引用動向から見たコア・ジャーナル (特集 アジア
地域研究と雑誌 -- 「コア・ジャーナル」を語る)
著者
棚橋 佳子
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
198
ページ
4-6
発行年
2012-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004029
アジア地域研究を中心とする学 術雑誌について、論文の引用動向 から見たコア・ジャーナルを考察 す る。 ト ム ソ ン・ ロ イ タ ー 社 ( htt p:/ /ip -sc ien ce .th om so nr eu ter s. jp / ) の 学 術 文 献 デ ー タ ベ ー ス W eb of ScienceⓇ で は 世 界 の 一 二 〇〇〇誌以上の論文誌の引用文献 を索引化している。このうち、ア ジア地域研究に関する論文誌は社 会科学分野として収録される。そ の後、雑誌の論文引用・被引用情 報は雑誌単位に統計分析して指標 が算出編纂され、 Journal Citat ion ReportsⓇ ( 以 下 J C R ) と し て 毎 年六月頃に更新されている。 W eb of Science お よ び J C R に 収 載 さ れる雑誌は国際誌としての厳しい 選択基準をクリアし、インパクト ファクターが付与されるため、論 文誌としてはその領域のリサーチ コミュニティにおいて認知度の高 いものとみなされる。インパクト ファクターはいわゆる雑誌の平均 被引用率で、図 1の定義で算出さ れ る。 二 〇 一 〇 年 の イ ン パ ク ト ファクターは、前二年間に出版さ れた論文に着目し、その二年分の 論文が二〇一〇年に出版された雑 誌 に 何 回 引 用 さ れ た か を 求 め て、 元になっている論文数で割ること により、一論文当たりの平均被引 用数を求めている。五年インパク トファクターは対象を五年分に拡 げて算出している。
●計画・開発学分野の雑誌
アジア経済研究所発行の学術誌 「 Dev eloping Economies」 は JCR に おいて Planning & Dev elopment と Economics に 分 類 さ れ て い る。 論 文引用は研究者コミュニティの大 き さ や 学 術 誌 自 体 の 出 版 頻 度 に よっても様々であり、自然科学分 野 と 社 会 科 学 分 野 で は 引 用 そ の も の の 重 み づ け 基 準 が 異 な る。 そ こ で 最 近 で は 社 会 科 学 分 野 の W eb of Science の ジ ャ ー ナ ル 収 録には "国際ジャーナル" と "地 域 ジ ャ ー ナ ル " の 両 極 を 考 慮 し た 選 定 が な さ れ る よ う に な っ た。 こ の 都 市 計 画 分 野・ 発 展 途 上 国 開 発 分 野( 以 下、 計 画・ 開 発 学 分 野 ) に は 四 七 誌 が あ り、 季 刊 誌 が 二 七 誌、 隔 月 刊 誌 が 一 〇 誌、 月 刊 誌 六 誌 と、 季 刊 誌 が 多 い こ と が 特 徴 で あ る。 総 被 引 用 数 の 多 い 雑 誌 は、 年 間 一 〇 〇 論 文 以 上 掲 載 す る 論 文 誌 が 並 ぶ。 インパクトファクターは〇 ・ 六 か ら 一・ 四 の 間 に 半 数 以 上 の 二 六 誌 が 集 中 し て お り、 イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ー が 高 い 二 〇 誌 を 表 1に 示 し た。 計 画・ 開 発 学 分 野 の 特 徴 は、 五 年 イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ー が 前 二 年 を ベ ー ス に 2008年の掲載論文数=64報 2010年に155回引用された 2010年に100回引用された 2008年の掲載論文数=82報2008
2009
2010
100+155 82+64 255 146 ≒ 1.747 = 図1:インパクトファクターの算出方法【例】 JOURNAL OF ECONOMIC DEVELOPMENT 2010年のインパクト・ファクター
引用動向
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特 集
アジア地域研究と雑誌
―『コア・ジャーナル』を語る―4
アジ研ワールド・トレンド No.198 (2012. 3)計算した通常のインパクトファク ターよりも如実に高い。自然科学 分野の場合は出版されてから二年 目三年目に引用のピークがくる雑 誌が多いが、 社会科学系の雑誌は、 引用対象が広く、遡及年度も深い ため、引用のピークあるいは集中 度は自然科学にくらべて顕著では ない。
●引用の相関関係
次 に「 Dev eloping Economies 」 が引用する雑誌に着目したい。最 も良く引用する対象雑誌の上位二 誌を抽出して図式化すると図 2の 相関図となる。 それぞれの関係は、 矢 印 の 先 の 雑 誌 を 引 用 し て お り、 D ev elo pin g Ec on om ie s は A m er i-can Economic Review と Journal of Dev elopment Economics を 引 用 し て い る。 American Economic Re -view 誌 は 四 誌 す べ て か ら 引 用 さ れ て い る こ と か ら こ の 分 野 の コ ア・ジャーナルである。年五回の 発行頻度でインパクトファクター は三・一五である。レビュー論文 誌は概して被引用が多く、インパ クトファクター値は高い。●地域性の高い雑誌
J C R の Area Studies 分 野 は、 地 域 研 究 と し て ア フ リ カ、 ア ジ ア、 中 東、 環 太 平 洋 地 域 な ど の 社 会 的、 経 済 的、 政 治 的 な 観 点 か ら の 研 究 を 対 象 と す る 六 〇 誌 を 収 録 し て い る。 こ の う ち 表 3に イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ー の 高 い 一 〇 誌 を 挙 げ た。 グ ロ ー バ ル な 学 際 分 野 に 比 べ れ ば、 領 域 全 体 の 研 究 者 数 も 少 な い 分 野 で あ る た め、 他 の 分 野 と 比 べ る と イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ー 値 は 低 い。 こ の表1 Planning & Development分野 インパクト・ファクター上位10誌
ジャーナル名 総被引用数 インパクト・ファクター 5年インパクトファクター 論文数 1 J RURAL STUD 1598 2.533 3.351 43 2 RES POLICY 7539 2.508 4.242 112 3 TECHNOL FORECAST SOC 1791 2.034 2.212 124 4 J AGRAR CHANGE 310 1.881 24 5 LONG RANGE PLANN 1451 1.727 2.126 35 6 HOUS POLICY DEBATE 814 1.708 1.942 25 7 J PEASANT STUD 398 1.612 1.108 33 7 WORLD DEV 5687 1.612 2.526 140 9 J AM PLANN ASSOC 1363 1.559 2.796 27 10 POLICY SCI 617 1.514 1.357 17 (出所)トムソン・ロイター Journal Citation Reports 2010。
表2 Developing Economiesに引用されている雑誌
Impact
Factor Cited Journals
Cited Year 被引用総数 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000以前 All Journals 712 20 30 49 58 56 45 46 37 49 38 284 1.747 J DEV ECON 36 2 3 2 3 3 4 0 0 1 1 17 3.15 AM ECON REV 27 0 0 2 1 2 3 1 4 0 2 12 5.94 Q J ECON 20 0 0 0 1 1 1 1 0 4 0 12 0.156 DEV ECON 17 14 0 1 1 0 0 0 0 0 0 1 0.793 J DEV STUD 15 1 0 5 0 2 0 0 0 0 3 4 2.271 ECON J 12 0 0 0 4 1 2 0 1 0 0 4
1.318 WORLD BANK ECON REV 11 0 0 4 0 0 2 0 0 0 0 5
1.612 WORLD DEV 11 0 1 1 0 2 1 1 1 0 0 4 4.065 J POLIT ECON 11 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 9 (出所)表1と同じ。 (出所)表1と同じ。 27 140 44 71 62 203 134 134 247 36 J Dev Econ 2935 J Polit Econ 1063 Q J Econ 1900 Dev Econ 712 AM Econ Rev 被引用数 5096 図2 引用の相関関係 矢印先を引用する関係箱の大きさは被引用数に準じる
5
引用動向から見たコア・ジャーナル
アジ研ワールド・トレンド No.198 (2012. 3)六〇誌の雑誌選定には、地域研究 を 代 表 す る ジ ャ ー ナ ル で は あ る が、インパクトファクター値のか な り 低 い も の も 包 含 さ れ て い る。 これは二〇〇七年以来地域性を重 視 し た 雑 誌 に つ い て は W eb o f S ci-ence の 収 録 見 直 し を 行 い 引 用 の パフォーマンスを広く捉えて選択 しているためである。 インパクトファクター値だけで 学 術 誌 を 評 価 す る べ き で は な く、 雑誌の評価にはピア・レビューも 欠かせない。ここに挙げた地域研 究や開発学分野の雑誌は論文が出 てから引用されるまでの一定期間 に引用が集中することが約束され る論文はむしろ少ない。したがっ て、インパクトファクターのよう に二年間に着目して算出する被引 用率により雑誌を比較することは 十分ではない。 Goldstein [ 2010 ] は、 ( 参 照 文 献 ① ) で ア メ リ カ の 大学の都市計画学部に所属する教 授に学術誌をどう評価しているか アンケート調査分析し、インパク トファクター順にランキングした 結 果 と の 相 関 関 係 は 認 め ら れ な かったとしている。
●インパクトファクター活用
それではインパクトファクター は ど の よ う に 利 用 す る と 良 い の か。研究者にとって馴染みのある 自 分 の 研 究 分 野 の 雑 誌 は よ く わ かっている。しかし、学際的な研 究主題によっては馴染みのない分 野を扱うことになる。そうした特 定の分野を知りたいとき、どのよ うな学術誌を押さえるべきか。イ ンパクトファクターが高い雑誌を 知ることは、その分野の研究者が 良 く 利 用 す る 活 発 な 雑 誌 が わ か る。特に自然科学の分野を概観す る場合に活用できる指標である。 イ ン パ ク ト フ ァ ク タ ー の 高 い、 影響力のある雑誌に論文投稿がで きること、それを科学技術のアウ トプット力があるとみなして、科 学技術力を見る場合に利用される こともある。アジア各国から発信 される学術誌について、各国ごと にインパクトファクターの高い雑 誌を分析すると、その国が得意と する学術分野、世界へ向けて力を いれている科学技術力が見えてく る。 最後に、アジアの各国に焦点を あて、学術誌のさまざまな指標を もとに文献分析をしているレポー トを紹介したい。トムソン・ロイ ターのグローバル・リサーチ・レ ポ ー ト・ シ リ ー ズ( http://ip-sc ie nc e.t ho m so nr eu te rs .jp /r a/ grr/ ) で は イ ン ド や 中 国、 B R I CSなど、自然科学分野で学術誌 を中心にどのような学術コミュニ ケーションがあるか、グローバル 市場へ向けての研究力の現況分析 がわかるレポートである。ただこ うしたレポートも専門的な見地か ら地域研究に活かしていただくこ とが望ましい。雑誌・論文の統計 を定量的分析する手法も取り入れ て、今後のアジア地域研究に役立 て て い た だ け る こ と を 期 待 し た い。 ( た な は し よ し こ / ト ム ソ ン・ ロ イ タ ー 学 術 情 報 ソ リ ュ ー シ ョ ン シニア・ディレクター) 《参考文献》 ① G old ste in , H . [ 20 10 ] T he U se an d V alu at io n of J ou rn als in Pla nn in g S ch ola rsh ip : P ee r A s-se ss m en t v er su s I m pa ct Fa c-to rs . J ou rn al of Pla nn in g Ed u-ca tio n an d Re se ar ch , 3 0 (1 ), pp.66-75. 表3 Area Studies分野 インパクト・ファクター上位10誌 ジャーナル名 総被引用数 インパクト・ファクター 5年インパクトファクター 論文数 AFR AFFAIRS 588 1.49 1.763 30 AFRICA 631 0.824 0.924 26 CHINA J 190 0.826 1.096 16 CHINA QUART 878 0.907 1.396 37 CRIT ASIAN STUD 158 0.733 0.632 27 ECON DEV CULT CHANGE 1169 1.392 1.536 26 EURASIAN GEOGR ECON 339 1.472 1.199 39 J CONTEMP ASIA 182 0.764 0.77 28 J MOD AFR STUD 487 1.082 1.156 24N KOREAN REV 30 0.75 15
(出所)表1と同じ。