財務諸表の運繋問題
I は じめに アメ リカ財務 会計基準 審議 会 (以下打FASBHと い う)は ,1976年 にFASB [1976]を公表 し, 3つ の代替的会計観,す なわち資産負債 アプローチ,収 益 費用 アプローチ,お よび違繋 を必ず しも前提 としないアプローチ (以下 「非連 繁 アプローチ」 とい う)を 提示 した。概念書の レベルにおいては,「基本的に は 『収益費用 中心観 (本稿 にい う収益費用 アプローチ,以 下同 じ)』か ら 『資 産負債 中心観 (本稿 にい う資産負債 アプローチ,以 下同 じ)』に転換 している」 (津守 [2002],251頁)と いわれる ものの,個 々の基準書の レベルでは資産負 債 アプローチが一貫 して採用 されているとはいいがたいことは,す でに先行研 1 ) 究 において詳細 な検討が なされている。「一方で,広 義の実現利益が維持 され てお り,他 方で重要なス トックの価値変動 (公正価値の変化)が 認識 されて」 (徳賀 [2000],139頁)お り,資 産負債 アプローチ と収益費用 アプローチ とが 共存す るかの ような形 となっている。 さらに,か かる共存 は,「FASB[1976 〔・・・〕]の 資産負債 中心観 〔お よび収益費用 アプローチ〕が前提 としている貸 借対照表 と損益計算書 との連携 (複式簿記 とクリー ン ・サープラス関係)は 維 持 されていない」 (徳賀 [2000],139頁)と い う結果 をもた らしている。 しか しなが ら,そ もそ もFASB[1976]で は,資 産負債 アプローチお よび収 益費用 アプローチ とい う,貸 借対照表 と損益計算書の連繋 を前提 とする会計観 にほ とんどの議論が集中 してお り,非 違繋 アプローチが,さ らには違繋 ・非違 繁の問題 自体が十分 に検討 されていた とはいいがたい。に もかかわ らず現代の 財務業績報告の問題 を考 える場合,運 繋問題 は避けて通 ることので きない論点 となっている。そ こで本稿 では,FASBに よって公表 された諸文献お よびそこ 裕 康 田 山 1)た とえば,徳 賀 [2000];大 日方 [2001]を 参照 されたい100 彦 根論叢 第 336号 で の引用文献 にお ける連繋概念 を通覧 し, 2つ の運繋概念 が存在 してい る こと を明 らか に し,こ の ような連繋概念 の変容 の含意 を考察 してい くことに したい。 か か る作 業 をつ う じて,現 代 の財務業績報告 が有す る特徴 の一端 を明 らかにす る こ とが で きれば幸甚 であ る。 工 財 務諸表の連繋アプローチと非違繋アプローチ F A S B [ 1 9 7 6 ] に おいて,「利益測定 に関す る 2つ の指導的流派」 (FASB [ 1 9 7 6 ] , p a r . 3 1 ) として, 資 産負債 アプローチお よび収益費用 アプローチが 挙 げ られてい ることは周知の とお りである。かかる 2 つ のアプローチは,「運 繋 した財務諸表 における異 なる会計測定 に帰着す る利益 ・財務諸表思考 をめ く` る 2 つ の流派」 (FASB[1976],par.32)で あ り,こ のことか らも明 らかなよ うに,資 産負債 アプローチお よび収益費用 アプローチは, ともに財務諸表の連 繋 を前提 とした会計観 である といえるのである。 これに対 し,「第 3の アプローチ として,財 務諸表の連繋 を必ず しも前提 と しない アプローチがあ る」 (FASB[1976],par。32)。非連繋 アプローチは, F A S B [ 1 9 7 6 ] に おいては 「掘 り下げた議論 もなされず に即座 に却下」 ( K r i p k e [ 1 9 8 9 ] , p . 2 7 ) されたに もかかわ らず, 今 日に至 って, む しろ, そ の重要性 を増 しつつあるかの ような観 を呈 している。そこで,FASB[1976]に おいて 2 ) 数少 ない非 運 繋論 者 と して挙 げ られ てい るA . R a p p a p o r t などの議論 を, 以 下 , 節 を改 め て概 観 してい くこ とにす る。 田 FASB[1976]に 示 された非連繋論者の見解 1.Rappaport[1971]の 見解 3) Rappaportは,財 務諸表の連繋 によって生 じる弊害 を指摘 したAAAの 委員会 2 ) F A S B [ 1 9 7 6 ] で は, 本 稿 で取 り上げる論者以外 に, 非 連要 アプローチを採 る もの とし て, ん 地生 [ 1 9 6 9 ] が挙 げ られているが, 当 該文献 は 「利益尺度が まった く提示 されていな い」 ( F A S B [ 1 9 7 6 ] , p a r . 7 6 ) こ と, お よび 「提案 された 2 種 類の財務諸表 は実際 には連 繁 してい る」 ( F A S B [ 1 9 7 6 ] , p a r , 7 6 ) こ とな どを理 由に, 非 連繋 アプローチの文献 とし ては否定的に捉 え られている。 したが って, 本 稿 において も, ん 屯代 [ 1 9 6 9 ] を非連繋 アプ ローチ を採 る文献 として取 り上 げることは しない。
財務諸表の連繋問題 1 0 1 の委 員 であ った。Rappaport[1971]は ,「貸借 対照表 と損益 計算 書 とが必 ず 違繋す るこ とを含 んでい る二重性 の フ レーム ワー クは,一 般 的 に有用 であ り, 先験 的 に認 め られ なけれ ば な らない と暗黙 の うち に仮 定 されてい る」 ( p . 1 0 6 )
と述べたうえで,「もしも,貸 借対照表と損益計算書とが互いに連繋しなけれ
ばならず,ま た歴史的原価が用いられなければならないとする現行実務におけ
る制約が強制 されるならば,稼 得能力 に関する情報 を提供するとい う目的 と, 債務弁済能力 に関す る情報 を提供す る とい う目的 とが対立す る可能性が十分 に ある」 (p。1 1 1 ) と して,連 繋アプローチの限界を指摘 している。さらにRappaport [ 1 9 7 1 ] は,「会計理論 の構造 アプローチは,貸 借対照表 と損益計算書 との連 繁 を公理の ように扱 ってお り,一 層有用 な情報の構成 を探求することを著 しく 妨げている」 (p.113)として,連 繋 を厳 しく批判 している。 この ように財務諸 表 の連繁 に対 して批判 的 なR a p p a p o r t は,望 ま しい貸借対照表 として,AAA [ 1 9 6 9 ] において例示 されてい る貸借 の均衡 しない貸借対照表 を挙 げている ( R a p p a p o r t [ 1 9 7 1 ] , p p . 1 1 1 1 1 3 ) 。 以 上 の よ うに,Rappaportは 違繋 す る財 務諸表 を批判 したのであ るが, R a p p a p o r t 自身は財務諸表の連繋 をいかなる ものである と考 えていたのか,す なわち,い かなる連繋概念 をもっていたのかは,Rappaport[1971]の なかで は必ず しも明確 にされてはいない。す くな くとも,Rappaportが望 ましい とす る貸借対照表か ら明 らかなのは,非 運繋 アプローチを採 るならば,貸 借対照表 が必ず しも貸借均衡する必要はない とい うことである。 2 . H e n d r i k s e n [ 1 9 7 0 ] の 見解 つ ぎに第 2の 非連繋論 者 として,Hendriksenを取 り上 げることにす る。 H e n d r i k s e n [ 1 9 7 0 ] は,「もし報告書が相互関連的で,同 一の基礎的デー タに もとづいて作成 されているならば,そ の全体構造はより形式的に構成 され,よ り高度 な論理性,一 貫性,統 一性 を保持 しうると考 えられて きた」 (p.120)と, 伝統的会計 を特徴づけている。その うえでHendriksen[1970]は,「これまで 3 ) た だ し注 2 に お い て も触 れ た ように, F A S B [ 1 9 7 6 ] は , 当 該委 員 会 の議 論 ( A A A [ 1 9 6 9 ] ) を重要視 してはいない。1 0 2 彦 根論叢 第336号 連繋や複式記入の厳格 な適用が維持 されて きたために,一 方の財務諸表 におい て開示情報 を改善 しようとする試みが,他 方の財務諸表 において無意味あるい は誤導的な情報 を提供する とい う結果 を生みだ して きた」 (p.120)として,伝 統的会計 を批判 している。 この ように,Hendttksen[1970]で は 「報告書が相互関連的で,同 一の基 礎 的デー タに もとづいて作成 されている」 ことが運繋 と考 え られていた と類推 す ることがで きる ものの,こ こにおいて も明示的な連繋概念が必ず しも提示 さ れてはいないのである。 3.AICPA[1973]の 見解 AICPA[1973]で は,連 繋 について以下の ように述べ られている。 現在作成 されている基礎的財務諸表 においては,一 方の財務諸表 における 重要な金額が,他 方の財務諸表 における金額 と直接的に関連 している。こ の ように関連づけられた財務諸表 は違繋 していると称 されているが,こ れ はある人々によって過度 に拘束的 とみなされている要請である。彼 らは, 財務諸表 における独立的あるいは非関連的な表示が当該財務諸表の有用性 を高めると主張 している。 (AICPA[1973],p.16) ここにおいては,連 繋概念 として,「一方の財務諸表 における重要な金額が, 他方の財務諸表 における金額 と直接的に関連 している」 ことが想定 されている もの と思 われる。ただ し上記 の引用か らも明 らかなように,AICPA[1973] 自体 は非連繋 を主張す るものではな く,連 繋批判論 を紹介 しているにす ぎない。 また,AICPA[1973]に おいて注 目されるのは,非 連繋論者の連繋概念 を総 括 して財務諸表 における金額 同士の関連性 としている点である。 4.Sorter[1974]の 見解 さらにSorter[1974]は ,「損益計算書 において報告 されている事象 はすべ て,観 点 を異 にす るとはいえ貸借対照表 において も報告 されているため, 2つ の財務諸表 はある意味重複 している」 (p.117)と連繋 した財務諸表 を批判 した
財務諸表の連繋問題 103
うえで,「財務報告書は 〔
『
現金創出ベース』(cash generadng prttect batts)
上〕完結した,ま た未完結の 〔
…〕サイクルを別個に反映する非連繋財務諸表
として構成されるべきである」(p.122)と
述べている。
しか しなが ら,現 金創出ベース上完結 したサイクルを表す損益計算書 と未完 結のサイクル を表す貸借対照表 とが非連繋であるとす るSorter[1974]ヤこおい て も,い かなる連繋概念が想定 されていたのかは明示的には示 されてはいない。 5.小 括 以上のRappaport,HendriksenおよびSorterによる連繋批判 においては,運 繁概念 は必 ず しも明示 的 に定義 されて はい なか った。 わず か にHendriksen [1970]において,連 繋概念 とおぼ しきものを類推で きたにす ぎない。 しか し なが ら,非 連繋論者が非連繋 を主張 した理由の 「1つ には,資 産 または負債 に おける変動 を,そ れに対応す る収益 または費用 (利得 または損失)を 認識する ことな く,柔 軟 に認識する」 (Kripke[1989],pp.27-28)ことがあった。 この ようにス トックの評価 とフローの測定 とを切 り離す ことをもって非連繋 と考 え られていた とするならば,彼 らが暗示的に想定 していた運繋概念 は,財 務諸表 の構成要素の相互関係であった と考 えて もあながち不当ではないであろう。か か る理解 は,AICPA[1973]に おける連繋概念 に通 じる ものである といえよ う。 ところで,非 連繋論者の連繋概念が財務諸表の構成要素の相互関係であった として も,当 該相互関係 を会計 プロセスの流れのなかでみた場合,総 勘定元帳 へ の転記がおこなわれた段階で,「(仕訳帳への記入の段階では保たれていた)左右の取引要素間の運関は表面上失われて, 〔・
・
・
〕どの取引もそれぞれ別勘定
の左右に分離 して,分 離記入 〔
…〕されることになる」(高寺 [1967],63-64
頁) た め, 上 述の相互関係は消滅してしまうかのように感 じられなくもない。
しか し複式簿記 にもとづいて取引が分類 ・総合 されているか ぎり,そ れはあ く まで も表面的な ものであ り,「いぜ ん として,取 引要素間の内的連関は存在す る」 (高寺 [1967],64頁)と いえるのである。 また,財 務諸表の構成要素の相互関係が,取 引要素の結合関係や損益勘定か1 0 4 彦 根論叢 第 3 3 6 号
ら資本金勘定への振替を連想させるように,「『
複式記入』が 〔
・
・
・
〕これらの諸
関係を組み入れている」(FASB[1985],fn.14)点
,換 言すれば 「
会計的認識
の形式的なメカニズムである複式記入が連繋を含んでいる」(JOhnson et al.
[1982],p.124)とい う点 を看過することはで きないであろう。 とい うの も, かかる見解が,非 連繋論者 による連繋批判は複式簿記批判 につながるものであ る とい う理解 を可能にするものであるか らである。かかる理解 によるならば, 非連繁論者 は,「会計が複式簿記の とりこになって きている点がその自己適応 能力 を狭める歴史的制約 として作用 している」 (高寺 [1982],37頁)と 考えて いた もの と推察 される。非連繋論者が批判の対象 としたのはス トックの評価 と フローの測定 とが複式簿記 によって一体化 していることであ り,一 方を優先す るためには他方 を犠牲 に しなければならない とい うジレンマを断ち切る方途 と して非連繋が主張 されたのであった。非連繋論者にあっては,会 計は,あ る企 業資本の運動 を二面的に捉 えるのではな く,そ もそ も異なる企業資本の運動 を 会計対象 とするものであると考 えられていた と思われる。 では,概 念 フレームワークの設定にあたって非連繋アプローチを採 らずに, 上述の ように批判の対象 となっていた連繋 をあえて採用 したFASBに よる連繋 概念 を,次 節でみてい くことに したい。 Ⅳ FASBの 連繋概念 FASB[1976]で は,連 繋 について,以 下のように述べ られている。 連繁 とは,共 通の勘定お よび測定値 を基礎 に した利益報告書 (およびその 他 の財務諸表)と 財政状態表 (貸借対照表)の 相互関係 をいう。連繋 した 財務諸表 においては,利 益 は正味資産の増加 をもた らし,ま た逆 に,正 味 資産のある種の増加 は利益 として表れる。 (FASB[1976],par.72) 4 ) H e n d r i k s e n [ 1 9 7 0 ] では,こ の ようなジ レンマの例 として,棚 卸資産に対する後入先出 法 の適用が挙 げ られている。財務諸表の連繋問題 1 0 5 かか る文言 の前半す なわち 「共通 の勘定お よび測定値 を基礎 に した利益 報告
書 〔
…〕と財政状態表 〔…〕の相互関係」という箇所は,Hendttksen[1970]
が暗示的に示 していた運繋概念すなわち 「報告書が相互関連的で,同 一の基礎 的デー タに もとづいて作成 されている」 とい うことと内容的に類似 している。 両者 とも,財 務諸表 を作成するにあたって用い られるデータは,い ずれの財務 諸表 において も共通の ものであるとい うことを示 している。すなわち,共 通の 基礎 データを用いて財務諸表 を作成することによ り,財 務諸表間に基礎データ の共通性 とい う相互関係が保 たれ,か かる相互関係 こそが連繁であると解釈 さ れるのである。 また,上 記の文言の後半は,連 繁概念 といい うるか どうかは判 断が難 しい ものの,連 繁 した財務諸表 における特徴,す なわち,利 益が正味資 産の増加の一要因である とい うことを示 している。「正味資産のある種の増加 は利益 として表れる」 (傍点 は山田による)と されているい じょう,正 味資産 の増加全額が利益額 に一致すると解釈するのには無理があると思われる。 つ ぎにFASB概 念書 における連繋概念 に目を転 じると,FASB[1984]で は 連繋 に関 して,「財務諸表 は,企 業 に影響 を及ぼす同一の取引 またはその他の 事象のいろいろな側面か ら表現す るとい う意味で,相 互 に関連 し (有機性 をも ち)あ っている」 (FASB[1984],par。23)と い う記述 につ きあたる。 ここで も,FASB[1976]と 同様 に,財 務諸表の もとになる基礎 データの共通性が指 摘 されてお り,こ の ように共通 な基礎 データをさまざまな側面か ら表現 したも のが運繋 した財務諸表であるとされているのである。 , FASB[1985]で は,運 繁 に関 して, さらに詳細 な検討がなされている。 ま ず財務諸表の構成要素 には 2種 類の類型,す なわち,資 産,負 債,持 分 (純資 産)か ら成 る第 1の 類型 と包括利益,収 益,費 用,利 得,損 失,出 資者 による 投資,出 資者への分配か ら成 る第 2の 類型があ り,か かる 2種 類の類型が相互 に関係 していることが運繁 と呼ばれている。FASB[1985]で は,こ の相互関 係 について,以 下の ように述べ られている。 (a)資産,負 債お よび持分 (純資産)は もう一方の類型の構成要素によって106 彦 根論叢 第 336号 変動 させ られ, い つ の時点で もそれ らの累積 的結果 であ る。( b ) 資産 の増加 ( 減少 ) は これ に見合 う他 の資 産 の減 少 ( 増加 ) ま た は これ に見合 う負債 も し くは持分 (純資産)の 増加 (減少)な しには起 こ りえない。 これ らの 関係 は,時 にまとめて 「連繁」 といわれる。 これ らの関係の結果,第 2の 類型の構成要素 を示す計算書が第 1の 類型の構成要素 を示す計算書 に依存 し,ま た逆 において もそ うであ り,財 務諸表は基本的に相互関連性 をもつ ことになる。 (FASB[1985],par.21) (b)において述べ られている相互関係 は,FASB[1976]お よびFASB[1984] における連繋概念 とも整合的である。すなわち,財 務諸表の もとになる基礎デー タが共通の ものであ り,共 通 な基礎 データをさまざまな側面か ら表現すること によって,貸 借対照表 において,あ る構成要素が他の構成要素 と関連すること になるのである。 この ように(b)では,貸 借対照表の構成要素間の相互関係が想定 されているの 5 ) に対 し,(a)では,貸 借対照表の構成要素 と損益計算書の構成要素 との間の相互 関係が想定 されている。 さらに( a ) における注 目点は財務諸表の構成要素間の相 互関係 だけにとどまるものではない。第 1の 類型の持分 (純資産)が 「もう一 方の類型の構成要素 によって変動 させ られ, い つの時点で もそれ らの累積的結
果である」とする(a)は
,い わゆるクリー
の 解 釈 し うる の で あ る。 6 ) ン ・サ ー プラス関係 を意味 してい る と 5)第 2の 類型 に含 まれる項 目として包括利益が挙 げ られているい じょう夕損益計算書では な く包括利益計算書や拡大損益計算書 を挙 げなければならないか もしれないが,こ こでは 第 2の 類型 に含 まれるフロー項 目を収容す る計算書の総称 として損益計算書 を挙 げている。 6)こ こでは, さしあた リクリー ン ・サープラス関係 を,「 2時 点間の純資産簿価の変化が, 利益 か ら配当 を控除 した もの に等 しい」 (Ohison[1995],p.661)こととしてお く。 7)こ れ はあ くまで も現代 的視点か らみ るか ぎ りにおいての話であ り,FASB[1985]の 公 表当時 にFASB自 身が どの程度 明確 にクリー ン ・サープラス関係 を意識 していたかについ ては疑間の余地が ないわけではない。 とい うの もFASB[1985]は ,こ の引用部分 に対す る注のなかで,「本パ ラグラフで述べ られている 2つ の関係 は,通 常,(a)期 首残高 十期 中変動 =期 末残高,お よび (b)資 産 =負 債 十持分, として表現 される」 (fn。14)と 述べ, 持分 の変動 と利益 の関係 に限定す ることな く, きわめて一般的に財務諸表の構成要素の増 減変化 について述べ ているにす ぎないか らである。とはい うものの,現 在問題 となって/財務諸表の連繋問題 V 2つ の連繋概念 以上の諸文献 (ただ しFASB[1985]を 除 く)に おいては,運 繋概念 として, 共通の基礎 デー タをもとに した財務諸表の構成要素の相互関係が想定 されてい た といえるであろう。 この ような連繁概念 に対 して,い ささか趣 を異 にする連 繋概念がFASB[1985]に おける連繋概念である。す なわちFASB[1985]の 連繋概念 は,財 務諸表の構成要素の相互関係の他 に,さ らにクリーン ・サープ ラス関係 を加味 した ものであると解釈 しうるのである。 したがって,財 務諸表 の構成要素の相互関係 にクリー ン ・サープラス関係 を加味 した 「連繋 とは,資 本取引 または前期修正がない もの として,純 利益が当該期 間の持分の変動 に等 しくなるように, 2つ の財務諸表が数学的に定め られていることをいう」 (Wolk et al.[1997],p.291)。以下では,共 通の基礎 デー タをもとに した財務諸表の 構成要素の相互 関係 のみ を想定す る連繋概念 を 「広義の運繋概念」,当 該相互 関係の他 にクリー ン ・サープラス関係 を加味 した連繋概念 を 「狭義の連繋概念」 8 ) と呼ぶ ことにす る。 広義の連繋概念 に立つな らば,非 連繋 とは,共 通の基礎データをもとに して 財務諸表 を作成せず,構 成要素の相互関係がないことをい う。 したがって,非 連繋 アプローチ とはス トックの評価 とフローの測定 とを切 り離 しておこなうこ とであると解釈で きる。かかる非運繋概念 は,Rappaport[1971]の 貸借対照 表が必ず しも貸借均衡す る必要がない とす る考 え方 と整合的である。 これに対 して狭義の連繁概念の もとでは,共 通の基礎 データをもとに して財 務諸表 を作成せず,構 成要素の相互関係がない場合 には財務諸表は非連繋 とな \い る持分直入項 目 (またはその他 の包括利益)に ついて考 える場合,FASB[1985]に お ける連繁概念が クリー ン ・サ ープラス関係 を含み うる ものである とい う点 は きわめて重要 な意味 を有 している。 8)2つ の連繋概念 を相互排他的 に区分することが可能か とい う点 に関 しては,疑 間の余地 が ないわけではない。 とい うの も,広 義の連繁概念 において もクリー ン ・サープラス関係 が暗黙裡 に満た されていると考 えることは可能であ り,ク リー ン ・サープラス関係 を明示 的 に意識す るこ とが重要 になって きたのは,運 繋概念の変化 とい うよ りも,実 現項 目か ら 未実現項 ロヘ とい う会計対象の重点変化 による ものである とも考 え られるか らである。 2 つの連繋概念 は,こ の ような意味で相対的なものであるとい う点 には留意が必要である。
1 0 8 彦 根論叢 第 336号 る こ とはい うまで もな く, 共 通 の基礎 デー タを もとに して財務諸表 を作成 し, 構 成 要素 の相 互 関係 が あ って も, ク リー ン ・サープラス関係 を満 た していなけ れ ば, か か る財務諸表 は非連繋 になる と解釈 で きる。以下でみ る ような現在 問 題 にな ってい る持分 に直入 され る項 目について非連繋 であ る とい う場合 , そ れ は後者 の意味 で非連繋 であ る といわれてい るのであ る。 上述の ような広義の連繋概念 と狭義の連繋概念 との差は,持 分直入項 目の取 り扱 い をめ ぐって顕著 となる。 ここで,FASBの 基準書第115号 『特定の負債 お よび持分証券への投資の会計処理』 を例 にとって,持 分直入項 目の取 り扱い をめ ぐる両連繋概念の差異 を明 らかに したい。 周知の ように,当 該基準書では,売 却可能有価証券の時価評価差額すなわち 未実現保有損益 は実現す るまで稼得利益 には含 まれず,持 分の独立項 目として 計上 されることが規定 されている。 まず,広 義の連繋概念の もとでは,未 実現 保有損益が持分 に計上 されていて も,財 務諸表は違繋 しているといえる。なぜ な ら,売 却可能有価証券が公正価値で評価 されることによって,資 産が増加す ると同時 に持分が増加 し,ま た,保 有損益が実現 した時点で稼得利益 に振 り替 え られることによって,持 分が減少すると同時に利益が増加 し,財 務諸表の構 9 ) 成要素の相互関係 は依然 として保たれているか らである。 よって, 広 義の連繋 概念の もとでは, F A S B は 財務諸表の連繋 を保 ちつつ も, ス トックの評価 とフ ローの測定 とを切 り離す という 「非連繋の利点を 〔未実現保有損益の持分への 直入によって〕手に入れている」 (Kripke[1989],p.27)といえるであろう。 これに対 して狭義の連繋概念のもとでは,未 実現保有損益が持分に直入され ることによつて,財 務諸表は非連繋 となる。なぜなら,上 述のように財務諸表 の構成要素の相互関係 は保 たれているものの,売 却可能有価証券 を時価評価す ることによる評価差額は稼得利益 に含 まれることな く,す なわち損益計算書 を 経 ることな く,貸 借対照表の持分 に直入 されるため,ク リー ン ・サープラス関 1 0 ) 係 が満 た され てい ないか らであ る。 9 ) 基 準書第1 3 0 号 『包括利益 の報告』の公表 に ともなって, そ れ まで持分 に直入 されてい た項 目がその他 の包括利益 として扱 われるようになった以降において も, 財 務諸表の構成 要素 の相互 関係 が保 たれている点では変化 はない。
財務諸表の運繋問題 1 0 9 この ように,広 義 の連繋概念 を採 るのか狭義 の運繋概念 を採 るのか によって, 持分 に直入 され る項 目の存在 を もって,財 務諸表が連繋 してい る とみ るのか, あ るいは非連繋 となってい る とみ るのかが異 なって くるのである。換言すれば, 当該直入項 目をめ く`って財務諸表 の運繋 問題 を論 じる場合 ,そ の結論 は連繋概 念 の規 定 の仕 方 に依存 してい る とい えるのであ る。そ して,そ の差果 は運繋概 念 に ク リー ン ・サ ー プ ラス関係 を加味 す るか否 か にかか ってい るのであ る。 W I ク リーン ・サープラス関係の意義 前節では,ク リー ン ・サープラス関係 を加味するか否かによって,連 繋概念 が果 なることを明 らかに した。では,そ もそ も,ク リー ン ・サープラス関係 と はいかなる ものなのであろうか。 周知の ように,ク リー ン ・サープラスの問題 は,当 期業績主義 と包括主義の 問題 として古 くか ら論 じられて きた ものである。Serlin[1942]によれば,当 期業績主義の もとで剰余金 に直接賦課 されるもの として,当 期 に賦課 させ るの が適切でない もの,異 常項 目,キ ヤピタル ・ゲイン (ロス)が 挙げ られている ( p p . 2 9 4 2 9 6 ) 。これ ら諸項 目は,経 常的 に発生す る ものではな く,将 来の収 益力 を予想す るのに有益ではない として,当 期業績主義 にもとづ く利益計算か らは排除 されていたのである。現代的視点か らみて重要なのは,こ れ らの項 目 がすでに生 じた事象 について,利 益 に加減するのか剰余金 に加減するのかが論 じられていた とい う点である。 これに対 して,現 在 クリー ン ・サープラス関係 をめ ぐって問題 になっているのは,前 節 においてみたように,未 実現項 目の取 り扱いについてであった。かつてクリー ン ・サープラスが問題 となったのは, すでに生 じた確定要素の取 り扱いであったのに対 し,現 在問題 になっているの は未実現すなわち不確定要素の取 り扱いについてである。 この点 に,か つて議 10)狭義の連繋概念 に関 しては,ク リー ン ・サープラス関係が満た されているか否かの解釈 に基準書第130号 『包括利益 の報告』の公表が多少影響 を及ぼ している。すなわち当該基 準書 の公表 によって,そ れ以前 において もそ うであったように貸借対照表 と損益計算書 と を前提 としたクリー ン ・サープラス関係 は満た されてはいない ものの,貸 借対照表 と包括 利益計算書 とを前提 とした クリー ン ・サープラス関係 は満 た されるようになった。
110 彦 根論叢 第 336号 論 され た ク リー ン ・サ ー プ ラス問題 と現在 の ク リー ン ・サ ー プラス問題 との大 きな相違点があ る。 この相違点 は,ク リー ン ・サ ー プラス関係 と一致 の原則 との異 同 を考 えるこ とに よって,さ らに浮 き彫 りになる。 まず,か つての ク リー ン ・サ ープラス関 係 と一致の原則 との異同をみると,包 括主義のもとでは 「各期の利益額を 〔…〕 合計することによって,〔"・〕全体利益 を確認する」 (Hattdd[1943],p。17) ことができ,包 括主義すなわちクリーン ・サープラス関係 と一致の原則は同様 の概念 として捉えられていたと考えられる。これに対 して現在問題 となってい る未実現項目について考える場合,ク リーン ・サープラス関係は,前 節でみた ように未実現項目によって乱 されることになる。 しか し,未 実現項目は全体期 間でみるならばゆ くゆ くは実現するため,一 致の原則は満たされていると考え られる。すなわち,持 分に直入される未実現項目について考えるかぎり,ク リー ン ・サープラス関係 と一致の原則 とは異なる概念 といえるであろう。 この ように,一 致の原則 と同様 の概念 として位置づけ られるかつてのクリー ン ・サープラス関係 か ら,そ れとは異なる概念 として位置づけられるクリーン ・サープラス関係への変容は,問 題にする対象が確定要素 (実現項 目)か ら不 確定要素 ( 未実現項 目)へ と変化 したことに起因 している。そ して,こ のよう な未実現項 目が重視 されるようになって きた背景 には,企 業活動の業績 を全体 期 間にわたってみ るのではな く2 時 点間の比較でみるという,企 業の継続性ヘ の期待の変化があるもの と考 えられる。すなわち,全 体期 間でみるならば消滅 して しまう未実現項 目を特定期間に認識することに意義 をもたせている点 に, 1 1 ) 継 続 企 業 で は な く断 続 企 業 の前 提 を見 出 す こ とが で きる の で あ る。 W l l おわりに 本稿で は,FASB[1976]に よって提示 された資産負債 アプローチ,収 益費 用 アプローチお よび非連繋 アプローチのなかで も非違繁 アプローチに着 目し, 非連繋 アプローチに言及 している諸文献のなかで連繋概念が どの ように捉 えら 11)か か る変化が株主の行動 に与 える影響 については,高 寺 [2001b]を 参照 されたい。
財務諸表の連繁問題 1 1 1 れていたのか を通覧す る こ とに よって,共 通 の基礎 デー タを もとに した財務諸 表 の構成 要素 の相 互 関係 を要件 とす る広 義 の連繋概念 と,当 該相互 関係 の他 に ク リー ン ・サ ープラス関係 を要件 とす る狭義 の連繋概念があ ることを指摘 した。 FASB[1976]公 表 当時 に想 定 され てい た連繋概 念 は広 義 の運 繋概 念 で あ った の に対 して,現 在 問題 になってい る連繋概念 は狭義 の連繋概念 であ る。その差 は,ク リー ン ・サ ー プ ラス関係 を加味す るか否 か にあ る。 この ような ク リー ン ・サ ー プラス関係 を加味 した運繋が問題 となるのは,有 価 証券 の時価 評価 差 額 な どの未実現項 目をめ ぐってであ る。将来 的 には実現す るであろう未実現項 目を,実 現以前 に認識する点 に, 2時 点間のス トックの比 較 による損益認識への志向性が垣 間み られるのである。 さらには,か かる連繋 概念 の変容が有す る含意 として,継 続企業か ら断続企業へ とい う投資家 (また は投機家)が 想定 している企業の継続性 に変化が生 じていると指摘することが で きるのである。 参考文献
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