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低損失,高耐圧,大電流HiGTモジュール

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日立グループの高耐圧IGBTは,風力発電,鉄道,産業用 をはじめとするパワーエレクトロニクス製品のキーデバイスとし て採用され,豊かな社会や省エネルギーに貢献している。現 在では1.7 kVから6.5 kV,最大電流が3,600 Aまでのライン アップが揃えられ,機器の大容量化と小型・軽量化に応えて きた。 本開発のE2版では最新技術を適用し,VCE(sat)および熱抵 抗の低減,最大接合温度を上げ,従来製品と同一パッケー ジサイズで定格電流を25%アップした。また,放射ノイズを抑 制した環境配慮型の特性を生かし,ラインアップを拡大して, 高耐圧大容量インバータのニーズに対応していく(図1参照)。 1.はじめに IGBTモジュールは制御性が良く取り扱いが容易であること から,電力制御用デバイスとして普及してきた。中でも,高耐 圧IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は,それまで用い られてきたGTO(Gate Turn-off Thyristor)に比べ低損失であ るとともに堅牢(ろう)性に優れ,冷却系や保護回路を軽減で きることから,鉄道用インバータ向けなどさまざまな応用機器向 けに市場規模を拡大してきた。 日立グループにおける高耐圧IGBTは,1992年に製品化さ れた2.0 kV,300 A IGBTにさかのぼる。高耐圧IGBTの製品 化の経緯を図2に示す。その後,変電設備,大型ミルドライブ,

低損失,高耐圧,大電流HiGTモジュール

Low Loss, High Voltage, and Large Current HiGT Module

齊藤 克明

Katsuaki Saito

小池 義彦

Yoshihiko Koike

佐伯 貴広

Takahiro Saiki

損失低減 最大接合 温度アップ パワーサイクルの 向上 熱抵抗低減 低熱膨張係数Al-SiCの表面 形状とチップのサイズ配置の 最適化 熱的な要件 機械的な要件 応用機器 小型軽量化 高出力 長寿命 EMI抑制 HiRC planar HiGT soft LiPT エミッタ ゲート n n n p p p p p p アノード ターミネーション p n n:ホールバリア n n 薄い(<1μm)p+ ライフタイム制御無し コレクタ カソード p

注:略語説明 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor),HiGT(High Conductivity IGBT),HiRC(High Reverse Recovery Capability), LiPT(Low Injection Punch Through),EMI(Electro Magnetic Interference)

図1 高耐圧IGBTへの技術的要件と応用機器への貢献 IGBTには熱的な要件と機械的な要件がある。損失低減,最大接合温度のアップ,熱抵抗低減,パワーサイクル耐量の向上といった熱的な要件を満たすことでイン バータなどの応用機器の出力容量をアップすることができる。 84 Vol.90 No.12 1018-1019 2008.12 持続可能な社会を築くパワーエレクトロニクス

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OHV(Off Highway Vehicle)や船舶などの駆動用,風力発電 や粒子加速器にも用いられるようになった。応用機器の拡大 に伴い,現在では1.7 kVから6.5 kVまでの六つの定格電圧ラ インアップを拡充し,最大3,600 Aまでの定格電流をラインアッ プ化した(図3参照)。 近年,応用機器の大容量化が進むのに伴い,小型,低損 失,放射ノイズの抑制が強く求められ,新型セル構造を採用 することで1),2)ニーズに応えてきた。 ここでは,これらの要請に応えるために,開発された3.3 kV, E2版モジュールについて述べる。 2.次世代IGBT「E2版」の開発 3.3 kV,E2版モジュールでは,従来1,200 Aを最大の定格 電流としてきた3.3 kV IGBTと同一パッケージサイズでありなが ら,定格電流を25%アップし1,500 Aとした。IGBTの世代はア ルファベットのAから始まり,これまでにE版までが製品化されて おり,この開発はE版の次世代としてE2版と名付けた(図4参 照)。E2版では,VCE(sat)の低減,熱抵抗を低減させるととも に,最大接合温度を25度上昇させ,150℃とした。実現にあ たっては,IGBTチップにはplanar HiGT〔VCE(sat)低減〕および

LiPT(スイッチングロス低減)をダイオードチップにはHiRC(高 逆回復耐量)構造を採用した。また,チップのサイズや配置, さらには低熱膨張AlSiC(アルミニウム/炭化ケイ素複合材料) ベースプレートの形状最適化も図っている。 3.IGBTチップ 開発したIGBTセルの断面構造とその特徴を図5に示す。 エミッタ側にはplanar HiGT(High Conductivity IGBT)構造を, コレクタ側にsoft LiPT(Low Injection Punch Through)構造を 採用することで,VCE(sat)の低減,スイッチングによる放射ノイ ズの抑制,最大接合温度のアップを実現することができた。 IGBTの出力特性を図6に示す。−40℃∼150℃のすべての 温度範囲,定格電流の20%以上の電流領域で正の温度依 feature article エミッタ ゲート n p n n:ホールバリア n n 薄い(<1μm)p+ ライフタイム制御無し コレクタ p

planar HiGT(High Conductivity IGBT)   ホールバリア層の追加

    →VCE(sat)の低減   プレーナセル構造の採用

    →スパイク電圧低減(EMIの抑制)

soft LiPT(Low Injection Punch Through)   薄いコレクタ接合構造    →ターンオフロスの低減    →ソフトスイッチング特性(EMIの抑制)   ライフタイム制御無し    →正のVCE(sat)の温度依存性    →最大接合温度のアップ(125℃→150℃)

注:略語説明 VGE(Gate Emitter Voltage) 図5 IGBTセル構造の特徴と効果

planar HiGT構造とsoft LiPT構造を採用し,VCE(sat)の低減,放射ノイズの

抑制,最大接合温度のアップを実現する。 (製品化年度) 定格電流:1,200 A Tj(最大)=125℃ A C D E E2 本開発 定格電流:1,500 A Tj(最大)=150℃ V CE sat )( V 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2 3 4 5

注:略語説明 VCE(sat)(Collector Emitter Saturation Voltage) 図4 VCE(sat)のIGBTチップの世代ごとの推移 E2版を2008年に製品化し,定格電流を25%,最大接合温度を150℃にアッ プした。 電流容量 のアップ 1.7 ∼400 600 800 900 1,200 1,500 1,600 1,800 2,400 3,600 2.5 3.3 4.5 6.5 注 : 1in1, 2in1, チョッパ I C A VCE(kV)

注:略語説明 I(Collector Current),VC CE(Collector Emitter Voltage)

図3 3.3 kV IGBTの世代ごとのVCE(sat)推移 3.3 kV,E2版を2008年に製品化し,定格電流,最大接合温度をアップした。 1,700 1,800 A C版 1,200 A B版 1,200 A C版 800 A∼2,400 A D版 400 A∼1,200 A 1,500 A E2版 300 A 500 A 400 A, 600 A 600 A∼2,400 E版 400 A∼1,200 A A版 300 A-900 A 400 A, 600 A 1,050 A D版 400 A∼1,200 A D版 800 A∼1,200 A E版 1,200 A C版 3,600 E版 2,000 2,500 3,300 4,500 6,500 1992 1998 2000 (西暦年) VCES V 2002 2004 2006 2008

注:略語説明 VCES(Collector Emitter Voltage) 図2 日立高耐圧IGBTの製品化の経緯

1992年の2.0 kV IGBTをはじめとし,1.7 kVから6.5 kV IGBTまで六つの定格 電圧ラインアップを拡充した。

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86 Vol.90 No.12 1020-1021 2008.12 持続可能な社会を築くパワーエレクトロニクス 存性を得た。これは,モジュール内に並列接続されたチップ 間の電流がバランスをとりやすい特性であり,多くのチップが 並列接続される大電流モジュール用として好適な特性である。 4.FWDチップ

FWD( Free Wheel Diode)には HiRC( High Reverse Recovery Capability)構造と名付けられた独特のセル構造を 採用した。HiRC構造はアクティブ領域周縁部を二元的に構 造最適化することで,逆回復時の電流集中を緩和し,高い 逆回復耐量を得ることができる(図7参照)。 さらに,アノード(陽極)からカソード(陰極)に至る縦方向に ついてはオン状態,逆回復期間ともに理想的なキャリア分布 に近づけられるように,p型,n型不純物濃度およびキャリアラ イフタイムの最適化を図った。この三次元的な構造最適化に より,逆回復耐量―順電圧―逆回復損失の三角関係トレー ドオフを改善した。 順電圧特性を図8に示す。IGBTチップ同様,ほぼすべて の電流,温度範囲で,大電流モジュールとして好適な,正の 温度依存性が得られている。 5.スイッチング特性 接合最高温度150℃におけるスイッチング波形を図9の(a), (b),(c)に,SOA(Safe Operation Area:安全動作領域)試験

波形を(d),(e),(f)にそれぞれ示す。planar HiGTとsoft LiPTの採用により,従来125℃で確保されていたものと同様に, スムーズなスイッチング波形を150℃においても確保できた。 6.熱抵抗の低減 発生損失の低減,最大接合温度の向上とともに熱抵抗の 低減を図った。チップサイズ,チップ配置の改善によってRth (j-c)(Siチップからケースまでの熱抵抗)を8%低減した。モ ジュールとヒートシンク間に介在する熱伝導グリースは,その 熱伝導率がモジュールやヒートシンクの構成部材に比べて2け

(d)RBSOA波形 (e)逆回復SOA波形 (f)短絡SOA波形

(a)ターンオン波形 (b)ターンオフ波形 (c)逆回復波形 0 0 0 0 0 IC IC IC IC IC LeCroy IC VCE VCE VCE VCE VCE VCE VCC=2,300 V, IC=3,000 A, TC=150℃ VCC=1,650 V, IC=1,500 A, TC=150℃ VCC=1,650 V, IC=1,500 A, TC=150℃ VCC=1,650 V, IC=1,500 A, TC=150℃ VCC=2,300 V, IC=3,000 A, TC=150℃ VCC=2,300 V, TC=150℃ TP=10μs

IC:500 A/div. VCE:500 V/div. VGE:20 V/div.IC:1 kA/div. VCE:1 kV/div. IC:2 kA/div. VCE:1 k/div. VGE:20 V/div.

VCE:500 V/div. IC:500 A/div. VGE:20 V/div. Time:2 μs/div.

VGE

VGE

VGE

注:略語説明 RBSOA(Reverse Bias Safe Operation Area),

SOA(Safe Operation Area),VCC(直流電圧),T(ケース温度)C

図9 MBN1500E33E2のTc150℃でのスイッチング波形 (a)ターンオン波形,(b)ターンオフ波形,(c)逆回復波形,(d)RBSOA波形, (e)逆回復SOA波形,(f)短絡SOA波形をそれぞれ示す。Tc=150℃においても スムーズなスイッチング波形を確保できた。 p p p p p p p p p p p p p アノード ターミネーション アノード ターミネーション n n カソード n n カソード (a)従来のFWD構造 (b)本開発のFWD構造 逆回復時の 電流集中点 逆回復時の 電流を分散 逆回復時の 電流流線

注:略語説明 FWD(Free Wheel Diode)

図7 FWDの断面構造と逆回復時の電流経路のシミュレーション HiRC構造の採用により,高い逆回復耐量を得ることができた。 正の温度 依存性 順電流 A 125℃ 150℃ 5 4 3 2 1 0 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 −40℃ 25 順電圧(V) 図8 FWDの順電圧特性カーブの温度依存性 大電流モジュールとして好適なダイオード特性である正の温度依存性を示す。 正の温度 依存性 コレ クタ A 150 125 5 4 3 2 1 VGE=15 V 0 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 −40℃ 25 コレクターエミッタ間飽和電圧(V) 図6 IGBTの出力特性の温度依存性 大電流モジュールとして好適なIGBT特性である正の温度依存性を示す。

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87 た程度低い。このため,グリース領域での温度上昇が大きい。 ヒートシンク上にマウントした際のグリース厚さが必要十分な量 となるようなAlSiCベースの形状とすることで,Rth(c-hs)(ヒー トシンク表面からベース裏面までの熱抵抗)も16%低減した。 7.インバータ動作時の発生損失

インバータのPWM(Pulse Width Modulation)運転に用いた 際のシミュレーション例として,図10の(a)にIGBTモジュール からの発生損失の搬送波周波数(fc)依存性を,(b)にその 際の温度分布,および(c)に最大接合温度となるインバータの 出力電流を示す。また,同図(c)では現行製品との比較をし ている。スイッチング損 失が 低く高 周 波 数 用 途に適した 「MBN1200E33D」,VCE(sat)が低く高出力電流用途に適した 「MBN1200E33E」と同じパッケージサイズでありながら,すべ ての搬送波周波数領域で25%以上の出力電流のアップが可 能となる。VCE(sat)の低減,最大接合温度のアップ,熱抵抗 の低減がこれに寄与した。 8.製品ラインアップ 3.3 kV E2版の製品ラインアップ計画を図11に示す。従来製 品でも適用されていた,140×190×38(mm)および140×130× 38(mm)のシングルパッケージに,今回新たにデュアルパッ ケージを加える。電流定格は500 Aであり,これは電鉄用の補 助電源や永久磁石モータ駆動用などの高耐圧小型インバー タの需要に対応するものである。 9.おわりに ここでは,最新世代の3.3 kV 1,500 A E2版IGBTにて,現 行製品と同一パッケージ外形でありながら,出力電流を大幅 に拡大できることについて述べた。 ここで紹介した技術は,3.3 kV素子だけに適用可能なもの ではない。今後,この開発技術を6.5 kVなど,ほかの耐圧 IGBTにも展開し,これによって製品の価値を高め,さらにはこ のIGBTを適用したインバータの付加価値向上に寄与してい く考えである。

1)M. Mori,et al.:A trench gate high conductivity IGBT(HiGT)with wide short-circuit capability,IEEE Transaction on Electron Devices,

Vol.54,No.8,August 2007,pp.2011-2016(2007.8)

2)M. Mori,et al.:A planar-gate high-conductivity IGBT(HiGT)with hole-barrier layer,IEEE Transaction on Electron Devices,Vol. 54,

No. 6,June 2007,pp.1515-1520(2007.6) 参考文献 執筆者紹介 齊藤 克明 1989年日立製作所入社,電力グループ 電機システム事 業部 パワーデバイス本部 開発部 IGBT開発グループ 所属 現在,IGBTの開発に従事 feature article 小池 義彦 1982年日立製作所入社,電力グループ 電機システム事 業部 パワーデバイス本部 開発部 IGBT開発グループ 所属 現在,大容量IGBTの開発に従事 佐伯 貴広 1995年日立製作所入社,電力グループ 電機システム事 業部 パワーデバイス本部 開発部 IGBT開発グループ 所属 現在,大容量IGBTの開発に従事 (c) (a) 定格接合最高温度 出力電流 Arms 発生損失 kW fc(Hz) fc(Hz) 0 0 500 200 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 800 1,500 1,000 1,500 2,000 MBN1500E33E2 MBN1200E33E MBN1200E33D 500 Ta=40℃ Rth(hs-a)=10 K/kW VCC=1,650 V cosφ=94% 変調率=90% fo=fc/20 注 : 逆回復, 注 : ダイオード導通, ターンオフ, IGBT導通 ターンオン, (b) 温度分布 (℃ fc(Hz) 200 25 50 75 100 125 150 800 1,500 1,000 1,500 ripple Tj-TC TC-Ths Ths-Ta Ta 図10 PWM(パルス幅変調)動作時のシミュレーション例 (a)発生損失成分ごとの搬送波,周波数(fc)依存性,(b)温度上昇,(c)定 格接合最高温度以下となる出力電流の周波数依存性の現行製品比較(損失 特性は標準値を使用)をそれぞれ示す。現行製品に比べ,すべての搬送波周波 数領域で25%以上の出力電流のアップが可能となる。 型式名 VCE IC モジュールサイズ (mm) 回路 写真 MBN1500E33E2 MBN1000E33E2 MBM500E33E2 3.3 kV 3.3 kV 3.3 kV 1,500 A 1,000 A 500 A 140×190×38 140×130×38 140×130×38 シングル シングル デュアル (a) (b) (c) (a) (b) (c) 図11 3.3 kV E2版モジュールの製品ラインアップ計画 3.3 kV E2版では3種のパッケージをラインアップする。

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