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会計・ディスクロージャー制度及び監査制度に係る法制面等における諸課題

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会計・ディスクロージャー制度及び

監査制度に係る法制面等における諸課題

兼 田 克 幸

はじめに

近年、企業の経済活動のグローバル化や国境を越えた投資活動の 活発化を背景として、資本市場の国際化が急速に進展している。国 際的な市場間競争が激化している中、我が国資本市場の競争力の強 化が喫緊の課題となっており、国際的に整合性のある市場インフラ を整備していくことが求められている。 会計・ディスクロージャー制度は、資本市場を支える重要なイン フラであるが、これらの制度を巡る動きは近年目まぐるしく、特に 会計基準については、国際的な統一化の動きが急速に進展してきて いる。このため、会計基準の在り方が喫緊の課題となっている。ま た、我が国の会計・ディスクロージャー制度については、会社法及 び金融商品取引法において重畳的に規制が設けられており、制度間 での交錯がみられるところである。この点については、合理性のな い二重規制を廃止するとともに、制度間の調整及び効率化を図るこ とが必要であると考えられる。 そのほか、近年、上場会社や連結決算の対象となっている子会社 における会計不祥事が多発しており、会計監査の強化の必要性も叫 ばれている。 本稿では、資本市場の透明性及び効率性を強化するとともに、国 際的な信認を高めていく観点から、我が国企業の会計・ディスク ロージヤー制度及び監査制度に係る法制面等における諸課題につい て、総括的に考察することとする。

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1.我が国の株式会社の状況及び会計・ディスクロー

ジャー制度に係る法規制の概要

我が国における株式会社の状況及び法規制の適用範囲は、[図表 −1]のとおりである。すなわち、平成 23 年 12 月末現在約 250 万 社の株式会社が存在するが、そのうち、上場会社は約 3,600 社、金 融商品取引法の適用を受けている非上場会社は約 1,000 社、金融商 品取引法の適用を受けていない会社法上の大会社(資本金 5 億円以 上又は負債総額 200 億円以上の株式会社)は約 5,400 社であり、残 りの約 249 万社はこれら以外の中小会社となっている。 これらのうち上場会社等の金融商品取引法の適用会社については、 会計・ディスクロージャーに関して、会社法と金融商品取引法の双 方の法律による規制を受けている。また、会社法上の大会社につい ては、会計監査人(公認会計士又は監査法人)を設置し、計算書類 及びその附属明細書及び連結計算書類について会計監査人による会 計監査を受けることが義務付けられている(会社法第 328 条第 1 項、 第 436 条第 2 項、第 444 条第 4 項)。 なお、会社法上の大会社に該当しない会社であっても、定款の定 めによって、委員会設置会社を選択した場合には、会計監査人の設 置が義務付けられており、それ以外の会社であっても、監査役の設 置を条件として会計監査人を設置することが認められている(会社 法第 327 条第 3 項、第 5 項)。 金融商品取引法の適用対象とならない会社法上の大会社について は、会計監査人からの要求もあり、上場会社とほぼ同一の会計基準 が用いている会社も多く存在する。また、中小会社の会計基準につ いては、平成 17 年 8 月に「中小企業の会計に関する指針」(日本税 理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計 基準委員会の共同により作成)が公表されており、会計処理の簡便 化や法人税法上の処理方法の適用が認められている(同指針第 6 項、 第 7 項)。(注1)

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金融商品取引法の適用会社は、上場会社のほか、下記の会社であ る(金融商品取引法第 24 条第1項、同法施行令第 3 条、第 3 条の 5、 第 3 条の 6 第 2 項)。 ① 証券業協会に店頭売買有価証券として登録されている有価証 券の発行会社(店頭登録会社)(注2) ② 募集又は売出しについて、有価証券届出書又は発行登録追補 書類を提出した有価証券の発行会社(上場会社及び店頭登録会 社を除く) ③ 上場会社及び上記①、②以外の会社で最近5事業年度(当該 事業年度又は当該事業年度の開始の日前 4 年以内に開始した事 業年度)のいずれかの末日における株主数が 1,000 名以上であ る会社(資本金が 5 億円未満の会社を除く) 〔図表−1〕我が国における株式会社の状況及び法規制の適用範囲 会社数 (平成 23 年 12 月末)金融商品取引法の適用 会 社 法の適用 会社法上の公認会計士監査 ① 上場会社 約 3,600 社 ○ ○ ○ ② 上場会社以外の金融 商品取引法適用会社 約 1,000 社 ○ ○ (大会社以外の○ 会社を除く) ③ 上記①及び②以外の 会社法上の大会社  (資本金 5 億円以上又は負 債総額 200 億円以上の会 社) 約 5,400 社 (大会社約 1 万社から 上記①及び②に含まれ るものを除く。) × ○ ○ ④上記①~③以外の株式 会社 (株式会社約 250 万社約 249 万社 から上記①~③に含ま れるものを除く。) × ○ ×

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2.会社法及び金融商品取引法による法規制の状況

我が国における会計・ディスクロージャー制度については、会社 法及び金融商品取引法において重畳的に規制が設けられており、上 場会社等の金融商品取引法適用会社は、双方の法律による規制を受 けている。 会社法上の会計・開示規制は、次の 2 つを目的としており、小規 模会社も規制の対象とされている。 ① 株主及び会社債権者に対して、会社の経営成績及び財政状態 に関する情報を提供すること。 ② 株主と会社債権者との利害調整のため、剰余金の配当などの 剰余金分配を規制すること。 他方、金融商品取引法上の会計・ディスクロージャー制度は、有 価証券の発行市場及び流通市場において投資者が十分な投資判断を 行うことができるよう、投資判断のために必要な情報を提供するこ とを目的としている。 このように、両者は法律の目的を異にしており、会社法は私人間 の利害関係を調整する私法であるのに対して、金融商品取引法は資 本市場の機能の十全な発揮を通じて投資者保護を図るための市場法 としての性格を有している。このため、会社法と金融商品取引法 とでは、要求される開示情報の内容に差異がみられるところである。 具体的には、会社法においては個別情報を中心とした情報開示が行 われているのに対して、金融商品取引法においては連結情報を中心 とした詳細な情報開示が行われている。 なお、最近の会計基準の改正に合わせ、会社計算規則(法務省令) についても、これに対応した改正が頻繁に行われているが、会計計 算面(貸借対照表価額や期間損益等)においては、会社法会計が全 面的に金融商品取引法(証券取引法)会計に合わせるという方向で 調整が行われてきている。(注3) 会社法上の計算書類や事業報告と金融商品取引法上の有価証券報

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告書の記載事項を比較すると、それぞれに独自の記載事項(例えば 事業報告における社外役員の活動状況、監査役の財務・会計に関す る知見の記載など、有価証券報告書におけるセグメント情報やリー ス資産の状況の記載など)がみられる。また、類似の記載事項であっ ても、開示すべき事項が相違しているものも多くみられる。平成 20 年 4 月 1 日以降開始する事業年度から、金融商品取引法上、上 場会社について四半期報告制度及び内部統制報告制度が適用されて いることとも相俟って、会社側(金融商品取引法適用会社)や会計 監査人の実務上の負担が極めて大きくなっているのが実情である。 ちなみに、会社法上の計算書類及び連結計算書類等の種類は、[図 表−2]のとおりである。また、金融商品取引法上の有価証券報告 書において開示される連結財務諸表及び個別財務諸表の種類は、[図 表−3]のとおりである。 これらの図表から明らかなとおり、会社法においては、連結キャッ シュ・フロー計算書や連結附属明細表(社債明細表、借入金等明細 表及び資産除去債務明細表)の作成は求められていない。また、金 融商品取引法においては、平成 23 年 3 月 31 日以後に終了する連結 会計年度から新たに連結包括利益計算書を作成することが義務付け られているが、会社法においては同計算書の作成は求められていな い。 会社法(商法)上の会計・開示規制と金融商品取引法(旧証券取 引法)上の会計・ディスクロージャー制度の調整の問題は、古くて 新しい問題であるが、改めて検討すべき重要な課題であると考えら れる。

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[図表―2]会社法上の計算書類等の種類 計算書類 連結計算書類 その他 ① 貸借対照表 ② 損益計算書 ③ 株主資本等変動計算書 ④ 個別注記表 ① 連結貸借対照表 ② 連結損益計算書 ③ 連結株主資本等変動計算書 ④ 連結注記表 (注)連結計算書類は、大会社である 有価証券報告書提出会社に対して 作成が義務付けられている。 ① 事業報告 ② 計算書類の附属 明細書 ③ 事業報告の附属 明細書 [図表−3]金融商品取引法上の連結財務諸表及び個別財務諸表の種類 連結財務諸表 財務諸表 ① 連結貸借対照表 ② 連結損益計算書 ③ 連結包括利益計算書 ④ 連結株主資本等変動計算書 ⑤ 連結キャッシュ・フロー計算書 ⑥ 連結附属明細表 (注)上記②及び③に代えて、「連結損益及び包 括利益計算書」を作成することもできる。 ① 貸借対照表 ② 損益計算書 ③ 株主資本等変動計算書 ④ キャッシュ・フロー計算書 ⑤ 附属明細表 (注)上記④は、連結財務諸表を作成していない 会社に対して作成が義務付けられている。

3.会社法及び金融商品取引法による会計・ディスク

ロージャー制度の調整の必要性

(1) 財務情報の実質的な一元化の推進の必要性 上記2のとおり、会社法と金融商品取引法との間で情報開示の取 扱いに交錯が見られるところであるが、上場会社等に係る双方の法 律による重畳的な規制は我が国独特のものである。 このため、会社法上の計算書類や連結計算書類と金融商品取引法 上の財務諸表や連結財務諸表との実質的な一元化を推進し、制度間 の調整が図られることが必要であると考えられる。また、会社法上 の事業報告と有価証券報告書における非財務情報についても、制度 間の調整が図られることが適当である。

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これらの調整に当たっては、双方の法律の目的や作成時期の相違 について考慮されることが必要であるが、情報提供機能の面では、 会社法の会計目的は、金融商品取引法の機能と実質的に同一の役割 を担っていると考えられる。(注4) 具体的には、金融商品取引法と会社法による二重規制を解消する ため、次のような措置が講じられることが適当であると考えられ る。(注5) ① 会社法又は法務省令の規定の中に、「金融商品取引法適用会 社の特例」の章を設け、金融商品取引法の適用を受ける上場会 社等(有価証券報告書提出会社)については、株主及び債権者 保護の観点から開示を求めることが必要であると考えられる事 項を除き、金融商品取引法上の会計・ディスクロージャー制度 (有価証券報告書の記載内容)をベースとした情報開示を行う ことを認める。 ② 会社法上の計算書類や連結計算書類の様式の全部又は一部に ついて、「金融商品取引法上の取扱いに準じて作成することを 妨げない」旨の規定を設け、金融商品取引法上の財務諸表及び 連結財務諸表との実質的な一元化を図る。ただし、会社法上の 計算書類や事業報告は株主に直接送付されるものであり、記載 される情報量に制約があるため、記載内容の簡素化を認める。 会社法は法務省が所管し、金融商品取引法は金融庁が所管してい るが、会計・ディスクロージャー制度の効率化及び企業のコスト負 担の軽減を図るため、金融商品取引法の適用会社について上記のよ うな調整措置が講じられることは、極めて意義深いものと考えられ る。 同一の会計事象を対象として、内容の異なる 2 種類の情報開示を 区々に求めることは非効率であり、法務省と金融庁との間で、会計・ ディスクロージャー制度の調整に向けて、真摯な検討が行われるこ とが期待される。

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(2)会社法におけるキャッシュ・フロー計算書の作成の義務付け キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間におけるキャッシュ・ フローの状況を「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動 によるキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フ ロー」の3つの区分に分けて表示した計算書であり、企業の余裕資 金の状況(フリー・キャッシュフロー)等を判断するうえで極めて 有用である。すなわち、キャッシュ・フロー計算書においては、企 業が営業活動からどれだけのキャッシュ・フローを獲得したか、営 業活動により獲得されたキャッシュ・フローを設備投資などの投資 活動にどのように投下したか、その結果の余剰資金をいくら配当に 回したか、資金過不足の調達や資金の運用はどのように行われたの か、といった企業活動全体を対象とした資金情報が提供される。 近年、企業の余裕資金の状況を指標であるフリー・キャッシュフ ローの重要性が高まっており、金融商品取引法の適用を受けている 会社については、平成 11 年 4 月 1 日以降開始する事業年度から連 結財務諸表の一つとして連結キャシュ・フロー計算書を作成する ことが義務付けられている(連結財務諸表規則第8条の2)。また、 連結財務諸表を作成していない会社については、個別財務諸表の一 つとして個別ベースでのキャシュ・フロー計算書を作成することが 義務付けられている(財務諸表等規則第 111 条)。 他方、会社法においては、連結計算書類及び計算書類の一つとし てキャッシュ・フロー計算書を作成することは未だ義務付けられて いない。しかしながら、損益計算書上利益が計上されているから資 金繰りが良好であるとは限らず、企業の資金繰りの良否や安全性を 的確に表示するキャシュ・フロー計算書が開示されることは、株主 や会社債権者にとっても極めて有益であると考えられる。 金融商品取引法の適用を受けている会社については、金融商品 取引法に基づき、すでにキャシュ・フロー計算書を作成していると ころであり、金融商品取引法と会社法とのバランスを図る観点か ら、会社法においても、連結計算書類又は計算書類の一つとしてキャ

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シュ・フロー計算書の作成を義務付けることが適当であると考えら れる。 (3)金融商品取引法上の単体情報の簡素化 会社法においては個別情報を中心とした情報開示が行われている のに対して、金融商品取引法においては企業グループに係る連結情 報を中心とした詳細な情報開示が行われている。しかしながら、企 業活動の多角化・国際化が急速に進展しており、投資判断情報とし ての単体情報の有用性は相対的に低下している。 なお、英米等の諸外国においても連結情報が開示の中心となって いる。(注6) このため、連結財務諸表作成会社については、会社法上の開示内 容を踏まえて、有価証券報告書における単体情報について大幅な簡 素化(個別財務諸表における注記事項の大幅な削減、附属明細表の 削除)を図ることが適当であると考えられる。(注7) なお、金融商品取引法上、個別財務諸表の開示は廃止すべきであ るとの意見が散見されるが、個別財務諸表は連結ベースでの分析を 補完する財務情報(例えば連単比率の分析)として重要な意味合い を有しており、個別財務諸表そのものの廃止については、慎重に対 応していくことが必要であると考えられる。

4.国際財務報告基準(IFRS)の適用の取扱い

(1)IFRSの任意適用に係る取扱い 近年、各国の作成する財務諸表が国際的に比較可能なものとなる よう、会計基準のコンバージェンスに向けた動きが各国において顕 著になってきており、各国の会計基準は互いに近づいてきている。 なお、コンバージェンスとは、自国の会計基準と国際財務報告基 準(IFRS:International Financial Reporting Standards )と

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の主要な差異を縮小し、自国の会計基準をIFRSと類似した内容 にしていくことをいう。(注8) IFRSの適用は世界に広がりつつあり、現在、EU加盟国など 約 110 カ国の国々が連結財務諸表の作成上、IFRSの適用を強制 又は容認している。(注9) このような状況を踏まえ、我が国においては、会計基準の設定主 体である企業会計基準員会(ASBJ :Accounting Standard Board of Japan )が中心になって、会計基準が高品質で国際的にも整合 的なものとなるよう、IFRSとのコンバージェンスに向けて積極 的な取り組みが行われている。(注 10) こうした中、平成 21 年 12 月に連結財務諸表規則等の改正が行わ れ、金融商品取引法上は、下記の要件のすべてを満たす上場会社に ついて、平成 22 年 3 月期の連結財務諸表からIFRS(金融庁告 示で定められている指定国際会計基準をいう。)の任意適用が認め られている(同規則第 1 条の 2、第 93 条)。 ① 発行する株式が、金融商品取引所に上場されていること。 ② 有価証券報告書において、連結財務諸表の適正性を確保する ための特段の取組みに関する記載を行っていること。 ③ IFRSに関する十分な知識を有する役員又は使用人を置い ており、当該基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成するこ とができる体制を整備していること。 ④ 会社、その親会社又はその他の関係会社が、下記の要件のい ずれかを満たすこと。 イ.外国の法令に基づき、国際会計基準に従って作成した企 業内容等に関する書類を開示していること。 ロ.外国金融商品市場の規則に基づき、当該規則の定める期 間ごとに国際会計基準に従って作成した企業内容等に関す る書類を開示していること。 ハ.外国に資本金 20 億円以上の連結子会社を有していること。

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ただし、IFRSの見直し作業が継続的に行われていることや、 米国 SEC(証券取引委員会)は現時点で米国企業にIFRSの適 用を認めていないこともあり、平成 24 年 12 月末現在、IFRSを 適用している上場会社は 8 社に過ぎないのが実情である。 他方、会社計算規則(法務省令)についても平成 21 年 12 月に改 正が行われ、IFRSによって連結財務諸表を作成することが認め られている株式会社については、会計法上の連結計算書類について も、IFRSに従って作成することが許容されている(同規則第 120 条第 1 項前段)。 平成 23 年 6 月から金融庁の企業会計審議会において、国内外に おける状況の変化を踏まえて、IFRSへの対応のあり方について 議論が行われているが、IFRSの適用に向けた動きが国際的に急 ピッチに広がっており、我が国の会計制度は、極めて重要な局面を 迎えているといえる。 なお、平成 24 年 7 月に、企業会計審議会から「国際会計基準(I FRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点 整理)」が公表されている。「中間的論点整理」では、我が国におけ るIFRS適用のあり方について議論を深めるためには、IFRS のどの基準・考え方が我が国にとって受け入れ可能であり、どの基 準・考え方が難しいかを整理することが必要であるとされている。 (2) IFRSの特徴点 上記(1)で述べたとおりIFRSはグローバ化した資本市場に おける会計の共通言語になりつつあるが、IFRSの主要な特徴点 を列挙すると、次のとおりである。 ① 原則主義の会計基準 IFRSの重要な特徴点の一つは、原則主義(プリンシプル・ベー ス)の会計基準であり、原理原則は明らかにされているが、詳細な 解釈指針や数値基準が定められていないことである。このため、そ れぞれの企業は、会計基準の背後にある趣旨や本質を十分に理解し

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たうえで、各企業の経営実態を踏まえて、IFRSの適用に関する 具体的な会計処理方法を設定していくことが必要である。原則主義 による会計基準については、原則の範囲内で、経営者の判断を柔軟 に会計処理に反映できるというメリットがあるが、その適否は、会 計監査人の専門的な判断に委ねられることになる。企業側は、なぜ そのように判断したのか、判断の根拠について説明責任を負うこと になる。 ② 資産負債アプローチの重視 我が国の従来の伝統的な会計基準では、収益と費用との差額であ る当期純利益を重視する収益費用アプローチの考え方が採用されて きた。これに対して、IFRSにおいては、資本取引以外の取引 による期首と期末の純資産(資産と負債との差額)の変動額である 包括利益を重視する資産負債アプローチの考え方が採用されている。 つまり、IFRSでは、経営者の意図に左右されない業績指標とし て、包括利益が重視されている。 なお、包括利益は、当期純利益に「その他包括利益」(売却可能 有価証券の再測定による評価差額、在外子会社の財務諸表の為替換 算差額など)を加えたものである。 このように、IFRSでは包括利益が重視されているため、企業 側は、保有している資産の効率について十分に検討していくことが 必要となる。 ③ 公正価値の重視 IFRSにおいては、資産負債アプローチの考え方が採用されて おり、金融資産、投資不動産、引当金などの資産や負債を公正価値 により評価することが求められている。 なお、公正価値とは、独立した第三者間で取引が行われる場合に、 資産が交換され又は負債が決済される価額を意味するが、活発な 市場がない場合においても、評価モデルを用いて公正価値を算定す

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ることとされている。このため、IFRSを適用するに当たっては、 公正価値の算定ルールの整備を進めていくことが必要である。 IFRSでは、過去の取得価額よりも公正価値による資産・負債 の測定や開示が求められており、将来キャッシュ・フローの割引現 在価値による資産評価(DCF計算)の手法なども採り入れられて いる。 ④ 経済的単一体説による連結財務諸表の作成 連結財務諸表の作成については、親会社説(株主である親会社の 立場から連結財務諸表を作成しようとする考え方)と経済的単一体 説(企業集団を構成するすべての株主の立場から連結財務諸表を作 成しようとする考え方)の2つの考え方がある。 これらのうちいずれの考え方を採用するかによって、子会社の少 数株主に帰属する利益(少数株主利益)の連結損益計算書上の表示 方法が異なることになる。 我が国の会計基準においては、親会社説の考え方が採用されてお り、連結損益計算書上、少数株主に帰属する利益を控除して、当 期純利益を計算することとされている。他方、IFRSにおいて は、経済的単一体説の考え方が採用されており、子会社の少数株主 に帰属する損益も、当期純利益に含めて計算することとされている。 (注 11) (3)我が国の会計基準との主要な相違点 我が国の会計基準とIFRSとの間の主要な相違点を挙げると、 [図表−4]のとおりである。 このように双方の間には未だ多くの相違点がみられるが、のれん の償却の取扱いのように重要な相違もあり、これらの項目について IFRSとのコンバージェンスを図ることの是非については、会計 理論面等から慎重に検討していくことが必要であると考えられる。 IFRSについては、現在、収益認識、リース会計、金融商品会

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計など、多くの基準について見直し作業が行われている。このため、 我が国においては、これらの動向を注視しながら、会計基準の見直 しに向けた検討が企業会計基準委員会(ASBJ)において行われて きている。 [図表−4]我が国の会計基準とIFRSの基準との主要な相違点 我が国の会計基準 IFRS ① 収益の認識基準  明確な基準がなく、実務上 出荷基準を適用している企業 が多くみられる。  重要なリスクと経済的価値 が買手に移転することなどの 要件を満たすことが必要。 ② のれんの会計処理  20 年以内に期間にわたり、 規則的に償却。  のれんは償却せず、毎期減損テストを実施。 ③ 研究開発費の会計 処理  すべて発生時に費用処理。  研究費は費用処理。開発費は、将来の収益の獲得可能性 が高い場合には、資産計上。 ④  オ ペ レ ー テ ィ ン グ・リースの会計処 理  リース料を費用処理。  オペレーティング・リース とファイナンス・リースとの 区分をなくし、すべてのリー ス物件の使用権を資産計上す る方向で検討中。 ⑤ 減価償却  一定の減価償却方法により、 毎期計画的・規則的に実施。  減価償却方法、残存価額及び耐用年数を毎事業年度末に 見直しすることが必要。 ⑥ 減損損失の戻し入 れ  資産価値が回復しても、減損損失の戻し入れは不要。  資産価値が回復した場合は、減損損失の戻し入れが必要。 ただし、のれんに係る減損損 失の戻し入れは禁止。 ⑦ 引当金の計上  債務性の有無を問わない。  現在の法的債務又は推定的 債務であることが必要であり、 債務性のない引当金(修繕引 当金など)の計上は禁止。 ⑧ 繰延資産の計上  許容。  許容せず。

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5.国際財務報告基準(IFRS)の適用上の諸課題

IFRSによる連結財務諸表の作成は、企業活動のグローバル化 や資本市場のボーダレス化の進展の状況を踏まえ、連結財務諸表の 国際的な比較可能性を確保することを主眼とするものであるが、連 結財務諸表に対する海外投資家の信頼性が高まることになり、我 が国資本市場の国際的な競争力の強化にも資するものと考えられる。 また、海外展開している上場会社については、海外拠点を含む企業 グループ内の会計基準が統一されることにより、財務経理面での経 営管理の効率性向上にも繋がるものと考えられる。 しかしながら、IFRSを適用するに当たっては、多くの克服す べき課題がある。 検討すべき主要な課題として、以下のような事項を挙げることが できる。 (1) 解釈指針の明示 我が国の会計基準については、米国と同様、規則主義(ルール・ベー ス)の考え方が採用されており、詳細な会計処理の基準が設けられ ている。他方、IFRSについては原則主義(プリンシプル・ベー ス)の考え方が採用されており、会計基準の多くは原則的な考え方 しか示されておらず、数値的な指針はほとんど設けられていない。 なお、国際会計基準財団(IASCF)の傘下の組織として、国 際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)が設置されており、IF RSだけでは処理できないような分野については解釈指針を作成す る仕組みになっているが、IFRICは解釈指針を開発する件数を 最小限に抑えているとされている。(注 12) また、IFRSの解釈指針 を作成する権限はIFRICのみに認められており、IFRSを採 用する各国が独自に解釈指針を出すことは認められていない。(注 13) このため、財務諸表の作成者である企業や監査人である公認会計 士は、IFRSの内容や基本的な考え方を十分に理解し、実務にお

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いて適切に運用していくことが必要であり、高度な判断力が求めら れる。 平成 21 年 6 月に金融庁の企業会計審議会から公表された「我が 国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」では、プ リンシプル・ベースのIFRSが実務において適切に運用されるこ とを確保するためには、財務諸表の作成者は、各企業の実情等に応 じて、IFRSの適用に関する社内の会計処理方法を会計指針(マ ニュアル)等として具体化するなど、各般の準備が必要であるとし ている。また、監査人においても、IFRSに基づく財務諸表を適 切に監査できる体制が整備されることが必要であるとしている。 しかしながら、ルール・ベースの詳細な会計基準に慣れている我 が国において、原則主義による会計基準をうまく機能させていくた めには、会計基準の設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ) が中心となって、IFRSの個々の基準ごとに明確なルールが設け られているかどうかを検証し、IFRSの基準内容の改善や個々の 基準を補完する解釈指針の策定に向けて、IASBやIFRICに 対して強く意見を発信していくことが必要であると考えられる。ま た、我が国における現行の会計基準とIFRSとの相違点を個々の 基準ごとに検証し、IFRSの基本的な考え方を正確に理解するこ とも必要であると考えられる。 企業間で会計処理にばらつきが生じ、却って連結財務諸表の比較 可能性を損なうことのないよう、原則主義の考え方に基づくIFR Sをうまく適用していくための方策を講じていくことが喫緊の課題 であるといえる。 (2) 個別財務諸表に対するIFRSの適用の可否 IFRSは、上場会社の連結財務諸表への適用が前提とされてい る。このため、EU諸国においては、上場会社の作成する連結財務 諸表についてのみIFRSの適用が義務付けられている。また、個 別財務諸表については、税法や会社法の要請に応えるため、基本的

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には自国の会計基準により作成することとされている。米国におい ては、連結財務諸表のみを投資情報として開示することとされてい る。 ちなみに、米国、英国、ドイツ及びフランスにおける上場会社に 係る連結財務諸表及び個別財務諸表の作成基準の取扱いは、[図表 −5]のとおりである。 連結財務諸表の作成基準と個別財務諸表の作成基準は基本的に一 致させるべきであるという指摘も見られるが、我が国においても、 下記のような理由から「連単分離の考え方」により、連結財務諸表 についてのみIFRSを適用し、個別財務諸表は国内基準により作 成することが現実的であると思われる。 ① 国際的な比較可能性等の観点からは、個別財務諸表にIFR Sの任意適用を認めることについては、必ずしも必要性が高く ないと考えられること。 ② 個別財務諸表は、会社法上の分配可能額の計算や法人税法上 の課税所得の計算でも利用されており、IFRSを個別財務諸 表に適用することを検討する場合には、これらの制度との関係 の整理のための検討・調整の時間が必要となること。特に、法 人税法については、IFRSで個別財務諸表を作成する会社と 日本基準で財務諸表を作成する会社との間で課税の公平性をど のように確保するかという問題が生じること。(注 14) ただし、個別財務諸表については、IFRSとのコンバージェン スを推進し、主要な差異を縮小していく努力が必要であることは当 然である。 「連単分離の考え方」によると、国内基準で作成された個別財務 諸表をIFRSによるものに組み替えたうえで、連結決算手続を行 うことになる。 なお、連結財務諸表は個別財務諸表を基礎として作成されなけれ ばばらないという個別財務諸表準拠性原則があるが(「連結財務諸 表に関する会計基準」の一般原則二)、連結財務諸表の作成基準と

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個別財務諸表の作成基準とが異なるとしても、日本基準とIFRS とのコンバージェンスが推進され、作成上の基本的な枠組みに大き な相違点がない限り、同原則に違反するものではないと解される。 [図表−5] 主要各国における上場会社に係る連結財務諸表及び個別財務諸表の作成基準 米国 英国 ドイツ フランス 連結財務諸表 米国基準 (IFRSの適 用に向けて検討 中) IFRS IFRS IFRS 個別財務諸表 開示せず 英国基準又は IFRS ドイツ基準又はIFRS フランス基準 (3) 国際会計基準審議会の基準設定プロセスへの積極的な関与 IFRSを適用する場合には、国際会計基準審議会(IASB) における基準設定や国際会計基準委員会財団(IASCF)のガバ ナンスに関する我が国の国際的なプレゼンスを強化していくことが 重要である。また、IASBにおける基準設定に際しては、高品質 な会計基準が設定されるよう、その検討の早期の段階からIASB に対して積極的かつ効果的な意見発信を行っていくことが重要であ る。 このため、各界の意見を踏まえて我が国としての意見を適確に発 信していくよう、企業会計基準委員会(ASBJ)の体制をより一 層強化していくことが必要であると考えられる。また、我が国とし てのしっかりとした意見形成プロセスを確立していくことが必要で あると考えられる。 平成 21 年 7 月に、金融庁の支援を得て民間の推進機関である「I FRS対応会議」が発足し、その下に「IFRS対応検討委員会」、「教 育 ・ 研修委員会」、「翻訳委員会」、「個別財務諸表開示検討委員会」 及び「広報委員会」の5つの委員会が設置されたが、その機能発揮

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が期待されるところである。 そのうち、「IFRS対応検討委員会」においては、IFRSの 採用を前提として重要な会計基準作りに如何に関与していくか、そ の戦略及び具体的な行動について検討することとされている。 そのほか、平成 21 年 4 月に、国際会計基準委員会財団(IAS CF)の中に日米欧当局及び証券監督者国際機構(IOSCO)か らなるモニタリング・ボードが設置され、IFRSの設定における デュー・プロセス及び透明性について監視活動が行われている。 このように、IFRSの適用に向けて前向きな取り組みが行われ てきているが、IFRSの設定プロセスに積極的に関与し、我が国 の存在感を高めていくよう、官民を上げてしっかりとした国内体制 を構築していくことが必要であると考えられる。EU諸国は、金融 商品会計についてIFRSの一部分を修正ないし除外(カーブアウ ト)したものを適用しているが、我が国においても、IFRSの内 容に問題点が認められる場合にはカーブアウトすることも視野に入 れて検討すべきものと考えられる。 (4) 米国との連携の強化 IFRSの設定主体である国際会計基準審議会(IASB)と 米国会計基準の設定主体である財務会計基準審議会(FASB: Financial Accounting Standars Board)は、2002 年 10 月に相互の 会計基準の差異を中長期的に収斂させていくとの合意を行ってい る。(注 15) IASBとFASBは、当該合意に基づき、IFRSと米国会計 基準との統合を図るため、統合化プロジェクトを進めてきているが、 金融商品、収益認識、リース等に関する諸基準についてコンバージェ ン作業に大幅な遅延が生じており、その完了日は 2013 年以降に延 期されている。 米国の会計基準については、我が国と同様、規則主義(ルール・ べース)の考え方が採用されている。このため、米国におけるIF

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RSの採用を巡る議論の動向を十分に注視した上で、我が国として の具体的な対応を慎重に判断していくことが肝要であると考えられ る。当面、米国が今後どのような決定を行うかが、重要なキーポイ ントになるものと思われる。 平成 18 年5月以降、我が国の会計基準の設定期間である企業会 計基準委員会(ASBJ)と米国における会計基準の設定期間であ る財務会計基準審議会(FASB)との間で定期協議が開催されて きているが、IFRSを適用していくうえでの諸課題等について、 十分に協議を行っていくことが必要であると考えられる。 国際会計基準審議会(IASB)では、金融危機を背景としてI FRSの見直しの議論が活発に行われているが、我が国の上場会社 が連結財務諸表の作成上IFRSを採用するためには、IFRSの 内容が世界に通用する高品質なものであることが前提となる。この ため、米国FASBとの連携を保ちながら、我が国としての意見を 積極的に発信していくことが必要である。 (5) IFRSに関する教育 ・ 研修の充実等 我が国上場企業の多くは、現在IFRSの採用を視野に入れて 準備を進めているが、我が国においてはIFRSに関する理解は未 だ十分に深まっているとは言えないのが実情である。しかしながら、 IFRSは世界標準となる会計基準であり、世界的な流れはIFR Sを適用する方向にある。このため、我が国においても、IFRS に関する教育・研修の充実及びIFRSに精通した人材の育成が急 務である。また、XBRLによる電子開示の機能の充実(EDIN ET向けのタクソノミの開発等)や監査基準の国際的統一化等のイ ンフラ整備に向けて、官民一体となって積極的に取り組んでいくこ とが必要である。 IFRSを強制適用するためには、これらの環境整備が必要不可 欠であり、計画性のある取り組みが求められるところである。

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(6) 上場会社以外の会社へのIFRSの適用の是非 会計制度は、上場会社のみならず非上場会社にとっても、経営 上の重要なインフラストラクチャーである。しかしながら、非上場 会社は、上場会社と比べてグローバルな投資対象になっていないの が一般的である。とりわけ、我が国の株式会社の大半を占める中小 企業については、決算情報などの会計情報の開示先が限定されてい るほか、経理担当者の会計に対する知識や人員体制も十分でないの が実情である。このため、上場会社の子会社や株式の上場を計画し ている非上場会社などを除き、IFRSに基づいて財務諸表等を作 成することのニーズは乏しいものと思われる。 この点について、平成 22 年 4 月に金融庁から公表された「国際 会計基準(IFRS)に関する誤解」では、非上場の中小企業など に対するIFRSの強制適用は、将来的にも全く想定していない とされている。また、上場会社の連結財務諸表にIFRSを適用す る場合、非上場の連結子会社等は親会社に対してIFRSを適用す るうえで必要な情報を提供する必要があるが、その場合であっても、 連結子会社等が作成する財務諸表にIFRSの適用を強制すること はないとされている。 IFRSによる原則主義の考え方や高レベルの認識・測定原則は、 会計知識の乏しい役職員には過大な負担や困難性をもたらすほか、 IFRSの導入による会計と税務の乖離は中小企業の会計実務を混 乱させる恐れもあり、上記の取扱いは、極めて妥当なものであると いえる。 他方、平成 23 年 2 月に中小企業庁と金融庁との共同により「中 小企業の会計に関する検討会」が設置され、現在、中小企業の会計 処理の在り方やその普及方法等について検討が進められている。中 小企業についてはIFRSを適用する必要性は乏しいものと思われ るが、中小企業の身の丈に合った実効性のある会計基準が確立され ることが望まれる。

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6.会社法上の会計監査対象会社の範囲の拡大

会社法における会計監査人(公認会計士又は監査法人)による会 計監査は、昭和 49 年に制定された「株式会社の監査等に関する商 法の特例に関する法律(監査特例法)」により導入されたものであ るが、当初は、資本金が 5 億円以上の株式会社に対象が限定されて いた。ただし、本法の附則により、証券取引法の適用を受けていな い株式会社で資本金の額が 10 億円未満のものについては、経過措 置として会計監査を義務付けないこととされていた。 その後、昭和 56 年の監査特定法の改正により、経過措置が廃止 されるとともに、負債総額が 200 億円以上の株式会社についても会 計監査人による会計監査を義務付けることとされた。つまり、資本 金 5 億円以上の株式会社及び負債総額 200 億円以上の株式会社が大 会社と定義され、会計監査人による会計監査の対象会社が拡大され た。 平成 18 年 5 月から施行されている会社法においても、会計監査 人による会計監査の適用範囲については、そのまま踏襲されている (会社法第 328 条、第 436 条第 2 項)。すなわち、昭和 56 年の監査 特例法の改正以降、今日まで約 30 年余りの年月が経過しているが、 適用範囲の見直しが行われないまま現在に至っている(注 16)。ち なみに、資本金 5 億円以上の株式会社及び負債総額 200 億円以上の 株式会社は、約 250 万社の株式会社のうち、約 1 万社にとどまって いる[図表− 1]を参照。 しかしながら、[図表− 6]に示したとおり、公認会計士の数は、 昭和 60 年 3 月末時点では 7,628 人であったが、平成 24 年 3 月末時 点では 23,139 人となっており、近年大幅に増加している。監査法 人数についても、大幅に増加している。金融商品取引法の適用を受 けない会社法上の大会社については、上場会社に比べて一般的に利 害関係者が少なく、計算書類等の利用者は株主、金融機関、取引先、 税務当局などに限定される場合が多いものと思われる。しかしなが

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ら、株式会社の作成する計算書類及び連結計算書類の適正性につい て、会計監査人による会計監査を受けることは、決算内容の透明性 を高めることに繋がり、株主や会社債権者にとって、極めて有用で ある。また、株式会社の経営面や対外的な信用度の向上の観点から も極めて有用である。 負債総額が多額にのぼっている会社についても、会社債権者の保 護の観点から会計監査人の監査を義務付けることが適当である。た だし、現行の負債総額 200 億円以上という金額基準についは、これ が妥当であるか疑問が持たれるところである。 このため、現行の資本金基準及び負債基準を大幅に引き下げ、会 計監査人による会計監査対象会社の範囲を拡大することについて前 向きに検討されることが必要であると考えられる。 近年、公認会計士試験合格者の監査法人等への未就職問題が顕在 化しているが、会計監査対象会社の範囲の拡大が図られることは、 当該問題への対応策としても、有益である。 [図表−6]我が国における公認会計士数及び監査法人数の推移 年 月 公認会計士登録数 監査法人 昭和 50 年 3月末 昭和 60 年 3月末 平成 5 年 3月末 平成 10 年 3月末 平成 15 年 3月末 平成 20 年 3月末 平成 22 年 3月末 平成 24 年 3月末 4,927 人 7,628   9,682   11,723   14,246   17,924   20,051   23,139   34 法人 88    121    135    146    182    198    213    (日本公認会計士協会調べ)

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7.適正な会計・ディスクロージャーを確保するため

のエンフォースメントの強化

近年、オリンパス事件をはじめ、世間を震撼させる開示書類の虚 偽記載事件が多発している。また、子会社における会計不祥事も多 発している。 違反行為の抑止を図り、適正な会計・ディスクロージャーを確保 するためには、以下のとおり、刑事罰や課徴金制度の見直しを行い、 エンフォースメントの強化を図っていくことが必要であると考えら れる。 (1)計算書類等の虚偽記載に対する罰則の強化 金融商品取引法では、継続開示種類である有価証券報告書及び発 行開示書類である有価証券届出書に重要な虚偽記載があった場合に は、10 年以下の懲役もしくは 1,000 万円以下の罰金に処し、又はこ れを併科するとして重い刑事罰を科すこととされている(同法第 197 条第 1 号)。 なお、重要な虚偽記載に該当するかどうかについては、その虚偽 記載が投資者の投資判断を誤らせるような情報を形成しているかど うか(つまり、もしその虚偽記載がなければ、投資者の投資判断が 変わっていたと考えられるかどうか)という観点から判断するもの と一般に解されている。 上記の罰則規定については、最近では平成 9 年 12 月の証券取引 法の改正及び平成 18 年 6 月の証券取引法の改正により、罰則の大 幅な強化が図られている。ちなみに、平成 18 年 6 月の証券取引法 の改正前においては、有価証券報告書及び有価証券届出書に重要な 虚偽記載があった場合には、5 年以下の懲役もしくは 500 万円以下 の罰金に処し、又はこれを併科するとされていた。 他方、会社法では、貸借対照表、損益計算書、事業報告等の虚偽 記載を行ったときは、特別背任罪が成立する場合を除き、100 万円

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以下の過料を課することとされており、罰則の内容が著しく低く なってぃる(同法第 976 条第 7 号)。(注 16) このような金融商品取引法と会社法との罰則規定のアンバラン スは極めて問題であると言える。金融商品取引法の適用を受けな い会社についても、適正な会計・ディスクロージャーが行われる よう、会社法における罰則規定の大幅な強化が行われることが必 要であると考えられる。 (2)会計監査人による会計監査義務を怠った場合の罰則の強化 会社法では、会計監査人による監査が義務付けられている大会 社及び委員会設置会社がこれを怠った場合には、計算書類の虚偽 記載の場合と同様、100 万円以下の過料を課することとされてお り、罰則の内容が著しく低くなっている(同法第 976 条第 22 号)。 すなわち、会計監査人による会計監査を受けるよりも、過料を払っ た方が経済的負担が小さくなるため、会計監査人監査の対象企業 のすべてが監査を受けているとは限らないのが実情である。 例えば、平成 23 年 2 月に会社更生法の申請を行った株式会社 林原(本社は岡山市)は、負債総額が多額であり会社法上の大会 社に該当していたにもかかわらず、会計監査人を設置せず、長年 にわたり悪質な粉飾決算を繰り返していたことが発覚した。多額 の融資を行っていた金融機関の審査体制についても、大きな疑問 が投げ掛けられたところである。 このような不祥事が発生したことも踏まえ、会計監査人による 会計監査義務を怠った場合の会社法上の罰則規定について、大幅 な強化が行われることが必要であると考えられる。 なお、融資を行う金融機関においても、与信管理上、融資先の 非上場の大会社が会計監査人の会計監査を適切に受けているかど うか、十分に確認することが求められる。

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(3) 課徴金の金額の引き上げ 現在、金融庁の企業会計審議会において、会計不正に対する 監査手続の強化を図るため、「監査における不正リスク対応基 準」の設定に向けて審議が行われてきている。(注 17)しかしながら、 有価証券報告書等の虚偽記載の抑止を図るためには、公認会計士 等による監査手続の強化に加えて、実行者に対するエンフォース メントの強化策を併せて講じることが必要であると考えられる。 具体的には、有価証券報告書等の虚偽記載を防止する市場環境 を醸成するため、課徴金の金額を引き上げることが強く求められ る。 課徴金制度は金融商品取引法上の一定の規定に違反した者に対 して金銭的負担を課する行政上の措置であるが、有価証券報告書 及び有価証券報告書の虚偽記載に係る現行の課徴金の額は次のよ うになっている。(注 18) ① 有価証券報告書(金融商品取引法第 172 条の4) 600 万円又は虚偽記載時の株式の時価総額の 0.006%(10 万分の6)相当額のいずれか多い額。 ② 有価証券届出書(法第 172 条) 募集又は売出しにより取得させた有価証券の発行価額又は 売出価額の 2.25%相当額。ただし、株券及び優先出資証券に ついては、価格変動の幅が大きいことを考慮し、発行価額又 は売出価額の 4.5%相当額。 現行の課徴金の水準については、違反者が違反行為により得た 不当な経済的利得を勘案しながらも、違反行為の抑止のために必 要かつ合理的と思われる額に設定するとの基本的考え方が採られ ている。(注 19) しかし、違反行為を抑止する観点からは、違反行為者の得た経 済的利得に必ずしも捕われる必要はなく、課徴金の金額を大幅に 引き上げることが効果的である。 平成 15 年 12 月に金融庁の金融審議会において取りまとめられ

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た「市場機能を中核とする金融システムに向けて」と題する報告 書では、課徴金の水準について、次のように提言されている。 「課徴金の水準としては、ルール破りは割りに合わないと いう規律を確立し、規制の実効性を担保するため、少なくと も違反行為による利得の吐き出しは必要であるが、違反行為 が市場への信頼を傷つけるという社会的損失をもたらしてい ることをも考慮し、抑止のために十分な水準になるよう検討 すべきである。」 また、平成 24 年 9 月の金融商品取引法の改正により、虚偽の 開示書類等の提出に加担して報酬を受けている外部協力者につい ても、課徴金を科すとの画期的な改正が行われた。当該外部協力 者には、関与行為の対価として支払われた額相当額の課徴金を科 すこととされている(金融商品取引法第 172 条の 12 第 1 項)。 しかしながら、粉飾決算等に対する抑止力を強化するためには、 外部協力者についても課徴金の金額を大幅に引き上げ、適正な情 報開示を確保するための市場環境を整備することが必要であると 考えられる。

8.内部統制の充実・強化及び情報開示の促進

近年、連結決算の対象となっている子会社における会計不祥事 (架空売上の計上、棚卸資産の過大計上、循環取引による架空売 上及び架空売上原価の計上など)が多発している。(注 20) これは、親会社による監視が子会社に対して十分に行き届いて いない面があるほか、子会社におけるガバナンス体制や内部統制 の整備の遅れに起因するものであるといえる。このため、子会社 に対するモニタリングを強化し、企業グループ全体として実効性 のある内部統制を整備していくことが求められる。 資本市場を通じて多大な恩典を享受している上場会社は、内部 統制を含むコーポレート・ガバナンスの機能強化に向けて、傘下

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の子会社を含め、企業グループ全体として計画的に取り組んでい くことが必要である。 また、我が国上場会社に対する内外の投資者からの信頼性を向 上させ、健全な資本市場を構築していくためには、内部統制を含 むコーポレート・ガバナンスの機能強化に向けて企業グループ全 体としてどのように対処しているのか、経営者の取組みの状況に ついて広く資本市場に発信し、説明責任を十分に果たしていくこ とが極めて重要であると考えられる。しかしながら、この点につ いては、十分な情報開示が行われているとは言えないのが実情で ある。 内部統制の整備に終点はなく、より一層の水準向上に向けて中 長期的に取り組んでいくとともに、その状況について積極的に開 示していくことが肝要である。このことについて、経営者が十分 に認識し、上場会社全体の情報開示が促進されることが期待され る。  

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(注1) 「中小企業の会計に関する指針」は、下記の会社を除く株式会社につ いて適用することとされている(同指針第 4 項)。   ① 金融商品取引法の適用会社並びにその子会社及び関連会社   ② 会計監査人を設置する会社(大会社以外で任意で設置する株式会   社を含む)及びその子会社 (注2) 平成 16 年 12 月にジャスダック証券取引所が設立されたことに伴い、 現在店頭登録会社に該当する会社は存在しない。なお、ジャスダック 証券取引所は、平成 22 年 4 月に大阪証券取引所に吸収合併されている。 (注3) 平成 10 年 6 月に公表された「商法と企業会計の調整に関する研究会 報告書」(大蔵省と法務省との共同研究会報告書)のⅠの 1 を参照。 (注4) 郡谷大輔・和久友子編著『会社法の計算詳解(第 2 版)』、中央経済社、 (平成 20 年5月)、5頁。 (注5) 早稲田大学の上村達男教授は、有価証券報告書適用会社にあっては、 原則として金融商品取引法上の情報開示制度を会社法上の制度として 認知するといった抜本的な解決が必要である旨指摘されている(「会社 法制と資本市場」『商事法務 1940 号』(平成 23 年 11 月)、9頁。 (注6) 米国においては、個別財務諸表の開示は不要とされている。 (注7) 平成 20 年 10 月に公表された経団連意見書では、「国際的な整合性が 特に求められている金融商品取引法上の財務諸表開示は、可能な限り 連結財務諸表に一本化し、個別財務諸表に関する開示は抜本的な簡素 化を図っていくべきである。」としている。 (注8) 国際財務報告基準(IFRS)は、ロンドンに本部を置くIASB (International Accounting Standard Board )によって設定されてい る。IASBでは、会計基準の設定に関する高度な専門能力を有する 16 名の理事が世界 10 か国から選任されており、わが国からも 1 名が理 事として選任されている。 (注9) 最近では、カナダ及び韓国が、上場会社の連結財務諸表について 2011 年からIFRSを採用している。また、ロシア、シンガポール及 びメキシコも、2012 年からIFRSを採用している。ただし、米国及 び中国は、財務報告制度にIFRSを取り込むかどうかについて現時 点では結論を出していない。 (注 10) 企業会計基準委員会(ASBJ)は、民間団体が会計基準を設定し ている主要先進国の実情を踏まえ、2001 年 7 月に発足した民間の会計 基準設定主体である。 (注 11) 平成 25 年 2 月に企業会計基準委員会(ASBJ)から「連結財務諸 表に関する会計基準」の改正案(公開草案)が公表され、IFRSと同様、 子会社の少数株主に帰属する損益について、経済的単一体説に基づく 会計処理方法(当期純利益に含めて計算する方法)に改めることが提 案されている。 (注 12) 鶯地隆継「原則主義への対応と解釈指針の役割」『企業会計』Vol.20 No.61(平成 21 年 3 月)35 頁。 (注 13) 高浦英夫監修『IFRS』、東洋経済新報社、(2009 年 1 月)、22 頁。

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(注 14) ドイツでは、国内企業がIFRSを利用して個別財務諸表を作成す ることが認められているが、その場合でも、国内基準に従った個別財 務諸表を税務等の目的のために別途作成することが要求されている。 (注 15) 当該合意は、米国の財務会計基準審議会(FASB)の拠点である コネティカット州のノーウォークで行われたため、「ノーウォーク合 意」と呼ばれている。 (注 16) 取締役等の役員が、自己若しくは第三者の利益を図り、又は株式会 社に損害を加える目的で粉飾決算を行い、当該株式会社に財産上の損 害を加えたときは、特別背任罪が成立することになる。特別背任罪に ついては、10 年以下の懲役若しくは 1,000 万円以下の罰金に処し、こ れを併科することとされている(会社法第 960 条)。 (注 17) 平成 24 年 12 月に、企業会計審議会から、「監査における不正リスク 対応基準(案)」が公開草案として公表されている。 (注 18) 平成 20 年 12 月から、証券取引等監視委員会、金融庁若しくは財 務局による検査又は報告の徴取が行われる前に、証券取引等監視委員 会に対して違反事実に関する報告を行った場合には、課徴金の額を上 記金額の半額に減額することとされている(法第 185 条の 7 第 12 項)。 また、違反行為を繰り返した者については、課徴金の額を 1.5 倍するこ ととされている(法第 185 条の 7 第 13 項)。 (注 19) 三井秀範編著『課徴金制度と民事賠償責任』、金融財政事情研究会、 (2005 年 1 月)、13 頁。 (注 20) 循環取引とは、商品等を実際には動かさず、複数の企業がお互いに 通謀して、伝票操作により商品等の転売を繰り返すことにより、架空 売上げ及び架空原価を計上する取引手法をいう。 [後記] 梶浦桂司教授とは、北海道大学会計専門職大学院で勤務してい た平成 18 年の秋に知り合い、短い期間ではあったが、公私にわ たり親しく交流させて頂いた。同会計専門職大学院での集中講義 でゲストとして特別講義を行ってもらうなど、たいへんお世話に なった。誠実で優しいお人柄であり、大切な友人の一人としてお 付き合いしていただけに、この度の突然のご逝去は残念でならな い。 拙い論文であるが、本稿を梶浦先生に捧げたい。

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