潜在的な摂食嚥下障害がある高齢者を早期発見する方法の研究 〜サルコペニア・フレイル・栄養状態と食事中の誤嚥リスクとの関連性について〜
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(2) Ⅰ. 目的 わが国の高齢者人口は 2017 年 27.7%まで増加し、世界一の超高齢社会であ る。高齢化の急速な進行とともに、脳卒中や肺炎といった単一の疾患モデルから、 フレイル (衰弱や虚弱) やサルコペニア (筋肉量減少) の概念を中心とした高齢 者モデルへの転換が求められている。また、これまで長い間「悪性新生物」「心 疾患」「脳血管疾患」が日本の 3 大死因とされてきたが、超高齢化に伴い近年で は老衰や肺炎が増加している。全身の老化に伴い生じるサルコペニアの摂食嚥 下障害の概念が理解されてきており、サルコペニアの摂食嚥下障害が疑われる 患者は、他の要因にて生じた摂食嚥下障害患者と比べ有意に肺炎発症率が高く 1)、サルコペニアは誤嚥性肺炎の予後不良因子でもある 2)。また慢性的な嚥下障 害のある患者では、51.1%で低栄養状態、16.7%でサルコペニアを認め 3)、嚥下 障害と低栄養状態は強い関連性があり 4)、両方存在する場合は死亡率の増加が認 められている 5)。これらから、高齢者では急増することが推測され、早期的な診 断や評価手法の確立が望まれる。 嚥 下 機 能 評 価 に は 嚥 下 内 視 鏡 検 査 (VE: videoendoscopic evaluation of swallowing) や嚥下造影法 (VF: videofluorography) などが用いられているが、 特定の医療機関に限られる他、認知症などで理解が困難な方や姿勢保持が難し い方は対象外となり、制約された条件下の検査であることから普段の生活環境 と同等の嚥下機能を評価しているかは疑問を感じる。VE、VF の設備がない施 設では、頸部聴診法や反復唾液嚥下テスト (RSST: repetitive saliva swallowing test)、改定水飲みテスト (MWST: modified water swallow test) などで評価し ているが、これらの検査法は検査時点の評価であり、摂食中の長時間にわたる検 査や嚥下機能の回復、悪化に応じて度重なる検査が必要な嚥下障害者の検査法 としては充分に活用できる方法とは考えにくい。高齢者は体力や筋力の低下な どにより食事の後半からむせ込みや呼吸の乱れなどの症状が出現することもあ り、日ごろの食事にて誤嚥が発症しているか評価する必要がある。特に要介護状 態にある高齢者は、体力や筋力、免疫力の低下により容易に誤嚥性肺炎を発症す るリスクが高い。また、誤嚥リスクの高い高齢者の背景事体の定義や重症度があ いまいであり、妥当性が検証された研究は少なく、誤嚥以外の他の背景因子が影 響することで誤嚥性肺炎の発症リスクが高まると考えられている。VF で摂食嚥 下障害は認められないと判断された患者であっても食事中に誤嚥を繰り返して いるケースも多い 6)。 そこで、本研究では食事中 (食事開始~終了まで) に侵襲性のない咽喉マイク (口腔咽頭音) とラベリア型コンデンサーマイクロフォン (耳内嚥下音) を装着 し、潜在的な摂食嚥下機能の低下した高齢者の早期発見とともに高齢者施設に おける身体機能や身体活動と摂食嚥下機能、誤嚥リスク指標との関連性につい.
(3) て調査した。 Ⅱ. 研究方法 1、研究の対象者 (1)研究対象者の選択基準 高齢者施設 (介護老人保健施設スカイ) の入所及び、通所している 65 歳以上 (第 1号被験者) で経口摂取可能な者。 (2)選定方針 (選定基準・除外基準) 選出基準は、上記記載の対象者の内、当施設の医師 (施設長)、看護師、介護職、 理学療法士、作業療法士、管理栄養士が下記に示した《除外基準》を考慮の上、 対象者を選定した。研究期間中に下記の異常を示した場合は対象者から除いた。 《除外基準》 ①絶飲食者、または数口程度の重度の摂食嚥下障害者 ②経腸栄養法、静脈栄養法を用いている者 ③意識レベル評価 (JCS:Japan coma scale) Ⅱ‐2 以上の者 ④研究説明理解不能者 (ただし、代諾者の同意が得られた場合は対象とするが、 参加者本人からの拒むような徴候や行為が見られた場合は直ちに研究参加を中 止した) 2、研究デザイン 単施設観察横断研究 3、評価項目 (1)咽喉マイク、ラベリア型コンデンサーマイクロフォンを用いて昼食の摂食嚥 下評価 ①咽喉マイク、ラベリア型コンデンサーマイクロフォンを装着、ボイスレコーダ ーに録音し、音の解析ソフトを用いて時間の経過とともに摂食嚥下機能を評価 した。 ※参加者 1 人対し昼食時に 3 回測定し、測定開始から 14 日以内に下記すべての 項目を実施した。 (2)咽喉マイク、ラベリア型コンデンサーマイクロフォンを用いての同時評価 ①RSST、②MWST、③水飲みテスト (30ml 及び、100ml) (3)身体機能・全身状態の評価.
(4) ①体重、②体格指数 (BMI: body mass index)、③上腕周囲長、④上腕筋周囲長、 ⑤上腕三頭筋皮下脂肪厚、⑥上腕筋面積、⑦下腿周囲長、⑧頚部周囲長、⑨酸素 飽和濃度 (食直前・3 分後・食直後)、⑩体温、⑪口腔内乾燥 (口腔水分計ムーカ ス) (4)筋肉機能評価 ①呼吸筋機能 (ピークフロメーター)、②握力、③最大歩行速度、④大腿四頭筋持 久力、⑤舌圧筋 (舌圧測定器) (5)ADL・認知機能・栄養状態評価など ①機能的自立度評価表 (FIM: functional independence measure)、 ②口から食べる (KT) バランスチャート、 ③認知機能検査 (MMSE: mini mental state examination)、 ④簡易栄養状態評価法 (MNA: mini nutritional assessment-short form) (6)その他 ①年齢、②性別、③食事時間、④内服薬、⑤疾患、⑥咽喉マイク、ラベリア型コ ンデンサーマイクロフォン装着に関するアンケート (違和感の有無). Ⅲ、今後の展望 2020 年 2 月末日頃に調査終了したため、これから解析し、研究結果を公表す る予定である。1 年間で 200 名以上の研究協力者を得たが、咽喉マイクやラベ リア型コンデンサーマイクロフォンを用いて普段の食事摂取時の機能評価を行 うことにより適切な食事環境や食事形態などの評価に繋がった。咽喉マイク装 着に関するアンケート調査では、違和感はないと答えた者が 80%、少しあった が 20%という報告 7)があるが、本研究でも違和感はなく、装着していたこと自 体忘れて食事していた者が 80%以上であり、通常通りの食事中の口腔咽頭音を 聴取できた。一般的な検査と比べ日常生活を拘束なく評価できると考えられ、こ れらのツールは在宅医療従事者が特別な資格がなくても、時には本人や家族で ある介護者などでも容易に摂食嚥下機能評価が行えると思われた。例え、本人や 介護者などの評価が困難であったとしても毎食時に咽喉マイクやラベリア型コ ンデンサーマイクロフォンを装着し、録音しておくことにより専門職に普段の 食事中の評価が可能となる。今後、在宅で生活する高齢者が急増するが、訪問す る医療従事者不足が予想されている。録音することにより、普段の食事時の評価 が可能とともに専門職の判断情報も多くなる上、業務時間短縮にも繋がると考.
(5) えられた。本研究の目的である摂食嚥下機能とフレイル、サコペニア、栄養状態 の関連性は高いと思われ、最も相関性がある項目を見つけ報告し、摂食嚥下機能 と関連する筋肉の部位などを検討していきたいと考える。本人自ら、または身近 な介護者が摂食嚥下機能の評価ツールから誤嚥性肺炎の予防に繋げていきたい と考える。 上記の研究においては、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成に より実施した。. Ⅳ. 引用文献 1) Bock JM, Varadarajan V, Brawley MC. Evaluation of the natural history of patients who aspirate. Laryngoscope, 2017; 127(12): 1-10. 2) Maeda K, Akagi J. Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia. J Am Geriatr Soc, 2017; 65(1): 18-22. 3) Carrión S, Roca M, Costa A, Nutritional status of older patients with oropharyngeal dysphagia in a chronic versus an acute clinical situation. Clin Nutr, 2017 Aug;36(4):1110-1116. 4) Eglseer D, Halfens RJG, Schols JMGA, et al. Dysphagia in Hospitalized Older Patients: Associated Factors and Nutritional Interventions. J Nutr Health Aging, 2018; 22(1): 103-110. 5) Carrión S, Cabré M, Monteis R, Oropharyngeal dysphagia is a prevalent risk factor for malnutrition in a cohort of older patients admitted with an acute disease to a general hospital. Clin Nutr, 2015; 34(3): 436-442. 6) Joanne Clayton, Catherine I. A. Jack, Christopher Ryall, et al. Tracheal pH monitoring and aspiration in acute stroke. Age and Ageing, 2006; 35(1): 4753. 7) 辻村 肇,岡崎 浩也,土井 英明.高齢者の嚥下回数の無拘束モニタリング. 作業療法 31 巻 1 号,2012 年 2 月..
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