炭素系物質の化学的水素貯蔵
宮 岡 裕 樹
1市 川 貴 之
2小 島 由 継
21広島大学サステナブル・ディベロップメント実践研究センター
2広島大学先進機能物質研究センター
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 77, No. 12 (2013), pp. 552558 Special Issue on Hydrogen and Materials Characteristic in Solids 2013 The Japan Institute of Metals and Materials
Chemical Hydrogen Storage of Carbon Material
Hiroki Miyaoka1, Takayuki Ichikawa2and Yoshitsugu Kojima2
1Institute for Sustainable Sciences and Development, Hiroshima University, HigashiHiroshima 7398530 2Institute for Advanced Materials Research, Hiroshima University, HigashiHiroshima 7398530
Hydrogen is chemically absorbed into graphite by mechanical ballmilling process under H2, and its hydrogen capacity
reaches to about 3.6 mass. Noteworthy, when iron (Fe) mingles with graphite from steel balls during the milling process, the hydrogen capacity is drastically enhanced. In this work, the hydrogen absorption and desorption properties of the hydrogenated graphite with and without Fe were investigated. The hydrogen capacity of graphite including Fe was about 6 mass (H/C), sug-gesting that the excess hydrogen of 2.4 mass would originate in the Fe related phase. It is clarified by spectroscopic studies that the mingled iron formed a nonstoichiometric ironcarbon (FeC) phase as hydrogen absorption site. Assuming that the Fe/C ra-tio is 1, its hydrogen capacity is estimated to be H/(FeCH)>10 mass, which is a larger value than that of the convenra-tional hydrogen storage materials. The hydrogen absorbed in the CFe phase is released at 450°C with the transformation of the CFe phase to wellordered carbides such as Fe3C. Therefore, if the CFe phase could be synthesized independently, it should be
recog-nized as a promising hydrogen storage material. [doi:10.2320/jinstmet.JC201301]
(Received June 3, 2013; Accepted June 18, 2013; Published December 1, 2013)
Keywords: hydrogen, graphite, iron, hydrogen storage, hydrogen embrittlement
1. 序 論 炭素(C)は多様な結合性を有するため,ダイヤモンドやグ ラファイトをはじめ,カーボンナノチューブ,フラーレン等 の様々な構造を形成し,その構造に由来した特徴的な性質を 示すことが知られている.それゆえ,炭素系物質の実用分野 は非常に多岐にわたっている.水素貯蔵分野においては, 1997 年に Dillon らによって報告された単層カーボンナノチ ューブの水素貯蔵に関する研究1)以降,炭素系物質が注目さ れるようになり,これまで多くの研究が成されてきた.炭素 系物質における水素貯蔵は,水素との相互作用の差異によっ て二種類に分類される.一つは,水素分子が物理的に吸着す ることを利用した系である.この場合,炭素系物質には高比 表面積や吸着に適した細孔特性(構造)が求められるのが一般 的である.また,水素分子の吸着エネルギーが数 kJ/mol H2 であるため,高水素容量を得るためには,高圧あるいは低温 条件が必要となる.もう一つは,炭素と水素の化学結合を利 用した水素貯蔵である.1999 年,ボールミリング法を用い てこのグラファイトを水素雰囲気下で機械粉砕処理(ミリン グ処理)することにより,多量の水素が固相内に吸蔵される ことが報告された2).この水素化グラファイト(CnanoH x)の水 素吸蔵能はミリング処理により発現する特異な性能であり, 典型的な水素貯蔵物質(M+H2⇔MH2)とはその機構が本質 的に異なる.ゆえに,水素貯蔵物質としてだけではなく,学 術的にも興味深い物質系であることから,これまで多くの研 究者が注目し,水素化条件依存性および熱分析38),中性子 回 折 実 験9,10), 赤 外 吸 収 分 光 ( IR )11), 核 磁 気 共 鳴 分 光 (NMR)12,13),透過電子顕微鏡(TEM)および電子エネルギー 損失分光(EELS)1416),電子スピン共鳴分光(ESR)17),第一 原理計算18,19),複合化による熱力学制御2023)といった多岐に わたる研究が成されている. このような数多くの研究が行われてきた中で,ミリング処 理の過程で混入する不純物として考えられてきた鉄 Fe が, 炭 素 と 水 素 の 相 互 作 用 に 影 響 を 及 ぼ す こ と が 示 唆 さ れ た5,24).そこで,本研究では,グラファイトの水素吸蔵/放 出特性および鉄の存在による特性変化を詳細に調査し,炭 素鉄水素の相互作用を明らかにすることを目的とした.こ こで,この炭素,鉄,水素という元素が関わる他の研究分野 としては,炭素を添加することで高強度化した鉄鋼への水素 の影響に関する研究が挙げられる.これは,いわゆる水素脆 化に関わる研究であり,現在想定されている水素利用システ ムの構築に不可欠な水素の圧縮(コンプレッサー)技術等の開 発に必要とされる.したがって,本研究は,水素貯蔵のみな らず,水素脆化等にも知見を与えるものと考えられる.
Fig. 1 XRay Diffraction patterns of (a) CnanoH
x(steel) and
(b) CnanoH
x(ZrO2) hydrogenated for 1, 4, 8, 32, and 80 h, where
the diffraction peaks of graphite are referenced from the PDF database (PDF # 656212).
2. 実 験 方 法
水素化グラファイト(CnanoH
x)は,高純度グラファイト粉
末 ( 99.999 , Stream Chemicals ) 300 mg を 鋼 鉄 ( steel , SUJ2,直径 7 mm)製あるいはジルコニア(ZrO2,直径 8
mm)製ボール 20 個と共に内容積 30 cm3のクロム鋼製ミリ
ング容器(SKD11, Umetoku Co. Ltd.)に入れ,1 MPa の水 素を導入した後,遊星型ボールミリング装置(P7, Fritsch) で処理することで作製した.ミリング処理による水素化のプ ロセスを調査するため,ミリング処理時間を 1~80 時間の 間で変化させて種々の CnanoH xを作製した.ここで,鋼鉄お よび ZrO2ボールを用いて作製した試料をそれぞれ CnanoH x (steel)および CnanoH x(ZrO2)とし,以下議論を進める. 試料 作製お よび 分析の 全行 程は, 高純度 アル ゴン ガス (>99.9999)で満たされたグローブボックス(MPP60W, Miwa MFG)等を利用し空気非接触下で行った. 作製 した試 料の 水素放 出特 性は, 昇温脱 離質 量数 分析 (MS, MQA200TS, Anelva)を用いて調査した.MS 測定 は,高純度 He ガスをキャリアガスとして用い,昇温速度は 10°C/min とした.グラファイトあたりの水素吸蔵量および Fe の 混 入 量 は 酸 素 燃 焼 法 ( 2400a CHN analyzer, Perkin Elmer)を用いて評価した.ここで,Fe の量は,本分析によ って得られる C および H 量の厳密な定量結果から算出され る残渣をすべて Fe であると仮定して見積もった.水素化お よ び 脱 水 素 化 に 伴 う 試 料 の 構 造 変 化 は , 粉 末 X 線 回 折 (XRD)測定(RINT2100: Cu Ka radiation, Rigaku)を用い て評価した.XRD 測定に用いる試料は,グローブボックス 内でガラスプレート上にグリスを用いて固定し,ポリイミド シート(Kapton, Du PontToray Co. Ltd.)で覆うことで空
気に触れないようにした.試料中の Fe の化学状態は,X 線 吸収分光(XAS,K 吸収端)およびメスバウアー分光(線源 57Co ) に よ り 調 査 を 行 っ た . XAS 測 定 は , SPring 8 の BL19B2 にて透過法で行った.XAS 測定用の試料は,水酸 化リチウム(LiOH,98,Aldrich)を混合することによって 希釈し,直径 1 cm のペレット状にした後,ポリイミドシー トで覆うことで空気非接触環境を作製した.参照試料とし て , 金 属 鉄 ( Fefoil, 99.85 , 10 mm ) , 鉄 炭 化 物 ( Fe 3C ,
99.9 , Rare Metallic ) , お よ び 塩 化 鉄 ( FeCl2, 99.998 ,
Aldrich)についても同様な実験を行った.メスバウアー分光 測定には,100 mg 程度の試料を直径 1 cm のペレット状に し,ポリイミドシート中に封入したものを用いた. 3. 結 果 ・ 考 察 Fig. 1(a)および(b)に,1~80 時間のミリング処理により 水素化した CnanoH
x(steel)および CnanoHx(ZrO2)の XRD 測定
結果をそれぞれ示す.いずれの試料においても,1~4 時間 という短時間のミリング処理後では,グラファイトの層間方 向の秩序(c 軸方向)に由来する 002,004 回折ピークが残存 している.これらのピークの回折強度は,ミリング処理時間 の増加に伴い徐々に減少し,32 時間のミリング処理後には 検出できなくなる.これは,グラファイトの層状構造が,ミ リング処理による水素化に伴って破壊され,最終的にはその 結晶子サイズがナノスケールになるまで減少することを示し ている.この水素化に伴う構造変化については,CnanoH x (steel)および CnanoH x(ZrO2)で概ね同様の振る舞いを示した が,steel ボールを用いて 80 時間水素化した試料の XRD パ ターンでは,35°~45°付近に僅かながらブロードなピークが いくつか観測された.これらの回折ピークは,ミリング過程 で混入した Fe に由来した相に起因したものであり,詳細に ついては後に議論する. 水素化時間の増加に伴う試料中の水素量および Fe の混入 量の変化を Fig. 2(a)および(b)にそれぞれ示す.なお, CnanoH x(ZrO2)の場合は,残渣に ZrO2が含まれる可能性も考 えられるが,今回の解析では簡単のためにすべて Fe と仮定
Fig. 2 (a) Hydrogen and (b) iron amount of CnanoH x(steel)
and CnanoH
x(ZrO2)as a function of hydrogenation time, where it
is assumed that the residue of each elemental analysis cor-responds to iron. して見積もった.Fig. 2(a)から明らかなように,いずれの CnanoH xにおいても,水素化時間が増加するに伴い,吸蔵水 素量が増加する傾向が見られた.これは,グラファイト構造 の破壊と水素吸蔵に強い相関性があることを示している. Fe の混入量が少ない,つまり Fe の影響が少なくグラファ イト本来の水素吸蔵特性を示していると考えられる CnanoH x (ZrO2)の水素量の変化を見てみると,水素化時間の増加に 伴い飽和傾向を示し,80 時間後には H/C=3.6 massに達 した(図中点線).ミリング法のような機械粉砕処理では,試 料が無制限に小さくなることは現実的にはありえず,粉砕容 器やボールのサイズ,あるいは処理条件等に依存して到達サ イズは決定される.つまり,この結果は,80 時間程度でミ リング処理による構造破壊の進行が止まりつつあり,それに 伴って水素吸蔵量も一定値に近付いていることを示してい る.ここで,これまでに研究が進められているグラファイト の水素吸蔵状態について触れておく.試料中の不対電子状態 (ラジカル)を観測する ESR 測定では,ミリング処理による グラファイトの構造破壊の進行に伴って局在電子が生成する ことが明らかになっている17).また,IR や中性子散乱実験 に お い ては , 水 素 吸蔵 に よ り 炭 化水 素 基 (CH, CH2, CH3)が生成することが確認されている10,11).これらの結果 は,ミリング処理によりグラファイト構造が破壊される過程 で,活性な電子を有するエッジや欠陥が生成し,そこに水素 が結合することで水素化が進行することを示している.した がって,本研究で得られた構造変化と水素量の相関性は,こ れまでの報告から推測される水素化の描象と矛盾しない.次 に,ミリングボールの材質の違いによる水素吸蔵量変化の差 異について議論する.CnanoH
x(steel)および CnanoHx(ZrO2)の
水素吸蔵量は,32 時間まではほぼ同じ傾向で増加するが, 80 時間水素化した試料では,CnanoH
x(steel)の方が 1.7 倍多
い H/C=6.0 massであった.これは,Fig. 2(b)の Fe の量 が 32 時間以降で劇的に増加するという変化とよく一致す る.すなわち,水素化過程で Fe/C=15 mass(3 mol)と いう僅かな Fe が炭素中に混入することが,水素化グラファ イトの水素吸蔵量の劇的な増加に起因していることを示して いる.Fe が単純な不純物であり水素吸蔵量に寄与しない場 合,当然ながらグラファイトのエッジや欠陥部のみが水素吸 蔵サイト(以下,CH site と称する)となる.前述したよう に,80 時間の水素下で CH site の水素吸蔵量(結晶子サイ ズの減少)は飽和傾向にあるため,仮に混入した Fe がミリ ング効果を増強したとしてもこのような劇的な水素吸蔵量の 増加は説明できない.つまり,CH site 以外に Fe の関与す る水素吸蔵サイトが新たに形成されていると考えられる. Fe 自体は熱力学的に安定な水素化物を作らないため,新た な水素吸蔵サイトは,炭素鉄水素の相互作用で形成されて いると考えられる.以下,この炭素と鉄に由来する水素吸蔵 サイトを CFeH site と称する. CnanoH
x(steel)および CnanoHx(ZrO2)の昇温に伴う水素放出
プロファイルを Fig. 3(a)および(b)にそれぞれ示す.ここ で,いずれの試料においても 400~650°C付近にメタンやエ タンといった炭化水素の放出が観測されたが,Fe の有無に よる放出プロファイルの差異が明確ではなかったため本論文 では議論しないこととする.Fig. 3(b)に示したように,Fe の存在量が少なく,主たる水素吸蔵サイトがグラファイトで ある CnanoH x(ZrO2)は,ミリング処理時間に因らず 300°C程 度から 900°C 以上まで緩やかに水素を放出した.このよう に広い温度範囲で水素が放出されることは,ミリング処理に より形成されるグラファイトの水素吸蔵状態(熱力学的安定 性)に分布があることを示唆している.これは,先に議論し たミリングによる水素化過程を考えれば妥当な結果であると 言える.一方,CnanoH x(steel)では,8 時間の水素化試料ま では CnanoH x(ZrO2)と同様な水素放出特性を示すが,32 時間 からそのプロファイルは変化し,80 時間の水素化後試料で は 450°C および 700°C 付近にピークを示す二段階の水素放 出プロファイルとなった.この結果は,ミリング処理による 水素化時間が長くなると増加する Fe の混入量と水素放出特 性に関連があることを示唆している.そこで,CFeH 間の 相互作用を理解するため,80 時間水素化した CnanoH x(steel) に注目し以下の実験を行った. 80 時間水素化した CnanoH
Fig. 3 MS spectra of (a) CnanoH
x(steel) and (b) CnanoHx
(ZrO2)hydrogenated for 1, 4, 8, 32, and 80 h.
Fig. 4 XRD patterns of CnanoH
x(steel) and CnanoHx(ZrO2)
af-ter synthesizing for 80 h and desorbing hydrogen at 900°C, where XRD pattern after annealing at 450°C for 8 h is also shown in the case of CnanoH
x(steel). XRD patterns of graphite
(PDF # 656212), Fe3C (PDF # 721110), and Fe (PDF # 87
0721) are referred from database.
水素放出過程における XRD 測定結果を Fig. 4 にそれぞれ示 す.CnanoH x(steel)については,MS で観測された低温の水 素放出ピーク温度である 450°C で熱処理した試料について も測定を行った.水素化後では,いずれの試料の XRD パ ターンにも,グラファイトに由来する明確なピークは観測さ れていない.CnanoH x(ZrO2)では,900°C まで昇温し水素放 出させた後にも XRD パターンに変化は見られなかった.一 方,CnanoH x(steel)では,水素化後,低強度で非常にブロー ドではあるが 35°~45°付近に CnanoH x(ZrO2)にはない回折 ピークが観測されている.これらのピークを帰属するのは困 難であるが,ピークの位置は Fe や Fe の炭化物と近い. CnanoH x(steel)を 450°C で水素放出させた試料では,Fe3C と 一致するような新たな回折ピークがいくつか観測された.こ れらの結果は,ミリング処理による水素化の過程で,Fe3C の前駆体のような CFe 化合物が生成しており,450°C の水 素放出に伴って Fe3C 相が形成あるいは結晶化することを示 唆している.つまり,MS で観測された低温側の水素放出と CFe 相の構造変化には相関があると考えられる.CnanoH x (steel)を 900°C に加熱し,完全に水素を放出させた試料で は , 明 瞭 な Fe3C 相 の 回 折 ピ ー ク が 観 測 さ れ , 加 え て , CnanoH x(ZrO2)では見られなかったグラファイトの結晶化が 起こっていることがわかった.一般的に炭素系物質をグラフ ァイト化するには数千°C の高温が必要とされるが,Fe ナノ 粒子を触媒として用いることでより低温でグラファイト化が 進行することが報告されている25).この文献では,加熱に 伴い Fe ナノ粒子と炭素の界面に Fe3C 相が形成され,その 界面上でグラファイトの結晶成長が起こるとされている.ミ リング処理により混入するのはナノオーダーに近いサイズの Fe であり,これが過去の報告と同様にグラファイト化の触 媒として作用したものと考えられる.ここで,Fig. 3 の水素 放出プロファイルの高温領域をあらためて見てみると,鉄を 含まない CnanoH x(ZrO2)では 900°C 以上の温度まで緩やかに 水素放出が進行するのに対し,CnanoH x(steel)では,700°C の急峻な水素放出ピークの後,ほぼ水素放出が終わっている ような振る舞いを示している.この差異については,グラフ ァイトの水素吸蔵状態の特徴から,以下のように考察され る.ミリング処理による構造破壊に伴ってグラファイトのエ ッジや欠陥部に吸蔵された水素(CH site)が熱的に放出され る(単純に CH 結合が切れる)場合,水素吸蔵状態のエネル ギー的な分布にしたがって水素放出も広い温度分布を有する と考えられる.一方で,CnanoH x(steel)の場合,Fe の触媒効 果により 700°C 程度でグラファイト化が進行する,つまり 水素吸蔵サイトであるエッジや欠陥部が結晶化に伴って再結 合するため,CH site の水素が急激に放出されると考えら れる.
Fig. 5 Fe Kedge XANES spectra of CnanoH
x(steel) after
syn-thesizing (thick solid line), annealing at 450°C for 8 h (thick dash line), and heating up to 900°C (thick dot line). Thin dash lines represent XANES spectra of reference, Fefoil, Fe
3C, and
FeCl2.
Fig. 6 M äossbauer spectra of (a) CnanoH
x(steel) milled for 80 h
and (b) CnanoH
x(steel) after annealing at 450°C for 8 h. Dot lines
represent the reference spectra obtained by database for fitting the experimental data, where aFe, gFe, FexC(x<3), Fe3C,
a′Fe(C), and aFeC correspond to alphaphase of iron, gammaphase of iron, carbonrich iron carbide, iron carbide, martensite steel, and amorphous FeC compound, respectively. Solid line is obtained as a sum of the fitting spectra. The number inserted on each fitting spectrum shows abundance ratio in the product.
CnanoH x(steel)中の Fe の化学状態を調査することを目的に 実施した Fe K 吸収端の XAS 測定結果を Fig. 5 に示す.こ のエネルギー領域は,X 線吸収端近傍構造(XANES)と呼ば れ,吸収端(吸収が始まるエネルギー)は測定対象元素の化学 状態(化学的には価数)を示し,スペクトルは電子状態(フェ ルミエネルギーの上の空準位の状態密度)を反映している. 水素化後および水素放出後 CnanoH x(steel)の吸収端はいずれ も 7107 eV であり,これは Fefoilあるいは Fe 3C と近い.ま た,7110~7115 eV 付近に観測されたプレエッジと呼ばれ る肩も Fefoilや Fe 3C のスペクトルと類似の点である.この プレエッジは,p 軌道と d 軌道の混成に関連する電子状態が フェルミエネルギー付近にあることを示している.これらの 結果は,CnanoH x(steel)中の Fe が,FeCl2中のイオン的な Fe()とは異なる金属的な電子状態を有していることを示 唆している.このプレエッジの規格化強度が昇温に伴って増 加していることから,Fe の化学状態は水素放出により変化 していると言える.ここで,これらの結果は,Tatsumi らに よって行われた同様な XAS 測定結果とよく一致する15). 以上のような XAS 測定により Fe の化学状態についてあ る程度の知見は得られたものの,Fe を含む相が複数存在し た場合に得られるスペクトルがそれらの重ね合わせになって しまうという XAS の性質上,どのような相が水素放出に伴 ってどう変化をするかということを議論するのは非常に難し い.そこで,より詳細に Fe の化学状態を調査することが可 能なメスバウアー分光測定を行った.Fig. 6(a)および(b)に 水素化後および 450°C での水素放出後 CnanoH x(steel)のメス バウアースペクトルをそれぞれ示す.図中の実線は,点線で 示しているデータベースから得た各相のスペクトルを用いた フィッティング結果である.また,各相のスペクトルに書か
れてある値は,解析に用いた相のみが試料中に存在している と仮定した時の存在比(解析的に言うところの重み)を示して いる.まず,水素化後 CnanoH x(steel)中に高い存在比で生成 しているのは,炭素リッチな炭化物(FexC(x<3)Fe7C3 等),マルテンサイト鋼(a′Fe(C)),アモルファス鉄炭素 化合物(aFeC)であり,金属鉄(a 相aFe,g 相gFe)の 状態ではほぼ存在していないことが明らかになった.これ は,ミリング処理により非化学量論的な組成の炭素鉄化合 物(CFe 相)が生成していることを示している.450°C での 水素放出後には,a′Fe(C)はほぼ消失し,aFeC も明らか に減少するという結果が得られた.この際の主相は,FexC (x<3)および Fe3C であり,XRD 測定の結果と非常によく 一致する.つまり,この結果は,CnanoH x(steel)の場合にみ られた 450°C の水素放出と,CFe 相の構造変化に相関があ ることを示唆している.したがって,鉄に由来した水素吸蔵 サイト CFeH site は,非化学量論組成の CFe 相であり, 昇温に伴ってこの相が秩序相である炭化物へと構造変化する 際にトラップされた水素が放出されると考えられる.水素脆 化の観点から鋼鉄中の水素の存在状態について研究を行った Takai らの報告では,フェライトと Fe3C の歪んだ界面ある いは Fe3C のラメラ(薄板状)構造間の乱れた界面に水素がト ラップされ,その水素が 400°C 程度で脱離するとされてい る26).これらの実験事実は,本研究で得られた結果と非常 に類似している.つまり,無秩序 CFe 相に水素が吸蔵され ており,それらの水素が構造変化に伴って 450°C 付近で放 出されるという本研究での考察が妥当であることを示唆して いる. 以上の実験結果を基に,水素化グラファイト CnanoH xの水 素吸蔵/および放出特性について以下にまとめる.まず,C FeH site の水素吸蔵量について定量的な解析を行った結果 について議論する.CnanoH x(steel)中の Fe の量は炭素あたり 15.0 massであり,mol 換算にするとたかだか 3.0程度と いう僅かな量である.つまり,CnanoH x(steel)の主な水素吸
蔵サイトは CH site であり,それに加えて CFeH site が 存在するという形になる.80 時間水素化した CnanoH x(ZrO2) で得られた H/C=3.6 massが CH site の水素吸蔵能であ るとみなした場合,CnanoH x(steel)の元素分析で得られた H/ C=6.0 massの水素吸蔵量のうち,CFeH site の水素吸 蔵量は約 2.4 massとなる.したがって,無秩序 CFe 相が C : Fe=1 : 1(mol)で形成されていると仮定すると,CFeH siteには,H/(CFeH)=12.0 massもの多量の水素が吸 蔵されていることになる.この重量水素密度は,従来の水素 貯蔵材料である合金系材料に比べ非常に高く,軽元素系材料 に匹敵する値である.これらの解析結果から,各水素吸蔵サ イトを便宜的に化学式で表すと,CH site は CnanoH
0.4,C
FeH site は(CFe)H9.3となる.これを用いて各 CnanoHxの
水素放出プロセスをモデル的に表すと以下のようになる. CnanoH x(ZrO2) CnanoH 0.4→Cnano+0.2H2 (300~>900°C) ( 1 ) CnanoH x(steel) CnanoH 0.4→CnanoH0.4-x+x/2H2 (300°C~) ( 2 ) (CFe)H9.3→(Fe3C)+4.65H2 (450°C) ( 3 ) CnanoH 0.4-x→graphite+(0.4-x)/2H2 (~700°C) ( 4 ) 式( 1 )で表した CnanoH
x(ZrO2)は CH site(CnanoH0.4)のみを
水素吸蔵サイトとして有し,その水素放出は,安定性に分布 を持つ CH 結合が単純に熱エネルギーによって解離するこ とで起こるため,300°C から 900°C 以上の広い温度分布を示 す.一方,CnanoH
x(steel)は CH site(CnanoH0.4)および C
FeH site((CFe)H9.3)の二つの水素吸蔵サイトを有してい る.昇温に伴い 300°C から CH site の水素放出が始まった 後,温度が 450°C に達すると,CFe 相の秩序化に伴って CFeH site から水素が放出される.これが低温側の水素放 出ピークを形成する.その後,反応(3)で生成した Fe3C 等 の触媒作用によるグラファイト化が起こる 700°C で CH siteからの水素放出が急激に進行し,高温側の水素放出ピー クとなる.ここで,これらは本実験で得られた結果のみを用 いて描いた簡単な反応モデルであり,ミリング処理により発 現する特異なグラファイトあるいは CFe 相の水素吸蔵/放 出能を厳密に説明するためには,ここでは考慮しなかった炭 化水素の放出,(CFe)H9.3中の水素の存在状態,CnanoH0.4と (CFe)H9.3の相互作用等を詳細に分析し考察する必要がある ことを最後に申し添えておく. 4. 総 括 本研究では,水素雰囲気下でのミリング処理で生成する水 素化グラファイト CnanoH xの水素吸蔵および放出特性につい て,種々の分析方法を用いて調査した.グラファイト単体の 水素吸蔵量は炭素あたり 3.6 massであり,この吸蔵され た水素は 300°C から 900°C 以上という広い温度領域で緩や かに放出される.このグラファイトに微量の Fe が存在した 場合,ミリング処理過程で無秩序 CFe 相が生成し,これが 新たな水素吸蔵サイトとなる.注目すべきは,この CFe 相 には H/(CFeH)=12.0 massもの多量の水素が吸蔵され ることである.この CFe 相に吸蔵された水素は,450°C で CFe 相が Fe3C へと構造変化するに伴って放出される.し たがって,この炭素鉄相のみを選択的に合成することがで きれば,10 mass以上の高い水素貯蔵量を有し,450°C 程 度で水素放出可能な材料となり得る.実用上求められる特性 を考えると,水素放出温度は高いと言わざるを得ないが,炭 素と鉄という地球上に豊富でかつ安価な元素で構成され,か つ高水素重量密度を有する点で非常に魅力的な材料であると 考えられる. 本研究の一部は,NEDO「水素貯蔵材料先端基盤研究事 業」,日本学術振興会特別研究員制度,および笹川科学研究 助成事業の助成の下で行われた.SPring8(BL19B2)にて実 施した X 線吸収分光について,実験や解析に多くの助言を いただきました JASRI の本間徹生博士,メスバウアー分光 の測定および解析にご尽力いただいた岡山大学の藤井達生教 授に感謝の意を表します.
文 献
1) A. C. Dillon, K. M. Jones, T. A. Bekkedahl, C. H. Kiang, D. S. Bethune and M. J. Heben: Nature386(1997) 377379. 2) S. Orimo, G. Majer, T. Fukunaga, A. Z äuttel, L. Schlapbach and
H. Fujii: Appl. Phys. Lett.75(1999) 30933095.
3) S. Orimo, T. Matsushima, H. Fujii, T. Fukunaga and G. Majer: J. Appl. Phys.90(2001) 15451549.
4) D. M. Chen, T. Ichikawa, H. Fujii, N. Ogita, M. Udagawa, Y. Kitano and E. Tanabe: J. Alloy. Compd.354(2003) L5L9. 5) S. Isobe, T. Ichikawa, J. I. Gottwald, E. Gomibuchi and H. Fujii:
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6) T. Ichikawa, D. M. Chen, S. Isobe, E. Gomibuchi and H. Fujii: Mater. Sci. Eng. B108(2004) 138142.
7) T. Kiyobayashi, K. Komiyama, N. Takeichi, H. Tanaka, H. Senoh, H. T. Takeshita and N. Kuriyama: Mater. Sci. Eng. B 108(2004) 134137.
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