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福井県内のいくつかの地域の地質 : その9:越前中央山地北西部の地質 利用統計を見る

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 (キーワード:越前中央山地,火山岩地帯,吉野ヶ岳,中新世,福井県) * 福井大学地域環境研究教育センター学外協力メンバー  株式会社サンワコン (918-8525 福井市花堂北1丁目7番25号) はじめに 福井県の嶺北地域の中央を占める越前中央山地の地質は比較的単純で,中生代以前の岩石・地層と 新生代の岩石とに明瞭に区分することができる.中生代以前の岩石は飛騨片麻岩,古期花崗岩,手取 層群,足羽層,それに濃飛流紋岩であり,九頭竜川左岸と足羽川沿いに狭小に分布している.これら を被覆し,広い範囲に分布するのが,中新世の火山岩類である.この火山岩類は安山岩質岩石(溶岩, 火山角礫岩,火山礫凝灰岩,凝灰角礫岩,凝灰岩)からなるが,一般の堆積岩とは異なり,地層面が 認識できないこと,化石を含まないことなど火山岩特有の問題から地域地質の研究が進まず,地質体 の細分も行われず,今まで「越前中央山地の安山岩類」として一括され,層序や構造は不明のままで あった.例えば,中央山地の安山岩類に関する走向・傾斜は表層地質図「永平寺」図幅の中で 2 地点 での測定場所が示されているのみであり,化石産地としても「永平寺」図幅に 2 地点が示されている のみである(化石名に関する言及はない)(吉澤,1998).中央山地全体の安山岩類は丹生山地の糸生 層に対比されてきた(三浦,1979:三浦・東,1974:服部・東,1987/88:吉澤,1988).越前中央山 地の河川沿いに分布する第四系については,吉澤(1998),吉川(1987/1988,1998)それに服部(2016) の報告がある. 著者は,実質的に今まで未区分であった越前中央山地の第三紀層のうち,北西部の福井市と永平寺 町との境界部の地質を調査した.その結果,今まで地質細分がされてこなかったこの地域の地質を細 分し,不完全ながら地質図に示すことができた.この報告では現在までの調査結果を提示し,今後の 詳細な地質研究の第一歩としたい.越前中央山地は,第三系分布域,火山岩地帯であり,筆者はこれ らの分野を専門としていない.そのためこの報文ではこれらの分野の専門家の要望には十分応えられ ていないと思われるが,お許し願いたい. 越前中央山地 図 1 に越前中央山地の位置とその中での今回の調査地域を示し,図 2 にこの地域の地質分布を示す. この山地の基盤をなす先新生代基盤岩類と中新世初頭の西谷層は九頭竜川と足羽川沿いの低地に分布 するのみである.基盤岩の上面はおそらく北西に向かって緩く傾斜している.そのため,今回の調査 地域である中央山地の北西部には基盤岩類は露出しない.中央山地に分布する安山岩類は糸生層に含 まれるとされている(三浦,1991). 糸生層に対比される安山岩類は溶岩,岩脈,それに火砕岩や火山砕屑物が主体であるが,場所に より火山円礫岩も存在する.安山岩類が作る中央山地の地形面も緩く北西に傾斜している(服部, 2016).地形面の凹凸から判断すると,現在の安山岩類の最も厚いところで厚さは 1000m 近いが,そ れは表層部が削剥された結果であるので,火山活動終了直後(中新世前期末頃)にはそれを超える厚 No.24,1 - 13,2017

Geology of A Few Areas in Fukui Prefecture

Ⅸ:Geology of the Northwestern Part in the Central Echizen Mountains (Echizen Chuosanchi)

福井県内のいくつかの地域の地質

― その 9:越前中央山地北西部の地質 ―

服部  勇

* Isamu Hattori 福井大学地域環境研究教育センター研究紀要 「日本海地域の自然と環境」

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さがあったと思われる.すなわち火山岩山体の上部は削剥され,下部のみが残存しているのであろう. しかし,基盤面も地形面も北西に傾斜しているので(服部,2016),今回の調査地域である中央山地 北西部には比較的上部が残されているはずである.以下の記載では,地層という用語を火山地帯の岩 石単位や層序学的単位に用いる.しかしながら,ここでいう地層は,斜面に堆積し,その広がりは平 面的ではなく,岩相変化が著しく,さらに,離れた場所に同時に堆積する場合がある.そのため,地 層という表現があっても水成岩の地層(水平に堆積した,水平な広がりをもつ)とは異なる性格をもっ ている. 図1.福井県越前中央山地を示すインデックスマップ(左上)と中央山地の中での調査範囲

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図2.‌‌越前中央山地北西端部の地質図.番号は推定される積成順序(堆積順序).主要な構成岩石は,‌ ①:安山岩溶岩・火山角礫岩,①’:安山岩溶岩・火山角礫岩,②デイサイト質溶結凝灰岩, ③成層した凝灰岩・安山岩・凝灰角礫岩,④:安山岩,凝灰角礫岩・火山礫凝灰岩,⑤:デイ サイト質火砕岩・凝灰岩・礫岩・安山岩溶岩.南部の茶色の層は挟まれる安山岩溶岩・火山角 礫岩,⑥デイサイト質溶結凝灰岩,⑦:安山岩溶岩,火山角礫岩,凝灰角礫岩.A - B など は断面位置を示す.ベースマップは国土地理院の地理院地図を用いた. 福井県内のいくつかの地域の地質 その 9:越前中央山地北西部の地質

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調査地域の地質 上述したように,この地域はかつての陸成の火山岩地帯であり,火山山体の上部が失われている. そのため地質図作成に際しては,水成層を対象とした地質調査とは異なる困難さが存在する.例えば, 火山体そのものが残されている富士山の地質図(高田ほか,2014)では約 200 のユニットに分類され ているが,その地層単位の分布は線状であったり,不定形であったりし,同じ地層が離れて分布して いる.それらの傾斜は山体の斜面勾配に近いはずであるので,30°程度はあるであろう.さらに一連 の地層が異なる標高に定置される.すなわち,火山岩地帯では,堆積岩地域のような地質調査法が採 用できない.堆積岩地帯の調査でもっとも有効な地層面の姿勢(走向・傾斜)に過度に依存すること はできない.希に測定される地層面らしき面構造の走向・傾斜から推定される地層の分布と踏査から 得られる分布とは一致しないことがある.さらに,この地域では面構造が示す地層の傾斜と地形面の 勾配が類似していることであり,地質図学的に求めた走向線は傾斜のわずかな違いで大きく振れるこ とになってしまう. 一般的に,安山岩質-デイサイト質噴出岩は表面が多孔質のクリンカーに覆われたアア溶岩からな り,溶岩末端岩・溶岩側端崖・溶岩じわ・溶岩堤防・溶岩条溝・溶岩裂け目・溶岩滑落崖をもった舌 状の形態をとり(守屋,1978,1984),さらに火山礫凝灰岩・凝灰角礫岩・凝灰岩などの層状部も伴う(久 城ほか,1989).このような火山岩の多様な産状については日本火山学会(1984 編)にまとめられて いる. この地域の岩石は安山岩質~デイサイト質ということで一括されるが,風化が著しく,植生が繁茂 するので,露頭状態が極めて悪く,岩石の区別が難しい.火山角礫岩などでは,ハンマーで叩いて新 鮮部を露出させ観察するが,叩く場所によって岩石名が異なる.また,火山角礫岩と溶岩が判別でき ない場面も多い.さらに溶岩と岩脈の区別がほとんど不可能である.凝灰角礫岩,凝灰岩など堆積岩 に近い岩石でも,この地域では岩相変化が激しく,地層の追跡が不可能な場合が多い.結論的には, 一枚一枚の溶岩流・火砕岩を対比することは不可能であった.今回の調査では,踏査できる林道や沢 図3.調査地域の地質断面図.地層・岩石の色調は地質図と同じ.断面位置は地質図に示されている.

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図4.‌‌調査地域内で観察された堆積岩およびデイサイトの溶結構造の走向および岩石写真の露頭位置. 地層の傾斜角度は示されていないが,多くは西方向(北西,西,南西方向)に傾斜し,その角 度は 20°程度である.活断層(松岡断層)の位置は廣内(2003)を参考にした.

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写真1.‌‌A.地質図で①とした安山岩溶岩・安山岩質火山角礫岩・凝灰角礫岩に含まれるデイサイト 質火山角礫岩.礫の部分は溶脱し,マトリックスの部分が浮き上がっている.吉野ヶ岳東の谷. B.越前高田北の林道沿いの安山岩質凝灰角礫岩に含まれる花崗岩質岩石の小片(ピンク色). 今回の調査で基盤岩由来の岩片と判断されたものはこの小片のみであった. 写真2.‌‌鳴滝北西および林道篠尾線に露出した成層岩.③に分類される.A.鳴滝北西の上側の林道 沿いの露頭.白色と紫色の凝灰岩層.B.篠尾町北東の林道篠尾線の谷沿いの露頭.ハンマー 位置の地層は細粒凝灰岩,その上の地層は粗粒凝灰岩.C.鳴滝北西の上側の林道沿いの露頭. 白色細粒凝灰岩の層理面に沿って植物化石の破片が残っている(鉛筆の根元).D.鳴滝北 西の下側の林道沿いにおける成層した硬質細粒凝灰岩.

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などを隈なく調査し,近接する類似岩の分布を定めるという方法を採用した.岩石の顕微鏡観察は行っ ていない.岩石鑑定はもっぱら肉眼鑑定である.このようにして作成した地質図を図 2 に,地質断 面図を図 3 に示す.露頭写真の位置を図 4 に示す. ①と①’は安山岩溶岩と火山角礫岩を主体とする.火山灰や凝灰角礫岩は僅少であり,地層の姿勢 は判然としない.全体として塊状である.岩石の色は大部分が緑色から黒緑色,青緑色であり,赤色 のものはほとんど存在しない.量的には少ないが,溶結したデイサイト質火山角礫岩が含まれる(写 真 1-A).安山岩質火山角礫岩の場合もデイサイト質火山角礫岩の場合も,含まれる角礫は安山岩質 であるが,岩質的には複数種のものが混在している.極めて希に花崗岩起源と思われる小岩片が含ま れる(写真 1-B).①と①’は分布域が足羽川の北側と南側に別れて分布しているが,類似の岩石か らなり,本来一体のものであろう. ②はデイサイト質の溶結凝灰岩であり,火砕流起源であろう.白灰色を呈している場合が多い.強 く溶結しており,溶結時にできたと思われる面状のユータキシティック組織とよばれる圧密構造ある いは溶結構造(久城ほか,1989:久野,1976)あるいは溶結後堆積面(横山,2003)が存在する.一 般には流理構造と記載される場合も多い.この溶結凝灰岩は数 cm 以下のサイズの角礫を多く含む. 地層の分布は断続的であり,地層の厚さは薄く,厚いところで 20m 程度である.ユータキシティッ ク組織が示す走向・傾斜は地層の分布とは必ずしも一致しない.現地踏査によれば,この地層は緩く 写真3.‌‌鳴滝北西の上側林道の開削時に切り出された岩片(③に含まれる).A.白色細粒砂層と黒 色泥層が細互層し,さらに白色層が黒色層に注入している.B.薄い黄褐色の細礫層(上 2 層)と泥質層(下 2 層)が黒色泥層と互層している.C,D.切り出し岩片の破断面(層理面) に残されている植物化石の破片.これらの写真は,この地層が水域に堆積し,近くに植物が 生育していたことを示す. 福井県内のいくつかの地域の地質 その 9:越前中央山地北西部の地質

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西に傾斜し,①を被覆している.なお,溶結凝灰岩が示すユータキシティック組織については久野 (1976),久城ほか(1989)および横山(2003)などに説明がある. ③はこの地域で唯一の成層岩である(写真 2-A,B).安山岩溶岩や凝灰角礫岩を挟みながら,細 粒から粗粒の凝灰岩層の繰り返しである.淡い赤紫色や白色を呈している.各単層の厚さは数 cm か ら 1m 程度である.単層の内部には白色凝灰質泥岩と黒色細粒泥岩が互層状に繰り返す場合もある(写 真 2-C,D).地層の断面には級化層理や斜交葉理さらには波型葉理などが観察できる(写真 3-A,B). 鳴滝(ナルタキ)の北西の林道沿いの露頭や林道敷設の際に取り出された岩石片には炭化した植物破 片の化石が含まれる(写真 3-C,D).稲,笹,竹などに類似した植物破片が多いが,有棘広葉も存 在する.化石名は不明である.本層は明らかに水成岩であり,ある時期にこの地域に湖のような水域 が存在したことを示す.その地層面は本来水平であったに違いないが,現在の地層の姿勢は緩く北西 に傾斜する.②と③の上下関係は不明であるが,ほぼ同時期のものであろう. ④は安山岩質の岩石であり,安山岩溶岩,火山角礫岩のほかに火山性砕屑岩,すなわち凝灰岩や凝 灰角礫岩を多く含む点,さらに希ではあるが円礫岩も含む点において①とは区別される(写真 4-A,B, C,D).凝灰岩などを含むので,露頭において地層面が観察される場合があるが,場所々々の走向・ 傾斜は全体の地層分布とは必ずしも一致しない.この安山岩岩質の岩石は,その全体的分布から,② と③より上位にあると判断される. 写真4.‌‌地質図において④に区分された安山岩,凝灰角礫岩・火山礫凝灰岩とされた地層の露頭写真. A,B,C は高尾町入り口.D は篠尾町北東の篠尾谷の中.A.火山角礫岩.溶結し,塊状になっ ている部分は硬質で,突出している.溶結していない部分は個々の角礫が認められる.B. 火山角礫岩中の軽く円磨された安山岩礫.C.火山角礫岩の風化面.角礫と亜角礫が混在し ている.また,岩石色も多様である.D.火山角礫岩中に希に存在する円礫岩.

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写真5.‌‌地質図において⑤に区分されたデイサイト質火砕岩・凝灰岩・礫岩・安山岩溶岩の露頭写真. A.軽く溶結したデイサイト質火山礫凝灰岩(火砕流堆積物).東山墓地東端.B.軽く溶結 したデイサイト質火山礫凝灰岩(火砕流堆積物).松岡小畑.C.溶結したデイサイト質火 砕流堆積物.緑色の不定形物は火山ガラスが変質したものと思われる.松岡湯谷の廃棄物処 分場の大露頭.D.溶結凝灰岩,空隙の多い凝灰岩,そして礫岩へ移行する火砕流堆積物. 上吉野の福井工業大学グラウンドの向かい側.E.雑然と堆積した礫岩.左側の茶色の部分 は安山岩岩脈(厚さ 1m 程度).遠くから見ると,弱く成層しておりさらに弱い覆瓦構造が 認められる.松岡小畑.F.成層した火山礫凝灰岩(厚い地層)と細粒砂岩・泥岩(薄い部分). 東山清掃センター東側の峠. 福井県内のいくつかの地域の地質 その 9:越前中央山地北西部の地質

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⑤は灰色から薄緑色のデイサイト質凝灰角礫岩(茶色)とそれに含まれる安山岩溶岩・火山角礫岩(地 質図で褐色の層)である(写真 5-A,B).デイサイト質凝灰角礫岩は 10cm ほどの発泡した緑色軽石 を多量に含んだり,数 cm サイズの角礫を含んだりする(写真 5-C).ほとんど溶結していないので, 写真6.‌‌地質図において⑥に区分されたデイサイト質溶結凝灰岩.AからDは吉野ヶ岳南側の林道大 仏線沿いの露頭から.EとFは林道篠尾線の奥詰の露頭.A.角礫を含溶結凝灰岩.ハンマー の上の方に細く伸びた黒色ガラス質岩がある.B.角礫を多く含む部分.C.比較的細粒の ガラス質物質を含む部分.D.溶結凝灰岩中の細く伸びたパイプ状空隙.本来ガス穴であっ たか,あるいは細く伸びたガラス質物質が失われた痕跡かは不明.これらの写真全体(A- D)からこの溶結凝灰岩は高温の火砕流堆積物であったと思われる.E,F.多くの角礫を 含むデイサイト質溶結凝灰岩.⑥の溶結凝灰岩はこの地域でもっとも厚い.

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露出部では圧密面に沿って剥離しやすくなっている.風化に伴い粘土化している部分がある.⑤の内 部の地層も上下方向にも岩相変化が激しく,福井工業大学グラウンド(カールマイヤーグラウンド) の向かい側(北側)の県道脇の露頭では,下位の緻密な凝灰角礫岩から上方に向かって空隙の多い含 角礫凝灰岩,それに礫岩へ 20m 程の範囲で変化している(写真 5-D).松岡小畑の採石場跡地には大 きな露頭があり,そこには河川性と思われる巨礫を含む地層が露出している.最大礫の長径は 1m を 超えるが,大部分は数 10cm 程度の亜角礫から亜円礫であり,礫種は変化に富む(写真 5-E).本礫 岩は比較的若い河成段丘堆積物のように見えるが,安山岩岩脈に貫かれているので,中新世の礫岩と 判断される.この礫層は福井工業大学グランド対面の崖の上部の礫岩(写真 5-D の上部)と類似する. この礫岩はデイサイト質凝灰角礫岩の下位にあるように見える.福井工業大学グラウンドからゴミ焼 却場に向かう県道の峠の北側の露頭にはこの礫岩とは異なる級化層理を成す粗粒凝灰岩層が発達する (写真 5-F).これらの事実から,⑤の堆積時には狭いながら水域があったと思われる. ⑥は火砕流起源のデイサイト質溶結凝灰岩である(写真 6-A,B,C).吉野ヶ岳西および南の林道(林 道大仏線)や篠尾町から北東に向かう林道篠尾線の奥詰めに好露頭が存在する.層厚は厚いところで は 50m を超える.溶結度が高く,硬質である.溶結に伴う圧密面(溶結構造)が数 cm 程度の間隔 でよく発達する.また,それと平行に黒色のレンズやパイプ状空隙が存在する(写真 6-D).本岩に は最大で 20cm,多くは数 cm 程度の大小様々な角礫が数多く含まれる(写真 6-E,F).礫の岩石種 も多様である.本層は硬質堅固であり,谷筋では瀑布をなしたりし,一方地形斜面では突出している. 崩落物となっていても破断や風化を受けることがない.溶結度は南に高く,北に低くなるので,この 溶結凝灰岩を作り出した火砕流は南から流れたのであろう.本岩は①から④までの地層を被覆してい るが,⑤との関係は判然とせず,単なる溶結度の違いなのか,⑤が⑥も被覆しているのか,現時点で は不明である. ⑦はこの地域でもっとも若い安山岩類であり,溶岩や火山角礫岩を中心とし,本来は全ての地層を 被覆していたと思われる.露頭が乏しく,風化も著しいので,詳細は不明である.岩石の種類として は①や①’と区別が付かない. 地層の対比と構造および考察 この地域の地質の年代対比や地層対比は中新世の安山岩類であるということ以外は全く不明であっ た.今回の調査結果に基づいて 5 万分の 1 地質図幅「福井」の記載(鹿野ほか,2007)と比較するこ とにより,凡その年代を推定してみる. 本地域の地質の特徴として次の三点が挙げられる.植物化石を含む細粒凝灰岩が存在する(鳴滝北 西).デイサイト質溶結凝灰岩が存在する(吉野ヶ岳の林道大仏線,林道篠尾線).亜角礫から亜円礫 の淘汰不良の礫層が存在する(松岡小畑).火山角礫岩に含まれる礫は多源であり,中には円礫も存 在している. 鳴滝北西の植物化石は白色細粒の凝灰岩のほぼ地層面に沿って存在する.福井図幅地域の糸生層上 部には植物化石を含む淡水湖堆積物が存在する.東・古市(1976)によれば,福井市出村地区の糸生 層上部の凝灰質泥岩,凝灰岩で構成される地層から数多くの植物化石が見つかっている.それは針葉 樹を混交する阿仁合型植物群に含まれるという.Yabe(2008)は福井市志津川沿いで糸生層中の植 物群を詳しく調査し,全体的には阿仁合型から台島型への移行期のものであるとした.今回観察され た植物化石は破片であるが,そのいくつかは,素人目ではあるが,Yabe が示した化石写真の中に類 似したものが存在する. 林道大仏線や林道篠尾線に好露頭があるデイサイト質溶結凝灰岩には最大径 20cm 未満の赤色・黒 色の角礫や緑色の軽石あるいは細く延びた黒色のガラス質物質を含む.露頭によっては細く延びたパ イプ状の空気穴が存在する.堆積時にできた平行な圧密構造が広い範囲で認められる.溶結により硬 質になっている.このような特徴は福井図幅地域の足羽山に分布する糸生層上部の溶結火山礫凝灰岩 (笏谷石)に類似する. 福井県内のいくつかの地域の地質 その 9:越前中央山地北西部の地質

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加越山地(尾藤ほか,1980:安野,2014:安野ほか,2014)との比較も重要である.一般に島弧火山 の大部分は数万年から数十万年の寿命をもち,そのマグマも玄武岩質なものから最終的にはデイサイ ト質なものに変化させる傾向があり(東宮,1991),今回の調査で確認されたデイサイト質溶結凝灰 岩はこの地域の火山活動の末期を記すものであろう. 地質図に示されるように,足羽川の北側では地層は全体的に南北方向に分布しており,傾斜角 30° 未満で緩く西に傾斜している(図 4).しかしながら火山岩地帯であるので,地層の走向・傾斜から 詳細な地質構造を議論することはできない.比較的信頼できる地層の走向・傾斜から判断すると,①’ と⑦を除いて緩く S 字を描いているようにも読める.しかしながら,この程度の構造は火山岩地帯 ではごく普通のものであるかもしれない.少なくともテクトニックな地質構造として取り上げるよう なものではない.この地域の地質は,上述したように,5 万分の 1 地質「福井」図幅に分布する糸生 層の上部であり,一部国見層を含むかもしれない.福井図幅や表層地質「永平寺」を参考にし,さら に最近の安野(2014)と安野ほか(2014)の研究を加味すると,糸生層と国見層の境界は全体的には 福井市街地北西部から丸岡市街地を通り北東方向に延びている.上述の S 字構造も両層の境界が北 東へ延びていくことと関係があるかもしれない. 福井平野東部では福井地震の際に福井地震断層や福井平野東縁断層により西側陥没,左ずれの地殻 変動が発生した.吉野地区におけるこれらの断層に関係するこの地域の断層は廣内(2003)によって 詳細に解析されている.吉野地区の中央を流れる荒川に沿って松岡断層があるが,彼の解析によれば, 松岡断層は松岡町湯谷より南には追跡できない.今回の地質調査でも松岡町湯谷から南で地質の変位 は確認できなかった.小嶋・安井(2015)によれば新第三紀層(≒糸生層)の下面はこれらの断層に 沿って越前中央山地側に対して福井平野中央部側では約 1000m の沈降をしていると推定される.す なわち,吉野低地を走る松岡断層による地層の変位は小さなもので,福井平野に関係する陥没は中新 世半ばから活動している福井地震断層系がまかなっていると思われる. 謝 辞 この研究に関して,福井大学地学教室の諸先生からは多大な援助をいただいた.記して謝辞とする. 文 献 東 洋一・古市洋子,1976:古糸生湖の植物と古地理.福井市郷土自然科学博物館同好会報,23 号, 1-5. 尾藤章雄・早川俊之・絈野義夫・小笠原憲四郎・高山俊昭,1980:石川県加賀市付近の新第三系層序. 金沢大学教養部論集,自然科学,17 号,45-70. 服部 勇,2016:福井県内のいくつかの地域の地質 その 7:越前中央山地を流れる足羽川水系の形 成史.日本海地域の自然と環境,23 号,1-19. 服部 勇・東 洋一,1987/88:表層地質.土地分類基本調査「大野」5 万分の 1.福井県,18-32.

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廣内大助,2003:福井平野東縁地域の活構造と地形発達.地理学評論,76,119-141. 鹿野和彦・山本博文・中川登美雄,2007:福井地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅). 産総研地質調査総合センター,68p. 小嶋啓介・安井 譲,2015:常時微動観測に基づく福井平野の深部地盤構造の推定.自然災害科学, 33,359-374. 越廼村誌編集委員会,1988:越廼村誌.越廼村,905p. 久野 久,1976:火山及び火山岩.岩波,東京.283p. 久城育夫・荒牧重雄・青木謙一郎,1989:日本の火成岩.岩波,東京.206p. 三浦 静,1979:北陸地方新第三系下部の火山層序について.地質学論集,16 号,149-155. 三浦 静,1991:福井県の地形・地質概観.三浦 静教授退官記念論文集,1-9. 三浦 静・東 洋一,1974:北陸積成区における下部中新統に関する諸問題.福井大学教育学部紀要 Ⅱ(自然科学),24 号,15-24. 守屋以智雄,1978:空中写真による火山の地形判読.火山第 2 集,23,199-214. 守屋以智雄,1984:溶岩流 概説.in,日本火山学会(編):空中写真による日本の火山地形.東京 大学出版会,2-4. 日本火山学会,1984 編:空中写真による日本の火山地形.東京大学出版会,192p. 高田 亮・山元孝広・石塚吉浩・中野 俊,2014:富士火山地質図第 2版(Ver.1),地質調査総合センター 研究資料集,no.592,産総研地質調査総合センター. 東宮昭彦,1991:島弧火山の寿命に対応するマントルダイアピールの大きさ.火山,36,211-221. Yabe,A.,2008:PlantmegafossilassemblagefromtheLowerMioceneIto-oFormation,Fukui Prefecture,CentralJapan.MemoiroftheFukuiPrefecturalDinosaurMuseum,No.7,1-24. 安野敏勝,2014:福井県あわら市北東部の中新統から産出した哺乳類足跡化石.福井市自然史博物館 研究報告,61 号,11-16. 安野敏勝・中川登美雄・吉澤康暢,2014:福井県あわら市北東部の中新統から産出した貝類化石群集. 福井市自然史博物館研究報告,61 号,17-24. 横山勝三,2003:シラス学:九州南部の巨大火砕流堆積物.古今書院,177p. 吉川博輔,1988:地形分類図.土地分類基本調査「永平寺」5 万分の 1.福井県,13-20. 吉川博輔,1987/1988:地形分類図.土地分類基本調査「大野」5 万分の 1.福井県,13-17. 吉澤康暢,1988:表層地質.土地分類基本調査「永平寺」5 万分の 1.福井県,21-28. 福井県内のいくつかの地域の地質 その 9:越前中央山地北西部の地質

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