第146回 月例発表会(2013年7月) 知的システムデザイン研究室
大規模空間の机上面照度分布計測におけるラジコンヘリコプターの応用
西山 大貴
Daiki NISHIYAMA
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まえがき
近年,オフィス環境を改善することでオフィスワーカ の知的生産性,創造性,および快適性の向上に注目が集 まっており,オフィスにおける光環境の改善に関する研 究が行われている1) .このような背景から,我々の研究 室では個々のオフィスワーカの要求に応じた照度を提供 する知的照明システムの研究を行っている.知的照明シ ステムでは,各ワーカが自身の照度センサに目標照度を 設定することで,その値を満たしかつ電力が最小となる 点灯パターンを最適化手法によって,実現することがで きる.この知的照明システムが,各ワーカに適切な照度 を提供できているのか評価する必要がある.そして,こ れらの評価を行う上で照度の分布情報は必要不可欠なも のである. 照度分布の計測としては,我々の研究室で行った多数 の照度センサを用いた計測がある2) .これは,計測空間 内に多数の照度センサを並べる計測方法であり,正確な 照度分布を得ることができる.しかし,この手法は多数 の照度センサを必要とし,その照度センサを正確な位置 に設置する必要があるため,計測コストが高くなる.ま た,計算機シミュレーションによる計測手法がある3) 4) .しかし,計算機シミュレーションにおいて,什器や備品 による光の反射,および照明器具ごとに異なるランプの 劣化や反射板の汚れによる光束の変化をシミュレーショ ン結果に反映することは難しい.つまり,正確な照度値 を求めることが困難であると言える そこで本研究では,ラジコンヘリコプターを用いた照 度分布を計測するシステムを提案する.提案手法により, 照度センサを多用する手間を省きながらも,実環境での 実測が可能となる.2
照度分布計測システム
2.1 ラジコンヘリコプターを用いた照度計測 提案手法では,ワイヤレス照度センサを積載したラジ コンヘリコプターを飛行させることで,照度を計測する. ラジコンヘリコプターの位置情報と計測した照度を同期 させ照度分布を求める.しかし,計測空間全体を飛行さ せるためには時間がかかり,計測空間の照度が大きく変 化してしまうと正確な照度分布を得られないため,計測 空間の照度が変化しないことが望ましい.計測デバイス のラジコンヘリコプターを図1に示す.図1に示す照度 センサは無線式のもの,あるいは時刻と照度を対応づけ て保存できるものを用いる. 位置検出マーカー 照度センサ Fig.1 計測用ラジコンヘリコプター 2.2 照度計測地点の位置推定 照度分布には,照度計測地点における正確な位置情報 が必要となる.提案手法では,DLT法(Direct Linear Transformation Method)を用いることでラジコンヘリ コプターの位置を推定する.これは,図1に示す位置検 出マーカーを2台のカメラを用いて,2方向から撮影す ることで推定する手法である.これにより,予備実験を 3 m×3 m×2 mの空間において行った結果,最大誤 差3.7 cm,平均誤差1.3 cmの精度でマーカの位置を推 定できることを確認した. 2.3 任意の地点の照度値補間方法 提案手法により,照度計測を行う場合,空間の全ての 地点を計測することはできない.そこで照度と位置情報 の組み合わせを用いることで任意の地点の照度を補間し, 照度分布を推定する. 補間式の生成は以下の項目1∼5の手順を何度か繰り返 すことで行う.また,式の次数を増やしながら,この手 順を繰り返し行い,誤差が小さいものを採択し,補間式 とする. 1. 式(1)ような x,y,zを用いて表される n次式 (n >= 1)の項の中から,補間式に用いる項をラン ダムに複数選択する. f (x, y, z) = αxn+ βxn−1y + γxn−1z +· · · + c (1) α, β, γ :係数,c :定数 2. 上で選択した項の係数を測定データから最小2乗法 で求める. 3. 以上の方法により導出した式に計測データの位置座 標を代入し,照度を求める.求めた照度と計測され た照度を比較し,誤差を調べる. 4. 項目1でランダムに設定した用いる項および用いな い項の中から,一つ逆に変化させ,項目1および項 目2を行う. 5. 上で誤差が小さくなれば採択し,大きくなれば元に戻 す.これを全ての項に対して行い,どの項を変化さ せても誤差が小さくならなくなるまで繰り返し行う. 13
照度分布計測実験
3.1 実験概要 提案手法の有用性を検証するため,照度分布計測実験 を行った.実験環境内を移動するラジコンヘリコプター として,Parrot社製のAR.Drone2.0を用いた. 実験環境の平面図を図2に示す.図2に示すように,6 m×7.2 mの空間に,オフィス用グリッド天井型LED 照明9台を設置した.全ての照明を950 cdで点灯させ た.本実験では,部屋の中央で破線のように4つのエリ アに分け,このエリアごとに照度分布の計測を行う.ま た,照度データ数と照度分布の精度の関係の検証を行う ため,各エリアの計測時間を8分および16分,24分と した3回の計測を行う.また,図3のように,各エリア ごとにそのエリア全体が映るようにビデオカメラAおよ びBを設置する. オフィスの机上面照度を計測するため,ラジコンヘリ コプターは手動で床から70 cmの高さにおける水平面を 保つように操縦した.この際20 cm程度の高さの変動が あった.そこで2.2節で述べた位置推定によって得られ る3次元座標を用いて,2.3節で述べた補間を各エリアご とに行う. 6.0 m 7.2 m 照明 1.8 m 1.2 m 1.2 m 1.2 m Fig.2 実験環境(平面図) ビデオカメラ B ビデオカメラ A 3.0 m 3.6 m 2.4 m 3.0 m 照明 Fig.3 実験環境の分割エリア(平面図) 3.2 照度分布計測結果の精度検証 今回用いたラジコンヘリコプターは,1回で約8分間 の計測を行うことができる.そのため16分の計測は2回 の飛行,24分の計測は3回の飛行を行った.また,照度 センサは 0.5秒ごとに照度データを送信するため,1回 の計測での照度データ数は,平均が960点となる.各エ 0 100 200 300 400 500 600 0 100 200 300 400 500 600 700 Y 軸 X 軸 [cm] [cm] Fig.4 照度計測地点分布図(10104点) 0 100 200 300 400 500 600 700 0 100 200 300 400 500 600 0 200 400 600 800 1000 X 軸 Y 軸 照度 [l x ] [cm] [cm] Fig.5 提案手法で得られた照度分布図(高さ70 cm) リアを3回計測を行った際の計測空間全体の照度データ の水平面における分布を図4に示す.この計測地点にお ける照度データからエリアごとに補間を行い空間全体の 照度分布を求める.それぞれのエリアを3回計測した照 度データを用いて生成した高さ70 cmの計測空間全体の 照度分布を図5に示す. ここで,本計測方法の精度を検証する.照度センサで 図2の実験環境を60 cm間隔ごとに計測する.高さ 70 cmの照度値を計測し,補間式によって求められた照度値 と比較した.また,計測回数と誤差の関係についても検 証した.比較結果は,各エリアを1回ずつ計測したとき は,最大誤差113 lx,平均誤差34 lxとなり,2回ずつ 計測したときは,最大誤差68 lx,平均誤差25 lx.3回 ずつ計測したときは,最大誤差47 lx,平均誤差20 lxと なった.以上より,提案手法は大規模な空間における計 測コスト抑えた計測手法として有用であると考えられる. また,多点観測システムと比べ,精度は落ちるが,ラジコ ンヘリコプターは空中を移動するため,什器の設置して ある空間でも容易に机上面の照度分布を計測することが できる.参考文献
1) Peter R. Boyce, Neil H. Eklund, and S. Noel Simpson. Indi-vidual lighting control: Task performance mood, and illumi-nance. JOURNAL of the Illuminating Engineering Society, pp. 131–142, 2000.
2) Miki M, Kasahara, Hiroyasu T, and Yoshimi M. Construction of illuminance distribution measurement system and evalua-tion of illuminance convergence in intelligent lighting system.
Proc IEEE SENSORS, pp. 2431–2434, 2010.
3) 永田忠彦, 田辺智彦. モンテカルロ法応用の室内照度の計算. 日本建 築学会計画系論文集, Vol. 487, pp. 43–49, 1996.
4) 菊池卓郎, 井川憲男. All Sky Model-L を導入した昼光照明計算 プログラムの性能検証. 日本建築学会環境系論文集, Vol. 73, No. 629, pp. 865–871, 2008.