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炕 (カン)のある家 -- 中国北方農村の住宅 (特集 世界の住まい・今)

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Academic year: 2021

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? (カン)のある家 -- 中国北方農村の住宅 (特集

世界の住まい・今)

著者

山田 七絵

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

191

ページ

2-4

発行年

2011-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004168

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「村々の   炕たく煙や   霜の朝」 ( 東 とう 宮 みや 鉄 かね 男 お ) 「 お ん ど る の   上 で 女 房 と ね て   見たし」   「 炕 」( ま た は「 火 炕 」) と は、 中国北方の住宅を特徴づける暖房 施設の総称である。朝鮮半島では 「 オ ン ド ル 」 と 呼 ば れ る。 台 所 の かまどで生じた熱気を寝台の下の 空洞に送り込んで暖をとる仕組み になっており、現在でも華北から 東北一帯の農村にみられる。真冬 には零下一〇~三〇度にもなる中 国北方では、一家が長く厳しい冬 を乗り切るためになくてはならな い設備である。特に冬場は、家族 は炕の上で食事を取り、炕の上で 眠る (写真 1)。北方の人々にとっ て 家 族 の 原 風 景 と い え る だ ろ う。 本稿では、各種資料と筆者の見聞 をもとに中国北方農村の住宅の姿 をお伝えしたい。

●中国農村住宅の平均像

  第 二 次 農 業 セ ン サ ス に 基 づ き、 農村住宅の平均的な姿を整理する と表のようになる。参考までに東 部、 東 北 地 方 の 数 値 も 掲 載 し た。 まず住宅の外形的特徴から述べる と、一戸当たり居住面積は平均一 二七・七平方メートル、一人当た り居住面積は二七・八平方メート ル。建材はレンガ、 コンクリート、 木材が主流、全体の三分の二が平 屋で高層は少ない。   次に生活インフラの整備状況を みると、全体として飲用水源は水 量の安定性、安全性などの理由か ら井戸への依存度が高いが、発展 した沿海地域を含む東部では上水 道 普 及 率 が 四 割 以 上 に 達 し て い る。炊事には現在でもかまどが使 われており、燃料は約六割の家庭 で 薪 しん 炭 たん や稲・麦わらなどのバイオ マス、次いで約四分の一の家庭で 石炭、残りの約一割の家庭で各種 ガスが用いられる。燃料の構成比 率には地域差があり、森林資源の 豊富な東北では薪炭への依存度が 高く、逆にバイオマス資源の少な い西部乾燥地域では石炭が普及し ている。東部では家庭用ガス、温 暖な華南・西南部では畜産排せつ 物等を発酵させたメタンガス利用 が比較的多い。戸別トイレの普及 率は低く、全体の四二・九%は未 整備である。整備されているトイ レのうち汲み取り式が八割近くを 占め、 水洗式は東部地域(二六%) 以外あまり普及していない。   続いて耐久消費財の普及状況を 見てみよう。 同資料によれば九八 ・ 七%の村に電気が通っており、カ ラーテレビの普及率は九割近くに 達している。電話の普及率はすで に携帯電話が固定電話を超え、全 体で約七割、東部では八六・一% に達している。最後に暖房設備で あるが、寒冷な東北部では炕の普 及率が八五%に達しており、その 重要性が明確に表れている。東部 では都市化に伴いエアコンや暖気 が一定程度普及しているが、寒冷 な北京市、山東省における普及率 を挙げるとエアコン一・八%、暖 気一一 ・ 九%に対し炕は二六 ・ 一% と明らかに高い。

●農村の住宅制度と課題

  中国では都市と農村で土地およ び住宅の所有制度が異なる。都市 1.炕の上での春節の食事。奥に現代的なシステムキッチンが見 えるが、かまども依然健在(山東省煙台市莱陽、2010年2月 お茶の水女子大学・船戸はるな氏撮影)

︱中国北方農村

住宅

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アジ研ワールド・トレンドNo.191 (2011. 8)

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の土地および建国後に建てられた 住宅は全て国有であり、民営化が 進む一九八〇年代中盤以前は都市 住民は国営企業などの職場から住 宅の分配を受けていた。その後職 員の福利厚生を丸抱えする雇用制 度は崩壊し、 都市住民は「商品房」 と呼ばれる一般住宅の年限付き使 用権を購入するようになった。   一 方 農 村 の 土 地 は 集 団 所 有 で、 住宅は私有が認められている。都 市近郊では非農業収入で蓄財した 農村住民が都市部で「商品房」の 使用権を購入し、元の家を処分せ ず 放 置 す る「 空 心 村 」 が 発 生 し、 農村の土地利用効率低下が問題と な っ た( 参 考 文 献 ① )。 第 一 一 次 五 カ 年 計 画 以 降、 社 会 主 義 新 農 村 建 設 の ス ロ ー ガ ン の 下 農 村 の 都 市 化、 生 活 環 境 の 向 上、 土 地 利 用 の 合 理 化 が 政 策 課 題 と な っ た。 集 合 住 宅 を 建 設 し、 住 民 の 移 住 を 促 す動きもある(写真 2)。

●いざ、訪問!

  筆 者 は 幸 い に し て こ れ ま で 数 回、山東省、北京等の農家を訪問 する機会を得ている。本稿では山 東省煙台市蓬莱(県級)市C村の 友人宅を例に、農村の住宅事情を 紹介したい。蓬莱市は山東半島北 端に位置する沿岸都市で、C村は 二〇キロほどの距離にある。幹線 道路に近く立地条件は比較的良い ものの、蓬莱市から村への公共交 通手段が少ないため村民は専ら顔 なじみの白タクを利用する。筆者 の訪問を受け入れてくれた友人は 当時筆者が所属していた北京の研 究機関で学ぶC村出身の大学院生 で、東京大学の田原先生の紹介で 知り合い、二〇〇九年夏に彼女が 帰省中のところを訪問した(C村 の詳細は参考文献③) 。   友 人 と 白 タ ク で 村 に 向 か う 途 中、幹線道路の両側に果樹園や畑 が広がる中、茶色いレンガ屋根の 家々が村毎に固まって建っている のが見える。華北ではこのような 集村と呼ばれる集落形態が主流で ある。車は幹線道路を外れて舗装 された村道に入り込んでいき、幾 つかの集落を回って同乗者を次々 と目的地へ下ろしていく。集落の なかには四角い壁に囲まれた家々 が 碁 盤 の 目 の よ う に 並 ん で い る。 各戸の外壁の周囲にはコンクリー ト打ちの張り出した縁側のような 部分があり、燃料用の果樹の枝を 積んでおく場所、あるいは夜村民 同士が賭けトランプに興じたり夕 涼みをしたりする社交の場として 機 能 し て い た( 写 真 3)。 車 を 降 りて土の道を目的地まで歩く。   友人宅は平屋で、入ると中庭を 挟んで奥に母屋がある。手前は屋 根付きの物置きと汲み取り式トイ レ、右手に太陽熱給湯のシャワー 室がある。 屎 し 尿 にょう は時々裏手のブド 2.建設中の村民むけ集合住宅。C村にはまだこのような動きはな い(山東省 坊市昌楽、2009年7月筆者撮影) 表 中国農村住宅の平均像(2006年) 指  標 全  国 東部地域 東北地域 平均居住面積 (平方メートル) 127.7 135.9 80.0 一人当たり居住面積 27.8 31.5 21.9 住宅の類型別割合 (%) 高層 30.5 32.3 2.2 平屋 66.8 66.5 96.8 その他 2.7 1.2 1.0 住宅の建築資材別 構成比率(%) 鉄筋コンクリート 6.0 7.9 2.4 レンガ、コンクリート 39.4 43.2 23.4 レンガ、木材 44.3 45.5 58.7 土 9.6 3.1 15.3 その他 0.7 0.3 0.2 飲用水源の構成比率 (%) 水道水 23.1 44.2 15.0 井戸 41.8 37.6 75.9 表流水 27.8 15.3 9.0 炊事に使う燃料の構 成比率(%) 薪、小枝、ワラ等 60.2 53.1 88.2 石炭 26.1 18.5 7.4 石炭ガス、天然ガス 11.9 27.2 4.0 メタンガス 0.7 0.2 0.1 電気 0.8 1.0 0.3 その他 0.3 0.0 0.0 トイレのタイプ別構 成比率(%) 水洗式 12.8 26.0 1.3 汲み取り式 44.3 38.3 49.2 簡易式、又は未設置 42.9 35.7 49.5 耐久消費財の普及率 (台/百戸) カラーテレビ 87.3 97.5 97.1 固定電話 51.9 68.2 64.4 携帯電話 69.8 86.1 63.7 パソコン 2.2 4.8 1.0 バイク 38.2 50.9 34.3 自家用車 3.4 5.1 2.6 冷暖房器具の普及率 (%) エアコン 4.8 10.4 0.1 暖気 5.2 10.3 14.2 炕 17.8 15.6 85.1 なし 53.3 17.4 0.0 その他 18.9 46.3 0.6 (出 所)参考文献② (注) 1)特に断りがない限り、農家戸数ベースの割合。 (注) 2)「暖気」とは、主に長江以北の都市部の高層住宅に見られる、熱水を通し たパイプにより室内を暖める全館集中型の暖房設備。

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炕のある家―中国北方農村の住宅

アジ研ワールド・トレンドNo.191 (2011. 8)

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ウ畑へ運ばれる。母屋には台所の ほか三つの居間兼寝室があり、う ち二つは炕である。炕付きの寝台 は一メートルほどの高さで、筆者 は こ の 上 に 寝 泊 ま り し た( 写 真 4)。 隣 室 の 台 所 の か ま ど と 鉄 パ イプで繋がっているが、夏は塞が れている。母屋の床や壁はタイル 張りである。   滞在中は、友人のご両親に炒め 物や 包 バ オ ズ 子 (餡入り饅頭)など手作 り の 家 庭 料 理 を ご 馳 走 に な っ た。 普段は手軽なガスレンジを使って いるそうだが、時にかまども併用 す る( 写 真 5)。 友 人 宅 の か ま ど はかなり大きく、燃料は果樹の小 枝などである。上部に作り付けの 大鍋がある。生活用水は水道を使 い、中庭の小さな簡易式井戸は長 らく使っていない。   この家は友人の父が一九八三年 の結婚を機に建てたという。中国 では伝統的に結婚する際に男性側 が新居を建てる習慣があるが、近 年都市部で就業する若年層が増加 しており、この習慣にも変化の時 期が訪れている。友人は熾烈な受 験競争をくぐり抜けて北京で学ん でおり、弟も省内の大学に在学中 とのことである。筆者が出会った 農家の多くは教育熱心で、現金収 入の大半を子供の学費に充てる親 も少なくない。親の表情には子供 の将来への期待が溢れている。中 国 の 住 ま い を め ぐ る 一 連 の 変 化 は、 家 族 像 の 移 ろ い を そ の ま ま 反 映 し て い る と 言 え る の で は な い か 。   さて、冒頭の炕の登場する俳句 は旧日本陸軍軍人で 満 まん 蒙 もう 開拓移民 の父と呼ばれた東宮鉄男大佐の手 になるものである。以前中国東北 出身の骨董収集家から旧日本軍の 遺留品を見せられた時、和紙に丁 寧に毛筆で 認 したた められた俳句集を目 に し た。 そ の な か の 二 首 で あ る。 本来なら親の仇の作品と言って良 いだろうが、収集家はそのことよ り経済的価値に主たる関心がある ようだった。無論私には価値を判 定することはできなかったが、北 国の生活感溢れる趣深い俳句は不 思議と記憶に残った。最初の句は 「 東 宮 鉄 男 伝 」 の 満 州 国 軍 事 顧 問 時代の日誌にみえる。私が試みに 内容を訳した時、収集家が「長年 手元にあったが、今初めて意味を 知った」と感慨深げにつぶやいた 二番目の句は、探しても見つから なかった。真偽のほどはいかに。 ( や ま だ   な な え / ア ジ ア 経 済 研 究 所   環境・資源研究グループ) 《参考文献》 ①  韓俊等「新農村建設与優化村庄 布 局 」( 李 剣 閣 主 編『 中 国 新 農 村 建 設 調 査 』 上 海 遠 東 出 版 社、 二〇〇七年) 。 ②  国務院第二次全国農業普査領導 小組弁公室・中華人民共和国国 家 統 計 局 編[ 二 〇 〇 八 ]「 中 国 第二次全国農業普査資料総合提 要」中国統計出版社。 ③  田 原 史 起[ 二 〇 〇 九 ]「 水 利 施 設とコミュニティ―中国山東半 島 C村の農地灌漑システムをめ ぐって」 (『アジア経済』五〇巻 七号) 。 4.C村友人宅の炕。上方には蚊帳が、窓の向こうには中庭が見え る(山東省煙台市蓬莱、2009年9月筆者撮影) 3.村の目抜き(?)通り。屋根の上に見えるのは太陽熱給湯シ ステム(山東省煙台市蓬莱、2009年9月筆者撮影) 5.かまどの大鍋で茹で上がる餃子(C村とは別の村の写真)。側 面に金属製の引き出しが内蔵されていて湯を沸かすことがで きる。かまどは一家団欒の象徴(山東省煙台市莱陽、2010年 2月お茶の水女子大学・船戸はるな氏撮影)

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参照

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