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si 条件節の直説法現在について

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イスパニカ 64(2020):29-49 スペイン語の条件文で、条件を提示する接続詞 si が使われる場合、非過去 時の表現では、si 条件節に直説法現在の時制が使用される。本稿ではこのよう な時制が、以下の 3 点の理由から、現実世界にかかわらずに完全に理論面だけ で熟考するという意味の思弁という概念を採用して、思弁的現在であるという 仮説を主張したい。①この接続詞は、現実世界にかかわらない事柄を現実世界 の事柄として考える仮定を表現する。②非過去時の条件を表現する si 条件節 には直説法未来や接続法現在は使用できないが、このことは条件節の事柄に関 して現実世界との関連で形成される認識モダリティが表現されないことを意味 しており、この意味は条件節の内容が現実世界の事柄ではないことを示してい る。③直説法現在の動詞を含む si 条件節の事柄は、現在時の仮定のみならず、 過去時の仮定や未来時の仮定を表現することができる、すなわちこの時制は全 時的意味を表現しているが、このことはそのような事柄が現実世界にかかわっ ていないことを意味する。 [キーワード] 直説法現在、si 条件文、思弁的現在、(非)現実世界 Presente de Indicativo, condicional con si, presente especulativo, mundo real/irreal

[抄録]

si

条件節の直説法現在について

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si条件文の条件節には、直説法現在は使用できるが接続法現在は使用できな い。その条件節で表現される事柄は現実世界とどのようにかかわるのであろう か。本稿ではこのかかわり具合を探ってゆく。 1. 教材の条件表現について 筆者は自身の教材『スペイン文法中級コース』(1994, 2006a)で、条件表現 を 2 種類の課で説明している。第 7 課で「条件の副詞節」を扱い、第13課で接 続詞 si を使う「仮定の表現」を扱っている。そして「予備情報 II」(2006a)で、 叙法の接続法に関する筆者の仮説を紹介した。非過去時の仮定表現に焦点を当 てて要約すれば、以下のようになる。 1.1. 条件の副詞節(第 7 課) 現代スペイン語で si 以外の接続詞句を使って条件を表わす副詞節の表現を、 便宜上、 4 種類に分けて説明した。単純な条件(como, con tal (de) que, siempre que, a condición de que)、例外的な条件(a no ser que, a menos que)、可能の条件(en caso de que)、仮定の条件(suponiendo que, dado que)である。これらの副詞節 が非過去時の条件を表わすとき、そこには基本的に、直説法現在ではなくて接 続法現在の動詞が使われる。 1.2. 仮定の表現(第13課) 接続詞 si を使う仮定の表現は、「現実性にこだわらない、単純な仮定の表現」 と「現実的でないことや事実でないことを仮定する表現」に分けて説明した。 そして使用される動詞の時制については、以下の 2 点を注意した。非過去時 の単純な仮定の表現では条件節に直説法現在が使われるが、直説法未来(完了) は使われない。非過去時の非現実的な仮定の表現では、条件節に接続法過去は 使われるが、接続法現在(完了)は使われない。 1.3. 条件の副詞節の時制と叙法 上記から、非過去時の仮定表現の場合、si 以外の接続詞句を使う条件の副詞 節では接続法現在が使われるが、条件を表わす接続詞の si を使う副詞節では、 接続法過去(完了)は使われるが接続法現在は使われない、ということがわかる。 三好(2006a)では「予備情報 II」で、動詞の接続法に関する筆者の仮説を 提示し、三好(2018)でその仮説を解説した。基本的に従属節で使われる接続

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法には、未知型と意外型がある。未知型の接続法とは、まだ起こっていないこ とを仮定的に、単なる話者の想定として表現するものである。他方、条件とは「あ る事態や行為が成り立つ前提として必要とされる事柄」1)であり、条件表現の 条件は仮定された事柄である。であれば、si 以外の接続詞句を使用する条件の 副詞節で使われる接続法現在は、話者の想定を表現する未知型の接続法であっ て、筆者の仮説で説明がつく。 しかしながら、同じように条件を表わす接続詞の si を使う副詞節では、話 者が想定する条件を表わしているにもかかわらず、接続法現在は使われない。 そのかわり直説法現在が使われる。仮定された条件を表わす直説法現在とは、 いかなる時制なのであろうか。 2. siによる条件表現について 第 2 節では、接続詞 si による条件表現について発表されている先行研究を 参考にしながら、筆者の教材での説明の妥当性を検証し、関連情報を補足する ことにする。 2.1. 条件表現の分類 筆者は教材で、条件表現を、まず、si 以外の接続詞句による表現と、si によ る条件表現に分けた。そして後者は、「現実性にこだわらない単純な仮定の表現」 と「非現実的な表現」の 2 種類に分類した。では、si による条件表現のこのよ うな 2 分類に妥当性があるのであろうか。条件表現を扱う先行研究を調べてみ よう。 2.1.1. 『新文法』での説明 21世紀初頭までに展開されてきたスペイン語の文法研究を総括している『新 文法』(NGLE. 新スペイン文法)の説明を見てみよう。 2.1.1.1. 条件表現と叙法 まず、従属接続詞の叙法選択を解説するときに(§25.13b)、si 以外の条件 表現の接続詞句と si による条件表現の違いを述べている。条件の接続詞 si は いくつかの接続法時制(現在、現在完了以外)と直説法動詞が使われ、si 以外 の条件の接続詞句では接続法動詞が使われる、とする。そして「条件節の時制 と叙法」(§47.8)で si 条件節を扱い、「si を含まない条件表現」(§47.10)で

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その他の接続詞句の使い方を詳述している。 2.1.1.2. 伝統文法での条件文の分類 スペイン語の伝統文法では、si を使う条件文(条件節+帰結節)は、しばし ば以下の 3 種類に分けられる(§47.8c-k)。この分類は条件表現(条件 → 帰結) が設定される状況に注目した分類である。 ① 現実的条件文(período real):事実や期待できる事柄が表現される。si 条件節には直説法動詞が使われる。叙法・時制の組み合わせは、現在の 条件なら [SI TIENE, DA]、過去の条件なら [SI TUVO, DIO]。

② 可能性のある条件文(período potencial):起こりうる出来事に関連する 未決定の状況を表現する。si条件節には接続法過去が使われる。叙法・ 時制の組み合わせは [SI {TUVIERA~TUVIESE}, DARÍA]。

③ 非現実的条件文(período irreal):肯定文なら確かめられない出来事 と矛盾する事態を指し、否定文なら確かめられた出来事と矛盾する事 態が描写される。叙法・時制の組み合わせには 3 種類ある。代表的 な叙法・時制の組み合わせはA. [SI {HUBIERA~HUBIESE} TENIDO, {HUBIERA~HUBIESE~HABRÍA} DADO]; B. [SI {TUVIERA~TUVIESE}, HABRÍA DADO]; C. [SI TIENE, DA] である。

② は ③ の変種であるとする見方もある、と付記されている。 2.1.1.3. si条件節の叙法の制限(§47.8d)

現代スペイン語の si 条件節では、直説法未来、直説法過去未来、接続法現在、 接続法現在完了という時制が拒絶される、と述べている。

2.1.1.4. 非現実的条件文のC. [SI TIENE, DA]

現実世界の現在の条件を表現するこの直説法現在という時制の組み合わせの 条件文が、非現実世界の条件を表現することがある。その解釈は文脈によって 決まるが、口語の、とくに会話文で使われる、とする。たとえば、Si lo sé, no vengo.[直訳:私はそれを知っていれば来ない][非現実的条件:(私は知らな かったが)私はそれを知っていたなら来なかっただろう]や Si no me escapo, me matan.[非現実的条件:(私は逃げたが)私は逃げなかったなら殺されてい

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ただろう]という例文を提示している(§47.8o)。

この解釈は両件否定文の解釈であって、たとえば現在時の条件表現 Si él es un buen científico, yo soy Einstein.「もし彼が優秀な科学者なら、私はアイ ンシュタインだ」のように、後件の偽が前件から推測されるときにも起こる (§47.8p)、と付け加えている。 2.1.2. Gili Gaya(1961)の 2 分法 先行研究のなかで、本稿の考察と直接関係するものに Gili Gaya(1961)が ある。彼の条件表現に関する論点を要約してみよう。なお、Gili Gaya にとって、 条件表現の接続詞は si だけであり、si 以外で条件を表現する接続詞句は転義 の用法である(§248)。 2.1.2.1. 叙法に注目する 2 分法(§246) 条件とはすべて、本来的に、仮定的か偶発的であるが、現代スペイン語では、 条件節を2種類に分類することができる、とする。それは直説法動詞で表現 される条件節と接続法動詞で表現される条件節である。たとえば、Si mañana hace buen tiempo saldremos. と Si mañana hiciese buen tiempo saldríamos. との間に は、「明日天気なら私たちは出かけるつもりだ」ということに関する蓋然性の 高さ(前者)と低さ(後者)の違いしか存在しない。であるから、直説法動詞 の場合に条件節の内容が real(現実の)であるとか、接続法動詞の場合に条件 節の内容が irreal(非現実の)であるとかと言うことは適切でない 2)、と述べ ている。 2.1.2.2. 条件節が直説法動詞のときの条件文の時制について(§247) 条件節が直説法動詞のときの条件文では、条件節には直前過去と 4 種類の未 来時制(未来、未来完了、過去未来、過去未来完了)以外のどのような直説法 動詞の時制も現れ、帰結節には未来以外のすべての接続法時制、(直前過去以 外の)すべての直説法時制、命令形が現れる、と説明している。 2.1.2.3. 条件節が接続法動詞のときの条件節の時制について(§247) 接続法動詞のときの条件節には、非過去時の事柄の仮定には接続法過去だけ が、過去時の事柄の仮定には接続法過去完了だけが使われる。非過去時の事柄 の仮定を表現する si 条件節では接続法現在という時制は使えない、と述べて

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いる。 2.1.3. 筆者の条件表現の分類の位置付け 筆者は、まず、条件表現を接続詞(句)に従って、si 以外の場合と si の場 合に分け、si の場合を「現実性にこだわらない、単純な仮定の表現」と「現実 的でないことや事実でないことを仮定する表現」に分けた。そのような分類に は妥当性があるのであろうか。 条件表現の接続詞句による前者の分類は、『新文法』でも Gili Gaya でも、筆 者と同じように分けられている。しかし si の場合の分類は筆者と異なる。 『新文法』では si 条件文が 3 種類(①現実的なもの、②可能なもの、③非現 実的なもの)に分けられているが、② は ③ の変種であるという見方の存在も 指摘している。 2 分類(① と ②+③)という点では、筆者の分類と同じであるが、 ① について、筆者は「現実性にこだわらない」とするが、『新文法』では「現 実的」となっている。

他方、Gili Gaya は、si 条件文を条件節で使用される叙法の種類(直説法と 接続法)に従って 2 種類に分類しているが、その違いは蓋然性の高低にあると する。蓋然性とは、現実世界で、ある事柄が起こる確実性の度合いのことであり、 現実世界とのかかわりにおいて意識される概念である。直説法を使う非過去 時の si 条件節の事柄を、筆者は「現実性にこだわらない」ものとするが、Gili Gayaは現実にかかわるものとしている。 si条件文の条件節で表現される事柄の現実とのかかわりという点で、筆者は 『新文法』や Gili Gaya と意見が異なる。この相違を、si 条件節で使用される直

説法現在の働きを解明することによって明らかにしていきたい。 2.2. si条件節の叙法と認識モダリティ si条件節で表現される事柄について、話者の認識モダリティの表現という観 点から考察してみよう。認識モダリティとは、話者が発話文に含まれている命 題の真実性(話者が持っている自身の情報の確かさ)に関して認めている約束 の度合いを表現するものである。直説法は話者がその出来事を事実であると信 じているときに使われ、話者の肯定的で客観的な認識モダリティを表現し、接 続法は話者の否定的で主観的な認識モダリティを表現する(三好 2019: 46)。

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2.2.1. 接続詞siの機能 まず、条件を表現する接続詞の si は、どのような働きをしているのであろ うか。筆者はその働きを、Söhrman(1991: 48)に従って、「条件文の条件節の 内容を仮定であるとみなし、その内容の信憑性については何も述べない」とす る。すなわち、si は条件節の内容が仮定であることを指す機能があるが、この 点で si がその他の条件表現の接続詞句と異なっていて、それゆえ、この両者 の条件節における叙法・時制の選択の相違が生まれるのであろう。 2.2.2. 接続法の場合 接続法は話者の否定的認識モダリティを表現する。そして、接続法現在は非 現実的でない(no irreal)内容を表現し、接続法過去は非現実的な(irreal)内 容を表現する(三好 2019: 47)。 非過去時の条件表現では、接続法現在は si 以外の接続詞句の条件節で使 われ、そこで表現されている命題について非現実的ではない否定的認識モダ リティを表現するが、接続法過去は si やその他の接続詞句の条件節で使われ、 その命題内容が非現実的な否定的認識モダリティを表現する。 条件表現と接続法の関係で注目すべきは、接続法現在は si 条件節で使われ ないということである。 2.2.3. 直説法の場合 条件表現の条件節に直説法動詞が使われるのは、その接続詞が si であると きだけである。si は条件文の条件節の内容を仮定であるとみなし、その内容の 信憑性については何も述べない(2.2.1.)のであれば、話者の否定的認識モダ リティを表現していないことになる。そこで、非過去時の si 条件節では、否 定的認識モダリティを表現する接続法現在が使われず、直説法現在が使われる、 ということになる 3) なお、非過去時の si 条件節では、話者の否定的認識モダリティを表現する 接続法現在が使われないが、接続法現在以外にも、話者の否定的認識モダリティ を表現する直説法現在の動詞形も使われにくいようである。筆者のネイティブ チェックでは、「もし雨が降るようなら」という意味では Si puede llover も Si es posible lloverも使われにくい 4)

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2.3. 直説法現在を伴うsi条件節の使用実態 現代スペイン語の si 条件節の表現に関する共時的使用実態を分析した研究 のひとつに Söhrman(1991)がある 5)。20世紀後半の文学書や新聞から集めた 3179例の si 条件文の分析である。そのなかの直説法現在の si 条件節と直説法 現在の帰結節という組み合わせの条件文に関する使用実態を紹介しよう(1991: §2.1)。 直説法現在の si 条件節は、用例の 3 分の 1(1096例)を占めている。si 条件 節が直説法現在の場合、帰結節には直説法未来(444例)、voy a +不定詞、直 説法未来完了、過去未来、直説法過去時制、接続法の過去や過去完了、不定詞、 命令表現の接続法現在などが使われる。 両節が直説法現在の表現の場合、現実的条件文が577例、可能性のある条件 文が418例、非現実的条件文が 4 例集められた。残りの97例では条件以外の意 味(譲歩や対比)が表現されている。 2.3.1. 現実的条件文 Söhrmanは現実的条件文を 4 群に分類している。両節の出来事は発話時に起 こる。

A. 両節が並行して起こる行動である。たとえば、Si es por eso, me callo.「も しそれゆえなら、私は黙ろう」。

B. 繰り返し(習慣)や全時的真実(verdades omnitemporales)を表現する。 たとえば、Si cada uno está seguro de sí mismo, no hay problema.「もし誰 もが自身を信頼していれば、問題はない」。

C. 条件節は談話基底の標識(marcador de fondo discursivo)になる。たと えば、Si se tiene en cuenta su pasado, hay poco que esperar.「もし彼の過 去が考慮されれば、期待されることはほとんどない」。

D. 帰結節は条件節の行為の評価を表わす。たとえば、Pero si se celebra lo otro, tampoco está mal.「だがもし別のことが開催されても、悪くはない」。 2.3.2. 可能性のある条件文

この条件文は 5 群に分類されている。両節の出来事は現実的条件文と同じく、 発話時での並行行為も表現するが、帰結節は未来のことを表すことが多い。

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A. 条件節が発話時のことで帰結節が未来のこと。この条件文では最も多 い。たとえば、Si quieres puedo dejar el coche.「もし望むなら、車を置 いておくよ」。

B. 両節は並行的行為を表わす。たとえば、Pues eres bobo si no intentas algo.「で、もし何もしないなら、君は馬鹿だ」。

C. 帰結節の直説法現在は勧告の意味を表現する。たとえば、Y si no estás contenta agarras el portante.「それで、もし不服なら早々に退散するこ とだ」。

D. 話者は帰結節の行為を肯定するが、それは条件節の可能な行為に先行 する。たとえば、Si me necesita, ya lo sabe.「私が必要なら、もうおわ かりでしょう」。

E. 帰結節が条件節の内容を評価する。たとえば、Porque si te pones muy triste, es ridículo.「だから、君がとても悲しくなるのなら、それは滑稽だ」。 2.3.3. 非現実的条件文

用例は少ない( 4 例)。譲歩構文に似たものもある(Si la iglesia es enemiga de la Alquimia, la Monarquía suele estar a favor.「(もし)教会が錬金術の敵であ るとしても、王制は味方であることが多い」)。 以上が Söhrman(1991)の紹介である。伝統的な si 条件文の分類では(2.1.1.2.)、 si条件節に直説法現在が使われるのは、現実的条件文と非現実的条件文だけで ある。実際、Montolío(1999:§57.2.)でもそうなっている。しかし条件の設定 内容(仮定)、帰結節の事柄、そして両節のつながりを考慮すれば、直説法現 在の si 条件節であっても、条件文を以上のような 3 種類に分けることが可能 であろう。 2.4. si条件節の直説法現在に対応する時間帯 現 代 ス ペ イ ン 語 の si 条 件 節 の700の 用 例 を 分 析 し た も う ひ と つ の 研 究 に、Contreras(1963)がある。伝統的な si 条件文の分析では、2.1.1.2. で紹 介したように、条件文が言及する世界とその両節の動詞の叙法・時制が注目 されているが、si 条件節のひとつの動詞形(直説法現在)が、文脈によって は現在のことにも過去のことにも未来のことにも言及することができる、と いう解釈を紹介している(1963: 45)。たとえば、基本的に現在のことに言及

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する Si tengo dinero, compro la casa.「もしお金があればその家を買うだろう」 は、Si —cuando me la ofrecieron tengo dinero...(その家を提示されたとき、もし お金があれば買っただろう)という文脈では過去の事柄の仮定になるし、Si —mañana o la próxima semana tengo dinero...(もし、明日か来週、お金が入った ならその家を買うだろう)という文脈では未来の事柄の仮定になる。直説法 現在の si 条件節で仮定される事柄は、条件文の内容によっては、可能性とし て、現在時のことにも未来時のことにも過去時のことにも言及することができ る、という。Contreras(1963: 41, nota 11)は、このような時制の時間的意味を valor temporal pancrónico(全時的意味)と呼んでいる 6)

なお、上記の Söhrman は2.3.1.B で全時的真実(verdades omnitemporales)と いうことばを使用している。また、López García(1994: 136)は、条件表現の 型を義務的・動的・真理的・認識的の4種類に分けているが、その真理的条件 表現(expresión condicional alética)を論じるときに、科学的な発話ではその普 遍性ゆえに、si 条件節には全時的現在時制(presente pancrónico)が要求される、 と述べている。文脈と条件文の内容によっては、直説法現在の si 条件節は全 時的な意味を表現することができる、ということになる。 3. si条件文と直説法現在 非過去時の si 条件文には条件節にも帰結節にも直説法現在という時制が使 われる。では、この時制はどのような事柄を表現しているのであろうか。 3.1. 直説法現在の時制的機能 動詞の過去形と現在形を発話目的と関連させ、過去形は語りの時制であり、 現在形は説明の時制であるとする Weinrich(1968: 71)は、第 2 章第 4 節「説 明された世界」のところで、ヨーロッパ諸語の文法書ではたいてい、現在とい う時制は ①(第 1 項):現時点を表わす;②(第 2 項):習慣を表わす;③(第 3 項):無時間的な事柄を表わす;④(第 4 項以下):過去と未来を表わすこと もある、という体裁をとる、と説明している。では、スペイン語の文法書では、 この時制はどのように分類されているのであろうか。 スペイン文法研究の現状を紹介する『新文法』(NGLE 2009)も、動詞時制 の直説法現在について上記の体裁に準じる説明をしている。直説法現在の時制 を、まず、発話時基準という特徴を持っている用法(2009: §23.5)と過去時 指向・未来時指向というその他の用法(2009: §23.6)に分けている。前者に

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は Weinrich の ①(現時点を表わす)に相当する包括的現在など、②(習慣を 表わす)に相当する習慣的現在、③(無時間的な事柄を表わす)に相当する格 言的現在などが含まれる。後者には Weinrich の ④(過去と未来を表わすこと もある用法)に相当する歴史的現在や未来志向の現在という用法がまとめて説 明されている 7) なお、si 条件文の帰結節での直説法現在は、Weinrich の ① の包括的現在に 特有の用法であるとしているし(2009:§23.5m) 8)、si 条件文の条件節での直説 法現在は Weinrich の ④ に相当する用法に含まれている(2009:§23.6p)。それ が非現実的な意味を表現するときは未来も過去も指し、SI TIENE, DA の文型 では si 条件節の直説法現在が過去の非現実的な状況を描写する、としている。 3.2. si条件節の直説法現在 接続詞 si を使って非過去時の条件を設定する条件文は、条件節で直説法現 在の動詞を使用して、現実的・可能的・非現実的な条件表現を行なう(2.3.)。 その si 条件節が表現している事柄にはどのような特徴があるのであろうか。 3.2.1. 仮定の表現 条件とは本来的に仮定的であり(2.1.2.1.)、条件を表わす接続詞 si は導入す る事柄の内容が仮定であるとみなす(2.2.1.)。仮定とは「仮にそうであると定 めること。また、その想定した事柄」(北原 2002)である。そして suposición(「仮 定」)とは suponer の行為と結果であり、suponer(「仮定する」)とは「現実で ないことや現実である理由のないことを確実とか現実とかと考えること」であ る(DLE)。ということは、仮定された事柄は、現実世界の出来事が映し出さ れてはいない、ということになる。 3.2.2. 否定的認識モダリティの表現の不可 si条件節には直説法の未来(完了)や過去未来、接続法の現在(完了)とい う時制は拒絶される(2.1.1.3.)。この拒絶は、非過去時の si 条件節には、事柄 の現実世界とのかかわり(真偽判断)を表現する話者の否定的認識モダリティ が表現されない、ということを意味する。そしてこの意味は、その事柄が現実 世界のものであると言うことはできない(2.1.2.1.)、という指摘につながって いる。

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3.2.3. si条件節の全時的意味 直説法現在の si 条件節で表現される事柄は、現在・過去・未来に対応する 全時的意味を表現することがある(2.4.)。現実世界の出来事は現在・過去・未 来というように区切られた時間帯のどれかに属している。全時的意味を表現す ることも、条件として仮定された内容が現実世界の事柄を反映していると言え ない論拠となる(とはいえ、この全時的意味の表現は文脈と条件文の内容によっ て可能になるのであろう。たとえば Söhrman は、2.3.1.B の条件文にだけに全 時的ということばを使っている)。では、si 条件節で使われる全時的意味の直 説法現在は、どのような世界の事柄を反映しているのであろうか。 3.2.4. 思弁的現在 現実世界の事柄を映していない仮想とは、無時間的な事柄(Weinrich の ③) や全時的意味の事柄(Weinirich の ④)の想定を指し、現実世界での経験によ らずに頭のなかで理性だけに訴えて考えるという意味の「思弁」(西尾ほか (2000)の語義)、あるいは完全に理論面だけで熟考するという意味の “ especular ” (DLE の especular 2の第 1 義)の世界で形成される事柄の仮想のことである。 この場合、直説法現在という時制は思弁世界の事柄を想定するために使われる。 筆者はこの表現の時制を思弁的現在(presente especulativo)と呼ぶことにする。 3.3. 仮想と叙法 ここで仮想と叙法との関係を明らかにしておこう。まず、茂木(2004)の特 に第 3 部の説明に従って、我々が現実世界を認識する認知という心的活動のこ とを考えてみる。通常の認知モデルでは、認知の主体(自己)と認知の客体(外 的世界)が分離されているが、「実際に人間は自己の内側にあるものを認知す ることしかできない。すべては脳内現象である」(2004: 192)。すなわち、我々 の自己の内側(脳内)には疑似的な認知主体と疑似的な認知客体があり、その 疑似的主体が疑似的客体を認知する仕組みをメタ認知と呼ぶ。「通常の認知モ デルは、このメタ認知において仮想的に立ち上がる客体(実際は自己の一部)を、 自己の外側に外挿して得られるに過ぎない」(2004: 192)。「このメタ認知こそ が、我々が意識と呼ぶものの本質である」(2004: 194)。すなわち、我々が脳内 で言語によって認知する事柄は全て仮想なのである。

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3.3.1. 現実と仮想 現実と仮想の関係を、茂木(2007)の第 4 章の説明から探ってみる。我々の 意識のなかには、確かに「現実」と思われるようなものが現れるが、我々の意 識のなかに生み出されるものは全て仮想(脳内現象)である。現実のものと思 われる机や椅子は「全て『現実自体』を反映して意識のなかに立ち現れる『現 実の写し』に過ぎない」(2007: 119)。我々は、脳内で形成される仮想のなかの、 「通常の意識状態では『現実自体』を映していると推定される『現実の写し』を、 私たちは普段は『現実』と呼び習わす」(2004: 119)。現実とは現実世界の事柄 の仮想である。 我々の意識のなかに生み出されるものは全て仮想である。仮想には現実世界 の事柄を映す仮想と、現実世界の事柄を映してはいない仮想がある。現実世界 の事柄を映していない仮想は、思弁世界で形成される事柄を映している。思弁 世界にかかわる仮想の最たるものは、あらゆる数学的な概念である。数こそは 現実世界に存在しない事柄の仮想を代表するものである。さらに、フィクショ ンという言語表現の存在を考えれば、思弁世界の仮想の存在を容易に納得する ことができるであろう。 3.3.2. 叙法とふたつの世界 伝統文法で叙法を論じる場合、言語表現の対象となる現実世界の事柄と思弁 世界の事柄の区別がなされていないということに気づかれる。たとえば、Gili Gaya(1961:§106)である。彼は、すべての文では表現の内容とその内容に関 する話者の態度を区別することができるとし、その話者の態度を主観的な視 点として表現する手段が動詞の叙法であるとする。そして Gili Gaya は、我々 は動詞を現実に起こる行為や現象として考え、我々の判断はそのとき客観的に 存在する現実の何かについて述べるが、そのときの叙法が直説法であり、他方、 我々が口に出して言う動詞の概念が単なる我々の心的な行為であって、その行 為には我々の思考のそとの存在を付与することのないような、そのような行為 や現象のことを考えることができるが、その時の叙法が接続法である、とする。 Gili Gayaは現実世界の事柄と思弁世界の事柄とを区別していないと判断さ れるが、その根拠は以下の出来事である。まず、現実世界で起こっている行 為や現象を述べるための直説法である。彼は§121で、直説法現在の説明に La suma de los ángulos de un triángulo es igual a dos rectos.「三角形の角度の総和は二 つの直角に等しい」という例文を挙げている。数の概念は客観的に存在する現

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実の何かではなくて、現実世界に存在しない思弁世界の事柄である(cf. 3.3.1.)。 この直説法の例文の内容は思弁世界の事柄を説明している。つぎに、思考の外 に存在しない事柄を述べるとされる接続法である。よく知られているように、 Me alegro mucho de que ya estés mejorado.「私は君がもう良くなっていてとても 嬉しい」のような表現では、接続法動詞で表現されている従属節の事柄が思考 のそと、即ち現実世界のなかに存在しているのである。現実世界の事柄を映す 仮想が表現されている。 筆者もこれまで、現実世界と思弁世界というふたつの世界のことを区別して こなかった。叙法を、現実世界の事柄の表現としてしか考えていなかった。筆 者にとって、基本的に従属節で使われる接続法には未知型と意外型があり、未 知型の接続法とは、現実世界の事柄であるがまだ起こっていないことを仮定的 に、単なる話者の想定として表現するものである(3.1.)。そのように想定され る事柄は現実世界の事柄を映しているものの、まだ話者が認識している事柄で はない、という心的態度を表現するものである。そして意外型の接続法とは、 接続法動詞で表現されている事柄は現実世界の事柄を映す仮想であるが、話者 の認識と矛盾することを表現する叙法である(cf. 三好 2018, 2019, 2020)。 現実世界と思弁世界というふたつの世界の存在を認める視点から考えれば、 接続法とは、現実世界の事柄を映す仮想のための叙法であり、その事柄と話者 の認識との間のずれ(未知や意外)を表現していることになる。そして思弁世 界の事柄を映す仮想のための叙法として、たとえば思弁的現在がある。 現実世界の事柄を映す仮想には、現実そのものの映し(現実)と話者の認 識モダリティを含む現実の映しがある。基本的には、前者は直説法で表現さ れ、後者は単文(主文)なら認識モダリティを表わす動詞や副詞などが加わる し、従属節なら接続法などで表現される。現実世界の事柄を映していない仮想 は、発話時(いま、ここ)を基準にして広大な時空の事柄を思い描く。たとえ ば直説法現在という時制で思弁世界の事柄を扱うことができる。そしてこのと きの時制が思弁的現在である 9) 3.3.3. 条件文の叙法と仮想 非過去時の si 条件文の条件節には直説法現在の時制が使われる。思弁世界 の事柄を表現する仮想であることから、筆者はその時制を思弁的現在と呼ぶ10) またその帰結節には様ざまな時制が使われる(2.1.2.2.)。帰結節が直説法現在 のとき、その時制で表現される仮想の内容は思弁世界の事柄である11)。なお、

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帰結節が否定的認識モダリティを表現しているとき、その仮想の内容は現実世 界の事柄を写しており、接続法の動詞で表現される12)

では、como, con tal (de) que, siempre que, a condición de que, a no ser que, a menos que, en caso de que, suponiendo que, dado queなどの接続詞句の条件節に使 われる接続法はどのような意味を表現しているのであろうか。現代スペイン語 の接続法は、基本的に、従属節で表現される事柄を話者の単なる仮想として 表現する(1.3.)。接続法は事柄の真偽判断の度合いである否定的認識モダリ ティを表現するが、事柄の真偽判断ということであれば、現実世界の事柄を映 す仮想を表現していることになる。非過去時の仮定で行なう条件表現で si 以 外の接続詞句が使われるとき、条件節には接続法現在が使われる(2.2.2.)。そ のような接続詞句は転義で条件を表現し、仮定を表現しているわけではない (2.1.2.)。接続法現在は非現実的でない(no irreal)事柄を表現する(Veiga et al. 2006: 45など)。そのような時制を使う条件節で導入される事柄は、非過去 時の現実世界の事柄を映す仮想を表現している。 条件節で非現実的な内容を表現する接続法過去という時制が使われるとき、 非過去時の蓋然性の低い条件が、現実世界の事柄を映す仮想として設定される。 そして同じく非現実的な内容を表現する接続法過去完了という時制が条件節で 使われるとき、過去時の蓋然性のない条件が、現実世界を映す仮想として設定 される(cf. 2.1.2.3.)。 4. 結論 筆者はスペイン文法の教材のなかで、スペイン語の条件表現の手段を si 以 外の接続詞句を使う場合と接続詞 si を使う場合に分け、後者では「現実性に こだわらない、単純な仮定の表現」と「現実的でないことや事実でないこと を仮定する表現」に分けて説明した(1.2.)。非過去時の条件表現の条件節で は、si 以外の接続詞句なら接続法現在が使われ、si なら直説法現在が使われる。 si条件節には直説法現在が使われ、仮定された事柄であっても接続法現在は使 われない。この場合、基本的に仮定された事柄を表現する接続法が使われずに、 なぜ直説法現在が使われるのであろうか。筆者は本稿で、その理由を考察した。 接続詞 si は「条件文の条件節の内容を仮定であるとみなし、その内容の信 憑性については何も述べない」(2.2.1.)。本稿での考察の結果、si による条件 表現の場合、仮定的内容を表現する条件節では(そして条件の結果を表わす 帰結節でも)、説明の時制である直説法現在という時制(Weinrich 1968: 71)は、

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現実世界の事柄を映してはいない内容を表現し、(その内容の信憑性について は何も述べないゆえに)現実世界の事柄の表現に使われる否定的認識モダリ ティを表現せず(すなわち、接続法現在が使われず)、現実世界の時間観念で ある過去・現在・未来という区別とは無縁の全時的意味を表現する可能性のあ ることが判明した(2.4.)。このことは、直説法現在が現実世界の事柄を表現し ていない(映していない)ことを意味する。それはとりもなおさず、話者の思 弁世界の事柄を表現していると解釈することができる。思弁的現在という使 い方である(3.2.4.)。この使い方こそ、筆者が「現実性にこだわらない、単純 な仮定の表現」であるとした si 条件文の表現を可能にしているのである(cf. 2.1.3.)13) si条件節に使われる直説法現在の機能を探る本稿によって、直説法現在とい う時制に思弁的現在という使い方のあることが判明した。しかしながら、この 思弁的現在は si 条件節だけのものであろうか。現代スペイン語における直説 法現在の使い方の全用法のなかで思弁的現在はどのような位置を占めるのであ ろうか。さしあたり Weinrich の無時間的な事柄(③)や全時的意味の事柄(④) と関連していると考えられるが、その解明は今後の課題としたい。 なお、三好(2006a)は毎年何人かの先生方に教材として使用していただい ている。si 条件文を解説されるときに本稿が少しでも参考になれば幸いである。 1) 北原(編)(2002)。 2) この指摘は条件節のことであり、条件文のことではない点に注意する必要がある。 しかしながら、たとえばLópez García(1994: 172)は、「現実的な条件表現は『現実 世界との調和』(発話時基準に固定された仮定)を含意するので直説法指向であり、 非現実的な条件表現は『現実世界との不調和』(発話時基準に固定されていない仮定) を含意するので接続法指向である」(el tipo condicional real supone «acuerdo con el mundo» (hipótesis con anclaje deíctico) y va en proindicativo, el tipo condicional irreal implica «desacuerdo con el mundo» (hipótesis sin anclaje deíctico) y va en prosubjuntivo) と述べている。

3) si条件節に接続法現在が使われない理由として、Matte Bon(2005: 66)は、si自体が、 それが導入する節の内容に関して情報の性格を中和するからであるとしている。こ の理由は本稿の注10で紹介される「解放条件」の見方であろうが、接続法現在の定 義と密接に関連しているのであろう。また、上田(2011:223)は、si条件節で直説 法が使われる理由としてsi条件節で一度「事実の認識」をしていることを挙げてい

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るが、この理由は、筆者には理解できない。最近になって福嶌(2019: 43)は、「単 純条件を表す条件節には、その内容が事実であるという断定・主張について中立的 な形式が適している。接続法は『事実だという断定・主張をしない』ことを表す有 標の叙法であるため、避けられる。一方、直説法は発話レベルにおいて無標である ため、この統語環境に用いることが可能である」と述べているが、「スペイン語の叙 法の機能分担規則」(2019: 29)のところで、「a.『事実だと断定し、聞き手にむけて 主張する』働きをする動詞は、発話レベルにおいて無標の叙法である直説法で表さ れる」と規定している。筆者には、叙法の有標・無標の指摘は十分に納得できるが、 単純条件を表わす条件節に適しているのは「事実であるという断定・主張について 中立的な形式」であることと、その形式として「事実だと断定し、聞き手にむけて 主張する」働きの動詞を表わす直説法が選ばれることが、容易には結びつかない。 なお、ラテン語ではsiによる可能的(想定的)条件文で、条件節にも帰結節にも接 続法現在が使われていたし(cf. Marcos Marín (1987: 403))、中世スペイン語でも散 発的に使用されていたが(cf. Rojo et al. (1983))、これらのことを考慮すれば、現代 スペイン語でsi条件節に接続法現在が使われないのは、スペイン語の段階で生まれ た文法規則のひとつであることになろう。 4) 澤田(2011)によれば、英語では、if条件節には客観的な力動的モダリティ(可能・ 能力、意志)を含むことはできるが、主観的なモダリティは含むことができない。 スペイン語でも客観的な認識モダリティがメタ表示的に導入される可能性はあろう (cf. 三好 2019)。事実、和佐(2006: 162)が紹介しているMontolío(1999: 3674)の 直説法未来のsi条件節の用例も、明白なメタ表示によって成立している。また、 Söhrman(1991: 98)も報道文にそのようなsi条件節の時制の使い方を 2 例見つけて いるが、それらがメタ表示であるかどうかは確認できない。なお、「もし雨が降る ようなら」に対応するスペイン語は、Si parece que va a lloverとかSi amenaza lluvia になるであろう。

5) その通時的研究にPorcar(1993)やRojo et al. (1983) がある。

6) Contreras(1963: 47)によれば、条件節の時制の全時的意味は、直説法現在に限ら れるわけではない。接続法過去のときにも全時的意味は表現される。

7) Butt et al. (2019: 205)は ② と ③ をひとつにまとめてtimeless or habitual eventsを指

すというように説明している。スペイン語のpancrónicoは英語のtimelessに相当す るようである。

8) スペイン系アメリカ(メキシコ)では、条件表現の過去未来完了が直説法現在で代 替される用例が報告されている(Si hubiera estado yo, no te pasa nada. ← no te habría pasado nada.「もし私がいたなら、君には何も起こらなかっただろう」)(三好 2006b: 135)。

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で説明できるかもしれない(cf. 定延 2006:§1.4)。なお、和佐(2005)は、「si lo sé(も し私がそれを知っていたなら)が前件となる反事実条件文の現れる文脈」のところ で、話者が過去を回想している文脈では直説法現在の前件は現れないが、そこに esto(このこと)が入れば現れうる(Si esto lo sé hace un año, no vengo aquí「もし 1 年前にこのことを知っていたなら、私はここに来なかった」)、というインフォーマ ント調査の結果を報告し、その時制を「心理的現在」と呼んでいる。この用法は、 筆者の解釈では次のようになる。回想という「語りの時制」の過去時制を使った文 脈では「説明の時制」である現在時制が現れにくいが、estoを加えることで、現実 世界の過去の事柄を語るなかで、その事柄のひとつを思弁の対象にしてestoで指し 示すことによって、文脈のその部分が話者の思弁世界の事柄を説明していることが 明示できるゆえに、前件を直説法現在で提示することが可能になる、ということで ある。

10) “open condition”(開放条件)の仮想という関連事項がある。Pérez Saldanya(1999: 3304)は、Se alegrarán mucho si puedes ir a verlos.「もし君が会いに行くことができ れば彼らはとても喜ぶでしょう」のように、si条件節に直説法現在の動詞が使われ る表現をcondición abierta(開放条件)と呼んでいる。彼によれば、これは「話者に よってその実現が捨てられていない条件」のことである。また、Butt et al. (2019: 357) もsi条件節に直説法現在が使われるスペイン語の条件表現をOpen conditionsと 呼んでいて、そう呼ばれるのは、その条件の実現も非実現も等しく可能であるから であり、この条件表現では接続法動詞が使われない、と説明している。  開放条件とは英文法で使用される術語であるが、それは、松波ほか(1983: 510-511)によれば、前提節における条件の立て方のひとつであり、「叙述内容の真偽あ るいは成立条件について、話者が態度を保留、あるいは中立的にしている条件の立 て方」であるが、その条件は直説法で表わされる。条件の内容の真偽について話者 が態度を保留しているということは、話者は si条件節の直説法現在によって、条件 の叙述内容を、現実世界を反映する事柄として説明しているのではなく、自身の思 弁世界の事柄を仮想として提示していることになる。その場合、直説法現在は思弁 的現在として機能しているということになろう。 11) Montolío(1999: 3672)は、口語スペイン語では実に頻繁に、条件文の両節に直説法 現在を組み合わせて過去の反事実が表現される、と指摘しつつ、Si lo sé, no vengo/ no te lo digo/no os lo regalo.「私はもしそれを知っていれば、来なかった/君にそれ を言わなかった/君らにそれを贈りはしなかった」という用例を紹介している。ま た、和佐(2005)はsi lo séの後件の表現をGoogleで調べ、その結果を報告しているが、 その表現の動詞はすべて、Montolíoと同じように話者を主語にする直説法現在 1 人 称単数形で形成されている。この 2 点の指摘は、話者が自身の思弁世界の事柄を説 明しているのである、と解釈することができる根拠となろう。

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12) Veiga et al. (2006: 171)はSi lo sé, no habría-hubiera-hubiese venido.「私はもしそれを 知っていたなら、来なかっただろう」という用例を紹介している。この場合、条件 節は話者の思弁世界の事柄を表現し、帰結節は現実世界にかかわる事柄(現実世界 では起こりえないこと)を表現していることになる。 13) 福嶌(2018)は、Buschが条件文と接続法の関係のところで提案している、「si+直 説法」を一般の条件文から除外するという考え方について、その難点のひとつに、 それでも「si+subj現在」(接続法現在)不可という特異性は依然として処理できな いと指摘している。この特異性も本稿の思弁的現在という考え方で処理することが できるであろう。  なお、本稿の概要は、2019年度のスペイン語学合宿SELE19にて口頭発表をし、 そのあとで記述した草稿を福嶌教隆先生に読んでいただき、いくつかの貴重なご指 摘を受け、本稿を作成した。SELE19で一緒に考えてくださった先生方や福嶌先生に、 ここに記して感謝申し上げます。 参考文献 上田博人(2011)『スペイン語文法ハンドブック』、研究社。 北原保雄(編)(2002)『明鏡 国語辞典』、大修館書店。 定延利之「資源としての現実世界」、益岡隆志(編)(2006)『条件表現の対照』、第10章、 pp. 197-215、くろしお出版。 澤田治美(2011)「モダリティにおける主観性と仮想性」、澤田治美(編)『主観性と主体性』、 pp. 25-48、ひつじ書房。 西尾実ほか(2000)『岩波 国語辞典』第 6 版、岩波書店。 福嶌教隆(2018)『書評 Busch, Hans-Jörg (2017)』、関西スペイン語学研究会第413回例会 での口頭発表、関西学院大学梅田キャンパス(2018年 3 月25日)。 福嶌教隆(2019)『スペイン語のムードとモダリティ』、くろしお出版。 松波有ほか(編)(1983)『大修館 英語学事典』、大修館。 三好準之助(1994)『スペイン文法中級コース』、白水社。 三好準之助(2006a)『スペイン文法中級コース(改訂版)』、白水社。 三好準之助(2006b)『概説 アメリカ・スペイン語』、大学書林。 三好準之助(2018)「スペイン語のaunque節の叙法選択について」、京都産業大学論集、 人文科学系列51号、pp. 207-229。 三好準之助(2019)「スペイン語の名詞節における叙法選択」、京都産業大学論集、人文 科学系列52号、pp. 45-67。 三好準之助(2020)「スペイン語のaunque節の叙法選択に関する仮説の検証」、京都産業 大学論集、人文科学系列53号、pp. 15-38。 茂木健一郎(2004)『脳内現象 <私>はいかに作られるか』、日本放送出版協会。

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<Resumen>

SOBRE EL PRESENTE DE INDICATIVO DE LA

ORACIÓN CONDICIONAL CON SI

Jun-nosuke MIYOSHI

En el español actual de España, cuando se expresa la condición por medio de la conjunción si, se emplea, en el caso de la expresión del tiempo no pasado, el presente de indicativo. En este artículo sostenemos la hipótesis de que este tiempo verbal de presente funciona como “presente especulativo” (del término especular ‘reflexionar en un plano exclusivamente teórico’), basándonos en los siguientes fenómenos que significan que el evento expresado en la oración condicional de si no pertenece al mundo real: (1) la función gramatical de la conjunción si es presentar la suposición; (2) la oración condicional de si rechaza, entre otros tiempos, el futuro de indicativo o el presente de subjuntivo; (3) la suposición de la oración condicional puede referirse no solo al tiempo presente, sino también al pasado y al futuro.

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参照

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