中国における農村資源を活用した観光開発による地
域活性化に関する研究ー遼寧省における都市近郊農
村及び中山間地域農村の意識調査を通じてー
著者
劉 蘭芳
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
国際地域学
報告番号
32663甲第353号
学位授与年月日
2013-09-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006461/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja19 氏 名( 本 籍 地 ) 学 位 の 種 類 報 告・ 学 位 記 番 号 学 位 記 授 与 の 日 付 学 位 記 授 与 の 要 件 学 位 論 文 題 目 論 文 審 査 委 員 劉 蘭 芳(中国) 博士(国際地域学) 甲第353号(甲国第16号) 平成25年9月25日 本学学位規則第3条第1項該当 中国における農村資源を活用した観光開発による地域活性化 に関する研究 −遼寧省における都市近郊農村及び中山間地域農村の意識調 査を通じて− 主査 教授 博士(工学) 岡 村 敏 之 副査 教授 博士(経済学) 坂 元 浩 一 副査 教授 博士(工学) 荒 巻 俊 也 副査 教授 理学博士 張 長 平 副査 元本学教授 博士(農学) 吉 永 建 治 【論文審査】 中国は目覚ましい経済成長を遂げる一方で、農村部では社会の疲弊による格差拡大や環 境破壊が顕在化している。しかし、中国の農村は豊かな自然、伝統文化、技術、景観など の資源に恵まれており、農村資源の潜在的な価値は高い。先進諸国ではこうした農村資源 を観光開発などの地域活性化に活用している一方で、中国では農村地域の潜在的な資源を 地域活性化のために開発し、有効利用する方策は未成熟の状況にある。 本論文は、中国の農村の豊かな資源を活用した農村の観光開発に着目し、中国の遼寧省 を対象として、農村の観光開発や地域活性化のために地域住民 ( 農村部、都市部 ) がどのよ うな意識を持ち、どのような活動を行っているかについて調査・分析することにより、農 村資源を活用した観光開発により地域を活性化していく方策を明らかにしようとするもの である。具体的には、調査対象地域を都市近郊農村と中山間農村に大別し、観光客 ( 訪問 客 )、地元農民、都市住民のそれぞれの視点から、農村観光の現状、観光資源保全と農村観 光開発の意識調査を行い、対象地域における農村観光発展の可能性と問題点を明らかにす ることを目的としている。 論文の各章の概要は以下のとおりである。 2章では、中国の主に1990年代以降の農村観光政策について、特にその中心となる「中 央一号文件」とよばれる農村観光政策についてレビューを行ない、併せて中国の国内観光 の現状と地域の農村観光の発展事例を整理した。加えて、先進国での農村資源を活用した
20 農村観光に関する研究、および農村観光についての事例のレビューを行った。 3章では、中国遼寧省における観光業発展に関して、改革・開放以後の遼寧省の農村観 光の発展状況について文献を参照しつつ分析し、「遼寧省観光業発展第11次五ヵ年(2005~ 2010)計画期間(以下十一五計画)」、「遼寧省観光業発展第12次五ヵ年(2010~2015)計画 期間(以下十二五計画)」を中心に、観光業および「観光景区」の発展をレビューし、あわ せて遼寧省における農村観光の現状を整理した。 4章では、2013年3~4月に中国遼寧省の大連市甘井子区の農村部(紅旗鎮)において、 この地区を訪れた観光客を対象に行った農村観光に対する意識調査 ( 有効サンプル数151名 ) について記述している。この調査は、訪問客の基本属性と農村観光資源・サービスの評価 との関連に着目している。この結果から、訪問客の事前期待と事後評価には大きな相違は ないが、「お祭りや行事に参加する」、「当地の宗教について知る」、「農業を体験する」など の農村文化に関連する項目について、事前期待にくらべて不満を感じる訪問客が多いこと を明らかにした。また、訪問客がこの地域を訪問した主な観光動機は、訪問客の個人属性 に関わらず「自然景観を観賞すること」及び「リフレッシュ」の二つの動機に集中してお り、農村の景観に対する農業の役割や伝統・文化などについて、訪問客が関心を有するま でに至っていないことなどを明らかにした。 5章では、都市近郊農村の遼寧省南大山地域を対象として、観光資源の保全状況に関し て農村住民に対して行った意識調査 ( 実施:2010年8~9月、有効回答数は129名 ) につい て記述されている。都市近郊農村では、単一集落における農村観光資源の保全に対して住 民の行動意識が積極的であること、60%以上の住民が農村の観光資源の保全を求めている 状況を明らかにし、また地域活性化に対して80%近くの住民が関心を示しており、観光に 対する意識が高いことが明らかとなった。 6章では、中山間地域の遼寧省建昌県を対象として、農村資源を利用した観光開発の可 能性について、2011年8月に行った意識調査について記述している(有効サンプル数140 名)。中山間地域の住民にとっては、豊かな地域資源である自然、景観、伝統文化などは日 常の生活や活動の一部としての認識であり、その希少性や価値を認識するに至っていない ことを明らかにした。 7章では、遼寧省大連市の都市住民を中心に、今後の農村観光開発に対する意識につい て、2011年9月に対面法により実施したアンケート調査について記述している(有効サン プル数;217名)。都市住民は男性の方が女性より農村の観光資源に対する関心が高く、若 い年齢層(19~39歳)が農村地域の自然景観、温泉資源と特産品、農村の景観に対する関 心が高いことが明らかとなった。また、都市住民は農村の伝統文化や技術、食文化には関 心が低いが、農村地域で自然と触れあってゆっくり過ごすこと、温泉でリラックスするこ と、自然景観を散策すること、農村地域の特産品を購買すること等に魅力を感じているこ
21 とが明らかとなった。このことから、都市住民は農村資源に対して関心を持っており、そ れらが観光資源として利用できる状況にあれば大いに利用する可能性が高いことが示され た。 8章では、以上の分析を踏まえて結論をまとめ、研究の今後の課題を示し、中国の今後 の農村開発に対して示唆を行った。 【審査結果】 農村地域の活性化の方策として、農村ツーリズムなどの農村観光が着目されている。農 村の自然や文化、農工産物などの農村固有の地域資源を活用した観光は、欧州では各地で 長い蓄積があり、日本でも少子高齢化を背景として多くの事例がある。一方、中国の農村 では、都市との格差拡大が進み、農村の自然や景観、伝統文化が失われつつある状況にあ ると同時に、都市住民が豊かになり成熟していくにつれて、農村の自然、伝統文化、など に注目が集まると想定される。中国において、農村資源を活用した農村観光による地域活 性化は、その潜在性と必要性、可能性が非常に高いと言える。本論文は以上の観点から、 中国遼寧省を対象として、様々な属性の人々に対して実施した現地調査をもとに、農村資 源の活用に対する意識を明らかにすることで、中国の今後の農村観光開発の可能性と課題 を明らかにしたものであり、社会的・学問的意義は高い。特に、中国においてこのような 観点からの農村観光に関する研究は非常に少なく、オリジナリティがあると認められる。 また、国際地域学研究科(国際地域学専攻)の博士学位審査基準に照らしても妥当な研究 内容であると認められる。 従って、所定の試験結果と論文評価に基づき、本審査委員会は全員一致をもって劉蘭芳 氏の博士学位請求論文は、本学博士学位を授与するに相応しいものと判断する。