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ロシアの臓器移植法 一一世界の臓器移植法(三)一一

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資 料

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臓器移植法研究会

ま え カ 三

69一一『奈良法学会雑誌』第6巻4号(1994年3月〉 旧ソ連における臓器移植の歴史は、一九三四年に行われた世界最初の腎臓移植にまでさかのぼるが、直接の根拠法令はなく、連 邦保健法の一般規定とそれにもとづくソ連保健省の通達によって、保健省の許可と専門委員会の管理の下に実施されていた。 その手続の特色は、本人の承諾についても近親者の承諾についても、これを原則として不問とする立但切であるが、このような実 践に対する批判的な意見が法学文献で主張されるようになり、本人の生前における反対の意思表示を考慮すべきではないか、近親 者の承諾を要件とすべきではないかといった点が論議されていた。したがって、この点を含む臓器移植の法的手続の不備が問題と されていたのである(以上の点を含め、一九八

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年代初頭における旧社会主義諸国の臓器移植の状況について、稲子宣子﹁臓器移 植の比較法的研究││社会主義諸国﹂比較法研究四六号、六二頁以下、一九八四年、参照)。 本法は、ソ連崩壊後の一九九二年になって、ロシア連邦において新しく制定された初の臓器移植法である。その成文が一九九三 年一月の﹁ロシア連邦人民代議員大会および最高会議通報﹂に発表され、さらにその解説論文が法律雑誌﹁国家と法﹂に掲載され たので、ここでは、その成文と解説論文を資料として訳出する。 内容的な点について一言すれば、本法では臓器摘出の承諾要件については、臓器摘出の同意が推定され、本人あるいはその近親 者が事前に反対意思を表現していた場合は許されないという形で、いわゆる反対意思表示方式が明確化されている点、および生体

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第6巻 4号一一70 からの臓器移植についても要件が法定されている点などに特色があるといえよう。ロシアの社会的・経済的な混乱を前提とすれば、 解説論文の指摘にもあるように、要件を逸脱した濫用のおそれがあることを警戒すべきであろう。 なお、成文については中山、解説論文については上回が翻訳を分担した。 八人間の臓器および(または)組織の移植に関する﹀ロシア連邦の法律の再審議に関するロシア連邦最高会議の決定 ロシア連邦大統領によって差し戻された八人間の臓器および(または﹀組織の移植に関する﹀ロシア連邦の法律を再度審議した 結果、ロシア連邦最高会議は、ロシア大統領の確認的な指摘と編集上の修正を加えて、八人間の臓器および(または)組織の移植 に関する﹀ロシア連邦の法律を採択する。 ロシア連邦最高会議議長旦ル・ィ・ハズブラトブ モ ス ク ワ 、 一 九 九 二 年 二 一 月 一 一 一 一 日

人間の臓器および(または)組織の移植に関するロシア連邦の法律

ーー一九九二年一二月一一一一日ロシア連邦最高会議採択││ 本法は、科学と医療の現代的な成果に基づき、さらに世界保健機構の勧告を考慮に入れて、人聞の臓器および(または﹀組織の 移植のための条件と手続を定める。 人間の臓器および(または﹀組織の移植は、市民の生命の救済および健康の回復のための手段であり、ロシア連邦の法律の遵守 と人権のに基づいて、国際社会によって宣言された人道的原理にしたがって実施されなければならない。 第 一 章 一 般 規 定 第一条人間の臓器および(または)組織の移植の条件と手続 生体のドナーまたは死体からの臓器および(または)組織の移植は、他の医療手段が患者(レシピエント)の生命の維持あるい は健康の回復を保障しえない場合にのみ適用することができる。

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生体のドナーからの臓器およびハまたは﹀組織の摘出は、医学専門家の委員会の意見によれば、それが彼の健康に重大な害を及 ぼさないとみられる場合にのみ許される。 臓器および︿または)組織の移植は、もつばら生体のドナ l の同意、および通常はレシピエントの同意がある場合にのみ許され る 。 71一一ロシアの臓器移植法一世界の臓器移植法伺 人間の臓器および(または)組織は、売買の対象とされてはならない。臓器および(または﹀組織の売買、およびその広告は、 ロシア連邦の立法に基づいて刑事責任を科せられる。 レシピエントに対する臓器および(または)組織の移植手術は、医学的適応に基づき、外科手術の一般的規則にしたがって実施 さ れ る 。 第二条人聞の臓器および(または﹀組織││移植の対象││のリスト 移植の対象となりうるのは、心臓、肺臓、腎臓、肝臓、骨髄、およびその他の臓器および(または﹀組織であって、そのリスト はロシア連邦保健省およびロシア医学アカデミーによって定められる。 本法の効力は、人間の再生過程に関係する臓器、その部分および組織︿卵子、精子、卵巣、皐丸、または怪子﹀、ならびに血液 およびその成分には及ばない。 第三条生体のドナ!の範聞の限定 移植のための臓器および(または)組織の摘出は、一八歳未満の生体のドナーから(ただし骨髄移植の場合を除く)あるいは法 的に無能力者と認められた者からは許されない。 臓器および(または)組織の摘出は、レシピエントの生命および健康にとって危険な疾病に握っている者からも許されない。レ シピエントに勤務上またはその他の依存関係にある者から移植のための臓器および(または﹀組織を摘出することも許されない。 生体のドナーに対してその臓器および(または﹀組織の摘出の同意を強制することは、ロシア連邦の立法に基づいて刑事責任に 問 わ れ る 。 第四条人間の臓器および(または)組織の採取、保存および輸送を行う保健施設 人間の臓器およびハまたは﹀組織の採取と保存は、国の保健施設においてのみ許される。

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第6巻 4号一一72 人間の臓器および︿または﹀組織の輸送は、特別な保健施設において許される。 人聞の臓器およびハまたは)組織の採取、保存および輸送を実施する保健施設のロスト、およびその活動の規則は、ロシア連邦 保健省およびロシア医学アカデミーによって定められる。 第五条臓器およびハまたは﹀組織の移植の必要性に関する医学的意見 人間の臓器および(または﹀組織の移植の必要性に関する医学的意見は、主治医、外科医、麻酔医、および必要な場合には、ロ シア連邦保健省の訓令に基づいてその他の専門の医師を含んだ当該保健施設の医師の委員会によって与えられる。 第六条人間の臓器および(または﹀組織の移植に対するレシピエントの同意 人間の臓器およびハまたは)組織の移植は、レシピエントの書面による同意に基づいて行われる。その際レシピエシトは、直面 する手術が彼の健康に及ぼす可能性のある事態について説明を受けなければならない。レシピエントが一八歳未満あるいは法的に 無能力者と認められた者であるときは、移植はその両親または法定代理人の書面による同意によって行われる。 臓器およびハまたは﹀組織の移植は、その手術の実施が遅れればレシピエントの生命が危なく、同意を得ることが不可能な例外 的な場合には、彼の同意あるいはその両親または法定代理人の同意がなくても行われる。 第七条国際条約の効力 ロシア連邦が批准している国際条約が、本法とは異なる規則を定めているときは、国際条約の規定が適用される。 第二章移植のための死体から臓器および(または)組織の摘出 第八条臓器および(または)組織の摘出の同意の推定 死体からの臓器および(または)組織の摘出は、保健施設がこれを摘出するに当たって、生前に本人あるいはその近親者または 法定代理人が死後に臓器および(または)組織を移植のために摘出することに不同意を表明していたことを知った場合には、許さ れ な い 。 第九条死亡時刻の決定 移植のための死体からの臓器および(または﹀組織の摘出は、医学専門家の常設委員会によって確認された死亡の事実の確実な

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証拠が存在する場合に許される。 死の判定は、ロシア連邦保健省によって定められた手続にしたがって確定されたところの、脳全体の不可逆的な段滅(脳死)の 確認によって行われる。 死者をドナーとして利用する場合の死の判定には、移植医および臓器の提供と受容の仕事にかかわるチ l ムのメンバーは加わる こ と が で き な い 。 第 一

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条死体からの臓器および(または)組織の摘出の許可 死体からの臓器および(または)組織の摘出は、保健施設の医師長の許可の下に本法の定める条件にしたがって行われる。 司法医学的鑑定が必要な場合には、死体からの臓器および(または)組織の摘出の許可は、司法医学の専門家によってもなされ、 検察官に報告しなければならない。 73一一ロシアの臓器移植法一世界の臓器移植法日 第三章移植のための生体のドナーからの臓器および(または)組織の摘出 第一一条生体のドナーからの臓器および(または)組織の摘出の条件 レシピエントに対する生体のドナーからの臓器および(または)組織の摘出は、次の条件を遵守すれば許される。 ドナーが臓器および(または)組織の摘出手術によって彼の健康に生じうる事態について説明をうけたこと。 ドナーが彼の臓器および(または﹀組織の摘出について書面によって自由かつ意識的な同意を与えたこと。 ドナーが全面的な医学的検査を受け、移植のための臓器および︿または﹀組織の摘出の可能性について医学専門家の委員会の結 論が出ていること。 生体のドナーからの臓器の摘出は、骨髄移植の場合を除いて、彼がレシピユントとの聞に遺伝的な関係がある場合に許される。 第 一 ニ 条 ド ナ l の 権 利 自己の臓器および(または)組織の移植に対する同意を表明したドナーは、次の権利を有する。 保健施設に対して、臓器および(または)組織の摘出手術によって自己の健康に生じうる事態について完全な情報を要求するこ ︾ ﹂ 。

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第6巻 4号一一74 手術の実施に関係した保健施設で、医薬品を含む無料の治療を受けること。 第一三条生体のドナーからの臓器および(または)組織の移植の制限 生体のドナーからの臓器および(または)組織の移植は、二つある臓器の一方、臓器の一部、または摘出しても健康に回復不可 能な害を与えないような組織についてのみ認められる。 第四章保健施設と職員の責任 第一四条ドナ!とレシピエントに関する情報の漏法に対する責任 保健施設の医師およびその他の職員はドナ 1 およびレシピエントに関する情報を漏らしてはならない。 このような情報を漏らした者は、ロシア連邦の立法によって刑事責任に問われる。 第一五条人聞の臓器および(または)組織の売買の禁止 死体の臓器および(または)組織の採取および準備の仕事を行うことのできる保健施設は、それを売買してはならない。 本法は、その準備のために組織の成分が用いられる標本および移植材料には適用されない。 第二八条保健施設の責任 本法の定める臓器および(または)組織の摘出の条件と手続、あるいは移植の条件と手続に違反して、ドナーまたはレシピエン トの健康に害を与えたときは、保健施設はロシア連邦の立法の定める手続によって、これらの者に物質的な責任を負う。 ロシア連邦大統領ベ・エリツィン 八人間の臓器および(または)組織の移植に関する﹀ロシア連邦の法律の施行に関するロシア連邦最高会議の決定 ロシア連邦最高会議は、次のように決定する。 一八人間の臓器およびハまたは)組織の移植に関する﹀ロシア連邦の法律を、一九九三年五月一日から施行する。 ニロシア連邦政府は、一九九三年四月一日までに、次のことをしなければならない。 本法に対応するロシア連邦の政府の決定を公布し、ロシア連邦の省庁による本法と矛盾する規範的法令の再検討と廃止を保障す

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75一一ロシアの臓器移植法一世界の臓器移植法同 る こ と 。 人間の臓器および(または)組織の移植手術の実施に関する国家保健施設の活動に対する財政的保障、人間の臓器および(また は)組織の移植手術を保障するために医科大学、大学医学部、資格訓練研究所および医療施設における移植医、救急医およびその 他の医療および技術スタフの養成、についての国家的プログラムを作成すること。 人間の臓器および(または)組織の移植手術が許される保健施設のリストを決定すること。 生体のドナ i および死体からの臓器および(または)組織の採取および保存のための国家保健施設の活動の細目を定め、その保 健施設の活動に対して厳格なコントロールを行うこと。 ド ナ l の臓器の登録と配分のための地方的な独立の調整センターを設立すること。 人間の臓器および(または)組織の移植手術に関連してレシピエントおよびドナ l H 近親者への援助基金の設立に関する問題を 検 討 す る こ と 。 三ロシア連邦最高会議の保健、社会保障および体育に関する委員会は、次のことをしなければならない。 本法の採択に関連してロシア連邦の法令に修正と補充を加える法律の草案をロシア連邦最高会議の検討に委ねること。 本決定の遵守をコントロールし、必要な場合にはロシア連邦最高会議に適当な提案をすること。 ロシア連邦最高会議議長エル・イ・ハズブラトフ モ ス ク ワ 、 一 九 九 二 年 二 一 月 一 一 一 一 日 ゲ・エヌ・クラスノアスキー

ロシア連邦の人の臓器および組織の移植に関する法律における生物学的・刑法的諸問題

八国家と法

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誌一九九三年二一月号 人の救命と健康回復の効果的な手段の一つとしての移植医療の発達は、ロシア連邦においては長期にわたり然るべき法的な保障

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第6巻 4号一一76 を持たなかった。そのような状態の一因は、明らかに、わが国の移植医療の成果の乏しさであるが、移植に際し生じる法的関係と 責任の限界について六

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年代から八

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年代にかけてなされた立法による規制が必要だとの指摘も、実現されることがなかった。 やっと一九九二年になって、ロシア共和国最高会議の保健、社会保障およびスポーツ委員会により﹁人の臓器および組織の移植 に関する法律﹂の草案が作られ、これが議会や大統領府での手直しを経て、周年一一一月一一一一日に採択されたのである。だが、問題 の性格からも、この分野ではロシア史上初めての法律であるという点からも、当然必要と考えられる公開の論議はなされなかった し 、 WHO からの助言もなかった。また、この法律が採択されたのは、わが国が市場関係へと移行する時期であったということが、 その内容に影響を与えている。 その前文から明らかなとおり、この法律では人の臓器および組織の移植の条件は現代科学と医療実務の到達点に依拠して、また WHO の勧告を考慮において決められている。だが前文には、ドナ!とレシピエントの健康に対する不法な害悪の惹起の予防とい う考慮はうかがわれず、そのことは彼らの権利保護という問題を国が最重視することについての不明確さを疑わせるものである。 法文上も、要件に違反してなされた臓器や組織の摘出および移植により引き起こされた健康被害に対し、国の保険義務は規定され ず、医療機関の物的責任のみが定められており(一六条)、立法者はドナーとなることを国家的に意義のある行為だと認めていな い よ う に 見 え る 。 法律八条により臓器および組織の摘出については同意が推定されている。しかし、当該の死者が生前にそれについての不同意を 表明していたか、その近親者あるいは法定代理人が不同意であることが医療機関に知られた場合には、そのような推定は許される べきではない。このような規定を盛り込んだことが、法律に対する大統領の側からの再検討要求の一理由であったが、立法者はそ れに注意を振り向けなかった。 向意の推定を認めたことの実際の結果はどのようなものであったか。何よりもまず、無条件に尊重されるべきドナ l の、彼の臓 器・組織が死後に移植に利用されることについて、適当な形で決定する権利が無視された。つまり立法者はドナ l の権利の第一義 性を認めていないのである。それによって、将来のドナーが提供してくれる臓器・組織についてのデータバンクをわが国に作るこ とは困難となり、ひいてはわが国における臓器移植の発展にとって否定的な影響が大いに懸念されるところである。 法律では、移植の条件に関する問題はきわめて特色ある形で解決されている。第一条によれば、生体または死体からの臓器移植

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77一一ロシアの臓器移植法一世界の臓器移植法伺 は、他の医療手段が患者の生命または健康回復を保障しないときに、許されることになっている。したがって、

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生きたドナーか らの臓器・組織の移植の許容性、

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死体からの臓器・組織の移植の許容性、そして

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移植の医療手段としての承認、という生命倫 理的な問題が法律によりいかに解決されているかという問題が輿味ある検討対象となる。 生きたドナーから臓器・組織を摘出することの可能性を認めることによって、法律は他人の健康に損害をもたらすことにより患 者の生命を救い健康を回復させることの正当性を確認している。ドナーに別の選択肢がある場合については、法律には、生体から の移植の根拠についても、死体からの移植により生じうる否定的な結果についても、何ら規定されていない。必要な条件として法 律が規定しているのはドナ l の同意であり、医師の診断により臓器摘出がドナ l の健康に重大な害を及ぼさないことが確認される 場合に、それは許容されるのである。﹁健康に重大な害﹂という概念は刑法的な性格を持っており、その内容は正確に枠付けられ ねばならない i │ │ 現行法上、臓器を失うことは重大な身体傷害にあたることは明らかなのであるから。 法文より判明する限りでは、特に重視されているのは、ドナlの健康に害が生じうる時期とその法律的な意義という問題の解決 であるが、そのことは、摘出手術の結果を予測することの 1 1 患者の個人的な特質からも 1 1 困難さと関連している。また、誤診 があればそれに対する医師の責任という問題も生じる。これらをこの法律により解決することは不可能である。 移植可能な臓器を対になったものの一方に限定したことも︿一一一一条)、困難を減少させない。その摘出は健康の﹁取り返しのつ かない﹂悪化をもたらさないとされているのだが、これと一条の﹁重大な害﹂とは一致しないのではないか。 法 律 第 一

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条によれば、生体からの臓器摘出に必要な条件は、ドナーとレシピエントとの聞に遺伝上のつながりがあることであ る(骨髄移植を例外として﹀。しかし、医学的な見地からはそのような条件は必要でなく、したがって、移植目的での臓器摘出か ら人を護るためには、そのような行為に刑事責任を定める別の法規定が必要である。 それらの点を考慮すると、生体からの臓器摘出そのものを許容すべきかどうかという問題が出てくる。生体から摘出された臓器 が、それまで自然の血液循環の中に置かれていたために新鮮だという根拠があげられるが、しかし死体の臓器も、たとえ人工のそ れではあっても、血液循環を受けており、移植の結果は生体から摘出した臓器も死体からのそれも本質的に同一である。死体から 摘出した臓器の状態の維持、効果的な保存という問題については、科学的にまだまだ進歩が見込めるし、他の者の健康に何等の害 をもたらすことなく移植に好適な臓器が保障されるこの領域の研究こそ展望のあるものである。

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第6巻 4号一一78 従って、ドナ!の利益を護るに好都合な手段となりうるのは、生体からの臓器・組織の摘出を禁止し、その違反に刑事責任を定 めることである。現行の法律は、そのような移植を許容しながら、ドナ l の利益を護るために、臓器・組織の摘出に同意するよう 強制することに対し刑事責任を宣言している。それだけであり、明らかに、草案起草者も立法者も、この特殊領域で刑事責任に関 する規定の不備がもたらしうる結果についてきちんと考えていない。その結果、今日市民は生体からの臓器・組織の摘出に関連す る犯罪から保護されておらず、急速な立法的対応が必要である。 この領域でなされる犯罪の刑事責任の問題を解決するに当たって考慮すべきは、移植に関わる故意犯罪が社会的危険性の点でき わめて大きいということである。それゆえ、責任加重事由の一覧表ハロシア共和国刑法典コ一九条)に﹁臓器の摘出または移植の目 的による犯罪の実行﹂というものを追加すべきである。個別的にも、特に刑法典一

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二条には故意の殺人のきわめて危険なものと して、移植臓器の獲得を目的として実行された殺人という加重類型を設けるべきである。同様に一

O

八条二項についても、臓器の 摘出あるいは移植を故意の重傷害罪の加重類型とするべきである。これをしなかった﹁人の臓器および組織の移植に関する法律﹂ を作成し、これを成立させた者達は、明らかに、医療分野での犯罪についてはきわめて限定的な役割しか演じていない現行刑法典 の印象にとらわれていたか、または広く刑事責任を規定することがそのような手術の減少をもたらすことをおそれたのである。だ が、この種の犯罪の危険性を考慮すれば、この間題は特別の検討を要求しよう。 臓器移植に際し医師が故意または過失により実行する次のような行為を犯罪化する問題を提起することには根拠がある。 ーーその同意なしに生きたドナーから臓器・組織を摘出すること ││生きたドナーから、それを失えば取り返しのつかない健康被害をもたらす臓器・組織を摘出すること ーーー一八歳未満の者あるいは無能力者の臓器・組織を摘出すること

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レシピエントの生命・健康にとって危険な病気にかかっている者の臓器を摘出すること。 ││臓器を摘出しそれをドナ!と遺伝的な関係を持たないレシピユントに移植すること これら行為に刑事責任を定めることは、臓器移植の過程で生じうる市民の生命と健康の侵害の防止に、国家が実効性のある措置を と っ て い る こ と を 一 示 す こ と と な ろ う 。 法律二条には、この法律の効力は卵子、精子、卵巣、皐丸、匪といった人の再生産過程に関わる臓器・組織、ならびに血液とそ

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79一一ロシアの臓器移植法一世界の臓器移植法伺 の成分には及ばないと定められている。だが草案にはさらに、その効力が人の遺伝子の変化に関係する臓器・組織には及ばないこ とが規定されていたのであり、したがって、法律を文字どおり適用すればそのような行為は許されていることとなる。これは法律 草案の広範囲での審議が十分になされなかった結果であり、明らかな不備である。人々の権利を刑法的に保護するためには、その 修正と補充が必要である。 生体からの臓器・組織の移横の生命倫理的な問題も存在する。何よりも必要なのは、蘇生措置の停止と臓器摘出の根拠を与える、 死の時点を正しく決定することである。法律九条は死体からの臓器摘出を、医師団により全脳髄の死を根拠として死亡が確認され た時から、認めている。したがって、定まった手続きで脳死が確認されていない段階で臓器を摘出することは、上記の加重的事由 をともなう犯罪とされなくてはならない。 ここにおいて医学および刑法学の観点から問題となるのは、脳死が心臓の停止をもたらさない場合に、蘇生措震の中止と臓器摘 出の根拠となる死亡を確認することである。実務において生ずるそのような状況について、この法律によれば、脳死が確認されて いれば心臓が動いている肉体から臓器・組織を摘出することが許されるのであるが、最後の時点まで患者の生命のために闘うこと を義務づけられた医師にとって、この倫理的な障壁を乗り越えることはきわめて困難である。法律制定に関与した専門家の、移植 のために死の確認と臓器摘出の時点を接近させようとの意図は理解されるが、あくまでも人は臓器・組織の保管者とみなされるべ きでなく、むしろ立法者はこの問題において法規定と社会に存在する倫理観とを突き合わせ、刑法的禁止の問題を正しく解決すべ き な の で あ る 。 臓器移植について生命倫理的・法的にもっとも尖鋭なのは、商業化の問題である。この問題は第四二回世界保健大会でも取り上 げられ、健康なドナ l の臓器の売買に懸念が表明され、とくに子供や社会的弱者がその目的に利用される危険性が強調され、その ような違法行為を防止するための協働が諸国家に呼びかけられたところである。 この問題について気がかりな情報がロシアの新聞にも報じられている。モスクワ市議会のミロネンコ議員によれば、九

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年 代 の 初めにモスクワでは、わが国の病人の治療のために外貨を獲得するとの口実の下に、臓器移植の領域で商業活動が活発化し始めた。 最初にイタリアの企業との間でドナーを確保する契約を結んだのは、臓器移植および人工臓器研究所である。さらにわが国の企業 ︽ 開 。 。 呂 田 ) ︾ │ │ ス ク リ フ ォ ソ ス キ I 救急研究所を基盤として作られたもの l l t と外国の契約者との間で年に六

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の腎臓を提供

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第6巻4号一-80 する契約が結ぼれたことも明かとなっている。この事態に鑑み、モスクワ市議会は一九九二年五月一一二日﹁人の臓器移植の領域で の商業活動について﹂の決定を行なったが、その中で、ハードカレンシーを受け取る目的で移植を行おうとする商業的な試みを一証 明する文書が存在すると述べている。この点に関し法律(二条)は、人の臓器・組織は売買の対象とはなりえないと規定しており、 臓器・組織の売買やその宣伝はロシア連邦の法律にしたがい刑事責任をともなう、とはされてはいるが、しかし、そのための具体 的根拠となる法規定は存在しないし、また売買以外は放置されている。 臓器移植における犯罪については、犯罪学的に見て一定の特殊性が存在すると一言える。たとえば、この種の犯罪は既に国家の枠 を越えているという事実が注目されるのであり、それとの闘いには国際社会の協働が必要である。法律はこの点に関し沈黙してい るが、今日、臓器・組織の摘出にあらゆる対価関係を禁止し、また人の臓器・組織の強制的な摘出を禁止する国際条約が締結され なくてはならない。 最後に述べておかなくてはならないのは、医療の実務において臓器移植の方法を利用するという考えは新しいものであり、それ に関係する人々の権利を国家が保障しないならば、この方法は歪曲されたものとなろうということである。人の臓器および組織の 移植に関する法律の内容の分析からも、早期に移植に関わる諸関係がしかるべく法的に規制されないなら、この新しく、また可能 性ある医療手段もわが国に根付かないであろう、という結論を導きうるのである。 (中山研一・上回寛)

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