中 に. 1)国 立 図書館並 二道府県 二於 ケル 中央 図書 館 ヲ整 備拡充 スル ト共 二市 町 村 図書館 ノ普及充実 二 カ ムル コ ト. 2)専 門図書 館 ヲ奨 励 シコ レガ振 興 ヲ図 ル コ ト 3)図 書館活動 ノ積極化 ヲ図 ル タメ読書指導 ヲ強化 スル ト共 二貸 出文庫. ,. 移動文庫 ノ施設 ヲ拡 充 スル コ ト と した。 この社会教育 に 関す る答 申書 を作成 した教育審議会で は,さ きに図 書館界 が進言 した 図書館 中心 の社会教育案 を無 視 し,抽 象 的 に文化施設 と し ての 図書館充実 を述 べ るに過 ぎなか った。 しか し,進 言書 の 中 の 国民 の読書 運 動 は採 用 され ,そ の 積極化 を 図 るために貸 出文庫 ・移動文庫 の普及拡充 を 特記 したので あ る。 文部省 は上記 の答 申の主 旨を汲 んで ,翌 昭和 17年 には各道府県 の 中央 図書 館 に「 国民読書運動助成金」 を交付 した。 またその年 の 日本 図書館協会主催 の「 部会協議会」 (図 書館大会 は廃止 され ,そ れ に代 るもの)に 「大東亜共 栄 圏建設 に即応 す べ き国民読書指導 の方策如何」 とい う文部大 臣 の諮 問事項 を 出 したので あ る。 この ころは戦争完遂 のために 国民精神 の統一 が叫 ばれ. ,.
(19) 三 輪. 121. 計 雄. 一 方大東亜共栄 圏建設 の精神 的支柱 と して, 日本精神 の昂揚 が強調 され ,神 が か り的思想書 が はん らん していたが,そ う した思想書 を貸 出文庫 や 移動文 庫 に入 れ て,青 年 たちに読 ませ よ うと した。 これを精神総動員文庫 と呼 んだ。 それ らの図書 は哲学 的 ・宗教 的 な思想書 で ,き わめて抽象化 され た表現 で綴 られ ていた し,一 方青少年 の読解力 は 日毎 に低下 し,と うてい読 み通 せ るも の で はなか った。 それ 故 その読書効果 はほ とん ど期 待 で きなか った。 昭和 18年 に入 ると戦局 は一段 ときび し く学徒動員 や 勤労動員 が実施 され. ,. 図書館員 の若 き層 は召集 され て,図 書館 の本来 的活動 は停止 され た。専任職員 を もたな い市 町村立 図書館 は この段 階 で 閉塞 されたので あ る。 しか し,図 書 館 全体 と して は決 して沈黙 したわ けでな く,昭 和 18年 2月 の帝国議 会に「 図 書 館事業 ノ体制確 立 二 関 スル請願」 と「図書館 ノ戦時体制確 立 二 関 スル建議 案 」 を提 出 してい る。 これ らの 中で 力説 されて い る点 は戦時下 において,国 民 学校令. 中学校令. 高等学校令 ,大 学令 改 正 のため修業年 限 が短縮 し,国. 民 の学力 は低 下 して い る。 これを補 い学 力を維持 させ る道 は読書 に依 るほか は な い。 これがために図書館 は振 興 されね ばな らな い。換言すれ ば時局 緊迫 時 こそ図書館社会教育 の必要 が大 きい とす るので あ る。 しか し,そ うした一 切 の運動 を押 し流 して敗戦 に終 わ る。. (未 完 ).
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