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中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究 : 全校生徒作品を展示する校外展「Art and We」展の実践を通して

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Academic year: 2021

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(1)Title. 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究 ― 全校生徒作品 を展示する校外展「Art and We」展の実践を通して―. Author(s). 更科, 結希. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 71(1): 361-371. Issue Date. 2020-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11382. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第71巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 71, No.1. 令 和 2 年 8 月 August, 2020. 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究 ― 全校生徒作品を展示する校外展「Art and We」展の実践を通して ―. 更 科 結 希 北海道教育大学附属釧路中学校. A Practical Research Examining Exhibits that Transmit Junior High School Students’ Expressions to the Community ― Through ‘Art and We’, an Off-campus Exhibition of Students’ Works ―. SARASHINA Yuki Kushiro Junior High School Attached to the Hokkaido University of Education. 概 要 筆者は,現在の勤務校(北海道教育大学附属釧路中学校)に赴任した平成24年(2012)より, 美術科の授業で取り組んできた全校生徒の作品と美術部の作品を校外で発表する展覧会を8回 実施してきた。展覧会の企画・運営は美術部の活動の一環として位置づけ,生徒の手による展 覧会の開催を目指した。そこでは,全校生徒の作品の発表をする機会に留まることなく,中学 生と地域の直接的な交流が生まれ,そのつながりによって継続した取組となり現在に至る。展 覧会は,生徒に鑑賞する機会を与えるだけでなく,企画・運営の活動を通して身につけたこと は,今後求められる資質・能力の育成に繋がる可能性があることを見いだした。. 1 研究の背景と目的. 的な表現を十分に伝えきれない環境である。筆者 は,これまで校外での生徒作品を発表する機会の. 中学校の美術科において,授業で取り組んだ全. 少なさと,作品展の在り方に疑問を感じていた。. 校生徒の作品を校外で発表する機会は少ない。校. 平成29年7月告示の学習指導要領中学校美術編. 外の作品展は,コンクール形式のものが多く,ご. 解説には「校内で鑑賞ができるような環境づくり. く限られた生徒のみが関わることになる。また,. 1 以外に,地域で発表の場を設けるなどすること」. 各校の作品を一堂に集めると出品数も多くなるこ. と示された。美術科の教科目標である「表現及び. とから,作品は壁面に所狭しに一律に並べられて. 鑑賞の幅広い活動を通して,造形的な見方・考え. いる。それは,授業で目指す生徒の主体的で創造. 方を働かせ,生活や社会の中の美術や美術文化と. 361.

(3) 更 科 結 希 2 豊かに関わる資質・能力」 を育成していく上で,. もと推進することにより,全校生徒の表現を認め. 地域に向けた発表の場をもち,生徒が自他の表現. 合える空間が生まれ,生徒が主体となる展覧会が. を鑑賞する機会や,全ての生徒の表現を認められ. 実現すると考えた。. る環境をつくることは重要であると考える。 釧路市には,授業で取り組んだ作品を校外で発 3. 本論では,筆者が取り組んできた展覧会「北海 道教育大学附属釧路中学校美術科・美術部作品展. 表する機会として,釧路市小中学生美術展 があっ. 『Art and We』」の実践を考察の事例とし,校外. た。コンクール形式の美術展であったが,開催の. で全生徒作品を発表する展覧会の在り方について. 終了により気付かされることもあった。その効果. 述べていく。具体的には,展覧会の開催の方法,. には, 各校の生徒の表現を一度に見ることができ,. 生徒が企画・運営した過程や役割,展覧会の開催. 地域の人々が小中学生の表現に出会える場であっ. 中に実施した市民に向けたギャラリートークが生. たこと。また,出品した生徒が,他者の表現を鑑. 徒にもたらした効果を生徒のアンケートやコメン. 賞できる良い機会となっていた。. ト,来場者の声をもとに明らかにする。その上で,. 他方,コンクール形式の作品展が生徒にもたら す弊害もある。田中は「過度に指導者の影響を受. 本実践から見いだした生徒による展覧会の開催で 必要となる要素を抽出し,まとめていく。. けた作品やこれまでの入選・入賞作品の類似傾向 にある作品, パターン化された作品が増えるなど, コンクールの宿命と言える課題も顕れるように. 2 先行研究. なった」4と述べている。こうした生徒の表現に影. コンクール形式ではない展覧会や生徒が自分の. 響を与える過度な指導は,コンクール形式の作品. 表現を再認識する場の在り方はどうあるべきだろ. 展が誘因となり,長く中学校の美術科が抱えてき. うか。. た課題でもある。. 生徒が主体となり,学校を美術館にして地域に. 髙橋は,作品展及びコンクールの様々な問題点. 公開した取組に,1994年に東京都杉並区立和泉中. を指摘しながらも「児童生徒の独自性を心から賛. 学 校 で 村 上 タ カ シ が 企 画 し た「IZUMIWAKU. 美し,造形作品の芸術性と表現様式の多様性を他. project6」,中平が2001年から実施した「とがび. の子供に知らせるという意味での作品展を実現さ. アート・プロジェクト7」がある。これらは,中. 5 と述べている。作品展には, せるべきであろう」. 学校の総合的な学習の時間や選択美術の時間を用. 生徒の多様な表現を認め合える機会としてのよさ. いながら,生徒が活動したアート・プロジェクト. があり,その役割を再確認すべきだろう。. である。この2つの取組は,学校に作品を展示し,. そこで,これまでの作品展を見直し,校外で全. 生徒と地域が美術を介してコミュニケーションを. 校生徒の作品が発表できる場の在り方を探り,美. 図り,生徒に表現の意義を学ばせた実践である。. 術の授業の成果を認識できるような展覧会をつく. しかし,教育課程にこうしたプロジェクトを位置. ることが,現在の中学校の美術教育において必要. づけることは,学校の理解が不可欠であり,容易. だと考えた。そのために,目指すべき展覧会のあ. にできることではない。. り方として次の視点で構想した。. 生徒の作品を校外に展示する機会としての事例. 一つは,選出した作品の展示ではなく,全校生. として,清田8の高等学校における自己肯定感を. 徒が作品を校外で発表できる場を確保し,自他の. 育む美術教育モデルに位置づけられた自主展覧会. 表現を認識できる展覧会であること。2つ目に,. がある。生徒が自ら展覧会を主催し活動を行った. 一堂に作品を展示する際に,生徒の魅力ある作品. ことにより,自己肯定感の高まりがあったと報告. を十分に鑑賞できる会場づくりがなされているこ. している。. と。また,そうした展覧会を生徒の企画・運営の. 362. また,田中9は2011年に「神岡こどものまなざし」.

(4) 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究. 展,2014年以降「美術の時間展」を毎年開催し,. は「北海道教育大学附属釧路中学校美術科・美術. 美術の授業における生徒の思考過程,制作過程,. 部作品展『ART and WE』」とし,展覧会の運営は,. 10. 授業のねらいなどを紹介している。そして田中. 美術部の生徒が担当した。本実践で大切にしたこ. らは,秋田県とフィンランドの学校との交流を位. とは,授業で取り組んだ全校生徒作品と美術部の. 置づけた展覧会を,2014年度から開催している。. 作品を同時展示し,校内外に中学生の表現を発信. こうした校外の展覧会は,本実践を行った初年度. すること。また,展覧会を生徒の自主的な活動の. (2012年)と比較すれば現在,全国各地で多数開. 一貫として企画・運営する機会を設け,多様な表. 催されるようになった。授業の内容や生徒の表現. 現について理解を深めることである。. を地域に向けて発信することで,理解者が増え,. 表1はこれまで開催してきた展覧会を期日,会. 生徒の作品に対しての共感を得られることの意味. 場,来場者数でまとめた。会場は,北海道立釧路. も大きい。しかし,展示に係わる業務は,そのほ. 芸術館(以下芸術館),NHK釧路放送局ギャラ. とんどが教師や担当者が担っているのが現状であ. リー,釧路市内のカフェギャラリーで実施してき. る。. た。会場の選定は,無料で開催できることを条件. 以上の先行研究において,展覧会が地域と生徒. とし,釧路市内でもいくつかの施設が該当した。. の結びつきをつくることや,生徒が主体となった. 第2回と第4回は展覧会に足を運ぶ人を対象にす. 展覧会の取組は一定の成果が報告されている。他. るのではなく,人々が集う場所での開催を考え実. 方,全校生徒の作品を,中学生が運営に携わり校. 施したが,展示スペースが十分でないことから,. 外で展示する実践については殆ど確認されなかっ. 第5回以降は芸術館に固定することにした。これ. た。そこで,全校生徒の作品を校外で展示するこ. までの展覧会の中で,第7回は,釧路市立共栄中. とにより,地域とのコミュニティを作ること。ま た,展覧会の運営を生徒の自主的な活動に位置づ けることによって,これまでの作品展の在り方に 抱いてきた課題の解決に繋がるのではないかと考 えた。. 3 「Art and We」展の概要 本実践は,平成24年(2012)度に第1回目を開 催し,令和元年度で第8回目を迎えた。展覧会名. 表1 これまで実施してきた展覧会 回. 期日. 会場. 来場者数. 第1回 2013年1月23日~ 釧路芸術館 400名 1月29日 フリーアート ルーム 第2回 2013年2月20日~ 北陸銀行釧路 未集約 3月1日 支店 第3回 2013年7月25日. NHK釧 路 放 未集約 送局ギャラ リー. 第4回 2014年3月4日~ タリーズギャ 未集約 3月18日 ラリー 第5回 2014年10月14日~ 釧路芸術館 568名 10月19日 フリーアート ルーム 第6回 2016年8月21日~ 釧路芸術館 820名 8月27日 フリーアート ルーム 第7回 2017年8月22日~ 釧路芸術館 449名 8月27日 フリーアート ルーム. 図1 第1回目の会場の様子. 第8回 2019年7月13日~ 釧路芸術館 364名 7月15日 フリーアート ルーム. 363.

(5) 更 科 結 希. 学校の美術部と連携して共同制作を実施するな. 目的や目標を見いだし,必要な活動を明確に役割. ど,展覧会を介して他校とのつながりが可能とな. 分担して,定期的にミーティングを設定した。そ. ることも見いだしてきた。第6回以降は,北海道. れは,学校生活における委員会活動や学級活動と. 教育大学附属釧路小学校低学年の作品も展示し,. 同様のサイクルと言える。本実践における運営面. 校種間を越えた関係で開催している。. での目的は展覧会の開催であり,目標は多くの. 次章以降は,令和元年度の事例を取り上げ,述 べていく。. 人々に中学生の表現を理解してもらうことであ る。そのために,PDSAサイクルを用いて各担当 で工夫を用いながら計画・推進することは,中学. 4「Art and We」展で重視した要素 ⑴ 生徒が携わる展覧会の運営組織. 生において十分活動できる内容であると考えた。 運営する生徒が扱う出品作品は,授業で取り組 んだ中学1年生題材の「本物はどっち」99点,中. 本実践は,生徒が企画・運営を行う展覧会活動. 学2年生題材の「オノマトペでブックマーク(図. と位置づけたことから,生徒にはPDSA(PLAN-. 2)」103点,中学3年生題材の「新しい一歩を踏. DO-STUDY-ACTION)サイクル11を用いて活動. み出す靴(図3)」99点とした。また,美術部の. を展開できるようにした。. 生徒がグループで共同制作した作品(図4)4点,. 活動の流れとしては,展覧会の概要を把握して. 364. 附属小学校1年生の全生徒作品(図5),美術部. 図2 第2学年作品. 図4 共同制作. 図3 第3学年作品. 図5 附属釧路小学校児童作品.

(6) 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究. の生徒の個人作品27点を含めて,総計382点とし. 動が加えられた背景には,生徒の来場者への配慮. た。これだけの作品数の全容を把握して,地域の. の視点が,運営していく中で芽生えた結果といえ. 方への理解を促し,全ての作品の魅力が伝わる展. る。そうした考えが他の部門に波及していったこ. 示を行うためには,展覧会の運営に必要な役割を. とは,他の部門を統括する役割が十分機能してい. 精査し,組織として活動することが重要となる。. たことを象徴している。. そこで,運営に関わる役割を5部門(表2)に. 各部門との連絡調整という重要な役割として,. 分け設定した。準備期間は3ヶ月間とし,美術部. 進行状況や決定内容を確認し,情報をやりとりす. の生徒を「展示計画」,「キャプション」,「ファシ. る上で,会議内容の記録化を重視した。図8は,. リテーション」 ,「搬入・搬出」にそれぞれ5~6. 展覧会で借用する附属小学校の作品について,小. 名を配置した。また,これらの担当をまとめるた. 学校の担当者と連絡調整した内容を記録したもの. めの「統括」を置いた。. 表2 運営組織と仕事内容一覧 部門(係). 大まかな仕事内容. 統括. ・テーマの立案 ・各係の連絡調整 ・生徒作品の全容把握 ・小学校との連絡調整. 展示計画. ・会場での作品の配置計画立案. キャプション. ・授業のねらいを含めた作品解説 の作成. 搬入搬出. ・搬入,搬出計画 ・必要用具の準備. ファシリテー ション. ・来場者に向けたギャラリートー クの立案 ・解説内容の検討. 図6 生徒が作成したポスター. ⑵ 展覧会運営の中心となる係の役割 生徒が企画・運営する展覧会を進めるにあた り, 組織の中で,各部門の役割や進行状況の確認, 新たな工夫を取り入れる中心的な役割は必要であ る。 「統括」は,展覧会の方向性を示し,展覧会を 学校の校内外に周知するためのポスターやチラシ (図6)の作成と各係間の調整役として位置づけ た。ポスターデザインは,企画当初に決定した展 覧会テーマの意図を取り入れ作成した。また,当 初仕事内容に位置づけていなかった活動も準備の 中で加えられた。一例として,「展示計画」係と 協力して, 来場者に配布するパンフレット(図7) の作成などがあった。準備段階において新たな活. 図7 作成した来場者用パンフレット(一部). 365.

(7) 更 科 結 希. 図9 「展示計画」係が準備した展示模型. 員から頂いた会場図面を基に,段ボールを使って 展示室の立体模型を作成し,展示予定の作品の模 型を用いて配置を検討していた。生徒が作品の配 置を考える際に,着目させたことは,作品の大き 図8 統括係のノート(小学校との調整用). さ,平面作品と立体作品の割合,来場者の順路を 考慮した作品の順番,壁面の利用と床面の利用の. である。作品の詳細を把握するための訪問日時,. 割合などである。. その際準備していくものなども記録されている。. また,展示は「来場者」に対する配慮がなくて. 訪問の際には,作品のサイズや描画材料,展示の. は成立しないことから,展示空間を構成する作品. 接着方法について担当者と協議していた。. の配置以外に,言葉で伝えるキャプションの重要. 展覧会の運営では,展示する他の学年の作品に. 性について確認した。 「展示計画」係と「キャプショ. 対しての理解が必要となる。それは,必然的に他. ン」係は,来場者がどの世代でも楽しめることを. 者の表現に触れ,他者が考え創造したものに対す. 軸にして,話し合いを進めていた。そして,展示. る理解を促す。実際に,準備段階で生徒は自分自. 活動を円滑に進めるため, 「搬入・搬出」係は, 「展. 身の作品だけでなく,出品するすべての作品を把. 示計画」係の指示のもと,スムーズな展示を行う. 握する中で,作品に表れている他者の考えを理解. ための準備をした。. しようとしていた。展覧会の運営の中心となった. 搬入当日生徒は,実際の会場の大きさや天井の. 生徒は, 「表現すること」と「鑑賞すること」の. 高さを考慮しながら,壁面に貼り付ける位置やラ. 双方を常に行き来きしながら活動していた。. イティングの方向などについても,その都度協議 しながら進めていた。図10は,展示作業中の様子. ⑶ 来場者の視点に立った展示の工夫 作品が一律に並べられた展覧会ではなく,生徒. である。フロアに配置する作品などは,作品間の 距離を測り,来場者の導線をふさがないように作. の表現を魅力あるものとして伝えるために,展示. 品の角度を変えるなどの工夫をしていた。そして,. の工夫は展覧会の重要な要素である。. 展示室の空間を一つの作品として扱い,様々な角. 展示活動の中心に位置づけた「展示計画」係は,. 度からの見え方に着目して展示作業を行った。こ. 作品の全容を把握し,会場内の配置を決定するこ. うした展示活動は,教室の中で表現する活動とは. とを主な活動とした。図9は展示計画係が準備段. 大きく異なり,展示も一つの表現として認識させ. 階で作成した展示計画模型である。芸術館の学芸. るよい機会となった。. 366.

(8) 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究. をカードに書き記し,否定的な言葉と肯定的な言 葉を紐で結び付けていくというもので,校内の生 徒にも協力してもらい,多くのカードを集め,結 びつけていった。展覧会開催中も来場者に呼びか け, 多 く の 人 の 今 の 声 を 結 び 付 け る ラ イ ブ パ フォーマンスの要素をもつ作品となった。 こうした作品が生まれた背景には,運営の活動 を行う中で,来場者の視点に立ち考えてきたこと が大きく作用している。その中で,生徒が来場者 図10 展示作業風景. ⑷ 来場者参加型の作品の創出. を巻き込む表現方法を見いだした象徴的な作品と なった。 ⑸ 地域とのつながりを意識した取組. 授業以外の作品として,部活動の生徒が制作し. 展覧会の開催は,作品を介し生徒と地域を結び. た共同制作があった。部活動の生徒は,企画・運. つける側面がある。本実践では,直接的に両者を. 営に関わる活動を進める中で,共同制作に取り組. 対峙させるギャラリートークの時間を設定した。. んだ。異学年集団でグループを構成し,主題や表. そのねらいには,生徒が展覧会のファシリテート. 現方法を検討した。授業のように学習題材を与え. することで,来場した市民や関係者らと,展覧会. た中で主題を見つけるのではなく,生徒の興味関. の場や時間を共有し,自分自身の作品をはじめと. 心のある課題から主題を生み出していったため,. する中学生の作品の理解を促すことにある。. 表現方法がグループによって大きく異なり,作品 のスケールも大きなものとなった。. 堀はファシリテーションのスキルとして4つを 挙げ「場のデザインスキル」の中で, 「『場』とは,. 図11は,あるグループが考えた作品のアイデア. 物理的な空間を含め,人々が時間と場所を共有し. スケッチである。この作品は,自分たちの今の声. ながら,新しい知識を創造していく知覚的なス ペースを意味します」12と述べ,ファシリテート は鑑賞者の知識を創造する援助だけでなく,生徒 自身の知識を想像する効果が期待できた。 そこで,生徒には作品の一方的な解説に終始す るのではなく,作品の見方のアドバイスを目指す ことや,鑑賞者とやりとりを重視し,鑑賞する時 間と場を共有することを意識させた。 開催期間中には,ギャラリートークを3回実施 し(図12),この時間帯の来場者は100名を越えた。 部員は2名1組になり来場者参加型の作品への協 力を促し,来場者からの質問に対応した。最初は 緊張の様子が見られたが,回数と共に上達し,そ の都度改善点を見いだしながら取り組んだ。. 図11 共同制作時のアイデアスケッチ. 367.

(9) 更 科 結 希. 面白く見せるために何に置けばいいかがなかな か決定できず苦労した。会場に置くと意外とス ペースに余裕があり,それが計画段階の模型で はわからず,苦労した。(中3男子) ・どの作品をどこに置くのか,どの向きにした らお客さんにより伝わるのかをみんなで実際に 運ぶ時に相談しながら設置することができたた 図12 ギャラリートークの様子①. め,その作品がよりよくなったのではないかと 思った。そして,最初から最後まで自分達で作 り上げる中で,展覧会の楽しさ,難しさを実感. 5 「Art and We」展を終えて. する事ができて良かったです。(中2女子). ⑴ 企画・運営を行った生徒の声 展覧会の終了後,展覧会の評価・改善に関わる アンケートを美術部員(回答数27/部員数27)に 実施した。 以下に示すのは,各部門担当者の振り返りであ る。 「統括」担当者のコメント ・今回私は,統括という役割を果たしました。 統括の主な役割として,運営全体をまとめるこ ともあったのですが,小学校としっかり連携す るという大事な役割もありました。他の学校か ら作品を借りるということもあり,とても責任 感が重要になってくる仕事で,その関わりから 得られたものはとても大きかったと思います。 (中3男子) 「キャプション」担当者のコメント ・運営はキャプションで主に2年生や小1の作 品を担当したのだけど,どの世代にも分かるよ うな言葉で,それも美しく(改行などで)仕上 げるために色々考え,工夫した。丁度いい言葉 が見つからなかったりして多少悩んだところは あったけど突破でき,いい形で終われて良かっ た。 「展示計画」担当者のコメント. 図13 会場入口の様子. 振り返りの中で,生徒が展覧会の企画・運営に 携わることにより,単に作品を出品するという立 場ではなく,作品を来場者にどのように伝えてい くべきかを模索していたことが窺える。最初は, 単なる役割として認識していたことが,来場者へ の意識や作品を扱う責任を,実際の展覧会を経て 感じ取っていることが記述からもわかる。展覧会 を終え,各部門の生徒の記述に相手意識が表れる のは,実際に地域の方に接し,言葉を受け取った り,伝えたりした経験によるものと考える。そし て,展覧会を他者と運営していく中で様々なアイ デアを生みだし,それを実現した展覧会を地域の 方と共有したことが,自分たちの展覧会としての 意識を高めたと言える。これは,生徒が自主的な 展覧会の運営を行うために,位置づけた運営組織. ・展示構成では,実際に模型を作り,一人の頭. が機能し,中心となった「統括」が連絡調整を図. の中ではなく,皆で導線を考えることができた。. りながら運営が行われてきた結果でもある。 次に,図14は,部員全員が携わったギャラリー. 368.

(10) 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究. 図14 アンケートの結果(一部). 図15 ギャラリートークの様子②. トークに関してのアンケートの結果である。約8. 者とのやりとりができなかったことに対する反省. 割の生徒が満足であると答えた。満足と答えた生. であり,生徒がギャラリートークの機会をいかに. 徒は,以下のコメントに集約することができる。. 大切に考えていたかが窺える内容であった。. ・ 「やりがいを感じる事が出来ました。自分は 結構ファシリテーターとして活動しましたが, その中で人と人とが関わる上で美術を分かり合 えていくというなんとも言えない素晴らしいも のを得る事が出来ました。時には伝わらない事 もありましたが,自分が伝えようと頑張った結 果,ようやく相手に伝わることができ「すごい ね」などの嬉しい言葉をいただいた瞬間は, 「こ こまでやってきて良かったな」と思える事が出 来ました。 」 (中2女子). 総じて,ギャラリートークの効果は,来場者に向 けた作品の理解を促すだけでなく,生徒が作品を 介して,他者の考えに触れる機会を得られたこと にある。また,来場者とのやりとりの中で,互いの 考えを共有する時間が,生徒に表現することの意 味を考えるきっかけを与えることにつながった。 ⑵ 来場者のコメント 来場者が会場に設置した自由記述できるノート に記載されていたコメントは次の通りである。. ・ 「お客さんの反応に合わせて,トークするこ. 〔一般来場者〕. とがとても楽しかった。作品へのリアクション. ・一つ一つ魅力ある作品を見せていただき,と. が本当に嬉しく,原動力となった。踏み込んで. ても楽しい時間を過ごさせていただきました。. 聞いてくれる方もいて,発案や過程を説明する. お二人に丁寧に説明していただけたことで,更. ことが難しい。回数を重ねるごとに,お客さん. に詳しく見ることができました。来て良かった. からの考えや意見を活かしたり,部員で交流し. です。(市内一般). たりして, トークの質を高めることができた。」. ・生徒のみなさんと先生が一生懸命考えながら. (中3男子). 制作した過程がみえてきます。これからも頑. あまり満足していないと答えた生徒の理由とし ては, 「来場者に対する接し方で,作品を説明す る中で,質問されたことに対して上手く返答出来 なかったり,他の人のファシリテーションを聞く 中で,自分の説明が抜けているところに気づいた りすることがあったため,あまり満足していない」 という内容のものであった。準備段階から,説明 の内容や方法を検討してきたが,当日十分な来場. 張って下さい。(市内一般) ・美術部かどうかは関係なく,学校全体で一つ のことに全力で取り組んでいることがとても伝 わってきました。また機会があればぜひ訪れた いと思いました。(他校中3) ・日頃の頑張りがとてもよく伝わる作品でし た。子供たちも「あーっ」 「何これ!」と興味津々 でした。今後とも頑張って下さい。3年生お疲. 369.

(11) 更 科 結 希. れ様!(附中 職員) ・ホールがとても狭く感じられるほどに,みな さんの作品一つ一つがとても大きく素晴らしく 見えました。 (保護者) 〔出品者-附中及び附小-〕 ・ぼくのさくひんがあってとてもうれしかった です。 (小1) ・創った人全員が『美術』に関心を持たれてい ることが分かります。あと『みる人』の心まで. に触れていた。そして,自分の作品を客観的に見 つめる機会となっていたことが記述から窺えた。 本実践において,目指すべき展覧会の在り方を 模索するために,必要な要素として取り上げてき た「全校生徒作品の展示」,「生徒による展覧会の 運営」,「展示の工夫」,「ギャラリートーク」,「参 加型作品」の全ての要素に対するコメントが残さ れており,来場者にもその意図が伝わっていたこ とが分かった。. つかんでいますね。(附中1) ・自分の作品が,こんな風に展示されると見え 方が変わるんだなと思いました。ありがとう。 (附中3年) ・作品だけでなく,展示の仕方などもすごく面 白かった。様々な工夫がされており,新しい発 見ができた。 (附中3年) ・自分たちの作品が本格的な作品展のように飾 られていて,すごいなと思った。作品展で自分 の作品を客観的にみることができてよかった。 (附中2年) ・放課後の部活動の時間に限らず,休日も返上 して美術部の皆さんは作品を作っていたので, とても見たいなと思っていました。今回,この ような空間で美術部の作品に限らず様々な作品 が見られたので,とても良かったです。来年も このような機会があるなら,また来たいです。 (附中3年). 6 まとめ ⑴ 研究の成果と結論 本研究では,中学生の作品展の在り方の一例と して,全校生徒作品を校外で展示する機会をつく り,その展覧会自体を生徒が企画・運営する活動 として位置づけた。その実践を通し,全校生徒作 品を扱った展覧会を開催するために必要となる要 素を抽出し,まとめていくことを目的とした。 生徒が,展覧会を企画・運営するために設定し た「展示計画」, 「キャプション」, 「搬入・搬出」, 地域と生徒を直接的に結び付けるギャラリートー クを運営する「ファシリテーション」,連絡調整 係として設定した「統括」は有効に機能した。役 割の内容は,展覧会を行う上で最低限必要なもの であった。また,組織で具体的な展覧会のビジョ ンを共有し,定期的なミーティンを行うことで, 計画的な推進を図ることができた。中学生が運営. 来場者の半数は,出品した生徒と保護者であっ. を行うためには,組織と計画的な推進計画は重要. た。全生徒の作品を展示することから,保護者の. である。こうした運営により,自他の作品への理. 来場率は高く,出品した生徒は自分の作品を見つ. 解や来場者への配慮の視点が生まれ,実際の展示. け,友人と話をする姿や,他学年の作品や見せ方. 活動やギャラリートークの場面で有効に活用され. の工夫について運営の生徒に話をしている場面が. ていた。運営を生徒に経験させることは,生徒が. 多くあった。来場者のコメントは,展示の工夫に. 主体の展覧会としての認識するために必要な要素. より見え方が異なること,中学生の表現の多様さ,. であったと言える。. ギャラリートークを通した作品への理解,運営に. 来場者と出品者をつなぐ展覧会の展示の工夫で. 携わった生徒の努力の激励に集約することができ. は,生徒の作品を魅力的に見せることや,展覧会. る。また,出品した生徒は校内での展示とは異な. の空間を一つの作品として捉える視点を生み出. り,一つの空間の中に工夫凝らされた展示が為さ. し,来場者を巻き込んだ作品の創出にも繋がった。. れていることに驚きを感じ,見え方が異なること. その結果,展覧会に多くの地域の方や出品した. 370.

(12) 中学生の表現を地域に発信する展覧会活動の実践研究. 生徒が多く来場し,作品を介し両者が作品につい て意見を交わす機会を作ることができた。そこで は,生徒が改めて表現の多様さを知り,展示する 空間の違いによって見え方が変わることを実感さ せることができた。 本研究において,展覧会の運営における必要と なる役割や,自主的な運営に必要なサイクルの構 築によって,自他の表現への理解を促し,来場者 である地域の方々に対する意識を持ち活動を進め る効果が生まれることを確認した。また,生徒の 考える展示は,自他の作品をよりよく見せようと する工夫を創出させた。それらは,生徒が社会の 中にある美術や美術文化の働きを認識できる資 質・能力の育成に寄与していくものと考える。 ⑵ 研究の課題と展望 事例として扱った展覧会活動は,学校の教育課 程に左右されず,展開できる利点があると考える。 地域によって,会場の大小,立地の違いはある が,展示できる場所は必ずあるはずである。そう. 3 平成30年度で第45回を迎え終了した事業。主催は, 釧路市小中学生美術展実行委員会。 4 田中圭一「中学校の美術部活動における作品展につ いての一考察―『アートグランプリin SAKAI』の実践 から―」 ,日本美術教育研究論集,,2017,p.123. 5 高橋敏之「図画工作・美術科教育における展覧会及 びコンクールの意味と絵画指導の問題点」,美術教育学 ,2003,p.207. 6 「IZUMIWAKU Video 1994 学校美術館構想」 ,長田 謙一(監修) ,1995,VTR. 7 中平千尋「とがびアート・プロジェクト10年の歴史 ―とがびアート・プロジェクト第1期:借り物アート 期―」 ,美術教育学,,2014,pp.369-381. 8 清田哲男「総合学科高校における自己肯定感を育む 美術教育モデルの一考察―地域によって育まれる高校 生の自主運営による美術展覧会をとおして―」,美術教 育学,,2012,p.184. 9 田中真二朗「神岡こどものまなざし展」美術準備室, 2011年11月13日(最終閲覧日2020年2月21日) http://tanakashinjiro.seesaa.net/article/234955906.htm 10 田中真二朗・黒木健・尾澤 勇「秋田&フィンラン ドの「視覚美術・工芸」教育交流展の実践研究報告― 両国中学校における相互交流展の実際から高等学校交 流展の実施に向けて―」,日本美術教育研究論集,, 2018,pp.133-140.. した場所に合わせて,生徒の作品を展示していく. 11 清田哲雄「総合学科高校における自己肯定感を育む. ことで,作品を媒介とし中学生と地域をつなぐ空. 美術教育モデルの一考察―地域によって育まれる高校. 間を生み出すことができる。 本研究は,筆者の勤務校において美術部の生徒 が一定数いるため,全校生徒作品の展示やギャラ リートークが可能となった。展覧会の運営を美術 部に担わせることは,学校事情では難しい側面も ある。実践の効果を考えれば,できるだけ多くの. 生の自主運営による美術展覧会をとおして―」,美術教 育学,,2012,p.184. 12 堀公俊『ファシリテーション入門〈第2版〉』 ,日本 経済新聞出版社,2018,p.62. 〈謝辞〉本研究を進めるにあたり,北海道立釧路芸術館 の職員及び学芸員の皆様,北海道教育大学釧路校佐々 木宰先生,千歳市立北陽小学校若林朗子先生,附属釧. 生徒が運営に関わる機会をつくることが最適であ. 路小学校登藤珠実先生,釧路市立共栄中学校(実践当. ると考える。今後,運営面も授業の中に位置づけ. 時)橋本加絵先生にご教示ご協力を賜りました。皆様. ていく可能性を模索していきたい。また,学校規 模によって異なる校外展示の在り方についても, 継続した実践と考察の中で見いだしていきたい。. に深く御礼申し上げます。. . (附属釧路中学校教諭). 引用文献・註釈 1 文部科学省『中学校学習指導要領の解説 美術編』 日本文教出版,2017,pp.138-139. 2 文部科学省『中学校学習指導要領の解説 美術編』 日本文教出版,2017,p.9.. 371.

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参照

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